リリカル!黄金十字! ──What a beautiful nostalgia── 作:るべおら
プロローグ 他の誰でもない「誰か」のために
─────例題です。
いえ、是はおとぎ話です。
昔、昔のこと。
あるところに……。
一本の薔薇がありました。
とても美しい、赫い薔薇でした。
人々に見放され、世界に否定された黄金の薔薇でした。
世界の敵であるけれど、正義の味方にはなれない青空の薔薇でした。
─────けれど、薔薇は。
それでも人々を、
世界を、
全てを愛していました。
とても優しい赫だったのです。
孤独を愛する薔薇だったのです。
誰かが自らの棘に触れぬよう─────
自分を戒め、縛り、壊し……
薔薇はいつまでも、たった一人で……
そんな薔薇の前に、一人の男が現れました。
白い、鋼鉄のような男でした。
輝く雷電の如き男でした。
世界の果てで、世界を守り続ける男でした。
正義の味方、尊い輝きの味方であるその男は、嘆き続ける薔薇に向かって問いかけます。
Q.お前にとっての輝きとは?
薔薇は答えました。
「この両腕に抱ける、愛する者ただ一つ」
─────薔薇は、正義の味方にはなれませんでした。
無辜の人々を見捨ててでも、愛する者を護ることを選んだ薔薇は─────
世界の敵であり、
正義の敵であり、
騎士ではなく戦士であり、
人々の敵であり、
─────唯一の、愛する者にとっての世界そのものになりました。
そうして薔薇は。
今も、世界のどこかで。
または全く別の世界で。
輝きを、求め続けるのです─────
* * * *
静かだな…
あまりの静寂さに眉根を寄せる。
光の感知しない瞼の裏に疑問を持ち、目を、開いた。
するとそこは…
暗い…
暗い世界。
温度も気配も感じない。
自分の姿さえ見えない無限の暗闇。
音も無く
光も無く
ひょっとすると自分も無いのかも、なんて。
自らの吐き出す呼吸だけが静寂に響き、その吐息も闇に溶けていく。
でも、その小さな吐息だけが自分の存在を保証してくれた。
─────いや、違う。
音は、あった。
暗闇の中、遥か遠くから。
または、自分のすぐ近くから。
聴こえる。
聴こえる響きがある。
それは……その響きは……
─────チク・タク
─────チク・タク
……時計の、響き。
「ここは…?」
私は…
そうだ。
任務中にロストロギアが暴走して──
私は、そのロストロギアの発した光の奔流に巻き込まれたんだ。
じゃあ、ここはロストロギアの中…?
自分の状況を確認する…
うん、これはマズイ。
洒落にならないくらい。
友人である八神はやてが言うには、このロストロギアは牢獄の様な物らしい。
つまり、私は閉じ込められたということ?
その事実を確認した途端、脳が痺れ、胸の奥がスッと冷たくなっていくのを感じた。
しかし、それとは裏腹に私の思考はどんどんと熱を帯びていく。
─────待って。
─────落ち着いて。
非常事態に落ち着くのは執務官の初歩。
取り乱しても何一つ事態は好転しないという事を、私は嫌という程(でもないけれど)知っている筈だ。
落ち着いて。
心を鎮めて。
─────まずは、そう。
「バルディッシュ」
とりあえずは、長年の相棒に現在状況の確認をとる。
<現在位置は不明。その他情報もありません>
自分の愛機。
低い機械音声。
「出口らしきものは?」
<不明>
予想、当たった。
やっぱり、状況は最悪だったらしい。
「…このロストロギアの中に囚われている人がいるはず。生命反応は…?」
<ありません>
そんなバカな。
そも、私達の任務はこのロストロギアに囚われている人を救出するのが目的だったはず。それが…無い?
それでは、この任務は無駄骨になってしまう。
「…」
果てしない闇を、見渡す。
そこにあるのは変わらない黒。
音も無い
光も無い
意味も、無い。
いや、ただ一つだけあった。
─────チク・タクと鳴り響く、時計の様が……
…思考が堕ちる。
この暗闇に、心が塞ぐ。
…終わりが、こんなに呆気ないものだとは思わなかった。
執務官という仕事上、危険な事態に陥る事は珍しくない。
自分が任務中に命を落とす事は十分に考えられる。
でも、それは任務。
誰かのために死ぬのなら、この命は無駄ではないと信じてきた。
なのはに救われたあの時から、私の信念は変わらない。
『他の誰でもない「誰か」の為に』
2年前、なのはが堕ちたあの日にその信念は揺るがないものになった。
なのはがくれた、命。
みんなが支えてくれた、心。
そんな優しい世界に恩返しが出来るのなら、自分の命など喜んで差し出せる。
けれど…
無駄死には、嫌だ。
誰かのためならばいい。
ただ…何の力にもなれず死ぬのには耐えられない…!!
「なのは…」
嫌だ。
「なのは…っ!!」
親友の名を、呟くだけで暖かくなる名前を呼ぶ。
しかしその魔法の言葉でさえ、この世界では吐息と同様。
暗闇に溶け込み…
───やがて、消えた。
* * * *
…どれだけの時間が経ったのだろう?
その間はずっと叫び続けていた。
そのせいで、喉、痛い。
魔法は一切使えなかった。まさに八方塞がりだ。
でも一通り叫んだおかげかな、また落ち着いてきた気がする。
視界を、くるりと。
周りをよく観察してみる。
…やっぱり真っ暗で何も見えないや。
─────寂しい世界だと思った。
ここにいるだけで、心が思い出したように凍りついていってしまう様で。
まるで身体が独りの様で。
まるで心が孤独な様で。
…でも、なんでかな。
不思議と、この暗闇には見覚えがある。
なんでかな。なんで知ってるのかな。
─────そうだ。あの時だ。
母さんに否定され、人形だと、大嫌いだと告げられたあの時と同じ。
目の前が真っ暗になって、世界が離れていってしまうような、この感覚。
「…ねぇ、バルディッシュ」
その寂しさと、自分を覆い尽くしつつある絶望から逃げるように相棒に語りかける。
縋るように。
請うように。
けれど……
「バルディッシュ…?」
おかしい。
「バルディッシュ!?ねぇ!バルディッシュ!」
…返事が、無い。
「そんな…」
バルディッシュが、いなくなった。
なんの反応も、返してくれない。手元のデバイスは明滅さえしない。
じゃあ…私はこの闇の中で…
「ひとりぼっち…?」
私は…一人なの?
いつまで?
死ぬまで?
ずっと?
考えれば考えるほど、絶望、闇が私を喰らい尽くしていく。
「待って…待ってよ…」
自覚した途端、身体が震える。
嫌…嫌…嫌…
ひとりは嫌だ。
一人は嫌だ…
独りは嫌だ…
そうだ…私は…
一人になるのが嫌なんだ。
寂しいのには、耐えられない。
この暗闇に…何も見えないこの場所に
私は、ひとりぼっち…?
私はこんなに弱かったのだろうか?
多分、弱かったのだろう。
─────強くなった気でいただけだった。
周りのみんなが強い人達だったから、自分も強くなったんだと錯覚していただけだった。
だって、ほら。
私の心は。
─────こんなにも、弱い─────
────アルフ
────リンディ母さん
────クロノ
────はやて
嫌だよ…ひとりはヤダよ…助けて…
…私を助けて…
─────なのは……
─────母、さん…
「君は、誰だ?」
読んでいただきありがとうございます。
るべおらと申します。よろしく。
さて、この作品のオリ主は、ライアーソフトのスチパンシリーズの設定が多く詰め込まれています。
電気王とか万能王だとか…名前だけ出てきて、キャラ自体は出ないんですけどね。だから、これはクロスなのかなぁ…ってちょっと判断が…
一応、スチパンシリーズを知らなくても大丈夫なように書くつもり。
難しい用語が出てきたら、あとがきに補足説明を書くつもりです。
そういうことで、よろしくお願いします!
お付き合い下さい!