こんな感じの話が数話続くよ。
感想頂けたら幸いです。
励みになります。
あの後どうやら俺は柳洞寺の石段の途中で完全に寝落ちし、そのまま前のめりに転げ落ちかけたらしい。
危うく石段を転がり落ちる寸前だったところを、霊体化を解いていたルーラーの二人が慌てて受け止め、そのまま布団まで運んで寝かせてくれたそうだ。
何だかんだ言って、ああいう時の二人は面倒見がいい。
だから多少無茶をしても、結局は許してしまうのだろう。
そして目を覚ました俺は、なぜか
自分たちの拠点の方が有利なのは事実だが、こういう時は柳洞寺でキャスター陣営も交えて話すもんだろ、普通。
もっとも、メタンヌたちは念のため何騎かのサーヴァントを柳洞寺へ残しているらしい。
だからキャスター陣営が留守中に襲撃される危険性は極めて低いだろう。
そういえば結局、あの戦闘では拳銃を一度も使わなかったな。
射撃の腕前自体は可もなく不可もなく程度にはあるけど、不用意に撃てば流れ弾で誰かの頭を撃ち抜く危険もあったため、最初から使わない方が安全だと判断しただけだ。
もっとも、置換魔術を使えば武器などいつでも手元へ呼び戻せるので、没収されたところで大した問題ではない。
「それで、ルーラーからどれぐらい聞かされてる?」
「あなた達の正体と、ざっくりとした目的ね」
「念のため最初に聞いておくけれど、第二魔法は使用していないのよね?」
「ああ、使ってないな。魔法なんて使えるなら、もっと上手く立ち回ってるさ」
そう言えば、凜の嬢ちゃんが目標にしているのは第二魔法だったか。
自分の代では『根源』へ到達できないと割り切り、その先へ繋げるための研究を選ぶ辺りは実に魔術師らしい判断だと思う。
「あなたに聞きたいことは山ほどあるわ。だから順番に答えて」
「いいよ。今の俺に拒否権なんて無いだろうし」
そうして質疑応答が始まる。
質問する相手は次々と入れ替わり、それぞれが気になっていた疑問をぶつけてきた。
「あなたが戦いで見せた、サーヴァントを瞬間移動させていた魔術は何?」
「
「虚数軸ってことは、あなたは虚数属性?」
「そだね。虚と地の二重属性」
最初の質問は案の定あの魔術だった。
もっとも、仕組みだけ説明したところでデメリットや制限までは話していない。
対策まで教えるほど、お人好しではない。
「協力を申し込まなかった理由は何だ? 場合によっては最初から共闘できたんじゃないのか?」
「初期は、こっちが自由に動けるよう君たちにヘイトタンク役をお願いしたかったからだね。それ以降は‥‥‥ギルガメッシュの行動をある程度誘導して予測しやすくするためかな。あいつが好き勝手動き始めたら、本当に全滅してた可能性があった」
実際、その可能性は十分にあった。
あの場でギルガメッシュが本気一歩手前ではなく、本当の意味で全力を出していたなら、こちらが押し切られていただろう。
もちろん理由は他にもある。
マスターたちやサーヴァントへ経験を積ませるという目的もあった。
ただ、それは副次的な理由に過ぎない。
「聖杯戦争について、どこまで知ってるの?」
今度はイリヤが静かに問い掛けてきた。
「ほぼ全部かな。例えば御三家ですら知らない情報も含めてね‥‥‥英霊召喚の術式そのものが、本来は
「!?」
さすがにこれは誰も知らなかったか。
当然か、メタンヌから軽く聞かされた話だったからそもそも普通の魔術師が知ってるわけないか。
俺自身だって、それを聞くまでは聖杯戦争とは英霊の魂を利用して願望機を完成させ、『根源』への到達を補助する術式程度にしか考えていなかったのだから。
「それと、本来の聖杯戦争は『何でも願いが叶う』って宣伝して外様の魔術師を呼び込み、サーヴァント同士を戦わせるための形式でしかない━━極論を言えば、最後に令呪でサーヴァントを自害させれば殺し合う必要なんて無いっていうこととかもね」
「あー‥‥‥そこまで知ってるのね」
その話だけはイリヤも知っていたらしい。
アインツベルンが造り出したホムンクルスである以上、大聖杯の本来の目的くらい教育されていても不思議ではない。
だけどさぁ、凜の嬢ちゃん‥‥‥君そのこと知ってなかったの!?
何でそれで御三家として聖杯戦争に参加したんだよ‥‥‥。
「話を切り替えようか。今から話すはルーラー権限と俺独自で調べたこの聖杯戦争の歴史だ」
さすがにここで前世の記憶とか言えるわけが無く調査した結果と言い張る事にしよう。
事の発端は第三次聖杯戦争。
その時にダーニックさんやディオランドの縁者とか
召喚されたのは俺の世界だと天草四郎とかいうルーラーだったがこの世界ではアンリマユというアヴェンジャー。
当然、怪物揃いだった第三次聖杯戦争で勝ち残れるはずもなく、緒戦で敗退する。
しかし最初に敗北したことで、その魂は真っ先に大聖杯へ回収された。
願望機と高度に融合した結果、『この世全ての悪』という概念そのものが聖杯へ染み込み、人々の願望と結び付いて呪いへ変質する。
それによって聖杯は汚染され、本来の万能願望機ではなくなってしまった。
「つまり第四次で君のマスターだった
「‥‥‥。」
ああ、嫌味ではないよ。実際のところは少し違うし。
過ぎてしまった出来事を今さら責め立てても意味はないし、元を辿ればあの戦闘機械野郎の言葉数があまりにも少なすぎたことと、サーヴァントの心情を理解しようとしなかったことにも責任はあるのだから。
「今の発言から思ったのですが、あなたはキリツグと‥‥‥」
「俺の世界だけど会ったことがある。と言っても、一度だけ仕事の都合で見かけたこともあるよ」
「爺さんと!?」
「ああ。でも君たちの知る人物像よりは、アルトリアが知っている切嗣の方が近いかな。俺の世界じゃアインツベルンと一切関わらなかったから、そもそもイリヤは存在していない世界だったし」
「私が‥‥‥いない世界。それで、その人はどんな人だったの?」
「人様の養父をとやかく言う権利はないとは思うけど‥‥‥正直、できることなら二度と関わりたくもないし、顔を見たくもない相手だよ」
とはいった物の、聖杯大戦で共闘した件については、今となっては悪感情は抱いていない。
あの一件では戦犯になりかねない存在が途中で脱落してくれたおかげで、こちらが勝利できた要因の一つにもなっていたからだ。
過去に一回アフリカ辺りで見かけた時も一人戦争をしてる姿を見た時も納得とくだらなさが出た。
『━━君の過去には同情しよう。だけど、お前は矛盾している。勝手に殺して奪った命へ後から意味を与えるな。それは死者への冒涜であると同時に、自分のやったことを正当化しているだけだろ』
そんな言葉を掛けれる者は誰も居ない。
あれは既にそういう運命に従ってる機械にすぎない。
もっとも、面と向かって口にしたところで返ってくるのは起源弾だけだろうが。
魔術師殺しの過去というのは調べようと思えば案外情報が出てくる。
ナタリア・カミンスキーというフリーの執行者が残した手記や、当時の足跡を追っていけば断片的な情報はいくらでも拾えた。
時計塔って君らが思った以上に情報網大きいから。
そこへ
おっと、少し話が逸れたな。
その汚染された聖杯を浄化するためにこちらも動いていたわけだが、そこで最大の障害になったのが第四次聖杯戦争でアサシンのマスターを務めていた言峰綺礼という外道神父だった。
あいつは汚染された聖杯から溢れ出す呪いを、この世へ解き放ちたいという思想を抱いていた。
そのため監督役という立場を最大限に悪用し、時計塔から派遣されたマスターからサーヴァントを奪い取った挙句、前回の聖杯戦争で受肉したサーヴァントまで秘匿して、水面下で好き放題暗躍していたんだ。
ああ、ちなみにギルガメッシュは元々遠坂時臣のサーヴァントで、時臣本人を殺したのも言峰だからね。
「あんの、外道神父‥‥‥!」
父を殺した相手が今ものうのうと生き延び、それどころか監督役として身近に潜んでいたと知った凜は、怒りを隠そうともせず拳を強く握り締めた。
まぁでも言峰も元はちゃんと人らしかったけど。
「ただ、言っちゃ悪いけどギルガメッシュが言峰側へ付いた理由は、最初に時臣がギルガメッシュを裏切ったことにも原因があるし、元を辿れば時臣自身の危機管理能力の低さが招いた不幸でもあるんだけどね。それと余談だけど、時臣も監督側と癒着するとかいう思いっきり聖杯戦争のルール違反をしていたから」
「何やってるのお父様ェ‥‥‥」
尊敬していた父の聖杯戦争での失態と監督役の聖堂教会と共謀するという最大のルール違反をしていたということに凜は複雑そうな表情を浮かべ、小さく息を吐いた。
言っちゃ悪いが時臣の馬鹿は危機管理能力ってのが無さすぎるんだよ。
そもそも時臣最大の失敗は、ギルガメッシュを召喚したことそのものだったと俺は思っている。
もしギルガメッシュが存在しなければ、言峰綺礼があそこまで歪んで覚醒する可能性はずっと低かったはずだし、時臣自身も殺されることはなかっただろう。
この世界なら亜種聖杯戦争による触媒高騰とかが起きてないから、強力な触媒はいくらでも集められるので、アルゴー号の欠片でガチャをするなり、ギリギリ召喚圏内だったインド神話━━マハーバーラタやラーマーヤナの英霊*1を狙うなり、もっと安全で堅実な選択肢はいくらでも存在した。
わざわざ神と人の転換期の時の王を引き当てる必要など、最初からどこにもなかったのだ。
「まぁ、ともかく、ギルガメッシュが邪魔すぎた。あれを排除できない限り、こちらが敗北する可能性は極めて高かったからね。だから不意打ちとはいえ、ようやく倒し切れた今だからこそ、こうして素直に尋問へ応じているわけさ」
「あなたの言い分は理解できたわ。一部、どうやってそこまで調べたのか不思議になるくらい正確な情報も混ざっていたけれど」
おっと、しまった。
少し情報を出し過ぎたかもしれない。
ギルガメッシュや言峰について知っていることを説明するうち、つい前世で得た知識を当然のように織り交ぜてしまっていたらしい。
幸いにも彼女は「情報の出どころがおかしい」と感じた程度で済んでいるようだが、これ以上踏み込まれれば誤魔化し切れる自信はない。
「まぁ、とりあえず、独自の情報網があるってことにしておくわ」
それ以上、情報源について深く追及されることはなかった。
どうやら全員、秘密の一つや二つ抱えているのは当然だと判断したらしい。
その反応に胸の内で安堵の息を吐き、ひとまず前世云々が露見する危険は避けられたと判断する。
空気が一段落したところで、俺は改めて全員を見渡した。
「さて、
その一言が落ちた瞬間、士郎君たちは疑問を抱いていた。
その反応は当然だった。
大聖杯はこちらがすでに確保している。
小聖杯についても、今となっては奪われる危険性は限りなく低い。
聖杯戦争という一点だけを見れば、敵の目的はすでに潰えたも同然だった。
ここで危険を冒してまで言峰綺礼を追撃する理由など、普通に考えれば存在しない。
だが、実情は正反対だった。
今だからこそ、始末しなければならない。
あの男には、このまま生かしておいてはならない理由がある。
時間を与えれば与えるほど状況は悪化し、こちらが積み重ねた優位は容易く覆されかねない。
まだ奴が動き出す前だからこそ、息の根を止めておく必要があるのだ。
「言峰な。ギルガメッシュの入れ知恵なのかは知らんけど、余ってた枠で真のキャスターを召喚したのは分かってたんだけどな」
そこで一拍置く。
その場の空気が、張り詰めた弦のように静まり返る。
「そいつが神霊だってのと、
さて、士郎君たちと共闘関係を結んだことで、ようやく一息つける状況にはなった。
とはいえ、本当に休んでいる暇があるわけではない。
この先の展開を考えれば、個別に話を通しておかなければならない相手も多いし、回収しておくべきフラグも山ほど残っている。一つ対応を間違えれば、せっかく築いた有利があっさり崩れかねない。
だから休息は最低限。
まずは、自陣営で片付けられる案件から処理していくことにした。
「呼んだか、面白い魔術師」
姿を現したのはジャックさんだ。
相変わらず変装など一切しておらず、英国紳士を思わせる洒落た服装に、あの漆黒の顔面という強烈な組み合わせである。
初見なら確実に二度見する。
そして、その隣には暇を持て余したのか慎二君まで付いてきていた。
「それで君の目的は、『ジャック・ザ・リッパーの正体』または『ホワイトチャペルの殺人犯』を知る事で合ってる?」
「ああ。合っている。それが私の願いだ」
その願いについては以前から聞いていた。
そして最近になって思ったのだ。
案外これ、前世の知識だけでもある程度は願いに近付けられるんじゃないか、と。
切り裂きジャックの正体は、俺が死んだ時代でも公式には未解決事件として扱われていた。
しかし一方で、「恐らくこいつが最有力だろう」とされる人物は存在している。もちろん決定打には欠けるが。
証拠の扱いが杜撰だ、分析方法に問題がある、そもそも前提がおかしいなど、様々な批判を受けている説でもある。
そういえば、一時期は切り裂きジャック候補の一覧に、
本人に一応聞いてみたけど違うと断言してたなぁ。
「前提条件として、あくまでこれは具体的な証拠が出揃っているわけじゃない。不確定要素も多いから、普通に違う可能性もある」
「構わない。それで自分の正体へ近付けるのであれば」
迷いのない返答だった。
ここまで執着している願いなら、中途半端な情報でも欲しいのだろう。
「オーケー。じゃあ俺の世界で、最有力視されていたのは、『アーロン・コスミンスキー』という人物だ。根拠になったのは、被害者の一人の遺留品とされるショールから検出されたミトコンドリアDNA*2と、Y染色体*3が一致したことだ」
「それは‥‥‥もう確定ではないのか?」
期待を滲ませた声だった。
科学的証拠と聞けば、そう考えるのも無理はない。
実際、アーロン・コスミンスキーは昔から切り裂きジャック事件の有力容疑者の一人として名前が挙がっていた人物だ。
2014年、ラッセル・エドワーズという人物が、被害者キャサリン・エドウズの遺留品とされるショールを入手し、その付着物からコスミンスキーのDNAと一致する結果が得られたと公表した。
当時は世界中で大きな話題になった。
だが、その後の評価は決して芳しいものではなかった。
現在では、多くの研究者や専門家から「決定的証拠にはなり得ない」という見解が示されている。
「入手経緯が怪しすぎるんだ。DNA分析そのものも精度に問題があるって指摘されてるし、そもそもの容疑者選定も、当時のユダヤ人差別による偏見が発端だった側面が強い」
「成程」
ジャックさんは静かに頷いた。
ショール自体、競売を経て所有者が何度も変わっている品だ。
しかも百年以上という長い年月が経過している。
その間に第三者のDNAが付着していても何ら不思議ではないし、解析技術や解析手法にも批判が残っている。
DNA配列の解釈そのものにも異論があり、「一致した」という結論自体を疑問視する研究者も少なくない。
結局のところ、「最有力候補」ではある。
しかし、それ以上でもそれ以下でもない。
確定とは、とても言えないのである。
まぁ‥‥‥俺個人としては、やっぱりアーロン・コスミンスキーなんじゃないかとは思っているけど。
ちなみに横で話を聞いていた慎二君は、内容を普通に理解している様子だった。
DNAだの染色体だのという話にもまったく置いていかれていない。
さすが理系である。
「これで満足していただけた?」
「ああ。少なくとも、自分の正体へ至るための手掛かりは得られた。それだけでも十分な収穫だ」
静かに頷くジャックさん。
その声音には、先ほどまで抱えていた焦燥はなかった。
真実そのものには届かなかった。それでも、長年霧に包まれていた願いへ確かに近付けたという実感だけはあったのだろう。
「まぁ、本当に願いを叶えたいなら、今よりずっと科学技術が発展した二十二世紀以降の聖杯戦争に参加するのが一番手っ取り早いと思うぞ」
「二十二世紀か‥‥‥。サーヴァントとして現界し続ける限り、その可能性も決してゼロではないな」
「その頃ならDNA解析技術も今とは比べ物にならないくらい進歩してるはずだ。下手をすれば、切り裂きジャックの正体なんて歴史の教科書に載ってても不思議じゃない」
「フッ‥‥‥そうなれば、私の願いも聖杯に頼る必要すらなくなるか」
一応もう一つの手立てとして当時に偶然聖杯戦争が起きてその時に呼ばれるという手もある。
自嘲とも安堵ともつかない笑みを漏らしたジャックさんは、それ以上この話題を引き延ばそうとはしなかった。
とりあえず今回はジャックさんは自分の願いのヒントに近づけたことで妥協するらしい。
これで片付けるべき案件の一つは終わった。
さて、次は‥‥‥
補足:
相良君が時臣のルール違反の指摘についてなのですが、あれは「言峰と共闘したこと」を言っているのではなく「本来中立である教会と共謀して出来レースにしようとしたこと」を指摘してます。
別に他のマスターやサーヴァントと組むこと自体を咎めるルールも無ければ、共闘・同盟が必須レベルの聖杯戦争(サムレム、アポ、fakeなど)もありますし。
聖杯の呼べる英霊に関しては、ある二次創作からパク‥‥‥着想を得たのですが、別にアジア圏も呼べそうなんですよね。
第三次で天草(日本)が呼べてたり、アポ原作でカルナ(インド)、原作stay nightではNOUMINと正義の味方(特殊な事例だが、どちらも日本出身)が呼べてる辺り、御三家の間桐、アインツベルンが遠坂が知名度補正が掛かる日本の英霊(例:ノッブ)を呼ばないようにするためにでっちあげた嘘のルールではないでしょうか?
言峰も違反召喚してます。
ギルの入れ知恵です。
やり方は先にアヴェンジャーを呼んで、「キャスターを召喚しよう。今召喚したのはアヴェンジャー、別枠だ」みたいな感じです。
神霊ですが悪属性なので一応第五次の聖杯で呼べる範囲です。
キャスターは悪属性ではないけど、異例中の異例。
ざっくり言えば召喚に割り込んだ。
ジャックさんの願いはfakeと変わらず切り裂きジャックの正体を探る事。
取り敢えず、wikiで調べて出てきた情報を基に書いた感じです(若干の誤りがあるかも)。
浄化した使用済みの聖杯を使うよりかは妥協して次に活かそうとしてる感じですね。
ただ、それはそれとして現界したこの世界を少し見てみようかと若干興味を持ってたりします。