車は神楽坂から豊洲へ向かう一般道を走っていた。
窓の外では、春先の街並みが夕暮れの光に浸っている。
ビルのガラスに残る陽射しが茜色へと移ろい、街灯の陰影が急速に伸び始めていた。
暖房の効いた車内にあっても、路面の振動を通じて足元から這い上がってくる冷気が季節の境目の冷たさを思い出させる。
ふと、ポケットの中でスマートフォンが振動した。
画面に表示されたのは『空木さん』の文字。
隣の有栖さんと短く視線を交わし、通話ボタンを押した。
「黒須です」
『空木だよ。あまり良くないニュースがある、凪くん』
スピーカー越しに聞こえる声は静かだったが、その底には隠しきれない鋭い焦燥が滲んでいた。
「……何かあったんですか?」
『築地跡地の魂喰が進化したという報告を受けた。二相になったらしい』
その一言を理解した瞬間、全身の血が引いていくような感覚に襲われる。
隣で有栖さんが小さく息を飲む気配がした。
「二相……ですか……」
『現場の部隊が今、必死に食い止めているが……結界で足止めするのが限界だ。君たちにそのまま引き継いでほしい』
車内の空気が急激に緊張で張り詰める。
電話の向こうで、空木博士の声が一段低くなった。
『くれぐれも無茶は禁物だ。特に凪くん、今の君はまだ自分の力の全貌を掴みきれていない』
「……分かりました」
『手に負えないと判断したら、躊躇わずに撤退してほしい。こちらでも手を尽くします』
通話が切れ、車内にふたたび静寂が戻る。
エンジン音だけが低く響く中で、有栖さんが静かに口を開いた。
「二相……私自身もこれまで数回しか対峙したことはありませんが、間違いなく厄介な相手です」
「一相とは、何がそこまで違うんですか?」
「一相のように単なる獣のような暴力ではなく、それぞれが何かしらの明確な『能力』を発現させています。以前、私が対峙した個体は周囲の瓦礫を磁力のように引き寄せて破片を放ってきましたし、別の個体は炎を吹き出し、熱波でこちらの結界を溶かそうとしてきました」
車が地下トンネルへと入り、窓の外が一瞬にして暗闇へと染まる。
橙色の高速照明が幾筋も前方を貫き、タイヤが放つ鋭い摩擦音が耳に貼りついて離れなかった。
「今回の敵がどんな力を使ってくるか、まだ分かりません。いつも以上に警戒して臨みましょう」
車は、舗装の乱れた旧倉庫街の路地に停まった。
タイヤの下で小石がジャリと音を立てて軋み、エンジンの低い唸りがやがて静かに止まる。
窓の外には半ば倒壊した倉庫の朽ちたシルエットが重なり、街灯の薄い光が春の夜気と潮靄に濁ってぼんやりと滲んでいた。
鼻腔を突くのは、強まる潮の香りとかすかな鉄錆の匂い。
「ありがとうございました。ここから先は徒歩で向かいますので、どうかお早めにこのエリアから離れてください」
有栖さんが運転手へ静かに頭を下げる。
声音はいつものように丁寧だったけれど、その響きの底には張り詰めた焦燥の硬度があった。
バックミラー越しに後部座席を振り返った運転手は何か言いかけたものの、結局は表情を硬くしたまま「お気をつけて」とだけ短く告げた。
ギアが切り替わり、黒塗りの車体がゆっくりとUターンしていく。
赤いテールランプの残光が夜の闇に溶け去るまで、その場に佇んでいた。
冷えたアスファルトに刻まれた濡れたタイヤ痕だけが、かろうじてそこが現実であることを繋ぎ止めている。
ふと、背後の暗がりから不規則な足音が近づいてきた。
素早く振り返ると、特殊装備を纏った隊員がひとり、コンクリート壁の影から縋り付くように姿を現す。
顔は黒い煤と血混じりの泥で汚れ、肩口の防弾布地がズタズタに裂けていた。
怯えと安堵が不気味に交錯するその視線が、自分たちに向けられる。
「あなた方が……増援、でしょうか」
浅く途切れ途切れの呼吸。
恐怖で喉の奥が引き攣り、今にも悲鳴に変わってしまいそうな痛々しく擦り切れた声だった。
「はい。現場の状況を聞かせていただけますか」
有栖さんが、静かに、けれど毅然とした声で先を促す。
男は渇いた喉で必死に唾を飲み込み、深く俯きながら震える声で語り始めた。
突如として始まった、魂喰の進化。
その異変を察知し、拘束班を率いて結界の内部へとなだれ込んだ部隊長たち。
しかし直後、結界の奥で魂喰の姿が不自然に霞み、視界を遮るほどの濃密な「霧」が発生したこと。外からは内部の様子がまったく伺えなくなった。
その直後に溢れ出した、絶叫と鼻を刺す血の匂い。
そして――今や不気味なほど静まり返った結界の内部。
男の声は膝の震えとともに掠れていたが、それでも最後の責任感を振り絞るように、必死で目の前で起きた地獄を言語化しようとしていた。
「……魂喰は今、どこに?」
尋ねると、男は力なく首を振った。
「わかりません。……ですが、結界を破壊して外へ出ようとする気配がないんです。奇妙です……まるで、何かを待っているかのように」
言葉の途中で男は強く唇を噛み締め、拳を握りしめた。
無力感と恐れが、その震える指先に白く滲んでいた。
「結界を維持している方々には、そのまま持ち場を動かないよう連絡をお願いします。ここからは、私たちが中に入りますから」
有栖さんの指示が、静まり返った夜気に凛と響く。
「はい……すぐに」
男は頷き、通信端末を取り出しながら踵を返した。
その去り際の背中に、ふと引き止められるような感覚を覚えて振り返る。
足を止め、こちらを真っ直ぐに見つめていた。
「どうか……どうか、隊長たちの仇を……」
掠れた、祈りにも似た言葉だった。
肩の震えが止まらないまま深く頭を下げると、縋るように路地の暗がりへと消えていった。
残されたその場には、ただ重苦しい沈黙と潮風のざらつく音だけが漂っている。
「行きましょう、凪さん」
有栖さんが呟いた。
声こそ低く落ち着いていたけれど、足元へ落とされた視線の奥には、静かな怒りと張り詰めた覚悟が苛烈に揺れていた。
自分も深く頷き、ふたり並んで結界の薄膜を潜り抜ける。
一歩、境界を越えた瞬間――世界の質が変わった。
外から見ていた霧とは、まるで別物だった。
濃密で、粘つき、皮膚の表面へまとわりついてくるような湿り気。
視界はわずか数メートル先で不自然に遮られ、その先は白と灰色の混ざり合った深い靄がすべてを呑み込んでいた。
潮の香りに混じって、鼻腔を突くのは鉄錆と、生臭い血の匂い。
「――新しいおもチャ?……あそブ?」
声が響いた。
左から。
いや、右か、それとも頭上か。
四方から同時に木霊するような甲高い声が、白濁した霧の中を縦横無尽に泳ぎ回る。
舌足らずで甘えるような幼子のおねだり。
それなのに、背筋に直接氷柱を捩じ込まれたかのような、心臓を凍らせる悪寒が駆け抜けた。
「――っ!?」
次の瞬間、有栖さんが低く叫んだ。
一呼吸の隙すらない、金属が擦れ合う鋭い断絶音。
有栖さんの刀が、視認することすらできない影を空中で弾き返していた。
跳ね返った衝撃波が霧を大きく揺らし、コンクリートの砕ける音が微かに漂う。
「いきます――っ!」
彼女の踏み込みは、文字通り疾風のようだった。
濡れた地表を深く抉り、最前線へと跳躍する。
けれど、一閃された刃が引き裂いたのは、ただの無音の霧だった。
実体はすでにそこにはない。
空を切った刃の余韻だけが、虚しく闇を彷徨っていた。
「凪さん、急いで障壁を! その場でです!」
有栖さんの叫びが飛ぶ。
つもの冷静さを打ち消すような、切迫した焦りが空気を包んでいた。
考えるよりも早く、手が動いていた。
渡されていた道具を前に翳し、意識を集中させる。
身体の奥に流れる力を引き出し、外へと叩きつけるように送り込む。
「――展開!」
掌から蒼白い波紋が爆ぜるように広がり、半径二メートルの球体状に透明な障壁が形成された。
周囲の空気の密度が一変し、薄膜一枚でこちらと向こうを隔てる。
「……なにソレ? 今度は壊れないおもチャ? キャハハッ!」
無邪気な哄笑が、障壁の外側で不気味に木霊していた。
直後――強烈な衝撃。
質量など持たないはずの霧の中から、突如として不可視の打擲が繰り出された。
殴打か、あるいは斬撃か。
形のない衝撃波が障壁を激しく叩き、耳の奥まで響く不快な鈍音が爆ぜる。
腕全体が激しく痺れ、一瞬視界がグラリと揺れた。
蒼白い障壁の表面が、水面のように激しく波打つ。
「――っ、重い……!」
声が不覚にも上擦る。
間髪を容れず、連撃。
二打、三打。
途切れることのない不可視の衝撃が、容赦なく障壁へ叩きつけられていく。
まるで無数の矢が盾を穿つような重圧。
意識の深部で、薄いガラスが砕け散るイメージが過る。
このままでは持たない。
長続きはしないと、本能が警鐘を鳴らしていた。
「有栖さん! 持ち堪えられますが、これは……っ!」
返事の代わりに、有栖さんの踏み込みが爆音となって空気を切り裂いた。
刀身が閃き、金属が激しく擦れ合う鋭い断絶音。
けれど――状況は何一つ変わらない。
霧の嘲笑だけが、頭上で不気味に増幅していく。
「もっとあそびたイ! あたらしいおもチャ、かんたんに壊れないおもチャ! キャハハハハッ!!」
哄笑は天蓋のように覆いかぶさり、鼓膜を鼓動させるように響き渡る。
声の余韻とともに、濡れた湿気が障壁を舐め上げ、腐敗した潮の匂いが一段と強まった。
まるでこの濃厚な霧そのものが、自分たちを閉じ込めて嬲るための檻であるかのように思えた。
霧の向こうで、有栖さんの呼吸が乱れているのが伝わってきた。
刀を構える刃先は一切のブレを見せていないものの、肩の上下がわずかに大きくなっている。
終わりが見えない無形の防戦が、彼女の体力を確実に削り取っていた。
「凪さん、探知をお願いできますか」
短く切り出された声音。
いつもの余裕は、もうそこにはなかった。
頷き、スフィア型の道具を握り締めると、反対の手のひらを地面へと向けた。
そっと目を閉じ、意識を掌の一点に集約させていく。
スフィアがかすかに体温を吸い上げ、冷たい拍動を返してきた。
それを合図に、意識を地面へと流し込む。
――トン、と。
波紋が広がる。
無機質なコンクリートや落ちている小石、土の質感はすべて透過し、生物としての波長を持つ存在だけを捉えるソナーのような脈動。
掌から放たれた目に見えないパルスが、地面を這い密着する霧を伝って同心円状に広がっていく。
反応があった。
左前方。いや、同時に右後方。
頭上。そして、足元。
波紋が届いた先々から、まったく同質の「命の蠢き」が幾重にも跳ね返ってくる。
まるで、この空間を満たす霧の粒の一つひとつに、意思が宿っているかのように。
「……霧、自体が……?」
思わず唇から零れ落ちた言葉に、有栖さんが息を呑んだ。
彼女の刃先が、わずかに下がる。
鋭い眼差しは崩さないものの、背中に走っていた緊張が一瞬だけ固まったのが分かった。
「全方向に、まったく同じ反応があります。霧の中に潜んでいるというより……」
「それ自体が魂喰の『身体』だというわけですね」
有栖さんが、低く押し殺した声で頷く。
「厄介です。実体を伴わない物質透過と、全方位からの奇襲にも等しい攻撃……」
その言葉が終わるか終わらないかの瞬間、霧の奥で甲高い金切り声が爆ぜた。
「つまんナイ! はじくだけじゃ、あきちゃうヨォ!」
声に、幼い癇癪が混じり始める。
駄々っ子の気まぐれ。
けれど、それが引き起こすのは殺意そのものだ。
空気を引き裂く風切り音が連発し、それを有栖さんが刃で弾く硬質な金属音が重なる。
闇の中で幾筋もの火花が散っては、湿った霧の中に一瞬で掻き消えていく。
有栖さんの技量をもってしても、実体のない攻撃を捌き続けるのは消耗を重ねていくだけだった。
「――つぎハ、君だヨ?」
耳元で囁かれたかと思うほどの近さ。
反射的に身を竦めた瞬間、背後の霧が不気味に膨れ上がった。
無形だった靄が、唐突に恐ろしい質量を伴う。
猛烈な風圧が背中を叩き、咄嗟に身を屈めたものの肩口を走る鋭い熱痛までを殺しきることはできなかった。
「ぐっ……!」
皮膚を切り裂かれたか。
じわじわと温かい血が服を濡らしていく感触。
だが、動けなくなるほどの傷ではない。
「凪さん! 身を守って――」
彼女の叫びは、途中で遮られた。
次の一撃は、正面から。
視界を覆い尽くす白い霧が狂乱するように渦を巻き、質量を得た爪となって突進してくる。
自分は痛む肩を無視し、左手に握った道具を掲げ直した。
「――展開!」
蒼い光の薄膜が再び立ち上がる。
けれど、先ほどからの絶え間ない連撃によって、すでにその強度が限界を迎えているのは誰の目にも明らかだった。
鼓膜を打ち破るような衝突音。
三連撃。
一度目で表面が不気味に波打ち、二度目で網目状の亀裂が走る。
そして三度目――。
「ッ――!」
衝撃に耐えかねて膝を折りそうになった、その刹那。
「アハッ」
無邪気な歓声が、耳条を突き刺した。
視界の端で、蒼い障壁がガラスの砕ける音とともに爆ぜ散る。
手の中にあった道具は、役目を終えたように脆く粉々に崩れ去った。
――無防備になった肉体。
障壁の失われた暗闇から、粘つき、質量を持った何かが腕を伸ばすように迫ってくる。
湿り気を帯びた生温い風圧と、鼻を突く腐敗した潮の匂い。
冷酷な死の気配が、そのまま喉元へと這い上がってくるような感覚。
無意識に両腕を前面で交差させ、頭を庇うように小さく身を縮める。
白濁した靄の中に、空を切り裂く鋭い弧が見えた。
爪。いや、刃か。
異常に引き伸ばされた五本の指先が、針のように尖り切っている。
恐怖のあまり時間の感覚が粘つくように引き引き延ばされ、その凶刃の軌跡だけが網膜に恐ろしいほど鮮明に焼き付いていく。
視界のすべてが、死の赤で塗り潰される――
「凪さん――っ!」
有栖さんの叫びが、張り詰めた世界を切り裂いた。
次の瞬間、目の前に黒髪が舞った。
彼女の身体が割り込み、霧の奥から突き出された爪を、刀身と己の身をもって直前で受け止める。
金属の弾ける甲高い音と、肉の引き裂かれる生々しい不穏な音が、ほぼ同時に耳の奥へと響き渡った。
「く、あ……ッ!」
彼女の左腕が、肩口から肘にかけて一直線に引き裂かれた。
飛び散る朱。
濡れた鉄の匂いが、濃密に周囲へ立ち昇る。
引きちぎられた黒い戦闘服の袖口から、露わになった白い肌を鮮血が伝い、
ボタボタと足元へ滴り落ちた。
血の雫がコンクリートに暗い染みを作る音が、この重苦しい静寂の中で嫌に大きく響く。
それでも痛みに表情を崩すことなく、有栖さんはその場に踏み止まってみせた。
そして、短く鋭い叫びを放つ。
「――一度、引きましょう!」
その声には一切の迷いがなかった。
霧の奥で、甲高い笑い声がパンと弾けるように響く。
「逃げル? にげるノ? 弱いくせにつまんナイ」
こちらの焦りを煽り立てるような口調。
けれど、その言葉の裏には気まぐれに玩具を取り上げられた子供のような不満が混じっていた。
不機嫌そうな舌打ちの音が白濁した空間に響く。
幸いにも、即座に追撃してくる気配はない。
ただ、鬱屈した唸り声だけが霧の深層で低く渦巻いていた。
言葉を返す余地など、どこにもなかった。
悔しさに奥歯を強く噛み締める。
今ここで感情に呑まれれば、それこそが命取りになると理性が警鐘を鳴らしていた。
有栖さんが深手を負い、自分も唯一の防御手段であった道具を打ち砕かれた今、この場での続行はただの破滅でしかない。
霧の中で、有栖さんが半歩だけ後退した。
刀の柄に指を添えたまま、低い姿勢を保って出口の方向へと視線を走らせる。
濃霧に阻まれて結界の境界線は見えないが、ここからそう遠くはないはずだった。
有栖さんの右手が、こちらの腕を力強く引く。
「急いで!」
その声に応じるように深く地を蹴り、二人で濃霧を掻き分けるように出口を目指した。
有栖さんの左腕からは、今もなお血が流れ落ちている。
手を伝って滴る血が、彼女の踏み出す足元に痛々しい赤の痕跡を残していく。
それでも彼女は弱音一つ吐かず、むしろ自分を庇うように微妙に位置取りを変えながら走り続けていた。
半透明な結界の薄膜が、暗がりの中に浮かび上がる。
抜け出す直前、背後の霧の奥から再び不気味な声が届いた。
「早く戻ってきてネ? つぎはもっと、おもしろいあそび方してあげるかラ」
嘲笑と無邪気な殺意が混ざり合った声が、冷たく背中に張り付く。
薄膜を潜り抜けた瞬間、世界が切り替わった。
春先の冷ややかな外気が頬を撫で、まとわりついていた不快な湿気と生臭い血の匂いから解き放たれる。
それまで張っていた糸が切れたように、有栖さんが崩れ落ちるように膝をついた。
「有栖さん――っ!」
咄嗟に肩を抱きかかえ、ゆっくりと冷たいコンクリートの上に腰を下ろさせる。
彼女の左腕は、肩から肘にかけて酷く引き裂かれ、黒い制服の布地がベっとりと血で皮膚に張り付いていた。
ポケットから取り出したハンカチを固く巻き付け、止血を施す。
結び目を強く引き絞った瞬間、彼女の美しい眉根がほんの微かに寄った。
深く息を吸い込み、途切れ途切れに吐き出しながら、有栖さんは小さく呟いた。
「霧状態での……物理無効。予想外の能力でしたが、……手ぶらで退くわけではありません。次は、違います。必ず、打開策を見つけ出しましょう」
絞り出された声には、痛みへの耐えと悔しさが滲んでいた。
けれど、それ以上に決して折れることのない強く静かな意志の火が宿っている。
冷たい夜風が吹き抜け、ふたりの頬を打つ。
見上げた瑠璃色の夜空には、細い月が静かに浮かび始めていた。
その光は薄い雲に濾されてどこまでも冷たく、淡く滲んでいた。