故に敵味方両方からこう呼ばれた。
――時間制限の天才と――
「一夏くん!」
いきなり楯無さんが俺をかばう。
と次の瞬間ロッカー室の壁が吹き飛ばされた。
「全く、遅いから来てみれば何を手こずっているんだ?」
「うるせぇよ、ちょっと隙を突かれただけだっての」
「ちょっとには見えんのだが……? それで、目的のものは?」
「頂いた、コレで文句はねぇだろ」
そこに居たのは朱を纏うISだった、状況からして敵の増援かッ。
「――あらあら、こういう手荒な飛び入りはおねーさん余り好きじゃないんだけれど?」
「それは失敬した、ただこちらにも都合があるのでな」
「それこそ私達の知るところじゃないわね」
ハスキーな声で答える。
場馴れしているのか、不自然なほどに自然体だった。
俺はいきなり現れたヤツを見る。
顔はバイザーで隠れているが機体はどうやらラファールのようだった。
「それで、アナタもそちらのお仲間と言うことでいいのかしら」
「そうだな……同じ組織に所属している、と言う面ではそうなるな」
「含みのある言い方だなァ、オイ」
「なに、気にするな。 ――それとスコールからだ、撤退するぞ」
マズイ、白式のコアは盗られたままだッ……。
「させるとでも?」
「させるさ、そのために態々出張ってきたんだからな」
そう言ってラファールがアラクネを庇うように前に出る。
楯無さんはそれに呼応するようにランスを構える。
――こんな時に、俺はなんにも出来ないのかッ!?――
「あらあら? そちらは手負いにアナタ自身の機体も見たところラファールよね? 第三世代二機、まぁ厳密には違うけど相手取るのは辛いんじゃないかしら?」
そう言ってこちらを見やる。
――いけるわね?一夏くん――
楯無さんはさっきなんて言った?望みを願え、ということはこの状態でも白式はまだ呼び出せるのか……?
なんの確証もない、けどなぜかいける気がした。
白式なら、あいつなら応えてくれると……!
そうだ集中しろ、何時も以上に、右腕に集中しろ!
「なにを……ッ!? 」
「戻ってこい!白式!!」
ありたっけの思いをのせ叫んだ。
瞬間俺は白式を纏っていた。
「テメェ! 一体何をやりやがった!!」
オータムが目を見開きながら叫ぶ。
「そうはいはい教えるわけ無いだろ!」
まぁ実際俺でもよくわからないが、俺の声に白式が応えてくれた。
今はとりあえずそれだけで十分だ。
ここで楯無さんが口を開く。
「さてどうする? コレでもまだやる気?」
明らかに形勢逆転。
オータムの顔が悔しそうに歪む。
もう一方の方は相変わらずバイザーで見えない。
それが逆に不気味だった。
「確かに勝つのは正直難しいだろうな」
「だったら――」
――しかし――
諦めろ、と言い切る前に相手が次を被せてくる。
「負けない戦いなら、この状況でもそうは難しくない」
「――ガァッ!?」
なにを、と言おうとして目の前が真っ白になり次の瞬間ハイパーセンサーが復帰する前に体に衝撃が走りそのまま壁にたたきつけられる。
一瞬呼吸が止まる。そこで気付いた、自分は吹っ飛ばされたのだと。
意識が飛ぶ寸前映ったものは、シールドピアースを振りかぶった朱色のラファールだった。
「一夏くん! ――つぅっ」
「よそ見していていいのか、学園最強とやら?」
油断していたわ、まさかスタングレネードなんて。
さらに一切の迷いもなく一夏くんを潰しに行き一対一の状況を作る。
イグニッションブーストからのシールドピアース。意識を刈り取るには十分すぎるわね。
オマケにいつの間にかあの女は逃げおおせた後。今からじゃどうあがいても間に合わない。
しかも向こうはダガー、こちらの得物が活用できないような超至近距離でのインファイト。
やっかいね!
「それにお前さんの妙な技。この状況では使えまい?」
コイツ、"清き熱情"の弱点まで!?
そう、あの技は限定空間でしか有効に使うことが出来ない。
まして今のように壁が打ち抜かれ風通しのいい状況ではもっての外だった。
最もその技が、というだけだが。
「あら?何も技がアレ一つと言ってないわよ?」
「そんなもの百も承知だ」
相手のダガーを受け止めながら言葉を交わす。
「――だからさっさとお暇するとしよう」
と同時いつの間に展開したのか手にサブマシンガンが握られていた。
あたかも初めから持っていたかのような、自然な動作でかつ素早く展開されたそれを容赦なくフルオートで叩き込む。
――シャルロットちゃんよりはるかに早い!?――
とっさに水のヴェールでそれを受ける。
致命打にはならないがそれでも相手の動きを一瞬止めるには十分な隙を見過ごすはずもなく。
手にはシールドピアース、この時楯無は自分のミスに気付いた。しかし時すでに遅し、加えてイグニッションブーストで更に加速されたそれは正しく一撃必殺。
今まで受けたこと無い大きさの衝撃が襲う。態と後ろに飛び衝撃を逃したのに、だ。
それは相手にとっても同じだったのか一瞬だけ警戒が緩む。
しかし流石というべきか、こんな状況でも反撃の準備を楯無はしていた。
ミストルティンの槍、攻撃は最大の防御をある意味体現したそれは、楯無が切れるカードの中でも攻撃力という意味では最強の部類。
それを相手めがけて放つ。
――顔くらいは拝ませてもらうわよ!――
「ッ!?」
どうやら相手にとっては予想外だったようで一瞬回避が遅れバイザーを掠める。
直撃はせずともバイザーを吹き飛ばすくらいには十分すぎる威力だった。
「アナタ、一体…!?」
顕になった素顔は楯無を驚愕させるには十分すぎた。
なぜならそれは……。
「男、だったの……?」
「バレてしまっては仕方ないか……。 そうだ、俺は男だ」
ハスキーな声だと思っていたのはボイスチェンジャーによるものだったということね。
まさか一夏くんの他にISを動かせる男がいたなんて。
「時間がない、言ったとおり帰らせてもらおう」
「あら、トドメは刺さなくてもいいのかしら?」
「言っただろう、時間がないと。 ――それに今のお前さんに必要とも思えないのでな」
悔しいが彼の言うとおりだった。
イグニッションブーストで威力を上乗せされた一撃で予想以上にダメージがきていた。
機体にも、私自身にも。
これ以上の戦闘は無理だろう。
「全く、楯無である私が"盾殺し"にやられるなんて皮肉が効いてるじゃない」
「ふん、俺の知った事か。」
そう言うと彼はそのまま飛び去ってしまった。
強いな。
戦って純粋にそう思った。どんな理由があってあんな組織に居るのかは知らないけれど、でも。
――またどこかで会えそうね――
性懲りもなく私は彼に興味が出てしまっていた。
これは"時間制限の天才"と呼ばれた彼の物語