「
「こちらこそ
柳洞寺にて俺はキャスター━━メディアに同盟を申し込んだ。
なぜメディアと同盟を申し込んだか。
それは単純で、こちらの持つ交渉材料と相手の利害を照らし合わせた結果、この陣営が最も合理的だったからだ。
「最初に同盟を組む手紙が来た時は少しばかり驚いたわ。まさか“手紙の裏”に私の真名と宝具まで律儀に書いてあるなんてね。参考までに聞くけど、どうやって私の正体を?」
「新都の方で見かけたスパルトイを使役している時点でギリシャの神代出身の著名な魔術師なのは割れて、後は町中に張り巡らされた特殊な使い魔、と遠くから見た姿。
「
小さく息を吐くメディア。
真名がバレたことについては少し迂闊すぎたこともあって以降手法を変えるべきだと悟る。
絶対に原作知識だけで特定したとは言えない。
まぁどの道使い魔がギリシャっぽい時点で絞り込まれていただろうけど。
「なら、宝具に関しては何なの?」
「んー‥‥‥説明しても良いんですけど、ちょっとこれは追々かなぁ‥‥‥」
「はぁ‥‥‥まぁいいわ。今は追及しないでおく」
宝具の詳細に関してはなぜ露見したかは不明なのでまだ警戒すべきか‥‥‥。
しかし、ここで踏み込みすぎるのはダメだ。
「ここまでで条件は対等ね。あなたは私の情報の大半を握っている。私はアサシンという一情報だけ。なら一度イーブンにしましょうか」
「というとアサシンの情報を?」
ローブを被りながらも分かりやすくメディアは頷いた。
「そういうことよ。隠されても困るしね」
「分かった。出てこいアサシン」
声をかけるとアサシンが霊体化を解いた。
見た目はどこぞのアスクレピオスのような蛇みたいだが、筋肉質な偉丈夫だ。
「真名を甲賀三郎。蛇魔を操る。宝具は
「日本のシノビっていう奴ね。アサシンはハサンで固定されていると聞かされていたけど‥‥‥嘘は言ってないようね。良いわ、まだどうやったのかは知らないけど、
(バレてたか)
さすがに彼女の魔術工房ともなると範囲内の霊体化しているサーヴァントの反応を探知するか。
別に霊体化を解かせても良かったが、まだ様子見だ。
「これで同盟のすり合わせをする条件は整ったと思いますが、どうでしょうか?」
「いいわ。同盟の話、続けて」
「ありがとうございます。ではこちらの提示条件ですが──まず、この聖杯戦争に参加する全サーヴァントの真名、宝具、そしてその情報の出所の開示を」
「‥‥‥続けなさい」
「もうこの際だから言いますけど、私の情報源は"ルーラー"からです」
「━━ッ」
わずかにメディアの目が見開かれる。
「そ、そう‥‥‥確かに状況的にルーラーが召喚されていてもおかしくはない。というかルーラーというクラス自体不明慮だったけれど、存在していたのね。でもマスターに情報提供する理由があるとは‥‥‥」
「そこは説明可能ですが、同盟成立後に限定します」
「‥‥‥なるほどね」
敬語口調で対応する俺。
ルーラーが召喚されてもおかしくはないと思っていたあたりこの聖杯戦争の異常性には気が付いているのか。
しかしまだ同盟をどこまで組むかどうかということに腕を組んで悩んでいそうなメディア。
彼女からすると聖杯戦争のサーヴァントの詳細な情報はキャスターという籠城せざるをえない特性上欲しいはずだ。
わざわざ普通のマスターなら知りえないルーラーと言ったおかげで情報の信憑性は高いと考えているはずだ。
情報戦において絶対的なアドバンテージを持てる上にキャスターさながらの召喚術を扱える半神のアサシン付きの破格の条件にメディアは悩む。
(こちらのペースを崩すための情報開示‥‥‥でも、合理性はある)
しかしながら、言いくるめかけられているのだ。
こちらの条件を言う前にルーラーという単語で動揺させて無理やり話を逸らすように自分のペースに持って行かれた。
なので同盟を持ち掛けた件といい未だ半信半疑である。
しかし、同盟は組むべきなのは一理あるためどこまで妥協するかという論点に切り替えよう。
━━というのをメディアは考えているだろう。
実際言いくるめる形で一方的に条件を提示しているんだし。
「サーヴァントの情報に加えてもう一つ。こちらからこれを提示しましょう」
だからこそ、この手札を切れば、
「
「━━━━!!」
メディアはすぐに何の毒もない誘惑に食いつくだろう。
「聖杯無しに受肉する方法、ですって!? いやそれ以前にどやって私の願いを知って‥‥‥!」
「あー‥‥‥(半分半分だったけどガチで受肉だったか‥‥‥)マスターの方と"仲よさそう"だったのでもしかしたらと」
「ッ~~~~~!!」
なお、この時相良は前世の知識で恐らくはメディアとマスターの葛木がただただlike的な意味合いで仲がいいと思っていたのでああいう表現をしたのだが、メディア視点から見ると"仲良さそう"がlove含めた別の意味も含んでいると思い違いをしている。
しかし、メディアは何とか気持ちを切り替える。
何のこれしきで赤面していてはいざ戦いで敵が作戦の一環で指摘してきたら、大やらかしを仕出かしてしまうではないか。
「‥‥‥本当に受肉ができるのね、今すぐに?」
「はい」
即答だった。
いや、よくよく考えれば受肉して聖杯戦争から降りれば戦かう必要性は皆無ではないか。
もしその情報が本当の話ならという前提が付くが。
「受肉したら聖杯戦争からは抜けさせてもらうけど、それでも?」
「別に構いませんけど、あーただ聖杯の浄化と魔術関連でお聞きしたいことがあるので戦争には降りても良いけどサポートはしてほしいというか‥‥‥」
なるほど、あちらが求める条件はそれか。
どこで聖杯が汚染されていることを知ったのかは分からないが、ルーラーにでも聞いたか。
恐らく今までの会話から聖杯を悪用するタイプの魔術師ではないのは間違いないので前者は良いとして、後者は妥協できる範囲だけしよう。
それと保険として、万が一にも‥‥‥
「‥‥‥こちらが記した
「ええ」
反応的にシロ。嘘は一切ついていない。
しかし念には念を込めて
「分かったわ。
「構いません」
空気がわずかに張り詰める。
「ただしあなたの要求の後者の一部は、私の裁量で判断させてもらうわ」
「了承しました。では、
数分後、メディアから
内容は難しく書かれているが、簡略化するとこうだ。
この契約は双方の合意があれば破棄できるものとする。
また聖杯戦争終了後にこの契約は解除されるとする。
メディア→相良豹馬への要求:
①聖杯を使わず今すぐできる受肉の方法の提示
② ①を履行及び契約破棄までの間及び破棄後30分は相良豹馬のサーヴァント及び相良豹馬と組んでいるサーヴァンはメディア及び葛木宗一郎に一切危害を加えられない
③相良豹馬が所有している今回の聖杯戦争に参加しているサーヴァントの情報開示
④聖杯を悪用しないこと
相良豹馬→メディアへの要求:
①聖杯を使用できるまで浄化する
②自身の魔術礼装と魔術刻印の調査
もしどちらかがこの契約に違反した場合は違反した側に呪詛による死が与えられる。
こんな感じでメディア側はかなり事細かに条件を書いてきた。
ご丁寧に俺と組んでいるという桜と契約しているサーヴァントも含めてきてる徹底っぶりだ。
対する俺は詳しくは書かずに大雑把に用件を二つだけ。
別にそれ以上何か求めるものがないので二つだ。
ちなみにこの時点でメディアは俺の人となりを理解できたらしく「魔術師向いてないわよ」と忠言を一言。
さすが迷宮探索でも俺の魔力パスのつなぎ方が特殊と見抜いただけある。
それぐらい自分でも分かっているので「そうなんですが、辞めるに辞めれなくなってしまって」*1と虚空を見るように呟くと「最近の魔術の世界も大変なのね」とこのご時世を嘆いた。
今後の社会は変わっていくからねぇ、ロシアの暴挙だのコロナだのデジタル社会だの。
「サイン完了。ということで早速受肉の手段を教えます」
「ええ、教えて頂戴」
「受肉する方法、それは‥‥‥令呪を2画以上使用して「受肉」を願うことです」
「呪詛が流れない、ってことは本当のようね。情報のソースはどこから?」
「彼からです。ライダー、霊体化を解いて」
俺の指示の下、ライダーことペルセウスが霊体化を解いた。
姿はいつも通り黒いマントを身に着けて仮面を被った姿だ。
「僕はある聖杯戦争で、マスターに令呪を3画使われて受肉したことがある。ただ、そのときは魔力供給が追いつかなくてね。結果として魂食いを必要とする不完全な受肉になった」
ペルセウスは淡々と続ける。
「それとは別の聖杯戦争では、キャスターのサーヴァントが令呪2画で完全な受肉を果たしていた。だから君ほどの魔術師なら、理屈の上では問題なく到達できるはずだよ」
「聖杯戦争の記憶を持ち越しているの?」
メディアは即座に問い返した。
声は冷静だが、そこに混じる緊張は隠しきれていない。
というのも目の前に居るのが姿はどうあれ大英雄だと一目見て理解したからだ。
「ちょっと特殊な仕組みでね」
ペルセウスは軽く肩をすくめる。
「それに、受肉して一生を終えたとしても、その経験は座に戻るときにちゃんと記録として残る。そういう意味ではかなり“便利な仕様”だと思うよ」
「まあ‥‥‥!」
メディアの声がわずかに弾む。
その表情には、抑えきれない喜色が浮かんでいた。
少なくとも今の説明に矛盾はない。むしろ、具体性がある分だけ現実味が強い。
そして何より『受肉後も経験が失われない』という一点は、メディアにとって決定的に重要だった。
これで受肉後に知識や経験が失われる可能性という懸念の一つが、確かに取り除かれた。
◇
「━━ということでなんやかんやありまして」
「受肉したわ。それと情報の山で━━疲れたわ」
「サガラ‥‥‥語るべき場は語るべきだと思うのだが」
「いや、途中でぐだぐだしてきてたじゃん。全体の説明だけで何時間かかってると思うねん」
「1時間15分、それと関西弁」
「測ってる余裕があるんだたら煉獄モードになって説明の手伝いをしてほしかったんだがな」
「むぅ‥‥‥」
机にぐだぁとするようにうつ伏せるメディア。
教えた情報は「ルーラー2騎(ほぼ神霊)」、「ペルセウス(大英雄)」、「エクストラクラス」、「俺らの正体(第二魔法的サムシング)」など。
情報過多で受肉したからなのか生成された胃が痛くなったとか。
途中で関西弁になってしまったが、『煉獄(モード)』というのは沖田オルタの持つ黒い日本刀の銘で何と喋る。
しかも場合によっては人格をオルタに憑依して戦うことも可能だったりする。
なお、俺が煉獄関連で一番驚いたのは
というか何気に召喚してるサーヴァントって
三郎さんとロビンの中の人の名前は思い出せないけど、多分ガンダム作品の主役務めてたっけかな? MS
イゴールは前世の親父が持ってたからよく見たなぁ‥‥‥。*3
この豪華面子+
まぁそれを言ったら聖杯大戦の敵の中の人も豪華声優陣だったし。
おっと話がそれてしまった。
かなり省略してしまったが、無事に受肉を果たしたメディア。
これによってもう既にメディアは勝ち逃げとなった。
ここで冬木という舞台から逃げることもできるが、そこはしっかりとした弁えの魔術師だからか約束を守り聖杯の浄化作業と俺の魔術関係の手伝いをしてくれることになった。
ここまで誠実な人物となると生前裏切ったイアソンのクズ度が一気に上昇してしまう。
「金髪でぇ、小柄でぇ、キリっとしてる‥‥‥羽が生えてるのがちょっとばかし残念だけど、これはこれでアリね」
「‥‥‥。」
「幼き
「 マ ス タ ー ? 」
浄化とは別件で依頼していた作業を終わらせてメディアが飛びついたのは
しかも服装がメディア趣味の白い純白のドレスを着せられた状態である。
最初こそはガチの高位の神霊ということで恐れ多くてどうしようかと思っていたが、姿を見ると何かが来たらしく着せ替え人形と化していた。
これには
しかし、
「これはこれで可愛いから良いと思うけど、葛木さんはどう思います?」
「うむ。これはこれで良いと思うが冠婚葬祭の服装よりかは
「なるほどアイドル系! 早速イメージしてみますね宗一郎様!」
「うぅ~~~///」
何だかんだ乙女チックな思考があるので褒め殺し的なことをすれば簡単に押し負けてくれる。
最近になってようやく接し方が慣れてきた。
隣で座っている葛木さんも感情がないように見えるが美しい・美しくないとかそういうものの一般的センスは持ち合わせているようだ。
同盟を組むマスター同士コミュニケーションは取るべきなのでメディアに許可を取って会話をしている。
この人暗殺者時代のクセなのか知らんが、足音を消すように歩くからそういう職をやってた人と気が付きやすいんだよね。
指摘したら「以後気を付けよう」の一言だけ。その後護身用にグロッグ*4を渡したけど。
ああ、ナガンリボルバーとは別物ね。量産されてる拳銃だと海外で数十万ほどで売ってるから。
ナガンリボルバーの銃弾とかドイツかロシアにしか売られてないせいで、いちいち取り寄せるのが面倒だから買ったけど。
日本にどうやって持って来たかと言うと、コツがあるとだけ。
「それで、要望通りペルセウスに魔術をかけておいたわ。もう一つは後3日で用意できるから」
「分かりました。では葛木さん打ち合わせ通りに頼みます」
「ああ」
翌日、穂群原学園にて。
遠坂凛は今日も授業を受けていた。
所々騒がしいクラスだが、彼女にとってはいつもの光景でしかない。
魔術師であることを隠し、猫を被りながら日常に溶け込む。
ここ最近に発生していた新都の昏睡事件はパッタりと止んだ。
聖杯戦争関係の事案だと考えており、召喚予定のセイバーと共に調査する段取りを構築していたが、3日前から突然止まっているのである。
聖堂教会が珍しく動いて処理したのだろうか。
「珍しくやるじゃない、綺礼」と内心では呟いているが、この後教会で「自分は動いていない」と聞かされ困惑する数時間前である。
これで残る異常は新都の吸血鬼と、一家惨殺事件の二件か。
さて、今日の1時間目は社会。
HR含めて担当は担任の葛木だ。
スピーカーからチャイムが鳴ると、間もなく教室の扉が開いた。
「起立」
「礼」
「着席」
いつも通りの、淡々としたHRが始まる。
違いがあったとすれば、最後の連絡事項だけだった。
「本日からしばらくの間、本校では二名の教育実習生が授業のサポートおよび代理授業を行うことになった。社会科に一名、数学科に一名だ。まず社会科の実習生がA組の世話になる。入ってくれ」
教室がわずかにざわつく。
時期としてはやや唐突だが、教育実習生自体は珍しくはない。少なくとも、普通の高校であれば。
(‥‥‥魔術師なら別だけど)
遠坂凛は心の中で警戒を一段だけ上げる。
ほどなくして扉が開き、ひとりの青年が教室に入ってきた。
年齢は学生と言われても違和感がないほど若く、どこか爽やかな印象を受ける男だった。
一瞬、間桐慎二を連想させるような軽薄さもあるが、すぐに別物だと切り離す。
「初めまして、福岡教育大学から来ました、━━伊勢三杏路です。しばらくの間よろしくね」
その黄緑色の瞳は穏やかに笑っているようでいて、どこか底の見えない深さを含んでいた。
魔術師らしき残滓は見受けられないが。
遠坂凛はそれを見て、まだ言語化できない小さな違和感だけを胸に残した。
問い:今回の話で原作の聖杯戦争の設定である矛盾(ありえない点)が出ています。一体何でしょうか? ただし、アサシン関係のことではないとする。
ヒント:メディアの台詞とメディア視点の語りで‥‥‥
余談ですが、今回の受肉に関してはprototypeの設定の独自解釈です。
令呪3画で受肉してたペルセウス(恐らく対魔力持ち)のケースを見るに多分対魔力を持たないサーヴァントであれば2画で受肉できそうなんですよね。