魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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第16話 『単純なトリックほど気づきにくく、複雑なトリックほど気づきやすい』

 第一高校の運動場では現在、1-Eによる体育の授業が行われていた。魔法の授業に関しては教師をつけてもらえない二科生だが、こういった魔法に関係無い授業のときには通常の教師をつけてもらえる。現在も男女に分かれて、それぞれ別のスポーツで争っていた。

 男子の種目は“レッグボール”と呼ばれるもので、大まかなルールはフットサルとほぼ同じだが、コートを透明な壁や天井で囲み、高反発のボールをそこにぶつけて反射させながらパス回しを行うという点で大きな違いがある。目まぐるしく攻守が入れ替わるダイナミックな試合展開が、多くのファンを生み出している人気のスポーツだ。

「おらおら、そこをどきやがれ!」

 怪我防止のために頭部にサポーターをつけたレオが、ディフェンスの間を縫うように強烈なパスを出した。ボールは誰にも止められることなく、待ち構えていた達也へと迫る。

 達也は一度そのボールを垂直に蹴り上げると、天井を跳ね返って戻ってきたボールを地面に踏みつけることで止めた。ボール自体が高反発なので下手に脚で止めようとすると明後日の方へ飛んでいってしまうため、ボールを止めるにはわざわざこうして手間を掛ける必要があるのだ。

 達也は一瞬で周りの状況を把握すると、壁に向かってボールを蹴り飛ばした。ボールが壁に反射して軌道を変え、突然のことで反応できなかったディフェンスの間を縫い、味方の中で唯一フリーとなっている男子生徒へと迫る。

 その少年は適度に引き締まった体をして、右目の辺りにほくろがあるのが特徴だ。彼は達也から貰ったボールを絶妙な足捌きで受け止めると、そのままゴールへとボールを叩き込んだ。キーパーが反応して動こうとするが、人間の速さでボールに敵うはずもない。

「おお! やるな、あいつ!」

 レオが感心したように声をあげ、達也は無言でそれに同意した。

 吉田幹比古。

 4月の履修登録のときに真っ先に教室を飛び出していった例の生徒であり、この間の期末試験では筆記試験の成績が達也・深雪・エリに次ぐ4位の成績だった生徒である。そして“精霊魔法”と呼ばれる古式魔法を受け継ぐ吉田家の直系なのだが、見た目ではそのような実力者であるとはなかなか分かりにくかった。

 ――爪を隠した鷹か……。思わぬ所に潜んでいたな。

 ゴールしたことによる喧騒の陰で、達也の目つきが自然と鋭くなっていた。

 

 

 

「お疲れ、吉田」

「ナイスプレーだったぜ、吉田。意外とやるじゃねーか」

 達也たちの試合が終わり、現在は別のグループが試合を行っている最中である。達也とレオは、集団から少し離れた所で腰を下ろす幹比古の姿を見つけ、労いの意味も込めて声を掛けた。

 しかし幹比古は、若干困ったような笑みを浮かべて、

「……ありがと。でも悪い、名字で呼ばれるのは好きじゃないんだ」

「分かった。それじゃ、これからは“幹比古”と呼ぶぜ。俺のことも“レオ”で良いからな」

「俺のことも“達也”と呼んでくれ」

「ああ、分かったよ、レオ、達也。――達也、君とは前から話をしてみたかったんだ」

「……奇遇だな、俺もだ」

 傍目には筆記試験で優秀な成績を修めた2人が互いを意識していると受け取れるが、本人達の思惑はそれとは少し別のところにあった。

「もちろん、レオとも話をしてみたかったさ。何せ“あの”エリカとまともに張り合っているんだからね」

「……何かそれは釈然としねぇな」

「幹比古は、エリカと知り合いだったのか?」

 達也の問いに、幹比古は口を開きかけて、

「いわゆる幼なじみってやつよ。最近は何か避けられてるみたいだけど」

 その質問に答えたのは、いつの間にか達也たちの近くにやって来ていたエリカだった。その声に、3人が彼女の方へ顔を向ける。

 と、レオと幹比古(特に幹比古)が驚きで目を丸くした。

「エ、エリカ! 何て格好をしてるんだ!」

 彼が声を荒げるのも無理はない。数十年前の大規模な寒冷化の名残で肌を露出したファッションをあまり好まない現代において、彼女は股下ぎりぎりまで裾をカットした運動着――いわゆるブルマーを着用していたからだ。武道によって引き締まった彼女の脚が惜しげもなく顕わになっており、思春期真っ只中の彼らにとっては目に毒だろう。

「エリカ、それはどうしたんだ?」

 3人の男子の中で唯一冷静なままの達也が尋ねると、

「ああ、動きやすいかなって思って履いてみたんだけど、あんまり効果は無い感じなんだよね。脚をほとんど露出してるから怪我しやすいし、失敗だったかも」

 エリカが口を尖らせて不満を漏らしていると、ふいにレオが思い出したようにぽんと手を叩いた。

「思い出したぞ! それって確か、モラル崩壊時代に、女子中高生が小遣い稼ぎで中年男性に自分のを売っていたっていう――」

「それはごく一部でしょうが、この馬鹿!」

 エリカはそう叫ぶと、レオの脚を思いっきり蹴飛ばした。痛みに悶えるレオと、思ったより硬かったのか同じように痛みに悶えるエリカの姿に、達也と幹比古、そしてエリカについて来た美月が呆れている。

「エリカちゃん……、やっぱり普通のスパッツに戻した方が良いよ」

「うん、そうだね……。ミキも変な目で見てるし……」

「そんな目で見ていない! それに“ミキ”って呼ぶな! 僕の名前は幹比古だ!」

「えぇっ? だってミキヒコって噛みそうなんだもん。だったら“ヒコ”にする?」

「なんでそうなる! 普通に呼べば良いじゃないか!」

「だってあんた、名字で呼ばれるの嫌いじゃん」

 エリカがそう言ったその瞬間、幹比古は目を見開いて黙り込むと、何も言わずにその場を離れていってしまった。

「あっ! 幹比古く――」

「2人共、そろそろ戻った方が良いんじゃないか? 先生が怖い目でこっちを見てるぞ」

「えっ、マジ! 美月、急いで戻ろ!」

「あ、待ってよエリカちゃん!」

 女子2人を先生の所へ送り出し、達也とレオの2人は幹比古の後を追った。

 彼はどこかへ消えた訳ではなく、すぐそこで俯き加減に突っ立っていた。その表情には、苛立ちやら後悔やらが混ざった複雑な感情が浮かんでいる。

「……悪いな、2人共。気を遣わせてしまって」

「まぁ、エリカは無神経だからな、イラッとすることもあんだろ。気にすんな」

 ――名門の次男が名字で呼ばれるのを嫌うということは、随分と深い理由がありそうだな……。

 あっけらかんとした態度で慰めようとするレオの後ろで、達也は幹比古をじっと見つめていた。

 

 

 *         *         *

 

 

 その日の昼。生徒会室。

 生徒会としての仕事がてら昼食を摂っていたのは、真由美に摩利に鈴音にあずさ、そして達也に深雪にエリといういつもの面々だった。しかしいつもなら率先して話題を振りまき雰囲気を良くしてくれる真由美が、今日はやけに深刻そうに溜息をついている。

「随分と悩んでいるようだな、真由美」

「ええ、九校戦のことでね。選手の方は十文字くんの協力もあって何とか決まったけど、問題はエンジニアの方なのよねぇ……」

「まだ決まっていないのか?」

 摩利が尋ねると、真由美は力無く頷いて、

「うちは魔法師の志望が多いから、どうしても魔法工学の人材が少なくて……。あーちゃんや五十里(いそり)くんがいるからまだマシだけど、それでも頭数が全然足りないわ……。私や十文字くんがカバーするとしても限度があるし……」

「おいおい、おまえ達は一高でも主力選手だろ? 他の選手にかまけて自分が疎かになったら元も子もないぞ?」

「本当よねー。せめて摩利が自分でCADの調整ができれば良いんだろうけど……」

「……いやぁ、本当に深刻だな、うむ」

 真由美の責めるような視線に、さすがの摩利も気まずそうに顔を逸らしていた。

 と、そのとき、ふいにエリが手を挙げた。

「だったら、達也さんにエンジニアをやってもらえば?」

「――――!」

 その言葉に、その場にいた全員が目を丸くした。そして次の瞬間、深雪は自分の兄が活躍する場面を想像して恍惚とした笑みに、真由美や摩利やあずさはその手があったとばかりに輝かんばかりの笑みに、鈴音はほとんど無表情のままだが口元に僅かに笑みを浮かべていた。

 そして当の本人である達也は、いかにも迷惑そうな表情でエリを睨んでいた。

「そういえば達也くんは、深雪さんやエリちゃんのCADも調整してるんですよね! 前に一度見せてもらいましたけど、一流メーカーにも劣らない仕上がりでしたよ!」

「そういえば、風紀委員にあったCADも達也くんが診てたんだったな! 自分では使ったことが無いから気づかなかったよ!」

「さすがよ、エリちゃん! 盲点だったわ! 採用!」

「ちょっと待ってください! 1年生のエンジニアは、前代未聞では?」

 無駄だと分かっていながらも、達也は反論せずにはいられなかった。

 そして、

「何事も、最初は初めてよ!」

「その通り! 前例は覆すためにあるんだ!」

 まるで予測してたかのような真由美と摩利の答えに、達也は思わず大きな溜息をついた。

「CADの調整はユーザー、つまり選手との信頼関係が必要不可欠です。全員が一科生である選手から反感を買うような人選は、いかがかと思うのですが」

「そんなの、風紀委員のときにすでに通った道だよ。それに全員が全員、達也さんを拒絶するとは思えないしね。少なくともここにいるみんなや、ほのかさん達なら達也さんを歓迎してくれると思うよ」

 そして次に達也に反論してきたのは、そもそも達也を推薦してきたエリだった。彼女の言うことももっともであり、達也はなかなか反論の糸口を見出せない。

 そしてついに、

「私はお兄様にCADを調整していただきたいのですが……、駄目でしょうか?」

 深雪からの“お願い”に、とうとう達也は折れた。

「……分かりました、謹んでお受け致します」

「はい、分かりました! 放課後に九校戦準備会議があるから、さぼらないで来てね?」

「…………」

 ウインクしながらそう言った真由美に、達也はもはや何も言えなかった。今更何を言ったところで、達也に退路は残されていないのだから。

 そうして食事を終えた一同は、それぞれの作業に取り掛かった。真由美・摩利・鈴音・深雪は生徒会の仕事を、あずさは授業の課題を進めており、深雪が終わるのを待っていた達也とエリは端的に言えば暇だった。

 達也は手持ちぶさたを解消するために、CADのメンテナンスをすることにした。上着の下に忍ばせている拳銃型のCADを取り出し、テーブルの上に置く。

 同じテーブルで課題をしていたあずさが、目敏くそれを見つけた。

「達也くん、今日はシルバー・ホーンを持ってきてるんですね!」

「ええ、ホルスターを新調しましたので、馴染ませようかと」

「ホルスター、見せてもらっても良いですか!」

 そのときのあずさは普段の小動物のようなおどおどとした雰囲気は微塵も無い、達也でさえ思わず尻込みしてしまうほど積極的だった。それに圧された彼はわざわざ上着を脱いで、体に装着していたホルスターを外して彼女へと渡す。

 ホルスターを目の前に持ってきた彼女は、きらきらと目を輝かせていた。

「わぁ……、シルバー・モデルの純正品だぁ……! 良いなぁ、このカット! 絶妙なカーブ! 高い技術力に溺れない、ユーザビリティへの配慮! 本当にF・L・T(フォア・リーブス・テクノロジー)って良い仕事をしますよね!」

 F・L・Tとはあずさの言葉からも分かる通り、シルバー・モデルの制作者であるトーラス・シルバーの所属するCADメーカーである。元々は完成品ではなく魔法工学部品で有名な会社だったのだが、シルバー・モデルの登場により完成品の生産にも手を伸ばし、今や業界随一の会社へと成長を遂げている。

 ちなみにあずさの言葉を聞いていたエリは、フォア・リーブスっていくら何でも安直すぎやしないだろうか、などとどうでもいいことを考えていた。

「達也くんも、やっぱりシルバー・モデルのファンなんですか! 単純な値段とスペックだけなら、マクシミリアンのシューティングモデルとかローゼンのFクラスとか、同じF・L・Tでもサジタリアス・シリーズに比べると割高感はありますけど、値段が気にならなくなるくらいの満足感がありますよね!」

 国内外を問わずにスラスラとメーカーやモデルの名前が出てくる辺りは、さすがデバイスオタクである。

「俺は熱心なファンというわけではないのですが、実はちょっとした伝手がありまして、モニターを兼ねて安く手に入れることができるんですよ」

 達也のその言葉に、パソコンで作業をしていた深雪の肩が僅かに跳ねた。

「そうなんですか! ということは、すべてのプロフィールが謎に包まれたトーラス・シルバーについて、何か知っていたりするんでしょうか!」

「いいえ、俺は何も」

 ピ――――――――――!

 達也があずさの質問に答えた瞬間、深雪のパソコンからビープ音が鳴った。不正操作を知らせるアラーム音であり、普段操作ミスなどしない彼女にしてはかなり珍しいことである。

「達也くんの伝手で、何とか聞き出すことってできませんか?」

「すみません、そういう類のものではないので……。それにしても、中条先輩はなぜそんなに正体が気になるんでしょうか?」

「そりゃ気になりますよ! ループ・キャスト・システムを世界で初めて実現し、僅か1年で特化型CADのソフトウェアを10年は進化させたと言われてる天才科学者ですよ! 魔工師を目指す者なら、憧れない人はいないと言われるほどの人物なんですから!」

「……そ、そうなんですか。認識不足でした。ユーザーとしては不満点がまったく無いというわけではなかったので……」

「ふむ……、確かに不満点を明らかにするためのモニターですもんね、一般のユーザーと視点が違っても不思議ではないですね」

 いまいち反応の低い達也だったが、あずさはそれがモニター故の視点によるものだろうと1人納得した。

「エリちゃんは、トーラス・シルバーの正体ってどんな人だと思う?」

 あずさが達也の隣に座るエリに尋ねると、彼女はうーんと腕を組んで、

「案外、達也さんみたいな人だったりして!」

 ピ――――――――――!

「深雪さん、今日は調子悪いみたいね」

「ああ、珍しいこともあるもんだ」

 再び鳴ったアラームに、真由美と摩利が不思議そうに深雪を眺めていた。

「ところであーちゃん、課題をやろうとしてたんじゃなかったの?」

「え? ――ああっ! どうしましょう! もう時間が!」

「ああもう、私達が手伝ってやるから、そんな泣きそうな声を出すな。それで、どんな課題なんだ?」

「えっと……、“加重系魔法の三大難問”についてのレポートです。その中の“汎用的飛行魔法”がなぜ実現不可能なのかがどうしても納得できなくて……」

 そのレポートの内容に、真由美と摩利は首をかしげた。その手の問題は魔法科高校での3年間で必ず一度は出されるようなポピュラーなものであり、少し高度な参考書ならば回答例くらいは載っているからである。

「つまり中条さんは、参考書などの答えに納得ができないということでしょうか?」

 鈴音の言葉に、あずさはこくりと頷いた。

「加速・加重系統を得意とする魔法師なら、1回の魔法で数十メートルもジャンプすることが可能です。一時的ではありますが、その場に浮遊する魔法も確立されています。それなのになぜ、空を自由に飛び回れる飛行魔法は実現できていないんでしょうか?」

 正確には、誰にでも扱える定式化された飛行魔法が、である。

 一度魔法が作用した物体の状態を変化させようとすると、作用中の魔法よりも強い事象干渉力が必要となる。魔法による飛行中に速度や方向を変えるにはその都度魔法を重ねがけしなければならず、1人の魔法師ではせいぜい10段階が限度である。

 ならば重ねがけではなく、魔法そのものをキャンセルすれば良いという発想になる。しかし作用を止めても魔法そのものが消えたわけではなく、より強い干渉力を持った魔法式で上書きしているにすぎないのである。

「でも魔法の効力を打ち消す程度のことなら、すでに誰かが試しているはずじゃない?」

 真由美のその一言で鈴音がネットを漁ってみると、一昨年にイギリスで行われた大規模な実験がヒットした。

 しかし、結果は失敗。要求される干渉力が、普通に連鎖発動するよりも急激に高くなってしまったらしい。つまり逆効果に終わってしまったということだ。

「達也くんは、この実験の結果をどう思う?」

 真由美が達也に話を振ると、

「その実験は、基本的な考え方が間違っています」

「間違い? どこが?」

「終了条件が充足されていない魔法は消滅せず、対象のエイドス(物体に付随する情報体)に留まったままです。1回の飛行状態変化のために、キャンセル分の魔法式が余分に上書きされていることになります。余分な上書きが累積されていることになるので、事象干渉力の限界点に到達するのも早くなります。実験の企画者は、魔法の無力化について錯覚していたんですね」

 つらつらと言葉が出てくる達也に、真由美達は感心したように呆然としていた。

 しかし本人はそんなことも気にせずに、部屋にある時計へと目を遣ると、

「そろそろ昼休みも終わりですね。――深雪、エリ、行こうか」

「はい、お兄様」

「はいはーい」

 達也の声に応えて、深雪とエリが同時に立ち上がった。他のメンバーも午後からの授業に出るべく準備をする中、3人はいち早く部屋を出ていった。

 その道中、エリはふいに口を開いた。

「空を飛ぶのって、そんなに難しいものだったんだね。知らなかったよ」

 エリの言葉に、達也はふっと笑みを零した。

 

 

 *         *         *

 

 

「うわあああああ! こっちに来んなああああ!」

「はははは! ただの“職務質問”じゃないか! どうしてそんなに逃げようとするんだね!」

 必死の形相で逃げる魔族を追い掛けているのは、例の魔法少女のコスチュームに身を纏った厚志である。ぎゃーぎゃーと騒ぎながら逃げる2人はとても目立つ光景であり、もし厚志が人の目についたらとても面倒臭いことになること請け合いである。主に“通報”的な意味で。

 しかし2人が、万が一にも人目につくことはないだろう。

 なぜなら彼らがいるのは上空数百メートルの空であり、さらに眼下は見渡す限り海であり地平線はどこにも見当たらないからである。そんな海のど真ん中で、2人は持ち前の魔法力を駆使して、空をぶち抜くようにまっすぐ空中を飛んでいるのである。

「くそうっ! どこまで追い掛けてきやがるんだ! こうなったら――」

 魔族はそう言うと、背中に生えた翼をさらに大きく広げ、そのスピードをさらに上げた。もはや人間の目では追うことのできない域に達しており、ここまで速いスピードで空を飛べるのは魔族といえどもなかなかいないだろう。

「おおっ! なかなかガッツがあるね! よし、私も“少し”本気を出そう!」

 厚志はそう言うと、さらに飛行するスピードを上げた。音速の壁を突破したのか、彼の体からソニックウェーブが飛び出した。その姿は、さながらミサイルか戦闘機のようである。

「ああもうっ! どこまで追ってくるんだよ!」

「ははは! どこまでもさ!」

 必死になっている魔族には悪いが、もしこの光景を目にすることのできる人物がいたとして、どれだけ音速を超えた速さで飛び回っていようとも、その人物には彼らが鬼ごっこをして遊んでいるようにしか見えないだろう。

 厚志の表情が、どこまでも楽しんでいるものでしかないのだから。

「ははは! こりゃ日本の経済水域は確実に越えたな! よし、帰りにみんなのためにお土産を買っていこう!」

「もうやめてくれえええええ!」

 魔族の叫び声は、すぐ後ろにいる厚志以外に届くことはなかった。

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