パーフェクトゲームを目指すには!   作:メタ(ル)

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年齢事情


相良「そういやお前らの全盛期の肉体(今の年齢)って大体どのくらいなんだ?」


オルタ、お栄ちゃん「10代後半」

アタランテ、ペルセウス「20代前半」

謙信ちゃん、ダンテ「20代後半」

サブちゃん、ロビン「30前後」

メタンヌ「天使なので年齢の概念は無いですが、依り代は20前後」

アサシン『覚えていない。多分30代前半』






Ⅶ 裁定

ついに始まったか。

━━『Fate/stay night』という物語が。

 

アサシンの視界越しとはいえ、あの有名な召喚の瞬間を実際に見届けられたことには、素直に高揚を覚えていた。

タイミングよくアサシンがあの場へ居合わせてくれたのは僥倖と言う他ない。

もし少しでもズレていれば、この瞬間を直接観測することはできなかっただろう。

 

その後は、本編通りランサーとセイバーが本格的に激突するものだと思っていた。

だが実際には、数度武器を打ち合わせた後、ランサーは宝具の真名解放を行うことなく突如として撤退したのである。

アサシン越しに見えたランサーの表情は、妙に渋かった。

何を思っていたのか?

 

丁度ランサーが撤退したタイミングでアサシンも悟られないうちにこちらへと戻ってきた。

あのセイバーの直感スキルはAなので完全に気配を消していたとしても勘で気づいて来るだろう。

 

 

「さてさて‥‥‥衛宮邸の音は拾えているか‥‥‥」

 

 

わざわざアサシンを向かわせた目的は、セイバー召喚の確認だけではない。

それがこの盗聴器である。

その辺のホームセンターに売られている安物だが、小さく収音性がやや高いため上手く隠しさえすれば気づかれないのだ。

仕掛けているのはわずか5個。

下手に多く仕掛けるとバレる可能性があるためである。

 

 

『強‥‥‥術‥‥‥ぐら‥‥しか‥‥‥』

 

『ま…半‥‥‥使う‥‥‥』

 

 

「んー‥‥‥ちょっとノイズ混じりだな‥‥‥」

 

 

ただこう言うと時の解決法はいたってシンプル。

待つことである。

 

 

『自分がどんな立場にあるか分かってないでしょ?』

 

『立場って?』

 

 

お、言ってたらようやく聞こえてきた。

都合のいい盗聴器なこった。

 

話を聞く限りだと、聖杯戦争についての大雑把な説明と魔術に関する説明だな。

にしてもだ。

士郎君の魔術に関する認識が終わってる。

魔術をあんな使い方したら神秘の秘匿の観点的にアウトだ。

というか、よく生きて行けたと思う。

 

あの魔術師殺しに言いたいこととしては、義理の息子に初歩的な魔術ぐらい学習させろや。

魔術の道へ行ってほしくなかったのかもしれないが、魔術の概念を教えた以上、最低限の知識まで放置するのは別問題だ。

パスのつなぎ方や魔術回路の回し方、最低限の安全管理ぐらいは教えとかないと命に関わるぞ。

魔術刻印はまだ分かる。うる覚えだがあれは負担がかかる魔術を行使できる刻印だったと思うからあれは士郎君に扱わせるべきじゃないので正解だ。

 

 

『さて、そろそろ行きましょうか』

 

『行くって、どこに?』

 

『この戦いを監督している奴の所よ』

 

 

そんな愚痴を言っていると盗聴器の向こう側で動きがあったようだ。

教会へ行く感じね。

念のために観察しておくべきだな。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

衛宮士郎は現在夜の街を遠坂凛とセイバーと共に歩いていた。

突如として襲われ、突如として様々な少女が現れるという現象が繰り返し起きて困惑していた士郎だったが、今こうして凛に連行されて教会へと向かっていた。

聖杯戦争という殺し合いが何なのかは分からないが碌ではないことは確かだろう。

 

 

(そう言えば、あのランサーとか言う奴‥‥‥)

 

 

士郎が思い出したのはつい数時間前の出来事である。

セイバーが召喚され、ランサーと交戦した直後。

あの槍兵は、奇妙な反応を見せていた。

 

 

 

~~~

 

 

 

「あー‥‥‥こりゃやっちまったか‥‥‥」

 

「?」

 

 

ふいにランナーからこんな言葉が漏れた。

先程まで殺気を放っていた男とは思えないほど、妙に困ったような声音だった。

 

 

「どうした、ランサー?」

 

 

セイバーが剣を構えたまま問いかける。

するとランサーは、頭を掻きながら面倒臭そうに息を吐いた。

 

 

「まず先に言っておく。坊主‥‥‥すまん」

 

「‥‥‥は?」

 

 

一刺しされた奴にいきなり謝罪されるとは、と。

あまりにも意味不明な展開に、流石の士郎も一瞬思考が停止する。

セイバーですら僅かに目を見開いていた。

 

 

「召喚すらしてない素人のマスターに対して本来なら説明義務ってもんがあるにも関わらず、説明もせずに一方的に殺そうとした。いやまぁイレギュラーのマスターなんだろうが‥‥‥ルール違反はルール違反だな」

 

 

何を言っているのか、士郎には半分も理解できなかった。

だが、セイバーは違う。

剣を構えたまま、その言葉の意味を正確に理解しているようだった。

 

 

「てなわけでセイバー。お前さんか他の良識な(・・・)マスターでもいいから最低限のルール説明をしてやってくれ。オレはこれ以上ルール違反を犯すのは嫌なんで帰らせてもらうぞ」

 

 

ランサーは槍を肩へ担ぎ直す。

その言葉を受け、セイバーは数秒だけ沈黙した。

やがて、静かに剣を下ろす。

 

 

「良いだろう。ランサーよ━━次に会った時は、貴公と全力で勝負できることを願おう」

 

「おう、そうしてくれ。ただ先約があるんでもし戦うにしてもそれからだな」

 

 

そしてランサーは、まるで嵐のように屋敷から姿を消した。

 

 

 

~~~

 

 

 

 

そう言えばこんなことがあったなと思い出す中で読み解けていくものがあった。

少なくとも、聖杯戦争には何らかの“規則”が存在する。

まぁ、戦争と言っている以上予め最低限のルールはあるのだろうが。

だが、英霊だの魔術だのという非現実の中で“ルール違反”などという単語が出てきたことに、士郎は妙な現実感を覚えていた。

 

 

「━━って、聞いてた? 衛宮君?」

 

「あ、ああ…悪い、聞いてなかった」

 

「はぁ!? あれほど聖杯戦争について説明したのに‥‥‥まぁいいわ。どうせここでまた聞くことになるだろうし」

 

 

凛が呆れたように振り返る。

その顔には露骨な疲労が浮かんでいた。

ペラペラとしゃべり続けたせいだろう。

 

いつのまにかある場所に辿り着いていた。

教会だ。

夜の静寂の中に佇む石造りの建物は、どこか街から切り離された異質さを纏っている。

時間帯のせいか周囲に人影はない。

だが建物の内部には、まだ明かりが灯っていた。

 

 

「コトミネ教会‥‥‥」

 

 

近くのネームプレートにはそう記載されていた。

 

 

「シロウ、私はここに残ります。私はシロウを守るために着いてきました。目的地が教会であれば私はここで待機しておくべきでしょう」

 

 

隣でフードを被っているセイバーが言う。

こんな近くで見たら鎧を着ていることが丸わかりな子が待機していたらそれはそれで不審者扱いされるかも知れいないが、既に深夜なので人は全く見受けられない。

というかここで最近事件で活発に動いている警察に見つかれば一発で補導対象になっていたが運よく見つからなかったのは不幸中の幸いか。

 

衛宮士郎は、目の前にある重厚な教会の扉へ手をかけた。

 

ゆっくりと開かれる扉。

静まり返った礼拝堂の空気が、冷たく士郎を迎え入れる。

その先で待つものが何なのかも知らぬまま。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

主人公たちが教会へと踏み入れる様子を確認し終えて、一息つく。

ほとんど覚えていないが、恐らくは原作通りに事が進んでくれているだろう。

よくある二次創作の転生者みたく前世の知識でその世界の未来を知っているというチートがfateという文化にそこまで浸かっていなかったせいでほぼほぼ無い。

転生者特典なんてものがあるとしたら、作成スキルが異様に高いこととかこの突然変異を起こした魔術刻印か。

突然変異の魔術刻印は兎も角、作成スキルはただただこの相良豹馬という肉体の得意分野なのかもしれない。

 

 

「あぁ~‥‥‥眠てぇ‥‥‥」

 

 

ただ強いてこの肉体に対して文句を言いたい点と言えばこの夜になると襲って来る強烈な睡眠欲だ。

おっかしいなぁ、昨日は平日だったけど体調不良という名目で休んで夜のために真昼間に寝てたんだがなぁ‥‥‥。

ここのところ夜はサーヴァントに周囲の護衛と情報集めを任せて規則正しく寝ているのだが、やはりこの肉体は不便だ。

 

 

「マスター、そう言えばお聞きしたかったのですが、なぜこのタイミングで言峰綺礼と英雄王ギルガメッシュに不意打ちをしないのですか?」

 

 

そんな自分の肉体の不便さを嘆いていると隣で一緒に監視していたメタンヌが質問をしてきた。

ちなみに言葉遣いの通り第一再臨。委員長気質の人格である。

 

 

「あ、それ私も疑問に思っていたんですよね。このタイミングなら少なくとも相打ちには持って行けると思ってましたけど」

 

 

すると今度は反対側にいた謙信も便乗するように口を開いた。

こちらは毘沙門天としての神格を強く出した姿ではなく、比較的いつものランサー寄りの姿である。

 

 

「意外ですよね、マスターなら早々不意打ちを仕掛けるかなと考えておりましたが」

 

「別に何も考えないのであれば不意打ちする予定だったよ。ただ‥‥‥」

 

「ただ?」

 

「聖杯の浄化が終わってない以上、下手に刺激して滅茶苦茶されたら困るし、そりゃねぇ」

 

「なるほど」

 

 

これには2騎とも納得だったようだ。

不意打ちはできる、でも倒せるかどうかは不明。

まだ聖杯が浄化できていない状態で下手に刺激させたらこちらが痛い目を見る。

ならばここは余計なことをせず、ひたすら自然に動き、浄化まで待つのみだ。

 

 

「あ、出てきました」

 

 

謙信の言葉に視線を向ける。

何かと考えていたら、教会から二人が出てきた。

士郎君が憤るような表情をしているのがちらっと見えた。

あれか、あの愉悦神父に焚きつけられたか。

とはいえ、本来聖杯戦争とはそこまで無差別な殺し合いではない。

少なくとも、まともな参加者は最低限の一線を引く。

‥‥‥あ、それを破ったのが君の養父さん(衛宮切嗣)シリアルキラーのクズ(雨生龍之介)か。

 

 

「一団に接近するサーヴァントを探知」

 

 

不意に、メタンヌが視線を細めた。

空気が変わる。

霊基反応はそれもかなり大きいようだ。

 

 

「真名は?」

 

「ヘラクレス。宝具は『十二の試練(ゴッド・ハンド)』と『射殺す百頭(射殺す百頭)』ですね」

 

 

メタンヌは淡々と解析結果を口にする。

 

 

「前者は、現界中に致命傷を受けても十一回まで蘇生可能。加えてBランク以下の攻撃を無効化、一度受けた攻撃への耐性獲得を有しています」

 

「後者は、狂化の影響で使用できないっぽいですが、武器あるいは徒手空拳によって様々な武技を再現する応用型宝具ですね」

 

 

どうやらアインツベルン陣営が襲撃を仕掛けるようだ。

にしてもヘラクレスか‥‥‥。

 

 

「お前さんら、単独でヘラクレス討伐しろって言ったらできるか?」

 

 

何となく聞いてみると、謙信が気楽な調子で答えた。

 

 

「んー‥‥‥私はルーラー補正込みなら、宝具連撃で押し切れますね。メタトロン殿は?」

 

「私なら、宝具を用いることで『十二の試練』を無視して討伐可能です」

 

 

わーお、どちらもルーラークラスなだけに強いこった。

しかもこれに令呪があるから理不尽なことだ。

 

そんな会話をしている間にも、視界の先では戦闘が始まっていた。

場面は打って変わってセイバー&アーチャーVSバーサーカーに。

アーチャーはヘラクレスの猛攻を回避しながら高所へ移動。

対するセイバーは、魔力供給が不十分な状態で真正面からバーサーカーと対峙している。

 

まぁ別に介入する予定は今の所毛頭無いが。

そう言えば今戦ってる場所は墓地だな。

それもキリスト教徒の。

墓地とは死者の眠る場所だ。

 

 

‥‥‥?

 

 

 

「‥‥‥マスター。今すぐあの場へ介入してもよろしいでしょうか?」

 

 

おっと振り返ると後ろで第三再臨姿のメタンヌが。

笑顔で笑っているようみ見えるが、これかなりキレてるぞ。

死者の眠る墓場で戦えばそりゃキレるわな。

死者への冒涜と言われても仕方がない。

 

 

「あー‥‥‥まぁ良いけど、主人公組を排除するとかいう暴挙はするなよ?」

 

「場合によりますが、善処しましょう」

 

「ついでだ。謙信、お前も行け。それといざという時の()を撒いとけ」

 

「種‥‥‥あれですね。承知しました。では、行きましょうか」

 

 

そうして二騎のサーヴァントは、夜の闇へ溶け込むように戦場へ向かっていった。

そして残された俺は、ただ静かに空を見上げる。

メタトロンのあのキレ具合からして‥‥‥心中お察ししよう。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

聖堂協会管轄の墓地。

本来であればそこは、死者へ捧げられた静寂に包まれているべき場所だった。

 

祈り、眠り、安寧がある。

生者が軽々しく踏み荒らしていい場所ではない。

だが今宵に限っては、その神聖さなど微塵も残されてはいなかった。

 

 

「ハァッ!」

 

「■■■■■■■!!」

 

 

巨大な石剣と、不可視の風に包まれた聖剣が幾度となく激突する。

戦っているのはセイバーとバーサーカー━━ヘラクレスだ。

 

 

「■■■■■■■■■■■━━!」

 

「ガッ!」

 

 

剣技だけではセイバーが勝っているかもしれない。

しかし、総合白兵戦となるとバーサーカーの方が強い。

 

セイバーの両足を掴み地面に撃ちつけながら縦横無尽に振り、それを砲弾投げのように飛ばす。

小柄な少女と大型の巨人のような男という体格差を考えればこうも簡単に飛ばされるのは必然か。

 

 

「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥すぅ‥‥‥」

 

「セイバー!」

 

 

土煙が晴れると見えるは満身創痍のセイバーだ。

額から血が流れ、白銀の鎧は各所が砕けている。

肩で呼吸を繰り返し、立っているだけでも奇跡のような状態だ。

常人であれば、とっくに絶命している傷だった。

 

それでも彼女は剣を手放さない。

その姿には、騎士王としての矜持が確かに宿っていた。

 

だが、バーサーカーは止まらない。

動けぬ獲物へ向けて一直線に突撃する。

その姿は暴走する災害そのものだった。

それを見た瞬間、衛宮士郎は反射的に駆け出していた。

 

 

「衛宮君、待ちなさい!!」

 

 

凛の制止など耳に入っていない。

考えるより先に身体が動いていた。

セイバーを守る。

その一念だけで、士郎は墓地の中央へ踏み込んでいく。

自分に何が出来るのかも分からないまま。

 

 

"リン、離れろ"

 

"アーチャー!? 離れろって、どういうこと‥‥‥?"

 

 

場面は変わり、戦場から数百メートル離れた小高い丘。

周囲に遮蔽物は無く、夜景を見下ろせる絶好の見晴らし台だった。

もし狙撃手がいるならば、間違いなくここを射撃地点に選ぶだろう。

 

そこに立つ赤い外套のアーチャーは、静かに弓を構えていた。

その手にあるのは、自らの魔術で投影したある剣の模造品(コピー)

常人なら保持するだけで魔力を食い潰される代物だ。

 

アーチャーはそれを矢として番え、ゆっくりと弦を引き絞っていく。

膨大な魔力が収束し、空気そのものが軋み始める。

 

脳裏に過ぎるのは、かつて追い続けた理想。

正義の味方という、あまりにも眩しかった夢。

だが今は、その感傷に浸っている場合ではない。

 

この一射で戦況を変える。

そのためだけに意識を集中する。

 

 

「我が骨子は捻れ狂う━━偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 

放たれた矢は赤い光の尾を引きながら夜空を裂いた。

空間そのものを歪ませながら飛翔するそれは、本来ならば墓地一帯を跡形もなく吹き飛ばしていた、はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炎の柱よ、包み込みなさい━━かの焔はここにありき(サンテュモン・ピリエ)

 

 

 

 

 

そう、本来であれば(・・・・・・)

 

墓地を囲むように光の線が走ったかと思うと、その軌跡をなぞるように獄炎の火柱が噴き上がる。

それはまるで結界だった。

例えるならば聖域を侵す者を拒絶する、絶対的な境界線。

噴き上がった炎はそのまま飛来してきた偽・螺旋剣を包み込み、呑み込み、そして跡形もなく焼き尽くした。

 

 

「な、何だ!?」

 

「一体何が‥‥‥」

 

 

双方の陣営に動揺が走る。

サーヴァント同士の戦闘ですら常識外れだというのに、今起きた現象はそのさらに上を行っていた。

 

 

"リン、そっちでは何が起こった!?"

 

"原因不明の火柱が墓地を丸ごと囲んだ! これは‥‥‥キャスターの魔術をとうに超えてるわ!!"

 

 

凛の声にも明確な焦りが滲んでいる。

彼女は優秀な魔術師だからこそ理解してしまう。

今の魔術は異常だ。

いや、魔術かどうかすら怪しい。

人間が行使できる領域を、明らかに逸脱している。

 

 

 

 

「━━転移せよ」

 

 

その呟きが響いた瞬間、アーチャーの姿が掻き消えた。

次の瞬間には、凛のすぐ隣へ立っている。

 

 

「なッ‥‥‥」

 

「令呪も何もなしでサーヴァントを瞬間移動‥‥‥」

 

 

言葉を失う。

サーヴァントの強制転移など、本来なら令呪級の魔力消費を必要とする。

それを、まるで呼吸するかのように行った。

「ありえない」、とそう口にしかけた凛だったが、その直後、さらに信じ難い光景が視界へ飛び込んできた。

 

 

「■■■■■■■■ーーーー!!」

 

「バーサーカー!?」

 

「遅い。その命、2つ頂きました」

 

 

先ほどまで暴れていたバーサーカーが、膝をついていた。

胸部から腹部にかけて巨大な斬撃痕が走り、致命傷を負っている。

だが、それ以上に異常なのは━━彼が既に二度、殺されていたことだった。

ヘラクレスの肉体が急速に再生していく。

だが、その再生とは別に、確かに命が削られている。

その事実を理解した瞬間、この場にいた全員の背筋を冷たいものが走った。

 

 

「聖杯戦争━━もとより、主の物を奪い合うという構想自体、あまり好ましいものとは思っていませんでしたが‥‥‥まさか、ここまで酷い有様だとは」

 

「そもそも、完璧に整備された聖杯戦争でない以上、こうなることは必然だったのでしょう。そも今回ばかりは、私もあまり良い気分ではありませんね」

 

 

静かな声だった。

だが、その声音には確かな重みがあった。

獄炎の火柱がゆっくりと消えていく。

赤く燃えていた光景が薄れていくにつれ、墓地の中央に立つ二つの影が露わになった。

 

片方は、純白の衣装を纏った女。

それはドレスにも見えたが、同時に神官服のようでもあり、あるいは礼装のようにも見える。

背には天使を思わせる翼が広がり、その手には青く燃える筆が握られていた。

彼女の周囲では、空気そのものが神秘へ塗り替えられているような錯覚すら起きている。

 

そしてもう片方。

黒、赤、白、金を基調とした和装の鎧。

左右後方には奇妙な浮遊物体が展開され、その手には炎を纏う刀が握られていた。

その存在に相応しい威圧感が、その小柄な身体から放たれている。

 

二人に共通していたのは、その存在感だった。

あまりにも濃すぎる。

ただそこに立っているだけで空気が重くなる。

霊基の格が違う。

それを、この場にいる全員が本能で理解していた。

 

彼女らは確かにサーヴァントだ。

だが同時に、通常の英霊とはどこか異なっている。

まるでもっと別の、高位の何か。

 

 

「神霊‥‥‥」

 

 

ぽつりと呟いたのはイリヤだった。

本来なら頭の中だけで完結していたはずの言葉が、無意識のうちに口から零れてしまっていた。

しかし、アインツベルンという聖杯戦争に詳しい家系だからこう思ってしまう、「ありえない」、と。

 

そも聖杯で神霊は呼べない。

そもあの鎧を着た恐らく日本の‥‥‥神格混じりと思しき日本の英霊は呼び出せない。

 

何もかもがおかしかった。

さすがの士郎ですら、これは異常事態なのだと理解できるほどに。

 

 

「さて、ここに居る死者の安寧を妨げる者たちに告げましょう━━」

 

 

静寂が落ちる。

まるでその一言だけで空気が支配されたかのようだった。

そして純白の女が、一歩前へ出る。

 

 

 

我が名はメタトロン。聖女ジャンヌ・ダルクを依り代とし、ルーラークラスで現界した天使の1柱です

 

 

続けるように、鎧姿の少女も口を開いた。

 

 

「私も名乗らせていただきましょう━━我は戦場の裁定者にして、毘沙門天の化身、上杉謙信! 真のランサー(・・・・・・)でしたが、ルーラークラスにチェンジした軍神です

 

 

『━━!!??』

 

 

その瞬間、この場の全員が絶句した。

 

メタトロン。

エノク書に名を連ねる天使。

神の書記とも、最も神に近い大天使とも語られる存在。

 

そして上杉謙信。

越後の軍神。

戦国乱世を駆け抜けた英雄にして、毘沙門天の化身とまで称された存在。

 

神話や歴史に疎い衛宮士郎ですら知っているほどのビッグネームの者たちだ。

 

 

特に凛とイリヤへの衝撃は大きい。

ルーラー、それは聖杯戦争において異常事態が発生した際にのみ召喚される監督役。

本来なら中立であり、争いへ積極介入する存在ではない。

 

 

「待って。ルーラーなら、神明裁決用の令呪を持っているわよね? 今すぐ見せられる?」

 

 

混乱を押し殺しながら、凛が問いかける。

ルーラーの証明として分かりやすいのが神明裁決権の象徴たる令呪だ。

通常のマスターが三画しか持たないそれを、ルーラーは複数保持している。

 

すると、メタトロンは静かに玉座を出現させた。

その玉座には、幾重にも重なる赤い紋様。

一方、謙信も袖を捲り上げる。

そこにも同じように大量の令呪が刻まれていた。

数十画もの量だ。

 

 

「これでどうでしょうか?」

 

「‥‥‥本物ね。アインツベルンも同じ考えね?」

 

 

イリヤが頷く。

令呪を数十画も持っている上、あのような規格外の力を見せた以上、彼女らはルーラーのサーヴァントで間違いないだろう。

問題は2騎のルーラーが真名を明かしたことでステータスが閲覧できるようになったが、そのステータスが常軌を逸していたことか。

敏捷E以外全てAかEXのメタトロンにやや性能は劣るが全体的に高ステータスを誇る謙信。

下手に手出しをしたら間違いなくやられる‥‥‥!

 

 

「今宵、私たちが介入した理由ですが━━死者の眠りを妨げたから、と言えば理解できますね?」

 

 

メタトロンの声は静かだった。

だが、その奥底には明確な怒りがあった。

ここは聖堂協会管轄の墓地。

キリスト教徒たちが眠る場所だ。

その地をサーヴァント同士の戦闘で踏み荒らした。

裁定者としても、信仰に連なる存在としても、看過できるはずがなかった。

 

 

「今回は、ある者の成れ果てである無銘のアーチャーの射撃による破壊は、メタトロン殿の宝具によって未遂に終わりましたので不問とします」

 

 

その言葉に、アーチャーの目がわずかに細まる。

ある者の成れ果てという表現。

遠回しではあるが、完全に正体を見抜かれていた。

だが、謙信は構わず続ける。

 

 

赤き竜のセイバーについても、満身創痍の状態で討ち取れば聖杯戦争の進行に支障が出るため、不問としました。しかし━━」

 

 

墓地を破壊したギリシャの大英雄は別です。故に、命のストックを二つ削りました。加えて、その二つは魔力による回復も不可能です」

 

 

「「「‥‥‥。」」」

 

 

沈黙。

サーヴァントたちは動かない。

いや、動けなかった。

理不尽だ。

確かに理不尽な裁定だった。

 

だが問題はそこではない。

彼女は今、自分たちの真名を遠回しに暴いてみせた。

まるで最初から全て知っていたかのように。

狂化しているヘラクレスだけは変わらぬ様子だったが、それ以外の者たちは内心で強烈な警戒心を抱いていた。

 

 

「さて、裁定が終わった以上、我々の役目は無いので去りましょう。アインツベルンのホムンクルスよ。今回はバーサーカーの命を二つ強制的に減らすという処置を下しましたが、今後同じように墓地、あるいは無関係な人間を巻き込むようであれば、次は容赦しません」

 

「は、はぃ‥‥‥」

 

 

静かに告げられたその言葉には、怒号のような激しさこそ無かった。

だが、だからこそ重かった。

イリヤは目の前の神霊が本気だということを理解しているため、口が震えていた。

アインツベルンの最高傑作という生まれながらに聖杯として造られ、並の魔術師では到達すらできない領域の知識と魔力を備えた少女。

そんな彼女だからこそ理解できてしまう。

 

目の前にいる存在は、自分たちが扱っていい領域のものではない。

もし本気で敵意を向けられれば、自分も、バーサーカーでさえも、無事では済まない、と。

 

 

その隣で、謙信がふっと小さく笑みを浮かべた。

先ほどまでヘラクレスを二度斬り伏せていたとは思えないほど自然な笑みだったが、その瞳の奥には戦場を幾度も駆け抜けてきた軍神としての鋭さが宿っている。

 

 

「では私たちはこれにて。ああ、それと最後に一つ教えておきましょう」

 

 

そう言って、謙信はこの場にいる全員を見渡した。

その視線は穏やかでありながら、まるで相手の本質を見透かすような深さを帯びていた。

 

 

「本来の聖杯戦争では、ルーラーは最大1騎しか呼べません。なぜ2騎も呼ばれているかについては‥‥‥何らかの異常事態が発生している、とだけ」

 

「異常事態‥‥‥それって聖杯が━━『それではまたどこかで』 って待ちなさい!!」

 

 

次の刹那、二騎のルーラーは、まるで最初から存在していなかったかのように夜の闇へと溶けて消えた。

まるで先ほどまで何もなかったかのように。

 

ただ静寂だけが、その場に残される。

後に残ったのは、荒れ果てた墓地と、未だ収まりきらない緊張感だけだった。

 

 

「‥‥‥帰りましょう、バーサーカー」

 

 

最初に口を開いたのはイリヤだった。

その声には、いつもの尊大さも無邪気さもほとんど残っていない。

ただ疲労と困惑だけが滲んでいた。

バーサーカー━━ヘラクレスは無言のまま主を肩へ乗せた。

 

そして一度だけ、セイバーたちの方へ視線を向けた。

狂化によって理性を失っているはずのその瞳に、一瞬だけ戦士としての警戒が宿る。

 

今宵現れた二騎。

あれは敵に回してはならない。

そう本能が告げているのかもしれなかった。

次の瞬間には巨躯ごと闇へ跳躍し、アインツベルン陣営は森の奥へと消えていく。

 

誰も呼び止めなかった。

いや、呼び止める余裕が無かった。

余りにも規格外な存在を目撃してしまったせいで、思考が追いついていなかったのだ。

 

しばし沈黙が続く。

風の音だけが耳に残る。

このどうしたらいいかという空気感を破ったのは凛だった。

 

 

「‥‥‥前言撤回よ。衛宮君、同盟を組みましょう」

 

 

真剣な声音だった。

いつもの余裕めいた調子は無い。

士郎は少し目を丸くし、それから困ったように頭を掻く。

 

 

「それは‥‥ありがたいんだが、良いのか? 俺なんかで?」

 

「何言ってるのよ。最優のサーヴァントであるセイバーを連れてる時点で、同盟相手としては十分すぎるわ」

 

 

凛はそこで一度息を吐いた。

その視線は、先ほどルーラーたちが消えた夜空へ向いている。

 

 

「それに‥‥今回の聖杯戦争、絶対に何かがおかしい。ルーラーが、それも二騎同時に召喚されるなんて前代未聞よ。しかも片方は神霊、もう片方は本来召喚不可能な日本の英霊。こんなの、普通の聖杯戦争じゃありえない」

 

 

その声には確信があった。

凛は魔術師として優秀だ。

だからこそ分かる。

今、自分たちは異常事態のど真ん中にいるのだと。

 

 

「ルーラーが現れた理由。その異常の正体。それが判明して、解決できる目処が立つまでは同盟を維持する。いいわね、アーチャー?」

 

「構わん」

 

 

アーチャーは短く答える。

その視線は相変わらず鋭かったが、否定する様子はない。

 

 

「元より俺は君のサーヴァントだ。マスターの方針には従うさ」

 

「セイバーの方は?」

 

 

問いかけられたセイバーは、一度士郎を見る。

その視線には確認の色があった。

主の意思を尊重しようとしているのだろう。

士郎が小さく頷くと、セイバーもまた静かに口を開いた。

 

 

「私もリンに賛成です。このような状況であれば、単独行動は危険でしょう。まずは情報共有を優先すべきかと」

 

「決まりね」

 

 

凛はそう言って腕を組む。

その表情には、ほんの少しだけ安堵が浮かんでいた。

 

本来であれば、どこか歪で、互いに完全には信用しきれていなかったはずの関係。

だが今この瞬間だけは違う。

 

共通の脅威。

理解不能な異常。

そして、自分たちでは到底測りきれない“何か”。

 

それらを前にしたことで、彼らはようやく同じ方向を向き始めていた。

セイバーとアーチャーが互いに武器を向け合うことなく並び立っているという光景こそ、その変化を最も分かりやすく示していた。

 

 

 

 

 

 




今回のまとめ:


メタンヌ:墓地を破壊されまくって案の定キレた。怒り心頭で裁定しようとしたが二人格から「マスターの意向もあるから穏便にやれ」と言われたがために、火力高めの宝具で威圧してイリヤに恐怖デバフを付与させた。

謙信ちゃん:メタンヌのキレ具合とマスターから「行ってこい」と言われたのでてっきり大暴れするのかと思い、勢いに乗ってバサクレスのライフを2個破壊(魔術で回復不可能)した。ルーラーの証明に遠回しに真名を告げておくというささやかな嫌がらせをしている。

セイバー:ランサーによって深手は負わなかったもののバサクレス相手には押された。急にルーラーが現れて困惑している。さすがに状況がヤバいからアーチャーと同盟を組むことに即答で賛成した。

アーチャー:ルーラーを2騎、それも特に強い者を現界させるという今までの抑止力とは思えない頑張りっぷりに困惑している。上手く利用して過去の自分と相対する場面を作り出せるか画策している。

凛、イリヤ:ただでさえ呼べない神霊や日本の英霊がルーラーとして呼ばれたことに驚愕している。

士郎:何が何だか分からない。
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