パーフェクトゲームを目指すには!   作:メタ(ル)

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今執筆してる感じですけど、多分後数話いくと原作崩壊が顕著になるかと。
ちなみに、そのタイミングで相良君はご都合主義マックスのことをしでかします。




最後に一言ですが、別作品でも言ったように受験してるのについ書いてしまう‥‥‥!




Ⅸ 演目

瞬間、二騎の英雄が激突した。

 

アーチャーの干将とキャスターの長剣が真正面からぶつかり合い、鋭い金属音が夜の住宅街へ響き渡る。

しかしアーチャーの表情に焦りはない。あるのは違和感だけだった。

 

目の前の男はキャスターを名乗っている。

それにも関わらず、その剣技は明らかに魔術師の域を超えていた。

セイバーほど完成されたものではない。

ランサーほど研ぎ澄まされてもいない。

だが、一つ一つの動きに無数の経験が刻み込まれている。

まるで長い旅路の果てに培われた技術をそのまま剣へ落とし込んだかのような実戦的な剣筋だった。

 

 

「なるほど」

 

 

アーチャーが呟く。

 

 

「思ったより評価が高そうだね」

 

「少なくとも、そこらの魔術師よりは遥かにな」

 

 

言葉を交わしながらも両者は止まらない。

アーチャーが振るう双剣をキャスターは長剣で受け流し、その勢いを利用して反撃へ転じる。

剣同士が激突する度に火花が散り、周囲へ衝撃が走るが、それでも戦況は徐々にアーチャーへ傾き始めていた。

 

当然だった。

近接戦闘において三騎士と真正面から渡り合うこと自体が異常なのだ。

たとえ技量が優れていようと、身体能力という絶対的な差は埋まらない。

キャスター自身もそれを理解しているのだろう。

彼は深追いすることなく一度距離を取ると、笑みを浮かべながら軽く肩を竦めた。

 

 

「やっぱり厳しいな。正面からやり合うには少し相手が悪い」

 

「今更気付いたのか」

 

「いや、確認しただけさ」

 

 

その瞬間、キャスターの足元に複数の魔術陣が展開された。

淡い光を放つそれらは次々と重なり合い、まるで一つの巨大な術式を構築するように複雑な紋様を描いていく。

そして地面から現れたのは、先程士郎たちへ差し向けたものと同種の異形だった。

コウモリの翼を持ち、歪な角を生やした悪魔めいた使い魔。

マレブランケ。

 

 

「数で押すつもりか」

 

「さて、どうだろうね」

 

 

次の瞬間、三体の使い魔が同時に飛び出した。

正面、右、左。

それぞれ異なる角度からアーチャーへ襲い掛かる。

しかしアーチャーは動じない。

むしろ冷静だった。

彼は迫る使い魔へ視線すら向けず、そのまま双剣を投擲する。

回転しながら飛翔した干将と莫邪は正確に使い魔の急所を貫き、その身体を魔力ごと破壊した。

さらに着地と同時に新たな双剣を投影し、残る一体を切り裂く。

 

全てが一瞬だった。並のサーヴァントなら対応どころか、何が起きたのか理解する前に命を奪われていたかもしれない。

しかし、キャスターは驚かなかった。

むしろその表情には満足げな色さえ浮かんでいる。

 

 

「やはり、強い」

 

「雑魚をぶつけて測る程度にはな」

 

 

アーチャーは冷たく言い放ちながら弓を構える。その手には既に投影魔術によって生み出された一本の矢が番えられていた。無駄のない動作。まるで最初からそこに存在していたかのような自然さで現れた矢を見て、キャスターは僅かに笑みを深める。

 

アーチャーは冷たく言い放ちながら弓を構える。その手には既に投影魔術によって生み出された一本の矢が番えられていた。

無駄のない動作。

まるで最初からそこに存在していたかのような自然さで現れた矢を見て、キャスターは僅かに笑みを深める。

 

 

「来る」

 

 

放たれたのはたった一射だった。

しかし、その一射は常識の埒外にあった。

一直線に飛翔しているように見えながら、その実、矢は僅かな軌道修正を絶えず繰り返している。

ただ狙うための射撃ではない。回避という選択肢そのものを奪うために構築された、極めて悪辣な一矢だった。

 

キャスターは即座に魔術障壁を展開する。

数層にも重なった防壁が夜空に淡く輝き、迫る矢を迎え撃つ。

だが次の瞬間、矢は障壁へ命中した反動すら利用するかのように軌道を変化させ、防壁の縁を滑るように通過すると、そのままキャスターの肩を鋭く貫いた。

 

鮮血が夜気に散る。

それはこの戦闘で初めて与えられた明確な傷だった。

 

 

「なるほど。そういう使い方も出来るのか。やられたね」

 

「今ので終わると思ったか?」

 

「まさか」

 

 

キャスターは肩を貫く矢を見下ろしながら小さく笑った。

その反応にアーチャーは再び違和感を覚える。

普通ではない。負傷した者の反応ではない。痛みに耐えるでもなく、怒りを見せるでもなく、むしろ新しい知識を得た学者のような、あるいは期待していた展開に辿り着いた観客のような顔だった。

 

まるで戦闘そのものを楽しんでいる。

いや、それ以上に、自らに与えられた役割をどこまでも演じ続ける役者のような異質さがあった。

この何かを演じているというのが正しいだろう。

 

 

「貴様、本当にキャスターか?」

 

 

アーチャーが低く呟く。

その瞬間、キャスターの笑みが僅かに止まった。

ほんの刹那。

しかし歴戦の英霊であるアーチャーにとって、その一瞬だけで十分だった。

 

 

「面白いことを言う」

 

「否定はしないか」

 

「さてね」

 

 

キャスターは肩を竦めながら薄く笑った。

その仕草はどこか芝居がかっており、問いをはぐらかしているようにも、敢えて答えを濁しているようにも見える。

 

 

「それで言うなら君もアーチャーなのに剣を使ってるだろ?」

 

「否定はしないな」

 

 

互いに得物は本来のクラスではない剣。

どちらもクラスの概念を捨て去ったような戦い方だ。

 

 

「だけど少なくとも、この場で私はキャスターだ」

 

 

その返答にアーチャーの眉が僅かに動いた。

否定はしない。かといって肯定もしない。

その在り方はまるで舞台の上に立つ役者そのものであり、仮面を被ったまま観客へ語り掛けるような得体の知れない違和感を伴っている。

アーチャーはまだその違和感の正体を正確には把握できない。

すくなくとも分かったのは、解析した剣から察せられた真名から目の前の敵の厄介さぐらいか。

 

 

「だけど、少し見せ過ぎたかな」

 

 

そう呟いた瞬間、キャスターを中心として膨大な魔力が渦を巻いた。

業火を巻いたかのような竜巻だ。

その中では無数の亡者たちが苦悶の表情を浮かべながら蠢いているように思えた。

轟く雷鳴には断末魔にも似た悲鳴が混じり、吹き荒れる暴風には祈りを捧げる巡礼者たちの声が溶け込んでいた。

それは単なる攻撃魔術ではない。

まるで誰かが見聞きし、語り継いだ世界そのものを現実へ引き摺り出しているかのような光景だった。

 

 

「成る程。少なくとも凡百の魔術師ではないらしいな」

 

 

アーチャーは静かに呟いた。

その声に焦りはない。

迫り来る災厄を前にしても退く様子はなく、むしろ一歩前へ踏み出す。

手の中へ新たな矢が投影され、その内部へ膨大な魔力が流し込まれていく。

幾重にも重なる螺旋構造が形成され、収束し、圧縮され、限界寸前まで高められた力が一本の矢へ凝縮されていく。

 

 

「偽・螺旋剣」

 

 

解き放たれた矢は夜空を切り裂きながら飛翔した。

次の瞬間、世界が爆ぜる。

轟音が住宅街全体を揺らし、閃光が夜を白く塗り潰した。

衝撃波は周囲の木々を大きく撓らせ、吹き荒れていた業火を吹き飛ばし、雷撃を粉砕し、暴風すらも掻き消していく。

互いの力が正面から衝突した余波によって視界は白煙に覆われ、数秒の間、戦場から色彩そのものが失われた。

 

だがアーチャーは弓を下ろさない。

敵の気配は消えていなかった。

むしろ煙の向こう側には、先ほどと変わらぬ余裕を纏った存在が静かに立っている。

 

 

「流石だね」

 

 

聞こえてきた声はどこか満足そうだった。

 

 

「まるで予想通りと言いたげだな」

 

「実際そうだからね」

 

 

白煙の向こうでキャスターは笑う。その声音には敗北を悟った者の焦燥も、追い詰められた者の苛立ちも存在しない。

まるで勝敗そのものが目的ではなく、戦闘を通して別の何かを確かめることこそが目的であるかのような余裕だけがあった。

 

そして彼はゆっくりと視線を横へ向ける。

その先には、なおも激しく刃を交えているセイバーとアサシンの戦場があった。

まるで何かを確認するように。

あるいは最初からそれを見るためだけに、この戦いを演出していたかのように。

 

 

「さて━━」

 

 

その声音には戦いを終える者の響きが混じっていた。

アーチャーは僅かに目を細める。

ようやく理解した。

この男は勝つために戦っているのではない。

 

そして役割を演じながら、物語の流れそのものを眺めている。

まるで一人の作者が、自ら筆を執った物語の続きを楽しむかのように。

少なくとも純粋なキャスターなどではあり得ない。

英霊としての在り方そのものが、何者かを演じることを前提としている。

そんなアーチャーの視線を受けながら、キャスター━━否、キャスターを演じ続ける何者かは楽しげに口元を吊り上げた。

 

 

「どうやら、こちらも頃合いらしい」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

時間は少し遡り、セイバーとアサシンの戦い。

セイバーとアサシンの戦場は、既に単純な剣戟の応酬という段階を過ぎていた。

互いに一度や二度の交錯ではない。刃を交える度に相手の技量を測り、その度に評価を修正しながら戦い続けた結果、両者とも最初に抱いていた印象を大きく改めていたのである。

 

特にセイバーにとって厄介だったのは、目の前のアサシンが徹底して主導権を握らせないことだった。

敵が現れるより早く不可視の剣を振るい、そのまま真正面から迎撃へ移る。衝突したのは黒き影によって形成された長剣だった。

金属ですらないはずの武器でありながら、そこには確かな重量と強度が存在しており、激突した二つの刃は夜気を震わせ、周囲の塀へ亀裂を走らせるほどの衝撃を撒き散らした。

しかし、そのまま鍔迫り合いへ移行することは無かった。

アサシンは即座に後退したのである。

正確には後退したように見えただけであり、気付けば既に数メートル離れた位置へ立っていた。

その移動には跳躍とも疾走とも異なる奇妙な違和感があり、まるで影そのものが移動した結果として人影だけが後から現れたかのような不自然さを伴っている。

 

 

「またですか」

 

 

セイバーは追撃を掛けながら低く呟いた。

 

 

「先程から貴方は受けては退き、攻めては退き、決して深く踏み込もうとしない。暗殺者としては正しいのでしょうが、サーヴァント同士の戦いとしては些か不可解ですね」

 

 

返答は無い。

だが沈黙は否定を意味しなかった。

アサシンは影の中へ沈み込むように移動すると、次の瞬間には街灯が落とす影から姿を現し、黒い短剣を投擲する。

その軌道は衛宮邸で見せたものと同じだった。

直線的でありながら障害物の存在を無視する異様な一撃。

普通の戦士であれば回避など不可能だろう。しかしセイバーは既にその特性を把握していた。

 

剣閃が走る。

放たれた短剣は全て叩き落とされた。

だが、その瞬間には既にアサシンの姿が別の影へ移動している。

 

 

「チッ‥‥‥!」

 

 

僅かにセイバーから舌打ちが漏れる。

しかしそれは追い詰められた焦りからではなく、目の前の未だに捉えられていないアサシンに対する評価を改めざるを得なくなったことへの警戒に近い感情だった。

純粋な剣技だけを比較するのであれば、自らが後れを取るとは思わない。

事実、ここまで何度も刃を交えてきた感触からしても、近接戦闘そのものならば優位を取れる場面は存在している。

だが問題はそこではない、目の前のアサシンは最初から勝敗を争うための戦い方をしていないのである。

 

奇襲から始まり、敢えて追跡可能な痕跡を残しながらこちらを誘導したこと、そして今なお続いている戦闘においても決定打を狙うより観察を優先していること。その全てが一つの目的へ向けて積み上げられているようにしか見えなかった。

一撃を与えることよりも反応を確認し、敵を追い詰めることよりも情報を得ることを優先している。

まるで戦士ではなく観察者が戦場へ立っているかのような違和感があった。

 

そして、それはアサシン側も同じだった。

骸骨の仮面の奥から向けられる視線は終始冷静であり、感情による揺らぎを殆ど感じさせない。

目の前にいる騎士王が強敵であることは既に理解している。しかし同時に、その強さが本来のものではないことも見抜いていた。

剣技は完成されている。戦場判断も優秀だ。経験に裏打ちされた対応力も申し分ない。もし万全の状態であれば、正面から勝負を挑むことそのものを避けていただろう。しかし観察を続けた結果、一つだけ確信できる事実が存在した。

 

 

「汝は本来の状態ではない」

 

 

不意に発せられた言葉に、セイバーの眉が僅かに動く。

 

 

「何を根拠にそう言うのですか」

 

「観察した。戦闘開始から今までの全てを」

 

 

簡潔な返答だった。

セイバーは何も言わない。

その沈黙を肯定と受け取ったのか、アサシンは淡々と言葉を続けた。

 

 

「剣技は完成されている。戦場判断も優秀。だが力の流れに不自然な抑制が存在する。本来ならば更に速く、更に重く、更に苛烈であるはずの攻撃が何度も途中で止まっている」

 

「随分と分析しているのですね」

 

「役目だ」

 

 

短い返答だった。

その前の長い会話文は寡黙だったアサシンらしからぬ言い方だった。

しかし、その一言だけで十分だった。

セイバーの瞳が細められる。

 

役目、それは単なる戦闘狂の言葉ではない。己の好奇心で戦っている者の言葉でもなければ、強敵との戦いを楽しむ武人の言葉でもない。

明確な目的を与えられ、そのために観察し、そのために戦っている者だけが口にする言葉だった。

 

 

「では、貴方は私を測っているのですか」

 

「然り」

 

「それはキャスターのために?」

 

 

アサシンは答えない。しかし、その沈黙だけで十分だった。少なくとも完全な見当違いではない。

セイバーはそう判断すると同時に、遠方から響く轟音へ意識の一部を向けた。アーチャーとキャスターが戦う方角から断続的に魔力の衝突が伝わってくる。

住宅街の外れでありながら、その余波だけで大気が震えているのだから規模は推して知るべしだった。

アーチャーならば容易く敗れることはないだろう。しかし相手もまた只者ではない。

あのキャスターは魔術師でありながら剣を振るい、それを当然のように使いこなしていた。

 

 

「貴方たちは奇妙な組み合わせですね」

 

 

セイバーは再び剣を構え直しながら言う。

 

 

「暗殺者と魔術師の同盟自体は珍しくありません。しかし貴方もキャスターも、どこか本来の在り方から外れている」

 

「‥‥‥」

 

「まるで別の何かを演じているようだ」

 

「ある意味ではそうだろう」

 

 

返答と言わんばかりに周囲の影が揺れた。

住宅の壁、電柱、街路樹、夜の街に存在するあらゆる闇が呼応するように波打ち始め、その全てから黒い刃が浮かび上がっていく。

その数は一つや二つではない。

視界へ収まり切らないほどの刃が夜空を埋め尽くし、まるで街全体が巨大な処刑場へ変貌したかのような光景を作り出していた。

 

しかしセイバーの表情は変わらない。

不可視の剣を握る手へ力を込める。

そして同時に理解していた。

 

目の前のアサシンは未だ決定的な切り札を見せていない。

それは単純に機会が無かったからではなく、意図的に伏せているように見える。

こちらに対しても同じだった。相手は宝具の使用を誘発するような動きを避けている。

もし本気で勝利だけを求めるのであれば、ここまで回りくどい戦い方を続ける理由はない。

宝具とは英霊最大の秘奥であり、その正体を晒すことは切り札を失うことと同義である。

そして今夜の戦いにおいて、彼らはどうやら勝敗よりも情報の保存を優先しているらしかった。

 

であるならば、こちらも焦る必要はない。

 

相手の能力も目的も未だ闇の中にある以上、この場で全てを曝け出すよりも観察を優先するべきだろう。

少なくとも今はまだ、その時ではないのだから。

 

 

 

「フフ‥‥‥アサシン」

 

「頃合いか‥‥‥」

 

 

ふと、そんな言葉がアサシンから聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

アーチャーとキャスターの戦場、そしてセイバーとアサシンの戦場。

その双方で戦闘が続く中、最初に変化が訪れたのはキャスター側だった。

 

 

「どうやら、こちらも頃合いらしい」

 

 

白煙の向こう側から聞こえてきたその声に、アーチャーは弓を下ろさないまま目を細める。

煙が風に流されるにつれて、そこには依然として余裕を崩していないキャスターの姿があった。

肩には先程受けた傷が残っている。

しかし致命傷には程遠く、その表情にも焦燥は見られない。

まるで目的としていたものを既に得たかのような顔だった。

 

 

「頃合いだと?」

 

「そうとも」

 

 

キャスターは肩を竦めながら笑う。

 

 

「元々、今夜はそこまで大掛かりにやる予定じゃなくてね。少し顔合わせをして、少し様子を見て、それから少しだけ確認したいことがあった」

 

「その確認とやらは済んだのか」

 

「十分すぎるほどに」

 

 

その返答を聞いた瞬間、アーチャーの警戒は逆に強まった。

戦いが始まってから今に至るまで、キャスターは一度として勝敗について語っていない。自らが優位であるとも劣勢であるとも言わず、戦況を覆そうと焦る様子も見せない。その振る舞いはまるで戦闘そのものが目的ではなく、その過程で得られる何かこそが本命であるかのようだった。

 

そして恐らく、その認識は間違っていない。

この男は最初から勝つためにここへ現れたのではない。

何かを見極めるために現れ、そのために戦い、そのためにこちらの力を引き出し、そのために情報を集めていたのである。

 

アーチャーがそう判断した直後、不意に遠方から巨大な魔力の揺らぎが伝わってきた。

セイバーとアサシンが交戦している方角だった。

その反応を感じ取ったキャスターは僅かに視線を横へ向ける。

同時に住宅街の一角では無数の黒い刃が夜空へ浮かび上がっていた。月光を遮るほどの影の群れは遠目から見ても異様であり、それを眺めたキャスターはどこか満足そうに口元を緩める。

 

 

「フフ‥‥‥アサシン」

 

 

キャスターがアサシンに声をかける。

その声が聞こえたアサシンは道路脇に設置されたカーブミラーへ視線を向けた。

鏡面へ映り込んでいるのは、黒い外套を纏った一人の女性である。

戦闘開始から今まで、その人物は一歩たりとも動いていない。ただ静かに戦場全体を見守り続けていた。

そして、その女性の指先がほんの僅かに動いた瞬間だった。

 

 

「━━撤退する」

 

 

低い声が夜へ響く。

発したのはアサシンだった。

それと同時に夜空を埋め尽くしていた黒い刃の群れが一斉に崩れ去り、まるで最初から存在しなかったかのように闇へ溶けていく。

セイバーの瞳が鋭く細められた。

 

 

「逃がすと思いますか」

 

 

言葉と同時に地面を蹴る。

本来の魔力供給が確保されていれば更なる速度へ到達していただろう。

しかし、それでもなお英霊の領域に属する踏み込みであることに変わりはない。不可視の剣が一直線にアサシンへ迫り、そのまま胴を両断せんと振り抜かれた。

 

だが、アサシンは回避行動を取らなかった。

いや、取る必要が無かったと言うべきだろう。

次の瞬間、その身体が影へと崩れたのである。

人の形を保っていた肉体が黒い液体のように溶け落ち、そのまま周囲の闇へ同化していく。

結果としてセイバーの斬撃は何も存在しない空間だけを切り裂き、手応えを得ることは無かった。

 

 

「なっ━━」

 

 

セイバーの斬撃はまたも虚空だけを切り裂いた。

ほんの一瞬前までそこに存在していたはずのアサシンの姿は既に無く、夜の闇へ溶け込むように消え失せている。

完全に消滅したわけではない。セイバーほどの英霊であれば微かに残る魔力の流れを感じ取ることはできた。

しかし、それは海へ落とした一滴の絵の具を追跡するようなものであり、戦闘中に正確な位置を割り出すにはあまりにも希薄だった。

 

そして、それはアーチャーが対峙するキャスターも同じだった。

 

 

「それじゃあ、今夜はここまでにしておこう」

 

「好き勝手やって帰れると思うな」

 

 

アーチャーは即座に弓を引き絞る。

しかし、その時には既にキャスターの足元へ幾重もの魔術陣が展開されていた。

一枚や二枚ではない。複数の術式が立体的に重なり合い、まるで巨大な魔術工房そのものを圧縮して持ち込んだかのような複雑さで空間を書き換えていく。

周囲の大気が軋み、景色が陽炎のように揺らぐ様を見た瞬間、アーチャーは理解した。

単なる瞬間移動ではない。戦闘開始以前から準備されていた撤退用術式であり、この男は最初からここで決着を付けるつもりなど無かったのだと。

 

 

「最後に一つだけ」

 

 

キャスターは愉快そうに笑った。その顔には敗走する者の焦りも、追い詰められた者の警戒も存在しない。

まるで舞台の幕引きを告げる役者のような余裕だけがあり、その態度が却ってアーチャーの警戒心を刺激していた。

 

 

「今夜は本当に楽しかったよ。フフ、特に君たちは期待以上だった」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

「そうしてくれ」

 

 

次の瞬間、アーチャーの放った矢が夜空を裂く。

必殺を込めた一射だった。

しかし、その矢が標的へ到達するより僅かに早く転移術式が完成する。

爆ぜるような閃光が周囲を白く染め上げ、数瞬遅れて視界が元へ戻った時には、既にキャスターの姿はどこにも存在していなかった。

残されていたのは術式の残滓と僅かな魔力反応のみ。

アーチャーは静かに弓を下ろしながら、最後まで崩れなかったあの男の余裕を思い返していた。

 

 

「逃したか」

 

 

ほどなくしてセイバーも合流する。その表情に焦燥は無い。取り逃がした悔しさは当然存在する。

しかし、それ以上に彼女自身も理解していた。あのアサシンもまた勝敗を求めてはいなかったことを。

 

 

「申し訳ありません。取り逃がしました」

 

「気にするな。こちらも同じだ」

 

 

短い会話だった。しかし互いに伝わるものは十分だった。

今夜の戦闘は最初から勝敗を決めるためのものではない。

キャスターもアサシンもこちらを本気で討つつもりは無くその結果に満足したからこそ迷わず撤退したのである。

つまり今夜の戦闘そのものが、敵にとっては小手調べに過ぎなかったのだ。

 

やがて凛と士郎も合流する。幸い二人に怪我は無い。マレブランケも既に全て消滅しており、住宅街へ残されているのは戦闘の爪痕だけだった。

 

 

「逃げられたのね」

 

 

凛が苦々しく呟く。

 

 

「ああ。だが収穫が無かったわけでもない」

 

 

アーチャーの言葉にセイバーも頷く。

特に凜はキャスターの真名に気が付いているようだった。

 

 

「それと━━」

 

 

不意に凛が周囲を見回す。

その視線の先には道路脇のカーブミラーがあった。

戦闘開始からずっとそこへ映り込んでいた女性。キャスター、あるいはアサシンのマスターと思われていた人物だ。

しかし今、その姿はどこにも存在しない。

 

 

「消えてる」

 

 

士郎もすぐに異変へ気付いた。

逃走した痕跡は見当たらない。

足音を聞いた者もいない。

魔力反応も残されていない。

その消え方はあまりにも自然で、まるで最初からそこに存在していなかったと言われた方が納得できるほどだった。

 

 

「アーチャー」

 

「分かっている」

 

 

周囲を探知していたアーチャーが静かに首を振る。

 

 

「既に魔力反応は無い。サーヴァントもマスターも完全に撤収している」

 

 

その言葉を最後に、夜の住宅街へ再び静寂が戻った。戦いの痕跡だけを残して。

長い夜だった。

聖杯戦争の本格的な初日は長く、長く続いた。

 

 

 

 

 

 

 




ダンテってFGOでギャグ寄りのキャラとして描かれてますが、神代レベルの使い魔を使役したり、剣を執ったり、EXの対界宝具持ち、単独行動持ちと聖杯戦争だと普通に強い方ですよね。

今回はあくまで特訓による成果とルーラーとか相良君から事前に相手するサーヴァントの情報を色々教えられてる状態なので飄々とした態度を貫けてました。
ただ、二度通じるかと言えばそうでもないので、しばらくメディアの代理で陣地の維持をしてもらう予定ですね。


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