灰の傭兵と光の園 〈RF各機、メカイラストあり〉 作:青羽 イオ
第28話 食うための任務
ブリーフィングルームのモニターには、六か月分の収支が出ていた。
白帯護衛の項目は、右へ行くほど細くなっている。代わりに増えているのは、企業輸送の護衛、危険地帯の調査、物資回収、補給基地への襲撃支援だった。
ジルが端末を叩く。
「白帯護衛は減ってる。UDFの支払いが遅い。企業も避難民の護衛に金を出さなくなった。自社の荷物、自社の社員、自社都市の維持が先だ」
「避難民は金にならない、か」
リュウが言った。
「企業から見ればな」
「まあ、そうなるだろ。受け入れたら飯も寝床もいる。護衛費まで出したくないって話だ」
ゴーシュが椅子に背を預ける。
「で、空いた穴を埋めるのが企業案件ってわけだ。最近そればっかりだな」
「食うにはいる」
ガンモが短く言った。
「弾も燃料も、善意じゃ買えねぇからな」
アキヒトは黙って数字を見ていた。
白帯護衛が減っている。その事実に、少しだけ胸の奥が重くなる。だが、それだけだった。戦場で感傷に時間を使えば、判断が遅れる。
クレイヴ・アクトは傭兵団だ。
護衛もやる。調査もやる。襲撃もやる。金を払う相手がいれば、そこへ行く。
ただ、白帯護衛は分かりやすかった。守る相手が見えていた。今の企業案件は、誰の得になるのか分からないものが多い。それが少し気に入らないだけだ。
「本題だ」
ヴァイスが言った。
収支表が消え、灰色の地図が映る。旧レゾナンスシティ外周部。白帯から離れた灰の中に、赤い印がついていた。
「依頼主はカルディア。地形崩落で地下施設の入口が見つかった。レゾナンスシティ時代の研究施設らしい」
「らしい、か」
ヒロが言う。
「カルディアがそう言ってるだけだ。中に何があるかは分からん」
ジルが図面を出した。古い施設図は欠けていて、通路の一部は灰色で塗られている。
「入口は一つ確認済み。内部の状態は不明。崩落、浸水、旧式の防衛装置、ミュータントの侵入、どれもあり得る」
「他社は?」
アキヒトが聞いた。
「来る」
ヴァイスは即答した。
「カルディアが見つけたなら、他も嗅ぎつけてる。企業軍、雇われの傭兵、盗掘屋まがいの連中。どれが先に来てもおかしくない」
「撃ち合い前提か」
リュウが言った。
「撃ってくる相手ならな」
「施設はお宝箱ってことか。古いデータ、研究機材、使える部品、企業が好きそうなものだらけだ」
ポチが嫌そうに言う。
「しかも地下。通信が死ぬ。ドローンが迷子になる。俺の仕事が増える。いいことがない」
「報酬はいい」
ジルが契約条件を出した。
「白帯護衛より上だ。燃料と弾薬の一部はカルディア持ち。回収物にも取り分がある」
「補償は?」
ガンモが聞く。
「薄い」
「だろうな」
ゴーシュが笑った。
「金は出す。死体の面倒は見ない。企業のいつものやつだ」
「任務は単純だ」
ヴァイスが続ける。
「施設を調査して、回収できるものは回収する。そして報告する。それだけだ」
「他社と鉢合わせたら?」
「相手が撃たないなら、先に撃つな。撃ってきたら撃ち返すだけだ」
ゴーシュが口元を歪めた。
「傭兵らしくていいな」
「きれいな仕事じゃない」
ヴァイスが言った。
「だが、断るほど余裕もない。白帯護衛だけで艦は動かない。子どもの飯も、整備部品も、燃料もいる」
アキヒトは、そこで少しだけ顔を上げた。
ヴァイスは続ける。
「うちは金をもらって動く。それだけだ」
「アキヒト」
ヒロが呼ぶ。
「なんだ」
「前衛はお前だ。入口前の確認と、接敵時の初動を任せる」
「分かった」
「迷うなよ」
「迷わない。気に入らないだけだ」
「ならいい。気に入らない仕事なんて、いくらでもある」
ヴァイスが端末を閉じた。
「出撃は明朝。VOLKは準備に入れ」
「穴ぐらの仕事で、作戦が穴だらけは嫌だな」
リュウが言う。
「うまいこと言ったつもりか?」
ゴーシュが返す。
「少しだけな」
短い笑いが起き、すぐに消えた。
アキヒトは席を立った。
ブリーフィングルームを出ると、艦内の音が戻ってくる。整備用リフトの駆動音、工具の落ちる音、遠くの食堂から流れてくる湯気の匂い。
子ども区画の前を通ると、ドアの向こうからサキの声が聞こえた。
「走らないで」
「はしってないもん」
「まだ、でしょ」
アキヒトは足を止めなかった。
明日の仕事は白帯護衛ではない。
カルディアの依頼で、灰に沈んだ施設を調べに行く。中に何があるかは分からない。他社の傭兵や企業軍と鉢合わせるかもしれない。撃たれれば撃ち返す。必要なら壊す。
気に入る必要はない。
仕事は仕事だ。
危険な場所へ先に行き、何があるか確かめる。
それでグレイランスが動くなら、今回はそれでいい。