パーフェクトゲームを目指すには!   作:メタ(ル)

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「おはよー、マスター。ちょっとしばらくの間は怠惰な私しか動けないからよろしくー」

「大丈夫なのか?」

「一応はね。でもやることが終わったらすぐに下がって他二人格に引き受けてもらってる呪いの治療に専念するから」

「了解。魔力は令呪で補う感じだな?」

「そのためにも二画譲ってねー」


感想頂けると幸いです。
励みになります。





ⅩⅪ 解読と千年樹

柳洞寺の総門前は、異様なほど人影がまばらだった。

静寂だけが山門へと続く石段を包み込み、夏の風が木々を揺らす音だけが耳へ届く。普段であれば参拝客や寺の関係者の気配があって然るべき場所であるにもかかわらず、この場には生者の営みを感じさせるものが何一つ存在しない。

 

 

「人払いは済ませてるわ。勿論、寺内に住んでる人たちも」

 

 

凛は周囲を警戒しながら静かに告げた。

その言葉通り、この一帯から一般人の存在は完全に排除されている。

まるで世界そのものが柳洞寺だけを切り離したかのような静けさ。

しかし、それは決して平穏を意味してはいない。

人の気配が消え失せた代わりに、この場には人間では到底知覚できないほど濃密な魔力が渦巻いていた。

 

参道の石畳、木々の根元、石灯籠、山門の柱、果ては吹き抜ける風にすら夥しい魔力の残滓が染み付き、幾重にも積み重ねられた術式の痕跡が視界を埋め尽くしている。

長期間に渡って張り巡らされた結界。

数え切れない魔術式。

そして侵入者を拒絶する防衛術式。

柳洞寺そのものが、一つの巨大な魔術工房へと変貌していた。

 

本来であれば山を迂回するという選択肢も存在する。

だが、この地に敷設された異常な規模の術式がそれを許さない。

参道から外れた瞬間、サーヴァントはまるで見えない壁に阻まれるように進めなくなる。

地形を利用した結界なのか、それとも寺域そのものを書き換えるほどの領域支配なのか。

理由は判別できない。

分かるのは、この参道だけが侵入を許された唯一の道だという事実だけだった。

 

元より柳洞寺は聖杯戦争において最高峰の霊脈を有する土地。

拠点として選ばれること自体は何ら不思議ではない。

だが、今やその優位性は常識の範疇を遥かに超えていた。

 

今この場に集うのは三騎士に加え、バーサーカー。

通常の聖杯戦争であれば、これだけで勝利は目前と言って差し支えない戦力だ。

どれほど強力な陣営であろうと、この布陣を正面から迎え撃つなど自殺行為に等しい。

 

━━だが、それでも。

誰一人として勝利を確信している者はいなかった。

それほどまでに、柳洞寺へ陣取る同盟は規格外だった。

無制限とも思えるサーヴァント召喚。

底の見えない戦力。

そして何より、その目的すら誰にも見えていないという不気味さ。

重苦しい空気だけが、その場を支配していた。

 

 

「!」

 

「来た!」

 

 

誰かが鋭く声を上げる。

全員の視線が一斉に山門へ向けられた。

ゆっくりと石段を下りてくる一人の男。

灰色のローブを羽織り、肩の力を抜いたような歩調でこちらへ向かってくるその姿は、まるで戦場へ現れる人物とは思えないほど自然体だった。

 

偽のキャスター。

最初に応戦して以来姿を見せていない謎の男である。

 

 

「やぁ、皆揃ってどうしたんだい?」

 

 

まるで偶然出くわした知人へ挨拶でもするような気軽さ。

その飄々とした笑みには警戒も焦りも敵意も存在しない。

だからこそ、不気味だった。

 

その態度を見かねたセイバーが一歩前へ出る。

鋭い眼差しを向けたまま、低く言い放った。

 

 

「キャスター。貴様が他の陣営やルーラーと共謀し、サーヴァントを無制限に召喚するというルール違反を犯していることは、この場の全員が承知している」

 

「それで?」

 

 

まるで続きを促すような軽い返答。

セイバーは眉一つ動かさない。

 

 

「にも関わらず、貴様たちは勝利そのものに執着していない。……いや、正確には違う」

 

 

一度言葉を切り、静かに相手を見据える。

 

 

「毎回、勝てる局面で必ず撤退している」

 

 

その一言で場の空気がさらに張り詰めた。

違和感。

それは戦いを重ねるたび、少しずつ積み重なってきたものだった。

 

何度も交戦した。

その度に相手は圧倒的な戦力を見せつける。

にもかかわらず、決着寸前になると必ず退く。

勝てる戦いを、自ら放棄する。

まるでこちらを殺さないように調整しているかのように。

 

いや、もっと正確に言えば━━。

こちらへ経験を積ませている。

成長させている。

そんな印象すら抱かせる戦い方だった。

 

そして、その傾向は偽キャスター陣営だけではない。

アーチャーが二騎存在した陣営。

真のセイバーと真のアーチャーが所属していた陣営。

彼らもまた、決定打を放たず撤退している。

偶然とは考え難い。

もし別陣営であるなら、誰か一人くらいは勝利へ執着するはずだ。

つまり━━。

全員が同じ意思で動いている。

そう考えるのが最も自然だった。

 

セイバーは剣を握る手に力を込める。

 

 

「戦う前に聞きたい」

 

「貴様らの目的は何だ?」

 

 

その瞳は微塵も揺らがない。

その問いは、この場にいる全員が胸の内へ抱いていた疑問だった。

敵でありながら敵らしくない。

勝てるのに勝たない。

底知れない戦力を持ちながら、決して戦争を終わらせようとしない。

その理由、目的。

全ての答えが、この一問へ集約されていた。

 

しばしの沈黙。

やがてキャスターは肩を竦め、小さく笑う。

 

 

「キャスターという単語の意味を知ってるかい?」

 

「?」

 

 

あまりにも唐突な問い返し。

一同が怪訝な表情を浮かべる中、彼は穏やかな口調のまま続けた。

 

 

caster(配役する者)。その意味から分かるように、聖杯戦争という物語の役回りを指名する、陰の舞台監督という役を演じるクラスだ」

 

「つまり貴様は私たちの戦いを、一種の舞台として愉しんでるという訳か?」

 

 

アーチャーが半ば呆れたように笑う。

キャスターは愉快そうに目を細めた。

 

 

「そこまで分かっちゃうか。フフ、さすが無銘の弓兵」

 

「話を逸らすな」

 

 

セイバーの声だけが冷たい。

 

 

「もう一度問う。━━貴様らの目的は何だ?」

 

 

明らかだった。

今のやり取りは意図的に論点をずらしている。

質問へ答える気がない。

その事実を、この場の全員が理解した。

それでもキャスターは悪びれる様子もなく肩をすくめる。

 

 

「まあいいや」

 

 

その笑みが少しだけ深くなる。

 

 

私の目的(・・・・)は、舞台装置(マクガフィン)として━━キャスターを演じる(羽織る)事」

 

「!?」

 

 

またしても答えになっていない。

セイバーが詰問しようとした、その瞬間だった。

 

 

「‥‥‥っ!」

 

 

凛の表情が一変する。

困惑でも怒りでもない。

純粋な驚愕。

隣の士郎も、サクラも、イリヤも。

一様に目を見開いていた。

 

その異変だけは、サーヴァント達には理解できない。

何が起きたのか。

誰一人として分からなかった。

それも当然だ。

今、この場で起きている現象を知覚できるのは、かつてマスターとして聖杯戦争へ参加した者だけなのだから。

 

凛が震える声で叫ぶ。

 

 

「ステータスが‥‥‥切り替わってる!?」

 

「何だと?」

 

 

その一言で空気が凍り付いた。

サーヴァント達が一斉にキャスターを見る。

しかし外見に変化はない。

魔力の総量も大きくは変わらない。

それでも凛達には見えていた。

ステータスがまるで別人へ入れ替わるかのように、一瞬ごとに変化し続けている。

 

マスターには、聖杯戦争が終結するまで契約したサーヴァントのステータスを閲覧する権限が与えられる。

真名が秘匿されていたとしても、その能力値を基準に戦術を組み立てられるよう設けられた、聖杯戦争の基本機能。

それは絶対だった。

宝具で能力値を上昇させることはある。

一時的な補正も存在する。

だが、霊基そのものを書き換えることなどあり得ない。

クラスさえも含めたステータス全体が、次々と別物へ切り替わるなど━━。

そんな現象は、聖杯戦争の根幹そのものを否定する、あり得ない異常だった。

 

 

「ステータス偽造。本職の奴らだったらクラスまで偽造するほどのクラススキル(・・・・・)だけど、私ができるのはあくまでステータスの偽装のみ」

 

「クラススキルだと!?」

 

 

セイバーの声音が一段低くなる。

それは驚愕というよりも、目の前で提示された事実を到底受け入れられないという反応だった。

他のサーヴァント達もまた一斉に警戒を強める。

アーチャーは静かに男を観察し、バーサーカーですら僅かに身構えていた。

 

おかしい。

クラススキルというものは、サーヴァントが召喚されたクラスに付随する能力だ。

所謂クラス別スキル。

 

セイバーであれば対魔力や騎乗。

アーチャーであれば単独行動。

ランサーならば対魔力。

ライダーなら騎乗。

アサシンなら気配遮断。

バーサーカーなら狂化。

そしてキャスターであれば陣地作成と道具作成。

それ以外は存在しない。

少なくとも、これまでの聖杯戦争においてその認識が覆された例など一つとしてなかった。

 

ましてやステータスそのものを自由自在に偽装する能力など聞いたこともない。

能力値を一時的に上下させる宝具やスキルなら存在する。

だが、閲覧されるステータスそのものを書き換えるなど、聖杯戦争というシステム自体を欺く行為に等しい。

そんな芸当が可能ならば、サーヴァントの情報戦そのものが成立しなくなる。

 

しかし、目の前の男は、それを当然のように「クラススキル」と言ってのけた。

まるで、それが常識であるかのように。

 

 

「キャスター、貴様は何者だ?」

 

 

セイバーは一歩踏み出し、鋭い視線を突き刺す。

 

 

「フフ‥‥‥よくぞ聞いてくれた」

 

 

その問いを待っていたと言わんばかりに、男は愉快そうに笑った。

そして、おもむろに肩へ掛けていた灰色のローブへ手を掛ける。

布地が音もなく滑り落ちる。

その下から現れたのは、黒を基調とした瀟洒なコート姿。

まるで舞台役者が衣装替えを終え、本番へ臨む瞬間のようだった。

 

男はくるりと一回転し、大袈裟なほど芝居がかった動作で両腕を広げる。

まるで観客へ名乗りを上げる役者。

あるいは劇場の中央で喝采を待つ主演俳優。

口元には楽しげな笑みが浮かんでいた。

 

 

「私の名はダンテ、ダンテ・アリギエーリ」

 

 

彼は胸へ手を当て、優雅に一礼する。

 

 

「聖杯戦争においてエクストラクラス━━プリテンダーで召喚された者さ」

 

 

 

 

 

━━真名解読。

 

 

その瞬間だった。

隠されていた霊基情報が解放され、彼の真名とクラスが完全に開示される。

今まで霞が掛かっていたステータスが、一斉に鮮明となって凛達マスターの視界へ映し出された。

 

 

「!」

 

「これが‥‥‥本当のステータス‥‥‥!」

 

 

士郎が息を呑む。

サクラも目を見開き、イリヤは興味深そうに細部まで視線を走らせていた。

真名が告げられたことで、ようやく偽装ではない本来の能力値が確認できる。

だが、彼から語られたクラス名だけは、誰一人として理解できなかった。

 

プリテンダー━━詐称者。

そのクラス名が明かされた瞬間、この場にいた全員が言葉を失った。

誰も見たことがない。

誰も聞いたことがない。

魔術協会に保管される膨大な資料にも、遠坂家が代々蓄積してきた聖杯戦争の記録にも、アインツベルンが第三魔法の完成を目指して積み重ねてきた研究資料にも、その名称は一度として登場したことがなかった。

 

七騎士のいずれにも属さず、ルーラーやアヴェンジャーとも異なる未知のエクストラクラス。

その存在自体が、これまで築き上げられてきた聖杯戦争の常識を根底から覆していた。

 

 

「プリテンダーなんてクラス、全く聞き覚えもないわ。少なくとも私が知る限り、そんなクラスは一度も確認されていないわ」

 

「ルーラーやアヴェンジャーなら知っている。でも、それ以外のエクストラクラスが存在する可能性は聞いていても、プリテンダーなんて名前だけは聞いたことがない」

 

「イリヤも知らないのか」

 

「ええ。アインツベルンにもそんな記録は残されていなかった。聖杯を造った側ですら知らないクラスなんて、本来なら召喚されること自体がおかしいはずよ」

 

 

一応、ルーラーやアヴェンジャー以外にもエクストラクラスが存在する可能性については事前に聞かされていた。

しかし、それでもプリテンダーという名称だけは誰一人として知らない。

それは未知というより、この世界には本来存在してはいけない概念が無理矢理持ち込まれたかのような違和感を全員へ抱かせていた。

 

そんな一同の反応を見たダンテは肩を震わせ、小さく笑みを零す。

 

 

「フフ‥‥‥そりゃあ聞き覚えあるはずないよ」

 

 

そう言うと、彼はわざと全員の表情を見回し、一人ひとりが抱く困惑や警戒を楽しむように間を置いてから口を開いた。

 

 

「だってこのクラスは━━ある世界において聖杯戦争で優勝した時計塔のロードが創り出した魔術礼装から生み出されて、最初に発見されたのが2017年だから、ね」

 

 

その言葉が放たれた途端、まるで時間そのものが停止したかのような静寂が場を支配した。

風が止み、誰も口を開かない。

全員が今聞いた言葉の意味を理解しようとしていた。

 

 

「‥‥‥は?」

 

 

最初に声を漏らしたのは凛だった。

士郎も絶句し、サクラも小さく息を呑む。

イリヤでさえ僅かに目を見開き、普段の余裕を失っていた。

 

別世界。

その単語だけならば理解できる。

魔術師にとって平行世界という概念自体は決して荒唐無稽ではない。

その世界でも聖杯戦争が行われ、誰かが勝利したという話までは、辛うじて理屈として飲み込める。

だが、その先が常識を完全に逸脱していた。

 

 

「時計塔のロードが‥‥‥魔術礼装で創り出し、その結果として新しいクラスが生まれた‥‥‥?」

 

「偶然の産物でしかないけどね」

 

 

凛は呆然と呟く。

 

 

「そんなことが可能なの‥‥‥? 魔術礼装はあくまで魔術を補助・拡張する道具のはずよ。それが英霊召喚のシステムそのものへ干渉して、新しいクラスを生み出したなんて話、聞いたこともない」

 

「もしそれが事実なら、召喚術式そのものへ後付けで新たな定義を書き加えたことになる」

 

 

アーチャーも静かに分析する。

別世界においても聖杯戦争が起こり、それで誰かが優勝するというもの分かる。

しかし、優勝したのが現代の時計塔のロードで、その人物が創り出した魔術礼装で生み出されたのがこの未知のエクストラクラスだという。

しかも発見されたのが2017年。今から13年後の未来だ。

 

 

「まさか未来の英霊‥‥‥!」

 

 

士郎が思わず叫ぶ。

英霊の座は時間軸に縛られない。

理論上は未来の存在が召喚されることもあり得る。

だが、未来でしか確認されていない情報を当然のように知る存在となれば話は別だった。

 

 

「早合点してるようで悪いけど、確かに未来で確認されたクラスではある。だけどこの私は未来の英雄なんかじゃない。この私は中世イタリアの詩人ダンテ・アリギエーリが、『神曲』に描かれたダンテという存在を羽織っているだけさ」

 

「羽織っている、だと?」

 

 

ダンテは穏やかな笑みを浮かべたまま静かに首を横へ振る。

続くようにセイバーが僅かに眉を動かす。

 

 

「つまり、貴様は史実の人物でありながら、創作上の自分自身を霊基へ重ね合わせているということか」

 

「そういうこと」

 

 

ダンテは満足そうに頷いた。

 

 

「史実の私だけではなく、『神曲』という物語の主人公である私も同時に成立している。だから私はプリテンダーとしてこの場へ召喚された」

 

 

その説明を聞き、一同はようやくこれまで感じていた違和感の正体へ辿り着く。

彼は史実に名を残した中世イタリアの大詩人ダンテ・アリギエーリであると同時に、自らが著した『神曲』で地獄・煉獄・天国を巡り歩いた主人公ダンテでもある。

現実の作者と創作上の主人公。

二つの存在を同一の霊基へ成立させ、互いを偽り、互いを演じることで成立する英霊。

だからこそ「詐称者」。

だからこそ、キャスターを演じながら本来のクラスを偽装し、ステータスすら欺く資格を持つ。

 

そして、その事実を理解したことで、これまで彼が見せてきた数々の不可解な行動もようやく一本の線として繋がった。

詩人でありながら卓越した剣技を披露していたこと。

キャスターらしからぬ前線での立ち回り。

クラススキルでは説明のつかないステータス偽装。

その全ては、「プリテンダー」という未知のクラスだからこそ可能だったのである。

 

 

「プリテンダーの該当者は結構あってね。かのヨーロッパで暗躍した医師だったり、かの魔術王の従える柱の一柱だったり。ああそう言えば、君がよく知ってる夢魔(マーリン)妖精王と悪魔合体した卑王(オベロン・ヴォーティガーン)とかも該当者だね」

 

「‥‥‥」

 

「‥‥‥待って、貴方がキャスターじゃないってことは」

 

「居るよ。私の居る陣営に偽のキャスターがね。ちなみに君たちが疑問に思ってるであろう蛇魔を操ってたのは真のアサシンだね」

 

 

もう何度目になるのだろう、この驚愕は。

ダンテの口から零れ落ちる事実は、そのどれもが聖杯戦争という常識を根底から覆すものばかりだった。

キャスターだと思われていた男はプリテンダー。

その背後には本物のキャスターが存在する。

そして、あれほど凶悪かつ高度な蛇魔を操っていた存在が、まさかのアサシンクラス。

誰もが一瞬、耳を疑った。

あの蛇魔は、一体につき一流の魔術師でも制御できるか怪しいほど完成された使い魔だった。

魔力容量、戦闘能力、そのどれを取ってもキャスターによる使役と考えるのが自然であり、アサシンという霊基とはどう考えても噛み合わない。

だからこそ、その一言は今まで積み重ねてきた推測を容赦なく粉砕した。

 

 

「フフ、驚きはこれぐらいにして。さてと、ここで種明かしをしよう。ルーラー(ベアトリーチェ)

 

「はぁ‥‥‥何度も言うけど、私はメタトロン‥‥‥何度も言わせないでよー」

 

「えーでもベアトリーチェ度が高いけどねぇ‥‥‥」

 

「元はと言えば汝が‥‥‥いや、お互い様で既に水に流したことだね」

 

「ルーラー‥‥‥」

 

 

静かな光が空間を満たし、一人の天使が姿を現す。

やはり、と言うべきか。

そこに降り立ったのは、裁定者━━メタトロン。

その姿は以前のように神々しい姿や依り代の特徴を受け継いだものとは違い、現代っ子のような幼い子のような姿をしていた。

何とも威厳のあった裁定者とは180度違う姿に一同は困惑する。

しかし視線を交わすダンテとの距離感には、ただの協力者以上の親しさが滲んでいた。

この状況は最初から全て計画されていたのだと、その何気ない会話だけで理解できてしまう。

 

 

「答えよう。私たちがどうやってサーヴァントを複数召喚できたのか。いいよ、始めて」

 

 

その合図を受けたダンテは懐へ手を差し入れる。

取り出したのは、何重にも厳重な封印を施された包み。

そしてもう一つ、複雑怪奇な紋様が刻まれた金属片。

文字的に北欧方面の文字だろうか。

地面へ静かに置かれたそれを見た瞬間、全員の顔色が変わった。

 

 

「あれは‥‥‥」

 

 

思考より先に口が動く。

 

 

「まさか‥‥‥聖杯の欠片!」

 

「ご名答! これは数日前に間桐サクラから摘出した第四次聖杯戦争の聖杯の欠片だ」

 

「!?」

 

 

場の空気が凍り付く。

あり得ない。

第四次聖杯戦争の聖杯は既に破壊された。

そのはずだった。

それだけではない。

サクラの体内に聖杯の欠片が残されていたなど、本人ですら知らない。

 

当然だ。

サクラの体内にあった時は間桐臓硯の本体として動いていたからだ。

包装している理由?

並大抵のサーヴァントでも触れたら一発アウトなぐらいの汚染の残滓が残ってるからだ。

 

誰もが息を呑んだが、その僅かな静寂すら相手は待たない。

 

 

「では━━裁定者メタトロンが告げる。これは聖杯を巡る戦いではない

 

 

その瞬間だった。

何かが変わった。

メタトロンの口調が今までのような口調に変化した。

世界そのものへ裁定が下されたような、言葉だけで現実を書き換える絶対的権能。

何が起こったのか理解できない。

しかし次に続いた詠唱を聞いた瞬間、その意味を誰もが悟った。

 

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。我が命に従うならば応えよ

 

「サーヴァント召喚‥‥‥!?」

 

 

思わず誰かが叫ぶ。

間違いない。

言い回しに違いはある。

だが根幹は、サーヴァント召喚そのもの。

それに気付いた各マスターは、一斉に自らの英霊へ命令を飛ばした。

 

 

「バーサーカー!!」

 

「セイバー、メタトロンへ近付け!」

 

「フフ‥‥‥邪魔はさせないよ。出でよ使い魔たち」

 

 

しかし、その命令は届かない。

ダンテの周囲から無数の魔術陣が展開され、次々と異形の使い魔が現界する。

一体一体が熟練魔術師の切り札級。

それらが壁となって立ちはだかり、英霊たちの突撃を強引に押し留めた。

わずか数秒。

その数秒こそが致命的だった。

 

 

汝は二つの側面を持ち合わせる者。我はその二つの側面を手繰る者━━

 

 

聞き覚えのない一節。

召喚詠唱に、本来存在しない文言。

御三家ですら知らない。

ルーラーだけが知る秘匿術式。

そう結論付けるしかなかった。

 

 

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ━━!

 

 

眩い光が迸る。

魔法陣は無い。

触媒も無い。

それでも世界は応えた。

ルーラーという絶対中立の権限のみをもって、大天使メタトロンは英霊召喚という奇跡を成立させたのである。

 

 

サーヴァント・アサシン、今回はランサーの側面も持って召喚に応じました。まさか私たち(・・・)が大天使に召喚されるなんて‥‥‥珍しいこともあるんですね

 

サーヴァント・ライダー、二重召喚(ダブルサモン)としてキャスターの側面も合わせて持ってきました。あら、久しいじゃない━━

 

 

現れたのは四騎(・・)

 

まず三騎。

白鳥を連想させる純白の法衣。

光翼を背に広げ、盾と槍を携えた少女たち。

その佇まいだけで神聖さが伝わる。

まるで天使そのもの。

いや、むしろ人が天使を形にしたならこうなるだろうという理想像だった。

 

そして最後の一騎。

聖堂教会風の修道服であるがややボロボロな見た目や独特の装飾からカトリック教会に見られるスカプラリオと呼ばれる衣装を纏う美貌の少女。

穏やかな微笑みを浮かべながらも、感じるのはある種の狂気だ。

 

四騎。

その全員が、通常では有り得ない霊基構造を持っていた。

 

 

二重召喚(ダブルサモン)、二つのクラス別スキルを同時に保有できる極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性。あるルーラーのサーヴァントが編み出した呪文を参考にして意図的に二重召喚ができるように改良を加えた呪文なんだけどね」

 

 

誰も知らない。

御三家すら知らない。

つまり、この知識はルーラーだけが知っていた聖杯戦争を有利に進めるための内容だ。

 

 

「君たちの相手を務めよう。ただし━━こっちの数的有利を押し切ればの話だけどね」

 

 

パチン。

 

軽快な指鳴らしが響く。

その音を合図にするように、周囲の空間が次々と歪んだ。

霊体化していた英霊たちが、その姿を現していく。

 

最初に姿を見せたのは真のライダー━━ペルセウス。

続いて真のバーサーカー━━切り裂きジャック。

そして最後に、見覚えのない二騎が静かに前へ歩み出た。

 

 

「我は真のアサシンだ」

 

 

低く響く男の声。

蛇を思わせる灰色の装束。

全身を覆う忍装束の隙間から覗く鋭い眼光は、獲物を狩る毒蛇そのものだった。

気配は希薄。

しかし、その存在感だけが異様に濃い。

 

 

「そんでオジサン(・・・・)が真のランサーだ」

 

 

もう一人は対照的だった。

赤いマントを豪快に翻し、黒と黄金を基調とした長い槍を肩へ担ぐ壮年の男。

豪放磊落な笑みを浮かべながらも、その肉体から放たれる圧力は歴戦の英雄そのもの。

ただ立っているだけで、周囲の空気が張り詰める。

 

圧倒的な数。

しかも、その多くが常識外れの二重霊基を持つ特殊召喚。

 

 

「裁定者メタトロンがこの場の同陣営のサーヴァントに命じます━━」

 

 

第五次聖杯戦争。

それは既に消え失せたと言っても良いだろう。

聖杯戦争の均衡は、この瞬間をもって完全に崩壊した。

今夜繰り広げられるのは

 

 

「その力を遺憾なく発揮しなさい!」

 

 

 

剣、弓、狂

VS

槍、騎、殺(槍)、殺、狂

サポート:詐、騎(術)

 

 

本来は起こりえなかったはずの大決戦である。

 

 

 




今回のまとめ:

ダンテ:これがやりたかった。他のプリテンダーはちゃんと役を隠してたのに自分だけそういうことがなかったからやりたがってた。満足している。

メタンヌ:滅茶頑張った大天使。メディアの治療と何とか呪いを他二人格に一先ず請け負ってもらうことで怠惰な状態で動けはする状態になった。なお下がりはしたもののまだやることがある模様。

真のランサー:一人称がオジサン、赤いマント分かるようにセイバー適性を持ってる防衛最強の彼。召喚者がメディアであるのは実はヒントになっていて、原作メディアはアサシンを召喚した経緯が防衛できるサーヴァント欲しさだったから(この世界線は願ってない)とはいえ召喚された。召喚当初は「何で今更‥‥‥」と額に手を当てるメディアの姿が。


メタンヌが召喚したあれはアポで天草及びおシェイがやってた(ジルの)違法召喚の上位互換です。
全容を語っていない二重召喚のルールを把握しているため、ここで相良君がなぜ失敗したのか答え合わせの意味合いも込めて本来呪文と使用するサーヴァントのクラスを披露してます。
召喚されたのはアサシンとライダー‥‥‥。


アサシン:

・ランサーのクラス特性を持つ
・三騎一組
・既に分かるように某北欧の戦乙女
・中身の霊基はオリジナルサーヴァントだが(総称の)真名・能力は同じ


ライダー:

・キャスターのクラス特性を持つ(というか逸話的にどう考えてもキャスター)
・オリジナル設定はあれど実は既存のサーヴァント
・意図的に隠してる情報(大ヒント)はある
・詳しい情報は次回


感想で解答を書いても構いません。
特にライダーはノーヒントで解けたら凄い。


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