灰の傭兵と光の園 〈RF各機、メカイラストあり〉   作:青羽 イオ

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第七章 白の外で会う者たち
第28話 食うための任務


 ブリーフィングルームのモニターには、六か月分の収支が出ていた。

 

 白帯護衛の項目は、右へ行くほど細くなっている。代わりに増えているのは、企業輸送の護衛、危険地帯の調査、物資回収、補給基地への襲撃支援だった。

 

 ジルが端末を叩く。

 

「白帯護衛は減ってる。UDFの支払いが遅い。企業も避難民の護衛に金を出さなくなった。自社の荷物、自社の社員、自社都市の維持が先だ」

 

「避難民は金にならない、か」

 

 リュウが言った。

 

「企業から見ればな」

 

「まあ、そうなるだろ。受け入れたら飯も寝床もいる。護衛費まで出したくないって話だ」

 

 ゴーシュが椅子に背を預ける。

 

「で、空いた穴を埋めるのが企業案件ってわけだ。最近そればっかりだな」

 

「食うにはいる」

 

 ガンモが短く言った。

 

「弾も燃料も、善意じゃ買えねぇからな」

 

 アキヒトは黙って数字を見ていた。

 

 白帯護衛が減っている。その事実に、少しだけ胸の奥が重くなる。だが、それだけだった。戦場で感傷に時間を使えば、判断が遅れる。

 

 クレイヴ・アクトは傭兵団だ。

 

 護衛もやる。調査もやる。襲撃もやる。金を払う相手がいれば、そこへ行く。

 

 ただ、白帯護衛は分かりやすかった。守る相手が見えていた。今の企業案件は、誰の得になるのか分からないものが多い。それが少し気に入らないだけだ。

 

「本題だ」

 

 ヴァイスが言った。

 

 収支表が消え、灰色の地図が映る。旧レゾナンスシティ外周部。白帯から離れた灰の中に、赤い印がついていた。

 

「依頼主はカルディア。地形崩落で地下施設の入口が見つかった。レゾナンスシティ時代の研究施設らしい」

 

「らしい、か」

 

 ヒロが言う。

 

「カルディアがそう言ってるだけだ。中に何があるかは分からん」

 

 ジルが図面を出した。古い施設図は欠けていて、通路の一部は灰色で塗られている。

 

「入口は一つ確認済み。内部の状態は不明。崩落、浸水、旧式の防衛装置、ミュータントの侵入、どれもあり得る」

 

「他社は?」

 

 アキヒトが聞いた。

 

「来る」

 

 ヴァイスは即答した。

 

「カルディアが見つけたなら、他も嗅ぎつけてる。企業軍、雇われの傭兵、盗掘屋まがいの連中。どれが先に来てもおかしくない」

 

「撃ち合い前提か」

 

 リュウが言った。

 

「撃ってくる相手ならな」

 

「施設はお宝箱ってことか。古いデータ、研究機材、使える部品、企業が好きそうなものだらけだ」

 

 ポチが嫌そうに言う。

 

「しかも地下。通信が死ぬ。ドローンが迷子になる。俺の仕事が増える。いいことがない」

 

「報酬はいい」

 

 ジルが契約条件を出した。

 

「白帯護衛より上だ。燃料と弾薬の一部はカルディア持ち。回収物にも取り分がある」

 

「補償は?」

 

 ガンモが聞く。

 

「薄い」

 

「だろうな」

 

 ゴーシュが笑った。

 

「金は出す。死体の面倒は見ない。企業のいつものやつだ」

 

「任務は単純だ」

 

 ヴァイスが続ける。

 

「施設を調査して、回収できるものは回収する。そして報告する。それだけだ」

 

「他社と鉢合わせたら?」

 

「相手が撃たないなら、先に撃つな。撃ってきたら撃ち返すだけだ」

 

 ゴーシュが口元を歪めた。

 

「傭兵らしくていいな」

 

「きれいな仕事じゃない」

 

 ヴァイスが言った。

 

「だが、断るほど余裕もない。白帯護衛だけで艦は動かない。子どもの飯も、整備部品も、燃料もいる」

 

 アキヒトは、そこで少しだけ顔を上げた。

 

 ヴァイスは続ける。

 

「うちは金をもらって動く。それだけだ」

 

「アキヒト」

 

 ヒロが呼ぶ。

 

「なんだ」

 

「前衛はお前だ。入口前の確認と、接敵時の初動を任せる」

 

「分かった」

 

「迷うなよ」

 

「迷わない。気に入らないだけだ」

 

「ならいい。気に入らない仕事なんて、いくらでもある」

 

 ヴァイスが端末を閉じた。

 

「出撃は明朝。VOLKは準備に入れ」

 

「穴ぐらの仕事で、作戦が穴だらけは嫌だな」

 

 リュウが言う。

 

「うまいこと言ったつもりか?」

 

 ゴーシュが返す。

 

「少しだけな」

 

 短い笑いが起き、すぐに消えた。

 

 アキヒトは席を立った。

 

 ブリーフィングルームを出ると、艦内の音が戻ってくる。整備用リフトの駆動音、工具の落ちる音、遠くの食堂から流れてくる湯気の匂い。

 

 子ども区画の前を通ると、ドアの向こうからサキの声が聞こえた。

 

「走らないで」

 

「はしってないもん」

 

「まだ、でしょ」

 

 アキヒトは足を止めなかった。

 

 明日の仕事は白帯護衛ではない。

 

 カルディアの依頼で、灰に沈んだ施設を調べに行く。中に何があるかは分からない。他社の傭兵や企業軍と鉢合わせるかもしれない。撃たれれば撃ち返す。必要なら壊す。

 

 気に入る必要はない。

 

 仕事は仕事だ。

 

 危険な場所へ先に行き、何があるか確かめる。

 

 それでグレイランスが動くなら、今回はそれでいい。

 

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