パーフェクトゲームを目指すには!   作:メタ(ル)

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「わー! マスター、とと様がのぼせた!!」

「だから「のぼせるな」とあれほど忠告したのに‥‥‥ん?どうした謙信ちゃん。じっくりと北斎を見ちゃって」








「‥‥‥茹蛸(ゆでだこ)

「ブッ‥‥‥ははっwwww」

「……ぶはっ! お前さん、天才かよ」



迷宮内にて。
なお、この後全員墨を吐かれた模様。







迷宮探索 中

アルカトラスの第七迷宮、その第一階層は不気味に感じるほどもの静かであった。

石レンガで囲まれた閉鎖的な空間だが、時々辿り着く広い空間は舗装されていないのか自然そのままの鉱石や岩塩が露出していた。

壁面には白く濁った岩塩の結晶がびっしりと張り付き、懐中電灯の光を受けて鈍く反射している。

天井からは一定間隔で水滴が落ち、その音だけがやけに大きく迷宮内へ反響していた。

 

 

「謙信、サーヴァントの反応は?」

 

「‥‥‥この階層にはいませんね。少なくともエーテル体特有の残滓があるのでサーヴァントが居たのは確かです」

 

 

静かすぎる。

謙信にサーヴァントを探知させているが見つからない。

ルーラーのサーヴァントとしての感覚で霊子の残滓を追っているのだろう。

だが反応はない。

少なくとも、この周辺には居ないらしい。

 

とはいえ安心できるワケでもない。

サーヴァントが既に戦闘を終えた後だとしたら、その余波で周囲のエネミーが活性化している可能性だってある。

俺たちは自然と歩幅を落とし、警戒を強めながら進んでいく。

第一階層とは言え死の危険性がある以上、周囲の確認を怠るワケにはいかない。

 

落とし穴一つで串刺し。

毒ガスで昏倒してそのまま餓死。

あるいは壁から飛び出した刃で首を刎ねられる。

迷宮では別に珍しくもない死因だ。

 

 

「お栄ちゃん、墨汁は?」

 

「あー‥‥‥今一つなくなったな。これで残り13だ」

 

 

お栄ちゃんは腰に下げた小瓶を軽く振りながら答えた。

彼女は一定間隔で鼠色のレンガへ墨汁を垂らしている。

迷宮攻略では定番中の定番とも言える道しるべだ。

 

単純ではあるが信頼できる道しるべだ。

魔術的なマーキングは迷宮側に干渉される可能性があるし、最悪逆探知される危険すらある。

その点、ただの墨汁はいい。

 

魔力反応がほぼ無い。

見た目だけはしっかり残る。

こういう時はアナログが一番信用できるのだ。

 

実際、この迷宮は通路構造が妙に似通っていた。

同じ石壁、同じ曲がり角、同じような幅の通路。

目印が無ければ普通に迷う。

洪水・水没のトラップで墨が流されたら終わりだが、まだ第一階層なのであって落とし穴と武器が落ちてきたりする程度であるためその心配はいらない。

 

 

「なーにも、敵すらいないですね‥‥‥ん?」

 

 

ふと、それなりに広い空間に入った時に謙信が違和感に気が付いた。

足が止まる。

 

 

「何か見つけたのか」

 

「ええ。死体です、それも比較的新しい」

 

 

見つけたのは鼻の奥にまとわりつくような、生臭い鉄の匂いという血の匂いが溢れかえる新しめの死体。

それと周囲に溶け込んでいた血痕の数々。

 

 

「おおよその死亡推定時刻は今から4時間30分前。身分証の類は‥‥‥あった。Ⅱ世」

 

『どうした?』

 

「「〇〇〇・〇〇〇〇」という人物の死体が見つかった。身元の確認をしてほしい」

 

『少し待ってくれ‥‥‥ああ、リストに上がっていた長子(カウント)の1人だ。仕事の都合で一度顔を見たことがあったが‥‥。死因は?』

 

「数カ所の噛み傷による失血死。遺体の損傷が激しいから確定とは言わないけど、恐らく魔獣にやられたか」

 

『‥‥‥。』

 

 

トランシーバー越しにⅡ世が押し黙る。

まあ、当然だろう。

護衛役として派遣された長子(カウント)級の魔術師が、第一階層で無残な死体になって転がっている。

しかも戦闘の痕跡を見る限り、一方的に蹂躙された可能性が高い。

 

広間の空気にはまだ血の臭いが残っていた。

鉄臭さと腐臭が混ざり合い、鼻の奥へまとわりつく。

持ってきていた懐中電灯で暗がりを照らすと、壁面にはスプレー塗料でも吹き付けたかのような濃い血痕が飛び散っていた。

 

しかも一箇所だけじゃない。

床にも、壁にも、岩塩柱にも、赤黒い染みが点々と残されている。

大方他の遺体もあったが全て合成獣に食われたか。

 

死体として残っていたこの男は、運が良かったのか悪かったのか。

食い残しにされたおかげで、最低限の身元確認だけはできた。

かなり惨たらしい死に方だろうが、同情する気はない。

勝手に探索者に着いて行ってくたばったんだ。自己責任としか言いようがない。

それに関しては無言ではあるがトランシーバー越しのⅡ世も同意見だそうだ。

にしてもエネミーが居な━━

 

 

「Brrrrrrrr‥‥‥!!」

 

「何ですか、あのペガサス擬き」

 

「ケルピーか合成獣の一種、だけど野生化したのがイギリス北部に生息してたりする」

 

 

耳障りな咆哮が迷宮内へ響き渡った。

現れたのは合成獣の一種のケルピーの群れ。

確か馬に鳥類と魚類の要素を組み合わせて創った生物だったか。

攻撃特徴は‥‥‥何だっけか、魔術系の生物関連には詳しくないんだよ、俺は。

動物科(キメラ)なら分かるんだろうが。

 

 

「マスター、下がっておいてください。ではやりましょうか、北斎殿」

 

「応よ。さぁ、仕事ダ!」

 

 

まぁこういう時は━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「掃討終わりました」

 

 

サ-ヴァントに任すに限る。

通路の先で最後のケルピーが断末魔じみた鳴き声を上げ、黒い塵となって霧散していく。

石畳の上には墨をぶち撒けたような魔力の残滓だけが残り、戦闘の痕跡を辛うじて伝えていた。

こいつら一応エクストラクラスなんでそこそこ強いから戦闘も一方的なんだよね、これが。

「ほら簡単でしょう?」みたいなノリで合成獣が処理されていく。

 

俺?

俺は‥‥‥暗示と潜伏、防御、目つぶし程度の呪術(ガンド)しかできないサポート系の魔術師だから前線に立てない。

獅子劫さんみたくガッチガチの戦闘者でもないしね。

一応護身用でナガンM1895(ナガンリボルバー)*1持ってきてるけど対人用の銃弾しか持ってきてないので役に立たない。

今も腰のホルスターに収まっているが、どう考えてもサーヴァント戦や魔獣相手に使う代物ではない。

いや、牽制ぐらいにはなるかもしれないけど。牽制程度には使えるか。

今度獅子劫さんから魔弾の作り方を教えてもらおうかな。

 

 

QP(クォンタムピース)、ドロップしました?」

 

「全く落とさねェ。天命の聖水みてぇな素材は落ちるんだがなぁ‥‥‥」

 

「QP?」

 

「量子の欠片、だったはずです。カルデア(・・・・)だと私たちの能力の強化やら概念礼装の強化に使える素材ですね。よくマスター(立香)がさっきの孔明擬きやマーリンを連れて周回してましたね」

 

「ああ、懐かしいなァ。宝物庫だの扉だの、延々と回ってたっけか」

 

「なる、ほど‥‥‥?」

 

 

こいつらも過去の聖杯戦争(?)の記憶を持っているようなのだが、カルデア(・・・・)って何ぞや?

立香っていうのは藤丸立香で、確かソシャゲの方のfate主人公だったはずだ。

やったことの功績によって、1代で典位(プライド)になったらしい(・・・)から逸般人の類何だろう、多分、きっと、メイビー。

『立香』または『藤丸』という名前の魔術師は調べても出てこなかったことを聞いて(沖田)オルタ含めたこいつらがしょぼんとしてたのを見るにかなり慕われていた(お人好しだった)のだろう。

 

カルデアって魔境だったりするのかな。

聞けば数百体のサーヴァントと契約していて、全員に完璧なコミュニケーションをできているとか。

そこまでコミュニケーション能力が高ければ是非ご教授していただきたいものだ。

 

てか、Ⅱ世疑似サーヴァント化してたっぽいし、聖杯戦争で絶対呼び出せない英霊トップ10に入るマーリンが召喚されてるとかどんなことをしたのか。

 

 

さて、丸一日かけてようやく第二階層への入り口を見つけた。

迷宮というだけあって道は入り組み、時折空間そのものが歪んでいるような感覚すらあった。

 

そして、いとも容易く次の第三階層への入り口を発見した。

 

 

「‥‥‥逆に怖いな」

 

「ここまでスムーズだと罠を疑いますね」

 

「絶対後でデカいの来るヤツだろコレ」

 

 

出てくる敵もほとんど弱ってるか、3、4匹で群れを成す低級モンスター程度。

警戒すべきは即死トラップだけなのだが、何か思ってたんと違う。

爽快バトル! ミステリアスな探索&謎解き! ではなく、めちゃ地味な掃討戦だけ。ああ、死体鑑賞も一応入るか。

わざわざ迷宮探索用にガチの装備を持ってきてたけど、今の所使ってるのは洞窟探索用の懐中電灯に簡易型のキャンプセットだけ。

食料はエナジーバーとか保存に優れたものを10日分コンビニで買っていたが、食用として使える岩塩がそこらじゅうに生成されているから塩の味付けが美味いものを持って来るべきだったか。

合成獣系の肉も美味いんだけど食中毒起こしそうな有害物質を含んでそうなのがねぇ‥‥‥。

 

お栄ちゃんは「焼けばイケる!」とか言ってたけど、サーヴァント基準の「イケる」は信用してはいけない。

ついでに謙信ちゃんが山菜と称して自生していた食用ではなさそうなキノコを持ってきたりもした。

仕方なく魔獣の肉とかキノコは調理して2騎に食わせた。

ある程度の毒なら食べてもエーテル体が弾いてくれるから効果が出ないんだとか。

 

 

 

ちなみに次の日。

第三階層を攻略していたのだが‥‥‥

 

 

 

 

 

 

「温泉だな」

 

「温泉ですね」

 

「なぜに温泉?」

 

 

広い空間に出たと思えばこれを見つけた。

温かく透き通るような水から湯気がモクモクと浮かび上がってる泉。

 

しかもただの湯溜まりではない。

石造りの縁に囲まれ、湯船として成立している。

壁面には古代ローマ風の装飾まで施されており、湯気の向こう側では淡く青白い鉱石がランプ代わりに発光していた。

 

日本人であれば一度は温泉に入ったことがあるものだろう。

連れている二騎だって生前地元の温泉に入ったことがある。

しかし、建築様式は西洋風のテルマエのようなカタチだが‥‥‥。

 

一般的な日本人の感性からしたら温泉があったら温泉に入りたいと思うのが普通だろうが━━

 

 

「いや、どう見てもあれ罠じゃないですか」

 

 

軍神が真顔で指を指しながら呟く。

こんな不自然な箇所に温泉があったら誰でもまず先に罠を疑うだろう。

いや、ここまで来ると思考能力が低下するから意外と気が付かないのか。

仕掛けるとしたら強酸風呂か、ピラニアよろしく水底に肉食魚が棲んでいるか。

あるいは浸かった瞬間に底が抜けてマグマダイブとか。*2

 

 

「こういう時はpH検査機(メーター)で計測を‥‥‥えっと結果が‥‥‥8.74、ってアルカリ性のただの美容にいい温泉じゃねーか‥‥‥これトラップじゃないの!?」

 

「マスター、この温泉にはなーんも棲んでねェ。こりゃ自然にできた本物だな‥‥‥」

 

「‥‥‥マジ?」

 

 

まさかのトラップじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

‥‥‥なんでさ。

 

 

 

なお、この後せっかくなので温泉に浸かろうということになったものの、区切りがあるとしても性別的な事情と、ゆったりしている最中にこの階層のエネミーが襲撃してくる可能性を考慮して足湯だけにすることになった。

意外にもいい湯だった。

途中にあった珍事(冒頭の一件)には目を瞑ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで半日ほど迷宮を進み続けた結果、俺たちは第四階層へと辿り着いていた。

第三階層までは、まだ獣の咆哮や何かを引き裂くような不穏な音が遠くから聞こえていたのだが、だからと言って「何だろう?」と興味本位で向かうほど命知らずではない。

ホラー映画で真っ先に死ぬモブみたいな真似をする気はさらさらないので、危険そうな音源は徹底的に迂回し、地道に別ルートを探した結果、運良く次の階段を発見できたのである。

 

ちなみにその階層にサーヴァントの反応があったらしく数は4騎でその内の1騎が大英雄レベルの可能性が高いとか。

合流することも考えてはいたのだが、凡その位置が遠すぎて出会う前に迷うな、うん。

 

正直なところこの迷宮は第四階層以上あると思う。

理由はいくつかあるが、最大の理由はここまで出現したエネミーの“数”だ。

 

弱い、とは言わない。

合成獣や魔獣の類は普通に危険だし、一般人ならまず生還できない。

ただ、数が少なすぎる。

これが「サーヴァント同士を戦わせるための調整」だと言われれば納得もできるが、それでも違和感が残る。

今まで遭遇したエネミーたちを、本来あるべき数と質で配置した場合━━恐らく、サーヴァント抜きでも時計塔側は攻略可能だ。

 

もちろん被害は出る。

だが魔術師を大量投入して人海戦術を行えば、第四階層程度まではどうにでもなる。

罠も同様だ。

即死性はあるし、悪意も感じる。

だが、どれも対処可能な範囲に収まっている。

そこまで理不尽ではないのだ。

 

ならば━━この迷宮の本番はもっと下にある。

 

第四階層は恐らく中継地点。

あるいは“偽りの終点”。

ここで財宝や礼装、高価な神秘を配置して、「ここまで来た褒美としてこれを持って帰れ」とでも言いたげに探索者を満足させるのだろう。

その先へ進む道は、一部の狂人だけに開かれている。

 

そんな気がした。

まぁ、完全に俺の憶測なんだけど。

そもそも第四階層以降へ到達した記録そのものが存在していない。

その生還者がいない以上、真実を知る者もいないのだ。

 

そして、その第四階層。

第四階層は今までの石レンガ造りの人工的な道とはまるで違い、結晶のある天然の洞窟を"模して"いた。

「模していた」というのはある程度獣道のように道が出来上がっていて所々にスクラップのようなものが散っているからだ。

つまりこの空間は、天然洞窟を“模して作られた”人工空間なのだろう。

 

そんなことを考えていると━━

 

 

『いた』 『いた』 『いたいた』

 

『にんげん』『ひとだ』

 

『ちがうのもいる』

 

『なにあれ』『さあ?』

 

 

どこからともなく幼い少女のような声が響いた。

気付けば、淡く燐光を放つ小さな影が周囲を飛び回っている。

妖精だ、

 

それも西洋伝承に出てくるような、羽の生えた小柄な存在。

見た目だけなら愛らしい。

だが、そんなものをこの迷宮で信用できるわけがない。

 

しかしながら、ピクシー風の彼女らは、興味津々といった様子でこちらへ近寄ってくる。

くすくす笑いながら、無邪気に、無防備に。

そして俺はどういう表情をしているのか分からない状態で無意識に手を差し出して━━

 

 

「ってアブねぇ!! 魅了解除(チャーム・レジスト)ッ!」

 

反射的に魔術を発動した。

一工程(シングルアクション)の防御魔術の変化業であるデバフを解除する魔術だ。

ガチで危なかった、冷や汗が噴き出すレベルで。

 

なるほど、こいつら食人妖精の上位種か。

ある程度魔術回路を起動して警戒していたのに、あっさり魅了された。

普通の魅了ではない。精神へ直接侵食するタイプだ。

この階層だと精神を削る方面にシフトしてくるのか。

 

 

「そっちは魅了されてないな?」

 

「はい」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 

2騎は平然としていた。

念のためこいつらにマフラー型の魔術礼装を装備させておいて正解だった。

あれ一応魔術的な状態異常に対する耐性を得れるんだよね。元々サーヴァントとしての魔力抵抗も高いこいつらに追加耐性まで乗れば、食人妖精程度の魅了では通じなかった。

俺の分のマフラーはない。北斎が天草にキレた時に空に飛ばした結果紛失した。*3

マント型の方は呪物聖杯を隠すための布として使ってるから持って来れていない。

だが幸い、この食人妖精そのものはそこまで強くない。

持ってきていたサバイバルナイフでも普通に切れる程度だ。

 

また殲滅戦か━━と思った、その時。

 

 

「めしあがれ」

 

 

視線の先。

結晶の陰に、一人の少女が立っていた。

桃色がかった橙色の髪。

年齢は十代後半くらいか。

だが、その目には生気がなかった。

 

虚ろだ。

感情が抜け落ちている。

そして彼女は、両手を広げるようにして━━食人妖精たちへ身を差し出していた。

まるで、自分を餌として捧げるみたいに。

 

 

「あれ、生存者か!?」

 

 

普通じゃない。

どう見ても正気ではない。

食人妖精たちも、一斉に少女へ群がろうとしていた。

 

 

「お栄ちゃん、宝具使ってもいいからあそこに急行して!」

 

「お、応。分かった」

 

 

さすがに、目の前であんな若い子が食い殺されるのを見たら寝覚めが悪い。

というかあんな若い奴がここで死ぬのは惜しすぎる。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

少女、ノーマ・グッドフェローは食人妖精に捕食されかけていた。

ピクシーな容姿のかわいらしげな妖精が『だいじょうぶ?』と声をかけてきたとき、彼女は油断してしまった。

そこからは流れ作業かのように微笑みながら囁くようなジェスチャーに魅了されて、

 

 

「めしあがれ」

 

 

気が付いたらうっとりとした表情で両手を差し出して、存分に捕食してくれと自ら言ってしまった。

以前祖父の上客だった"芥ヒナコ"という他人と関わるのが嫌そうな眼鏡の女性から言われていた「物語の王な少女の姿をした妖精は、十中八九紛い物。大抵その辺の魔術師が作った使い魔だから認識すべきよ」、というのを思い出したが、思い出すのに遅すぎた。

合成獣特有の歪に歯をむき出して開いた口にかぎ爪のような腕と手をしたグロテスクな生物たちがこちらを獲物と認識したのか襲い掛かって来た。

 

 

「‥‥‥!」

 

 

声にならない。

何らかの魔術的効果によって縛られている状態なのか拒絶の意志を外へ飛び散らせる。

姿勢は相変わらず手を伸ばしている。

魔術世界において伝説とさえ言われる『迷宮』の最終層のある空間で、それ以前の階層を踏破しながらこんなあっさりと命を落とす莫迦がいるのかと自嘲してしまう。

身動きも出居ないままに、瞳の奥で恐怖を叫ぶ、「助けて」、と。

 

 

い た だ き ま す( Let’s eat)

 

 

無邪気に呟く紛い物の妖精が拙い英語が響く。

「いただきます」という言葉に対応する英語は存在しないというツッコミは控えるべきか。

肌を服事引き裂かれ、肉を抉られることを想像するノーマ。

唯一自由に動かせる瞼をぎゅっと閉じた。

せめて視覚的な情報だけは遮断しようという考えだろう。

 

ああ、自分はここで終わるのかという言葉を脳何浮かべたその時━━

 

 

「オン・ソチリシュタ・ソワカ、オン・マカシリエイ・ヂリベイ・ソワカ……」

 

 

急に謎の文言が迷宮に響いた。

何らかの魔術? いや、違う。

英語でも日本語でもなさそうな呪文?のような何か。

 

 

「万象を見通す玄帝、北辰より八荒擁護せし、尊星の王よ!」

 

 

同じ何者かから発せられたと思われる次の言葉は意味は不明だが言い方から推測すると日本語だ。

こんなイギリスの辺境の地で妖精が日本語をスラスラと離せるはずがない。

さすがに違和感を感じたノーマは瞼を開けた。

 

 

「渾身の一筆を納め奉る!いざいざご賢覧あれ! 『冨嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)』! 神奈川沖浪裏すさび!」

 

 

次の瞬間、ノーマが観たものは芸術(アート)だった。

大きな筆から描かれるのは自然をそのままに表現したかのような壮大な白波。

一振り一振りとその荒々しく、雄大な自然が描かれた様とそれを描く者の筆鋒には先ほどの紛い物の妖精とは違う神秘的な実態があるのか、身も心も衝き動かす。

よく見ると筆の振りと共に周りに居た食人妖精たちが描かれた波に吞まれていた。

 

気が付けば体が思うように動かせていた。

しかし、ノーマは動かなかった。芸術で人を衝き動かした彼女の姿に。

 

 

「これで‥‥‥どうよ!!」

 

 

ザバァ!という波の音と共に周囲を舞っていた食人妖精たちが綺麗さっぱりと無に帰していた。

それをやった彼女に視線を向ける。

日本の伝統的な「和服(ワフク)」という装いをして大筆を前に構えている。

横にはタコ?のような使い魔かと思われる生物が。

先ほどの力と迷宮探索とは思えないような服装。

 

 

「サーヴァント‥‥‥?」

 

「ああ、そうサ」

 

 

頷くように彼女は答えた。

英霊なのだ。

総勢4騎の英霊しか(・・)召喚されていないと、セイバーと他3騎がそう言っていたが何らかの要因で1騎追加されていても不思議はなかった。

亜種聖杯戦争は最大5騎が上限なので別に1騎増えたところで数は合う。

 

セイバー、アーチャー、アサシン、キャスター。

彼女のクラスは何だろうか。

大筆は槍ではないからランサーはありえない。

となると芸術家という括りでキャスターだと考えたがだとするとクラスが被ってしまっている。

一体何のクラスかと悩んでいると、それを見透かしたかのように彼女は言った。

 

 

降臨者(フォーリナー)。それがおれのクラスだ」

 

「フォー、リナー‥‥‥? そんなクラス聞いたことが‥‥‥」

 

 

 

 

「━━番外(エクストラクラス)

 

「!?」

 

 

その言葉にノーマは聞覚えがあった。

エクストラクラス、通常の7つのクラスに該当しない特殊なクラスの総称。

かつて冬木で行われた聖杯戦争においても、基本となる三騎士以外は例外召喚の可能性が存在するとされていた。

風の噂程度だがかつての第三次聖杯戦争ではアインツベルンがエクストラクラスを召喚したとか囁かれている。また度々亜種聖杯戦争でエクストラクラスで召喚されていることも聞いたことがある。

先ほどの宝具もキャスターにしては物理攻撃特化のように見えていたのでエクストラクラスという未知数な英霊ならば納得がいく。

 

 

「むぅ‥‥‥」

 

「?」

 

 

不意に、件のサーヴァントがノーマの顔をじっと覗き込んできた。

至近距離。

まるで品定めするように視線が動き、顎に手を当てて唸る。

 

 

「近場で見ると、お嬢ちゃん結構なもんを持ってる美人だな。偶にはこういう様式をした美人さんの絵を描くのもありか」

 

「え‥‥‥」

 

 

予想外の言葉に、ノーマの思考が止まった。

 

 

「い、いや‥‥私はそこまで、絵を描かれるほど美人では‥‥‥」

 

 

頬が熱くなる。

やはり英霊という者は一癖二癖ある者が普通なのだろうか。

自分のことを「美人」と言われて顔を赤らめて照れているためそういうことを気にする余裕はなかった。

 

 

「あ、そっちは終わりました、北斎殿? こっちは全て倒し終えました」

 

「軍神様か。こっちも終わってらぁ」

 

「もう一体、別のサーヴァント‥‥‥!?」

 

 

ノーマは目を見開いた。

今現れたのは、先ほどまで別方向で戦っていた存在。

 

黒を基調とした和風の鎧。

腰には刀。

その身から放たれる神秘は、先ほどのフォーリナーにも劣らない。

いや、むしろ神に近い。

空気そのものが震えているような圧迫感。

立っているだけで周囲の魔力が揺らぐ。

 

得物から察するにランサー系統。

だが、それだけではない。

あれは英雄というより、“信仰”の側にいる存在だ。

そう、神霊級。

 

ノーマは本能的にそう理解した。

だが、それ以上に彼女を混乱させたのは別の点だった。

亜種聖杯戦争で召喚される英霊の数には上限がある。

通常は五騎、多くても七騎程度。

 

にも関わらず、ここには既に二騎の英霊が存在している。

数が合わない。

もし彼女らがこの聖杯戦争の参加者なら、明らかに異常事態だ。

 

 

「そっちはどうだ、お栄ちゃん?」

 

その時、洞窟の陰から新たな声が響いた。

 

 

「ああ、マスター(・・・・)。とりあえず助けておいたぜ」

 

「オーケー。それと謙信ちゃんはさぁ、こんな場所で放生月毛乗って突撃するよりかは砲塔でブッパした方が魔力消費抑えれると思うぞ」

 

「あー‥‥‥前も言いましたが射撃というか飛び道具全般が私苦手ですので。ルーラー(・・・・)になってから多少改善されましたけどそれでも命中率は低いですし」

 

 

━━ルーラー

 

その単語を聞いた瞬間、ノーマの思考が完全に停止した。

ルーラー、聖杯戦争における監督役。

通常、聖杯戦争そのものに異常が発生した際にのみ召喚される特例中の特例。

まして亜種聖杯では召喚不可能とされているクラスだ。

なのに今、目の前の英霊は自分で「ルーラー」と名乗った。

 

ありえない。

何かがおかしい。

いや、そもそも━━

 

 

「よっ、大丈夫か?」

 

 

影の奥から一人の男が姿を現した。

軽い調子の声音。

場違いなくらい自然体な態度。

だがノーマの視線は、その左手に釘付けになった。

 

左手の甲に刻まれた、鮮紅の紋様、令呪だ。

間違いない。

 

聖杯戦争の参加者。

サーヴァントを従えるマスター。

 

そして━━

 

二騎ものエクストラクラスを従えている、明らかに異常な魔術師だった。

 

 

 

 

 

*1
東部戦線でナチス軍がソ連将校から鹵獲→ダーニックが大聖杯と共に奪取した軍需品に紛れ込む→相良が見つけてありがたく頂くという経路

*2
どこぞのマイクラ‥‥‥

*3
覚えてる人いる?




何かお気に入り登録者が減りましたけど、前話で述べたchatDGPを使用し始めたことのせいですかね? それともシンプルにラビリンスの需要がない?

いうて今回の話も中盤半ばと終盤の「番外~」以降の二場面ぐらいしかチャッピーを使ってないんですがねぇ‥‥‥。
それともキャラの誤った性格改変をしていたりする感じでしょうか?
前話でも一応補足したつもりですが、間違っている場合は指摘していただけると幸いです。



補足:転生相良君の一部のサーヴァントの呼び方について

上杉謙信→日常的には謙信ちゃんとちゃん付け、こういう戦闘時や真面目な時は呼び捨て(お栄ちゃんからは軍神様と言われている)

メタトロン・ジャンヌ→日常的にはメタンヌ、真面目な時はメタトロン呼び

沖田オルタ→基本的にオルタ呼び


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