パーフェクトゲームを目指すには!   作:メタ(ル)

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キャラのエミュ調べにfgoインストールしてみたら、40漣ぐらいでアズライールさん来ちゃいました。

ちなみに今回と次でこの番外編はラストです。
次の番外編を書いていますがしばらくかかると思いますので気長に待ちください。

感想を頂けたら幸いです。
励みになります。


XXX 各々の終わり

男、言峰綺礼は円蔵山から少し離れた人気のない廃墟で、崩れかけた壁にもたれながら静かに腰を下ろしていた。

既に存在しないはずの心臓の辺りからは赤黒い血が絶え間なく流れ落ち、それを押さえつける手もまた血で染まり切っている。

滴り落ちた血液は乾いた地面へ小さな水溜まりを作り、命の残り時間を刻む時計のように広がっていった。

 

 

「よもやあの男の武器を取り出してくるとはな」

 

 

この致命傷を負わせたのは、先ほどまで戦っていた相手の一人であり、長らく愉悦の対象として見定めていた衛宮士郎だった。

土壇場で彼が投影したのは、あの男(衛宮切嗣)がかつて使用していたトンプソン・コンテンダー。

そこへ、どこで手に入れたのかも分からぬ起源弾を装填し、完全に虚を突く形で胸へ一発撃ち込んできた。

 

元より心臓など存在しない肉体ではあった。

だが、起源弾という異質な銃弾の恐ろしさだけは、過去にその身で味わった経験がある。

魔術回路そのものを破壊し、修復不能へ追い込むあの呪いは、今回も例外なく言峰を蝕んでいた。

弾丸が命中した瞬間、サーヴァントへ魔力を送り続けていた契約のパスごと魔術回路は焼き切られた。

供給源を失ったサーヴァントたちは順に自然消滅し、自身もまた間もなく命を落とす。

敗北、その二文字だけが静かに確定していた。

 

 

「私が負けるのも既定路線か‥‥‥。衛宮切嗣、死してなお‥‥‥つくづく癪に障る」

 

 

今更ながらあの男は‥‥‥。

勝算など初めから大きくないのは百も承知で会った。

それでも最後の最後で、あの銃とあの弾丸を持ち出される未来だけは予想していなかった。

 

計画が狂い始めたのはいつだったか。

英雄王が倒された時か。

自分と相性が良いようで悪いような神霊を召喚した時か。

いや、もっと前だ。

アサシンのマスターでありながら他のサーヴァントまで従え、戦場を好き放題に蹂躙していた一人の魔術師。

 

 

「相良豹馬。ああ、彼か」

 

 

当初こそ、ただの少し変わった魔術師程度にしか認識していなかった。

だが、英雄王が「あれは面白い」と口にして以降、彼への評価は大きく変わった。

魔術師でありながら常識の外側を歩き続ける異端者。

ゲームで例えるなら、自分というゲームマスター兼ラスボスを倒すためだけにチートを持ち込んだプレイヤー。

盤面の外からルールを書き換えてくるような存在だった。

 

こうなることなら、八枚舌についてもう少し周辺事情を調べておくべきだったか。

そんな後悔すら一瞬だけ頭を過ぎる。

もっとも、今さら全てが遅い。

 

この世に未練など‥‥‥ない。

ならば、このまま塵となり消える運命を受け入れよう。

そう静かに目を閉じかけた、その時だった。

瓦礫を踏む小さな足音が、廃墟へ響く。

 

 

「‥‥‥メタトロン、か。私に何か用かね」

 

 

姿を現したのはメタトロン。

今回の聖杯戦争でルーラーとして中立を保ち続けた━━と思っていたら相良豹馬の陣営だった大天使である。

純白のドレスを思わせる衣装は薄暗い廃墟の中でもなお眩しく、しかしその表情には勝者らしい喜びではなく、死者を見送る者だけが宿す静かな哀愁が滲んでいた。

 

 

「死にゆく者を見届けに来た。というのと━━」

 

「?」

 

神は霊である。(Dieu est Esprit,)故に神を崇める者は(et il faut que ceux qui)魂と真理をもって拝みなさい(l'adorent l'adorent en esprit et en vérité.)

 

 

瞬間、言峰の腕へ刻まれていた数画の令呪が淡く輝き、そのまま光となってメタトロンの手へ移っていく。

本来これは、聖堂教会が令呪の管理・受け渡しのために秘匿してきた聖言だった。

 

 

「裁定者ともあれば預託令呪の聖言を扱えるか。中々抜け目のない性格をしているようだな」

 

「ええ、最近は契約した誰かさんの影響を受けたようで」

 

「‥‥‥大天使メタトロンよ。あなたが私の信仰する神の代理人であるのならば、一つ問いたい」

 

「内容にもよりますが、それで?」

 

「何故神は私のような、他人の不幸でのみ幸福を感じる歪んだ人間をお創りになられたのか」

 

 

長年抱え続けた疑問だった。

自らの愉悦を肯定できても、この問いだけはどうしても答えが見つからない。

だから他者へ尋ねた。

 

ギルガメッシュは「知らん」と切り捨て、エジプトの神霊(アヌビス)は「分からん」と首を振り、アフリカの至高神(ンザンビ)は「さぁね」と興味なさそうに笑った。

 

いかにも神霊らしい、人間への無関心。

ならば目の前の大天使も同じなのだろう。

そう思っていた。

数秒の沈黙の後、メタトロンは静かに口を開く。

 

 

「まず、そもそも歪みのない人などいません。誰だって何らかの歪みは生まれながらに持っています。もちろん、人の私(エノク)も例外ではありません」

 

「‥‥‥。」

 

「神々が人を不完全に創られたのは、人に成長する余地と可能性を持たせるためです。その不完全さこそが人を人たらしめる要素なのですよ。歪みや癖、仕草、考え方、行動、その全てがその人だけの個性であり、変わる余地でもあります」

 

「つまり私という存在も、その歪みも含めて神の意思であり、神はそれを良しと肯定していると?」

 

「結論だけ言えば、その通りです。もっとも、神霊というのは案外匙加減が苦手な存在でもあります」

 

「ほう?」

 

「例えばギリシャの神々をご覧下さい。あそこは特に匙加減が豪快と言いますか、良くも悪くも極端でしょう?」

 

「確かに、そう言い切れるか」

 

「加護を授けるにしても過剰、試練を与えるにしても過剰。その結果として英雄譚が生まれる反面、悲劇も数え切れないほど生まれてしまいました。人から見れば理不尽でも、彼らにとってはそれが『最善』だったのでしょう」

 

 

ギリシャ神話を思い返せば、その例には事欠かない。

神々は獣を放ち、神造兵装を英雄へ授け、ときには過大な加護を与えた末に、その英雄自身を悲惨な運命へ叩き落としてきた。

神々は悪意だけで動いていたわけではない。

善意であろうと気まぐれであろうと、その力があまりにも大き過ぎたが故に、人間から見れば悲劇として映る結末を幾度となく生み出してきたのである。

 

今更ながら、神もまた完全ではないのだと理解する。

もし神が完全無欠の存在であったなら、ギリシャ神話の大半は日本昔話やグリム童話のような教訓譚になっていただろう。

もし信仰する神が一切の不完全さを持たぬ存在であったなら、救世主が磔にされる未来など存在しなかったはずだ。

結局、神ですら完全ではない。

 

 

「あなたに反省点があるとすれば、人生相談をギルガメッシュ()()にしてしまったことでしょうね」

 

「‥‥‥続けたまえ」

 

「第四次聖杯戦争であなたが召喚した百貌のハサンたちがいたでしょう。彼らから様々な意見を聞けばよかったのです。同じ山の翁でありながら百通りの人格と価値観を持つ彼らほど、多角的な答えを返せる英霊もそうはいません」

 

「英雄王の答えだけでは足りなかった、と」

 

「ええ。ギルガメッシュは英雄王としての答えしか返せません。しかし百貌のハサンなら、人格ごとに異なる価値観や人生観から答えを導いてくれたでしょう。彼らの所有する専科百般(A+)という万能性も伊達ではありませんしね。知識も経験も、彼らは一人ではなく百人分あります」

 

「そう考えると、私は最初から答えの幅を狭めていたわけか」

 

「少なくとも、別の答えへ辿り着く可能性はもっとあったはずです。先ほど私が申し上げたような考え方へ至った人格も、きっと一人や二人、あるいはそれ以上」

 

 

百貌のハサン最大の強みは、単純な分身能力ではない。

百もの人格を持ち、それぞれが異なる人生経験と価値観を積み重ねていることだ。

『専科百般(A+)』という万能の技能も相まって、相談相手として考えれば、これ以上なく優秀だったのかもしれない。

英雄王という唯一の答えだけを求めるのではなく、百人百様の答えへ耳を傾けていたなら、あるいは、言峰綺礼という男も違う結論へ辿り着けたのかもしれない。

もっとも、それは全て「もしも」あるいは「たられば」の話でしかない。

既に終わった過去を変えることは、誰にもできないのだから。

 

 

「‥‥‥十分な答えだった。少なくとも、この世に未練などもうない」

 

 

その言葉を最後に、言峰の肉体を形作っていた存在そのものが静かに崩れ始める。

 

 

「どうやら時間切れのようだ」

 

「そのようですね」

 

 

メタトロンは静かに一歩近付き、小さく目を閉じた。

 

 

「では、言峰綺礼。最期に、せめてもの手向けを送りましょう」

 

 

深く息を吸い、一節だけを静かに紡ぐ。

 

 

━━去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)

 

 

それは依り代(ジャンヌ・ダルク)が修めている洗礼詠唱の一節。

本来なら長い詠唱を捧げるつもりだった。

しかし、その瞬間だけ珍しく依り代であるジャンヌ・ダルクの意思が強く表へ現れた。

そしてこれは脳内の三人格会議でも依り代の意思を尊重するということで即決だった。

 

やがて柔らかな光が廃墟一帯を包み込む。

それは裁きの光ではなく、旅立つ魂を静かに送り出す祝福の光だった。

言峰綺礼は抵抗することもなく、その光へ身を委ねる。

 

それは裁きではなく、送別の光。

言峰綺礼という一人の男は、神の光へ静かに抱かれるように姿を消した。

しばし沈黙が流れる。

 

 

「‥‥‥次に座かカルデアで会った時は━━一局付き合ってもらおうかな」

 

 

その声に応える者はもういない。

残された廃墟には風だけが吹き抜け、先ほどまで誰かがいた痕跡さえ、静寂の中へ溶けていった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

衛宮士郎たちと相対していた*1二騎の神霊サーヴァントが、不意にぴたりと動きを止めた。

張り詰めていた空気が一瞬だけ静止する。

その変化に、剣を構えていたセイバー、弓を引き絞っていたアーチャー、騎乗したまま隙を窺っていたライダーまでもが、一旦動きを止めて様子を窺った。

戦場に訪れた、あまりにも唐突な静寂。

やがて、その理由を説明するようにンザンビが口を開く。

 

 

「降参。マスターのあの神父が死んだ。どえらい根性であの弾を耐えてたようだが、とうとう力尽きたみたいでねぇ」

 

 

相変わらず少女のような声とは裏腹に、どこか老人めいた粘つく口調。

しかし、その言葉には戦意らしいものが微塵も感じられなかった。

武器を握る手にも力はなく、戦いを続ける意思など最初から残っていないことが誰の目にも分かる。

 

 

「解せないな、キャスター、アヴェンジャー。あなた方ほどの神霊であれば、マスターを失ってなお数日は現界できるだけの霊基を維持できるはずだ」

 

 

アルトリアからの言葉にンザンビは「あー」と間延びした声を漏らし、頭をぽりぽりと掻いた。

 

 

「ああ、まぁそっちのアヌビスの嬢ちゃんも含めて、そのくらいの力はあるさぁ」

 

「では何故?」

 

「んー‥‥‥理由なんざ簡単」

 

 

そこで一度言葉を切る。

何かを選ぶように少しだけ考え込み、それから小さく笑った。

 

 

「乗り気じゃなかった。マスターには悪いがねぇ、最初っから気分は乗らなかったんだよ」

 

「?」

 

「どういう意味だ」

 

「まぁ‥‥‥そこの嬢ちゃんならオレの逸話くらい知ってるだろ? ついでにこの世全ての悪(アンリマユ)とかほざいてるガキについても」

 

 

突然話を振られた遠坂凛は一瞬だけ目を丸くしたものの、すぐに得心したように頷く。

 

 

「ええ、知ってるわ。あなたは貧しい人々へ恵みを与え、世界の秩序を守る至高神。そしてアンリマユは━━そういうことね」

 

「どういうことだ、遠坂」

 

「教えてください姉さん」

 

 

ンザンビの意図がつかめた遠坂だが、それ以外の二人はついて来れていない。

士郎が首を傾げ、桜もまた事情が読めず視線を向ける。

対する凛は話す。

 

 

「神話も地域も全然違うけど、ンザンビとアンリマユは『在り方そのものが真逆』なのよ」

 

「真逆?」

 

「ええ。ンザンビは秩序や善性、人が生きるための営みを見守る神。対してアンリマユは《この世全ての悪》として、人の悪意や災厄を象徴する存在。善悪という意味でも、思想という意味でも、ほとんど対極なの」

 

 

ンザンビというのは『個性』を生み出した至高神であり、一神教における唯一絶対の存在、あるいは多神教において神々の頂点に立つ最高位の神である。

そしてその名に相応しく、伝承として語られる逸話はいずれも善行に満ちており、その本質もまた善属性に属している。

 

対してアンリマユとは、『この世全ての悪』を生み出した拝火教における悪神であり、人々へ災厄や病、争いといったあらゆる害悪をもたらす邪悪なる神、あるいは荒ぶる神として語り継がれる存在である。

その逸話も悪性に満ちたものが大半を占め、自ら積極的に手を下すというより、人々を唆し、破滅へと導くことで災いを広げてきたとされるため、その本質は紛れもなく悪属性である。

 

善を司る神と、悪を象徴する神。

その在り方は根源からして相容れず、互いの存在そのものが否定し合うほどに相性は最悪だった。

だからこそンザンビは、自らとは正反対の在り方を体現する神擬きを顕現させようとするマスターに対して終始そりが合わず、その召喚にも最後まで乗り気にはなれなかったのだろう。

 

 

「別になぁ、オレは神霊だが、召喚してくれた、あるいは契約したマスターには従うさ。契約ってのはそういうもんだし、令呪を使われりゃ尚更逆らえねぇ。だがなぁ、あんな英雄王様とつるんで、あんな意味分かんねぇもんを顕現させるって言うなら、流石に乗り気にはならねぇな。召喚された以上は協力するさ。それでも、心までは完全に賛同できねぇって話だ」

 

 

ンザンビは肩を竦めながら、まるでどうでもいい世間話でもするかのような調子で語る。

その粘つくようにゆったりとした口調からは焦燥も悔しさも感じられず、敗北を認めた者というよりは、初めからこういう結末もあると達観していた神らしい余裕だけが滲んでいた。

 

 

「‥‥‥」

 

 

誰も返事をしない。

いや、返せなかった。

神霊自らが契約を否定することはない。

しかし契約を守った上でなお、自身の在り方だけは決して曲げなかった。

その言葉には言い訳も負け惜しみもなく、ただ至高神としての価値観だけが静かに込められていた。

 

 

「ついでに召喚されたアヌビスの嬢ちゃんも冥府の神だからなぁ。あんなマスターを良く思っちゃいなかった。死人をあるべき場所へ送り返す側が、死を捻じ曲げるような真似を好くわけねぇしな」

 

「その通り。我は死者を裁き、冥府へ導く神。その秩序を乱す者へ与する理由など最初から存在しない」

 

 

その声に怒気はない。

あるのは神として当然の理を語るだけの静かな威厳だった。

 

 

「だから神霊としての権限も、大半は『使えない』ってことにでっち上げてなぁ。本気出しゃ、この程度の戦場なんざ一瞬で終わっちまう。だから適当に理由付けして手ぇ抜いてたわけだ。おかげで今こうして素直に降伏できるってわけよ」

 

「方便もまた必要悪ということだ」

 

「神様が方便なんて言うんだ」

 

「言うだろ。ギリシャの神々とか方便まみれだろ?」

 

 

言い終えると、ンザンビは握っていたこん棒を何の未練もなく消す。

それは武装解除。

同時に、自らに敵意がないことを示す最も分かりやすい意思表示でもあった。

 

 

「ほれ、これで文句ねぇだろ」

 

 

戦場に張り詰めた空気は依然として解けない。

セイバーたちは剣を構えたまま一歩も動かず、ライダーもいつでも飛び出せるよう魔眼越しに二柱の神霊を観察し続ける。

アーチャーもまた油断なく双剣を下ろさない。

しかし、それ以上踏み込む者もいなかった。

目の前に立つ神霊からは敵意も殺意も感じられず、不意討ちを狙うような気配すら微塵もない。

少なくとも、この場で悪あがきをするような存在ではないことだけは、長年修羅場を潜り抜けてきた英霊たちにも理解できていた。

 

 

「はぁ‥‥‥それじゃあ我は還るぞ、至高神」

 

「あ? いいのか、アヌビスの嬢ちゃん。確かに聖杯なんざ興味ねぇ顔をしてたが」

 

「いい加減、嬢ちゃん呼ばわりはやめろ。この姿はあくまで依り代の器に過ぎん。此度の我はニトクリスではなく、冥府を司るアヌビスだ」

 

「はいはい」

 

「元より、あんな厄ネタの器など必要ない。それに、死者でありながら現世へ留まり続けていた言峰綺礼も、本当の意味で冥府へ還った」

 

 

そう言って一度だけ空を見上げる。

戦いが始まる前から抱いていた役目は、既に終わっていた。

 

 

「ならば我がここへ留まる理由も、もはや存在しない」

 

「そうかい。まぁ止めはしねぇよ。冥府の神様には冥府の仕事があるだろうしなぁ」

 

 

その言葉を最後に、ニトクリス・オルタの身体が淡い黄金の粒子へと変わり始める。

霊基は少しずつ崩れ、風へ溶け込むように光となって消えていく。

その姿は戦いの終焉を象徴するかのように静かで、神霊らしい神秘性だけを残していた。

 

 

「時に騎士王」

 

 

完全に消える直前、アヌビスは最後にセイバーへ視線を向ける。

 

 

「これは今さらお前へ言う必要もないことかもしれん。お門違いかもしれん。だが、それでも伝えておこう」

 

「はい」

 

 

セイバーは姿勢を正し、その言葉を受け止める。

 

 

「我らサーヴァントは、召喚された時代を生きる者たちと共に歩み、その助けとなることはできる」

 

 

静かな声音だった。

だが、一言一言には冥府神として積み重ねてきた歳月の重みが宿っている。

 

 

「しかし、自ら世界の行く末を定めようとする願いを抱いてはならない。行動で世界の行く末を定めてしまうのはある程度仕方はないが。今という時代を生きる人間にこそ、その時の未来を決める権利がある。我ら英霊とは過去を生きた存在であり、未来を選ぶ資格を持つ者ではない。たとえ本体が英霊の座に在り続けようとも、その理だけは決して変わらん」

 

「‥‥‥! 肝に銘じます。冥府を司る神よ」

 

 

セイバーは深く一礼する。

その表情には迷いではなく、一人の王としてその言葉を受け入れた決意があった。

 

 

「うむ。それでいい」

 

 

その一言を最後に、ニトクリス━━否、アヌビスは光となって完全に消滅した。

神霊の気配が一柱消えたことで、戦場を満たしていた圧力もゆっくりと薄れていく。

 

 

「‥‥‥キャスターは?」

 

 

その言葉で全員が気付く。

つい先ほどまでそこに立っていたはずのンザンビの姿が、いつの間にか跡形もなく消えていた。

霊基が消えた気配も、転移した魔力の揺らぎも何一つ残していない。

まるで最初からそこには誰もいなかったかのように。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━で、何でお前が生きてるんだ、ギルガメッシュ

 

「‥‥‥。」

 

 

思わず口をついて漏れた問い掛けに、目の前の人物は何一つ答えようとはせず、ただ穏やかな笑みだけを浮かべたまま静かに俺を見つめ返してくる。

俺の視線の先に立っていたのは、幽弋さんの宝具によって間違いなく冥府へ直送され、その最期を見届けたはずの英雄王ギルガメッシュだった。

燃え盛る炎を思わせる赤いルビーの瞳。

陽光を受けて輝く黄金色の髪は、そよ風に揺られながら静かに肩先を撫でている。

その圧倒的な容姿と存在感だけで、英雄王であることは一目見ただけで理解できた。

だけど、俺の知る傲岸不遜で全てを見下ろす絶対王者の姿とは、どこか決定的に違っており、年若く、まだ幼さを残した幼年体のギルガメッシュだった。

 

おっかしいなぁ、幽弋さんの宝具が命中したことは、この目で確かに確認している。

その後、メタンヌからも「冥府へ送られた」ことは間違いないと報告を受けていた。

つまり宝具は確実に死を与え、英雄王はそこで命を落としたはずなのだ。

それにもかかわらず、当の本人は何事もなかったかのような顔で、俺の目の前へ平然と立っている。

 

 

「あの宝具を受けた瞬間、最盛期の僕は若返りの薬を使用しました」

 

 

子ギルは、まるで講義でも始める教師のように落ち着き払った口調で説明を始める。

焦る様子も取り乱す様子も一切なく、その声音には余裕すら滲んでいた。

 

 

「若返りによって僕へ戻る、その僅かな瞬間だけ両方の存在が同時に成立するタイムラグが生まれます。その隙を利用して、死の概念だけを最盛期の僕へ押し付け、自分だけ逃れた━━そう言えば理解できますよね」

 

 

何となくストーリーは組み立てれた。

若返りの薬を使用した、瞬間に幼年体となったギルガメッシュが絶妙なタイミングで成立し、死の概念だけを幼年体の自分へ押し付けるという計画だったのだろうが、結果は全盛期の英雄王だけが死亡し、幼年体だけが生き残るという状況。

宝具自体屁理屈な使い方もできるからバグ的利用があるのは何となく想像しやすい。

 

ただそうなると目の前の幼年体はカウンターを決めた瞬間に誰からも感知されずにその場から姿を消したということになるが、素直に令呪を言峰が使うか?

というかギルガメッシュが分裂していることを言峰が知ってたならこいつもあの場に連れて来るだろうし。

 

 

「ああ、それはハデスの隠れ兜(これ)を使っただけです。僕の持つハデスの隠れ兜はランクEなので、隠蔽能力そのものは控えめです」

 

 

子ギルは何でもないことのように黄金の宝物庫を開き、その中から一つの古びた兜を取り出して見せた。

兜、いや正確には布か。

見覚えがありすぎる。

ペルセウスが持ってたあれとほぼ同じ奴か。

 

 

「ですが、高度な索敵能力を持つ相手ほど逆に見逃しやすい、という少し変わった性質がありまして」

 

 

確かにサーヴァント同士の索敵は、基本的に強大な魔力反応を優先して探知する。

だからこそ、極端なまでに存在感を薄めた対象は、逆に認識の網から零れ落ちやすくなる。

言われてみれば理屈は通っている。

まさに盲点を突くためだけに存在するような宝具だった。

 

 

「あと、しれっと心読んできたのは普通に怖かったぞ」

 

「おや? 顔に出ていましたよ」

 

「絶対違うだろ」

 

 

俺は即座に否定した。

俺が頭の中で考えていた内容へ寸分違わず返答してきた以上、読心に近い何らかの能力を使われたと考えた方が、どう考えても自然だった。

 

‥‥‥となると。

 

前世持ちかつ転生者であることはメタンヌみたく気づかれてるな。

何か「転生者なんて蔵に既に有り余るほどあるので、あなたをコレクションする気はないです」と言ってきたので確定だろう。

 

 

「えーっと、君の目的は何かな?」

 

 

とりあえず問い掛けてみることにする。

目の前にいるのは幼年体とはいえ、相手は紛れもなく英霊だ。

その目的次第では、この場がそのまま命の取り合いへ発展する可能性だって十分にある。

だからこそ、いつでも令呪を使ってサーヴァントを呼び出せるよう、意識の片隅では常に準備を整えておく。

油断はしない。

少なくとも、相手の出方を見るまでは。

 

 

「僕の目的は最盛期みたく裁定だの、セイバーへの求婚だの、そんなことはどうでもよくて、ただ単に契約(雇用)してもらいたいだけです」

 

「そうかそうか‥‥‥は!?」

 

 

思わず間の抜けた声が漏れた。

え、何で?

 

全く意図が掴めない。

目の前の幼いギルガメッシュは、敵対するでもなく、何か大仰な目的を掲げるでもなく、ただ淡々と「サーヴァント契約してほしい」と言っている。

予想外かつ警戒していた自分の方が馬鹿らしく思えてくるほどだった。

 

 

「アンリマユが消え、目の前の彼女(バゼット)が病院に搬送されるのならhollow ataraxia(あの物語)は起こりえませんので。このまま言峰の娘(カレン)サーヴァント(使い魔)になるよりかは、あなたと契約してそちらの世界へ行った方が自由そうだったので」

 

「まぁ‥‥‥うん。サーヴァントに命令するとしても相手の意思は尊重するし、明確な目的を持ってない以上、何かを成すための道具として使う気もないし‥‥‥」

 

 

そこで一度言葉を止める。

いや、それよりも。

 

 

「というか、別世界に転移できるのか?」

 

「魔力パスさえ繋がっていたら、勝手について来られるように設定をする予定だったのでしょう? 一騎か二騎増えたところで問題はなさそうでしたので」

 

 

元の世界への帰還方法についてはメタンヌに完全に放任していたが、まさかそんな仕組みでサーヴァントごと戻す予定だったのか。

知らないところで色々と準備されていたらしい。

 

さて、どうしたものか。

恐らくギルガメッシュ━━いや、区別するために子ギルとでも呼称しよう。

目の前の彼は、本来のギルガメッシュとは明らかに違う。

少なくとも、この敬語口調や礼儀正しそうな態度は演技ではなく、完全に素のものだ。

そして何より、こちらに対して敵対的な行動を一切取らない。

ならば、あれとは別物として扱っても問題はないだろう。

 

 

「それで、契約のことについてはどうでしょうか?」

 

「良いよ。ただ、契約して早々に魔力を吸うのだけはやめて。複数契約で、呪物聖杯に接続してないサーヴァント四騎を同時に使役するのは結構きつくてね」

 

「それでしたら問題ありませんよ。僕の単独行動スキルで、あと一週間近くは魔力なしでも現界できますので」

 

 

だったら問題はない。

正直なところ、魔力事情はかなり厳しい。

複数のサーヴァントを維持するというのは、口で言うほど簡単なものではない。

それでも契約そのものに大きなデメリットが存在しない以上、断る理由もなかった。

 

それに何と言うか‥‥‥苦労人っぽさが見える。

いや、本来のギルガメッシュに近しい性格なのは分かる。

分かるのだが、何だろう。

上手く言葉にできない違和感がある。

 

例えるなら、ギャグ展開なんかでマスターに散々こき使われる側のギルガメッシュというか‥‥‥。

自分でも何を言っているのか分からない。

ただ、目の前の幼い英雄王からは、そんな妙な親近感のようなものを感じていた。

 

 

「告げよう。汝の身は我の下に、我が運命は汝の剣に━━聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら━━」

 

「我が名に懸け誓いを受けます。汝を我が主として認めましょう、相良豹馬(■■■■)

 

 

そして、契約はあっさりと成立した。

契約成立時に発生する、いわば儀式上のバグのようなもので一瞬だけ魔力を持っていかれたが、すぐさま子ギルは自身の内にある魔力を循環させ、現界を維持するための力へと変換していく。

単独行動スキルを持ってくれてて助かった。

 

取り敢えず、メタンヌたちには話を通しておく必要がある。

そこだけは絶対だ。

問題は士郎君たちの方だが‥‥‥面倒だし、黙っておくか。

連れ帰る時も霊体化させておけば誤魔化しは利くだろう。

余計な騒ぎを起こす必要もない。

 

 

「━━というかさ、しれっと前世の名前で呼んでくるなや」

 

「いいじゃないですか。その方が契約らしくて、しっくりきていますので。今では偽名か別名義で使っているようですし」

 

「まぁ‥‥‥言われてみれば?」

 

 

確かに、そう言われると反論しづらい。

前世の名前は、銀行の別口座やら、少しばかりグレーな行動をする時に使う名義として残しているだけだ。

それに、たまにメタンヌからもその名前で呼ばれることはある。

だから今さら気にするほどのことでもないのかもしれない。

 

 

 

 

 

*1
どちらかと言えば殿を務めていた




今回のまとめ:

言峰:士郎が切り札としてなぜか持ってた起源弾に討たれるが、ガッツで廃墟まで持ちこたえた。メタンヌから答えを貰ってなんだかんだで救われた。

メタンヌ:奏章の一件の恩や謝罪も込めて答えを出してあげた。ちなみに言峰に対しては聖職者としては過去の自分に対して間違っていると指摘してくれた件と言い、素晴らしい人物と認めていたりする。

アヌビス:特殊召喚ゆえに願いは持っていなかったが、マスターがこの世の者ではないと分かっていたのでいつ還そうか考えてた。メタンヌが還したことで自分の役目はないと悟り消滅した。

ンザンビ:こちらも違法召喚なためにあまり乗り気ではなかった(というか相性最悪)。実際能力もギルガメッシュに悟られない程度に偽装いていたりする。なお、アヌビスもそうだがマスターの言うことは聞くけど乗り気ではない、というだけでサーヴァントとしての命を第一優先している。

子ギル:明らかなバグ技で分離していた。言峰には気づかれていなかったが、バゼットを軽く応急処置している。ホロウが起こらないのが確定なので『転生者』という面白いマスターに着いて行った方が自由に過ごせそうということで契約した。


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