パーフェクトゲームを目指すには!   作:メタ(ル)

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結構頑張ったよ。
お気に入りとか感想とか是非是非!





Ⅻ 騎英の手綱(ベルレフォーン)

最初に動いたのはメデューサだった。

彼女が持つ鎖付き短剣を投擲する。

蛇のように唸りを上げながら飛来した刃は一直線にペルセウスの急所を狙ったが、

 

カキンッ━━。

 

夜空に甲高い金属音が響き渡り、その攻撃は阻まれた。

 

 

「‥‥‥。」

 

 

「懐かしい、あの時の盾(アイギス)ですか」

 

 

それを防いで見せたのは青銅色に輝く盾。

アイギスと呼ばれるある種の神造兵器の一種。

本来であればソナーやレーダーのような索敵機能すら果たせる万能の宝具でありながら、盾としても一流どころか神代最高峰クラスの防御力を誇る。

かつて怪物メデューサ討伐の際にも彼を支えた神々の加護の象徴であり、単純な投擲程度で突破できる代物ではなかった。

 

 

「であれば━━力比べと行きましょう」

 

 

瞬間、メデューサが加速する。

 

 

「速い!」

 

 

思わず観戦していた士郎が声を上げる。

それほどまでに彼女の動きは異常だった。

 

加速したその不規則な動きをペルセウスは完全には捉えきれない。

ビルの屋上を蹴り、空気を裂き、死角へ回り込む。

ライダークラスとしての高い敏捷性に加え、怪物としての身体能力が合わさることで生まれる神速。

視線だけで追えば確実に置き去りにされる。

 

故にペルセウスは待った。

 

ハルペーを構え、気配だけを感知するように五感を研ぎ澄ます。

視覚への依存を捨て、耳と肌と殺気によって敵を捉える。

かつて一度討ち果たした相手だからこそ、その戦い方も理解していた。

 

 

「初撃はもらいます」

 

 

ジャラという鎖特有の音と共に発せられた言葉。

次の瞬間、メデューサは逆手に持った二本の短剣を振り下ろす。

その一撃は人間なら反応することすら不可能な速度に達していた。

 

 

「そこ!」

 

「チィ!」

 

 

しかし、その一撃はペルセウスの持つハルペーが受け止める。

今度は金属の刃同士が真正面から衝突したことで火花が飛び散った。

互いの刃を互いの刃で防ぎ、そのまま押し合う。

 

Cランク筋力+Bランク怪力+二丁の短剣。

 

純粋な膂力勝負であればメデューサが圧倒的有利なはずだった。

それにもかかわらず、ペルセウスは額に汗を浮かべながらも受けに回り、拮抗状態を成立させている。

おそらくは令呪による後押し。

本来以上の出力を強引に引き出しているからこそ成立している均衡だった。

 

するとメデューサはあえてなのかバックステップを取った。

一瞬だけ思案するペルセウス。

だが、その時には既にメデューサは次の手を打っていた。

両腕を横に交差するような動作と共に顔に着けていたバイザー型の仮面を外し、桃みがかった紫色の瞳をさらけ出そうとしていた。

 

 

「まず‥‥‥!」

 

 

それに気付いたペルセウスは反射的に体の上半分、特に顔をアイギスで隠した。

生前に戦った相手だからこそ、この技を知っていたからだ。

 

魔眼による石化。

神代最高峰クラスの魔眼。

生前はキビシスやアイギスによる反射を試したこともあった。

だが結局それらは無意味だと悟り、最終的には衣服を裂いて目隠しを作る羽目になったという過去がある。

仮面を被っているとはいえ相手のそれはA+ランクの魔眼。

視線を完全に合わせなくても効力を発揮する可能性すらある。

だからこそ本能的に防御を選択した。

しかし、それが失策だったと彼は直後に悟ることになる。

 

 

「下ががら空きです」

 

「ブラフ!?」

 

 

何とメデューサは魔眼を発動することなくスライディングしながら突撃して来たのだ。

よく見れば仮面は外しているが瞳に魔眼発動時特有の輝きは見受けられない。

完全な陽動。

 

 

「魔眼は基本通用しないと考えていたので」

 

「ぐっ‥‥‥!」

 

 

強烈な蹴りがペルセウスの脚部へ命中する。

メデューサの全体重と突進力を乗せたそれは凄まじく、衝撃が骨を軋ませる。

 

そのままペルセウスの身体は勢いよく吹き飛び━━

 

 

「おっと」

 

「一緒に落ちましょうか」

 

 

そのまま足場を失い、高層ビルから落下していく。

 

 

「と言っても落ちるのはあなただけですがね」

 

 

そう言ってメデューサはもう片方の鎖付き短剣を引っ張った。

戦いを眺めることしかできなかった士郎たちの視線も自然とその先へ向かう。

鎖が絡み付いていたのは屋上に設置された貯水タンクの鉄骨だ。

 

なるほど、とセイバーが小さく目を細める。

最初から保険を掛けていたのだ。

その鎖をワイヤーフックのように利用することでメデューサは落下せず、ビルの壁面へ張り付いて見せる。

一方でペルセウスは吹き飛ばされた勢いそのままに五十階はあろうかという高層ビルを落下していた。

 

 

さすがのこれに士郎はセイバーにペルセウスを助けることを頼もうとした。その矢先。

 

 

「真名解放━━空駆ける羽のサンダル(タラリア)!」

 

 

ずっと宙を落下していたペルセウスの体が宙に浮いた。

いや、浮いたというよりも宙に足が付くと言った方が正しいだろうか。

 

タラリア。

かつて伝令神ヘルメスからハルペーと共に授けられたサンダル。

その効果は今のように使用者へ空中を地上と同じように踏破する力を与えることにある。

そして━━

 

 

「ハァァァッ!」

 

 

今まさにペルセウスがメデューサへ向かっているように、空中を疾走することも可能となる。

上手く用いればアサシンクラスよろしく空から急襲を仕掛けることもできれば、上空からの監視にも利用できる。

ただ見た目が一般的なサンダルそのものであるため、神話の英雄が身に着ける宝具としては少々場違いな見た目になってしまうのが欠点だが、実戦においては些細な問題でしかない。

 

そして次の瞬間、ペルセウスとメデューサはそれぞれ得物を構え、激しい斬り合いへと移行した。

 

 

「ふっ!」

 

「はぁ!」

 

 

両者は空中を舞うようにして斬り結ぶ。

光が点在する高層ビル群の夜景を背景に、赤と紫の軌跡が幾度となく交錯する。

押し込まれれば高層ビルへ足を付け、その反動を利用して反撃し、僅かな隙を見つければ即座に不意打ちを狙う。

 

 

「ッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

互いが極限の集中状態へ達しているが故に言葉はない。

そこにあるのは生前には果たされなかった、因縁を持った相手との本気の殺し合いだけだった。

 

 

「チッ!」

 

 

ペルセウスの舌打ちと同時にメデューサが踏み込む。

それはもはや突進ではなかった。

捕食者が獲物へ喰らいつく瞬間そのもの。

視界の中にいたはずの彼女が次の瞬間には既に目の前へ到達している━━そんな錯覚すら抱かせるほどの爆発的加速。

ペルセウスの胸倉を掴んだ彼女は、そのまま正面にそびえ立つ高層ビルへと叩き込むように突撃した。

 

 

次の瞬間には轟音と共に強化ガラスが爆散した。

パリンなどという生易しい音ではない。

何十枚もの窓ガラスが連鎖的に砕け散り、無数の破片が夜空へ撒き散らされる。

月光と街灯を反射したガラス片は宝石のような煌めきを放ちながらも、その実態は人間であれば容易く肉を裂き命を奪う凶器だった。

だが神話の怪物と英雄にとって、その程度の危険など存在しないも同然である。

 

ビル内部へ突入した二騎のサーヴァントは勢いを殺すことなくオフィスフロアを一直線に蹂躙した。

床材が剥がれ、机が粉砕され、パーテーションが紙切れのように吹き飛ぶ。

積み上げられていた書類が嵐に巻き上げられた木の葉のように舞い上がり、照明は明滅しながら破裂し、飛び散った火花が夜のオフィスを一瞬だけ戦場へ変えた。

人々が日常を営うために築き上げた空間は、神秘と神秘が正面衝突した余波だけで無残な瓦礫へと変貌していく。

 

まるで暴走する騎兵だった。

否、騎兵など比較にもならない。

 

神話に語られる怪物と英雄、その双方が全力でぶつかり合った結果として生じる破壊そのものが一直線に突き進んでいるかのようだった。

質量による蹂躙ではない。

神代より受け継がれた神秘と伝説、その結晶たる英霊同士が衝突した結果として生まれる純粋な暴力。

それが建築物という建築物を引き裂きながら突き進んでいた。

 

 

「ぐっ‥‥‥!」

 

押し込まれるペルセウス。

だが英雄はその程度で崩れない。

胸倉を掴まれたまま腹部へ膝を叩き込み、肘を振り抜き、拘束をこじ開けようと足掻く。

鋼鉄すら歪ませる一撃が何度も叩き込まれる。

常人であれば肉片一つ残らず消し飛ぶ威力。

しかし相手もまた常人ではない。

 

そして僅かに生まれた隙。

その一瞬を逃さずハルペーが閃いた。

銀光、狙うは首。

 

生前と同じく、一撃で全てを終わらせるための斬撃。

怪物殺しの英雄として幾度となく振るわれてきた刃は、一切の躊躇なく必殺の軌道を描く。

その斬撃に技術的な美しさなど存在しない。

あるのはただ相手を確実に殺すためだけに研ぎ澄まされた殺意のみ。

 

しかしメデューサもまた反応する。

体を逸らす。

刃が喉元を掠める。

鮮血が舞う。

 

赤黒い血が空中へ散り、砕けたガラス片の輝きと交錯する。

あと数センチ深ければ首が飛んでいた。

あと数センチ遅れていれば勝負は終わっていた。

 

それでも致命傷には届かない。

むしろ彼女はそのまま体重を預けるように前進し、ペルセウスを壁へ叩き付けた。

 

コンクリートが砕け、鉄骨が軋む。

衝撃によってビル全体が小さく震えた。

上層階からは警報音が鳴り響き、建材の破片が雨のように降り注ぐ。

だがその衝撃すら利用するようにペルセウスは壁を蹴った。

 

反動、そして跳躍。

再び刃が閃く。

メデューサが飛び退く。

またもガラスが砕け散った。

 

二人は夜の冬木市へ飛び出す。

眼下には新都の灯火。

遥か下方には車のヘッドライトが流れ、遠くには港湾部の明かりが瞬いている。

地上では何万人もの人間が何も知らず日常を過ごしている。

自らの頭上で神話が再演されていることにも気付かぬまま。

 

だがそんな景色を眺める余裕は双方にない。

この瞬間、空そのものが戦場だった。

 

 

「ハァァァァッ!!」

 

 

真名解放されていたタラリアが夜空を蹴る。

空中へ足場を生み出す神代の神具。

大地という概念そのものを空へ持ち込む異常。

本来なら落下以外に存在しない空中を、彼は地上と何ら変わらぬ戦場として扱う。

 

その恩恵を受けたペルセウスの姿が掻き消えた。

余りにも速い。

衛宮士郎には消えたようにしか見えなかった。

 

確かにそこにいたはずの英雄が、次の瞬間には別の場所へ現れ、更にその次の瞬間にはまた姿を消している。

移動の過程を認識できない。

視線で追うことすらできない。

残された結果だけが辛うじて彼の存在を証明していた。

 

セイバーですら視線を動かす。

それほどの速度。

神代の英雄として名を刻んだライダーの本領。

怪物退治を繰り返した勇者の戦闘機動。

空中という本来ならば自由の利かない領域を、彼は完全な地上として扱っている。

左右上下前後の三次元全てを利用した神速機動によって、夜空には赤い残光だけが幾重にも刻まれていく。

それはもはや人間の移動ではなかった。

 

流星が夜空を横切るように。

あるいは雷光が大気を裂くように。

目で追うという行為そのものを否定する速度でペルセウスは戦場を支配していく。

 

 

「そこだ!」

 

 

叫びと共にハルペーが閃く。

肩口、脇腹、背中、太腿。

 

あらゆる死角から放たれる斬撃は決して無秩序なものではない。

一撃目を防げば二撃目が待ち受け、二撃目を躱せば三撃目が命脈を断とうと迫る。

怪物殺しの英雄として数多の経験が、一切の無駄を許さない必殺の連撃となってメデューサへ襲い掛かっていた。

 

 

「━━ッ!」

 

 

鋭く息を呑むメデューサ。視界の外側、背後、頭上、足元━━本来ならば認識そのものが困難な軌道から放たれる刃を、彼女は紙一重の間合いで捌き続けていた。

火花が散る。

金属と金属が噛み合うたび、夜気に散った閃光が瞬き、視界の端を焼く。

 

一度、二度、三度と、連続した衝突音は個別に響くことなく重なり合い、金属の得物特有の衝突音がこだまする。

メデューサが横薙ぎを受け流した、その瞬間にはもうペルセウスの姿はその場から消えていた。残像すら置き去りにする踏み込みだった。

 

 

「はぁッ!」

 

 

爆発するような加速が夜空を裂き、圧縮された空気が悲鳴を上げ、視界そのものが歪むほどの速度で、刺突が一直線にメデューサの眉間へと伸びた。

わずかに首を傾ける。

刃は黒紫の髪を数本だけ断ち切り、そのまま背後へと虚空を貫いた。

だが、それで終わるような攻防ではない。

剣が通過するよりも早く肘が迫り、肘を捌けば膝が割り込む。

膝を避ければ、すでに次の斬撃が空白を埋めている。

 

人間という器の限界を、あえて使い切るための戦闘技術だった。

筋肉、関節、重心移動、呼吸。その全てが殺傷のためだけに最適化されている。

一瞬の停滞すら死に直結する。

だからこそメデューサも止まらない。

攻撃によって攻撃を潰し、防御によって主導権を奪い返す。

 

鎖が夜を裂いて唸りを上げる。

空間を薙ぎ払う鎌状の一撃が弧を描き、高層ビルの外壁を削り取りながらペルセウスへと殺到した。

しかしペルセウスは、そこでも止まらない。

最小限の動作だけで身体を捻る。

ただそれだけで、必殺の一撃は軌道を外される。鎌は虚空を裂き、遥か後方のビル群へと衝突してコンクリートを抉った。

 

次の瞬間には、ペルセウスはすでに壁面を蹴っていた。

轟音が都市を揺らす。コンクリートが崩壊し、蜘蛛の巣状の亀裂が一気に広がり、破片が夜景へと降り注ぎ、光を反射しながら散っていく。

そしてその刹那には、彼はすでにメデューサの懐へと踏み込んでいた。

 

最初の意趣返しと言わんばかりに、あまりにも速い剣閃が奔る。

紫電にも似た一撃が夜空に線を刻み、視界を裂く。

 

メデューサは短剣を交差させて受け止めた。

激突した瞬間、凄まじい衝撃が腕を貫く。骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。

それでも完全には殺し切れない。

身体ごと弾き飛ばされる。

 

今度もガラス張りの高層ビルへと叩きつけられ、外壁が粉砕される。無数の破片が月光を反射し、流星のように夜景へと舞い散った。

だが着弾の瞬間からすでに、メデューサは体勢を立て直していた。

砕けた壁面を足場に変え、即座に蹴り出す。

 

爆発的な再加速。再び二つの影が夜空へと跳び上がる。

 

 

━━交錯

 

 

衝突が都市の地面に近くなった場所、圧縮された空気が解放されて暴風となり、周囲のビル群を揺らした。

窓ガラスが一斉に震え、広告モニターが明滅する。

地上の人間たちは理由も分からぬまま空を見上げる。

しかしそこにある現象の正体を理解できる者はいない。

 

そこにいるのは、人間の理解を超えた存在同士の戦いだからだ。

剣と短剣。英雄と怪物。

神話に刻まれた因縁と宿命が、現代都市の夜空で再演されている。

 

斬る、防ぐ、躱す、撃つ、叩き込む、崩す、奪う、殺す。

それらすべてが超高速で循環し、時間の概念そのものを圧縮していく。

一秒の中に、死が幾度も交差する。

もはや常人の視覚では追えない。夜空に時折走る火花と、遅れて届く衝撃音だけが、戦闘の痕跡として残る。

しかし当人たちにとっては、そこに一切の余白など存在しない。わずかな判断の遅れ、迷い、あるいは呼吸の乱れ━━そのすべてが即死へと直結する。

だからこそ両者は、世界そのものを切り捨てるように集中していた。夜景も、風も、月光も、その意識の中から消え去っている。

互いだけが存在し、互いだけが世界の中心となる。

 

そして数百にも及ぶ攻防の果て、再び刃と刃が正面から衝突した。

爆ぜるような火花が夜空に巨大な花弁を描き、衝撃が二人を同時に弾き飛ばす。

影は流星のように離れ、それまで続いていた死闘は、嘘のように途切れた。

風だけが吹いていた。

 

やがて互いの斬撃合戦がピタリと止まり、ペルセウスとメデューサはそれぞれ違う高層ビルの屋上へと移していた。

等間隔、同高、同色で互いにその姿を見れるそれなりに広い屋上だ。

 

 

「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥」

 

「すぅ‥‥‥はぁ‥‥‥」

 

 

両者ともに、その姿はもはや満身創痍と呼ぶに相応しいボロボロの状態だった。

血のように見える霊力が滲み、衣装は戦闘の痕跡を隠しきれず裂けていた。

それでも、視線だけは一切死んでいない。

 

 

「随分と、変わりましたね‥‥‥ペルセウス」

 

「そう、かな。これでも精神はメデューサ退治(あの時)と同じで、一人の英雄として完成した頃ではないんだけどね‥‥‥」

 

 

途切れ途切れの言葉。

呼吸の合間に紡がれる会話は、もはや斬り結びよりも鋭い。

仮面は、もう互いに外されていた。

それは油断ではなく、遮蔽の放棄。

英雄としての虚飾を剥ぎ取った剥き出しの戦いへの移行だった。

そこには駆け引きではなく、純粋な決着だけがある。

 

 

「いいえ、180度その性格が変わってますね。あの時の好青年とは思えないようなほど‥‥‥覚悟と後悔が混ざり合い、悲しみに暮れているような‥‥‥」

 

「‥‥‥。」

 

「的を得ていた、ようですね」

 

 

言葉は刃ではない。だが、核心を突いた一言はそれ以上に深く刺さる。

ペルセウスは一瞬だけ目を伏せる。

否定も肯定もできない沈黙だった。

 

2000年の聖杯戦争。

マスターとの約束。

英雄としての選択。

救済の不在と、結果として生まれた後悔。

 

すべてが、ひとつの矛盾として今も彼の内部に残り続けている。

 

 

「‥‥‥合ってるよ」

 

「?」

 

「根っからの英雄で、感じ入った物事にとことん尽くす性格だから、生前も…仮初の命を宿す時もずっと仮面(ペルソナ)を被ってた」

 

 

淡々とした語り口。

だがその奥には、長い時間を圧縮した重みがあった。

 

 

「あの時も心の奥底では君を救いたかった、けどワタシは死という救済しか答えられなかった」

 

 

その言葉に、メデューサは何も返さない。

ただ、風が通り抜けるような沈黙だけが戦場を支配する。

 

英雄とは何か。

救済とは何か。

そして、それが届かない相手に向けられた時、どこへ行き着くのか。

 

ペルセウスの行動原理は、結局のところ一点に収束していた。

「英雄であること」から逃れられない存在。

理想像になることを選んだのではない。

そう“在らざるを得なかった”。

 

かつてのメデューサ討伐もまた、完全な正義ではなかった。

元はと言えば執念深い異母姉(アテナ)の不行跡から始まり、さらに彼女(メデューサ)を殺すためにペルセウスに道具を貸し出すという完全なるマッチポンプだった。

ギリシャ神話特有の倫理・価値観の歪み、因果の不均衡、そして“救えたかもしれない可能性”だけが、彼の中に棘として残り続ける。

 

 

「━━でも‥‥‥結局進むしかないんだよね。その場でずっと立ち尽くしても、何も始まらない、進まなきゃ何も始まらないんだ」

 

 

言葉は自分自身への確認でもあった。

止まることは思考ではなく停滞であり、英雄に許されるのは“選び続けること”だけだ。

 

間違った道に行けば指摘してくれる者もいる。

止める者もいる。

それでも、選択の終着点に立つのは常に自分だ。

 

 

 

ライダー(メデューサ)、次の一撃で決めようか」

 

「いいでしょう、ライダー(ペルセウス)

 

 

互いの声は静かだった。

だがその静寂の内側には、すでに限界まで研ぎ澄まされた殺意と覚悟が収束している。

次の衝突で終わることは、双方ともに理解していた。

 

 

「令呪で命じる━━ペルセウスを倒せ、メデューサ(ライダー)!!」

 

「シンジ‥‥‥!」

 

「ふん、全力で戦いたいんだろ。だから‥‥‥見せてやれ!」

 

 

書物に載っていた令呪が一画、焼き切れるように消失する。

それをしたのは慎二だ。

その表情は、先ほどまでの歪みをいつのまにか脱ぎ捨てていた。

 

なぜ彼がこんな行動を取ったか。

それは他の観戦していた士郎やセイバーにも言えることだが、この戦いに魅入られていたのだ。

 

神話の再臨である上、互いに相手を理解した上で成立する戦い。

互いに端末ではあるが、それでもそこに居る者の意志は本物だ。

 

その瞬間、メデューサの霊基に爆発的な強化が走った。

拘束が外れたのではない。

むしろ“最後の枷”が戦意へと変換されたような増幅。

 

 

「これで互いにイーブンでしょう?」

 

「なるほど、令呪を使っていたのはお見通しだったか」

 

 

皮肉でもなく、敵意でもない。

ただ純粋な理解がそこにある。

生前にはあり得なかった形の邂逅。

殺し合いでありながら、同時に最も誠実な対話でもあった。

 

メデューサは静かに血を指先でなぞる。

霊力を含んだ血液が地面に紋を描き、即座に魔法陣として成立する。

 

ペルセウスは口笛を吹いた。

それは言語ではなく、契約の呼び水。生き物へと届く、原初の呼び声。

 

 

 

 

『『ヒヒィィィンッ!!』』

 

 

 

 

空気が裂ける。

二重に響いた嘶きは、空間そのものを震わせた。

 

白銀の翼。

純白の躯体。

神話の具現である飛翔する獣(ペガサス)が、同時に現界する。

 

 

「ふふ、やはり同じ選択肢を取るようですね」

 

「ああ、お互いペガサス(これ)に逸話があるように。そして、それに付随するかのように‥‥‥」

 

 

二騎の手には、同じ『黄金の手綱(・・・・・)』が握られている。

それは単なる騎乗具ではない。神話が『支配』ではなく『結合』として昇華した象徴。

 

 

「同じ宝具‥‥‥!」

 

 

セイバーの声が、わずかに揺れる。

それは理解ではなく、神話構造そのものへの驚嘆だった。

 

同一の逸話ではるが、異なる解釈。

それでも同じ結末へ収束するもの。

 

ペルセウスとメデューサ。

討伐者と被討伐者。

しかし同時に、ペガサスという媒介を通じて交差する運命の循環。

 

 

「宝具/装着」

 

 

同時に騎乗。

同時に接続。

同時に、神話へと戻る。

 

黄金の手綱が霊基へと絡みつき、騎乗という行為そのものが戦闘へと転化される。

 

 

 

「優しく、そして綺麗に蹴散らしてあげましょう━━」

 

 

 

「全てを薙ぎ払い、蹂躙せよ━━」

 

 

 

互いの言葉は対照的でありながら、本質は同じだった。

この戦いを終わらせるという一点において、完全に一致している。

 

だからこそ彼/彼女は其の手に持つ黄金の手綱の名前を叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「騎英の手綱(ベルレフォーン)ッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、世界が白く塗り潰される。

突貫という概念そのものが光速へと変換され、視界は存在意義を失う。

 

流星。

いや、それ以上に暴力的な神話の再演。

 

二度、三度。

衝突のたびに空間が軋み、夜空が裂ける。

 

そして━━

 

星の散りばめられたはずの夜が、

白い光に飲み込まれていく。

 

その瞬間だけ、世界は終わりの形を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光が晴れる。

そこにはペルセウスとメデューサが背を向けるようにして立っていた。

舞台は観戦者たちが身を潜めていた高層ビルの屋上。

先ほどまで夜空を翔けていたペガサスの姿は既にない。

互いに宝具の真名を解放し、持てる力の全てをぶつけ合った結果だった。

両者共動いていない。

 

 

「「「‥‥‥‥‥‥」」」

 

 

観戦している者たちは誰一人として口を開かなかった。

ただ目の前の光景を見つめている。

彼らが最も知りたいのは勝者はどちらなのかという一点のみだった。

 

静寂が流れ、夜風だけが屋上を吹き抜けた。

そして、次の瞬間━━

 

 

「グ、フッ゛‥‥‥!」

 

 

鮮血が宙を舞った。

片方が血を吐き出し、そのまま力尽きたように仰向けへ倒れ込む。

 

そこに倒れた/立っていたのは━━━━

 

 

 

 

 

━━━━メデューサ/ペルセウスだった。

 

 

 

 

 

メデューサはまるで糸が切れたマリオネットかのようにその場で膝を落とし、そして仰向けに倒れ込んだ。

吐血し、腹部からも大量の出血が続いている。

霊基そのものが致命傷を負っていた。

 

ペルセウスはメデューサへと近寄る。

既にメデューサの命脈を破いたのは分かっていた。

彼女が自分に対して最後の悪あがきをするタチではないことを知っていたがために近寄った。

だが、ペルセウスも先の宝具の打ち合いでボロボロの体だ。動きが鈍い。

 

 

「‥‥‥はぁ‥‥‥結局、私は‥‥あなたに倒される、運命‥‥‥ごふっ‥‥‥!」

 

「メデューサ‥‥‥(ワタシ)のことを恨むなら、恨んでくれていい」

 

 

互いにすべてを出し尽くした故、言葉を紡ぐのも精一杯だ。

メデューサは己の運命に嘆き、ペルセウスは自分よりも彼女の感情を優先した。

 

 

「━━やはり、随分と変わりましたね。ペルセウス。これだけは言っておきます‥‥‥私は、別に恨んでなどいませんし‥‥憎しみも抱いて、ません」

 

「‥‥‥!」

 

 

予想外の言葉だった。

責められる覚悟はあった。

罵倒されても受け入れるつもりだった。

だが返ってきたのは恨みでも怒りでもなかった。

 

 

「神々に唆され、た‥‥あなたの立場が、分からないとでも?」

 

「‥‥‥。」

 

 

かつてのペルセウスもまた神々の思惑によって動かされた存在だった。

英雄として讃えられながら、その実、神々の都合によって人生を翻弄された被害者でもある。

メデューサはそれを理解していた。

好意を抱いているわけではなく、むしろ苦手な相手だ。

だが憎むこともできなかった。

因縁の相手でありながら、彼の境遇を理解できてしまう。

それが今の彼女だった。

 

 

「にしても‥‥‥あの時の青年がこうも成長するとは‥‥‥」

 

 

遠い神代の記憶が脳裏を過る。

例えるなら「成功したシンジ」とうべき人だった彼がこうも成長するとは。

と、メデューサは小さく笑った。

そして静かに言う。

 

 

「最期に、一つ。その謝罪ということで、頼みを引き受けてくれませんか‥‥‥」

 

 

ペルセウスは黙って話を聞く。

メデューサは続けた。

 

 

「サクラを‥‥私のマスターを助けて、ほしいです」

 

 

メデューサが述べたのは最初のマスター、召喚者であるサクラを助けて欲しいというもの。

自宅で亡霊のような蟲に拷問に遭っているから救ってほしいというもの。

これに一切の迷いなく、ペルセウスは即答する。

 

 

「分かった。その願い、引き受けた」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、メデューサの表情から僅かな力が抜けた。

皮肉なことに結末は生前と同じペルセウスに敗れたというもの。

だが不思議と怒りも悲しみもなかった。

胸の中にあるのはどこか晴れやかな感情だけ。

互いに全力を尽くし、全てをぶつけ合った。

だからこそ悔いがないのだろう。

 

 

「あぁ、それと‥‥‥学校の件は私が、独断でやったこと‥‥‥ですので」

 

「‥‥‥そういうことにしておくよ」

 

 

短い会話が終わった。

やがて彼女の身体が淡い光を放ち始める。

エーテルの粒子となった身体が夜空へ溶けていく。

夜の静けさを残して‥‥‥。

 

 

「ふ、ぅ‥‥‥」

 

 

メデューサの最期を見届けたペルセウスは今にも倒れそうだった。

ゆらりと前に倒れそうになる。

しかし、彼が地面へ倒れ込むことはなかった。

 

 

「よっと‥‥‥」

 

 

誰かが支えたからだ。

肩を掴み、その身体を受け止める。

士郎はその人物を知っていた。

 

 

「鬼灯、先生‥‥‥」

 

 

もう一人、聖杯戦争の関係者として名が挙がってた鬼灯先生だった。

彼の左手には赤く光る令呪が見える。

つまりは聖杯戦争に参加していた魔術師。

 

 

「気分は晴れたか?」

 

「‥‥‥ああ、晴れたよ」

 

 

この問いにペルセウスは静かに答える。

長きに渡る因縁。

神代から続いていたわだかまり。

少なくとも生前のわだかまりはなくなった。

肩でペルセウスを持ち、そのまま彼は進んだ。

そして観戦していた士郎たちへ視線を向けた。

 

 

「鬼灯先生‥‥‥」

 

「そうだね‥‥‥話をしようか衛宮君。そして、セイバーのサーヴァント」

 

 

 

 




今回のまとめ:


ペルセウス:なんだかんだでメデューサの境遇に対して思うことがあったので蟠りの一つが解消されてスッキリした。なお、アテナへの認識は「機嫌を損ねたらヤバいタイプの女性」である。

メデューサ:退場した者。自分を打倒したペルセウスならマスターを救ってくれるだろうと頼んだ。何だかんだ責任を全て背負った。

慎二:歪みを脱ぎ捨てたとか語っているが、本編で語らない裏設定を含めて話すと、抑止力のバタフライエフェクトが急に発生してインテルが入った。なので第三者から見れば「何か急に覚醒したヤバい奴」である。そのせいなのかなぜか急に魔術への興味が冷え失せた。

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