《以下は、後年まとめられた戦勝の歌の一節である》
おお、神々よ、照覧あれ!
われらが勇壮なる騎士たちは、収穫を待つ麦の穂のごとく、いっせいに槍を構え、敵勢を屠らんとす。
砂煙天を衝き、馬首をそろえて突進すれば、その勢い怒涛のごとく、敵陣を切り裂く。
きらびやかな鎧は返り血に染まり、勇敢なる敵兵は槍先に貫かれ、あるいはその骸、馬蹄の下に砕かる。
なおも駆ける、ただ敵将のもとへと。
一騎、また一騎と倒れゆけど、ついにその首を掲げ、敵陣の彼方へと突き抜ける。
忠勇なる騎士たちは喊声をあげ、返す刃のごとく、さらにもう一度敵陣を貫く。
かくして数倍なる敵軍は粉砕され、帝国の名は揺るぎなきものとなる。
おお、おお、神々よ、われらが騎士たちに祝福を!
帝国よ、永遠なれ!
至高の帝冠に、勝利の輝きを与えたまえ!
――『戦勝頌歌集』所収
この書は、幾代にもわたって編まれてきた。
名を残したのは、勝利のみである。
敗北について語られる頁は、最初から用意されていなかった。
いや、あったのかもしれない。
だが、そこに記された言葉は、人々の求める響きを持たなかったのだろう。
選ばれたのは、誇れるものだけだ。
掲げられるのは、勝者の名だけである。
それ以外は、ただ沈黙の中に埋もれていった。
帝都では、勝利のたびに、あらたな歌が生まれる。
歌は記憶され、繰り返され、やがて定型を得る。
謳われるたびに言葉は整えられ、旋律は磨かれ。
不都合な節は省かれ、都合のよい韻だけが残された。
やがてそれは賛歌となり、国中に膾炙する。
広場では祝祭の合間に。
神殿では祈りの終わりに。
酒場では酔いの勢いのままに。
歌劇においては英雄譚として。
あるいは母が我が子に聴かせる子守歌として。
人々の口から口へと謳いあげられた。
問いを挟む者はいなかった。
疑う必要など、どこにもなかった。
歌は賛歌となり、やがて神話へと至る。
そして、人々は叫ぶのだ。
帝国よ、永遠たれ、と。
弱きものはほろび、強きものは栄える。
帝国は、悠久の果てまでも君臨し続けるのだ、と。
そう語られるたびに、わずかばかりの疑問は言葉になる前に溶けていった。
歌は疑念を許さない。
神格化された賛歌は、問いを拒み続ける。
そして問われなくなったものから、人々はやがて、存在そのものを忘れていく。
この賛歌が、何を語り、何を語らなかったのか。
謳われたものは、ただ黙したまま。
かくして帝国の栄光は、人々の口によって、永久に謳われ続けるのだった。