魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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横浜騒乱編
第47話 『何かを諦めようとしている人間は、常に諦める“きっかけ”を探している』


 24時間体制を実現するための自動化が推し進められた港湾諸施設は、現代ではほぼ無人で運営されている。通関は日中にまとめて行われ、夜間は船舶の入港・荷揚げや積み込み・出港の作業が全自動化され、監視のための人員が僅かに配置されているのみである。

 よって人手を減らした分、密入国者対策として保税区域と市街地の遮断がより厳重に行われるようになり、保税区域での船舶乗組員の上陸が禁止されている。逆に港湾施設が自動化する深夜は、保税区域以外の接岸が禁止されている。

『5号物揚場に接岸した小型貨物船より、不法入国者が上陸しました。総員、5号物揚場へ急行してください』

 10月のある日、場所は横浜山下埠頭。

 そろそろ日付も変わろうとしていた頃、私服刑事である千葉寿和警部は部下の稲垣警部補を引き連れて、短距離無線の声に従ってフェンスやコンテナなどの障害物を跳び越えながら目的地へと走っていた。

「やれやれ、やはりあそこか」

「ぼやいてる場合じゃないですよ、警部! きりきり走る!」

「……稲垣くん、君は僕の部下だよね?」

「歳は自分の方が上です」

「……やれやれ」

 千葉は会話の通り呑気な表情で、稲垣は真面目一辺倒といった真剣な表情で、普通ならばどんなに全力疾走しても2分は掛かる道のりを30秒で駆け抜けた。常人には到底出せないスピードで走る2人は、もちろん常人ではなく魔法師だった。

「しかしまぁ、やはり人員不足だなぁ」

「仕方ないでしょう。魔法犯に対処できるのは魔法師の刑事だけなんですから」

「本当はそんなことないんだよ? 最近ようやく多くなってきたけど、例えば“あの道場”に稽古をつけてもらってる奴らな――、ら!」

 不自然に会話を区切って気合いを入れた千葉は、魔法によって実現した驚異的な跳躍力で密入国者の人垣を軽々と跳び越えた。密入国者達は即座に3点バーストでサブマシンガンを乱射させるが、千葉の体は空中でぐにゃぐにゃと軌道を変えて銃弾を擦り抜けていく。そして着地と同時に彼らに肉迫、いつの間にか持っていた全長1メートルほどで反りの少ない木刀でたちまちの内に3人を打ち据えた。

 そして稲垣も挟撃の形で彼らに応戦、マシンガンの射手を拳銃で打ち倒していく。10人ほどはいた密入国者のグループはあっという間に制圧された。他の場所でも同じような小競り合いが起きているが、わざわざ助太刀する必要は無さそうだ。

 それよりも今は、

「稲垣くん、あの船を止めてくれ。多分あれが本命だ」

「……良いんですか? 自分だと、沈めますよ?」

「心配するな。責任は課長が取る」

「……せめて『自分が取る』と言ってくれると、締まるんですけどねぇ……」

 文句を言いつつも稲垣は拳銃を沖合いの船に照準を合わせ、引き金を引いた。グリップに仕込まれたCADによって発砲と同時に起動式を展開、移動と加重の複合魔法が銃弾の軌道を固定して貫通力を増大させる。そして銃弾は船尾を貫通、船の形状から予測しただけだというのに見事にスクリューのギアボックスを撃ち抜き、船の勢いは目に見えて弱くなっていく。

「お見事」

 言葉少なく部下を褒めながら、千葉も手に持っていた木刀の留め金を外し、冷たく光る白刃を外気に晒した。木刀に見えていたそれは、真剣を内に隠す仕込み杖だった。

 その瞬間、千葉の体は海の上にあった。惰性で漂い始めた船に一直線に向かい、着艇と同時に刀を振り下ろして鉄製の船室扉を真っ二つに切り裂いた。百家・千葉一門の秘剣“斬鉄”によるものであり、単一概念として定義された刀は単分子結晶のように折れることも曲がることも欠けることもなく、あらゆる物体を切り裂いていく。

 返す刀で進入路を確保した千葉は、単身船の中に乗り込んだ。

 

 

 

「お疲れ様です、警部」

「骨折り損だったけどね」

 白み始めた空を見上げながら、千葉は部下の労いの言葉に他人事のように答えた。稲垣が今にも吹き出しそうに笑いを堪えているのは、とりあえず今は黙っておいてやろう。

 千葉の言う通り、彼が侵入したときはすでにもぬけの殻だった。船底のハッチに穴を空けて脱出したようで、千葉が風通しをよくしたおかげもあって船はすぐに沈没していった。

「賊の行方は、まだ分かっていないようです」

「……そんなもん、分かりきってるじゃないか」

 千葉はそう呟くと、朝日を背に西へと視線を向けた。

 

 

 

 千葉が視線を向けた先、埠頭からほど近い場所にある全国的に有名な繁華街の中、とある飲食店の裏側に人が入れそうなほどに大きな井戸があった。そしてその井戸の傍らには、こんな朝早くからスリーピースで身なりを整える青年が立っている。二十代半ばほどに見えるその青年は、いかにも貴公子然とした見目麗しい外見をしていた。

 と、そのとき、彼が見つめていた井戸の蓋が突然外れ、中からずぶ濡れになった男達が次々と姿を現した。最終的に16人となったところで、一番最後に出てきた中年の男が青年の前に立って挙手敬礼をした。青年もそれに応え、右手を左胸に当てて腰を折ることで返す。

「まずは皆様、着替えてお寛ぎを。朝食を用意させております」

(チュウ)先生、ご協力を感謝します」

 男のまったく感謝しているように聞こえないぞんざいな礼に気分を害した様子も無く、青年は16人の男達を先導して建物の中へと入っていった。

 

 

 *         *         *

 

 

「失礼します」

 達也が魔法幾何学準備室に入ったときに真っ先に目に入ったのは、正面の席に座る廿楽計夫(つづらかずお)だった。若干二十代で魔法大学の助教授に王手を掛けていた英才だが、あまりに自由すぎる発想と言動のために“教育者としての経験を積む”という名目で魔法科高校に飛ばされた変わり者である。

「よく来ましたね、司波くん。まぁ、座りなさい」

 変わり者だからか、この教師は第一高校の中では珍しく一科生と二科生とで態度を変えるようなことはしない。優秀な人材ならば一科二科を問わず、そして本人の都合も問わず関わってくる。そんな人物に呼ばれた達也も最初は警戒心を顕わにしていたが、同じ部屋の応接セットに鈴音と五十里、そして平河の姿を見つけてその表情を疑問に染めた。

「今月末に、魔法協会主催で論文コンペが行われるのは知ってますね?」

「はい、詳しくはありませんが」

「確かに九校戦と違って地味ですからね、1年生の君が知らなくても仕方がないでしょう。九校戦が52人の大選手団を編成するのに対して、こちらはたったの3人ですからね」

 その違いに達也も一瞬驚いたが、確かに論文を作成してプレゼンするだけの作業に大人数は必要無い。人を増やしたところで“船頭多くして~”となるのが関の山だ。

「では本題です。司波くん、第一高校代表チームの一員として、論文コンペに参加してもらえませんか?」

 廿楽の突然の申し出に、さすがの達也も言葉に詰まった。先程の前置きで予測できるような話題ではなかったからである。

「……理由を、聞かせてもらえませんか?」

「そうですね。それに関しては、事の発端である平河くんに説明してもらいましょうか」

 廿楽の言葉に達也が平河へと顔を向けると、彼女は少し居心地悪そうに笑みを浮かべた。

「えっとね……、そもそもは私が代表を辞退しようと思ったところから始まったんだけど……」

「代表を辞退? それはまたどうして……」

「うーん、いきなりこういうことを言われても司波くんは困ると思うんだけど……。原因は司波くんなんだよね」

「自分が、ですか?」

 彼女の言葉に達也はここ最近の出来事を思い返してみたが、思い当たる節がまったく無かった。そもそも彼女とは学年も違うし、達也はクラブに所属していないのでそちら方面でも機会は無い。せいぜい九校戦のときか、あるいは夏休みに図書館で偶然顔を合わせたときくらいしかない。

「ほら、夏休みのときに私と市原さんと偶然会ったときあったでしょ? んで、そのとき市原さんと論文の話で凄く盛り上がってたじゃない」

 彼女の言葉が助けとなって、達也の脳の奥からそのときの記憶が引っ張り出された。確かにあのときはほとんど諦めかけていた“同志”との邂逅に自分でも知らず舞い上がっていたのか、かなり長い時間鈴音と話し込んでいた。何かに夢中で気がついたら夕方になっていた、なんて小説か漫画だけの話だと思っていたが、まさか実際に体験することになるとは思わなかった。

「それでまぁ、そんな2人の様子を眺めている内に、『あれっ? これって私よりも司波くんがメンバーの方が上手くいくんじゃない?』って思っちゃったってわけ」

「いや、平河先輩だって校内の論文選考会で選ばれたわけですから、普通にこのまま本番を迎えた方が良いと思うんですが」

「僕達もそう説得したんだけどね、平河先輩は一度決めたら結構頑固だから」

 達也の言葉に苦笑いでそう返したのは、同じく代表メンバーの1人・五十里啓だった。

「……平河先輩が自分を買ってくれているのは、素直に喜ばしいことだと思います。しかしそうは言っても、平河先輩にとっては最後の論文コンペになります。せっかく代表になれたというのに、わざわざそれを自分から放棄するというのは……」

 達也がそう言うと、平河は少し困ったような表情で笑い声をあげると、

「妹にも同じこと言われたわ。『せっかく代表になったのに、なんで自分から辞めようとするの?』って。確かに代表に選ばれてから“重力制御魔法式熱核融合炉”に頑張ってアプローチしてたけど、心のどこかで限界を感じていたのかもしれない。だって市原さんと熱心に喋る司波くんを見て、自分の“重荷”をこの人なら受け取ってくれるかもしれない、って思っちゃったんだから。そんなこと思ってたら、もう駄目でしょ」

 なので、と平河は前置きして立ち上がると、達也の傍に歩み寄る。

「本当に勝手で申し訳ないんだけど、私の役目を司波くんに託しても良いかな? 市原さんと五十里くんと一緒に、論文を完成させてくれないかな?」

 じっと達也を見つめながらコテンと首を傾けてみせる平河の姿は、大抵の少年だったら思わず頷いてしまいそうなほどの魅力があった。しかし残念ながら相手は達也、そう簡単に頷くわけにはいかない。

「……他の応募者の皆さんも、代表入りを狙って少なくない時間を費やしたと思われます。そんな方達をすっ飛ばして論文選考もしていない自分が代表入りしたとあっては、納得できないと感じる人もいるのではないですか? そうですね、例えばお三方の次点だった人とか――」

「関本くんは駄目です。彼は今回の作業には向いていません」

 達也の言葉を遮って拒絶の意を示したのは、今の今まで無言を貫いていた鈴音だった。普段は無表情で飄々としている印象の彼女が、このときは怒りと不機嫌を顕わにしていた。

「関本、というのは、風紀委員の関本勲先輩のことですか?」

「……ええ。彼と私とでは、方向性が違いすぎます」

「いくら代表が3人とはいえ、3人がそれぞれアイデアをバラバラに出すわけにはいかないんだ。確かに議論を重ねることは大事だけど、そればかりで纏まらないと本末転倒だからね。だからメイン1人にサブ2人って役割分担をするのさ」

 五十里の言葉に、達也は納得したように頷いた。今回のメインが鈴音である以上、彼女と意見が衝突する人物を代表に選ぶわけにはいかないのだろう。

「司波くん、私からもお願いします。平河さんがこの決断をするまでに、おそらく長い時間を掛けて考えてきたと思われます。私個人としては平河さんに残ってほしいという気持ちもありますが、司波くんと一緒に論文に取り組みたいという想いも同時に持っています。どうか、この話を引き受けてくれませんか?」

 鈴音がそう言って、達也に向かって深々と頭を下げた。年上に頭を下げられたから、ではないが、達也としてもここまでされては引き下がることはできなかった。間違いなく達也も、理論的に物事を考えるくせにどこかお人好しな“彼ら”の影響を受けていた。

「……分かりました。こちらとしてもメリットのある話でしょうし、協力させていただきます」

 達也の言葉に鈴音と五十里はほっとしたような、平河は心の底から嬉しそうな表情を見せた。

「いやぁ、ありがとね達也くん! よし! じゃあ論文コンペ初心者の司波くんのために、私が論文コンペとは何かってのを教えるね!」

 平河は妙なテンションで達也をソファーに座らせると、大判レポート用紙サイズのタブレットを彼へと渡した。

「論文コンペっていうのは、高校生が魔法学や魔法工学の研究成果を発表する場よ。学会とかの発表場所が無い高校生が、自分達の研究を世に問う場所でもあるわ。優秀な論文を発表すると魔法研究機関からスカウトされるだけじゃなく、そのまま魔法大全に収録されて大学や企業で利用されることもあるの」

 平河の説明を聞きながら、達也は手元のタブレットで案内書を眺める。それならば尚更代表を辞退するのは勿体ないのでは、と思ったが、ここで話を蒸し返すのは野暮だと思い口を閉ざした。

「開催日は毎年10月の最終日曜日、だから今年は10月30日ね。開催地は京都と横浜をローテーションしてるんだけど、これは日本魔法協会の本部が京都、副本部的な位置づけの関東支部が横浜にあるからみたいね。今年は横浜の国際会議場よ」

 達也は頭の中でスケジュール帳を引っ張り出した。幸いにも10月30日は何の予定も無い。

「参加資格は魔法科高校から推薦を受けた者、または予備選考を通過した高校生のグループってなってるけど、過去に推薦を受けてないグループが論文コンペに参加した例は無いわね」

「規定上はオープン参加のはずですよね? それはなぜですか?」

 達也が手を挙げて平河に質問すると、彼女は実に嬉しそうに笑みを深くして答える。

「普通の高校生にとっては、30分ものプレゼンに耐えられるだけの論文を書き上げるのは、モノリスやミラージに出ること以上に難しいことだからよ。学校から推薦を受けた私達でさえ、生徒会と部活連の協力が無かったらとても論文なんて出来なかっただろうし」

 そういうものか、と達也は他人事のように思った。実際F・L・Tで新商品のプレゼンをする機会の多い彼にとっては、彼女の言葉にあまり実感が無かったのである。

「テーマは原則として自由。でも公序良俗に反していないことが条件ね。一昨年なんか、大量破壊兵器に替わる魔法の開発をテーマにした生徒がいてね、事前審査で跳ねられたの」

「それはまた、随分と突き抜けた生徒がいましたね。――ん? でも事前審査で跳ねられたってことは、当然その論文は非公開なんですよね? なんで平河先輩はそのことをご存知なのですか?」

 達也の質問に、平河は気まずそうな視線を鈴音へと向けた。達也がそれに倣うように鈴音へと標的を変えると、彼女は溜息混じりで呟くように答えた。

「……その論文を作成したのは、我が校の当時の生徒会長でした」

「……そうでしたか。――ちなみに、そのときの論文って残ってたりしますか?」

「確か地下第2資料庫を漁れば出てくると思いますが……。まさか司波くん、それを再現してみようなんて考えてはいないでしょうね?」

「まさか。純粋に興味があるだけですよ。“怖いもの見たさ”ってやつです」

 それに“大量破壊兵器”ならすでに開発していますので、とはさすがに言えなかった。

「そんなわけで、論文の完成稿と機材や術式を含めた企画書を、事前に魔法大学に提出しなくちゃいけないの。期限は再来週の日曜日で、学校を通しての提出になるわ。廿楽先生にチェックしてもらう時間も考えると、来週の水曜日までには仕上げた方が良いわね」

「廿楽先生がチェックするんですか?」

「廿楽先生が今年の校内選考責任者だからね」

 五十里がそう言うと、廿楽は「面倒事を押しつけられただけですがね」と困ったように笑った。

「ですが、廿楽先生はとても優秀な方です。通常の指導よりも遥かに踏み込んだレベルで教えを受けられる私達は、むしろ幸運と言って良いでしょう」

 鈴音の言葉に五十里も平河も揃って頷いていたが、生憎教師からの通常の指導すら受けられない二科生の達也にとっては特に感慨深いものは無かった。

 そんなことを言えば部屋の雰囲気が気まずいものになることは間違いないので、けっして口にはしなかったが。

 

 

 *         *         *

 

 

「えっ? 達也、論文コンペの代表に選ばれたの?」

 学校近くにある、割と本格的な佇まいをしている喫茶店“アイネブリーゼ”。達也たちもよく通っており、マスターからもそこそこ常連扱いされている。その日の放課後もいつもの9人でそこに集まっており、話題は自然と魔法幾何学準備室に呼び出された達也のことになった。

 驚きの表情を浮かべる幹比古に対し、達也の反応は「まぁね」と何とも淡泊なものだった。

「どうしたの、達也くん? 感動薄すぎじゃない?」

「そりゃぁ、達也にとっちゃこの程度は当然ってことだろ」

「1年生が論文コンペに出場するなんて、ほとんど前例の無いことでしょ?」

「皆無ではないだろ? それに学校側だって、インデックスに新しい魔法を書き足すような“天才”を無視できねぇって!」

「“天才”はやめてくれ」

 レオが口にしたその言葉に、達也は心底嫌そうな表情でそう言った。

「達也さん、本当に“天才”って呼ばれるのが嫌なんですね」

「都合の良い事後評価だからな。結果を出せなかった人間に対して“天才”なんて言わないだろ?」

「褒めてくれてるんだから、素直に喜べば良いのに」

 笑いながらそう言ったのは、自身も達也と同じように“天才”と称されることが多いであろうエリだった。

「いや、それでもやっぱり凄いよ! あの大会で優勝したら“スーパーネイチャー”に論文が載るんだろ? たとえ優勝しなくても、注目された論文が学会誌に載ることだって珍しくない」

「あれ? でも、期限まであまり時間が無いんじゃないの?」

「だいたい9日ってところだな。でも大した問題じゃないさ。俺はあくまでサブだし、論文自体は夏休み前から進められてきたからな」

「ですが、急なお話であることに変わりありません。何か事情があったのですか?」

 困惑した表情で尋ねる深雪に、達也はどう話せば良いか迷う素振りを見せ、口を開く。

「サブだった平河先輩が、俺の方が代表に相応しいって言ってきてね」

「達也くんの方が? なんでまた……」

「論文のテーマが、たまたま俺が個人的に研究してたものと同じでね。市原先輩とそのことで喋っていたのを聞いてそう思ったらしい」

「おお、そういえば論文のテーマを聞いてなかったな。どんなのだ?」

 興味津々といった感じでレオが尋ねてくるが、隣にいたエリカが「あんた、そんなこと聞いて理解できるの?」と言っているのが聞こえた。もちろん、レオはそれをガン無視だ。

「“重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性”だ」

「よし達也、日本語でオーケー」

「あんた、少しは理解しようとする努力をしなさいよ」

 エリカの辛辣な一言に、レオは今度は無視できずにグッと息を詰めた。

「それって“加重系魔法の三大難問”じゃなかったっけ? 随分と壮大なテーマに踏み込んだね」

「達也さんが選ばれたから、てっきりCADに関連したものかと思ってました」

「あ、それあたしも思った。啓先輩もメンバーに入ってるんでしょ? そのテーマだったら、優勝間違いなしだと思うんだけど」

「どうせ達也のことだ、重力何たらってテーマでも、ものすげーの書くに決まってんだろ!」

「……レオ、重力制御魔法式熱核融合炉ね」

「難しさも分かってないのに、テキトーなこと言わないの」

 顔を真っ赤にするレオに皆が一斉に笑い声をあげる中、エリが何かを思い出したように達也へと振り向いた。

「だったら達也さん、今年は景さんの前で論文を発表することになるんだね」

「ケイ? 啓先輩のこと?」

 エリカの言葉に、エリはぶんぶんと首を横に振った。

「私達の知り合いに、大田景って人がいるの。今は小学校の教師なんだけど一高出身で、論文コンペも毎年観に行ってるんだよ」

「へー。一高出身ってことは、僕達の先輩になるのか」

「魔法から離れても常に勉強しているなんて、その人はかなり勉強熱心なんだね」

「達也の知り合いって面白い奴らばかりだし、きっとその人も面白いに違いねぇな! なぁエリちゃん、向こうで会ったら俺達のことも紹介してくれよ!」

 いかにも興味津々といった感じでエリに詰め寄るレオに、エリはにこにこと笑って深く頷いた。

 そして皆がまだ見ぬ先輩について盛り上がっている中、

「……大田景? どっかで聞いた名前ね……。どこだったかしら……?」

 エリカだけが、1人顔を俯かせてぶつぶつと呟いていた。

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