中盤のみAIに任せすぎたせいでなんの面白みも無いです。
追記:
さすがにあれだったので大幅に戦闘シーンに書きなおしました。
具体的にはジャック&ペルセウスVSヘラクレス戦です。
「早速だが、使わせてもらうとしよう━━
「いきなり宝具!?」
開戦の狼煙が上がるや否や、真っ先に動いたのは真のバーサーカーだった。
普通ならば敵戦力を見極め、互いに探り合いを行ってから切り札を切る。
しかし彼にはそのような駆け引きをする意思など最初から存在しない。
周囲には既に幾人もの変装体が本体を護衛するように並び立ち、その全員が同時に動き出すことで本物を判別できない布陣を完成させている。
その中心に立つ真のバーサーカーが静かに真名を解放した瞬間、周囲の景色が音もなく異変を起こした。
空気が重く沈み、視界全体が赤黒い色彩へと侵食されていく。
まるで空そのものへ血が滲み出したかのような禍々しい色合い。
足元からは焼け焦げた土の臭気が立ち昇り、肌を撫でる風は熱気を孕みながら、どこか人の怨嗟にも似た不快な囁きを運んでくる。
「固有結界‥‥‥いや、違う」
その異変を目にした誰かが思わず呟く。
確かに世界を書き換えているように見える。
しかし、これは固有結界とは決定的に異なる。
固有結界は術者の心象風景を現実へ侵食させる大魔術。
対して今、この場に広がっているものは、術者の心ではなく逸話そのものが現実へ顕現した概念空間だった。
地獄。
それ以外に表現する言葉が見つからない。
灼熱の熱気が肌を焼き、息を吸うだけで肺の奥まで硫黄の臭いが入り込む。
周囲には形にならない恐怖と悪意が渦巻き、その場に立つだけで精神を蝕まれていくような圧迫感が漂っていた。
そして、その異様な空間の中心で真のバーサーカー自身にも変化が訪れる。
全身の霊基が軋むように変質し、背中から巨大な漆黒の翼が突き破るように広がる。
額には禍々しい角が生え、瞳は鮮血を流し込んだような深紅へ染まり、全身から放たれる魔力までもが人ならざるものへ変貌していく。
「あ、くま‥‥‥」
誰も否定できなかった。
目の前に立っている存在は、もはや人間でも英霊でもない。
悪魔。
その言葉こそが最も相応しかった。
「切り裂きジャックの正体は地獄から来た悪魔だった」という都市伝説が逸話として昇華された宝具。
発動することでジャックは真性悪魔ではなく、幻想種としての悪魔という仮初めの存在へ霊基を変質させる。
この宝具の特性は人口密度に比例して性能が向上する点にある。
無人の荒野では大型猛獣程度。
地方都市では一流幻想種。
かつて聖杯戦争のために造られたような巨大都市では武闘派サーヴァントにも匹敵する力を得る。
冬木市は超巨大都市ではないものの、十分な人口密度を有する街であるため、その効果は発動地点を中心とした半径五百メートルを『地獄』へ変貌させると同時に、人間に対する特効倍率を二・五倍まで引き上げる。
そして、この宝具最大の特徴は、地獄という概念空間そのものを現世へ固定してしまう点にあった。
ちなみに、この『地獄』という環境こそが、ダンテの宝具と極めて高い親和性を生み出している。
「宝具━━
バーサーカーへ続くようにダンテも迷いなく宝具を解放する。
彼の背後へ巨大な黒鉄の門が姿を現した。
門扉には無数の亡者が苦悶する姿が彫刻され、その隙間からは業火と瘴気が絶え間なく噴き出している。
神曲に記される地獄門。
現世と地獄を接続する対界宝具であり、門の向こう側から大量の使い魔を召喚したり、敵を強制的に門内へ引きずり込んで退去させることさえ可能な極めて強力な宝具である。
本来、この宝具には重大な欠点が存在した。
地獄と現世を接続する反動により、使用者であるダンテ自身も『絶望』の概念へ侵食され続けるのである。
しかし今回は令呪による大幅な強化とジャックの宝具によって周囲一帯は既に『地獄』へと塗り替えられていた。
本来なら地獄と現世を繋ぐはずの門は、今や地獄と地獄という同質の概念同士を接続している。
世界同士の摩擦は発生せず、本来支払うはずだった代償は綺麗に相殺されてしまう。
その証拠に、ダンテは普段と何一つ変わらぬ飄々とした笑みを浮かべ続けていた。*1
それによってダンテは門を開きっぱなしにしてほぼ無制限に使い魔を呼び出すことができる。
反則級と言われるかもしれないが、元よりサーヴァントなんて概念合戦でしかない。
創り出された地獄の空間には無数の神曲に登場する魔物たち。
その中には幻想種とも言えるケンタウロスやケルベロスなどが見受けられる。
「プリテンダー、そこの使い魔の一体を借りても良いですか?」
「フフ、好きなだけ使って良いよ。まだまだ
その言葉を受け、先ほど召喚されたライダーとキャスター、二つの側面を併せ持つ少女が一頭のケルベロスへ歩み寄る。
本来キャスターである彼女に騎乗能力など存在しない。
たとえ神代級の使い魔を従えるだけの知識があったとしても、それへ騎乗することは不可能だった。
しかし、今回は違う。
二重召喚によってライダーとしての側面を獲得した彼女は騎乗(A+)という極めて高い適性を有している。
その恩恵により、暴れ狂うはずの幻想種は従順な軍馬のように頭を垂れ、少女は何の苦労もなくその背へ跨った。
「Garuru!」
「ふふ、可愛い子。私も遊びましょう━━
少女が杖を掲げると、その足元へ幾重もの魔法陣が展開される。
神代にも届き得る濃密な魔力が幾層にも重なり合い、光り輝く魔法陣の中から次々と小柄な影が姿を現していく。
召喚されたのは、一見すれば愛らしい妖精のような小さな生物たちだった。
しかし、その姿をよく見れば可憐という印象は一瞬で消え失せる。
顔立ちは蜥蜴や蛙を思わせる爬虫類や両生類の特徴を色濃く残し、細い四肢の先には鋭い鉤爪が生え揃っている。
妖精の愛嬌と魔物の醜悪さが混在した異形の存在━━グレムリン。
甲高い鳴き声を上げながら現界した彼らは、主の命令を待つように辺り一面へ散開していった。
それに呼応するかのように、真のアサシンも静かに前へ歩み出る。
何もない地面へ掌を添えた瞬間、大地そのものが脈打つように震え始めた。
地面へ無数の亀裂が走り、その隙間から黒い濁流のように蛇魔が次々と這い出してくる。
その数は数十程度では収まらない。
一匹が十匹となり、十匹が百匹となってなお増え続け、瞬く間に使い魔の総数は三桁を突破して戦場全体を埋め尽くしていく。
やがて召喚を終えた術者たちが静かに手を下ろす。
その僅かな動作だけで使い魔たちは命令を理解し、一斉に咆哮を轟かせながら獲物へ向かって雪崩れ込んだ。
数の暴力。
それ以外に表現しようのない軍勢が、視界を埋め尽くしながらこちらへ迫る。
純粋な戦力だけを比較するなら、この時点で戦場は完全にダンテ陣営が制圧していた。
「アーチャー、令呪を以て命じるわ。周囲の敵をやっつけちゃって!」
「了解した」
「セイバー、やってくれ」
「承知しました、シロウ」
だが、その程度の戦力差で怯む者は誰一人として存在しない。
こちらに集う英霊たちもまた、一騎で戦局そのものを覆し得る最高峰の英雄たちである。
士郎と凜の右手で令呪が同時に輝きを放つ。
契約を通して膨大な魔力が流れ込むと、二騎のサーヴァントは互いに息を合わせるように前へ踏み出し、躊躇なく宝具を解放した。
「
「
荒れ狂う暴風が大気を切り裂き、その中心へ放たれた偽・螺旋剣が吸い込まれる。
風王鉄槌による凄まじい加速を受けた螺旋剣は音速すら凌駕する速度へ到達し、使い魔の大群へ一直線に突き刺さった。
次の瞬間、轟音と共に爆発が巻き起こる。
暴風、爆炎、衝撃波が渾然一体となって戦場を薙ぎ払い、押し寄せていた使い魔の軍勢をまとめて飲み込んでいく。
グレムリンは木の葉のように吹き飛ばされ、蛇魔は爆炎へ呑まれて跡形もなく消し飛ぶ。
地獄より現れた幻想種たちですら、その凄まじい余波によって次々と吹き飛ばされていった。
開戦から僅か数秒。
それだけで数百に及ぶ使い魔が消滅するという、まさに英霊同士の戦いだからこそ実現する圧倒的な殲滅力だった。
「それじゃあ全員、戦いたい奴らと戦おうか」
しかし、ダンテたちはその光景を見ても表情一つ変えなかった。
もとより使い魔だけで英霊を討ち取れるなど、最初から考えてはいない。
爆煙が晴れ切るよりも早く、それぞれが狙い定めていた敵へ向かって一斉に駆け出す。
「リベンジマッチといこうか、
「援護するよ。まさか子孫である君と対峙するとはね」
「こちらも支援します。バーサーカーとライダー」
「■■■■■■ー!!」
「共闘させてもらおう、ランサー」
「あいよ。面倒な相手を引き受けたが、ちょっくら本気を出そうか」
「援護しましょう。アサシン、ランサー」
「共闘と行きましょうか、アーチャー」
「ああ。(あの槍まさか‥‥‥)」
激突の瞬間、それまで入り乱れていた戦場は自然といくつもの戦線へ分かれていく。
それぞれが己の戦うべき相手の前へ立ち、聖杯戦争は混戦から個と個がぶつかり合う決闘の舞台へと姿を変えていった。
「■■■■■■■■■■――――ッ!!」
咆哮が響く。
それは獣が喉から絞り出す咆哮ではない。
神々がなお地上を闊歩していた神代にその名を刻み、十二の試練を踏破した大英雄。
理性という枷を失い、純粋な暴威だけをこの世へ叩き付ける災厄となって放つ、魂そのものの絶叫だ。
その一声だけで空気は震え、地獄を満たす瘴気が波打つ。
耳を劈く轟音は大気を揺らすだけでは終わらない。
足元の石畳は悲鳴を上げるように砕け、蜘蛛の巣状に走った亀裂が周囲へと瞬く間に広がっていく。
轟音に押し潰されるように瓦礫が跳ね上がり、地面を覆っていた砂塵が爆風に巻き上げられる。
大気そのものが悲鳴を上げている。
そう錯覚するほどの威圧感だった。
次の瞬間、ヘラクレスの巨躯が爆発的な勢いで前へ躍り出た。
踏み込んだ━━などという生易しいものではない。
大地を踏み潰し、その反動だけで山をも飛び越えるかと思わせる速度を生み出し、一瞬前まで数十メートル離れていたはずの巨体が、既にペルセウスの眼前へ迫っていた。
視界がその速度に追いつかない。
ただ巨大な影だけが世界を埋め尽くすように迫っていた。
「真正面から受けるな。あれは受け止めるものじゃない━━流せ、英雄!」
「分かっている!」
返答と同時に、ペルセウスは得物であるハルペーを半身に構える。
真正面から打ち合えば、その瞬間に腕ごと砕かれる。
だからこそ刃をわずかに傾け、正面衝突ではなく、相手の力を受け流す軌道へと剣を滑らせる。
ハルペーと石斧剣が激突した。
凄まじい火花が散り、神鉄同士がぶつかり合ったかのような甲高い衝撃音が戦場へ轟く。
ペルセウスは確かに受け流した。
技術としては完璧だった。
それでもなお、ヘラクレスの怪力はその技巧すら踏み越えてくる。
「ぐっ‥‥‥!」
衝撃が腕から肩へ、肩から全身へと暴力的に叩き込まれた。
骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。
身体は紙切れのように吹き飛ばされ、数十メートル先まで石畳を削りながら滑走した。
砕けた瓦礫が宙を舞い、激しく土煙が巻き上がる。
ようやく剣を地面へ突き立てることで勢いを殺した頃には、腕の感覚は半ば失われ、指先には痺れだけが残っていた。
「‥‥‥駄目か」
苦笑混じりに呟きながら立ち上がる。
視線の先では、ヘラクレスがなお低く唸り声を漏らしていた。
静かに息を整えながら、その巨体を見据える。
「あの時も規格外だったけど、今は違う。狂化によって理性を失った代償に、純粋な膂力だけがさらに研ぎ澄まされていると見て良いかな」
「考える必要がなくなれば、躊躇も加減も消える。だから怪物は怪物足り得る。実に単純で、実に厄介だ」
その笑い声と共に、戦場を満たしていた瘴気がゆっくりと波打ち始めた。
赤黒い霧がより濃くなり、その中心から巨大な影が目の前の巨体を殺さんと動き始める。
「さて‥‥‥こちらも少し、本気を出そう」
ジャックはゆっくりと宙へ舞い上がる。
翼が羽ばたくたび、瘴気はまるで生き物のように蠢き始めた。
一本、二本ではない。
無数の赤黒い霧が蛇の群れとなって地を這い、空を巡り、ヘラクレスの四肢へ絡み付いていく。
「■■■■■■ッ!!」
ヘラクレスが石斧剣を豪快に薙ぎ払う。
巻き起こった暴風だけで霧は一瞬にして吹き飛び、視界が開ける。
しかし、それも束の間だった。
吹き散らされた瘴気は再び地面から溢れ出し、瓦礫の隙間から、空中から、まるで地獄そのものが無限に霧を吐き出しているかのように何度でもヘラクレスへとまとわり付いていく。
「無駄だ、それは止まらない」
続けて双眸から熱線が放たれる。
本来であればこの一撃で致命に至りえる業だが、ヘラクレスは耐える。
肉は軽く抉られているが命のストックは減っていない。
ならば、と今度はあえて四方に潜ませていた分身体を上空で旋回させ続ける。
以前ジャックが経験した聖杯戦争に召喚されていたヘラクレス━━またの名をアルケイデスならば瞬時にそれを射抜くか移動して一斉に狙えるポジションに行くのだろう。
がしかし、今のヘラクレスはアーチャーでもなくただのバーサーカー、つまるところ理知的な判断がしずらい。
だからこそこうして単純な視界を数で埋め尽くすだけでも困惑の素振りを見せる。
「さて‥‥‥今だ、大英雄」
「任せろ!」
ジャックの合図と同時に、ペルセウスが地を蹴る。
上空のジャックを凝視していたヘラクレスの死角になりえる背後から上半身をかがめて疾走し、一瞬でヘラクレスの死角へと回り込んだ。
しかしヘラクレスは心眼(偽)のスキルからか、気配だけでそれを察知し、石斧剣を横薙ぎに振るう。
空気が裂け、暴風が戦場を薙ぎ払う。
その一横薙ぎに合わせてペルセウスは上へ跳ぶ。
「■■■■■■!?」
そして、そのままヘラクレスの振った石斧剣の上に着地し、踏み台にする。
相手の武器の上に乗るというのはやろうとしても難易が高いため、この行動はさすが理知的に行動できる大英雄と言うべきか。
「■■■■■■!」
「反応するか‥‥‥!」
しかし、ペルセウスが跳んだ瞬間にヘラクレスも石斧剣の軌道を変えて斬りにかかる。
神話最強の名は伊達ではない。
だがそれでも、ヘラクレスはその反応をコンマ一秒遅れた。
その一瞬を、ペルセウスは見逃さない。
「そこだ!」
神造の剣が銀光を描く。
鋭い剣閃が巨腕を斬り裂き、眩い火花と共に甲高い衝撃音が響き渡った。
しかし刃は深く届かない。
裂けたのは皮膚だけ。
真名解放前のハルペーはこの怪物の肉体を容易には貫けない。
「普通には通らないか。なら手札を増やすか」
「ならば物量で押そうか」
ゆっくりと両腕を広げるジャックの背後で、赤黒い瘴気が再び渦を巻く。
一体、十体、百体と無数の変装体が一斉に翼を広げ、赫い双眸をヘラクレスへ向ける。
地獄へ響く悪魔たちの嗤い声。
神話最強の怪物を討つため、災厄そのものが意志を持って牙を剥いたものである。
ペルセウスが距離を取ると同時に、ヘラクレスは獣じみた咆哮を轟かせた。
「■■■■■■■■■■━━━━ッ!!」
その咆哮に呼応するように、狂戦士の霊基から凄まじい魔力が爆発的に噴き上がる。
吹き荒れる熱風は赤黒い瘴気を押し返し、硫黄の臭気を孕んだ地獄の空気さえ激しく掻き乱した。
フロム・ヘルによって現出した地獄の空間ですら、その圧倒的な魔力の奔流を受けて一瞬だけ揺らぎ、柳洞寺全体が震動する。
暴風にも等しい魔力の余波は周囲を容赦なく薙ぎ払い、瘴気の中へ紛れていた変装体を次々と霧散させていった。
「やっぱり力任せか。しかし今ほどの魔力消費となればライフストックは一つ消えたと見て良いか」
ジャックがそう言うようにヘラクレスのライフは一つ消えている。
あれほどの魔力放出だ、自滅しない方がおかしい。
しかしまだ9個。
最低でもこれを8回はやってこられては二騎とも耐えれる自信はない。
ヘラクレスは迷うことなく一体のジャックへ石斧剣を振り下ろす。
振り下ろされた一撃は爆発にも等しい轟音を響かせ、石段を粉々に砕きながら周囲へ無数の破片を撒き散らした。
しかし、そのジャックは斬撃が届く寸前、硝煙が風に散るように霧の中へ溶けて消えていく。
「残念だが、分身体は本体でもあり、本体も分身体であるのだ」
直後、ヘラクレスの頭上を巨大な影が覆う。
ジャックが翼を大きく広げると、漆黒の羽根が鋼にも等しい硬度を持つ刃へ変貌し、豪雨のような勢いで狂戦士へ降り注いだ。
「■■■■■■ッ!!」
ヘラクレスは石斧剣を豪快に振り回し、迫り来る黒刃を次々と叩き落としていく。
砕け散った羽根は火花を散らしながら地面へ降り注ぎ、その度に甲高い衝突音が境内へ響き渡った。
だが、その迎撃に意識を割かせた一瞬こそが狙いだ。
「そこッ!」
ペルセウスがまたも神速の踏み込みを見せる。
地面を滑るような低い姿勢から一気に懐へ潜り込み、神造の剣が眩い銀光を描いた。
狙ったのは先ほど肉を抉った箇所。
さすがのヘラクレスでも同じ個所に何回も攻撃を喰らえば一回は死ぬだろうと、斬りかかる。
だが‥‥‥
「硬い‥‥‥!」
確かな手応えはある。
刃は肉を裂き、血飛沫を散らしている。
それでも致命傷にはまだ遠い。
十二の試練によって神域へ昇華された肉体は、ハルペーの斬撃を数度受けながらなお、その進撃を止めようとはしなかった。
ヘラクレスは傷など意にも介さず石斧剣とは反対の手、すなわち豪腕を振るい、その拳だけで周囲の空気を爆ぜさせる。
「ッ━━
ペルセウスは咄嗟にハルペーを仕舞いアイギスの盾構え、真名を解放しその一撃を受け止めた。
激突した瞬間、全身へ凄まじい衝撃が駆け抜ける。
身体は容易く宙へ浮き、そのまま石灯籠を何本も砕きながら地面を転がった。
ようやく着地した頃には両腕は痺れ切り、指先の感覚すら曖昧になっている。
「一発でも直撃したら終わりか‥‥‥」
苦く笑いながら立ち上がるペルセウス。
元々ペルセウスは耐久が低いため本気のヘラクレスの一撃をもろに喰らえば一発退場はまぬかれない。
目の前の子孫であるヘラクレスは正攻法だけで押し切れる相手ではない。
だからこそ時に地道な消耗戦から卑怯な罠を用いた戦術を取ることもせねばならない。
「
その呼び掛けへ応えるように、ジャックはゆっくりと両翼を広げた。
地獄そのものが鳴動し、赤黒い瘴気が幾重にも渦を巻き、無数の怨嗟にも似た囁きが戦場全体を満たしていく。
その全てはヘラクレスへ向けられ、視界を奪い、足場を狂わせ、気配を乱し、怪物の感覚そのものを侵食するように纏わり付いていった。
同じ手だ。
先ほどまでジャックがやった手だ。
しかし、物量を増やし続けているためこれの攻略時間は伸びている。
そのため、ほんの一瞬攻撃できる瞬間が来る。
英雄同士の戦いにおいては、その刹那だけで十分だった。
「決めるよ。断ち切れ━━
ペルセウスが真名解放したのは得物であるハルペー。
本来であればランクB+の対人宝具なのでヘラクレス相手には通用しないはずだが━━
「■■■■■■■■■■ーーー!!!」
令呪によってブーストされているため今だけAランクとなっているのだ。
ヘラクレスの全身を包んでいた霊基が激しく揺らぎ、一つの命が砕け散るように膨大な霊子が四散した。
神話最強を支える加護の一つが、確かにこの瞬間、打ち砕かれた。
しかし、それでも巨躯は膝をつかない。
まだ一つ。後8つ。
「追い打ち頼むよ!」
「了解しました!」
間髪入れずに追撃へ移る。
ヘラクレスへ息をつかせる暇など与えない。
ここで攻勢を緩めれば、ヘラクレスは瞬く間に態勢を立て直してしまう。
だからこそ、畳み掛ける。
追撃を担うのは、ルーン魔術による支援をしていたランサーの側面を持つアサシンだった。
僅かであろうと意識を逸らし、動きを乱せるなら、それだけで十分な意味がある。
もっとも、彼女たちが持つ攻撃型宝具の最高到達点はランクBで本来であれば、十二の試練によってAランク未満の攻撃を無効化するヘラクレスには決定打になり得ない。
しかし、それはあくまで通常時の話であり、今この場には、令呪という強制強化が存在している。
そのため、一時的ではあるものの宝具の出力をランクA相当まで押し上げることが可能となっていた。
「宝具解放。同位体、顕現開始」
静かな詠唱と共に、空中へ跳躍したアサシンが宝具を起動する。
次の瞬間、先ほどまで消滅していたはずの他二騎のアサシンを含め、合計六体の同位体が次々と顕現した。
まるで鏡写しのように並ぶ七人。
その全員が寸分違わぬ動作で腕を上げ、それぞれの手へ眩い光の槍を形成する。
「一斉砲撃と行きましょう━━
号令と共に、六本の光槍が一斉に放たれる。
夜空を裂きながら飛翔するそれは、それぞれ異なる角度からヘラクレスを狙い、逃げ場そのものを奪っていく。
本来、この光槍は既に退場しているランサーの宝具と同一の原典を持つ。
すなわち、『確定必中』という、一度放てば必ず標的の心臓へ届く因果を宿した魔槍だった。
もっともランサーで(確定必中の)強い宝具と言えば自ずと幸運Eとなっているのだが‥‥‥
しかし、今の彼女たちは、アサシン霊基へランサー霊基を重ねた特殊な現界を果たしている影響なのか、幸運値はCまで引き上げられ、因果の歪みも大きく安定していた。
しかし、あくまでコピー品であるため必中の呪いは多少弱まっている。
だが、放たれた槍は純粋な速度と威力を保ったまま、一直線にヘラクレスへと迫っていく。
「■■■■■■ーーッ!」
七本の光槍は、巨躯を貫くように次々と命中した。
凄まじい衝撃が肉体を揺らし、炸裂した魔力が爆炎となって周囲へ吹き荒れる。
怒りとも歓喜とも判別できない咆哮が夜空を震わせ、その暴威だけで柳洞寺全体がまた大きく揺れ動いた。
木々は激しく軋み、衝撃波が境内を駆け抜けていく。
これで3つ目。
十二の試練は、あと7回。
もっとも、この先に必要なのは撃破ではない。
ここから先は、徹底した時間稼ぎへ移行するだけだった。
同時刻。
手水舎*2付近では、自らのサーヴァントが戦闘に集中できるよう、少し離れた位置から指示を飛ばすマスターたちが戦況を見守っていた。
轟音と衝撃波が断続的に境内を揺らし続ける中でも、彼らは冷静に敵味方双方の戦力を観察し、次の一手を考え続けている。
「宝具と触媒の‥‥‥多分、原初のルーンから推測するにワルキューレね」
激戦の様子を静かに見据えていたイリヤは、迷いのない口調で彼女たちの真名を言い当てる。
ワルキューレ。
戦士をヴァルハラへと送り届けるとされる、
あるいは神話における戦乙女、その群体。
個としての名を持ちながら、同時に無数である存在。
特に今まさにぶつかり合っている槍も、外見こそ差異はあるが、性質としてはグングニルのコピー品に近い。
原初のルーンと宝具を用いた高速機動戦闘、それがワルキューレの本領だ。
「だけど問題なのは‥‥‥」
「どのワルキューレか」
「ええ」
問題は、そこだった。
ワルキューレという存在は決して一騎だけではない。
名無しの量産個体から神話に名を刻む個体まで無数に存在し、その霊基構造も極めて酷似しているため、単純に魔力反応や宝具だけを観測した程度では個別の真名までは判別できない。
特徴的な外見や固有能力を見せれば絞り込むことも可能だろう。
しかし、それを完全に把握している者など、生みの親であるオーディンや北欧神話に連なる神格くらいしか存在しない。
少なくとも、一介の聖杯戦争のマスターが網羅できる知識ではなかった。
「バーサーカー! しばらくの間ここを頼める?」
「■■■■!」
「オーケー。シロウ、リン、サクラ、行きましょう」
「ちょ、ちょっと待て。行くってどこに?」
「石段の先にいる相手のマスターの所よ。ここで地道に倒し続けたところで意味はないもの。だったら元栓そのものを閉じるしかないわ」
イリヤの判断は極めて合理的だった。
仮にこの場で目の前のワルキューレたちを全滅させたとしても、敵側に十分な魔力供給が続く限り、新たな戦力が補充される可能性は極めて高い。
事実上、相手は無限に近い兵力を保持していると言っても過言ではなく、人海戦術へ持ち込まれれば、いずれはこちらが押し潰される。
だからこそ狙うべきは前線ではない。
兵を生み出し続ける根源、すなわち敵マスターを先に制圧し、援軍そのものを断つ必要があった。
やがて士郎と凜もそれぞれのサーヴァントへ視線を送り、短く意思を確認し合う。
全員の考えが一致したことを確認すると、一行は石段の先に待つ敵マスターの下へ向けて駆け出していった。
「━━まぁこんなこともあろうかと」
まさかトラップを仕込んでおいて使わないワケないだろう。
柳洞寺の社内で俺はパチンと指をならす。
すると組まれていた魔術が発動する。
ガコン!
瞬間、それまで規則正しく積まれていた石段が、不自然な機構音と共に変質する。
「「「「あ‥‥‥」」」」
階段状だった構造が、急速に坂へと組み替えられた。
だが問題はそれだけではない。
そこには潤滑剤が過剰と言えるほどに塗布されていた。
石肌はもはや足場ではなく、滑るためだけの装置へと変貌している。
つまりどういうことか。
ツルッ、と。
石段の半ばまで登っていた士郎たちは、そのまま足を奪われ、勢いよく下方へと滑り落ちた。
摩擦はなく、抵抗もなく、ただ重力だけが残酷に仕事をする。
状況は一瞬で進軍から転落へと反転していた。
日本の(コメディ)文化に疎いイリヤ以外のマスターは思った、「これ吉本*3でみたやつだ」と。
シリアス≦シリアル
最後のシーンに登場するトラップですが、本来なら(手製)対人地雷にワイヤートラップ、落ちたら刃が襲う落とし穴などガチな仕掛けにする予定だったんですが、さすがに士郎たちが死んだ場合のカバーが出来ないので相良君が急遽シリアル寄りの仕掛けになるようにロビンたちに指示しました。
ちなみに、このまま罠を仕掛けてたら士郎たちが掛って一発アウトでした。
ライダーに関するヒント
・ゴブリンを召喚する
・騎乗スキル持ち
・出典は『アーサー王物語群』
今回は面白みもくそもありませんでしたが、次回は結構頑張りましたのでよければ。
感想を頂けたら幸いです。