魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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第13話 『相手の弱点を突いて徹底的に叩きのめすという点で、戦闘と討論は似通っている』

 公開討論会の会場である講堂は、事前に全生徒の参加を呼び掛けただけあって非常に賑わっていた。前半分が一科生、後ろ半分が二科生といういつもの光景だが、いつも以上に両者の間でぴりぴりした空気が漂っているように思える。

 壇上には、向かって右側に有志同盟のメンバーが4人、緊張した様子で椅子に座っていた。左側には会長である真由美が椅子に座り、その傍で副会長の服部が付き従うように立っている。そして舞台袖には、摩利や鈴音、あずさといった生徒会と風紀委員の“一部”メンバーが揃っている。

「……同盟側の生徒が何人かいないな。やはり達也くんの言っていた通り、実力行使の部隊が別に控えていると見て間違いなさそうだ」

 客席を熱心に眺めていた摩利がそう呟いた。それを聞いていた鈴音も小さく頷くが、実際に相手が動き出さないとこちらも手を出せないというのは何とも歯がゆかった。

 そうしている内に、討論会が始まった。

『只今より、学内の差別撤廃を目指す有志同盟と生徒会の公開討論会を始めます。同盟側と生徒会は、交互に主張を述べてください』

 講堂中に響き渡るアナウンスの声に、同盟側の生徒達の表情が一層引き締まった。そしてそれは、真由美も同じである。この討論会自体がエガリテをおびき出すための餌ではあるが、だからといって彼女はてきとうに済ませようなどとは考えていなかった。

「魔法競技系のクラブは、非魔法競技系のクラブよりも明らかに予算が多い! 一科生優遇が、課外活動にも表れている証です! 不平等な予算はすぐに是正するべきだ!」

「予算の割り振りにばらつきがあるのは、過去の実績を反映している部分が大きいからです。その証拠に、実績をあげている非魔法競技系のクラブには、実際に魔法競技系のクラブと遜色ない予算が与えられています」

「二科生はあらゆる面で、一科生よりも劣る扱いを受けている! 生徒会はその事実を誤魔化そうとしているだけだ!」

「あらゆる面でというご指摘がありましたが、一科生と二科生は同じ施設で授業を行い、またその内容も同様のものです。あくまで両者との違いは必要最低限のものであり、ほとんどはまったく条件が同じであることは、両者を丹念に比べてみれば自ずと分かることです」

 討論自体は、生徒会の圧倒的有利で進んでいた。具体的な数字や実例を持ち出して反論する真由美に、“植えつけられた”感情だけで乗り切ろうとする同盟側では分が悪すぎる。

 しかし真由美の目的は、同盟側を言い負かすというものではなかった。

「ブルームとウィード。残念ながら、多くの生徒がこの言葉を使用しています。生徒の間に、同盟側が指摘したような差別意識があることは否定しません。――しかし、それだけが問題なのではありません。二科生の中にも自らを蔑み諦めと共に受け入れる、そんな悲しむべき風潮が確かに存在しています。その“意識の壁”こそが問題なのです!」

 意識の壁。

 エリが食堂で森崎に説き、生徒会室で真由美と議論したのも、この意識の壁がテーマだった。彼女はこの壁を『二科生が想像しているよりも低いもの』として位置づけ、あたかも乗り越えられないものとして捉えていることが問題だと言っていた。

「学校制度としての区別はあります。しかし、それ以外の差別はありません。私は生徒会長として現状に満足していませんが、だからといって今度は一科生を逆差別するといった解決策を採ったとしても、それは根本的な解決とは言えません。一科生も二科生も1人1人が当校の生徒であり、生徒達にとって唯一無二の3年間なのですから」

 あのときはエリの生徒会勧誘に失敗した真由美だったが、彼女のおかげで自分のやるべきことがはっきりと見えてきた。自分が何をすべきか、彼女のおかげで見つけられたと言っても良い。

 しかしそれでも、真由美はエリの生徒会入りを断念した。エリは“将来”魔法師になるためを考えて現状維持を選択したが、真由美は“今”を考えて現状打破を選択した。たったこれだけの小さな差に見えるかもしれないが、エリと真由美にとっては共に生徒会で働くことを諦めるだけの大きな差だった。

「しかし実を言うと、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が1つだけ残っています。生徒会長以外の役員の使命に関する制度です。現在生徒会役員は一科生のみから選ばれており、これは生徒会長改選時の生徒総会においてのみ改定可能です。――よって私は、この規定を退任時の総会で撤廃することで、生徒会長としての最後の仕事にするつもりです」

 その言葉に、一科生だけでなく二科生も驚きの声をあげた。会場が、途端にどよめきに包まれる。

「私の任期はまだ半分ありますので、少々気の早い公約となってしまうでしょう。人の心を力ずくで変えられないし変えてはいけない以上、それ以外のことでできる限りの改善に取り組んでいく所存です」

 その瞬間、会場が拍手の音で溢れかえった。堂々とした真由美の演説に、一科生や二科生に関係無く心からの拍手を彼女に贈っている。

 一方壇上や客席の同盟メンバーは、ほとんど負けを認めたかのように悔しそうな表情を浮かべていた。元々討論は生徒会有利でこのまま押し通すこともできた中で、或る意味生徒会長が“自分達の要求を汲む”ような公約を掲げてみせたのだ。こちらとしては、これ以上の解決を望むことはできないだろう。

 こうして討論会は、特に混乱が起こることもなく幕を閉じ――

 

 

 その瞬間、穏やかな笑みを浮かべていた真由美が途端に目つきを鋭くした。

 

 

「みんな、窓から離れて! 何かがこっちに来る!」

「――――!」

 真由美の言葉に、壇上にいた生徒会や風紀委員のメンバーが臨戦態勢に入り、彼女の指差した方へ顔を向けた。

 そして次の瞬間、窓ガラスを破る音と共に講堂へと飛び込んできた“それ”は、ごとりと床に落ちて自身を回転させながら白い煙を猛烈に噴き出した。

「ガス弾か!」

 誰かがそう叫んだそのとき、最初に動き出したのは服部だった。

 彼がガス弾に向けて腕を伸ばすと、撒き散らされていた煙は魔法によってガス弾の周りに集まっていき、やがてガス弾は白い塊のようになった。服部は慎重に操作しながら、それを割れた窓ガラスから放り出した。

 気体という実体を掴みにくいものに対して、瞬時に収束系と移動系の魔法を用いて会場から隔離するという芸当は、相当の実力者でないと難しい。達也にはその驕りから負けてしまったものの、やはり生徒会副会長の名は伊達ではないということだ。

 すると次の瞬間、今度は扉からガスマスクを装着した武装集団が現れた。マシンガンを持った彼らが一斉に生徒達へと襲い掛かり、生徒達はパニック状態に陥る。

「ここは私が!」

 摩利はそう言うと、腕を武装集団へと向けた。その瞬間、彼らは襟首を押さえつけながら一斉に苦しみだし、手に持っていた武器を落としながらその場に崩れ落ちていった。“MIDフィールド”という気体分子の分布に干渉する魔法を用いて、ガスマスク内の狭い空間を窒素で満たしたのである。

「生徒の皆さん、どうか落ち着いてその場に待機してください! ここは我々、生徒会と風紀委員が守ります!」

 真由美の力強い言葉に、生徒達も徐々に落ち着きを取り戻す。

 ――頑張ってね、みんな……!

 次の攻撃が無いか周りに目を配りながら、真由美は心の中でここにはいない“仲間”にエールを贈った。

 

 

 *         *         *

 

 

 ちょうどその頃、図書館の前は敵味方入り乱れての大混戦となっていた。

装甲(パンツァー)!」

 肘まで覆うグローブ型のCADを左手に装着したレオが、それを振りかぶりながら大声で叫んだ。その瞬間、彼のCADが起動して魔法式を展開、そのまま彼は目の前にいる敵を思いっきり殴り抜けた。

 すると別の角度から、金属の棒を振りかぶった敵が襲い掛かってきた。しかしレオは慌てることなくCADでそれを受け止めると、空いている右の拳を相手の鳩尾に叩き込んだ。相手は苦しそうに呻き声をあげながら、その場に崩れ落ちていく。

 ――プロテクターを兼ねたCADか……。随分と珍しいが、確かにレオの能力にぴったりだ。

 相手の攻撃を防御する以上、可動部分やセンサーが露出している通常のCADでは都合が悪い。なので分厚い装甲の下でそれを隠し、直接触れなくても操作できる音声認識を採用しているのだろう。

 しかしいくらCADがプロテクターを兼ねているとはいえ、魔法で飛ばしてきた瓦礫を殴り壊すような使い方をすれば、普通ならすぐに壊れてしまうだろう。そこでレオは、CAD自体に硬化魔法を掛けることで強度を上げているのである。

 ちなみに、硬化魔法が掛けられているのはCADだけではない。レオの着ている服にも魔法が掛けられており、これによって後ろからナイフで刺されたとしても刃が服を通らないのである。さながら今のレオは、全身プレートアーマーで覆われているようなものだろう。

「何だおまえら、全然張り合いねぇな! もっとがんがん来いよ! パンツァー!」

「だあぁ、もう! さっきからうっさい! なんでそう何回も叫んでんのよ!」

「仕方ねぇだろ、エリカ! 途中で叫ばないと魔法切れるんだからよ!」

「だったらもっと離れて戦いなさいよ! さっきから耳がキンキンして仕方ないんだから!」

「あぁ? それって、自分の声でキンキン鳴ってんじゃねぇのか?」

「何だって!」

 レオとエリカがいつものように口喧嘩を始めているが、2人はその間にも片手間で周りの敵を倒していた。

 エリカの戦い方は実にシンプルで、自己加速術式で相手が反応するよりも早く懐に潜り込み、警棒型のCADで一撃を与えてすぐさま離脱するという戦法を採っていた。武道を嗜んでいるだけあって、相手の攻撃は防御するか破壊するかというレオとは対照的に、彼女は相手の攻撃を見切ってひたすら“避け”に徹している。

「あらあら、あの2人ったら、戦闘のときくらい戦闘に集中した方が良いのでは?」

 深雪は呆れたようにそう言いながら、ほとんど相手の方を見ることなく一瞬で魔法式を展開した。

 彼女の戦い方は、実に多彩だ。加重魔法で数人を一度に拘束してそのまま一気に空に打ち上げることもあれば、襲い掛かってくる相手の武器を冷却魔法で破壊したりと、その場その場に合わせて臨機応変に戦略を変えていく。卓越した魔法技術と頭の回転の早さによって実現可能な、まさに新入生総代に相応しい戦いと言える。

「いくら実力的に余裕があるとはいえ、戦闘には集中してほしいものだがな」

 深雪の言葉に達也は同意しながら、達也は相手の後頭部に手刀を叩き込んだ。彼の戦い方はエリカと同じく一撃離脱の白兵戦だが、魔法を使わない独力だけの移動に武器を使わない素手での戦闘という違いがあり、その光景は魔法科高校の生徒とは思えないものだった。

「それにしても、こんだけ仲間がいながらまともに反撃もできないとは……。こいつら、魔法師としては三流もいいところだな」

 レオが目の前の敵を殴り飛ばしながら、つまらなそうにそう言った。

「それもそうね。――というわけで、あたしはもっと強い人と戦ってくるから、ここ宜しく」

「え? って、おい! どこ行くんだよ、エリカ!」

 レオの叫び声を後ろに聞きながら、エリカは“彼女”のもとへと走っていった。

「壬生せんぱーい! こんな所で会うなんて“奇遇”ですねー! というわけで、いざ勝負!」

「え? ちょ、ちょっと待ってエリカさん! 私は達也くんに用事があって来ただけで、私達で勝負する必要は無いわよね!」

「何言ってるんですかー。ちゃんと敵のフリしていないと、壬生先輩が組織を裏切ったってばれちゃいますよー? というわけで、いざ――」

「達也くん! 桐原くん見なかった?」

 紗耶香はエリカから逃げるように走り出すと、ちょうど敵を殴り倒しているところだった達也へと近づいていった。

「壬生先輩? 桐原先輩は見掛けていませんが――まさかっ!」

「うん、さっきから桐原くんの姿が見えないの! もしかしたら、ブランシュのアジトに行ったんじゃないかって思って……!」

 紗耶香の言葉に、達也は苦虫を噛み潰したような表情になった。

 

 

 *         *          *

 

 

「くそっ! 図書館の部隊はまだ目標地点に到達していないのか……!」

 校門近くの校舎に身を隠すように寄り添っていた甲が、襲撃部隊に取りつけていた発信器で彼らの位置を確認しながら忌々しそうに吐き捨てた。他の部隊もどうやら教師などに取り押さえられているらしく、先程からまったく動きを見せていなかった。

「……もしかして、情報が漏れていたのか?」

 いくら何でも、襲撃者に対する学校側の手際が良すぎる。ほぼ不意打ちのように講堂に撃ち込んだガス弾はあっさりとはね除けられ、本命である図書館では襲撃者を待ち構えてたかのように実力者が揃っていた。陽動目的で他の施設に襲撃させた部隊も、いくら素人に毛が生えた程度とはいえ、ここまであっさりとやられるようなものではなかったはずだ。

 ――とりあえず、“兄さん”に指示を仰がなくては……!

 甲の脳裏に真っ先に浮かんだのは、自分が最も信頼している義理の兄・一だった。最初に顔を合わせたときは再婚相手の連れ子ということもあってなかなか馴染めなかったが、今では誰よりも“信じられる”大切なパートナーである。

 ――兄さんならば、きっとこの状況も何とかしてくれるはず……!

 甲は縋る想いで、ズボンのポケットから携帯電話を取りだして、

「キャハハハハ――」

 突然、その携帯電話ごと自分の腕を囓られた。

「――――!」

 それは、一言では言い表せない生き物だった。

 体高は甲の腰くらいの高さで、まるで大昔に絶滅したはずの肉食恐竜のような見た目をしていた。しかし本来目玉があるはずの場所には何も無く、鋭く尖った牙を覗かせる大きな口をにたにたと歪ませながら、甲の右腕にがっしりと食いついて離れようとしない。

「ぐ――、ああああああああ!」

 牙が肉を貫き、骨をぎりぎりと締め付ける感覚に、甲は脂汗をびっしりと掻きながら呻き声をあげた。鮮烈な腕の痛みと共に、正体不明の生き物に襲われているという未知の恐怖で、甲は頭がおかしくなりそうなほどに混乱している。

「このぉ! 離せ!」

 甲の言葉が通じたのかは分からないが、ふいにその生き物が甲の右腕を離した。彼は地面に転びそうになりながら急いでその場を離れ、ある程度距離をとった所で振り返るとCADを構えた。

 しかし今まさに魔法を放とうとしたその瞬間、彼は周りの様子に気がついた。

 その生き物は、1匹だけではなかった。

 目玉の無い恐竜みたいな見た目をしたその生き物が、甲の周りを取り囲むように何匹もいて、その全てがこちらに体を向けてにたにたと笑っていた。絶対的に優位な状況にも拘わらず彼と一定の距離を保っているその様子は、まるで彼が追い詰められていく様を観察して楽しんでいるかのように見えた。

「な……、何なんだ、こいつらは!」

「“ティンダロスの猟犬”だよ。恐竜みたいな見た目をしてるけど、立派な犬なんだから。――あ、ううん、こっちの話」

 甲の叫びに答えたのは、エリだった。彼女は携帯端末を片手に誰かと話をしながら、恐竜のような生き物――ティンダロスの猟犬のいるこの場所へと歩いてくる。

「うん、司さんは見つけたよ。ありがとう、美月さんのおかげだよ。“眼”を使ったから疲れたでしょ? うん、そこなら誰にも気づかれないと思うから、ゆっくり休んでてよ。それじゃ」

 エリは電話を切ってポケットに端末をしまうと、猟犬のすぐ傍でその歩みを止めた。するとあれだけ不気味な笑みを浮かべていた猟犬が、まるで彼女に甘えるように頭をすり寄せてきたのである。

「美咲エリ、だな……。その生き物は、おまえの仕業か?」

「うん、まぁね。――さてと、司甲さん。あなたには、反魔法政治結社ブランシュの下部組織“エガリテ”のリーダーだという嫌疑が掛かっています。嫌疑というか、もうあなたがリーダーだって判明してるんだけどね。というわけで、おとなしく連行されてください」

「……成程、おまえのせいだったのか……!」

 その少女は、甲も知っている生徒だった。飛び級で入学した天才であることは有名だし、何より闘技場での騒ぎのときに達也と一緒に剣術部の部員を取り締まっていたのを、実際にこの目で見ていたのだから。

「これはいったい、何の魔法だ……? こんな魔法、今まで聞いたことも無いが……。まさかこれは、古式魔法なのか……?」

「そう。この子達は、私が“神威召喚”で呼び出した召喚獣だよ。古式魔法……って言うほど古いものじゃないんだよなぁ……。でも現代魔法とは全然違うし……」

 敵である甲を目の前にして、エリは腕を組んでうんうんと唸りながら何やら考え込んでしまった。近くにいる猟犬達も、まるで主人と一緒に頭を悩ませるように、あるいは主人の動きを真似するように、首を捻って考える素振りをしている。

 誰もが、甲から注意が逸れているように見えた。

 ――ここだ!

 甲は右腕の痛みで顔をしかめながら、その指に嵌められていた指輪に魔法力を込めた。魔法師にとって天敵とも言えるキャスト・ジャミングが辺り一帯に撒き散らされ、そして次の瞬間には、彼は持ち前の身体能力を活かしてエリとの距離を詰めた。

 彼女の魔法は未だに正体が掴めないが、魔法である以上このキャスト・ジャミングに晒されて無事でいられるわけがない。魔法が使えない以上、目の前にいるのは単なる非力な少女でしかなく、“剣道家”として魔法に頼らず日夜技を磨いている自分が負けるはずがない。

 それを信じ、甲は目の前の少女目掛けて左腕を振り下ろ――

 

 

 がりっ。

 

 

「――――」

 腰の辺りから伝わる痛みと圧迫感に、甲は目を見開いて動きを止めた。

 恐る恐る後ろを振り返ると、猟犬が相変わらずにたにたと笑いながら、彼の腰に齧り付いている。

 そして甲には、舌なめずりをしながらゆっくりとこちらに歩いてくる猟犬達の姿も見える。

「本気で噛んじゃだめだよ。そんなに悪党じゃないんだから、食いちぎるのは止めてあげてね」

「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ――」

 エリの言葉と猟犬の笑い声を聞きながら、甲の意識は遠くなっていった。

 

 

 *         *         *

 

 

 第一高校から目と鼻の先にある、バイオ燃料の廃工場。

「さて、そろそろ彼らが魔法科高校を襲撃する頃か……」

 その工場の一室で、外から持ち込んだソファーに腰を下ろし余裕たっぷりな笑みを浮かべて呟くのは、エガリテを率いていた司甲の義理の兄であり、エガリテを陰で操っていたブランシュ日本支部のリーダーである司一(つかさはじめ)だった。彼の周りには、マシンガンを持って武装した複数の人間が彼を守るように囲み、いつ襲撃者が来ても良いように用心していた。

「魔法科高校の機密情報を入手できれば、我々の悲願成就への大きな足掛かりとなる……。それにしても、“魔法師”なんて大層な肩書きを持っているが、所詮はただの学生か。僕の“力”を持ってすれば、たとえどれほど優秀な魔法師だろうと、簡単に僕の部下になってくれる」

 独り言にしては声が大きく、そして芝居がかっていた。多大な時間とコストを掛けた今回の作戦がもう少しで成就することで気分が良くなっているのもあるだろうが、おそらく元々の性格から来ているのだろう。

「さてと、この作戦が終われば我々がここにいる理由は無い。君達も早いところ荷物を纏めておきたまえ」

 一の言葉に周りの部下は「はいっ!」と一斉に返事をすると、きびきびとした動きでその場を離れ――

 

 

 すどおぉんっ!

 

 

 その瞬間、一達のいた部屋の天井が突然破壊された。

「な、何だぁ!」

 砂埃が充満する部屋の中で一は驚きの声をあげ、部下達はマシンガンをあちこちに構えつつも、味方を撃ちかねないために何もできないことで見るからに焦っていた。

 やがて砂埃が晴れ始めた頃、煙の向こうに巨大な人影が見えた。部下達は一を庇うように横一列に並び、マシンガンを一斉にそいつへ向ける。

「ず、随分と派手な襲撃じゃないか……。よっぽど命が惜しくない……と……」

 ずれた眼鏡を指で直しながら一はそいつを睨みつけ、そしてその言葉は途中で詰まった。

 そこにいたのは、一種の芸術品だった。

 2メートルという尋常でなく大柄な体躯に、人間はここまで鍛えられるのかと男ならば思わず惚れ惚れとするような筋肉、さらにそれを魅せるために黒々と日に焼けた肌、それとは相反した真っ白な歯、そして綺麗に揃えられた角刈りの頭。

 そんな筋骨隆々の大男が着ているのは、ピンク色の服。

 その服できらきらと輝いているのは、女の子が好みそうな可愛らしい装飾品。

 ひらひらと風に靡く短いスカート。

 その手に持つのは、大きなベルがよく目立つステッキ。

 それは言うなれば、女児アニメでよく見る“魔法少女”が着るようなデザインの格好だった。

 そんな女児アニメでよく見る“魔法少女”が着るようなデザインの格好を、2メートルもの長身で見事なまでに鍛えられた体を持つ男の中の男――高田厚志が着ているのである。服が体に合っていないのか、少女が好きそうな可愛らしい服は筋肉に押し上げられて今にも破けそうだし、スカートは短すぎてもはや常時パンチラ状態といっても過言ではなかった。

 唖然とする一と部下達の目の前で、厚志は口を開いた。

 

 

「魔法少女プリティ☆ベル――推参!」

 

 

「“少女”でも“プリティ”でもねええええええ!」

 普段のキャラも忘れて思わず叫んでしまった一を、誰も責めることはできなかった。

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