魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

18 / 105
第17話 『人は“期待”によって動く』

 九校戦の準備会議は、部活連の本部にて行われる。企業の会議室のような場所に口の字にテーブルが組まれ、そこに今回参加する選手やエンジニア、さらには作戦スタッフが集まっている。

 深雪やエリはこの会議に何度も参加しているが、達也は昼間に出場が決まったばかりなので今回が初めてだ。

 なので達也がその部屋に入ったとき、中にいた生徒達はそれぞれ違った反応を見せた。

 当然ながらそこにいる生徒は全員一科生であり、九校戦に選ばれた代表しか入れないこの部屋に二科生である達也が入ってきたことで状況を察したのか、そのほとんどが険しい表情を見せた。しかし4月のときと違うのは、達也が風紀委員に入ったことでその実力が知られるようになったのか、一科生の中にも彼に対して好意的な目を向ける生徒が増えてきたことである。

 それともう1つ、4月とは違うことを挙げるとすれば、顔見知りが増えたことだろう。

「お、達也。――ここに来たということは、おまえも九校戦に選ばれたってことだな」

「どうも、桐原先輩。まぁ、そんなところです」

 初対面では取り締まる側と取り締まられる側だった達也と桐原だが、ブランシュとの事件で共同戦線を結んでからは、割と良好な交友を築いていた。レオ達クラスメイトほど頻繁ではないが、桐原や紗耶香とも話をする機会が増え、もはや“友人”と呼んで差し支えないほどにまでなっている。

「それで、達也は何の競技に出るんだ?」

「いえ、俺は選手ではありません。エンジニアとして呼ばれました」

「ああ、成程な。確かに九校戦は魔法を重視した競技で争うからな、さすがの達也も一科生の奴らを押し退けて出場することはできなかったか」

「俺としては、エンジニアとして出るのもどうかと思いますが」

「ははっ、違いない」

 こうして2人で話している光景は、一科生と二科生との確執など微塵も感じさせなかった。それを遠くから見ていた真由美は、胸から湧き上がる感慨深い想いに自然と笑みを零していた。

 しかしどこの世界にも、空気の読めない奴というのは存在する。

「おい、司波達也! なんでおまえが、こんな所にいるんだ! ここは九校戦に選ばれた生徒しか入ることを許されていないんだぞ!」

 会話を邪魔された達也と桐原は、不機嫌な表情を隠すことなくそちらへと目を向けた。

 そこにいたのは、森崎だった。

「……森崎、おまえ全然変わってないな。風紀委員のときにも、同じようなことを言わなかったか?」

「うるさい! どうしておまえがここにいる、と訊いている!」

「うるせーぞ、森崎。ここにいるってことは、代表に選ばれたってことだろ」

「し、しかし桐原先輩! 奴は二科生で――」

「やっほー、森崎さーん!」

 唾を飛ばして捲し立てていた森崎だが、エリが彼の肩を叩いて呼び掛けただけで、森崎は体を強張らせて口を閉ざしてしまった。

「あれ? 森崎さん、挨拶したのが聞こえなかったのかな? 返事してくれないと寂しいよ」

「そうだぜ、森崎。挨拶してくれたんだ、きちんと返してやったらどうだ?」

 エリの言葉に、桐原がにやにやしながらそう言った。先輩である彼にそう言われたら森崎も無視するわけにもいかず、表情を引きつらせながらゆっくりと彼女へ顔を向ける。

「や、やあ、美咲さん……」

 ――あいつ、最初の頃は“エリちゃん”と呼んでいなかったか……?

 達也はふとそんなことを思ったが、どうでもいいことなのでスルーした。

「ねぇ、森崎さん。まだ“二科生だから”とかそんなこと言ってたの? この間のテストの結果はもう知ってるよね? 一科生最下位と二科生最上位の点数、とうとう逆転しちゃったよ?」

「そ、それは……、今回はたまたまそうなっただけであって……」

「だから森崎さん、たまたまとかその程度でひっくり返されるような差じゃ意味が無いんだって。森崎さんが思ってるよりも、一科生と二科生の壁は高くないの。森崎さんだって、もう分かっているでしょ?」

「……だが、今回は話が別だ。九校戦は普段のテストとは違う、学校の看板を背負って戦うものだ。だからこそ、成績上位である一科生の中から選ばれるのが筋であって――」

「重要なのは“成績上位”であって“一科生”じゃないでしょ。達也さんはこの間のテストで筆記試験1位だよ? しかも2位の深雪さんを平均点で10点以上も引き離して。だからこそ達也さんはエンジニアとして選ばれたの。何か問題がある?」

「……テ、テストの結果と実戦では話が違う、と――」

「だとしたら、テストの結果だけで分けられてる“一科生”と“二科生”に意味なんて無いってことになるね? でもまぁ、確かに森崎さんの言う通りだと思うよ? だって森崎さん、4月のときに二科生のエリカさんにCADを弾き飛ばされて――」

「エリ、その辺にしておけ。さすがに森崎が可哀想だ」

 どんどん視線をテーブルへと落として縮こまっていく森崎に、達也がエリの肩を掴んで引き留めに入った。彼女は素直に「はーい」と返事をして、そそくさと自分の席に戻っていった。

 しかしながら、達也のエンジニアとしての腕を疑問視する者は他にもいるようで、他の一科生は主にその点から達也の代表入りに反対していた。

 それを聞いていたこの会議の議長であり部活連の会頭である克人は、

「つまり司波のエンジニアとしての腕が分からないから、皆がそこまで反対しているのだろう? だったら実際に調整をやらせてみたら良い。何なら俺が実験台になるが」

「か、会頭が実験台だなんて危険です! CADに対して魔法師は無防備なんですよ! もし調整に失敗したら、ダメージは魔法師が被るんですよ!」

「彼を推薦したのは私です! 実験台だったら私に――」

 真由美が名乗りをあげようとしたそのとき、1人の生徒がふいに立ち上がったことで、その場にいた全員の意識がその生徒へと向いた。

「その実験台、俺にやらせてもらえますか」

「き、桐原!」

 自ら進んでの立候補に、他の一科生がどよめいた。

「大丈夫なのか、桐原! あいつは二科生だぞ!」

「二科生だから何だっていうんだ? 会長が気紛れで二科生を推薦したわけがないだろ? それに、俺はこいつを信用している」

 桐原の言葉に、達也の口に自然と笑みが浮かんだ。

 

 

 

「会長、準備が整いました」

 実際に本番で使用する車載型の調整機を部屋の中央に設置し、片方に達也が、向かい側に桐原が座った。とはいえ、中央にはモニターが取りつけられているので、互いの顔は見えないようになっている。

「それでは今から、課題に取り組んでもらいます。その調整機を使って桐原くんのCADを競技用のものにコピーし、即時使用可能な状態にしてください」

 真由美の言葉に、達也は首を縦に――振らなかった。

「スペックの違うCADにコピーするというのは、あまりお勧めできませんね……」

「えっ?」

 達也の言葉に、真由美だけでなく他の生徒も疑問の表情を浮かべた。それくらいのことは、どの学生でも普通にやっていることだからである。しかし彼の言葉を聞いた他のエンジニアは、にたりと意味ありげな笑みを浮かべて彼を見つめていた。

「仕方ありません、安全第一でいきましょう。――桐原先輩、CADを」

「おう、頼むぜ」

 その言葉が“自分のCAD”に対するものなのか、あるいは“自分の期待”に対するものなのかは分からなかったが、どちらにしろ達也のやる気に変わりはない。

「では、始めます」

 その言葉を合図に、作業を開始した。桐原のCADからデータを抜き出した達也だったが、普通なら競技用CADにコピーするところを調整機にそのまま保存した。

 次に桐原のサイオンを測定する。通常の調整なら自動設定に従えば済む話だが、これはエンジニアとしての腕を見るためのものであるため、マニュアル操作でいかに精密な調整を行うかが問われている。

 しかし測定を終了した辺りで、達也の手がぴたりと止まった。まさか行程を間違えたのか、とあずさが好奇心を抑えきれずに彼の後ろから画面を覗き込んだ。

「え――」

 彼女は、絶句した。

 その画面には本来映し出されるべきグラフなどはどこにも無く、数字の羅列しか映し出されていない。しかもその数字が流れていくスピードはとても速く、とてもあずさの目で追いきれるようなものではなかった。

 ――まさか達也くん、“原データ”から反映させていくつもり……?

 あずさが驚愕しているそのとき、突然達也の手が動き出した。本人曰く「慣れれば一番早い」というキーボードオンリーの入力で、自動設定されていたデータを恐ろしい早さで書き換えていく。

「終わりました」

 達也のその言葉が、作業が終わったことを知らせる合図となった。すぐさまCADが桐原に返され、テストが行われる。起動式が展開され、彼の代名詞である高周波ブレードが形成されていく。

「どうだ、桐原?」

「問題ありません。“まったく”違和感が無いですね」

 桐原の言葉に、部屋中からどよめきの声があがる。

 しかし、すぐさま反論があがった。

「一応の技術はあるようですが、当校の代表レベルとは言えないのでは? 仕上がりまでの時間も平凡ですし」

「そ、そんなことはありません! 私は司波くんの代表入りを強く希望します!」

 興奮したように声を荒げたのは、あずさだった。普段滅多に見ることのない彼女のそんな姿に、部屋中から別の意味でのどよめきの声があがる。

「司波くんは桐原くんのサイオン波を原データから読み取り、それを最大限反映させるためにすべての行程をマニュアル操作で調整していました! これは高校生のレベルを超えた技術です!」

「しかし仕上がりが平凡ならば、意味が無いのでは?」

「中身は違います! 先程『仕上がりの時間が平凡』と言ってましたが、あれだけ安全マージンを取りながら通常と同様の時間で終わらせたことが凄いんです!」

「でもその分を効率アップに向けた方が良いのでは?」

「そ、それは……、司波くんもいきなりのことだったから……」

 最初は勢いの良かったあずさだったが、元来の性格が災いして徐々に勢いが弱まっていった。

 しかしそんな彼女に助け船を出したのは、意外な人物だった。

「私も、司波達也の代表入りに賛成です」

「は、服部くん……!」

 その人物とは、4月に達也が風紀委員に入ることを誰よりも反対していた、生徒会副会長の服部だった。

「桐原のCADは競技用よりもハイスペックでした。しかしそれにも拘わらず、使用者に違和感を感じさせなかった。この事実が、司波達也のエンジニアとしての実力を裏付けていると考えます。我が校は人選にも悩むほどのエンジニア不足ですし、1年だの二科生だのに拘ることなく能力的にベストなメンバーで臨むべきかと」

 服部の言葉に、今まで反論していた生徒達の口が閉じた。

 そこに、追い討ちが掛けられる。

「俺も、服部の意見と同様だ。司波は我が校の代表になるに相応しい技量を見せた。俺も、司波の代表入りを支持する」

 しっかりと技術も見せつけられ、会頭である克人の言葉もあるのだ、これを押し退けてまで反論できる生徒などいるはずもない。

 こうして、達也の代表入りが決定した。

 

 

 *         *         *

 

 

「そうか! 達也くんも九校戦の代表に選ばれたんだね、おめでとう!」

「ありがとうございます、厚志さん」

 その日の夜、厚志宅にて司波兄妹はエリ達と食事を摂っていた。家が隣同士のため、よくこうして一緒に夕食を摂っているのである。

 ちなみに司波家での食事を担当する深雪も、厚志家での食事を担当するモカも、HAR(ホーム・オートメーション・ロボット)が普及している現代において、自分の手で料理を作ることに拘っている。特にモカは調理師免許を持つほどの凝りようで、自分の手で作ったものを自分の好きな人に食べてもらう喜びというのはいつの時代も変わらないのだろう。

「まぁ、達也の腕だったら優勝間違いなしでしょ。むしろ、どれだけ本気を“出さないで”いられるかが問題じゃない?」

「ミルク、あまりハードルを上げないでくれ。俺にだって、できることとできないことくらいはあるさ」

「あらあら、こんなことを言ってますよ深雪さん。どう思いますか?」

「お兄様にできないことなどありません! そんなお兄様が調整してくださったCADで九校戦に出られるなんて、私はなんて幸せ者なんでしょう!」

「はははっ! 深雪ちゃんのお兄様ラブも相変わらずだな!」

「いやいや、兄者……。“お兄様ラブ”って……」

「深雪、そう言ってくれるのは嬉しいが、俺にとってはむしろ深雪のおかげで優勝のおこぼれを頂戴できることを期待しているんだがな」

「お兄様……!」

「おおう……、達也の妹ラブも相変わらずだよ……」

 普段はあまり積極的に喋る方ではない達也も、この食事の席では自然と口数が多くなる。このように賑やかな食事風景は毎度のことで、達也も深雪もこの空間をとても好ましく思っていた。

 と、そのとき、居間にある黒電話が鳴った。モカが小走りで駆け寄ってそれを取る。

「もしもし、高田です。――風間さん?」

 その瞬間、あれだけ騒がしかった部屋が一瞬で静かになった。皆が真剣な表情で達也へと顔を向け、達也はやれやれといった感じに立ち上がるとモカから受話器を受け取る。

『やあ、リアルタイムで話をするのは2ヶ月ぶりかな? ――特尉』

「……その呼び方をするということは、秘匿回線ですか? ――風間少佐」

 陸軍101(イチマルイチ)旅団・独立魔装大隊隊長である風間玄信(はるのぶ)の声に、達也の声も自然と低くなる。

『最初は特尉の家に電話をしたんだがね、留守だったようなのでこちらに電話をさせてもらったよ。カウンターでクラッキングされかけてまで電話をしたというのに、まったくついていないよ』

「サーバーの深くまでアクセスしようとしなければ、そんなことにはならないはずなんですがね」

『ははは、うちの若い奴にも良い薬になっただろう』

「ちなみに、自分の家ほどではありませんがこの電話にも仕掛けを施してあるので、あまり長くは話せませんよ」

『分かった。それじゃ、さっそく本題に入らせてもらおう。本日“サード・アイ”のオーバーホールを行い、部品を幾つか新型に更新した。それに合わせて、ソフトウェアのアップデートと性能テストを行ってほしい』

「分かりました。明朝出頭します」

『別に差し迫った用事でもないのだが?』

「今度の休みには“研究所”に行く予定ですので」

『……私がこう言うのも何だが、高校に入ってますます“学生らしくない”生活のようだな。――それでは、明朝にいつもの場所へ。本官は立ち会えないが、真田に話を通してある』

「了解しました」

 用件が終わったと思い、達也がてきとうに電話を切ろうと思ったそのとき、

『聞くところによると、今夏の九校戦には特尉も参加するそうだな』

 ――代表入りが決まってまだ数時間しか経っていないんだが……、いったいどこから……?

「ええまぁ、成り行きで」

『そうか。――気をつけろよ、“達也”」

 自分に対する呼び方が変わったことに、達也の目が僅かに細められた。それは上官ではなく旧知の者としての警告を意味し、それは軍の情報を一介の高校生に与えることを意味している。

『九校戦会場である富士演習エリアに、不審な動きがある。不正な侵入者の痕跡も発見された。他にも、国際犯罪シンジケートの構成員らしき東アジア人の目撃情報もある。時期的に見ても、奴らの狙いは九校戦で間違いないだろう』

 九校戦ともなれば、将来有望な魔法師が一堂に会することになるだろう。もしそこでテロ事件でも起きれば、人材的な被害は相当なものになるに違いない。

『壬生の報告によると、香港の犯罪シンジケートである“無頭竜”(NO HEAD DRAGON)の下部構成員ではないかということだ』

 その名字は、達也も非常によく知っている。4月の焼肉パーティーのときに電話口に会話をした壬生勇三のことだろう。聞くところによると、彼は軍を退役した後に内閣府情報管理局(内情)に転籍し、現在は外事課長として国際犯罪組織を担当しているという。

『目的はまだ不明だが、情報が入り次第連絡しよう。――富士では会えるかもしれん、楽しみにしているよ。九重師匠にもよろしくと伝えてくれ。それでは』

 風間のその言葉を最後に、電話が切られた。最後がやけに慌ただしかったのは、ネットワーク警察に回線割り込みの尻尾を掴まれたからかもしれない。

「何だか物騒なことになってるみたいだね」

 厚志のその言葉は、先程の会話の内容を盗み聞きしていたことを意味している。しかし達也はそれを気にする様子も無く小さく頷いた。

「それにしても、九校戦かぁ! 私達も観に行きたいなぁ! ホテルの予約さえ取れたらなぁ!」

 ミルクは大声でそう言うと、床にごろんと寝転がった。

「あ、今思ったんだけど、風間さんに頼んで会場内の宿泊施設に泊まらせてもらえば良かったんじゃない?」

 エリのその一言に、司波兄妹以外の全員が彼女へと顔を向けた。その表情は、今になってそれに思い至ったことを示すように目が見開かれている。

「よし、達也! 今から風間さんに掛け直して、私達を泊めてもらえるように交渉して!」

「何を言ってるんだ、ココア。いくら何でも、そんな用件で掛けられるわけないだろ」

「ええっ! 達也はいつもあいつらに“協力”してあげてんでしょ? これくらいの融通は利かせてもらってもバチは当たらないよ! 使えるコネは使わなきゃ損だよ?」

「いや、コネって――」

 ジリリリリリ――

 ミルココと達也が言い争っていると、再び黒電話が鳴り出した。モカが小走りで駆け寄ってそれを取る。

「はい、高田です。――シャルエル様!」

 その瞬間、あれだけ騒がしかった部屋が一瞬で静かになった。皆が真剣な表情で厚志へと顔を向け、厚志はやれやれといった感じに立ち上がるとモカから受話器を受け取る。

「もしもし、シャルエルさん?」

『あら、その声は厚志ちゃん? お久しぶりー!』

 その声は魔界を統べる4人の魔王が1人、“南の魔王”シャルエルなのだが、まるでそれを感じさせない無邪気な声に部屋に充満していた緊張感が一瞬で霧散した気がした。

「それで、今日はどうしたんだい?」

『そうそう! 今度エリちゃんと深雪ちゃんが九校戦に出るんでしょ? それに達也ちゃんもエンジニアとして参加するみたいだし! せっかくだから、私も初めての生・九校戦を楽しんじゃおうかなって思って!』

 ――風間さんもシャルエルさんも、本当にどこから情報を仕入れてくるのやら……。

 厚志は思わず苦笑いしそうになったが、まだ話している途中なのを思い出してそれを止めた。

「周辺のホテルはどこも満室だよ? シャルエルさんは、ちゃんとホテルは予約できたのかい?」

『あら? これでも私、一応“魔王”よ? 大会の運営さんにお願いすれば、多少の無茶は聞いてくれる立場なんだから!』

 シャルエルのその言葉は、まるで小さな子がおもちゃを自慢するような無邪気さが感じられた。妙齢の女性とは思えないほどの無邪気さが、シャルエルの魅力の1つと言っても良いだろう。

「ははは、それは何とも羨ましい」

『むむむ? その口振りはもしかして、厚志ちゃん達はホテルの予約が取れなかったのかな?』

「ええ、まぁ……。まさかここまで人気のイベントだとは思わなかったよ、完全に油断してた……」

『ふっふっふー。それじゃ厚志ちゃん、私の部屋に泊まる?』

「シャルエルさんの? いやいや、さすがにこの大人数を泊めるのは――」

『それがさー、他のみんなと一緒に観に行こうと思ってせっかく大きい部屋を押さえてもらったのに、みーんな断られちゃったの。みんな忙しいんだって』

 シャルエルさんは忙しくないのかい? と厚志は思ったが、口には出さないことにした。

「その部屋って、何人くらい泊まれるの?」

『うーん……、10人以上は確実よ? 奮発してもらったもの!」

 それを聞いた厚志は、ゆっくりとした動きで後ろを振り返った。

 期待で目をきらきら輝かせているミルココ達と、ばっちり目が合った。皆が一斉に、ぶんぶんと勢いよく首を縦に振っている。

「……それじゃ、頼めるかい?」

『まっかせなさーい! 向こうには私から伝えておくわね! ――え、ちょっと、分かってるわよエミリオ! それじゃ、当日は一緒に楽しみましょう! またね!』

 シャルエルのその言葉を最後に、電話が切られた。最後がやけに慌ただしかったのは、エミリオに怒られたからかもしれない。

 厚志がVサインをすると、皆が一斉に喜びを爆発させた。一度は諦めかけていた九校戦、ひいてはエリ達の応援に行けることになったのがよほど嬉しいのだろう。

 達也自身は九校戦に対してそれほど思い入れは無かったのだが、ここまで喜んでくれるのならば少しは頑張っても良いかもしれない、と心の中で秘かに思った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。