灰の傭兵と光の園 〈RF各機、メカイラストあり〉   作:青羽 イオ

31 / 56
第30話 レゾナンス残骸迎撃戦

 目標地点は、灰の向こうに沈んでいた。

 

 広い窪地だった。地面が大きくへこみ、中央に四角い建物の一部だけが出ている。崩れた土砂と割れたコンクリートの間から、鉄骨と白っぽい壁がのぞいていた。あれがカルディアの言っていた旧研究施設だろう。

 

 俺はストレイ・カスタムを窪地の手前で止めた。

 

 足裏のセンサーが、灰の厚みと地面の硬さを返してくる。表面は固そうに見えるが、下まで詰まっているとは限らない。旧都市の外周部は、地面の下に空洞が残っていることがある。

 

 ノルンの声が入った。

 

〔目標区域を確認。窪地中央の構造物を、旧研究施設と推定〕

 

 少し後ろで、ヒロのヴァルケンストームも止まる。

 

「全機、窪地の縁で止まれ。足元を確認しろ。下が抜ける場所がある」

 

「了解。重い俺が一番嫌なやつだな」

 

 ゴーシュのブルロアーが姿勢を低くし、ガンモのバッド・バンカーも盾を下げて斜面を見た。灰霧は濃くないが、遠くの輪郭はぼやけている。レーダーと光学センサーが窪地の中をなぞり、回線が少しだけ静かになった。

 

〔広域スキャン開始〕

 

 ノルンの表示が動く。

 

〔窪地内部に複数反応。数は二十から三十。修正、最大で四十前後。サイズはすべてRF未満。人型ではありません。小型の多脚機と、低空を移動するホバーユニットの混成と推定〕

 

「RFじゃないのか」

 

 リュウが聞いた。

 

〔熱の出方と形状が一致しません。全長二から四メートル級。地上を走る多脚タイプと、低空を滑るホバータイプを確認〕

 

 モニターに簡単な形が出た。脚の多い機械と、底に丸い推進器を抱えた箱型の機械。どちらも人が乗る形ではない。

 

〔識別照合中。一部反応から古い識別タグを検出。旧レゾナンス軍事研究所のコードと一致〕

 

「軍事研かよ」

 

 ゴーシュの声が少し低くなる。

 

「古い防衛ドローンってことか?」

 

〔タグは廃止済みです。ただし識別パターンの一部が残っています。現行の軍用ドローンでは使用されていない形式です〕

 

 ただの廃墟ではない。

 

 俺は反応数がじわじわ増える表示を見た。埋まっていた機体が、こちらの探査に反応して起きている。そう考えた方が早い。

 

「全機、武装セーフ解除」

 

 ヒロが言った。

 

「近づきすぎるな。窪地の縁から見る。味方の射線をふさぐ位置には立つな」

 

 武装ステータスが、モニター上で「SAFE」から「ARMED」に変わった。

 

 その直後、窪地の中央で小さな光が走った。

 

 灰をかぶっていた地面が割れ、黒い影が一斉に跳ね上がる。多脚ドローンが脚を広げて走り出し、その上を箱型のホバードローンが低く滑ってきた。

 

〔敵ドローン起動。こちらのレーダー照射に反応した可能性〕」

 

「派手な出迎えだな」

 

 ゴーシュがぼそりと言った。

 

「前衛、左右に散れ。距離を取る。リュウ、ポチ、高い位置を取れ。群れの動きを見ろ」

 

 ヒロの声で、隊が動いた。

 

 リュウのレイヴン・アイが右の斜面へ上がり、ポチのブレイン・モールは左へ回る。俺は正面から少し右にずれた。斜面を使えば、こちらの足元を狙われにくい。

 

 先頭の多脚ドローンが脚を止め、こちらへ細い砲身を向けた。

 

 光が瞬いた。

 

 左肩で金属音が弾け、衝撃がコックピットに伝わる。

 

〔被弾。左肩装甲、貫通なし〕

 

〔弾種は徹甲系と推定。機能への致命的損傷はありません〕

 

「了解」

 

 別のドローンが丸い弾を撃ち上げた。空中で弾が割れ、白い光と一緒にノイズが広がる。センサー画面がざらつき、距離表示が一瞬だけ乱れた。

 

〔強い電磁干渉を確認。複数センサーに乱れ。LSLへの直接ダメージはなし。補正負荷が上昇〕

 

 徹甲弾に電磁妨害。

 

 古いにしては、かなり嫌な組み合わせだ。近づけば照準が乱れる。離れすぎれば灰で見えない。相手はそこを狙っている。

 

「接近戦は避ける。射撃で削るぞ」

 

 ヒロが判断した。

 

「前衛は窪地の縁を使え。動力部と脚を狙え。頭を探すより、動きを止めろ」

 

「了解」

 

 俺はアサルトライフルを構え、走ってくる多脚機の脚を狙った。

 

 引き金を短く刻む。灰の中で弾が走り、先頭の脚が折れた。一体が崩れ、その後ろの機体が上を飛び越える。迷いはない。古い防衛命令に従っているだけの動きだ。

 

 俺はもう一度撃った。

 

 二体目の脚が折れ、斜面の途中で横倒しになる。

 

 高所に上がったリュウの狙撃音が遅れて届いた。右側の群れの奥で、別の機体が大きく跳ねて倒れる。

 

「右側に変なのがいる」

 

 リュウが言った。

 

「脚が少ない。ほかより動きが落ち着いてる。頭の上にアンテナみたいなのがあるな」

 

「左にもいるぞ」

 

 ポチが続けた。

 

「こっちの群れも、そいつの近くに寄ってる。たぶん指示役だ」

 

「よし、アンテナ付きを最優先だ」

 

「リュウ、撃て。ポチはマーカーをつけろ」

 

「ノルン、アンテナ付きの機体を優先表示」

 

〔了解。通信信号を照合。周囲への指示をまとめている機体と判断。優先目標として表示します〕

 

 モニターに赤い枠が二つ出た。

 

 リュウが先に撃った。

 

 右側のアンテナ付きの頭部が吹き飛び、周りのドローンが一瞬だけ足並みを崩す。走る方向がばらけ、何体かが互いにぶつかった。

 

「一つ落とした」

 

「左、マーカーをつける」

 

 ポチの小型ドローンが灰のすぐ上を走り、左のアンテナ付きに小さな発信弾を撃ち込んだ。すぐに座標がリュウへ送られる。

 

「受けた。二つ目」

 

 狙撃音。

 

 左のアンテナ付きも頭部を砕かれ、周囲の動きが鈍った。

 

 そこからは早かった。

 

 ゴーシュのブルロアーがキャノンを撃ち、斜面を上がろうとしていた多脚ドローンをまとめて吹き飛ばす。ガンモは盾で徹甲弾を受け、その影から近づいたホバードローンへ機関砲を叩き込んだ。

 

 俺は前に出すぎないように機体を止め、倒れた多脚機を踏み越えてくる敵を撃った。脚を折る。動力部を撃つ。浮いている箱型は底の推進器を狙う。

 

 白帯のときとは違う。

 

 ここには避難列も、杭灯もない。だが、撃つ相手は同じだ。こちらを殺しに来るものを止める。それだけなら、迷う必要はなかった。

 

〔敵残数、十五。修正、十。さらに減少〕

 

「突っ込みすぎるな。残りを散らすぞ」

 

 ヒロの指示に合わせて、前衛の射撃が少しだけ前へ寄る。

 

 最後のホバードローンが灰の中で傾き、底面から火を噴いて落ちた。しばらくのあいだ、窪地には煙と破片の音だけが残る。

 

〔全周スキャン。敵反応、現時点でゼロ。一時的に制圧完了と判断〕

 

 俺はトリガーから指を離した。

 

 モニターの隅に自機のログが出る。

 

《主兵装残弾:約半分》

《副兵装残弾:三割弱》

《LSL負荷:ピーク値八割》

 

 思ったより削られている。まだ施設に入ってもいないのに、この消耗はよくない。

 

「ノルン、今の群れは何だ」

 

 ヒロが聞いた。

 

〔交戦データを解析。今回のドローンは、反応速度は高いものの、行動の型が固定されています。中枢機を通じて、施設内のどこかから同じ指示が流されていた可能性が高い〕

 

「つまり、まだ奥に親玉がいる」

 

 ゴーシュが言った。

 

〔親玉という表現は不正確ですが、制御元が残っている可能性は高いです〕

 

「言い方は何でもいい。面倒なのが奥にいるってことだろ」

 

〔その認識で問題ありません〕

 

 窪地の中央にある施設の影が、さっきより大きく見えた。

 

 いまのは玄関先だ。

 

 建物の中には、まだ何かがいる。古い防衛システムなのか、別の誰かが動かしているのかは分からない。ただ、入口を守るだけでこれなら、奥はもっと面倒だ。

 

「弾薬と負荷を確認しろ」

 

 ヒロが言った。

 

「前衛は斜面を使って下りる。リュウとポチは上からカバー。ガンモは入口前で盾を出せ。ゴーシュは無駄撃ちするな」

 

「最初から無駄には撃ってねえよ」

 

「弾が減ってる」

 

「敵も減ってる」

 

「なら次はもっと減らす前に考えろ」

 

「はいはい」

 

 短いやり取りのあと、各機が配置についた。

 

 俺はストレイ・カスタムの足を、ゆっくりと斜面へ出した。灰が足首の周りで崩れ、下の固い地面に装甲の重さが伝わる。

 

 白帯はない。

 

 ここは企業の仕事で、カルディアの施設だ。けれど、灰の下に残っているものが白帯へ出てこない保証はない。

 

 俺は窪地の底へ向かった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。