励みになります。
時間は少し遡り、戦場は円蔵山の麓へと移る。
柳洞寺の山門側では固有結界同士が激突する規格外の戦いが繰り広げられている一方、その麓でもまた熾烈な戦闘が続いていた。
剣戟が絶え間なく火花を散らし、魔術が夜気を引き裂き、大地は爆ぜ、木々は薙ぎ倒される。
英霊も人間も関係なく、それぞれが命を賭して敵と刃を交え、一瞬の油断すら死へと直結する極限の戦場と化していた。
「そらそら! どうしたどうした! オレ如きの武術に押し込まれてるようじゃ、この先に待ってる連中には到底勝てんぞ!」
「くっ‥‥‥! これが神霊の本気の実力だというのか! ただのサーヴァントとは格が違いすぎる!」
少女のような華奢な体躯とは裏腹に、ンザンビの立ち回りは老獪な武人そのものだった。
粘りつくように緩慢な歩法。
それでいて、一歩踏み込んだ瞬間には獣のような爆発力を見せる。
拳は重く、蹴りは鋭く、その一撃一撃に神性由来の膂力が宿る。
後方支援向きのキャスターと言えども、神霊の力は通常のサーヴァントでは太刀打ちできない。
「凍てつく夜の風よ‥‥‥全てを凍土へと沈めなさい!」
「くっ‥‥‥神霊同士が混ざり合っているだけあって、一筋縄でどうにかなる相手じゃないか!」
詠唱と共に吹き荒れた極寒の暴風が、大地を一瞬で白銀へと染め上げる。
霜柱が爆ぜるように地面から突き上がり、木々は瞬く間に氷像へと姿を変え、周囲の空気さえ凍り付くほどの冷気が戦場全体を支配した。
しかし、敵もまた神霊。
常識外れの神秘と神秘が真正面から激突するこの戦場では、それだけで決着が付くほど甘くはない。
「
「
黄金の輝きを纏った巨大な斬撃が、大地を抉りながら一直線に駆け抜ける。
対するニトクリス・オルタは静かに鏡を掲げ、冥府へ通じる黒き神秘を展開した。
鏡面から広がった魔術式が幾重にも重なり合い、黄金の斬撃を真正面から包み込む。
二つの神秘が激突した瞬間、轟音と共に衝撃波が周囲一帯を吹き飛ばし、巻き上がった土煙が戦場を覆い隠した。
「ガンド!!」
「ふっ!」
「はぁぁぁっ!!」
その一瞬だけ生まれた視界の乱れを見逃さず、魔術と体術が入り乱れる。
放たれたガンドが一直線に言峰へ迫る。
しかし、言峰は最小限の首の動きだけでそれを回避し、ほぼ同時に黒鍵を投擲する。
そこへ間髪入れず士郎が踏み込み、投影した双剣を交差させながら一気に距離を詰めた。
放たれる鋭い連撃。
だが、その全てが黒鍵一本で受け流され、時には素手で逸らされ、紙一重の体捌きだけで捌き切られてしまう。
言峰綺礼と二騎のンザンビとニトクリス(オルタ)という神霊の三者を相手取る戦いは、依然として決定打を欠いたまま膠着状態を続けていた。
人数だけを見れば、こちらが圧倒的に優勢で戦力差だけを比較するなら、そのまま押し潰していても何ら不思議ではない。
それでもなお勝負が動かない。
神霊という規格外の存在が英霊の器へ収まっている影響は、それほどまでに絶大だった。
通常のサーヴァントを大きく凌駕する基礎能力。
そこへ数千年という途方もない歳月の経験と神性が積み重なる。
並の英霊では正面からぶつかった瞬間、その圧倒的な格の違いだけで押し潰されても何ら不思議ではない相手だった。
そして、それは言峰綺礼も同じだった。
純粋な身体能力だけを比べれば、サーヴァントには到底及ばない。
だが、その不足分を補ってなお余りある技量が、この男には存在する。
代行者として幾度となく死線を潜り抜け、魔術師も異端者も素手で屠り続けてきた戦闘経験。
一切の無駄が存在しない歩法や最短距離だけを選び続ける体捌き、複数の黒鍵で攻防を幾重にも組み立てる戦術眼。
その全てが、人間という枠組みから逸脱していると言っても過言ではなかった。
(まだだ‥‥‥)
衛宮士郎は飛来する黒鍵を投影した双剣で受け流しながら、決して焦ることなく機を窺い続ける。
焦るな。
ここで切り札を切ったところで勝負は決まらない。
むしろ相手に警戒され、そのまま対処されるだけだ。
勝機があるとすれば、一度だけ。
言峰が「予想していなかった」と確信する、その一瞬だけ。
その一瞬だけが、自分に残された最大の好機だった。
(今じゃない‥‥‥まだ耐えろ)
乱れそうになる呼吸を無理やり整え、視線だけは決して逸らさない。
黒鍵の軌道。
踏み込みの癖。
重心移動。
視線の揺れ。
その全てを脳裏へ焼き付け、僅かでも生まれる綻びだけを辛抱強く待ち続ける。
だからこそ、この切り札だけは最後の最後まで伏せる。
勝負を決める一撃は、相手が最も油断し、最も隙を晒した、その瞬間にのみ放つと固く決めていた。
今更ながら思った。
よくよく考えれば、目の前の敵って能力だけで見れば通常のサーヴァントと遜色ないのに、防御や耐久面だけは明らかに劣ってるんじゃないか、と。
いくら俺が所持している銃が魔弾を扱えたり、右手に握っているナイフが触媒になるレベルの呪いを宿した代物とはいえ、流石にサクサク倒せすぎている。
百貌のハサンなんて少し深く斬れば消えるし、王の軍勢のネームドではない兵に至っては胴へ魔弾を一発撃ち込んだだけで霊核ごと崩壊して消滅していく。
普通のサーヴァントなら多少の損傷では踏み止まり、霊体化や魔力による応急修復で立て直してくるというのに、こいつらはそこまで持ちこたえられない。
恐らくニトクリスの鏡で再現した霊基へ、ンザンビが無理やり魂を縫い合わせて動かしているだけだからだろう。
英霊そのものではなく、あくまで残滓を無理やり戦力化した存在。
だから能力は再現できても、霊基の強度までは完全に再現できなかったってことか。
やっぱり神霊でも無茶だったんだろうな。
違法召喚を十騎以上も同時に維持するなんて真似は。
おかげでこいつらが某特撮でよく見る再生怪人枠にしか見えなくなってき‥‥‥いや、流石にそれを口に出したら色々ダメな気がするから黙っておこう。
もっとも、だからといって油断できる相手ではない。
一体一体は脆くとも数が多い上、全員が平均以上の思考能力を備えて連携まで取ってくる。
押し寄せる物量だけでも十分厄介だし、その中にはイスカンダルやディルムッドみたいな本命も混じっている。
雑魚だから放置、なんて真似は到底できない相手だった。
「舞台を変更しよう━━
おっと、ここで周瑜が第二宝具を使ったか。
展開された瞬間、景色が一変する。
乾いた砂地は燃え盛る焦土へ変わり、視界の先には黒煙を上げながら炎上する無数の軍船が揺れていた。
熱風が吹き荒れ、火の粉が舞い散り、まるで二千年前の赤壁そのものへ放り込まれたような光景が広がっていく。
もっとも、これは固有結界ではなく赤壁の戦いという歴史そのものを大魔術で一時的に再現した、周瑜の宝具だ。
世界を書き換える固有結界ではない以上、抑止力から修正を受けることもない。
しかも霊脈へ接続してしまえば消費魔力は驚くほど少なく、維持費まで含めれば破格の燃費を誇る。
そんなことを考えている間にも、地面から無数の鎖が蛇のように這い出し、逃げ場を失った敵兵たちの手足へ絡み付いていく。
炎に包まれた戦場で身動きを封じられた影鯖たちは、一斉に体勢を崩した。
その隙を周囲で待ち構えていた味方のサーヴァントたちが見逃すはずもなく、容赦なく追撃を叩き込み始める。
なるほど。
あの宝具の真価は戦場を再現することじゃない。
赤壁という「逃げ場を奪い、一方的に焼き尽くした戦い」そのものを再現し、敵の行動を支配することにあるらしい。
「
そして、拘束した敵へ向かって謙信が一切の容赦なく宝具を解き放ち、押し寄せていた影鯖擬きをまとめて薙ぎ払う。
一瞬で二十体もの分身を展開したせいか急激な魔力消費があったような気もするが、まぁ多分勘違いだろう、多分。
それに多少弱体化しているとはいえ、あのイスカンダルの首を獲ってる辺りやっぱり化け物である。
「その身をもって味わえ━━
「穿て!━━
「聖観世音菩薩━━
こっちでは、さっきまで激戦を繰り広げていた義仲とフィン&ディルムッドが宝具同士を真正面からぶつけ合っている。
相手が水(タイプ)、こっちが炎(タイプ)という相性的には明らかにこちらが不利な状況なのだが‥‥‥その不利を力尽くで覆そうとしていた。
「もらったぁッ!」
「「!!??」」
火力でゴリ押してるよ‥‥‥。
ランクやら属性相性やらを考えればどう見てもこっちが不利なんだけど、それでも真正面から押し勝ってる。
やっぱり固有結界の恩恵で火力が底上げされてるのか。
というか宝具合戦で二騎同時を相手によく勝てたな。
やっぱGENJI強いなぁ‥‥‥特にタイマン性能がおかしい。
そして残りの連中は分散しながら聖杯が安置されている柳洞寺へ向かっていく。
何気に戦況全体を見ながら最適な行動を取っている辺り、単純な戦闘力だけじゃなく判断力も高い。
まぁ、それでも本陣は本陣で盤石の布陣を敷いてあるから問題ないんだけど。
「Arrrthurr━━a?」
「私があの騎士王セイバーに似ていると思うか?」
「似てはないけど‥‥‥なんて言うか、見た目じゃなくて中身というか、そういう部分はちょっと似てる気がするんだよね」
「魂のカタチが似てる的な? そういう話なら、何となく納得できなくもないかな」
「右に同意」
「同じく」
「なるほど、姿ではなく魂を見ているということか」
待ち構えていたのはオルタとワルキューレ四姉妹。
念話で即座に指示を飛ばせる状況なら、こうして伏兵として待機させる運用もできる。
こいつらをここへ配置した理由は単純で、影鯖擬き相手なら宝具効果が極めて有効だからだ。
加えて、防衛戦である以上は迎撃に特化したサーヴァントを配置するのが最も合理的でもある。
「こういう時のための『一斉退去ビーム』、じゃなくて‥‥‥
「同調開始」
「出力固定」
「照準補正」
「全機、同期完了」
「久々にみんなでやろう。
個々ではなく全員で一つの宝具を扱うかのような統率された一撃が、影鯖擬きの群れへ一直線に降り注いだ。
例えばオルタの宝具の効果、「存在しえないもの、してはいけないものすら強制的に世界から退去、消滅させることが可能」という文言。
その「存在しえないもの、してはいけないもの」とは、仮初の肉体で現界している通常サーヴァントを除けば、半ばゾンビのような存在になっている
さらにワルキューレの宝具の効果である「投擲ダメージを与えると同時に効果範囲へ一種の結界を展開。あらゆる清浄な魂を慈しみ、同時に正しき生命ならざる存在を否定する」という一文。
この「正しき生命ならざる存在」も、広義で考えれば
つまり━━こいつらの宝具は、この影鯖擬き相手には相性抜群というわけだ。
相性有利どころか、存在そのものを否定する概念が噛み合っている以上、これ以上ないほど理想的な迎撃戦力と言える。
「aaaaaaaaーー!!」
「!!」
実際、命中しただけで影鯖擬きの肉体は煙が蒸発するようにジュワリと崩れ、そのまま跡形もなく消滅していく。
効果は文字通り抜群だった。
それとこれは余談ではあるが、サーヴァントには隠しスキルを持った者が稀に居る。
このワルキューレもそれの所有者である。
隠しスキルは「戦乙女たちの語らい(EX)」、その効果は同じスキルを持つ者と共闘した時に全パラメータを上昇させるというものである。
加えてワルキューレ時代のドリーを呼び出すことがほぼ不可能に近しかったため、その分宝具の威力もプラスされている。
やがて柳洞寺へ押し寄せていた影鯖擬きたちは次々と消え去り、防衛線はあっという間に静けさを取り戻す。
本物とは違う存在とはいえ、こうも一方的に蹴散らしてしまうと、少しだけ申し訳ない気分になってしまう。
本気の神霊なら違法召喚なんてもっと遠慮なく乱発してくるんだろうけど、それでもやっぱり━━
「言峰のサーヴァント共、躾がなされてない感じか? 命令には従ってるのに、どうにも統率されてるって空気を感じないんだよな」
そう思ってしまう。
いや、マスターの指示にはちゃんと従っているのは分かる。
ただ、なーんか違和感があるんだよなぁ‥‥‥。
具体的に言えば、あの神霊共が本当に召喚による能力低下を受けているのか怪しいことや、本来なら瞬殺できるはずの士郎君たちを相手に何時間も戦っているところとか。
神霊なら人間なんて知ったことかと好き勝手に振る舞ってもおかしくない。
なのに妙に言峰へ従順だし、さっきちらっと見えた二騎の様子も決して乗り気には見えなかった。
まるで自分の意思とは別に動いているような、そんな引っ掛かりだけがどうしても残る。
とりあえずランサーとの約束だけは守ろう。
そう決めた俺は考えを一旦打ち切り、主人不在であるはずの言峰教会へ向けて迷わず駆け出した。
やはりと言っていいのか、言峰教会には誰かがいる気配がまるでなく、日中であるにもかかわらず不気味なほど静まり返っていた。
もし言峰が防犯意識を高めて門を閉ざしていた場合も考えていたのだが、その心配は杞憂だったらしく、教会の門は拍子抜けするほどあっさりと開いた。
「おっ邪魔しまーす。って言っても、返事をする人はいないか」
えーっと、確か市役所職員に暗示を掛けて持ってこさせ、コピーした教会の見取り図によれば、回廊の傍に地下へ続く階段があり、その先に使われていない空き部屋があったはずだ。
中庭のような場所を見回しながら記憶を辿ると、程なくして目当ての階段を見つけることができた。
階段を一段、また一段と降りていくにつれ、鼻を突く独特の腐敗臭が濃くなっていく。
死臭だなこれは。
それに壁にこびり付いている白い粉のようなものも、それなりに年月が経ってるが近くで見れば骨粉以外の何物でもない。
原作はミリしら程度の知識しかなかったが、まさか言峰がここまで露骨に殺人行動をしていたとは思わなかった。
件の部屋へ足を踏み入れると、肉片がまだ付着したままの遺体も幾つか転がっていたが、その大半は完全に白骨化していた。
しかも骨格の大きさから判断する限り、そのほとんどが未成年者のものだ。
しゃがみ込んで骨の状態を確認すると、死亡推定時期は古いもので一年近く、比較的新しいものでも半年から十カ月程度といったところだろう。
想像以上に長期間、この地下室は死体置き場として利用され続けていたらしい。
生きてる奴は‥‥‥10数名いるけど、いずれも重傷か。
そして部屋の奥、木製の長椅子の傍には、一人の女性がぐったりと横たわっていた。
片腕を失ったバゼット。
確か封印指定執行者だったかで名前は聞いたことがあるがこの世界でも同じことをやってるようだ。
悪い噂は聞いたことは無いがダーニックさん曰く「己に自信を持てない小娘」だとか何とか。
顔色は血の気を失って青白く、このままでは失血死していてもおかしくないと一瞬焦り、急いで駆け寄る。
だが切断面を確認すると、そこには丁寧とは言えないまでも包帯が巻かれており、最低限の止血処置だけは施されていた。
どういうことだ、と一瞬意味が分からなかったが、すぐに言峰綺礼という男の性格を思い出す。
あの男なら、苦しみながらゆっくり死んでいく様を眺めるためだけに、あえて応急処置だけ施して放置するぐらいの真似は平然とやる。
となるとこいつも愉悦の玩具か。
そう考えれば、この状況にも妙な納得がいった。
取り敢えず、今は余計なことを考えている場合じゃない。
先に119番へ通報し、救急搬送させるのが最優先だ。
命が繋がっているのなら、ここで見殺しにする理由はない。
というかさ━━
「何でいるの、オマエ?」
「━━━━。」
「‥‥‥はぁ」
本当だったらもう少し影鯖擬きを倒すのに数話かけようかなと思っていたのですが、長くなりすぎても読者方は飽きて来るだけですので瞬殺してもらいました。
今回のまとめ:
義仲:知名度補正と気合でフィオナ騎士団のランサー二騎に打ち勝つ。やはり彼もGENJIの血を引いている。
周瑜:支援で宝具を使った。今回の出番はヘクトール(以降出番なし)ぐらいないが、一応別の番外編で活躍させるつもりではある。
沖田オルタ:バサスロットに誤認されかける。なお黒王からもFGOでアルトリア顔判定されているので見間違えても不思議ではない。
ワルキューレ:そう言えば夏霊基に「戦乙女たちの語らい(EX)」とかいうスキルがあったしこれを戦闘面で使えるとしたら同スキルを持つ者がいれば能力上昇とかかなと思い加えて見た。余談だがここのクンドリーはrequiemのクンドリーとは違う個体。
相良君:言峰が悪人なのは理解してたが幼児の殺人をしているとは知らなかった。最後に見つけた奴と数秒間会話した後、彼はため息をついた。