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励みになります。
「confronting yourself━━自分自身との戦い、と意訳できる言葉だけどさ。凛の嬢ちゃんは、この言葉を聞いて何を思い浮かべる?」
「‥‥‥いきなりそんなことを聞かれても、さすがに脈絡が無さすぎて何を答えればいいのか分からないのだけど」
そりゃそうか。
会って早々、前置きも説明もなくそんな問いを投げかけられて理解できる人間なんてそうそういない。
しかも、今この場の話題とも何一つ繋がっていない内容だ。
凛からすれば、俺が急に哲学でも語り始めたようにしか見えないだろう。
「なら質問を変えよう。君、自分のアーチャーの正体についてはどこまで分かってる?」
「ルーラーが今まで遠回しに言ってきたことと、時々見る夢のおかげで薄々とは気付いていたわ。今の相良
ああ、やっぱりそこまでは察していたか。
さすが遠坂凛というべきか。情報を断片的にしか渡していなくても、それらを繋ぎ合わせて真実へ辿り着く程度の洞察力は最初から持っている。
ちなみに、凛の嬢ちゃんから「先生」と呼ばれている。
本人曰く、「相良さん」だと距離感が妙に近く感じる一方で、魔術師としては色々教わっている立場だから「先生」の方がしっくり来るらしい。
とはいえ堅苦しい敬語ではなく、普段通りの遠坂凛らしい口調のままなので、こっちとしても妙な気疲れはない。
「それなら改めて聞こう。confronting yourself━━自分自身との戦いって言葉について、今の君はどう思う?」
「‥‥‥そういうこと。結局は士郎とアーチャーを戦わせることについて、私がどう考えるかを聞いてるってことでしょう?」
「その通り。さすが話が早くて助かるよ。もちろん、その戦いで士郎君が命を落とすなんて事態だけは絶対に起きないよう、アーチャーには事前にきっちり釘を刺してあるから、その点だけは安心してくれていい」
「そこまで言うなら聞いておくわ。その『絶対に死なない保証』っていうのは、具体的にはどういう内容なの?」
「まず
「‥‥‥なるほどね。そこまで準備してあるなら反対はしないわ。ただし一つだけ条件を追加する。もしアーチャーが本気で士郎を殺そうとした瞬間があったら、私は令呪を使ってでも止めるけど、そっちも有無を言わさず割って入って。そのことだけは最初から了承しておいて」
意外だった。
てっきり感情的に反対されるものだと思っていたが、その返答は驚くほど冷静だった。
いや、違う、凛の嬢ちゃんも理解しているんだ。
こうしなければアーチャーという男は救われないし、理想だけを追い続ける士郎君に、自分自身の答えを見つけさせることができる。
だからこそ、不安を抱えながらも必要な儀式として受け入れたのだろう。
「それと、もう一つ聞きたいことがあるわ。そっちのアーチャーの真名についてよ」
「ん? アーチャーならロビンフッドとアタランテだって説明したはずだけど」
「違うわ。その二人じゃない。本当の意味でのアーチャーよ。情報を大量に流して誤魔化したつもりなんでしょうけど、逆にどうしてそこだけ隠したのかが気になっていたの。だから、この機会に教えてもらえる?」
実を言うと、俺が召喚した本命のアーチャーについてだけは、士郎君たちへ真名を明かしていなかった。
理由は隠蔽というより、単純に情報量を調整しただけなのだが。
「あー‥‥‥そこは完全に俺のミスだな。隠そうとしたわけじゃない。ワルキューレまで含めて一気に説明したら、さすがに情報量が多すぎて処理しきれないと思っただけなんだ。だから優先順位を考えて後回しにしていただけだ」
「なら最初からそう言えばよかったじゃない。こっちは変に深読みして色々考えてたのよ」
「悪かった悪かった。変な誤解を招くとは思ってなかったんだよ」
別に秘密主義を気取っていたわけではない。
ただ、彼女たちが一度に理解できる量を考えた結果、本当に必要な情報から順番に説明していただけだ。
ロビンやアタランテについても、「もう分かっているだろう」という前提で話を進めただけで、実際には本人も俺も正式な真名は口にしていなかった。
「ま、こういう約束事は後回しにしても面倒になるだけだし、アーチャー、霊体化を解いて姿を見せてくれ」
「承知した」
静かな返答と同時に、空間がわずかに揺らぐ。
霊体で待機していた存在が現界すると、魔力が空気を震わせるような圧迫感が庭先を包み込んだ。
姿を現した男は、白と赤を基調とした織物の衣を纏い、背中まで伸びた長髪を一つに束ねている。
武人らしい威圧感と、知将らしい静謐さを同時に漂わせるその姿は、一目見ただけでも只者ではないと理解できる風格を備えていた。
「その顔立ちと服装‥‥‥西洋じゃないわね。もしかしてまたアジア圏の英霊なの?」
「その認識で相違ない。私が生まれた地は唐土━━この時代では中国と呼ばれている国だ」
本来、冬木式の聖杯では西洋英雄が優先される。
何の細工も施していない通常の召喚で、中国や日本といった東アジア圏の英霊が呼ばれることはほぼないが聖杯関係に逸話があれば召喚できるのだが極めて稀だ。
このアーチャーが召喚された原因は義仲と同じ聖杯戦争に参加していたため同時召喚の影響で選出されたのだろう。
やがて、アーチャーは一歩前へ出ると、堂々たる声音で己の真名を告げた。
「我が真名は周公瑾。もっとも、この国では周瑜という名の方が広く知られているだろう」
「周瑜‥‥‥確か三国志の赤壁の戦いで曹操軍を破った、孫呉の名将だったわね。随分とまぁ当たりの英霊ね」
さすがに凜の嬢ちゃんは三国志を知ってたか。
これが歴史にあまり詳しくない士郎君だったら真名を聞かされても疑問符を浮かべてただけだろう。
周瑜は弓兵として優秀なだけではなく、剣術・槍術を含めた白兵戦能力にも優れ、さらに軍略・指揮・対軍宝具運用まで高水準でこなす万能型の英霊だ。
純粋なアーチャークラスとして見ても上位層へ食い込む実力を備えている。
周瑜、または公瑾。
長年にわたって君主である孫一族の補佐をし続けた名将が一人。
知略・武勇共に優れた才覚を持っており、人柄も寛大かつ謙虚で穏やかな人格者で、おまけに容姿も美しかったことから「美周郎」の異名で称された。
もっとも三国志演義では孔明がスポットライトに当たりやすいからなのか、完全に孔明の引き立て役にされている。
しかしながら、その策略は凄まじく、特に有名なのが三国志における戦いの一つ、赤壁の戦いにおいて曹操軍の船団を火攻めによって壊滅させたことだろう。
この逸話が昇華されたのが彼の持つ二つの宝具である。
まぁこれは追々語るとしよう。
本来周瑜は船に乗った逸話からライダーや軍師ということでキャスターとして召喚される可能性が高いはずなのだが、実際の所はアーチャーとして召喚されることが一番多い。
赤壁での矢を使った戦略と孔明に対する演義での逸話があるにはあるが、それを抜きにしてもライダーとして召喚されるのが妥当だと思うけど。
アーチャーとはいえ、ライダー寄りのスキルと宝具の組み合わせでかつ魔力の消費が全くないから運用コストとしては義仲同様最高レベルである。
そんでもって次の日。
話が伸びない会話パートなんて誰が見たいって言うねん。
サクラや慎二君、葛木さんとの会話もあったけど、内容は長ったらしい日常会話ばかりだったのでパスだ。
「「
「
始まったか。
意外と早く始まったというべきか。
まだ数日は準備に掛かると思っていたんだが、こうして士郎君とエミヤによる一騎打ちは予想よりも早く実現した。
決闘を申し出たのはエミヤで、それに応じたのは士郎君だった。
無論アルトリアは最後まで反対したようだが、エミヤが自身の正体を明かしたことで士郎君が自ら説得し、最終的に一騎打ちの場へと漕ぎ着けたらしい。
そして、そこからの準備は驚くほど早かった。
メタンヌが神聖な決闘の名の下に戦場を構築し、それは固有結界ではなく結界宝具に近い、まるで天界のような空間となって顕現する。
その結界には固有結界そのものを封じる性質があり、エミヤ最大の切り札である《無限の剣製》は発動できない。
これで両者は限りなくイーブンな条件で戦えるというわけだ。
そうして今、俺たちはその戦いを結界の外から観戦している。
凛の嬢ちゃんやサクラ、慎二君たちマスター勢はもちろん、興味を持ったサーヴァントたちも何騎か見物に来ていた。
そんな中、俺は同じく観戦しているイリヤと話をしていた。
「随分とシロウの技量が上がってるように見えるのだけど、あなたの仕業?」
「そだよ。さすがに対サーヴァント戦をするなら、ある程度経験値を積ませないと一方的に乙る可能性が十分にあるし」
エミヤが士郎君を一方的に叩きのめすようでは決闘にならない。
だからこそ、決闘を申し込まれるより前から俺のサーヴァントたちに協力してもらい、実戦を想定したガチ稽古を積ませてきた。
ペルセウスからは搦め手とその対処法を。
謙信からは各武器の利点と欠点、それぞれの手札をどう切るべきかという戦術を。
沖田オルタからは斬り合いでの立ち回りと剣術そのものを。
クンドリーからは投影魔術の
その成果は十分に出ていた。
士郎君の経験値は短期間とは思えないほど積み上がり、少なくとも三流サーヴァント相手なら数秒は正面から応戦できるだけの実力を身につけている。
「投影━━
「ならこっちは! ━━
いつの間にダンテの宝具を投影してい‥‥‥ああ、衛宮邸急襲の時か。
あの時に解析してたのか。
そういえば言い忘れてたけど、士郎君には"今の"エミヤが持ち合わせていないであろう
特に謙信ちゃんの武器は、不知火以外は生前使っていただけで宝具には至っていない代物ばかりだ。
その分情報量も少なく、投影するには相性がいいらしい。
「それで、君はどうする?」
「私?」
「魔術師殺しに対する八つ当たりも、士郎君に向けてた感情も、もう既に消え失せてるんだろ?」
「ええ。もうとっくに消え失せたわ」
「今回の聖杯は浄化できる見込みがある。ただ、使う予定なのは俺だから第三魔法に至る可能性は低い。つまりアインツベルンの悲願とやらは今回も叶わなくなる」
「‥‥‥はぁ。長ったらしい話の意図がようやく読めたわ。別にいいわよ。聖杯を浄化した以上、叶える権利はそっちにあるし、あの戦力差を見て無謀に挑むほど私もバカじゃないもの」
これでイリヤの説得も終わった。
そもそも今回の聖杯の使用法は小聖杯を用いるものじゃないから、イリヤを犠牲にする必要はほとんどない。
それに、アインツベルンの悲願なんてもののためだけに命を使い潰されるのも後味が悪い。
だから、これを渡しておく。
「電話番号と‥‥‥口座番号?」
「そこに書いてあるのは時計塔で封印指定を受けてる人形師の連絡先だ。仮で作ってた口座の金を使え。その人なら、お前を人並みに生かす手段を持ってる」
「どこでこの番号を?」
「(俺の世界だと)代行者やってた友人から」
あいつ、本当に異常な情報網を持ってるんだよな。
人形師の蒼崎なんて魔術協会でも有名人ではあるが、その連絡先を知ってる人間なんてほとんどいない。
それを平然と見つけてくるんだから恐れ入る。
以前なんて、ついでみたいな感覚で戦後処理に必要としてたシロウ・コトミネこと天草四郎の経歴を綺麗さっぱり調べ上げてきたくらいだし。
「一つだけ聞かせて」
紙を受け取ったイリヤが、静かにこちらを見る。
「あなたは何で私を助けるの?」
何で助けるのか、か。
そんなもの決まってる。
「生きたいと思ってる子供を見殺しにしたら目覚めが悪いし、それに見捨てられるほど俺も薄情じゃない。それだけだ」
「そう‥‥‥変な人」
そう言って小さく笑うイリヤを見て、俺も肩を竦めた。
生憎、俺は昔からお人好しなんだ。
変人だと思ってくれても別に構わない。
そんな話をしている間に、どうやら目の前の戦いにも決着が付いたようだった。
どんな戦いだったかって?
それはもう原作じゃまず見られないような、多種多様な武器と宝具が飛び交う応酬だった。
投影できる武器の幅が広がった士郎君と、それに応じてあらゆる手札を切り返すエミヤ。
互いが互いを知り尽くしているからこそ成立する、未来と過去が真正面からぶつかり合う戦いだった。
これでエミヤも士郎君も、それぞれ自分なりの答えを見つけてくれただろう。
本来だったらもう少し戦闘シーンを足そうと思ったんですよ!
‥‥‥なんか急にモチベが下がりまくったんですよね。
期待してた方には申し訳ありません。
今回のまとめ:
相良君:代行者やってた友人の情報屋という結構いい情報網を持ってる奴のパイプを持ってたりする。その人物は勿論オリキャラ。この段階で士剣のカップリングフラグが自分がいる間に起こる可能性がほぼないことを悟って諦めた。
士郎&エミヤ:ハルペー、アイギス、ペッカティ・スパーダ、塩留めの太刀など、原作とは違った投影の応酬をしている。本来ならもっと豪華に戦闘シーンを書こうと思ったが、誰かの作品の二番煎じになりそうだったので軽くだけ書いた。
イリヤ:さすがにバーサーカーで全てを破壊できるとは思っておらず、相良君に聖杯の使用権利をあげた。その見返りで人形師の連絡先とそこそこ(約80万~120万ほど)の金の口座も渡した。