魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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第14話 『皆で仲良く食卓を囲む風景というのは、なぜか不思議と大団円感がある』

 一の目の前で起こっていることは、彼からしてみたら“悪夢”そのものだった。

「ダブル・バイセップス!」

 胸を大きく反らしながら腕を肩の高さまで上げて肘を上に曲げることで、脚から上体にかけたすべての筋肉を魅せることのできる、ボディービルの中でも有名で基本的なポージングである“ダブル・バイセップス”。

 しかしプリティ☆ベルに変身した厚志がそれを行うと、なぜか極太のスポットライトみたいなレーザー光線が飛び出し、周りにいる一の部下達を一気に巻き込んで吹き飛ばしていった。彼らは一瞬光に呑み込まれて姿が見えなくなるが、特に外見には怪我をした様子も無く、ただ吹き飛ばされたまま気を失うだけである。

「うああああああああああああ!」

 部下の1人がほとんど錯乱状態で叫び声をあげながら、マシンガンを何の躊躇も無く厚志に向けてぶっ放した。ほとんど間を置かずに連続しているために繋がって聞こえるほどの連射性能を誇り、一発当たっただけでも打ち所によっては即死もありえる弾丸が雨となって彼に襲い掛かる。

 しかしその弾丸のただ1つとして、彼の体に到達することはなかった。

 弾丸が彼に衝突する直前、魔法陣のような模様が描かれた半透明のシールドが突如現れ、弾丸の通り道を塞いでしまうのである。シールドに阻まれた弾丸はその勢いのままぺしゃんこに潰れ、運動エネルギーを使い果たしてそのまま床へと落下していく。よって無傷の厚志の足元には、潰れた弾丸が山のように積み重なっていた。

「ダブル・バイセップス!」

 そしてマシンガンが止んだのを見計らって行われるダブル・バイセップスによって、彼は光に呑み込まれて姿が見えなくなり、そして一瞬後に現れたときにはすでに気を失って床に崩れ落ちていた。

「……な、何なんだ、これは……」

 突然天井を破壊してやって来たのは、少女が着るような可愛らしい服を着た筋肉もりもりの大男であり、そいつがボディービルのポージングをすると謎の光が現れ、部下達を怪我1つ負わせることなく戦闘不能にしているのだ。一が思わずそんな言葉を漏らしたとしても、誰も彼を責めることはないだろう。というか、初見でこんな光景に出くわしたら、誰だってこんな感想を抱くに決まっている。

 とにかく彼にとって、目の前の男は情報が少なすぎた。なぜあんな格好をしているのか、あの光の正体は何なのか、そしてなぜこのタイミングで見計らったように現れたのか。

 一がいろいろと考えを巡らせている間に、とうとう最後の部下が厚志の放つ光に呑み込まれて意識を失った。もう自分に襲い掛かってくる奴がいなくなったことに気づいた厚志は、最後の1人である一へと向き直り、ゆっくりと歩みを進めていく。

「何なんだ、貴様は! 何者なんだ!」

「私かい? 私は高田厚志! プロのボディービルダーで、今は訳あって魔法少女をやっているよ!」

「貴様のどこが魔法少女だ! というか、魔法少女って何だ!」

 ちなみに一はとっくの昔に眼鏡を外しており、何度も彼に向けて“邪眼(イビル・アイ)”を掛けている。催眠効果を持つ光信号を相手の網膜に投射する光波振動系魔法であり、これを使って紗耶香を始めとしたほとんどの部下を催眠状態にして操ってきた。

 しかしなぜか、厚志にはまったくそれが効かなかった。特にそれを防ごうとはしていないし、ばっちりこちらと目が合っているにも拘わらず。

「む? さっきから前髪を掻き上げてこちらに目を向けるということは、私に魔法を掛けているようだな? その様子からすると、効果は相手を操るとかそういったものだろう?」

 厚志がそんなことを話しながら、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。一は恐怖で顔を歪めながら、距離を詰められた分だけ後ずさりしていた。

「しかし残念ながら、私には何も感じないんだ。モカに“邪眼”を掛けられたときには、ちょっとだけとはいえ体に縛られるような抵抗感があったんだが、君のその魔法からは何も感じないんだ」

「な……! 僕以外にも、邪眼を使う奴がいるのか……!」

「君のその魔法自体は、特に珍しいものではないと思うよ? それにこう言っては何だが、君はおそらく魔法師としては“未熟”だ。もっと外の世界に目を向けていれば、自分の欠点にも気づけてもっと腕を磨くことができただろうに……」

「――ふざけるなぁ!」

 突然叫んだかと思うと、一は腕をこちらに伸ばしてきた。その指には何やら指輪が嵌められており、彼は勝ち誇ったように引きつった笑みを浮かべている。

「ははは! どうだ、キャスト・ジャミングの味は!」

「…………」

 普通の魔法師ならばおそらく今頃、不快感のあまりその場に倒れてしまうほどの頭痛や耳鳴りに襲われているのだろう。

 だが残念ながら、厚志はあくまで“魔法少女”であり“魔法師”ではなかった。そのまま何事もないかのように悠々と歩く彼の姿に、一の表情に再び恐怖が浮かび上がる。

「達也くんから聞いたことがある。それはおそらくアンティナイトだろう? その石は古代文明の残った高山地帯でしか採れない、非常に珍しい軍事物質だ。そんなものを手に入れられるということは、君達のパトロンはその地方で活動する政治的な団体ということだ。そうだな……、考えられるとすればウクライナ・ベラルーシ再分離独立派辺りだろうか? そうなると、そのスポンサーと思われる大亜連合とも繋がっていることになるな……」

「ひっ――」

 とうとう一の背中が壁とぶつかり、彼の逃げ道は無くなってしまった。迫り来る魔法少女の格好をした大男に、彼は体の震えを抑えることができない。

 と、そのとき、彼が背中を貼りつけていたその壁から、突然日本刀のようなものが生えてきた。もう少し横にずれていたら、彼の体をそのまま貫いていたかもしれない。

「こ、今度は何だ!」

 一が急いで壁から体を離すと、その刀はまるでケーキでも切るかのようにあっさりと壁を斬っていき、やがて人が通れるくらいに大きな穴を空けた。

 そしてそこから顔を出したのは、桐原だった。

「よし、とりあえず侵入成功だ――って、うわぁ! な、何だてめぇは!」

 彼は厚志の姿を見つけた途端、すぐさま刀を構えて臨戦態勢に入った。至極当然な反応である。

「その制服を着てるということは、君は達也くんと同じ高校の生徒だな! 私は高田厚志! 今は魔法少女プリティ☆ベルとして、達也くんの作戦の下、ここブランシュ日本支部のアジトを襲撃しているところだ」

「“少女”でも“プリティ”でもねぇよ! ――っと、てことはあんたは味方と考えて良いのか? いや、その見た目からして、こいつも敵と考えた方が良いのか……?」

 戸惑うような表情を見せていた桐原だったが、彼のすぐ傍にこちらを怯えた目で見ている一の姿を見つけた途端、その目つきを鋭くした。

「……おい、厚志さんっつったか? そいつは誰だ?」

「ああ、彼がブランシュ日本支部のリーダー、司一だ」

「そうか。……こいつが、壬生を誑かしやがったんだな」

 その瞬間、桐原は一気に一との距離を詰めると、手に持っていた刀を彼目掛けて振り下ろした。

 刀は彼の右腕に当たり、そしてそのまま振り抜かれた。

 彼の右腕が、ばっさりと分断された。

「――ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 右腕の断面から血を吹き出しながら、一は人間とは思えない叫び声をあげてその場をのたうち回った。

 そして桐原はそんな彼に向けて再び刀を振り上げて、

「その辺にしておきたまえ」

 厚志に、その腕を掴まれた。怒りに身を任せていた桐原は睨みつけるように彼へと顔を向けたが、彼にじっと見つめられている内に怒りもだんだんと収まり(魔法少女の姿をした彼をじっと見てしまったせいで、戦意を消失したのかもしれない)やがて静かに刀を鞘に収めた。

 それを見てにこりと笑った厚志は、携帯端末を取りだして番号を打ち込む。

 数秒して、相手と繋がった。

「達也くん、終わったよ」

『了解しました。そちらに日本刀を持った一高の生徒が来ていませんか?』

「ああ、来ているよ。その口振りからすると、彼は黙ってこっちに来たんだね?」

『はい。十文字会頭とそちらに向かうので、少し待っていてください。――あと、その方に代わってください』

「彼にかい? 分かった。――君、達也くんが君に代わってくれって」

「あいつが? ――おう、何だよ達也、説教なら聞かねーぞ――」

『桐原くん?』

 電話の向こうから聞こえてきたのは、直接顔を見なくても分かるほどに声に怒気を含ませた紗耶香だった。

「……おう、壬生。どうかしたか?」

『どうかしたか、ですって? 桐原くん、あたしがなんで怒ってるのか、本気で分からないわけじゃないでしょう?』

「……いや、何つーか、居ても立ってもいられなかったというか……」

『相手は銃で武装しているのよ? いくら桐原くんの剣術の腕が良くても、銃を持った人間を何人も相手に立ち回れるわけないでしょ?』

「いや、あの、それは……」

『今すぐ、こっちに帰ってきなさい』

「……達也がこっちに来るんだろ? 多分車だろうから、そのときにでも一緒に――」

『今すぐ、こっちに帰ってきなさい』

「……はい、すんませんでした」

 腰が直角に曲がるほどに頭を下げる桐原の姿に、厚志は苦笑いをしていた。

 大量の血を流しながら気を失っている一を、足元に見遣りながら。

 

 

 

 こうして、第一高校を襲った一連の事件は完全に鎮圧された。結構派手に立ち回った達也たちだが、この事件による影響は何も無かった。

 なぜなら、この事件の後処理を行ったのは十文字家だからである。

 魔法の名家である“数字付き(ナンバーズ)”の中でも、特に名門と謳われる者達で構成されている“十師族”。それは日本で最強の魔法師集団であり、表に一切顔を出さない代わりに政治の裏側で不可侵にも等しいほどの権力を手にしている。

 その中でも十文字は第3位の序列であり、しかも克人はこの歳で“当主代理”として十文字家の関わる実務をこなしている。そんな彼が関わる事件に、普通の警察が関与できるはずがないのである。

 紗耶香を始めとしたエガリテのメンバーも、全員警察送りにはならずに済んだ。彼女達は皆、一のマインドコントロールの影響下にあったためである。よって紗耶香のスパイ行為も不問とされ、エガリテのリーダーだった甲も無罪となり現在休学中である。

 つまるところ、すべては丸く収まったと言えるだろう。

 というわけで、

「さて、みんな遠慮せずに食べてくれ!」

 今回の事件が無事に解決したことを祝って、厚志と司波兄妹とエリ、レオとエリカと美月の二科生3人組、ほのかと雫の一科生コンビ、さらには紗耶香に桐原、その上真由美に摩利に克人という三巨頭、そしてミルココにモカにダッチにリガルトにマッドという総勢20人のメンバーは、焼肉屋の個室にて今まさに打ち上げパーティが行われようとしていた。

 もちろん、ただの焼肉ではない。1人2万円という超高級食べ放題であり、出てくる肉は国内最高峰のブランド物を取り揃え、付け合わせである野菜や米も有機栽培にこだわった産地直送の品々、そして食後の楽しみであるデザートにまで手を一切抜かずに作り上げた、必ずや2万円以上の価値を感じられるであろう店主自慢のメニューである。

「うおおおおおおおっ! あ、厚志さん……! 本当にこれ、食って良いのか……?」

 目の前に並べられた輝かしい肉の数々に、食べ盛りの少年であるレオは今にも食いつきそうな勢いで凝視しながら体を震わせていた。

「もちろん! じゃんじゃん食べてって!」

 厚志のその言葉を皮切りに、打ち上げパーティは幕を開けた。ジュージューと肉を焼く音が鳴り響き、部屋中に肉の焼く匂いが立ち籠め、上質な油を跳ねさせて肉が焼けていく。視覚で、聴覚で、嗅覚で胃袋を絶えず刺激し続け、皆の箸を止まらなくしている。

「お兄様、お肉が焼けましたよ!」

「深雪、焼いてくれるのはとても有難いが、深雪も少しは食べたらどうだ?」

「私はお兄様が満足してくださるのなら、それだけでも――」

「深雪さーん。このお肉貰うねー!」

「ああ、エリ! それは私が大事に育てておいた……!」

「はっはっはー! 憶えておくが良い、深雪よ! この戦場では、そんな甘えは許されぬのだ!」

「というわけで、こっちの肉ももーらい!」

「ああ、ココアまで!」

「……深雪のために、何枚か焼いておくか」

 きゃーきゃーと騒がしい深雪とエリとミルココの隣で、達也は黙々と肉を焼き、

「うおおっ! 美味い! 美味すぎるっ!」

「だ、大丈夫、レオくん? そんなに急いで食べたら、喉に詰まらせるんじゃ……」

「大丈夫よ、美月。むしろ喉に詰まらせた方が、おとなしくなって良いんじゃなーい?」

「んぐぐ……、何だとエリカ! せっかくの厚志さんの奢りだぜ! ここで食わなきゃいつ食うんだってんだ!」

「その通りだ、レオ! 目の前の肉を平らげずして、何が男か!」

「リカルドさん……! 俺、頑張ります!」

「いや、普通に食べれば良いでしょ……。時間制限無いんだから……」

「兄者、『最近油物がきつくなってきた』って言ってなかったっけ? 後で気分悪くなっても知らないよ」

 もの凄い勢いで肉とご飯を掻き込むレオとリカルドを、エリカとマッドが呆れたように、美月が心配そうに眺め、

「こんなに高級なお肉、食べても良いのかな……? 私達、今回の事件にまったく関わってないよね……?」

「うん、何だか躊躇う……」

「別に遠慮しないで食べれば良いじゃん! あつしがそう言ってるんだから!」

「そうだよ。厚志さんは、みんなとこうして食べるのが好きなんだから」

「……分かりました! いただきます!」

「いただきます」

 ほのかと雫の食べっぷりに、ダッチとモカが感心したように見つめ、

「こんな美味しいお肉を食べられるなんて……! ああ、でもカロリーが……」

「食い過ぎて太らなきゃ良いけどな」

「もう、桐原くんったら!」

「ねぇねぇ、やっぱり2人って付き合ってるのかしら?」

「ぶふうっ!」

「ちょ、会長! 変なことを訊かないでください! あたしと桐原くんは、別にそういう仲じゃないですよ!」

「でもでも、桐原くんは壬生さんのボディーガードをしてたんでしょ? そうやって守って守られてる内に、2人の関係も親密なものになったり――」

「真由美、いい加減にしろ。2人が困ってるじゃないか」

「七草、人の恋路にあまり首を突っ込むものではない」

「こ、恋路だなんて! そんなんじゃないですよ、会頭!」

「……そこまで否定しなくても」

 必死になって三巨頭に否定している紗耶香の陰で、桐原が人知れず涙を呑んでいた。

 と、そのとき、

「――お父さんから電話だ。すみません、失礼します」

 紗耶香の携帯端末が震え、彼女が席を立って部屋から出ていった。だが少し経って、彼女は部屋に戻ると早足で達也の所へとやって来た。

「達也くん、お父さんが代わってほしいって」

「俺に? 分かりました。――ほら、深雪。これを食べて元気を出せ」

「お兄様……! 私は幸せ者です!」

 達也は紗耶香と一緒に部屋を出ると、彼女の携帯端末を受け取った。

「もしもし、司波達也です」

『電話での挨拶、失礼する。紗耶香の父親の、勇三という者だ』

 達也がちらりと紗耶香に目を遣ると、彼女は察したように部屋へと戻っていった。

『司波くんには感謝している。娘が立ち直れたのは、君のおかげだ』

「いいえ、自分は何も」

『そんなことはない。娘が思い悩んでいたことを、私は分かってやれなかった。それどころか、おかしな連中と付き合い始めたと娘と向き合うことすらしなかった。――娘は君と話をして、久し振りに迷うことを思い出したと言っていたよ。そしてこの1年間を“無駄ではない”と言ってくれて、救われたと』

「……そうですか」

『だから改めて言わせてほしい。――ありがとう』

「……自分は本当に、感謝されるようなことは何も。自分よりも彼女の助けになった人がいるので、できればそちらに礼を言っていただけないでしょうか?」

『……君は本当に、風間から聞いていた通りの男なんだな』

「風間少佐をご存知で?」

『昔、兵舎で起居を共にした戦友だよ。私はすでに引退した身だが、今でも親しくさせてもらっている』

 ――ただの“戦友”ではないな。風間少佐がそんな理由で、俺のことを話すとは思えない。

『君の言うその人とは、もしや“高田厚志”のことではないかな?』

「……彼のことも、ご存知なのですか?」

『安心してくれたまえ、風間から聞いたことは他言しないよ。――君みたいな男が慕う人物だ、さぞや素晴らしい人間なんだろうな』

 勇三の言葉に、達也は僅かに扉を開けて部屋の中を覗いた。

 部屋にいる多くの人から親しげに話し掛けられ、彼はとても楽しそうに笑っている。

 それを眺めながら、達也は口元に笑みを浮かべてこう言った。

「――おそらく彼のことを、“男の中の男”と言うのでしょうね」

 

 

 *         *         *

 

 

 水と緑に囲まれた自然豊かな土地でありながら、人間界の大都市を彷彿とさせるような立派なビルがあちこちに建てられた、まるでリゾート地を思わせるような場所。魔界の南軍が支配する土地の首都である“水の都ニーロ”は、“魔界”と聞いてよく思い浮かべるような不毛の土地というイメージとはまったくかけ離れた、とても生命力に溢れた美しい街である。

 そんな街の中心に位置する、周りのビルよりも一際大きく豪華なその建物は、これだけの文化レベルを誇る街を作り上げた南軍の長である“魔王”が住む王宮である。とはいえ、南軍の街は“民主制”を採用しており、魔王はあくまで象徴として存在しているだけなので、権威を振りかざすことを目的とした外見ではない。

 そんな王宮の一室にて、

「ねーねー、エミリオー。暇なんだけどー」

「私は暇ではありません。1人で遊んでいてください、魔王様」

 金髪をオールバックにして眼鏡を掛けたいかにも真面目そうな男――エミリオに対して、長く伸ばした青い髪をまるで子供のように振り回してせがんでいるのは、豊満な胸と尻に程よくくびれた腰回りという世の男が思わず見惚れてしまう大人の体に対し、まるで少女のようなあどけない顔立ちをした女性だった。

 そして彼女こそが先程エミリオに呼ばれたように、ここ南軍における長であり、魔界を統べる4人の魔王の内の1人、“大淫婦”シャルエルである。

「ちぇー、つまんないなー! ちょっとくらい遊んだって良いじゃない!」

「魔王様、私は総務大臣です。選挙という民の意思を反映するシステムによって選ばれた、この国の代表なのです。そんな私に、遊んでいる暇などありはしないのです」

「……ねぇエミリオ、最近あなた“ご無沙汰”じゃない? だったら私が――」

「黙ってどっか行ってろよ! こっちは仕事してんだよ!」

「もう、エミリオったら冷たーい!」

 部下とは思えない口調での叱責にも顔色一つ変えず、シャルエルはぶーぶーと口を尖らせて駄々をこねる。魅力的な外見をした彼女だとそんな行為ですら可愛らしく見えるのだが、生憎今までずっと彼女の側近として働いてきたエミリオにはまるで通用せず、額に青筋を浮かび上がらせるのみである。

「あーあ、そういえば最近エリちゃん達に会ってないなぁ……。確か“魔法科高校”って所に通ってるのよね?」

「はい、人間が独自に編み出した魔法を習い、魔法師となるための機関だとか。教師だった私としては、ぜひとも一度は見学をしてみたいものですが……」

「ふふふ……、だったら、学校で魔法を学んだ子供達がどれほどの実力を持っているのか、知りたくない?」

 不敵に笑うシャルエルにエミリオが怪訝な表情を向けると、彼女は「じゃじゃーん!」と言って、最近の人間界では滅多に見られなくなった紙媒体でのポスターを見せてきた。

 それはイベントの開催を知らせるものらしく、とにかく人目を惹くことを目的としたデザインとなっている。

「……全国魔法科高校親善魔法競技大会?」

 エミリオが一番目に着く文字列を読み上げると、シャルエルがにっこりと笑みを浮かべた。

「そう! 別名“九校戦”! 日本にある9つの魔法科高校から精鋭を集めて、魔法を使った競技で成績を競う大会なの! 毎年超満員になるほどの大人気で、将来活躍する魔法師は必ずここで活躍するとも言われてるの!」

「ふむ……、実戦と競技では求められる技術は違うのですが……、確かに純粋な興味は湧きますね……」

「でしょでしょ! それに深雪ちゃんやエリちゃんの実力なら、絶対に代表選手になると思うし! それに達也くんだって、絶対に何かしらの方法で大会に関わってくると思うのよねぇ!」

「それが目的ですか……。まぁ、良いですよ。開催までまだ少し時間もありますし、大会の関係者にコンタクトを取れば、我々2人くらいなら受け入れてくれるでしょう」

「だめだめ、エミリオ! 2人だけなんて!」

 さっそく電話を掛けようとするエミリオに、シャルエルは両手をぱたぱたと動かしてそれを止めた。

 首をかしげる彼に対して、彼女はにっこりと笑ってこう言った。

 

 

「こういう楽しそうなイベントは、みんなで行かなきゃ駄目でしょ?」

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