灰の傭兵と光の園 Ⅰ 〈RF各機、メカイラストあり〉   作:青羽 イオ

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RF-06《バッファロー》

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ST-09《スケルトン》

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第3話 灰のスープ(機体イラスト有)

〈ラインガード〉『白帯への侵入なし。列は維持中。避難列の歩調は維持せよ』

 

 背後の回線から報告が入る。アキヒトは送話キーに触れたまま、モニタ表示を切り替えた。

 戦闘映像が縮小され、画面の一角に白帯の様子が映る。杭灯とパルスラインの点滅は一本に戻り、灰の流れも前へ揃いはじめていた。

 

 真ん中には見慣れない服の子どもたち。外側を大人が挟み込むように歩く。先頭には若い女が一人、列を振り返って指先で数えている。

 

「はち、きゅう、じゅう。よし、全員いるね」

 

 震えのない声で確認し、前を向いて歩き出す。子どもたちは隣の手を握り、白い道の上に並んでいた。

 

 列の中に一人だけ、手を繋がずに歩く子どもがいる。両腕を胸の前で抱え、誰の手も取らず、前だけを見ている。その横では、別の子どもが隣の手を両手で握り、離さないように歩いていた。

 

 アキヒトはモニタ越しに列を追い、数値へ戻す。

 主電七パーセント。冷却余裕七十八パーセント。マイクロミサイル残弾ゼロ。予備マガジン二本。

 

 ぎりぎりだった。あと一分長引けば弾が尽きていた。跳躍個体が二・四メートル内側に落ちていれば、白帯を越えられていた。運の要素は否定できない。だが現場では、それも含めて結果でしかない。

 

〈アキヒト〉『周囲を二十分巡視する。異常がなければ帰投だ』

〈ノルン〉『現状の主電と冷却では、二十分の巡視は推奨範囲外』

〈アキヒト〉『分かってる。それでも二十分だ』

 

 操縦桿をわずかに倒し、ストレイ・カスタムの脚を灰の上へ踏み出す。

 白い道はまだ光っている。その外側を歩き続ける。

 

 コクピットの中に苦味が残っていた。舌に張り付いて消えない。

 

 *

 

 同じころ、白帯の避難列の脇で、サキは遠ざかっていく機影を見送っていた。

 夕方の灰の空を切って、護衛に残ったRFが三機、白い道の縁を回り込み、それぞれの持ち場へ戻っていく。

 

 その外縁を、別の音が追い越した。

 低いエンジン音。テクニカルが数台、白帯の外を並んで走り抜ける。荷台に兵が数名、灰をかぶったまま座り、銃口は横へ寝かせた。車列が通ったあとの灰が薄く舞い上がり、白帯の灯りが一瞬だけ曇って、すぐ戻る。

 

 灰が落ち着く前に、さらに端のほうで重い影が動いた。

 白帯の縁に寄せて、旧式のRFが二機。骨組みが露出したRFが、瓦礫を掻き寄せて道の肩を作り直している。 少し離れたところでは古いモデルのRFが体を低くし、装甲の角度を変えながら、崩れかけた板と土嚢を押さえていた。

 

 作業灯の白が灰に散って、油圧の音だけが規則正しく続く。

 サキは列へ視線を戻し、子どもたちの歩幅を崩さない位置へ、もう一度だけ並びを寄せた。

 歩き続けて、どれくらい経ったのか。時計は見られない。

 

 前も後ろも、灰の中に消えている。ただ、足音が少しずつ重くなり、列の間隔がじりじり広がってきたのは分かった。

 小さい子が歩幅を縮め、後ろの子が黙ってふくらはぎをさする。

 靴底が薄い子は、足を出すたびに路面をこする音が混じった。

 

「もう少しだけ。ね? ほら、あそこまで行ったら一回休めるって、さっき言われたでしょ」

 言いながらサキ自身も「あとどれくらいか」を掴めていない。

 

 地図もない。距離も時間も曖昧だ。

 前の子がつまずきかけるたび、背中にそっと手を添える。

 止めたい気持ちと、「止まったら動けなくなる」怖さがぶつかる。結局、言えるのはいつも同じだ。

 

「ゆっくりでいいよ。前だけ見て」

 

 しばらくして、灰の向こうに小さな灯りが揺れているのが見えた。

 風に混じって、スープとパンの匂いが届く。途端に、口の中が乾いているのを思い出す。

 白帯が少し広くなった場所に炊き出しのテントがいくつも張られていた。

 通路脇の兵士が手を上げて合図し、短く言う。

 

「休憩だ。寄れ」

 

 素っ気ない声なのに、その一言で足元が少し軽くなる。

 配食係の若者が紙の器を並べながら手を振った。

 

「子ども、先!」

 

 列の大人が反射で道を空ける。小さい背中が押し出され、器が次々に渡っていく。

 横の係は何も言わない。頷くだけで、指先が顎紐を示す。

 

 ひとりが口元を上げかけた瞬間、手が伸びて布が戻された。飲む子は顔を伏せ、器の縁を避けてスプーンを沈める。

 

 湯気の白の中を、灰の粒が落ちてくる。灯りがにじんで見えた。

 紙椀の表面に、点々と黒い粒が乗った。

 子どもたちはパンとスープを受け取っていく。

 熱で指先がわずかに震れても両手でしっかり椀を抱え込んだ。

 

「こぼさないようにね。顔、近づけすぎないで」

 

 サキは一人ひとりの手元を見て、椀の縁を軽く押さえてやる。

 そのとき、小さい子の手が震えて、スープが縁からこぼれた。

 

「あ……」

 

 落ちたスープは灰に吸われて黒く広がる。

 赤くなりかけた目を見てサキは反射で自分の椀を出しかけて――

 

「大丈夫、大丈夫。ほら、もう一杯」

 

 若者が、すぐに新しい椀を差し出した。

 その子は小さく頭を下げ、今度はこぼさずに受け取った。

 スプーンを入れると灰が浮く。サキは紙椀を少しだけ傾け粒を端へ寄せた。

 

「こっち、端に寄ろうか」

 

 空きスペースへ子どもたちを移し、通路の端に寄せて座らせる。

 毛布を掛け直しながら、声を落として言った。

 

「熱いから気をつけて。ゆっくり食べようね」

 

「いただきます」がばらばらに重なり、小さなスプーンの音があちこちで鳴り始めた。

 サキも自分の椀を両手で持ち上げる。手のひらに熱がしみた。

 

「……いただきます」

 

 スープを一口。塩気と温かさが広がって、目の奥が危うくなる。

 慌てて顔を上げると、子どもたちは誰もこちらを見ていない。みんな、自分の椀に集中していた。

 

 二口目を飲み込む。温かい。

 

 灰の向こうに、巨大な陸上戦艦の影がうっすら見えた。輪郭は曖昧で、ただ一部だけ、灯りが点いている。

 

(あそこに……今夜は入れるんだろうか)

 

 紙椀を持ったまま、サキはその影を見上げていた。

 





【あとがき】

今回登場したラインガード小隊の基本編成は、
バッファロー一機、スケルトン四機、歩兵六十名です。

白帯のすぐ近くで避難民の流れを維持しながら動くため、
巨大な一機だけで押さえるのではなく、複数のスケルトンと歩兵を組み合わせて、細かく線を支える形になっています。

バッファローは外側で受ける壁として、
スケルトンは近い距離での護衛、誘導、即応の手足として、
歩兵は白帯上の維持と避難民対応を担う、というイメージです。

機体まわりが気になる方はこちらもどうぞ。

灰の傭兵と光の園 ─ 世界設定&メカ資料集(一部イラスト有) ─
https://kakuyomu.jp/works/822139840184157585
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