魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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第11話 『“思い込み”とは、いわば自分発信の“洗脳”である』

 魔法科高校は厚生施設が充実しており、生徒や学生が食事を摂るための食堂の他に、軽食やデザート、多様な飲み物が売りのカフェも造られていた。現在は放課後ということもあり、部活や委員会に参加していない大勢の生徒で賑わっている。

 その中の席に1人で座る紗耶香は、深刻そうな表情を浮かべながら、顔を俯かせてじっとテーブルを見つめていた。その顔は想い人や友人を待っているというよりも、これからやって来る重大な出来事を前に緊張していると表現した方が正しかった。

 すると、

「すみません、壬生先輩。自分の勝手な都合で」

「あ、ううん! 別に良いのよ! こっちも突然誘っちゃって!」

 カフェに達也が姿を現した途端、あれだけ沈黙を貫いていた紗耶香が饒舌に捲し立てていた。わたわたと慌てた様子で、正面の席に座るよう促す。

「すみません、先に飲み物を頼んでも良いでしょうか? 走ってきたものですから、喉が渇いてしまって」

「あ、別に大丈夫よ! それにしてもごめんね、何か気を遣わせちゃったみたいで」

「いいえ、先に壬生先輩を待たせてしまったのは自分ですから」

 達也はそう言うと、入口正面にあるカウンターまで行って飲み物の注文を始めた。その一連の光景を、特にやることのなかった紗耶香は何となしに眺めている。

 なので、自分の後ろの席に誰かが座ったことには、まったく気づかなかった。

「それで、話というのは何でしょうか?」

「……単刀直入に訊きます。司波くん、剣道部に入りませんか?」

「せっかくですが、お断りします」

 紗耶香の頼みを、達也はまったく間を置かずに拒否した。あまりの早さに、紗耶香が戸惑うように身を乗り出す。

「わ、訳を聞かせてもらっても良いかしら?」

「理由を知りたいのは、こっちの方ですね。この前の騒動で自分を買ってくれているのはありがたいですが、特に武器を使って戦ったわけでもないのに、そこから剣道部の誘いに繋がるのは分かりません」

「……達也くん、風紀委員になってどんな感じ?」

「どんな感じ、ですか? 別に普通ですが」

「一科生から嫌がらせを受けているって、噂で聞いてるけど」

「まぁ、そうですね。大したことではないので、気にも留めていませんが」

「……魔法科高校では、魔法の成績が最優先。確かにそれに納得して入学したのはあたしだけど、それだけで全部決めつけられるのはおかしいと思わない? 授業で差別されるのは仕方ないかもしれないけど、高校生活ってそれだけじゃないでしょ? クラブ活動まで魔法の腕が優先なんて、そんなの間違っている。魔法が上手く使えないからといって、あたしのすべてを否定させはしないわ」

 ――どうやら、“優遇されていない”と“冷遇されている”の区別ができないようだな。

 達也は紗耶香の話を聞きながら、心の中で冷静にそう分析していた。

 確かに魔法競技系のクラブ活動は、学校側からバックアップを受けている。しかしそれは魔法科高校の宣伝のためであって、それによってそれ以外のクラブが何かしらの制限を受けるということはない。

「あたし達は非魔法競技系クラブで部活連とは違う組織を作って、学校にこのことを訴えていくつもり。だから司波くんも、それに協力してほしいの! あなたは二科生でありながら、魔法の腕以外の実力で風紀委員になった。それに点数稼ぎで摘発を乱用している他の連中とは違うわ! あたし達には、司波くんの力が必要なの!」

 ――成程、風紀委員は随分と嫌われているようだな。

 先程紗耶香が“点数稼ぎ”などと言っていたが、実際には風紀委員は完全な名誉職であり、所属しているからといって何かしら優遇されるといったことはない。しかし風紀委員が生徒を取り締まるという強い権力を持っているのは事実であり、そのことが学校の体制に不満を持つ生徒からは“学校の狗”として忌み嫌われる原因となっている。

 ――あるいは、そうなるように印象操作をしている奴らがいるということか……。

 と、そのとき、達也のズボンのポケットにしまってある携帯端末が震えた。彼は正面の紗耶香に気づかれないように、テーブルの下で端末を取りだして操作する。

 新着のメールには、こう書かれていた。

『壬生紗耶香は、魔法によって洗脳されている。厚志さんが今こっちに向かっているから、それまで彼女を引き留めておいて』

「…………」

 達也は反応を顔に出すことなく、紗耶香へと視線を向けた。正確には彼女の背後にある席へ、である。

 そこに座っていたミルココとモカの3人が、仲良く談笑しているふりをしながらこちらをちらりと見て小さく頷いた。魔法科高校が関係者以外の立ち入りを制限しているのは建物の中であり、カフェといった共有スペースには一般の人が出入りすることはそれほど珍しいことではない。

 ――それにしても、厚志さんか……。こんなに人の目がある所で大丈夫なのか?

 達也は内心そう思ったが、おそらく何か策があるのだろうと、とりあえず自分の役目に徹することにした。

「学校側に自分の考えを伝えて、それでその後はどうするのですか?」

「……学校に、待遇改善を要求したいと思う」

「それはまた、随分と踏み込みますね。待遇とは、具体的に?」

「具体的……? それは、全般的に……」

「例えば、授業とか? これは武道に詳しい友人から聞いたのですが、道場によっては入門したばかりの者には何も教えないことがあるそうですね」

 武道に詳しい友人とは、もちろんエリカのことである。彼女の道場では入門してから、最低でも半年は技を教えることはないらしい。最初に素振りと足運びを教えるだけで、後は見様見真似で徹底的にそれだけを行わせるようだ。見込みの無い者を放っておくということではあるが、貪欲に自分から技術を盗もうともせずに教えてもらうのをただ待ってるだけでは論外だというのだ。

「……確かに、聞いたことがあるわ。でも、いくらやる気があったところで、現状では二科生は教師からの個別指導すら――」

「これは別の友人の主張ですが、本当にやる気があるなら教師に何度も直談判して個別指導を頼み込むぐらいのことはするそうですよ? 壬生先輩は、実際にそれくらいのことはしたのでしょうか? それでも教師から頑なに断られたというのなら、壬生先輩の主張も頷けるのですが」

「…………」

 達也の質問に、紗耶香は何も答えなかった。別に嘘をついても良いだろうに、と達也は思った。

「……じゅ、授業以外にも、クラブ活動とか……」

「クラブ活動ですか。剣道部と剣術部は同じだけのスペースが与えられていますし、予算にしても活躍しているクラブに多く割り振るというのは至極当然の処置に思えるのですが」

「で、でも! クラブ活動によって予算が違うのは“不平等”でしょ!」

「壬生先輩、“平等”と言えば聞こえは良いでしょうが、それは結局“公平”ではないのですよ。下の立場の者を優遇するというのは、その分他の者が割を食うことを意味しているのですから。結果を残して学校に貢献しているクラブからすれば、結果を残していないクラブと同じ待遇だというのは“不平等”に感じられるでしょうね」

「……司波くんは、不満に思わないの! 実技の成績が悪いだけで“雑草(ウィード)”なんて見下されて!」

「不満に思わなくはないですが、特に気に留めるようなことではありません」

「…………」

 自分の主張を達也にことごとく否定され、紗耶香はとうとう黙り込んでしまった。居心地悪そうに体をそわそわさせて、視線をあちこちにさ迷わせている。

 達也はちらりと、彼女の後ろにいるミルココ達に視線を向けた。全員が達也を責めるような目つきで、首を横に振っている。

 ――確かに、このままでは彼女が帰ってしまいかねない。

「すみません、壬生先輩。想像以上に先輩が真剣に学校のことを考えていたので、思わずこちらも議論が熱くなってしまいました」

「そ、そうなの……?」

「自分は随分と思い違いをしていました。先輩のことをだたの剣道好きな美少女としか思っていませんでしたが、聡明な方だったんですね」

「び、美少女だなんて、そんな……」

 深雪ほど人目を惹くわけではないが、彼女と血が繋がっているだけあって達也も平均以上に顔が整っている。そんな彼にまっすぐ見つめられながら言われたせいで、紗耶香はすっかり顔が紅くなってしまった。

「待遇改善の件は残念ながら協力できませんが、先輩がそこまで打ち込んでいる剣道に対しては興味が出てきました。できたら剣道について、いろいろ教えてくれませんか?」

「わ、分かったわ! 優秀な人が剣道部に来てくれたら、それだけで心強いものね! それじゃ――」

 紗耶香が笑顔を取り戻して剣道の説明を始めようとした、まさにそのとき、

 

 

 かっ――。

 

 

 まるでサーチライトのような強烈な光が、まっすぐに紗耶香を横殴りに貫いた。その光はあまりに太くて眩しく、光に呑み込まれた彼女の姿がまったく見えないほどである。

「ひぃっ!」

「な、何だ!」

 周りの生徒達が突然の出来事に混乱しており、カフェの中は騒然となっていた。それは当然だろう。カフェの中でお茶を飲んでいたら、突然極太のレーザーが貫いてきたのだから。特にその光に触れてしまった生徒達は、自分の体に異変が無いか大騒ぎで確認していた。

 しかしそうして騒げているということは、彼らの体には一切の異常は無いということである。カフェの中にある様々な備品や食器も、壊れた様子はまったく無い。

 ただ1人、テーブルに突っ伏して気を失っている紗耶香を除いては。

 ――今のは、厚志さんか。確かに遠くから狙撃すれば、周りの奴らに見られる心配は無い。それにしても……。

 達也は未だ騒がしい周りを見渡した。これだけいろいろな物や人で溢れている場所で、たった1人を狙い撃ちできるというのはとんでもない精密さだ。

 しかも驚くべきポイントは、厚志はそれを“たった1回の攻撃”で行ったことである。つまりそれは、たとえ周りの人間を巻き込んだとしても、本人の認識1つでターゲットを自由に設定できるということだ。そのおかげで攻撃するときに躊躇う必要が無く、常に全力を出して戦うことができる。

 ――敵に回すと、これほど厄介な相手もいないだろうな……。おっと、今はそんなことより……。

「レオ、いるんだろう! ちょっと運ぶのを手伝ってくれ!」

「うえぇっ! なんで俺達がいるのがばれてんだよ!」

 達也が周りに呼び掛けると、騒がしい生徒達に紛れてレオの焦る声が聞こえてきた。彼の座るテーブルには、エリカと美月の姿もある。

「た、達也! 今の光は何なんだ? あれも魔法なのか?」

「話は後だ。先輩を運ぶから、レオは担架を持ってきてくれ」

 達也の言葉に、レオは「よし、分かった!」とすぐさまその場を離れていった。美月とエリカも彼の後を追う。

 と、達也はふとカフェの入口に視線を向けた。

 剣道部の主将である3年の司甲(つかさきのえ)がこちらを眺めていたが、達也が目を向けるとその場を離れていった。すぐさま隣のテーブルにいるモカへ視線を遣ると、彼女は真剣な顔つきで小さく頷いた。

 ――決まりだな。おそらく奴がエガリテのリーダーだろう。少し調べておく必要があるな。

 そんなことを思っていると、レオ達3人が担架を持ってやって来た。紗耶香を担架に乗せると、男2人でそれを持って保健室へと向かった。

 もちろん、お代はテーブルの上に置いてある。

 

 

 *         *         *

 

 

「う……ん……」

 紗耶香が目を覚ましたとき、視界に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。柔らかいものに体を包まれているような感覚に彼女が周りに目を遣ると、自分が真っ白なベッドで眠っていることに気がついた。

「良かった、気がついたみたいだな」

 すぐ傍から声がしたのに気づいて体を起こすと、ベッドの傍には先程まで自分と話していた達也と、この学校で最も有名であろう三巨頭、真由美・摩利、克人の3人が揃い踏みしていた。

「な、なぜ皆さんがこんな所に……? いや、それよりも、なんで私が……?」

 紗耶香は困惑した様子でその場にいる全員を、特に摩利の顔を見つめながら問い掛けた。

「我々は達也から連絡を受けてここに来たんだ。詳しい内容はまだ聞かされていない」

「そういうわけで、達也くん。壬生さんも目を覚ましたんだし、そろそろ話してくれても良いんじゃないの?」

「待ってください、会長。それよりもまずは、本人の容態を確認するのが先です。――壬生先輩、大丈夫ですか?」

「え、ええ……、特に問題は無いけど……」

「そうですか、それでは単刀直入に訊きます。――壬生先輩は、どういう経緯で“エガリテ”に加入したのでしょうか?」

「――なぜ達也くんがそれを!」

 達也の言葉に驚いたのは、真由美達三巨頭の面々だった。

「エガリテについては、ちょっとした“独自のルート”で調べました。――壬生先輩、あなたがエガリテのメンバーであることは分かっています。洗脳魔法も解けたことですし、俺に協力してくれませんか?」

「洗脳魔法? エガリテのメンバーによって、壬生は洗脳されていたのか?」

 克人の質問に、達也は頷いた。

「その洗脳魔法が、具体的に先輩の“どの記憶”に作用していたのかは分かりません。しかし洗脳していたということは、自分達の手下として動かすための重要なキーだったことは間違いありません。それが解けた以上、先輩にはもうエガリテに協力する理由が無いはずです。――話していただけますか?」

 達也の言葉に、紗耶香は戸惑いながらもゆっくり頷き、ぽつぽつと話し始めた。

「……入学してすぐに、司先輩に『剣道部に入らないか』と声を掛けられたんです。そのときにはすでに、先輩の何人かが司先輩の同調者でした」

「入学したときからって……、そんなに前からだったのか」

「はい……。魔法訓練サークルの中でも思想教育が進んでいて、その中から魔法差別撤廃の有志同盟という形で結成されたのが“エガリテ”でした。その背後にあの“ブランシュ”が関わっていたと知ったのは、随分と後になってからのことですが」

「それで、壬生先輩がエガリテに入ることになった理由は何でしょうか? いくら洗脳されていたとはいえ、何かのきっかけがあったと思うのですが」

 達也の問い掛けに、紗耶香はふっと自嘲気味に笑って答えた。

「“今になって考えてみれば”とても小さなものです。しかし当時の私は“剣道小町”なんて呼ばれて良い気になっていたのか、とても大きなことだったんです」

 紗耶香はそう言うと、周りで彼女の話を聞いていた内の1人――摩利へと視線を向けた。

「私がエガリテのメンバーになったのは、渡辺先輩がきっかけでした」

「わ、私?」

 突然自分の名前を呼ばれ、摩利は思わず戸惑いの声をあげた。

「……摩利、何をやったのよ? 素直に謝りなさい」

「な、何を言うんだ真由美! 私は彼女にひどいことなんてした憶えが――」

「加害者というのは、往々にしてそのことを憶えていないものだ」

「十文字! おまえまで何を言ってる!」

 隣の2人の言葉に反論していた摩利だったが、紗耶香の話の途中だったことに気づくと、すぐさま気を取り直して彼女へと向き直った。

「ある日、剣術部と騒動を起こしたとき、風紀委員だった渡辺先輩が見事な魔法剣技でそれを鎮圧していました。私はぜひとも手合わせしたいと思い渡辺先輩にお願いをしたのですが、すげなく断られてしまったのです。きっと私が二科生だから相手をしてもらえないんだと思うと……ショックで……やるせなく……」

 そのときの出来事を話していた紗耶香だったが、それが進むにつれてだんだんと彼女の言葉が辿々しくなり、彼女の表情にも疑問の色が浮かんでくる。

「……どうかしましたか、壬生先輩?」

「いえ、その……。自分で話していて何だけど……、なんだかその記憶が自分でも変に思えてきたの……。ついさっきまでは絶対に正しいと思っていたんだけど、今思い返してみると何だか違うような……」

「おそらくその記憶が、洗脳によって改竄されたのでしょう。――委員長、本当はそのときどう言ったのか憶えていますか?」

 達也の質問に、摩利は真剣な表情で頷いた。

「ああ、はっきり憶えている。あのとき私は、彼女が二科生だからなどというくだらない理由で断ったのではない。あのとき私はこう言ったんだ。『すまないが、私の腕では到底おまえの相手は務まらない。もっと実力のある、おまえの腕に見合った相手と稽古をしてくれ』……とな」

「え……でも、それじゃ、今までのは全部私の勘違い……?」

「いえ、その思い違いは洗脳によるものです。壬生先輩が気に病むことではありません」

「でも! 私はその記憶のせいで、勝手に先輩を誤解して恨んで……! 逆恨みで1年間も無駄に――」

「いいえ、それは違います」

 はっきりと答えた達也に、今にも泣きそうになっていた紗耶香がはっとなって彼の方を向いた。

「俺の友人に、“剣道小町”と呼ばれた頃のあなたを知っている友人がいます。彼女が言うには、今のあなたはその頃のあなたとはまるで別人のように腕が上がっていたそうです。それは紛れもなく、先輩が自分の努力によって掴み取ったものです。恨みと嘆きに押し潰されることなく、己の剣技をひたすら磨いてきたこの1年間は、けっして無駄なものではありません」

「……司波くん、お願い。そのまま動かないでいてもらえるかしら?」

 紗耶香はそう言うと、達也の制服を掴んで自分の顔をそこに押しつけた。

 そして彼女は、今まで胸の内に溜め込んでいたいろいろなものを吐き出すように、泣いた。

 達也はけっして彼女を振り解こうとはせず、真由美達も邪魔することなく黙ってそれを見つめている。

 だが、

「壬生、大丈夫か! 何か泣いてる声がした――」

 突然ドアを開けて騒がしく部屋に入ってきた男子生徒に、部屋にいる全員が、泣いていた紗耶香でさえ泣くのを止めて入口へと顔を向けた。

 その男子生徒とは、例の闘技場での騒動のときに剣道部に喧嘩を売って壬生と決闘騒ぎまで起こした、あの桐原だった。

「申し訳ありません、お兄様! 何とか止めようとしたのですが、彼の勢いに押されてしまって……!」

 桐原の後ろで頭を下げる深雪の姿があったが、誰も彼女の言葉を聞いている者はいなかった。

「……桐原、どうしておまえがここに?」

「え? いや、あの、その……、壬生が倒れて保健室に運ばれたって聞いたら、いてもたってもいられなくなったと言いますか……」

「何だ桐原、おまえ壬生のことが好きだったのか?」

 摩利の言葉に、桐原は顔を真っ赤に染めてあからさまに狼狽えた。

「な……! 渡辺先輩、何を言ってるんですか! そんなわけ――」

「好きな女子に対して、剣道部に喧嘩売ってまで突っ掛かっていたんですか。まるで小学生ですね」

 達也のあまりにはっきりした物言いに、桐原は怒ることもできずに項垂れてしまった。

 と、そのとき、ふふ、と笑い声がした。

「私を心配してくれたのね。ありがとう、桐原くん」

 紗耶香の笑顔と共に言われたその一言に、桐原はただ黙って顔を紅くしながら「……おう」と小さな声で答えるしかできなかった。

 そしてそれを、部屋にいる真由美と摩利、さらにはドアの向こうから覗き見していたレオやエリカ、さらには成り行きで同行していたミルココとモカ、そして彼女達から話を聞きつけてやって来ていたエリまでもにやにやと含みのある笑みを浮かべてそれを眺めていた。

 

 

 

「それで、今後についてですが」

 ようやく場が落ち着いたところで、達也がそう切り出した。

「実のところ、奴らが拠点としている場所はすでに割れています。場所はここからすぐ近くにある廃工場です」

「よし! つまりそこに乗り込んでぶっ潰せば良いんだな!」

「いえ桐原先輩、それは駄目です。奴らがまだ具体的に行動を起こしていない以上、こちらから踏み込んで制圧する根拠がありません」

「何でだよ! そいつらが壬生を誑かしたんだろう! 純粋に技を競い合う壬生の剣が好きだったのに、そいつらのせいで壬生の剣は“人を殺すためのもの”に変わっちまったんだ!」

 大勢の目の前で自分の気持ちをばらされてしまったせいだろうか、桐原は随分はっきりと紗耶香を心配していたことを告白した。

「成程、だからそれが許せなくて、彼女のその剣を打ち砕こうと思ってたわけか」

「回りくどい感じが、やはり小学生男子を彷彿とさせますね」

「うっせえ! 余計なお世話だ!」

 顔を紅くする桐原だったが、克人はそれを無視して達也に尋ねる。

「それでは、エガリテに関しては放置ということになるのか?」

「いえ、そういうわけではありません。――壬生先輩」

「分かってる。私にスパイになれ、ということでしょう?」

「それは危険じゃないのか?」

 摩利からの質問に、達也は首を横に振った。

「別にそこまで大したものではありません。壬生先輩には今まで通り、エガリテのメンバーとして過ごしてもらいます。ただ、奴らが近々何か起こすような計画があると分かったときは、俺にそれを調べてくれるだけで構いません。積極的に情報を集める必要はありません。むしろ、そういう行動はしない方が賢明でしょう」

「……分かったわ、やってみる」

「おいおい、さすがにそれは危険だろ! いっそのこと、俺もエガリテに賛同したことにして――」

「一科生であり、剣術部でも屈指の腕前を誇る桐原先輩が、どうやって反魔法同盟の考えに共感できるというのですか? そんなことをしたら、逆に向こうに怪しまれてしまいます」

「大丈夫よ、桐原くん。そんなに心配しなくても」

「べ、別に心配なんて……してないことも、ねーけどよ」

 紗耶香と桐原の遣り取りに、真由美と摩利がまたもにやにやと笑みを浮かべた。

 

 

 

「いやぁ、若いって良いっすねぇ」

「本当だよ。まったく、純粋だった私らの心は、いったいどこへ消えたのやら……」

「おいおい、ミルココの2人が若くないとか言ったら、俺なんかどれだけジジイなんだよ」

「ああ、そういえばレオ達には言ってなかったっけ。私らこう見えて36歳なんだよね」

「……え? は? いやいやいや……、え? 嘘だろ?」

「馬鹿ねー、レオ。嘘に決まってんでしょーが。何こんな小さい子に騙されてんの」

「お、おう……、そうだよな、冗談だよな……」

「ふふふふふ……」

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