リリカル!黄金十字! ──What a beautiful nostalgia── 作:るべおら
主人公出ねえ…
「危険性の低いロストロギアの回収?」
部屋に少女の声が響く。
少女にしては、低めの声。
少女にしては、落ち着いた音。
器量の良い見た目に、流れる金糸の髪。
目を合わせた者を惹きつけずにはいられない、その紅の瞳。
その少女の名前は「フェイト・T・ハラオウン」……特徴的な瞳を、今は驚きに瞬かせている。
……別にフェイトはこの任務を軽く詰った訳では無い。
「そんなん他の雑魚に任せろや」などという性格ではないし、そも執務官試験に受かったばかりとも言える彼女は、そういった仕事をこなすのは日常茶飯事だ。
ただ、危険性の低い任務にしては不可解なことがあった。
「えっと…何か訳ありなのかな?」
フェイトの親友、高町なのはが思った事を口にする。
思った事をすぐ口にする癖はどうかと思うが、それを咎める者は誰もいない。
フェイトなどはそれもなのはの可愛さの一つ!と無駄なイエスマン魂を見せている始末だ。
「詳しくはわからへんけど、怪しいなぁ…」
その2人の横に立っていたもう一人の親友…「八神はやて」もこの任務に疑問を持っているらしい。
だが彼女たちの疑問は最もである。
わざわざ「危険性の低い」と強調された任務にエース級の魔導師三人、そしてヴォルケンリッターの2人であるヴィータとシグナムも動員するなど…
「過剰戦力だと思うけど…」
勿論戦力があるのに越したことはない…が。
元々彼女達が勤めている時空管理局なる組織は慢性的な人員不足。
一つの任務にエース級の魔導師をつぎ込むなど……
「効率的じゃないと思うの」
考えられるとしたら、この任務に裏があるということ。
それは単純にして容易に想像出来る。
腑に落ちない、スッキリとしない任務内容に眉根を寄せていたフェイトとなのは。
その2人を一瞥して、はやては考えるように手元のお茶を一口含んだ。
「ただなぁ…この任務の依頼人、実はミゼットばあちゃんなんよ」
はやてのこの言葉に、フェイトとなのはの2人は驚きを隠せない。
ミゼット・クローベル統幕議長。
管理局で知らない者のいない「伝説の三提督」の一人だ。
「えっ…ミゼット統幕議長が?」
これは実はかなりとんでもない話だ。
絶対的権力を持つ三提督の一人がこの任務の依頼人…
「この任務には機密があります!って言ってるようなもんやな」
おちゃらけた口調にしては、瞳に動揺が隠し切れていない。
これが異常な事態だとはやて自身も理解をしているからだ。
「……でもそうすると、受けないわけにはいかないね」
フェイトは苦笑してそう溢した。
三人とも三提督には恩がある、その恩を仇で返すような真似はしたくないというのが共通意識だ。
─────いや、いずれにしろこの任務は受けるつもりだったけれど。
「頑張るしかないね」
なのはは思案顔を緩め、いつもの笑顔で呟いた。
「うん、そうだね」
その言葉にフェイトも頷く。その顔はやはり笑顔だ。
「せやね…ただ…」
と、はやてはまたその表情を陰らせる。
「どうしたの?はやて」
「うん…ミゼットばあちゃんを疑ってるわけやないけど…」
はやてはとても言い辛そうに口を閉ざしたが、気になる二人は尚も言及する。
「何か不安なことがあるの?はやてちゃん」
「不安とは違うんや。ただな…この任務の人員を集める時な、ミゼットばあちゃんがやたらとフェイトちゃんを推していた気がするんよ」
勿論、勘違いの可能性の方が高い。
そもそも、人の心中を予測する事の得意な捜査官であるはやてであっても、腹芸ではまだまだ年季の入った局員には太刀打ち出来ない。
その上、ミゼットは最古参と言える伝説の局員だ。
そのミゼットが、はやてが異常に勘づくような態度をとるとも思えない。
そのはやての言葉に驚いたのは、当然本人であるフェイトで。
「ミゼット統幕議長が?…はやての勘違いじゃないかな」
フェイトとしては、あの三提督に自分が推される理由に皆目見当がつかない。
そもそもフェイトは自分の事を過小評価かしすぎる傾向がある。
昔は自分の容姿を「雑魚寝してるゴブリンの方がまだ可愛げがあると思う」などと公言し、周りから集中砲火を受けたこともあるのだ。
勿論、真っ先に否定したのが高町なのはであることは言うまでも無い…
素晴らしきかな、友情。
「勘違いやあらへん。なんかいつものミゼットばあちゃんと違った気がするんよ…」
けれど、やはりあの時のミゼットは何処か焦っていたようにも思えた。
……フェイトは自分が推される理由はわからないけれど、とある見当は思い当たっている。
「…もしかして…プロジェクトF…?」
思い当たる節といったらそれくらいしかない。
プロジェクトF。
フェイトの抱える大きな闇。
唯一の黒。
宿命。
─────運命。
「…認めたくはない。けど…可能性は、あると思うで」
* * * *
現場に到着した後、はやては慣れたように迅速な手つきで報告を行っていた。
「八神です。現場に到着しました。ヒトマルマルマルより、作戦行動を開始します…覚悟はええか?みんな」
一呼吸。
そして、告げる。
「…作戦開始!」
『了解!!!』
力強い、仲間の声。
…作戦、開始。
* * * *
「主はやて。こちらシグナム…目標ロストロギアを発見。これより回収を行います」
『…了解や』
桃色の髪をした烈火の将…
シグナムは、目標発見の旨をはやてに伝える。
美しい容姿を持つ女性だ。
鋭利な刃物のような鋭さを持つ女性だ。
揺るがぬ意志を持つ女性だ。
反して、その瞳は猛禽の類だった。
「さて…いくぞ、テスタロッサ」
「はい。…だけど、あれが今回の目標?」
…フェイトが疑問に思うのも無理はない。
眼前にあるロストロギアは、魔力こそ観測できないとはいえ外見は異質にして異常。
─────黒い。
漆黒の立方体。
闇を切り取ったような黒。
あるいは、闇そのものか。
外装は何もなく
魔力もなく
存在する気配もない。
そう、気配もなければ目的もない。
何故あるのか。
何故生まれたのか。
何一つわからない。
─────まるで、あれだけ時間の流れが違うかのような…
「不気味だ…」
フェイトは人知れずそう呟く。
「主はやてから聞いた情報では、あれは空間を封鎖するタイプのロストロギアだ」
シグナムの告げた言葉に、フェイトは首を傾げた。
「封鎖…?」
「早い話が、牢獄のようなものらしい」
牢獄。
仕事上、割と聞き慣れた言葉だ。
時空管理局にだって、犯罪者を拘留する牢獄はある。
だけど…アレは、そんなものではない気がする…
あの黒いものは……
……!
「もしかして…!シグナム」
フェイトの頭に、一つの可能性がかすめる。
「む、なんだ?」
今、正にロストロギアに突入をしようとしていたシグナムが訝しげに聞き返す。
「俺今から突入しようとしてたんだけど?あぁ!?」とは勿論口に出していないが、出していなくとも顔が不満をありありと語っていた。
「あれ、牢獄系に類似するロストロギアなんですよね…」
「あぁ、そう聞いた」
「もしかして…あれの中に捕らえられている人がいるんじゃ…!だとしたら、下手に手は出せない!」
* * * *
「『「もしかして…あれの中に捕らえられている人がいるんじゃ…!だとしたら、下手に手は出せない!」』…うん、私もフェイトちゃんと同意見や…ミゼットばあちゃん」
フェイトとシグナムの会話を拾い、はやては少しだけ息を吐く。
そう言って見据えるはやての通信相手は…
『…』
伝説の3提督が一人、ミゼット。
本来ならはやてごときの官位ではまともにミゼットと通信も出来ないはずだが、個人的に交友があるため通信くらいわけないのだ。
─────いや、そういうことではない。今回に限っては、何故かミゼットは必要以上に現状報告を気にしていた。
「予想に過ぎんけど、アレの中に捕らえられている人…ミゼットばあちゃんの知り合いかなんかやろ?」
『…あら、流石捜査官♪やっぱりばれちゃったわねぇ…』
深刻な表情のはやてとは違い、ミゼットは楽しむように返答する。
まるで悪戯の見つかった子供のような、明るい声音で。
「…私が聞きたいんは、どうしてミゼットばあちゃんがこれを話してくれへんかったのか、ってことや。ロストロギアに捕らえられた者の救出ではなく、ロストロギアの回収って命令にした意味がわからん」
『…必要なことだったから、かしら』
「…それを、信じても?」
『……』
はやては、その無言を肯定と受け取った。
しかし、この判断が正しかったのか、それとも間違いであったのかは…
誰にも、わからないことだった。
* * * *
「了解。…テスタロッサ、主はやてから突撃の許可が出た。少々手荒でも構わんということらしい」
待つこと数十分。
下されたのは突撃命令。
「わかりました。なのは達もすぐこっちに来るそうです」
突撃といっても、やることは安全を確保した上での牽制。
封印はなのは達が到着してからだ。
「それと…今回の任務、ロストロギアの回収ではなく、ロストロギアに捕らえられた者の救出が目標になった」
「…!やっぱり!」
─────予想、あたった。
「あぁ…では、行くぞ!」
そう言い放ち、二人はロストロギアに突撃する。
何が起こるかわからないため、細心の注意を払いつつ接近。
…ミゼットさん…信じるよ…!!
…だが。
現実とは無慈悲なものである。
…現実では
…戦場では
その信用など、大きな意味を持たない。
必死の思いは脆くも崩れ去ることになる。
なぜなら
唐突に
前触れもなく
無慈悲に
無遠慮に
ロストロギアが活動を始めたからだ。
「なっ…!!」
「なんて魔力…!!」
そう、その漆黒のロストロギアから感知できる魔力量…
はっきりと言って異常である。
それはそう、この魔力量は夜天の魔導書にも匹敵するかもしれない。
いや、あるいはそれ以上か。
「…!はやてっ!緊急事態!」
『わかっとるっ!!少し離れて様子を見るんや!』
「了か…っ!!?」
だが、それさえも牢獄は許さなかった。
その何もないはずの立方体の表面。
そこから伸びてくる、何本もの黒い鎖…
「これはっ!?」
まずい!近づき過ぎた───
逃げ切れないっ!?
フェイトの四方を鎖が囲う!!
その数、目測で30以上!!
『あかんっ!!フェイトちゃん!』
「テスタロッサっ!!高町たちが来るまで持ちこたえろっ!!」
速さ的に先行することになるフェイトは、結果的にシグナムよりも牢獄に近い位置になる。
その鎖は正確にフェイトだけを狙い宙を蹂躙していく!
「これはっ…!すみませんシグナム!逃げ切れません!後のことは…っ!!」
そしてとうとう鎖に捕まってしまったフェイト。
ギシリ、とフェイトの身体を締め付ける。
苦しむように。
逃がさないように。
「ぐぁぅ…ぅくっ…!!」
苦悶が、溢れる。
「テスタロッサ!くっ!この鎖…!!」
『フェイトちゃん!!』
そして…
フェイト・T・ハラオウンはロストロギアに取り込まれた。
これが、6時間前のことである。
そしてプロローグへ。
次も早めに投稿します。…なんとか続けたいですねー。
というかスチパンシリーズとのクロスって…
今更需要を気にし始めました。