男、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアは悩んでいた。
彼が当主を務めているムジーク家は元々歴史の古い一流の家系であった。
そも他の有象無象の家と同様に扱われることがあり得ないとされてきた。
しかし今では没落しており、魔術師としての立場は弱くなっていた。
そのムジーク家に接触してきたのがダーニックだ。
彼はムジーク家を吸収し潤沢な資金源を与え様々な技術を進化させるように促し、見事成功させた。
ゴルドの才覚は凄まじい。
聖杯戦争の情報流出後、外に門戸を開き始めていたアインツベルン家からホムンクルスの製造技術の提供を受けることに成功させたと思えば、すぐにそれを量産化することに成功させた。
そして、此度の聖杯戦争において魔力の経路の分割を操作することに実現するという反則級のシステム干渉にも成功した。
その実態はサーヴァントの膨大な魔力消費を魔力を生み出すことに特化したホムンクルスから供給するという倫理的には危ういものではあるのだが、まぁ魔術師は大抵そういうことに手を染めることはよくあるので仕方のないことだと割り切っている。
そのような功績でユグドミレニアのマスターとして聖杯戦争へ参加することとなったゴルド。
当初は最優のセイバーのマスターとして前線で活躍するなんていう夢のようなことができるのだと期待していた節があった。
わざわざ触媒として用意したのはかの英雄ジークフリートが邪竜の血を浴びた時に彼の背中に付着していたとされる『血染めの菩提樹の葉』。
この上ない聖遺物を用いてジークフリートを召喚しようと思った矢先、ゴルドは考えた。
「待て、そもそも私がジークフリートを召喚できたとして、完璧に扱いきれないのではないだろうか?」
確かに自身は魔術師としては上澄みで数々の功績もある。
しかし、もし召喚に成功できたとしてその後はどうだろうか?
逸話的にも間違いなくトップクラスのセイバーたりえる存在のジークフリートだが、その分弱点は分かりやすい。
彼の背中、この触媒となった葉が付着していた箇所。そこだけ攻撃が効く。
もし相手方に真名がバレて背中を集中して攻撃してきた場合、セイバーは令呪を使わない限り負けてしまうだろう。
というよりも恐らくその攻撃が通る箇所はこの葉型がくっきりと浮かび上がってるに違いない。相手が素人でもそこが急所だと理解することは容易いだろう。
アサシンによって背後を取られる、アーチャーが精密な狙撃で撃ち抜く、このようなことがありえるのが聖杯戦争だ。
尊大で小心者、尚且つ自己顕示欲が強い性格であるゴルドではあるが、彼は同じ参加者の一人から聖杯戦争の知識と実際に行われた亜種聖杯戦争の映像の一部を見ている。
だからなのか、ゴルドは今回の聖杯戦争という戦いには消極的で、自分がマスターとして十分に動くことができないのではないか、などと思いを悩ませていた。
最近になってそういう自分の良くない態度を見直すことが増えて、自分と同じ状況になりかけていた息子に教育をしているゴルド。
本来であればその性格故、早々に脱落するゴルドであったが、この悩みをさらに大きくした一件があった。
同じユグドミレニアに属しているマスターだったセレニケが殺された。
ダーニック曰く、「下手人はかの魔術師殺し」と語られた。
元々セレニケは難のある性格だったが、ここでそのツケがやって来るとは。
「いやそれどころではないな‥‥‥」
まだ聖杯戦争でもなんでもないタイミングで魔術師としては上澄みの技量だったセレニケが簡単に殺された。
ゴルドは思う、「間違いなく聖杯戦争はこれよりも人が大勢死ぬレベルの高い戦いになる」と。
最初はいい気分でノリノリで参加しようとしていたが、セレニケの暗殺で恐怖を覚えたゴルドは聖杯戦争をそんな甘いものではないと結論付けた。
それとほぼ同時、ダーニックから電話が掛かって来た。
内容は本来の目的を今一度確認するものであった。
これによって、ゴルドは話半分で聞き流しかけていたダーニックから言われていたことを今更思い出してしまった。
彼の熱意の篭った決意と、魔術師としての覚悟を。
「ああ…違うな。私は‥‥本来の目的を忘れてしまっていたな」
だからこそ、ゴルドは決心した。
「せめて召喚するなら二流…いや、一流だとしても平均的*1なセイバーを召喚すべきだな。明確な弱点があるよりもシンプルなセイバーの方が扱いやすいだろう。それこそアサシンやアーチャーに警戒を高める必要性も低くなる」
すぐさまゴルドは自分の家の中にある触媒となりそうなものを探した。
『血染めの菩提樹の葉』は元の収納されていた場所に戻して。
「円卓の欠片」、「アルゴー号の残骸」、「古代バビロニア関連の品」、そんな兆単位のつく聖遺物はない。
あって億単位の聖遺物である。
そうして探すこと12分、ついにゴルドはセイバーを召喚しうる触媒を探し出した。
「これだ!この聖遺物なら間違いなく私の考えているセイバーを引き当てられるぞ‥‥‥!」
見つけた聖遺物を中型のジュラルミンケースに入れてそれを持ち出した。
家の正面玄関で使用人に車を出してもらう。
「唯一の懸念があるとすれば、召喚に応じるかが不明な点だが、触媒による召喚だから問題ないだろう」
そんなことを考えながらゴルドはトゥリファスの城塞へと向かっていった。
少年、ロシェ・フレイン・ユグドミレニアも悩んでいた。
若冠13才ながらゴーレムの作成に長けた天才児である彼の生家であるフレイン家は人形工学において名の知れた一族で、生まれた子供の養育をゴーレムに任せ、刻印の移植が可能になるまで工房からほとんど出る事もなく、一度も顔を合わせることさえしないという魔術師の中でも特に異色な教育方法をとっていた。
そんな奇矯な教育を受けた彼は父母の顔は覚えていないのに、自分を世話したゴーレムは形状の一つも残さず記憶しており、人間に対してそこまで興味を持てない少年として成長した。
たとえそれが如何なる魔術師であろうと例外ではなく、彼にとっては一般人と大差は無い。
言葉を交わすのに不自由は無いし、他の魔術師と取引や貴重な材料を巡って殺し合いをすることもあったが、そこに人間同士の心の交歓は一切なく、犬猫が喋っているのと変わりはなかったと云う。
此度行われる聖杯戦争、彼もまたマスターとして参加する予定である。
こちらもまたゴルドと同じく当初はウキウキで準備を進めていた。
ロシェが召喚しようとしているのはキャスタークラスの魔術師、アヴィケブロンである。
中世ヨーロッパのルネッサンスの起点となった哲学者の1人である彼はカバラの術であるゴーレムの製作を得意とし、召喚されれば自分たちの陣営の戦力増強を見込めるだろう。
そしてアヴィケブロンが師匠、いや先生として自身のゴーレム作りの監修をしてもらえるというおまけ付きである。
敬愛するアヴィケブロンの触媒を用意することは簡単だった。
正直こんな簡単に入手してしまっていいのかと思ってしまった節もある。
いざ城塞へ聖杯戦争をしに行こう!というのが本来のロシェだろう。
しかし、ロシェには参加予定が聞かされてからずっと悩んでいることがあった。
「いや‥‥敬愛する先生が、僕を‥‥‥そんなことを‥‥ないはず‥‥‥」
それはロシェが聖杯戦争に参加することが内定した後ずっと見続けている悪夢である。
その夢の内容はロシェの召喚したキャスターのアヴィケブロンが最初は自分のことを理解してくれているかのように接してくれて、自身の作ったゴーレムの慣習や手ほどきを受けることが出来るというところまでは非常にいい夢だっただろう。
しかし、その夢が進んで行くにつれ自分たちの陣営が追い込まれかけて、アヴィケブロンが自分たちに勝機はないと見たのか裏切った。
そんなことをつゆ知らずのロシェはアヴィケブロンの甘い誘惑に誘われるかのように巨大なゴーレムの炉心に‥‥‥
「そんなはずない!!僕の敬愛する先生が、そんな、ことを…するわけ、が‥‥‥」
やはり何度自分に言い聞かせてもその夢でのアヴィケブロンの行動は妙に納得が行ってしまうのである。
彼は自分たちと同じ魔術師だ。
それも時には手段を選ばないという、典型的な。
もし、自分の敬愛する師が夢と同じようなことをしたら、とロシェは情緒が不安定になるほどに恐怖していた。
召喚しようとしていたアヴィケブロンはゴーレムを作れるというメリットがあるが、逆を言えばそれしかない。
聖杯戦争において英霊は近代以降の者は基本ステータスが低く、神代辺りの者ならステータスが比較的高いという性質がある。
かのアーサー王やギルガメッシュ、ヘラクレスなどそういう者たちが神代頃の者として極端な例だろう。
アヴィケブロンは近代の魔術師だ。
故にスペックとしては低く、後方でゴーレム作りをするか基礎的な魔術を行使するかしかできないだろう。
悪く言ってしまえば、サーヴァントという集合の中で強いか、弱いかと言ったら弱い方だろう。
間違いなく対サーヴァントにおいて戦闘面では期待できない。
先ほどの悪夢とアヴィケブロンというサーヴァントの中で見た時の強さという観点から、日々日々どうすればこの恐怖を解決できるのか悩み続けていたロシェはとうとう折れた。
「先生とは別のキャスターを呼びましょう。それも絶対に僕を裏切らないキャスターを」
ロシェは我慢した。
本当はアヴィケブロン先生を召喚したかったが、この恐怖が消えるのであればここは我慢しておこう。
後々ロシェは参加者の1人が召喚した別のクラスのサーヴァントがキャスターのように動ける者がいるということを聞いたので、対サーヴァントを考慮しない後方支援型か変化球型の自分の身の丈に合ったキャスターを召喚して、ユグドミレニアが勝利したその後聖杯に「アヴィケブロン先生を召喚してほしい」と願えば敬愛する先生も自分を炉心にしてくるような行動を取らないだろう。
となれば改めて召喚したいサーヴァントを見つけよう。
幸い同陣営の魔術師の人から第一次~第三次までの聖杯戦争と亜種聖杯戦争の記録を貰っていた。
神代や著名な魔女、モルガンやメディアは‥‥‥ダメだ、裏切る可能性が高い。というか触媒がない。
三国志系の軍師は先を行き過ぎて自分が理解に追いつけない可能性が大いにあるのでパス。
「それでいうならキルケーも危ないですし、このエジプトの亜種聖杯戦争に居たニトクリスは‥‥冥界に導かれそうなので絶対やめておきましょう」
そんな感じに探していると意外とすぐに見つけることが出来た。
見つけたキャスターはアヴィケブロン先生と同じ近代以降のキャスターで魔術師だが性格的に裏切ることはないだろうし、後方支援型としては強いタイプのサーヴァントだろう。
強い?というわけでもなくアヴィケブロン同等ぐらいであるが、強すぎるキャスターを呼んで自滅するよりかは自分の身の丈に合ったレベルのキャスターを呼んだ方が勝率は高い。
「となれば触媒は‥‥‥あ、そうだ!」
ロシェは電話を手に取った。
そしてある人物へ電話を掛けた。
「もしもし、相良さん。ロシェです」
『ああ、ロシェ君か、どうした?聖杯戦争関連か?』
「ええ、召喚しようと思ったキャスターの触媒が恐らくそちらにあるのでお借りしたくて電話をしました」
『キャスターの触媒‥‥‥あーもしかして〇〇〇のやつ?』
「はい、それです!」
『オーケー、じゃあ城塞の方で触媒は受け渡すわ。そんじゃあ準備しといて』
電話はそこで途切れた。
それからロシェはトゥリファスの城塞へと向かっていった。
何としても生き残るために‥‥‥
今回のまとめ:
新所長の父親「ジークフリートを召喚し‥‥‥いや、待て、自分が彼を完璧に扱うことができるだろうか? 無理だな。それと良肉から電話で今更目的を思い出した。召喚するセイバー変えよっと」
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炉心「何か寝てたら変な電波を受信した。敬愛する先生がそんなことをするはずは‥‥‥するか。魔術師だけど性格的に裏切らなさそうなキャスター選ぼ。触媒は、相良さんに頼めばいっか」
というワケでゴルドは性格がアポ終盤並みになってセイバーを変更。
ロシェ君は性格はそのままですが、どこかから電波を受信したためキャスターを変更することに‥‥‥
ここで語っておきますと、(今の所書く予定のない視点である)フォルヴェッジ姉弟は特に変化はありませんが‥‥‥
"黒"のセイバーのヒント:
・EXTRA系列またはEXTELLA系列に出演経験あり
・本文の内容からほぼ消去法で分かる
"黒"のキャスターのヒント:
・神代の魔女(例:メディア、キルケー)や伝承上の魔女(例:モルガン)ではない
・FGOで登場
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