魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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九校戦編
第15話 『行楽シーズンの渋滞映像を自宅で観ながら食べる飯は旨い』


「失礼しました」

 頭を下げて指導室を出た達也を出迎えたのは、レオ・エリカ・美月の二科生3人組と、エリ・雫の一科生2人組だった。皆が皆それぞれに美形なのに加え、二科生初の風紀委員として有名な達也と親友ということで、彼女達はすっかり学校の有名人であり、こうして並んでいる光景はとても目立っていた。

「みんな……、どうしたんだ、こんな所に集まって」

「『どうした』はこっちの台詞だぜ、達也。指導室に呼び出されるなんて、いったい何をしでかしたんだ?」

 驚きの表情を浮かべた達也の質問に答えた(というより問い返した)のは、この集団の中の紅一点ならぬ黒一点のレオだった。

 すると達也は、呆れるような苦笑いのような微妙な表情になって、

「期末試験のことで、ちょっと尋問を受けていたんだ。実技で手を抜いたんじゃないかって疑われたようだ」

「手を抜くって……、そんなことして何の得になるっていうの?」

「でも、先生がそんな気になるのも分かる」

「そうですよ! それだけ達也さんの成績が凄かったってことなんですから!」

 美月が拳を握りしめて力説していたが、彼女が興奮するのも無理はなかった。

 先日期末試験が行われたのだが、その結果に校内は騒然となった。

 総合点で見ると、1位は深雪、2位はエリ、3位はほのかと、トップ3は入試と同じ顔触れとなった。実技試験だけで見ても、1位は深雪、2位はエリ、3位は雫と、これまたお馴染みのメンツである。ちなみに実技の4位はあの森崎だったが、今は特に取り上げることでもないだろう。とにかく、総合成績も実技単独の成績でも、氏名が公表される上位20人は全員一科生だった。

 しかしこれが、筆記単独になると様子が変わってくる。

 1位が達也、2位が深雪、3位がエリと、一科生を抑えて(しかもぶっちぎりで)二科生の達也がトップに躍り出たのである。しかも4位も吉田幹比古という二科生であり、他に顔なじみを挙げると、5位がほのか、10位が雫、17位に美月、20位にエリカという、トップ20人に二科生が4人という前代未聞の事態となった。ちなみにレオと森崎はランク外なのだが、今は特に取り上げることでもないだろう。

「あらー、レオったら私よりも下なのー? おほほほほ」

「だあぁ! だから取り上げる必要ないって言ってるだろうが!」

「それで、誤解は解けたの?」

 いつものように喧嘩をするレオとエリカを放っておいて、エリが達也に尋ねてきた。

「まぁ、一応な」

「一応?」

「第四高校に転入を勧められたよ。あそこなら魔法工学に力を入れているからってな」

「そうなの?」

 達也の言葉に、エリが即座に雫に話を振った。彼女の従兄が四高に通っていると聞いたことがあるからである。

 すると彼女は、静かに首を横に振った。

「確かに力を入れてるけど、それはあくまで“他の高校よりは”という程度。実技が優先されることには変わりない」

「まぁ、赤点ぎりぎりとはいえ、何とか合格ラインには届いているんだ。俺が了承しない限り、余所に転校されるということはないだろう」

「成績の悪い生徒がいるなら、成績が上がるように努力するのが教師の務めだと思います!」

「まぁ、先生は達也くんを画面越しでしか知らないわけだからねぇ……。そんな扱いになっちゃうのも、仕方ないといえばそうなのかなぁ……」

「とは言ってもよ、何だか自分達よりも魔法に詳しい達也を厄介払いしようとしてるみたいで、俺は何か気に食わねぇな」

 達也本人そっちのけで、彼女達が話を始めてしまった。ちらりと周りに目を遣ると、往来のど真ん中でわいわい騒いでいるこの集団は嫌でも目に着くようで、先程から傍を通り過ぎる生徒達が迷惑そうにこちらを見ていた。

「みんな、そろそろ移動しよう。ここじゃさすがに邪魔になる」

 達也の言葉に全員が頷き、彼らは移動を開始した。今日は達也もエリも風紀委員としての仕事は無いため、いつものようにカフェでのんびりお喋りして過ごすことになるだろう。

「それにしてもお兄様の一大事だってのに、深雪はどこに行ってるの? それに今日はほのかもいないみたいだし」

 道中、ふいにエリカがそう言った。言葉上はこの場にいないことを責めるものだったが、にやにやと笑みを浮かべて弾んだような声で言っているため、単なるからかいの域を出ないものだろう。

「深雪は九校戦の準備で大忙しだ。それとほのかは、確か今日は厚志さんのジムでトレーニングじゃないか?」

 達也の言葉に、その場にいた全員が思い出したように頷いていた。

「そういえば、もう2ヶ月くらいになるの? ほのかもよく続くよねぇ、筋トレなんて」

「体を鍛える楽しみに目覚めたんじゃねぇのか? 最近は食事制限もしてるんだろ?」

 レオが話を振ったのは、ほのかのトレーニングをしている厚志と一緒に住んでいるエリだった。

「食事制限って言っても、カロリーを抑えてる訳じゃないよ? 成長期の体にカロリー制限は危険だからね。その代わり、油物はできるだけ抑えてタンパク質を多めに摂っているって感じかな?」

「へぇ、結構本格的なのね。やっぱり筋肉とかついたのかな?」

 エリカが話を振ったのは、ほのかと一番長く一緒にいる雫だった。

「見た目にはそんなに変わらないけど、前に腕を触らせてもらったときは結構硬かった。見た目があまり変わらないように、厚志さんが気に掛けてくれているって言ってた」

「まぁ何にしても、その筋トレの成果が出るかどうかは、九校戦で明らかになるでしょ。――そういえば、深雪もエリも雫も、九校戦には選手として出場するんだよね?」

 まだ正式に話が決まった訳ではないが、深雪・エリ・ほのか・雫は一科生の中でもトップの成績を誇っており、彼女達が選手に選ばれるのは確実視されている。

「ま! この4人が選手として出るんなら、新人戦は一高の優勝で決まったようなものでしょ!」

 エリカの言葉に、雫は真剣な表情で首を横に振った。

「そんなことはない。今年は三高に、一条の御曹司が入ったから」

「一条って、十師族の一条か? そりゃ確かに強敵っぽいな」

「随分と詳しいね。ひょっとして、雫って九校戦フリーク?」

「あ、そういえば聞いたことあるよ! 雫さん、毎年観に行ってるんだよね。特にモノリス・コードがお気に入りなんだって」

 エリの言葉に、雫は照れたように俯いて小さく頷いた。

「今年は観る側じゃなくて競う側ですね」

「うん、頑張る」

 他の面々が九校戦について盛り上がっている中、

「…………」

「…………」

 エリは秘かに口元に笑みを浮かべ、達也がそれを見て怪訝な表情を浮かべていた。

 

 

 *         *         *

 

 

「いやぁ、悪いな達也くん。こんなことまで手伝わせてしまって」

「……まったくですよ、今日は図書館に籠もろうかと思っていたんですが」

 風紀委員室でパソコンに向かって作業をしていた達也は、摩利の言葉に不満を隠す素振りもせずに答えた。

 彼が今やっているのは、次期風紀委員長の引継ぎのための資料作成だった。夏休みが終わるとすぐに風紀委員長が選抜され、そのまま矢継ぎ早に引継ぎが行われてしまうので、風紀委員長になって最初の仕事はごちゃごちゃになった活動記録の整理というのがお決まりのパターンになっていた。それを良しとしない摩利が、余裕のある今の内に資料を作成することに決めたのである。

 何とも後輩想いの良い先輩だ。作業を達也に丸投げしなければ。

「九校戦って、いつからでしたっけ?」

 とりあえず作業している間、達也は摩利と取り留めのない話をすることにした。

「8月3日から12日までの10日間だ。達也くんは九校戦を観たことがないのか?」

「ええ、まぁ」

「パンフレットがあるんだが、見るか?」

 摩利がそう言って渡したのは、色取り取りに印刷された薄い冊子だった。今や情報媒体と言えば電子機器が当たり前となった現代で、紙の印刷物というのはかなり珍しい。

 九校戦は“本戦”と“新人戦”に大きく別れ、それぞれ男女10人ずつ、つまり1つの高校で計40人が出場することになる。

 競技は、全部で6種類。

 モノリス・コード。敵味方各3名によるチーム戦で、様々なフィールドを舞台に戦う。敵陣のモノリスに隠されたコードを専用の機械で打ち込むか、相手選手全員を戦闘不能にすれば勝利。男子専用の競技であり、魔法による直接的な戦闘が見られるとして屈指の人気を誇る。

 ミラージ・バット。空中に浮かんだホログラムの球体を専用のステッキで打つことで得点が入り、最終的に得点が一番多い選手が勝利。女子専用の競技であり、華麗に宙を舞う女子選手の姿が人気の競技だが、試合時間の長さは6つの競技中1番であり、体への負担はフルマラソンにも匹敵する過酷な競技である。

 アイスピラーズ・ブレイク。自陣の奥にある櫓に相手と向かい合わせに立ち、自陣にある12本の氷柱を守りながら相手の氷柱をすべて破壊すれば勝利。完全に魔法のみによる戦いなので服装にほとんど決まりは無く、女子の場合は一種のファッションショーと化しているのも特徴だ。

 スピード・シューティング。いわゆる魔法を用いたクレー射撃であり、ランダムに撃ち出されるクレーをより多く撃ち落とした選手の勝利。最初は1人でフィールドに立つが、準決勝からは相手選手と一緒に立ち指定された色のクレーのみを狙う対戦形式に変わる。

 クラウド・ボール。壁や天井に囲まれたコートで行うテニスのような競技で、シューターから射出されたボールを魔法やラケットで打ち返し、相手コートの地面により多く打ちつけた方の勝利。しかしボールは1つではなく、徐々に追加されて最終的に9個まで増えるので、同時に複数のボールを処理する能力が試される。

 バトル・ボード。周回形式の水路にてサーフィンのようなボードに乗り、一番早く3周した選手の勝利。相手への直接的な妨害は禁止されているが、水面に対して魔法を放つのは許されている。

 各校から1つの競技にエントリーできるのは3人まで。各選手が出場できる競技は2つまで。なので男女各5人が2種目に出場し、残りの5人が1種目に専念する形となる。各競技では成績によってポイントがつき、最終的に総合獲得ポイントの多い学校が晴れて優勝となる。

「このルールで気掛かりなのは、1年の女子だな。2種目の掛け持ちは、想像以上にハードになるだろう」

 摩利のその言葉を聞いて、達也は深雪とエリのことを言っているのだとすぐに分かった。彼女達の成績からして、新人戦の中でもエース的な役割となることは必至だからである。よって、敵のエースがどこに出場するのかを読みながら自分のエースをぶつけることが重要となり、そのために選手とは別に作戦スタッフが4人まで決められている。ちなみに生徒会の市原鈴音は、作戦スタッフとして同行することが内定している。

 特に今年は、3年生である摩利達にとって特別な年でもある。なにせ、大会始まって以来の3連覇が掛かっているのだから。

 生徒会長・七草真由美、部活連会頭・十文字克人、風紀委員長・渡辺摩利。国際ライセンスA級相当の3人を筆頭とした第一高校現3年生は“最強世代”と評され、各校から徹底的にマークされているだろう。

「とはいえ、順調にいけば今年の優勝も確実だと言われていますよね?」

「順調にいけば、な。不安があるとすれば、技術スタッフだな」

「CADの調整要因ということですか?」

「ああ。九校戦で使用できるCADには規格が定められているが、それさえクリアしてしまえば中に入れるソフトは自由だ。つまり、いかにハードの制限内で選手に合ったCADを選びチューニングできるかが、勝負の分かれ目と言っても良いだろう」

「確かに、魔法式の展開速度はハードに依存しますが、構築する効率はソフト面で大きく左右されますからね。一瞬の差が勝敗に繋がる競技では、ソフトの調整はかなり重要でしょう」

「その通りだ。ソフトのエンジニア次第では、番狂わせが起こることも充分ありえるからな……」

 摩利が大きく溜息をついてそう言うと、すっかり黙り込んでしまった。

 なので達也も、資料作りへと意識を集中させる。

 

 

 *         *         *

 

 

「…………」

 厚志の家の居間は現在、とても緊張した空気が充満していた。この家の主である厚志だけでなく、エリやミルココやダッチ、リカルドやマッドといったいつもの面々が、固唾を呑んで事の遣り取りを見守っている。

 そして彼らの視線の先にいたのは、どこかに電話を掛けているモカだった。ちなみに厚志の家にある電話は、今時教科書くらいでしか見られない黒電話を採用していた。とはいえ、その中身は現代の技術が組み込まれており、コードレスになっているのだが。

「はい……、はい……、分かりました。いえ、ご尽力してくださり、ありがとうございます……」

 モカはそう言って静かに受話器を置くと、皆の方を振り返って、静かに首を横に振った。

「だああああ! やっぱり駄目だったかぁ!」

 その瞬間、あれだけ静かだった一同は途端に騒ぎ出し、全員が残念そうな表情を浮かべていた。

「迂闊だったね……。エリちゃんの実力なら代表入りは確実だったんだから、こうなることは見越しておくべきだったよ……」

「さすが大人気のイベントだなぁ……。まさかこの時期からホテルの予約がいっぱいとは……」

「おい、どうすんだ? さすがにこのままじゃ、九校戦を観に行けねーぞ?」

「ねぇ、みんな! みんなの気持ちだけで、私は充分嬉しいよ! だからさ――」

「いいや! せっかくのエリちゃんの晴れ舞台だもん! 絶対に観に行くよ! ――とは言ってもなぁ……」

「あたしだったら、亜空間を使えばたとえここからでも会場まで通えるんだけどなぁ……」

「……ねぇ、亜空間移動を習得するのとホテルを取るの、どっちが確実かなぁ……」

「ココア、早まらないで! まだチャンスはあると思うから!」

 みんながそうしてぎゃーぎゃーと騒いでいると、

「こんばんは、みんな。そろそろ練習に……って、みんなどうしたの?」

「随分と騒がしいな。何かあったか?」

 庭からやって来た深雪と達也が、皆の様子を見て不思議そうに首をかしげていた。

「2人共! “四葉”のコネを使って、今からでもホテルの予約を取れないかな!」

「……ホテル? ということは、みんなもしかして、九校戦の間のホテルを取ってないってこと?」

「気持ちは分かるが、そんなことのために“四葉”に借りを作らせないでくれ……」

 ミルクの頼みに、深雪は心配そうに眉を寄せ、達也は呆れたように溜息をついた。

「あ、深雪さんに達也さん! そろそろ時間?」

「ああ、師匠をあまり待たせるのも悪い。早いところ出よう」

「分かった! ミルココ、行くよ!」

「はいはーい。それじゃ厚志さん、行ってきます」

「ああ、行ってらっしゃい」

 司波兄妹とエリとミルココの背中を、厚志達は手を振って見送った。

 

 

 

「深雪、エリ、そろそろ休憩しよう」

 達也の言葉に、ライダースーツのようなぴっちりとした服を着た深雪とエリがトレーニングを中断した。2人共汗を掻いて息を切らしており、そんな2人に達也が飲み物を持ってきてあげている。

 現在3人がいるのは、八雲の住む寺。主である八雲もその場に同席し、九校戦に向けたトレーニングに協力している。そしてそんな4人を、ミルクとココアが寺の賽銭箱に座って眺めている。

「それにしても、いつ見ても不思議だよねぇ」

「ココア、何が?」

「いや、八雲さんの話。深雪みたいにCADを使ってるときはそんなに感じないけど、八雲さんの魔法って何だかいかにも“空想世界の魔法”って感じがしない?」

「あー、分かる気がする」

 2人が話しているのは、トレーニングの際に八雲が見せた“古代魔法”のことである。

 今回のトレーニングは九校戦のミラージ・バットを見越したものであり、空中に浮かぶホログラム球体を模したターゲットの生成を八雲が担当しているのだが、そのときの魔法が面白いものだった。

 幻術“鬼火”。八雲が得意とする古代魔法(CADを用いた現代魔法が確立される以前から使われていた魔法)であり、まるで怪談話に出てくるような火の玉を操るものだ。このような幻影魔法は八雲の得意とする“忍術”の真骨頂であり、すべてにおいて現代魔法以上の洗練度を誇る(技術化されてから数十年しか経っていない現代魔法と違い、忍術は軽く数百年は経っているのだから当然といえば当然)。現代魔法が高速で多様な魔法を発現可能になったとはいえ、限定された分野では古代魔法に遠く及ばないことも数多く存在する。

「師匠も、ありがとうございます。わざわざ練習にまで付き合ってくださって」

「いやいや、深雪くんも僕の大切な生徒だし、エリくんも縁浅からぬ関係だ。可愛い生徒には、協力を惜しまないよ」

 言葉だけならとても普通のことを言っているのだが、でれでれと表情を崩して深雪に詰め寄るその姿は、とても俗世から離れた僧侶とは思えない。ミルココ曰く「エリに詰め寄らないだけマシ」だそうだが。

「どうする、2人共。今日はもう切り上げるか?」

「先生がお許しになるのなら、もう1回練習したいのですが」

「私も。もうちょっと練習しておきたいかな?」

「僕は構わないよ。それじゃ、始めようか」

 八雲がそう言って、2人が練習を始めようとしたそのとき、

「ねぇ、みんな。1人“ギャラリー”がいるんだけど、そいつどうする?」

 ふいにミルクが発したその一言に、深雪とエリは首をかしげ、八雲はにやりと笑みを浮かべ、達也は険しい顔つきで茂みへと顔を向けた。

 そして茂みの奥から現れたのは、深雪達と同じようにライダースーツのような繋ぎを着た女性だった。2人よりも大人な体つきをしているせいか、胸や腰の辺りがいくらか強調されているように見える。

「あなたは……どなたですか?」

「もう! カウンセラーの小野遙よ! 忘れちゃったの!」

「すみません、本当に全然姿を見なかったもので、すっかり記憶から消していました」

「ひどいじゃない! そりゃ確かに、達也くんとはまったく話をしてなかったけども!」

 遙はまるで子供のようにぷりぷりと怒っていたが、その間も達也の視線は鋭かった。

「そんなに警戒しなくても良いよ、達也くん。彼女も僕の教え子だ」

「そうだったんですか。どうりで見事な隠形でした」

「まぁ、隠形に関しては私の“魔法特性”なんだけどね。弟子入りした時期からしたら、達也くんは私の兄弟子だし」

「魔法特性というと……、BS魔法師ですか?」

 BS(Born Specialized)魔法師――先天性特異能力者とは、魔法としての技術化が困難な超能力を持って生まれた魔法師のことである。代償として通常の魔法を使えなくなるが、その能力の高さは目を見張るものがあり、職務と能力が合致すれば相当な脅威となる。

「そのはずなんだけどなぁ……、八雲先生ならまだしも、達也くんやそこのチビっ子にまで見破られるとは思わなかったわ。もしかして、能力の腕が落ちてるのかしら?」

「心配することはない。彼らの“眼”が異常なだけだ」

「それにしても、先生はなぜこんな所にいたんですか? たまたま通り掛かるような場所ではありませんし、まさかこんな所でカウンセリングをするわけありませんよね?」

 達也の問い掛けに、遙はうんうんと唸って考え込んだ。

「できることなら本当は、私のミステリアス感を演出してからばらしたかったんだけど……。ばれちゃったから仕方ないわね、教えてあげる。――簡単に言うと、私は公安のスパイよ。本当は学校に潜り込んでいる反魔法組織について捜査していたんだけど、どっかの誰かがあっさり解決しちゃったからね。今は長期の出張ってことにして学校からは離れているわ」

「えっ? 先生、学校にはもういなかったんですか?」

「ちょっと! そこまで関心低かったの!」

 あんまりな扱いに遙はほとんど涙目になっていたが、後ろでエリが「保健室の先生とかって、お世話にならないと誰がやってるのかすら分からないよね」と呟くのを聞いてさらに落ち込んでしまった。

「ちなみに彼女はカウンセラーとして学校に潜入してはいたが、カウンセラーとしての肩書きは本物だ。というよりも、それの勉強をしているときに今の上司と出会ったんだったかな?」

 本格的に泣きそうになっている彼女の代わりに、苦笑いを浮かべた八雲が補足を加えた。

「それで、今回はなぜ俺達の所に来たんですか? 俺達を探るように依頼でもされましたか?」

「そうじゃないわよ。入学してから1ヶ月足らずであっさり事件を解決しちゃった生徒達がどんな人物なのか、個人的に興味があって来ただけよ」

 遙のその言葉に、達也はちらりとミルココへ視線を向けた。2人は揃って、小さく首を縦に振る。

「どうやら本当のようですね」

「……今のがどういう遣り取りなのかは、あえて詮索しないでおくことにするわ。ちなみに今までのは極秘事項だから、オフレコで頼むわね」

「分かりました。その代わり、もし4月のようなことがあったときは、早めに情報を教えてくれませんか? こちらとしても、情報を集める手間が省ける方が助かるので」

「良いわ。ギブアンドテイクでいきましょう」

 遙がそう言って右手を差し出すと、達也もそれに応えて握手を交わした。

 

 

「ねぇミルク、あの人もう一度出番が来ると思う?」

「うーん、どうだろう……? 何だかんだ言って、あっさりとスルーされそうな気がする」

「ちょっと、そこの2人! あまり不吉なことは言わないで!」

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