灰の傭兵と光の園 〈RF各機、メカイラストあり〉   作:青羽 イオ

67 / 70
第66話 首を狩りに来る者

 ポートランスの火柱が、まだ灰霧の向こうで明滅していた。

 

 その炎を背に、深緑と黒の機体がひとつ静かに進路を切る。

 コンラートのヘル・ファルコンだ。

 

「戦艦は落ちた」

 

 短く状況を口にして、彼は視界を地表マップに切り替えた。

 前線陣地のさらに奥――コンテナとテントで組まれた前線司令部区画に赤い印が点っている。

 

 砲撃と通信の要だったポートランスを失った今、そこがUDFの「頭」だ。

 

「次は司令部だ。全機、進路変更」

 

 部隊回線に、落ち着いた声が流れる。

 

〈HM-2〉『目標確認。UDF前線司令部、距離10キロ。接近速度、時速240』

〈HM-3〉『途中、バッファローとスケルトンの残りが散発で残ってます』

 

「邪魔な分だけ払え。止まるな」

 

 コンラート機が灰原へ踏み出す。

 脚部と腰のスラスターが低く唸り、白い灰が足元から帯になって吹き上がる。

 数機のヘル・ファルコンが後ろに続き、扇形の隊形を組む。

 

 進路の先には、崩れかけた塹壕と、半ば埋もれたスケルトンの残骸。

 辛うじて動いているバッファローが、防御姿勢のまま壊れた機体を盾にしているのが、一瞬だけ視界の端をかすめる。

 

 そこへ横薙ぎにバズーカの一発。

 盾代わりにされたスケルトンごと塹壕の端が吹き飛び、土と鉄片が空高く散った。

 

〈UDF前線〉「なんだ今の──味方じゃない、色が違う!」

〈UDF前線〉「RFだ! こっちも撃ってきてる、司令部側へ──っ!」

 

 怒号混じりの無線をコンラートはノイズと同じように聞き流した。

 

「頭さえ落とせば、残りは勝手に崩れる」

 

 独り言のような声とともに、ヘル・ファルコンの群れが灰の平原を低く走っていく。

 10キロなら数分もかからない距離だった。

 

*

 

 グレイランスのブリッジには、さっき落ちた「支え」の余韻がまだ残っていた。

 通信一覧は赤い欠落が増え、前線指揮の帯域がところどころ息切れしている。

 

「中継線が抜けてる」

 

 ジルが硬い指先でコンソールを走らせる。

 

「ポートランス付属の中継が途絶。前線司令部の回線も複数が落ちています。指揮系統が乱れてきてる」

 

 艦長席のヴァイスは、短く息を吐いた。

 

「"後ろ盾"が消えた分だけ前線の判断は遅れる。で、次は何だ」

 

 ジルの画面に、新しいマーカーが走る。

 深緑と黒の小隊規模反応。速度が異様に高い。

 

「RF群、小隊規模。シルエットはヘル・ファルコン。進路、前線正面ではありません」

 

「どこへ向かう」

 

「UDF前線司令部区画の座標へ直進中。距離およそ8キロ。速度から見て、数分で到達します」

 

 ブリッジの空気がわずかに固くなる。

 

「……またあいつらか」

 

 ヴァイスの呟きに、誰もすぐには言葉を返せない。

 橋が折れた夜の報告が全員の頭をよぎった。

 白い導光ラインごと高架が落ち、避難路が空中でちぎれたあの光景が。

 

「VOLKとUDF前衛に回線を開け。司令部が狙われていると伝えろ」

「了解。戦場図を更新して送ります」

 

 *

 

 同じ情報が、そのままVOLK隊の回線にも流れ込む。

 

〈リュウ〉『別方向から接近。……ヘル・ファルコン数機。進路は前線じゃない。もっと奥、司令部の方だ』

 

〈ゴーシュ〉『またあいつらかよ。ここには橋も白帯もねぇぞ。何が目的なんだ』

 

〈ガンモ〉『司令部まで持ってかれたら、全部終わるぞ』

 

 後方支援席で、ポチが短く息を吐いた。

 

〈ポチ〉『ヘルマーチ反応、確認。……動きもパターンも同じだ。灰の向こうから、また妙な減速で入ってきてる』

 

 前線の別回線からも、UDF兵の声が割り込んでくる。

 

〈UDF前線〉「ヘルマーチだと? なんでここに……!」

〈UDF前線〉「司令部に向かってる!」

 

 アキヒトはずっと黙ったままだった。

 ストレイ・カスタムのコクピットに心拍モニタの音だけがかすかに混じる。

 

 ヘルマーチという音がLSLの奥で、古い痛みをなぞるように響く。

 

〈ヒロ〉『前は俺たちが抑える。司令部までは……グレイランスとUDFに任せるしかない』

 

(ここを抜かれたら、そのときは前線を捨ててでも動くしかない)

 

 少しの間があって、アキヒトが答えた。

 

〈アキヒト〉『……分かってる』

 

 短い返事だけが、妙にはっきりと聞こえた。

 

 灰と火線の向こうで、ヘル・ファルコンの群れが、静かにUDF司令部へ向けて走っていく。

 

 前線の線を守ろうとする側と、その線の外側から"首"を落としに来た側。

 同じ戦場にまたあの色が現れた。

 

 *

 

 ヘルマーチが司令部側へ抜けた報告が入ってから、数分後。

 

〈グレイランス〉『UDF司令部防衛線が持たない。前線から一機だけでも回せるか?』

 

〈ヒロ〉『……VOLK-6(ヴァルケン・ストーム)が行く。残りはこのまま線を維持しろ』

 

〈ゴーシュ〉『おい隊長、前を空ける気か』

 

〈ヒロ〉『ここが折れたら、前も後ろもまとめて落ちる。頼むぞ』

 

〈アキヒト〉『行け。こっちは俺が見る』

 

 短いやりとりのあと、ヴァルケン・ストームが列から抜けた。

 前線を離れるのは本意じゃない。

 それでも司令部までヘルマーチを通せば、今日の戦いごと意味を失う。

 

 ヒロはスラスターを噴かし、崩れかけた司令部区画へ向けて灰の中を走った。

 

 

――次回、第67話「生きて線を引け」へ続く

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。