「「・・・・・・はぁ」」
重なるように吐き出された二つのため息が、とある応接室の静寂へ重く沈んでいく。
場所は時計塔内部、エルメロイ教室へ貸与されている応接室の一角。
窓の外では曇天混じりのロンドンの空が広がっているが、部屋の空気はそれ以上にどんよりとしていた。
今彼らは数日前に起こったアルカトラスの第七迷宮に関する
「亜種聖杯の起動に伴って死の閉鎖空間と化した迷宮。結果として、魔窟はその口を再び開く運びとなった。前置きはこれで良いな」
インクペンを走らせながらロード・エルメロイⅡ世が確認する。
長時間の執筆で疲労が溜まっているのか、普段よりも僅かに声音が低い。
対する俺━━相良豹馬も、自分用の報告書に目を通しながら肩を回した。
「生存者は俺と迷宮に入らなかった魔術師を除いて1名。もう少し対策させるべきだったか」
「こればかりは仕方のないことだと割り切ろう。ところでだが亜種聖杯は
「
「ああ、それはそれで構わない」
そこまで言ってから、Ⅱ世はふと顔を上げた。
「それといい加減敬語口調で話すのはやめてくれ、それがお前の素なのだろうが、生徒と話しているようで慣れん」
素の性格と言うか前世の性格上自分を他者より一歩下がった立場に据えて会話をしてたから敬語口調なんだよね。
今みたいに語尾が柔らかいのも前世に引っ張られ過ぎた結果だし。
「迷宮に巣食っていたヴォルフガング・ファウストゥスの目的は霊基の再臨を応用して高次の存在になることと考えられる。ただし、それ以降の目的は不明。これで提出して他のロードが納得するかねぇ」
「いや十分だ。これでそれ以降の目的とその過程が『
「調査の方は?」
「現在迷宮はその周辺含め立ち入り禁止が出されている。お前が回収したヴォルフガング・ファウストゥスの肉片は
言い忘れていたが、あの吸血鬼を倒した後は持ってきていたタッパーに散った肉片の一部を回収して渡した。
その後は『EXIT』と遊び心満載の立て看板の横にあった出口から脱出した。
それと分かったことだが、立て看板のある場所辺りに少しだけ風を感じたからあそこがさらに迷宮の深淵に潜るための入り口なのだろう。
ただもう二度とあんな死亡リスクのある迷宮には行きたくないのだが。
「ノーマの方は?」
「ノーマ嬢なら情報を口外させないためにも
「そうか」
ノーマの方はしばらくは
というのも今回経験したことや持って帰って来た礼装がかなりの代物なのもあって囲っておかなければ色々大変なことになると判断したからだ。
具体的な内容は伏せるが、神代級の厄ネタに片足を突っ込んでいる。
放置すれば間違いなく他派閥が嗅ぎ付ける。
だからこそⅡ世は先んじて保護した。
まぁ、あの子は若干人見知り気味だが、時間が経てば馴染むだろう。
特に同じ空気感を持つグレイとは相性が良さそうだ。
「そして、セイバーとして召喚されたのはアーサー・ペンドラゴンもといアルトリア・ペンドラゴン。そうなのだな?」
「ああ。俺自身は姿を見ていないが、ノーマの証言からイギリスの第二次亜種聖杯戦争で召喚された彼女その人」
「ただでさえアーサー王という人物を召喚する触媒は高騰している。しかし、
Ⅱ世はペン先を止める。
「となると強い縁による召喚だと考えられる。お前の証言から胸に令呪があった魔術師またはパラケルススが召喚された亜種聖杯戦争の関係者を洗い出したが」
「該当者なし、しかし名前で調べたら一発で見つけることが出来た」
「ああ。一番の疑問となっているのはやはりその彼女だな、ノーマ嬢に憑依したという━━」
「沙条愛歌」
思い出すのはミノタウロスもといヴォルフガング・ファウストゥスを討伐した後。
~~~
あの異様な少女は、まるで全てを見透かしたような目で俺を見ていた。
『あら? ‥‥‥ふふ、そういうことね。輪廻の枠から外れた魂、生きることの執着した魂。不自然なく本来当てはまるはずもない肉体に溶け込んでいるけど』
『!? 後者は兎も角、なぜ俺の中身を‥‥‥』
『ああ、ごめんなさい。もう
『‥‥‥。』
『ずっと何もかも識っていると思っていたけど、こうも面白いものを新しく発見するのもありね』
『何もかも識って‥‥‥お前まさか‥‥‥!! 「ばいばい」 おい、待て!! ったく、何でこうも厄ネタ続きなんだ‥‥‥』
~~~
『沙条 愛歌』という名前を調べた結果、やはり彼女は存在していた。
東京に拠点を置く沙条家という
資料上では“天才”。
いや、そんな生易しい言葉では足りないな、本気になれば
こちらで出されている資料にはそれ以外の個人情報がほとんど記載されている。
というのも、この沙条愛歌の妹である沙条綾香が何とⅡ世の生徒だったのである。
姉妹間の仲はあまりよろしくはないようだが、それでも身近で知っている情報をたくさん持っているということでⅡ世経由で情報を開示してもらった。
彼女曰く、
『お姉ちゃんは年がら年中引きこもりで「理想の王子様はいないなー」なんてよく虚空に呟いていて。でもなぜか博識で魔術のほとんどを習得してるからある意味凄いけど』
とのこと。
普通ならただの変人だ。
だが、あの女の場合は違う。
まるで先を見ているような台詞とその異才な魔術。
これと今回の件から推測するに彼女は恐らく‥‥‥
「
「間違いなく。そうでなければあの異能が如き力の一端と謙信ちゃんの「人の枠組みを逸脱している。アレはいつか人理の破壊を行いかねない」とガチトーンで言わしめていた根拠が存在しない」
「
「俺的には情報を改ざんして隠蔽一択ですね。バレるのも時間の問題かもですが、在学中の綾香ちゃんが姉の事情で危害が加わるのは何としても避けたいですし」
「そうだな。
さすがにここ二人で結論付けてはいけない事案なので当分はこの情報は口外せず、時計塔内部に発信するにしても数十年後か。
唯一の懸念点は沙条愛歌が何らかの要因で人理を破壊する行動に出ることだが、綾香ちゃんから聞かされた様子だと覚醒するケースは極めて低いか。
恐らくはこの世界の沙条愛歌も『根源』に到達している。
これを魔術教会にバラすとどうなるか?
絶対に碌な事にはならないだろう。
そして、これはⅡ世には伝えていないことだが、あの沙条愛歌は恐らくペルセウスが参加した聖杯戦争の世界にいた、または近しい世界の人物の可能性が高い。
というのも聖杯戦争の記憶でその世界ではセイバーのマスターだった沙条綾香と良好な関係をだった時に彼女から聞いた話よると聖杯戦争に参加して死亡したと言われているらしい。
「いや絶対死んでないだろ」なんて思ってたけど、あれか根源に接続してるから死亡偽装してリアル眠り姫でもやろうとしてた感じか。
「理想の王子様がどうだかこうだか~」とか言ってるらしいし、物語の王様、それこそ皆が知っているアーサー王をずっと待っていたのか。
ただなぁ‥‥‥あれは純粋無垢ではなく既に歪みきってる。
内面と外面を知ってない一心理学に心得があった程度の俺だがこれだけは分かる。あの少女は全知全能の力に酔狂している
年相応の好奇心を歪んだ方向へと発展させた
この世界の少女も同じかは知らないが下手に刺激させるのは控えるべきか。
最悪の場合はメタンヌに土下座で頼むか。
いくら全知全能だとしても本物の神霊、しかも抑止からバックアップが受けれる
今更ながらfate世界の恐ろしさを痛感した気がする。
本当にヤバい奴らは世界に干渉したり常識を一気に覆す厄ネタになりかねない。
世界を救済しようとした天草四郎然り、理想の王子様のためならすべてを壊しかねない沙条愛歌然り。
次は‥‥‥何だ? 英雄王あたりでも来るのかね(フラグ)
そんな感じに明らかにヤバい厄ネタの処遇をどうするかで相良は胃痛を発症しかけたが、それとは別でありがたい誤算があった。
それは‥‥‥
「ほい。というワケで本人確認書類一式渡しとくから今日から5丁目の店のバイト頼むよ、
「あいよ。というかこうなることを想定して用意していたのか? だとしたらすげー手際が良いと言うか」
「いいや全く。あれは予想外だったというか‥‥‥」
「せっかくあの嬢ちゃんにカッコつけて消えたと思ったら、数分してあのルーラーの嬢ちゃんに捕まえられるとは思いもしなかったな」
書類を手渡ししたのは亜種聖杯戦争で召喚されていた緑衣のアーチャー。
なぜ彼が此処に居るかと言うと、前話の魔力パスだった。
あの時相良は3騎に自分の魔力パスを回していたのだがこの時の相良の魔力は魔力効率変換器のおかげでフォーリナーとルーラーに1割、残り9割近くを3騎に割り当てていたので3騎とも急激に回復していたのである。
そして、ヴォルフガング・ファウストゥスを討伐した際に亜種聖杯も破壊されたことでキャスターとアサシンは数時間後に退去したのだが、このアーチャーは退去できていなかった。
それはなぜか?
→単独行動(A)というスキルを知っているなら分かるだろう。
これによって仕方ないのでノーマの前で格好よく姿を消してそこから数日後に魔力切れで退去しようと踏んでいたアーチャー。
しかし、それに気が付いた相良は脳内に良い考えが思いついてしまった。
「そうだ、こいつも働かせよう」、と。
あの顔は間違いなくデキるタイプの仕事人の顔のそれだ。
今の財政難の状況で働き手は欲しい。
アサシンの彼もデキるタイプの仕事人のオーラをしていたのだが、もう既に退去してしまっているので仕方がない。
ということで相良は謙信に命令して姿を消したアーチャーをすぐさま発見してもらい、お栄ちゃんの持つ「働き手募集!」と書かれたスケッチブックのページを見て察したのか、「あぁ分かった、分かった。ちょっくら現世を満喫したいなぁ!」って言てくれたことで、呪物聖杯の方から魔力を送り、契約成立となった。
なんだかんだ言って無視して消えれば良かったのに、空気を呼んで契約してくれた辺りやはり仕事がデキそうな人材である。
「ところでだが、マスター。オレの真名は分かってるよな? まぁルーラー経由で聞いてるだろうが」
「分かってるよ。というか別にルーラーなしでも服装と得物で分かる、イメージ通りだし━━ロビンフッド」
ロビンフッド
イギリス・シャーウッドの森へと潜んだと言われる弓使いの義賊であり、国民達に重税を強いる圧政者であった(最近知名度が高くなってそうな)イングランド王・ジョン欠地王に抵抗した反逆者。
ただし彼の…ロビンフッドという英霊の場合は特殊なケースで成り立っており、サーヴァントとして召喚されるロビンフッドは必ず本人ではなく、その概念を持つ誰か、つまりある種の無銘の英霊となる。
これは後に判明するジャック・ザ・リッパーがクラスによって召喚される存在が違うことなどと共通する要素だ。
一応彼の経歴を聞く感じだとロビンフッドと言ってもいいだろう。
能力の方は特出した感じはないが全てのステータスがバランスよく取られており、遊撃を基本とした遠距離特化の戦い方で毒や爆発物の扱いからトラップの作製と持てる手札が多く、場合によっては宝具でアサシンクラスのような戦闘スタイルも取れる。
彼を知ったのは某仮面ライダー作品とネコとネズミのドタバタコメディの長編モノからだが、一番有名なのはディ〇ニー作品だろう。
登場する作品のほぼ全てで衣装が緑なのでほとんどの人にはすぐに分かる。
逆を言えばそれほど知名度補正の恩恵を受けれることとイコールの関係だったりする。
ただまぁここしばらくは働いてもらうので戦闘スキルではなく家事系のスキルが追加されそうだが‥‥‥。
そういや最初にバイトをしているメタンヌとペルセウスを見た時に凄い顔をしていたがどうしたのだろうか?
今回のまとめ:
沙条愛歌
Ⅱ世もそうだが転生相良君もガチの根源に接続した奴ということで胃痛に襲われた。
さすがに厄ネタすぎたのでしばらく隠蔽することになった。
なお、愛歌は転生相良君の中身は全て見なかった模様。見たら自分のやろうとしたことが否定される(全知全能でもフィクションで既に定められた世界だから物語の人物である自分が何をやってもそれが自分の意志でやっていない&無駄)から見なくて正解である。
ロビンが仲間になった!
転生相良君からすると仕事がデキそうに見えたため契約を迫った末に契約した感じです。
ちなみに、最後から分かるように自分でも知ってるペルセウスとかいう大英雄やメタトロンとかいう高位神霊が働かされている姿を見て困惑気味だったりする。
さすがにEXTRAの記憶は持っていないが‥‥‥。
余談ですが、ヴォルフガング戦の時に9割のパスを3騎に回してたせいで普通に転生相良君が死にかけてたりします。