感想を頂けたら幸いです。
励みになります。
正直なところ、何度も言うがこれは賭けに近しかった。
いくら召喚した自分のサーヴァントが脱落したとしても、意図的に操作でもしない限り、聖杯の予備システムによって再び令呪が自分へ配布される可能性は極めて低い。
聖杯戦争という儀式はそこまで都合よくできてはいないし、幸運だけを当てにして成立するほど甘いものでもない。
それでも、こういう時は運命が筋書き通りに動くものだ。
結局のところ、サクラに
まぁ、まさか
しかも、前回の記憶まで保持している。
あれも大聖杯のバグが原因なのだろう。そう考えれば、一応は筋が通る。
視線を戦場へ戻すと、幽弋さんは滑るような足運びで間合いへ入り込み、黒い短剣を静かに振るった。
気配を殺し切った一撃。
暗殺者として完成された軌道。
しかし、その刃は紙一重で躱され、まるで最初から攻撃を読まれていたかのように空を切る。
腰へ提げられた黄金の剣が視界へ映った。
(‥‥‥クリューサーオールか?)
確かギリシャ神話に出てくる黄金剣だったか。
エクスカリバー並みにバカデカい威力を出す対軍宝具くさいなぁ‥‥‥。
「‥‥‥。」
シュッ、と風を裂く音だけが響く。
黒い短剣が再び閃くが、それでもメデューサは最小限の動きだけで回避してみせた。
「当たりませんか。さすが、初代山の翁の影、というところでしょうか?」
「真名看破か‥‥‥」
嘘っだろ。
何で通常七クラスで真名看破なんて持ってるんだよ。
いや、アショカ王という前例はあるけどさ。
ただ、あれはルーラークラスへの適性を極めて強く持っていた特殊な例だからこそ保有していたスキルでエクストラクラス適性なら、メデューサは
それなのに真名看破まで持っている理由は━━
(アテナか‥‥‥!)
そういえば自分でアテナの神格を取り込んでいたと言っていた。
戦女神やら都市国家の守護者やら知恵と裁定を司る大神やらの神格を取り込んでいるなら、神霊としてルーラー適性を持っていても不思議ではない。
そして、その性質ごと霊基へ反映されてしまったということか。
それなら真名看破を持っていても説明はつく、けどさぁ‥‥‥。
横を見ると士郎君たちも困惑を隠せない様子だった。
真名看破という希少スキルもそうだが、それ以上に目の前のアサシンの正体がほぼ初代の影武者的存在なのだから無理もない。
「なら、令呪を以て命じる。お栄ちゃん、来て」
右手の令呪が紅く輝き、魔力が一気に放出される。
どうせ大量に余らせている令呪だ。
使える場面で使わなければ意味がない。
命令に応じるように、お栄ちゃんがすぐさま姿を現した。
「
「承知した」
「了解だ、
さらに魔術を発動し、お栄ちゃんと幽弋さんの位置を入れ替える。
景色が一瞬だけ歪み、二人の姿が入れ替わると、幽弋さんはそのまま影へ溶け込むように姿を消した。
再び気配を完全に断ち、暗殺者として好機を待つ。
前へ出たお栄ちゃんには、メディアが俺へ付与してくれていた強化魔術をそのまま移してもらう。
魔力の流れが切り替わり、お栄ちゃんの霊基へ強化術式が重ね掛けされていく。
「真名は葛飾北斎‥‥‥いえ、葛飾応為ですか」
「葛飾、応為?」
「葛飾北斎の三女。北斎の助手兼浮世絵師で、代表作は『月下砧打美人図』だったかしら(日本の英霊としての知名度はやや低い方だけど)」
「おお、そこまでおれのことを知ってくれてんのはありがたいナ。ただまぁ、おれは一画工にすぎねぇから本来だったら三流のキャスターが妥当なんだろうが、今はとと様と霊基を共有してる上に━━」
「クラスはフォーリナー、エクストラクラスですか」
「そうダ。ちょっとばかし特殊な英霊ってやつだナ」
そう言いながら、お栄ちゃんは大筆を肩へ担いだ。
その笑みには気負いはなく、むしろ腕利きの職人が仕事へ取り掛かる直前のような余裕すら感じられる。
「てことでチェンジだ、とと様━━━━おうよ、仕事といこうか!」
霊基が揺らぎ、お栄ちゃんの姿が変化していく。
あ、やっぱり変わるんだ。
まぁ、
戦闘向けなのはどう考えてもあちらだろう。
「一応こんな禍々しい見た目をしてるが、これがフォーリナーって言うエクストラクラスの本領でね。今の人格は北斎になってるから」
「そういうことで。そんじゃま戦い合いましょうや、メデューサ」
北斎は言葉が終わると同時に、大筆を大きく振り下ろした。
豪快な一撃は空気を唸らせ、そのまま叩き付けるような勢いでメデューサへ迫る。
だが、メデューサは慌てる様子すら見せず、巨大な盾を正面へ構えてその一撃を真正面から受け止めた。
重い衝撃音が周囲へ響き、火花が散る。
続く瞬間、メデューサは黒い短剣ではなく腰へ提げていた黄金の剣を抜き放ち、一気に斬り返してきた。
黄金の軌跡が弧を描き、鋭い斬撃となって北斎へ襲い掛かる。
北斎はドレスの袖口から取り出した筆へ魔力を流し込み、その一撃を正面から受け止める。
神代の剣と一本の筆。
本来なら勝負にならないはずの組み合わせでありながら、魔力によって強化された筆は神剣と激しくぶつかり合い、甲高い衝突音を何度も響かせた。
メディアの強化魔術によって身体能力が向上している分、北斎の動きは明らかに本来以上だった。
反応速度も踏み込みも鋭く、近接戦でも十分に渡り合えている。
しかし、それでもメデューサの方が一枚上手だった。
俊敏は以前より落ちているはずなのに、その代わり筋力や耐久、魔力、技量といった能力が全体的に底上げされている。
最優のセイバーとしての側面が色濃く反映されているためか、剣士としての完成度が恐ろしく高い。
北斎も真正面から競り合うだけでは終わらない。
大筆を振るえば巨大な富士が描かれ、その墨は濁流となって戦場を駆け巡る。
さらに細筆を次々と放てば、それらはボウガンの矢にも匹敵する速度で射出され、四方八方からメデューサへ襲い掛かった。
画工だからこそ成せる奇想天外な戦法が次々と繰り出され、戦場そのものが一枚の巨大な浮世絵へ塗り替えられていくようだった。
「我が血より天馬と共に生まれしものよ。剣持ちて怪物の父たるものよ。祖は神を呪う我等を継承する光。真名解放━━
数度打ち合ううちにメデューサは宝具を発動した。
発動した瞬間に現れた光の魔物は‥‥‥メデューサの子か。
「マスター悪い。ちょっとばかし魔力回してもらうぞ」
「構わん。3回ほどなら(魔力注射で)もつ」
ここで魔力は使いたくなかったが仕方がない。
この後のことも想定して気絶するの覚悟だ。
「ふんぐるいふんぐるい、オン・ソチリシュタ・ソワカ、うがふなぐるふたぐん!我が御業、いざいざご賢覧あれ!
瞬間、宝具がぶつかり合う。
怪物じみた斬撃と、邪神の狂気を宿した筆の振るいが、周囲の空気を切り裂くように激突した。
ただの武器同士の衝突ではない。
英霊としての在り方そのものを叩きつけ合う、サーヴァント同士の極限の攻防。
一合、二合、三合、四合‥‥‥。
常人では視認することすら叶わない速度で、凄まじい連撃が繰り広げられる。
斬撃が走れば、それを筆撃が受け流す。
筆が振るわれれば、それを刃が迎え撃つ。
一瞬の判断、一瞬の遅れが致命傷となる領域で、両者は一歩も譲らない。
互いの宝具が生み出した余波によって大気は震え、その衝撃によって二騎の身体は地面から離れ、宙を舞い続けていた。
やがて、激突の反動によって両者は距離を取り、同時に地へと降り立つ。
「ライダー!? 貴女は脱落したはずでは!?」
「やっぱり、君が選ばれるか。しかも
そこは柳洞寺の山門前。
つまり、各々のサーヴァントたちが現在も死力を尽くして戦っている場所だった。
偶然のようにも見えるその着地。
だが実際には、二騎が戦闘の余波によって押し流された結果、最も戦況が集中している場所へと辿り着いていた。
「その話は後ほど。今はサクラのサーヴァントとして、あなた方に協力します」
「感謝します。この状況だと、人数があるだけ嬉しいですし」
「すまねェな、ダンテの旦那。それでそっちの状況はどうダ?」
「多分
やがて、両陣営が互いに正面を向き合う。
視線が交差し、殺気が入り混じる。
一触即発。
この四文字熟語こそ、今この場の空気を最も正確に表していた。
誰かが一歩踏み出せば、誰かが宝具を放てば、再び戦場は混沌へと変わる。
次なる戦闘へ入る、その瞬間だった。
「
「
「
「
台地が━━揺れた。
大地そのものが巨大な何かに殴りつけられたかのように震動し、足元から伝わる衝撃がこの場にいる全員の身体を揺さぶる。
空間が、先ほどとは桁違いの揺れによって張り裂けそうになる。
大気は圧縮され、視界すら歪む。
それは、この場にいるサーヴァントたちへ向けられた攻撃ではない。
互いに戦うサーヴァント。
その二騎が放った一撃同士がぶつかった結果、生じた余波だった。
やがて轟音が鳴り止む。
静寂が戻った直後、一同は先ほど爆発が起きた方向を見る。
そこには、真のセイバーと名乗った沖田総司のオルタナティブと、謎の金色のサーヴァントが立っていた。
もっとも、その黄金の英霊だけはセイバーことアルトリアにとって見覚えのある存在だった。
「アーチャー!! まさか、彼も真のサーヴァントとして!!」
それは第四次聖杯戦争で、アルトリアが最後に戦ったアーチャー。
最後の最期まで真名も、本当の能力も分からずじまいだった最強の英霊。
あの時、彼女が感じ取った圧倒的な存在感。
そして、決して忘れることのできない黄金の姿。
それが今、再び遠くとはいえ目前に現れていた。
それを聞き終えた中の一人であるメデューサは、すぐさま二騎の真名看破を試みる。
「えー‥‥‥セイバーと名乗った方が沖田総司の反転霊基。クラスはアルターエゴ‥‥‥いえ、セイバーなのではなくエクストラクラスの類ですね。そして、あの受肉したアーチャーがギルガメッシュ。古代メソポタミア文明の王でしたか」
メデューサが告げた情報によって、アルトリアは納得する。
真のセイバーを名乗った者が、セイバーの技術だけでは説明できない亜流の技を容易く扱えた理由が彼女が通常のクラスに収まらない存在だったからだ。
そして、あのアーチャーの正体がギルガメッシュであるならば、その圧倒的な力にも納得できる。
真のサーヴァントの面子は、そのほとんどが今目の前で戦っている陣営の者ばかり。
しかし、彼だけはこうして戦っているのを見るに違う。
なぜ、彼だけが別の形で存在しているのか。
いや、それ以前になぜ受肉を果たしているんだ。
アルトリアの中に浮かんだ疑問。
しかし、その疑問を置き去りにするように、戦場では別の激闘が繰り広げられていた。
「燃ゆる影、裏付きの矢。射抜け━━
「
「チィ! 小賢しいもこの上ないわ、獣擬きと道化!!」
呪いを纏った己自身を一本の矢へと変え、アタランテは一直線にギルガメッシュへ突撃する。
その速度はもはや視認できる領域を超えていた。
しかし、ギルガメッシュは動じない。
宝物庫より展開した神代の盾を次々と前面へ配置し、その突撃を防ぎ止める。
さらに追撃として放たれる火炎の矢。
それに対しては盾を三重に重ね、辛うじて防御していた。
だが、その黄金の顔には隠しきれない怒りが浮かんでいる。
「宝物庫の鍵を更に開けてやろう、"雑種共"」
「ブーメランですよ、それ。私も人のことを言えた身ではないですが、あなたも
「貴様‥‥‥この我を雑種呼ばわりだと! 何度も我の機嫌を逆なでしたこと、万死に値する!」
怒りを露わにしながら、ギルガメッシュは宝物庫を大量に開放するかと思われたが、またエヌマ・エリシュを発射する。
これまで約10連発放っているが、どれも最大出力一歩手前である。
それでもなお、その一撃一撃は大地を砕き、世界を切り裂くほどの脅威だった。
「これで何度目か、毘天が白太刀━━
「甘いわ! 束縛せよ、
「おっと‥‥‥緊急回避、からの‥‥‥」
「
さすがにこの段階まで来ると、ギルガメッシュも単純な力押しではなく頭を使い始める。
そして選択したのは、神をも縛る天の鎖だった。
だが、それを謙信は己の令呪によって回避する。
その直後、義仲が宝具を放ち、迫る鎖を弾き飛ばした。
「我が友を傷つけるか、道化!」
「知らん。装備に愛着があるのは良いが、貴様みたいな悪(鬼)に堕ちた王に道化呼ばわりはごめん被る」
「フ、ハハハハ‥‥我が悪に堕ちた、と。そうかそうか‥‥‥潔く死ね」
放たれる宝具の原典の数々。
だが、義仲は剣士特有の空間把握能力によって、その全ての軌道を読み取る。
飛来物が当たらない僅かな隙間を見極め、最小限の動きで後退することでダメージを最小限に抑える。
「大丈夫ですか、義仲殿?」
「ああ、問題ない。が、やはりしぶといな。ここまで粘るか‥‥‥」
セイバー、木曽義仲はそう思わざるを得ない。
元々は宝具の連発によって押し切ることを視野に入れていた。
しかし、こうも何度も防がれ、未だ致命的な一撃を与えられないとは。
悪(鬼)に堕ちているとはいえ、さすがは英雄の王と称された存在。
その実力は、決して偽りではなかった。
「手札は無くなったか、道化どもよ。ならば我が裁定してくれようぞ!」
広がるは、無数の宝具の数々。
その数、ざっと数百以上。
360度、死角なし。
一目見れば絶望という言葉が脳裏に浮かぶほどの光景。
それを展開しながら、ギルガメッシュは不敵に嗤う。
そして、黄金の王は、無数の宝具を一斉に投擲する━━
━━ことはなかった。
ギルガメッシュが無数の宝具を投擲しようとした、その直後だった。
黄金の王の身体から、突然として鮮血が噴き出した。
「ぐはぁッ! 何!?」
予想外の一撃に、ギルガメッシュの表情が驚愕へと染まる。
自身の背後。
そこに突き刺さっているのは、光を拒絶するかのような黒い影で形成された一本の短剣だった。
本来であれば、この一撃を回避する技量はギルガメッシュには存在していたはずだ。
英雄王とまで呼ばれた彼ならば、迫る攻撃を察知し、無数の宝具による迎撃や防御によって対処することも不可能ではない。
しかし、この攻撃だけは違った。
全てを見通す眼を持っていたとしても、数多の宝具を自由自在に扱う力を持っていたとしても、この一撃だけは、決して事前に察知することはできなかった。
何が言いたいかと言えば、戦略に長けた者が複数存在しているのであれば、当然ながら別のプランを複数用意しているよね、ということ。
予めこの策を知っていたのは、あの場では謙信と義仲とアーチャーのみ。
その三人には貸し出された改良型魔術礼装『隠身の布・改Ⅱ』*1によって、精神状態の把握や能力の解析を防ぐための細工が施されていた。
そのため、ギルガメッシュほどの観察眼を持ってしても、相手の情報は掴めてもその裏側に隠された策を読み取ることはできなかった。
いや、多分やろうと思えば読み取れる。
しかしギルガメッシュが慢心している以上使うはずがない。
「おのれぇ‥‥‥暗殺者如きが、王の玉体に何たる不敬か!」
ギルガメッシュは怒りに満ちた声を響かせる。
しかし、彼の視線が向けられた先には、暗殺者の姿など存在していなかった。
「‥‥‥。」
沈黙だけが、その場に残る。
幽弋のハサン。
彼という暗殺者の恐ろしさは、気配遮断(EX)という規格外の能力を持ってしても、その存在を完全には捉えられない点にある。
それは単純に姿を隠しているという話ではない。
移動している時であろうと、攻撃を仕掛ける瞬間ギリギリまでは相手の認識から外れ続けるほどの隠密能力なのだ。
だからこそ、幽弋のハサンの存在に気付くことができる者は限られる。
慢心を一切捨て、極限まで集中し、わずかな違和感すら見逃さない状態にある者だけが、ようやくその存在を感じ取れるほどの領域だった。
「今ですね━━
「我が名の下に承諾しよう。そして、我が影の一片よ、幽明の境界へと汝を返上せよ━━
次の瞬間。
ギルガメッシュの横に立った幽弋のハサン。
彼はそこへ新たに現れたのではなく最初からそこに、誰もその存在を認識することができなかっただけだった。
幽弋のハサンの身体から、無数の影が溢れ出す。
それらはまるで意思を持つ闇のように広がり、ギルガメッシュの周囲を包み込みながら、その黄金の身体を徐々に侵食していく。
周囲の景色は黒へと染まり、大気すらも重苦しい圧力に支配されていく。
そこに存在していたのは、膨大な『死』の概念だった。
それは単なる殺傷能力ではない。
生命という存在に刻まれた、終焉そのもの。
どれほど強大な宝具を使用しようとも、どれほど優れた防御手段を持っていようとも、その死から逃れる術は存在しなかった。
「おのれおのれおのれおのれぇ‥‥‥! 貴様ら如きにこの我がぁッ!」
ギルガメッシュは必死に抗う。
黄金の門を開き、宝具を展開し、迫り来る終焉を打ち払おうとする。
しかし、すでに遅かった。
一度絡みついた『死』の概念は、英雄王の抵抗すらも飲み込みながら、その存在そのものを侵食していく。
かつて味わった聖杯の泥のように落とすことはできない。
やがて無数の影はギルガメッシュを完全に包み込み、その姿を闇の中へと沈めていった。
最後まで残っていた黄金の輝きも、王の怒声も、すべてが闇の奥へと消えていく。
そして、ギルガメッシュは肉体すら一片も残すことなく、完全に消滅した。
「勝った‥‥‥!」
俺は思わずガッツポーズを掲げる。
第五次聖杯戦争において、最大の障害となるギルガメッシュが死んだ。
それだけで、この戦争の難易度は劇的に変わる。
元よりこれの本命は真のライダーを召喚してもらうことではあったが、あわよくば、ギルガメッシュを外へ出すことも狙いだった。
ライダーについては既に説明したので、今度は後者について話そう。
本来の予定では、ギルガメッシュはこちらへ戦力を割かせず、その隙に動けるサーヴァントたちを総動員して教会へ攻め込み、そのまま討ち取る算段だった。
英雄王を包囲し、一気に叩く。それが当初の予定だった。
しかし、言峰が
教会へ攻め込むという前提そのものが成立しなくなり、積み上げてきたプランは文字通り水の泡となる。
何で同じ発想に至っちゃうんだよ‥‥‥あれと同族でもないのにさぁ。
だからこそ予定を即座に切り替え、危険を承知の上でギルガメッシュ本人を強引に外へ誘導する方向性にチェンジしたのである。
あいつはZeroやstay nightの時空を見る限り、アルトリアを花嫁にしようと本気で考えていた節がある。
つまり、アルトリアは英雄王にとって単なる敵ではない。
お気に入りの玩具であり、執着する対象だった。
ならばだ、そのお気に入りが本気で戦ってる姿をわざわざ遠くから千里眼で見るなんてことはありえない。
少なくともあの性格なら、必ず戦場の近くまでやって来る。
なんたって、ギルガメッシュ風に言えば道化と雑種の混合合戦だ。
そんな見世物を、特等席で観戦しない理由などあるわけがない。
だから俺は、その性格を利用した。
柳洞寺の戦場を見渡せる絶好の位置で観戦していたギルガメッシュへ向け、周囲に配置していたアーチャー組が一斉に矢を放つ。
当然、あれだけで倒せるとは思っていない。
狙いは挑発。
英雄王の戦闘本能に火を点け、この戦場へ自ら降りてこさせることだった。
その狙いは見事に成功し、ギルガメッシュは怒りのままこちらへと姿を現した。
後は計画通りに徹底した耐久戦へ持ち込み、少しずつ柳洞寺まで誘導する。
道中で宝具の連発によって倒せれば儲けものだったが、そんな都合よく英雄王が沈む相手ではないことくらい最初から分かっていた。
だからこそ、次善策を最初から用意しておくのは当然だ。
こちらで待機していた幽弋さんに宝具を使ってもらう。
発動条件も自分かマスターが死んだ場合のみしか発動しないという厄介な点があったのだが、ここで活躍するのはメタンヌだ。
メタトロンの異名の中に「生命の書を記す者」というのがある。
そして、それを基にした、対象の理*2を改変するという『
もちろん万能というわけではなく、発動対象の承諾を始めとした様々な制約は存在するが今回は見事に嵌った。
幽弋さんの宝具の発動条件を任意にして、且つそれを「自らが生み出した影が『死』の概念と化す」、つまり自分の体力を少し削るだけのデメリットにしたのだ。
もちろん改変することは幽弋さんから承諾済み*3であり、メタンヌも「今回だけだよ。今回だけだからね!」と、念押し付きで許可を貰っている。
別に幽弋さんにそのまま自爆してくれればいいと思うかもしれないが‥‥‥あのね、普通にこの人俺の世界の持ち帰りたい。
自分の影に同化してずっと守ってくれるし、護衛として申し分なさすぎるし、魔力の維持もそんなに必要ないからこんな優秀なサーヴァントを手放す理由なんてどこにもない。
三郎さんと同じように、ぜひとも今後も一緒にいてもらいたい人材だった。
これに関しても幽弋さんには承諾済み*4である。
そんなことを考えている間にも、目の前では俺が突然ガッツポーズを決めたせいで、士郎君たちが揃って困惑した表情を浮かべている。
まあ、それも仕方ない。
事情を知らない側からすれば、いきなり敵が勝利宣言をしたようなものだからだ。
とはいえ、もうこちらの目的はほぼ達成した。
残っているのは後始末くらいで、実質的には
「全員霊体化しろ!」
俺が指示を出すと、戦っていたこちら側のサーヴァントたちは一斉に霊体化する。
誰一人として異論を挟まず、その姿は次々と霊子へと還っていった。
それを確認した俺は手に持っていたナイフを静かに仕舞い、敵意がないことを示すように両手を高く掲げる。
「降参だ。こっちの目的はほぼ達成した以上、君たちと敵対する意思はない」
「そう‥‥‥なら全て聞かしてくれるわね?」
「構わんよ、
「へ?」
あーもういいや。
呼び方変えちゃったけど、もう素を隠さなくてもいいだろうし。
「ただ一つだけお願いがあるんだけど‥‥‥」
「何?」
「すぅ‥‥‥魔力切れでヤバいから、しばらく寝させてもらってもいいかな?」
呪物聖杯の方から世界の壁を越えて魔力が送られてるサーヴァントもいるけど、この場で召喚した組や宝具を連発していた連中には、俺自身の魔力も大量に回していた。
正直なところ、もう限界。
多分、魔力効率変換器がなかったら二回死んでる。
「そういうことだから、寝させて━━」
そこで視界が大きく揺らぐ。
あ、まずい、意識が。
まだ寝る前に、最低限やっておかなきゃいけないことがある。
"謙信かメタンヌでいいから、説明係‥‥‥"
よし、なんとかねんわおくれた。
あー‥‥‥クッソねみぃ。
「zzz‥‥‥」
最近は準備や調整で徹夜続きだったから、うん。
久々によく眠れたよ。
弁明させていただくとですね‥‥‥尺が長くなり過ぎた‥‥‥。
自分でも薄々伸ばし過ぎたなと感じてたことがあったのでギルガメッシュはここで退場(?)となります。
なお、書いてませんが、ギルは宝具合戦で相手の宝具を耐えたり、エヌマ連発してます。
以降はもう塩試合一歩手前の展開が続きます。
・
メタンヌが持ち込んでる宝具の一つ。
指定した対象の宝具やスキルのメリットデメリットを好きなように変更できる。
ただし相手が承諾しないと発動しないし、あくまで今回の現界のみの効果なので次の現界で同じような効果を得たいならメタンヌが必須。