リリカル!黄金十字! ──What a beautiful nostalgia──   作:るべおら

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第0.5章 黄金の瞳を持つ少女

 

硝煙の立ち昇る瓦礫群。

そこはかつて『花の街』とまで言われた程に美しい街であったというが、今では見る影もなく全てが焼かれ、花はたった一輪さえも残されていない…

不幸にも花に囲まれたこの街は必要以上に燃え上がり、たった数刻で焦土と化した。

街を包み込んでいた芳しき花の香りも消え、そこにあるのは硝煙の香りと、無残に砕かれた家々、瓦礫。

 

 

その瓦礫と化した花の街「フロイド」に、複数の人影が足を踏み入れた。

 

『こちらブロッサム。救助班『ガーベラ』応答せよ』

 

「こちらガーベラ3。現場に到着しました」

 

通信機を耳に当て、ガーベラ3と名乗った男は街の惨状を報告した。

 

「…間に合いませんでした。街は全壊。犯人はこの場から既に逃走した模様…生存者は…絶望的です…っ」

 

唇を歪め、男が血を吐くように告げる。

その声には、隠しきれない怒りがあった。

後悔があった。

悲愴があった。

だが…いくら悔やんでも、状況が好転する訳ではない。

彼は救助班。

街を隅から隅まで捜索し、1人でも多くの生存者を救い出すのが仕事だ。

決して、下を向いてはならない。

自らを叱咤し、膝をつきたくなる脚に力を込める。それと同時に、食いしばった歯のせいか唇から一筋の血が流れ落ちた。

 

「ふさぎ込む暇があるのなら、1人でも多く生存者を探せ」

それが、彼らの隊長の言葉だった。

 

『…そう…引き続き生存者の捜索をお願いします』

 

「はっ!!」

 

『あぁ…そうそう、言い忘れてたわ」

 

「なんでしょうか?」

 

『ローズがそっちに向かったわ』

 

「はっ?……隊長殿がっ!?」

 

男が仰天して声を上げる。

それはそうだ。本来後ろで控え指示を飛ばす立場の部隊長が、立場を無視して現場に向かっているというのだから。

 

男が返答しようとしたその時…

 

「既にいる。捜索を始めるぞ」

 

いつの間に後ろにいたのか。

 

男の後ろからこちらに悠然と歩を進めてくるのは、ローズのコードネームを持つ彼の所属する部隊の隊長「ハルスタッド」その人であった。

 

「隊長っ!!まさか貴方自らが…」

 

「…そんな事を言う暇があったら捜索魔法の一つでも編んだらどうだ?」

 

…これだ。

ハルト隊長はこれだから…

まるで人の言うことを聞かないし、自分の立場もわかっていない。

故に周りには軽率に見えるのだろう、本局の上層部では彼の評判はかなり低いという話だ。

 

…まあ、それは所詮外の評価に過ぎない。

 

「はっ!!!了解しましたっ!!!」

 

こんな隊長だからこそ、自分はどうしてだかついて行きたくなってしまうのだ。

 

男はハルトの向かった逆側に向かう…わざわざ同じところに行って捜索範囲を狭めることはない。歩きながら覚知範囲を最大にして救助活動を再開する。

 

確かに、生存は絶望的だ…だが、だからこそ…周りの通常部隊なら諦めてしまうような状況でも…

自分達は諦めてはならない。

 

それが…男たちが所属する「第一魔攻戦隊」だった。

それが全てで、誇るべき事なのだ。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

正直に言って、少し驚いた。

何が?

ハルト先輩が救助した女の子を連れて来た事が、だ。

あの人が子供を救うのは一度や二度ではない…それこそ数え切れない位の人を救ってきている。

でも、それでも、ハルト先輩が救助した子供を「保護」する事は無かった。

そんな、彼。

こんなことは、初めてで。

 

「プレシアちゃん、でいいのかしら?」

 

そう言うと目の前の女の子は、小動物よろしくコクリと頷いた。

女の子。

綺麗な黒髪で紫がかった瞳をしている可愛い女の子。

うん、凄く可愛い。絶対将来は美人さんね。

 

「えっと…名前はプレシア・テスタロッサ。出身地はフロイド。経歴…は…あれ?」

 

可笑しいなー…経歴の情報だけ綺麗さっぱり消えてる…?

 

「あぁ、言うのを忘れていた。すまんがミゼット、あいつに頼んでプレシアの情報は改竄した」

 

なんてことを。

管理局員にあるまじき行為ね…

それって犯罪よ?

 

「あいつって…あぁ、妖精?」

 

「あぁ」

 

「全く…あの子は…ハルト先輩の言うことなら何でも聞くんだから」

 

思わず溜息を1回。

 

とそこで…

 

「…ようせい?」

 

女の子…プレシアちゃんが小首を傾げていました。どうやら妖精に興味を持ったらしいです。

 

「ハルト、ようせいって何?」

 

「後で会わせる」

 

…この人に保護者が務まるのかしら。

決して口数が多くはなさそうなプレシアちゃんが、折角話題を振ってくれたのに…

一言で即リバって。

…心配だわ…

 

「…大丈夫なの?」

 

思わず口に出してしまった。

 

「当然だ」

 

なんの根拠もない癖に、やたらと自信満々に頷く。…この慢心王め。

 

まあでも…プレシアちゃんもさっきからハルト先輩の袖を掴んで離さないし…

なんとかなるのかもね、なんて。

 

それにしても、プレシアちゃんはハルト先輩と一緒に暮らすのかな?

 

…ちょっと羨ましいなー、とか思ったりなんてしてませんよ?

 

 

 

* * * *

 

 

 

「ハルトたいちょーっ!!…っと!」

 

廊下の向こうから元気よく駆けてきた、1人の男の子。

歳は10くらいだろうか?

快活そうな笑顔に青い髪の好少年だ。

 

「あぁギル、丁度良かった。プレシア・テスタロッサ。私が保護責任者を務める少女だ」

 

そう言って、ハルトは咄嗟に自分の後ろに隠れたプレシアを前に突き出そうとするが…

イヤイヤと中々前に出てこない。

 

「ははは…えっと、ギル・グレアムです!よろしくね、プレシアさん!」

 

持ち前の明るさで自己紹介を始めるギル。

天真爛漫に見えて、いざ戦闘となると驚くほど冷静に周りを分析出来、その点でハルトはギルを非常に買っている。

 

「……よろしく」

 

ボソリ、と。

いかにも「イヤイヤ言わされてるんですけど」といった風な乾いた言い方だが、ギルは気にしなかったらしい。

実によく出来た子供である。

…念のためにいうと、ギルを育てたのは別にハルトでは無い。「私が育てた」とでも言いたげに頷いているけれど。

 

「歳も近いんだ…と言っても5つか4つぐらいだが。まぁこの部隊では1番歳が近いのに変わりない…仲良くしろよ」

 

「はいっ!」

 

「…」

 

相変わらずプレシアからの返事は無いが、その無言は先程よりも随分とマシになったように思う。

対人恐怖症とまではいっていないらしく、時間が経てば歳相応の反応も返ってきそうだ。

 

…まぁ、当分先の話だが。

 

「ギル、子猫(キティ)達は一緒じゃないのか?」

 

「はい、ロッテとアリアは訓練に疲れて寝てますよ。最近なんだかすごい頑張ってくれてて」

 

少しは休んで欲しいと思ってたんで丁度良かったですよ、なんて言って笑うギル。

内心でハルトは苦笑する。

あぁ…そういえばあの猫達に発破かけたな…

だからか、と思い至ったが即刻で思考を破棄する。

頑張るのは良い事だ。

 

「…きてぃ?」

 

聞きなれない単語に、プレシアは小首を傾げて質問する。

 

「キティっていうのは子猫の事だよ」

 

ハルトに代わってギルが答えた。

…まぁ、実はほんの少し違うのだが。

 

「ねこ?」

 

「猫だ。プレシアは猫、好きか?」

 

「…すき。ねこ、かわいい」

 

「可愛いよね!」

 

猫好きという共感するものがあったからか、ギルは少し…いや、だいぶ嬉しそうに相槌をうった。

 

「…やまねこ、すき」

 

山猫が好き、か。

 

覚えておこう、とハルトは忘れぬように頭の中でメモを取った。

 

いずれ山猫を飼わせてやるのもいいな、なんて思いながら。

 

 

 

* * * *

 

 

先程から、プレシアは幼い頭で思考している。

…思考しているのは、ハルトについてだ。

 

そう、ハルト。

 

自分の事を助けてくれると言った人。

自分を暖かい所へ連れて行ってくれる人。

 

全く見えなかった目も、彼に触れられたらいつの間にか治っていて。

今ではもう、目の前の景色を見て取れる。

 

よく、わからない人。

自分に名前を…

プレシア・テスタロッサという名前をつけてくれて。

それが、何故だかすごく嬉しくて。

 

この人の事を何も知らないのに…

この人を信じ始めている自分がいた。

 

本当に、よく、わからない…

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

「部屋はどうする」

 

ハルトに突然声をかけられ、プレシアは少しだけ顔を上げた。

 

「へや?」

 

「部屋だ。お前の」

 

部屋。そういえば教会にもあった…筈。

目が見えなかったから、どんな場所かわからなかったけど。確かベッドがある所だ。

 

「ベッド、あるところ?」

 

「ん…あぁ、そうだな。自分のベッドがある所だ」

 

「…ひつよう?」

 

「必要だ」

 

そして、考え込むように俯いたプレシア…と思ったら割りと直ぐに顔を上げて

 

「ハルト」

 

「?」

 

「ハルトのところでいいよ」

 

なんだ「いいよ」って。

しょうがねえなぁとでも言いたげな表情をするプレシアを、思いっきり小突いてやりたい衝動に駆られつつ返事をする。

 

「私の部屋か?…構わんが、2人住むようには出来てな「だめ?」…構わん」

 

この男、即答である。

 

幼い子供の言うことを断れない性格が災いしているのだが…

それがハルトという人物で。

周りは既に仕方のない事だと諦めている。

 

…まぁ、既に三十路近いミゼットが「私には優しくないっ!」と大いに憤慨していたが。

 

 

と、いうことで。

プレシアの部屋はハルトと同室と言うことで決定した。

 

…一部の女性隊員はハルトと同室のプレシア(5歳)に羨望と妬みの視線を送っていたが…

 

…そこはそれ、プレシアの不器用な愛らしさにやられ、結局プレシアは一攻隊の全部隊員から非常に可愛がられる事になる。

 

「あぁ…思い出すわね。あの時は本当に皆さんウザかったわ…」

とは、その後のプレシアさんにじゅっさいの談である。

 

 

* * * *

 

 

 

「明日はお前の物を色々買いに行くぞ」

 

「わたしの?」

 

「あぁ」

 

「…いらない」

 

「そういうな。見てみると欲しいものがあるかもしれないぞ」

 

「…めいわくじゃない?」

 

「考えすぎだ。お前は黙ってヌイグルミでも強請っていればいい」

 

優しさの欠片もない物言いだが、プレシアにはかえってこれぐらいが丁度良い。

 

「…ん」

 

ベッドにくるまっていたプレシアも、流石に限界らしくウトウトと舟を漕ぎはじめている。

夜も遅い上、眠り慣れていない布団なのだ。寝付けないのも仕方がないが、子供たるプレシアでは睡魔には決して勝てない。

 

「…おや、すみ…」

 

そう一言、呟いて。

プレシアは完全に眠ってしまう。

 

 

 

 

 

 

─────おやすみ、か。

 

この子は、今までに何度この言葉を使った事があるのだろう。

ハルトは、ふとそんな事を思った。

僅かに震えていた声。

詰まっていた言葉。

この一言を言うために、今この子はどれだけの勇気を振り絞ったのだろうか。

 

…そう考えていたハルトは、無意識の内に手を眠っているプレシアの頭に乗せていて。

 

優しく撫でれば、その黒い髪は淀むことなくスルリと揺れる。

 

1回、2回と撫でた後、起こさぬ様に手を離す。

相変わらず寝息を立てているプレシア。

会ったばかりだというのに、その無邪気な寝顔を愛おしいとさえ思う。

 

守る。

この子は、必ず。

 

黄金に魅入られたこの子を。

 

 

 

「安心しておやすみ、プレシア…大丈夫だ、君が望む限り、私は何処までもお前の騎士だ」

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

─────翌日。

 

 

 

「ミゼット、『ようせい』って何なの?」

 

ハルト先輩に押し付けられた書類を片付け、ひと段落ついたーと背筋を伸ばしていた私は、遊びに来ていたプレシアちゃんにそんな事を聞かれた。

その腕にはこの前ハルト先輩に買ってもらったというウサギのヌイグルミが抱えられている。

最近ようやく私にも声をかけてくれる様になったプレシアちゃんは、着実に明るくなってきていると言えるけれど…表情がハルト先輩よろしく無表情なだけに…

抱えられているヌイグルミがさながら拉致されている様に見えて仕方ない。

「私の言う通りにしないと、このウサギの首をキュッとしちゃうの」…みたいな。

ハルト先輩が言うには、これで部屋ではヌイグルミで遊んでいるというから驚きだ。

…まあ、プレシアちゃんは元々が人形の様に可愛らしいから、その光景は絶対に悶絶するほど可愛いのだろう。

 

自他共に認める無類の可愛いもの好きのミゼットから見たら、プレシアはもう思わず抱きすくめてしまいたいほど可愛い。

この一攻隊の一部では、既にファンクラブまで出来ているという程の人気ぶりだ…

ロリコン共がっ!と言いたくなるが、プレシアの前では体裁など無いも等しい。

…こんな話がある。

熟女好きで有名な隊員が、周りがあまりにも可愛いと騒ぎ立てるものだから、一目見てやろうじゃないか!と他の隊員に見守られながらプレシアを見に行ったらしい。

そして帰って来たその隊員の手には、何時の間にかファンクラブ会員カードが握り締められていたという…

そいつが言うには、「気が付いたら握り締めていた」らしい。

 

そんな本人の知らぬところで大人気のプレシア、元来人と話すのが苦手な彼女は、未だにハルト、ギル、そしてミゼット以外と会話をした記憶がない。

妖精に興味を持ったようだが、それが既に珍しいこと。

訊ねられたミゼットは、内心でプレシアの成長を喜んでいた。

 

「妖精?…それはハルト先輩の方が詳しいんじゃないかしら」

 

「…ハルト、教えてくれない…」

 

そう言って、悲しそうに顔を俯かせた。

…そんな顔!卑怯だわ!可愛すぎる!

いや、なんかもう…ハルト先輩が隠すなら私から話すのは控えようかな?…とか思ってたけど…

うん、これは無理ね♪

 

「じゃあ、教えてあげようかな?妖精って言うのは…ある女の子の異名なの」

 

「いみょう?」

 

「あだ名みたいなものかな…?その子は人前に滅多に出てこないんだけどね?その子を偶然見かけた隊員が、その子の可愛らしい容姿を『妖精』って表現したのよ。それが由来かな」

 

「じゃあ、ようせいって人なの?」

 

「そうよ」

 

理解したようにウンウンと首を振るプレシア。

 

「…お話、出来るかな」

 

投げ出された脚をプラプラさせながらそんな事を呟く。

言動がいちいち可愛らしいから、なんかもう卑怯である。

 

「…私では難しいわね。あの子はハルト先輩にしか懐いてないから…ハルト先輩に頼めば会わせてくれるんじゃない?」

 

そう、そうなのだ。あの子は本当にハルト先輩にしか懐いてない…

顔は、本当に同じ人間かと疑いたくなる位に可愛らしいのに、愛想というものが欠落してるから実に惜しいのだ。

ハルト先輩の前では猫被って甘えているが、その時には必ず流し目で勝ち誇った様な視線を私に送ってくる。生意気な。

…懐いているといえば。

そういえば、プレシアちゃんも最近ハルト先輩に妙に懐いているような…?

 

「…ハルト、わたしのお願い聞いてくれるかな」

 

…うん、まず100%聞いてくれると思う。

あの人がプレシアちゃんのお願いを断るビジョンが浮かばないもの。

あの人は、あれで結構親バカだから…

 

…親バカ…子供かぁ…

…私もいつか…ハルト先輩との…

─────はっ!いけないいけない、私ったら何を考えてるのかしら。

 

そのあと、プレシアちゃんにさえ「ミゼット、お顔赤いよ?お熱?」と心配されてしまった。

…威厳も何もあったものじゃない。

─────くそう、私はこれでもちょっと前までは「氷結の美女」とか言われてたんだぞ。

…なんて。

既にプレシアの居なくなった部屋で一人、誰に向かってか憤慨しているミゼットがいた。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「妖精に会ってみたい」

 

プレシアにそう言われたハルトは、困ったように言葉を濁した。

…なんとなく、あれをプレシアに見せるのは憚られる…と。

なるべく哀しませないように、やんわりと断る予定だったのだが…

 

「ダメ?」

 

そう言って、コテンと首を傾げるプレシア。

気づけば、掌を返した様に肯定してしまった。

おかしい…魔性か?と邪推する。

単に親バカなだけだと突っ込んでくれる人は、残念ながらここには存在しなかった。

 

そんなことがあって、ハルトはプレシアを連れて基地の廊下を歩いていた。

向かうのは、地下。

『彼女』のためにハルトが設立した、妖精の住処。

地下に続く、分かりにくい場所にあった階段を下りていく…

それに連れて、何やら基地に無数に張り巡らされているであろう、コードのような物が剥き出しで繋がれているのが見受けられた。

それがプレシアには、なぜか大脳に続く神経の様に思えて。

 

辿り着いたのは、一つの部屋。

 

「ここは?」

 

「この基地のシステム中枢だ。改造して、今ではもう彼女の私室だが」

 

そう言って2人が立ったのは扉の前で。その扉は何やら厳重にロックされているようだ。

完全に来るものを拒んでいる。

 

「まぁ、この部屋を知る者自体少ないがな」

 

「そうなの?」

 

「あの子は人見知りだからな」

 

ハルトはその後に何も言わなかったが、プレシアは自分を見るハルトの目に気付く。

その瞳は「お前と同じだな」と皮肉げに光っているようで、暗に声を出さずに此方を馬鹿にしていたのは明白だった。

 

…とりあえず、その視線に腹が立ったのでハルトの脚に一発蹴りをいれておく。

…まあ、プレシア如きの蹴りじゃハルトはビクともしないが。

 

「…まあ、似た者同士気があうかもしれん」

 

そう言って、ハルトは扉のすぐ横にある機械に声をかける。

 

「リア、私だ。開いてくれ」

 

言うが早いか、すぐさますごい勢いで扉が開いた。

 

なんとなく、なんとなくだけど。

今まで何処か拒絶的だったその部屋が、ハルトが声をかけただけで一瞬の内にウェルカム状態になった気がする。

 

そのまま2人は扉をくぐって奥に入り、その更に奥にあった光の漏れている部屋の前まで辿り着く。

 

なんだか、ドキドキする。

と、プレシアは似合わない緊張を密かに感じていた。

…その緊張、隠していたつもりだったのだが、ハルトにはお見通しだったらしい。落ち着けるように頭を優しく撫でられた。

 

入るぞ…

 

そう呟き、ドアを、開いた─────

 

刹那

 

 

むっぎゅーっ!!!

 

という擬音が聞こえてきそうなほどに、プレシアの目の前を通り過ぎた何かがハルトにしがみついていた。

 

「ハルト、ハルト…久しぶりです」

 

そう言ったのは、ハルトにコアラよろしくしがみついている少女。

その言葉を尻目に、腕の力を緩めることなく…いや、さらに強めてしがみつき直した。

ハルトの胸に頭をグリグリと擦り付ける少女は、さながら飼い主に擦り寄る愛犬か。

 

「…ハァ…一昨日会っただろう」

 

「…言い直します。39時間ぶりです」

 

そう言って、離れるそぶりも見せない少女…

プレシアなど、まるで目に入っていない。

 

「…ハルト、この人?」

 

妖精と呼ばれる少女に会うことを楽しみにしていたプレシアは、ハルトにそう訊ねる。

 

「そうだ、紹介しなければな。…リア、離れろ」

 

言いつつ、ハルトはそのリアと呼ばれた少女の肩を押して引き剥がす。引き剥がされた少女は何やら不服そうだ。

 

「プレシア。この子の名前は戴冠石(リア=ファル)。一攻隊の電子戦闘の要だ。…で、リア…こっちが私の娘の…」

 

「知ってますよ」

 

何故か、矢鱈滅多ら不機嫌そうな声音でリアが告げる。

 

「プレシア・テスタロッサ…ハルトの娘ですよね。データの改竄の折、一通りのプロフィールは見ました」

 

ああ、そう言えばこいつにデータの改竄を依頼したな…と、今更になって思い出す。

 

「まぁでも。直接会うのは初めてですね」

 

一呼吸。

 

「初めまして、リア=ファルです。…ハルトの『婚約者』です」

 

「こんやくしゃ…?」

 

「真顔で妄言を吐くな。そんな事実は無い」

 

「ちっ…」

 

露骨に舌打ちをするリア。だが、これも美人の特権か、それさえも可愛らしく映る。

 

さて、プレシアと言えば。

…内心で、疑問に思っていた。

それは、リアの容姿。

 

なぜか儚い印象を受ける、白に近い亜麻色の髪。

端正な顔立ち。

それだけならまだいい…だが、妙に印象に残ったのはその瞳だった。

 

金。金の瞳。

それも、何か…違う。

右目はまだいい。少し違和感があるけど、別に普通。

…問題は、彼女の左目。

明らかに、右目とは違う金。

言い表すなら金ではなく…黄金。

黄金を思わせる、その瞳。

それだけではなく、その黄金の左目は何故か猫科の瞳の様な印象を受けて…

 

その黄金が、キラリと光った気がした。

その瞳にプレシアは…

明らかな異質を感じた。

明らかな奇怪を感じた。

 

でも、それが何なのか…

それは、まるでわからなかった。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

ハルトは、自分で言ったとはいえ少々驚いていた。それは…

 

「リア、この基地のシステムは全部管理してるの?」

 

「そうですよ。基地内は常時モニタリング可能ですしね」

 

「すごい…」

 

確かに、気が合いそうだとは思った。2人とも人見知りであることだし。

だが…まさかここまで早く打ち解けるとは。

 

今、3人はリアの部屋でソファに腰掛けて談笑を始めている。

プレシアがハルトの膝の上に座り、リアはハルトの左腕を人質と言わんばかりに抱きしめている体勢だ。

 

「ほかにどんな事が出来るの?」

 

「…ん、管理局のシステム中枢をハッキングして乗っ取る位は朝飯前です」

 

「…よくわからないけど、やっぱり凄い気がする…」

 

「まぁ、そんな大仕事はしませんけど。疲れるし……もしするとしたら、ハルトにキス1回は約束して貰わないと」

 

キス1回で管理局をハッキングするのか…

と、その感覚に首を捻るばかりである。…某マッドサイエンティスト涙目だ。

 

「いずれ、本当にお前にそれを頼むかもしれんがな」

 

「…ホント?」

 

「ん?…あぁ…まあな…」

 

「…もし本当にそうなった時は、キス1回では済みません」

 

朝飯前というのは嘘だったらしい。それはそうだ、科学の最先端技術で守られてる堅牢なシステム中枢をハッキングするなど、いくらリアでも難しい事だ。

 

「H…1回で許してあげます」

 

「ちょっと待てリア」

 

思わず、柄にもなく突っ込んでしまったハルト…それはそうだ。プレシアの目の前でその発言は教育に良く無さすぎる…!

 

「…そうですよね。わかりました…3回にしてあげます。…本当にHなハルトさんですね」

 

「そういうことじゃない…」

 

そう、この子はこういう子なのだ。やたらと自分に求愛してくる。…まあ、別にそれが嫌なわけではないのだが。

ただ…プレシアに妙な事を教えそうで怖いのだ。

…最初は、こんな子では無かった筈なんだが…

自分の育て方が間違っていたのかと、人知れずハルトは落ち込む。

 

尻目でリアとプレシアが何やら言い争っているが…仲良くすることは良いことなので、とりあえずハルトは無視することにした。

 

 

 

* * * *

 

 

プレシアは、内心でよくわからない感情に駆られていた。

なんでかわからないが…リアがハルトの腕を抱き締めるたびに、言いようのない苛立ちが湧くのだ。

ハルトは私のなのに…

と思ったのも1度や2度ではない。

なんでかわからないが、ハルトの腕を抱き締めて、サラリと流し目で此方を見つめてくるあの金の瞳も腹が立つ。

…実はこれは、リアが「ライバル」と認めた証拠なのだが…

5歳児に何を、とも思うが、リアはことハルトの事に関しては呆れる程に容赦がないのだ。

 

だが、幼いプレシアはこの感情を持て余すしかなかった。

 

その15年後、彼女はハルトの隣に立つことになるのだが…

それはまた、別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い地下の遺跡に、大いなる光が推参する。

マリン・ガーデンと呼ばれるそこの地下深くには何やら研究所のようなモノがあり、まるでそこは人を寄せ付けぬ結界でも張られているかのようで、生き物の気配は一切なかった。

そこにあるのは、微かに明滅する電子の機器と…

カプセルのような物の中に横たわる、幼い少女の呼吸音だけで。

他には、何も無かった。

ただ、それだけがあった。

 

─────そんな場所で、1人。

横たわる少女に、何者かが這い寄る気配があった。

…それは、先程来た「光」そのもので。

 

「…来たよ、イクス」

 

その光は、優しい声音で呟いた。

そこに来たのは、1人の男。

一筋の、光。

イクスと呼ばれたその少女を収容したカプセルのすぐ横で立ち止まり、覗き込むような体勢に変わる。

次に、そのカプセルを一回、二回と優しく撫でた。

それはまるで、少女を慈しみ優しく撫でているようで。

そこには、電子の機器と少女の呼吸。

そして、男が呟く慈悲の響き。

他には、何も無かった。

ただ、それだけがあった。

 

「1000年経ったよ…イクス。お前が起きるのは、あと何年後なのかな」

 

その声音は、何処までも透明で。

その男を知る者が今の声を聞けば、彼の声とはとても信じられなかっただろう。

それ程までに、そこに佇む男は何時も違っていて。

 

ずっと、じっと、懇々と眠る少女を見つめる男…

何時までも、ただ優しげに見つめ続けていて。

 

そんな男…いや、ハルトに見守られる中、安心したように眠り続ける少女…

 

その少女の胸元には、鈍く輝く何かがあった。

それは、純金で出来たアクセサリーに見えて。

 

解読不能の歪な文字が彫り込まれた、小さな十字のアクセサリー。

 

鈍く輝き続けている…

 

『黄金十字』が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 





そしてギル・グレアムが原作の面影が全く無い!ミゼットも。

…まぁ、そこら辺はほぼオリキャラと変わらないから…
他の原作キャラも全然出てこないだろうし、追憶編はオマケ程度で良いかも。
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