「厚志さん、どうしてこちらに?」
「いや、今日のレッスンが全部終わったから、魔法科高校の見学も兼ねてみんなを迎えに来たんだ。そしたら随分と校門が騒がしいと思って来てみたら――ねぇ?」
厚志はあくまでその満面の笑みを崩すことなく一科生達を見渡したのだが、彼らはまるで肉食獣に睨まれたかのように顔を引きつらせ、恐怖で数歩も後ずさりした。
そんな光景を眺めながら、レオ達5人が達也の周りに集まってくる。
「なぁ達也、あの人が今日パーティを開いてくれる厚志さんか?」
「ほえー、何か凄い迫力のある人ね。背でかいし、筋肉も凄いわ」
「なんだか、ボディービルダーみたいな方ですね」
「“みたい”ではなく、厚志さんはプロのボディービルダーだ。自分のジムを経営して常に体を鍛えているし、週に何日かエアロビクスのレッスンも請け負っている」
「へぇ、体を鍛えるのが好きな人なんだね」
「筋肉もりもりマッチョマン」
達也たちがひそひそとそんな会話を交わしていると、
「あ、あなたはいったい誰だ! これは僕ら魔法科高校の生徒の問題だ! 部外者は口を挟まないでもらいたいんだが!」
遠くに落ちたCADを拾って戻ってきた森崎が、厚志へと詰め寄ってきた。背後で一科生達が「やめろよ森崎」とか「勇気と無謀は違うぞー」などと囁くのが聞こえる。
「私かい? 私はそこにいる達也くん達の知り合いだ。今日はこれから彼らと用事があるから、ここまで迎えに来たんだよ」
「……わ、悪いが、僕達は深雪さんとエリちゃんに用事があるんだ。一科生同士、し、親交を深めなければいけないからね。だから帰るなら、あ、あの二科生達とだけにしてくれないかな?」
厚志を真正面に据えながら、辿々しくもそう言ってのけた森崎に、周りの生徒は心の中で彼に拍手を送った。
一方厚志は、顎に手を当てて考える仕草をすると、
「深雪ちゃん、エリちゃん、どうなんだい?」
「いいえ、そんな予定は一切ありませんわ」
「私達が帰ろうとしてたのを、むりやり引き留めたんだよ」
「……だそうだが?」
2人の返事を聞いた厚志の目が、再び森崎へと向いた。とはいえ、開いているのか閉じているのか分からないくらい細められているが。
――どうして、こうなった?
そして厚志に見つめられている森崎は、自分の頭の中で今日一日のことを振り返っていた。
新入生総代であり見目麗しい深雪と知り合いになりたくて積極的にアプローチを仕掛けていたのに、同じA組とはいえ年下のエリに公衆の面前で言いくるめられ、しかもそれが原因で他のクラスの一科生と余計な軋轢を生んでしまい、何とか名誉挽回しようと深雪に自分の実力を見せつけようとしたら二科生の女子生徒にあっけなくやられ、挙げ句の果てに部外者の男(どうやら深雪達の知り合いらしい)によって本人による拒絶の言葉を聞かされた。
なぜだ? どうしてこうなった? いったいどこで間違えた? 自分の何が悪かった?
森崎は頭の中で、必死にその答えを探し求めていた。いや、答えなどとっくに浮かび上がっていた。しかし彼は絶対にその答えを選びたくはなかった。なぜならそれを選んでしまうと、今まで自分の心を支えてきたありとあらゆるものを否定することに繋がるからである。
よって、彼の選んだ“答え”は、
「――どいつもこいつも、ふざけやがって」
森崎は腹の底から絞り出すような声でそう呟くと、先程自分が拾ったCADを目の前の男の眉間に向けた。
彼の選んだ答えとは、“現実から目を背けること”だった。
「魔法も使えないような輩が、僕のやることにいちいち口を出すんじゃない! おまえらは黙って、僕の言うことを聞いていれば良いんだよ!」
突然豹変した彼の姿に、エリカ達だけでなく、周りの一科生ですら息を呑んだ。
そんな中、今まさにCADを突きつけられている厚志だけが、まったく表情を変えずに佇んでいた。
「ははは、どうした! 魔法が怖くて声も出ないか!」
「――3つ、訊きたいことがある」
森崎の言葉を無視してそんなことを言い出した厚志に、森崎の顔がますます歪む。
「1つ。この学校に通っているということは、君は魔法師を目指しているのか?」
「あぁ? 何をあたりまえなことを訊いている。当然じゃないか」
「2つ。君が今持っているそれは、魔法師としての“武器”であるCADで間違いはないか?」
「ははは、実物を見るのは初めてか? そうさ、これが僕の自慢の武器さ」
「3つ。君が放つ魔法が人に当たれば、とても危険であるという自覚はあるか?」
「危険でなければ、魔法の意味が無いじゃないか。僕の魔法は、そんじょそこらの魔法が足元にも及ばないほどのものなんだからね!」
「――そうか」
ぞくっ!
最初に声を掛けられたとき以上の寒気が、森崎の全身を走り抜けた。彼の体が魔法に掛けられた憶えも無いのに凍りつき、その間に手に持っていたCADを厚志にがしっと掴まれてしまった。いくら彼が振り解こうとしても、まるで空間に縛り付けられてしまったかのようにまったく動かない。
そして、厚志が口を開いた。
「つまり君は“武器を相手に向ける”という意味を、完全に理解したうえで行っているということだね?」
「え――」
その瞬間、森崎は今まで体験したことの無い感覚を味わっていた。周りの光景がスローモーションのようにゆっくりと動き、まるで自分だけ世界に取り残されたかのような錯覚が生まれる。取り残されたのは自分の体すら例外ではなく、彼は自分の体なのに指一本動かすこともできず、ただぼんやりとした思考でこれから起こるであろう出来事を他人事のように眺めているしかできなかった。
そして、そんな自分に向かって腕を伸ばしてくる目の前の生物は、身長が2メートルあるとはいえただの人間のはずなのだが、今の彼には正体の掴めないどす黒い影に塗り潰された怪物にしか見えなかった。このまま自分は死ぬのか、と彼は最後まで夢見心地のまま――
「あなた達、何を騒いでいるの!」
その声をきっかけに我に返った森崎は、自分の感覚や思考が元に戻っていくのを肌で感じていた。その瞬間はっきりと浮かび上がってきた死への恐怖で、彼は今にも泣きそうに顔を歪めながら声のした方へと振り返った。
生徒会会長の七草真由美が、普段はめったに見せない凛々しい表情をしてこちらへと歩いてきていた。その後ろには、背の高いスレンダーな体つきをした、まさに“麗人”という言葉が似合う女子生徒が彼女に付き従っている。
すると周りの生徒が、「あれ、3年の渡辺摩利先輩じゃねーか!」とか「やべぇなあの1年、風紀委員長に目つけられたぞ」などと囁いた。それを聞いた森崎は、助けが来たと喜ぶ顔から一転、今にも泣き崩れそうな絶望の顔へと変化した。
「そこの1年! 自衛目的以外での魔法による攻撃は、校則以前に犯罪行為だぞ! 分かっているのか!」
摩利の詰問に、森崎はびくっと体を震え上がらせた。
すると、先程まで自分にCADを構えていた彼をかばうように、厚志が彼女の前にすっと躍り出た。
いくら摩利の身長が高いとはいえ、せいぜい170センチを超えない程度である。身長2メートルで筋骨隆々の厚志が目の前に現れ、彼女は一瞬面食らったように驚いた表情を見せたが、すぐに表情を戻して彼に向き直った。
「君はここの生徒かな?」
「はい、そうです。うちの生徒がご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。お怪我はありませんでしょうか?」
「いや、それは勘違いだよ」
「……勘違い、ですか?」
厚志が何を言おうとしているのか分からず、摩利は首をかしげた。
「そうだ。私は知り合いを迎えにここに来たのだが、何分初めての魔法科高校でテンションが上がってしまってね、好奇心が抑えきれなくなったんだ。だから、たまたまここを通り掛かった彼に頼み込んで、CADを見せてもらっていたんだよ」
「……私が遠くから見たときには、彼は明らかに敵意があるように思えたのですが?」
摩利が目を鋭くして尋ねても、厚志はにこにこと笑いながら、
「いやぁ、私はこんな見た目だからね、あまりに興奮したせいで彼が怖がってしまったんだろう。おそらくそれが、遠くからだと私を攻撃しようとしてるかのように見えてしまったんだろうね」
「……なぜ、あなたは――」
「もう、摩利! もう良いじゃない、この方がこう言っているんだから!」
摩利が再び何かを尋ねようとしたそのとき、それを遮るように横から真由美が割り込んできた。
「しかし真由美、うちの生徒があろうことか部外者にCADを向けたんだぞ! いくら本人が庇っているとはいえ、何もお咎め無しというのは――」
「あら、彼はすでに“罰”を受けているわよ。そうよね、森崎俊くん?」
「……は、はい。お騒がせして、大変申し訳ありませんでした。そちらの方も、僕が取り乱したせいで……」
「ははは、別に私は大丈夫だよ。若いときなんてそんなものさ。――ただ、取り返しのつかない間違いさえしなければ良いのさ」
「――――! はい……」
胸に安堵と恐怖を抱きながら、森崎は力無く彼らに背中を向け、静かにその場を離れていった。
「ありがとうございました。あなたのおかげで、大事に至らなくて済みました」
「いやいや、そんなに畏まらなくても」
厚志に向き直って恭しく礼をする真由美に、厚志は手をぶんぶんと振ってそれを制した。
「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「私かい? 私は高田厚志! ボディービルの選手であり、自分のジムでエアロビの講師もしているよ! 良かったら、君もどうだい?」
「私は、七草真由美と申します。魅力的なお誘いですが、その機会はまた今度ということで。……ですが、何だかあなたとはまた会うような気がしますね。――それでは、失礼致します」
真由美はそう言い残すと、くるりと厚志に背を向けてその場を去っていった。それを見た摩利は、厚志に会釈をして彼女の後を追った。
「…………」
小さくなっていく真由美の背中をしばらく見つめていた厚志だったが、自分に近寄ってくるグループに気づき、そちらへと視線を移した。
「ありがとうございます、厚志さん。助かりました」
「さすが厚志さんですね、力を奮うことなく場を収めるなんて」
「厚志さん、すごーい!」
彼のことをよく知っている司波兄妹とエリが彼を褒め称えると、
「何というか、上手く言えないですけど……、凄かったです!」
「ほんと、武道を極めようとしている人間が目指す極地って感じだったわ。――レオなんか、本当にあの一科生を殺すんじゃないかってハラハラしてたのよ」
「なっ、何言ってんだエリカ! いやでも、本当に凄かったっすよ!」
美月、エリカ、レオの二科生が口々に賞賛し、
「うぅ……、私はただ見てただけなのに、まだ心臓がバクバクしてる……」
「大丈夫、ほのか。私も」
ほのか、雫の一科生はどこか顔色悪く互いの手を握りしめていた。
「ははは、普段から彼よりももっと“騒がしい”奴らを相手にしてるからね、これくらい余裕さ。――それよりもみんな、そろそろここから移動した方が良いと思うよ。さすがに騒ぎすぎたせいで、ここじゃ注目の的だからね」
厚志の言葉に、達也たちは周りを見渡した。一科生、二科生に拘わらず、下校途中の生徒が皆一様にこちらを奇異の目で眺めていた。もっとも、その内の半数以上が厚志に対するものだったが。
「とりあえず移動しよう。今から歩いていけば、パーティーにちょうど良い時間になるだろう」
その言葉に頷いた達也たちは、9人という大所帯で厚志の家へと向かっていくのであった。
「残念だったな、真由美。せっかく“例の男子生徒”の実力を拝見できるチャンスだったのに、とんだ邪魔が入ってしまって」
「まぁ、確かにそこは残念ね。でも私は、あの人のことは邪魔だなんて思ってないわよ。あれはあれで、なかなか面白いものが見られたし」
「ああ、確かにあれは興味深かったな。言ってしまえば単なる“威嚇”なのだが、あの1年、あまりの恐怖に身動きすら取れなかったぞ。生徒の暴走を取り締まる風紀委員としては、戦わずにその場を収めるというのは1つの理想でもあるしな。どうにかあれを魔法に取り入れることはできないものか……」
「ふふ、私としては、あの人が戦う姿も見てみたかったわねー」
「あの人が、か? 確かにもの凄い筋肉をしていたが、あの人はボディービルダーなんだろう? そういう人の筋肉はあくまで魅せるためのものであって、格闘のような実戦には不向きだと聞いたことがあるが」
「うーん、そういう意味じゃないのよねー」
「…………?」
* * *
厚志の家へ向かう道中、厚志達のグループは2つに分かれて談笑していた。
「へぇ、エリって親から離れて厚志さんと一緒に住んでるんだ」
「うん。とはいっても、ママ達は近所に住んでるんだけどね」
「親と離れて暮らすのって、寂しくありませんか?」
「そんなことないよ! 厚志さんやミルココやモカもいるし、他にもいろーんな人が遊びに来るの!」
「そっか、厚志さんは人気者なんだね」
「ミルココ……? モカ……?」
前方では深雪を除いた女性陣がエリを囲んで、
「厚志さん、どうしたらそんなに筋肉がつくんですか?」
「もちろん、日々の鍛錬の賜物さ! とはいっても、毎日トレーニングをするのはむしろ逆効果だ。トレーニングは1日おきに週3回程度、その間はしっかりと休息を取ることが重要だな」
「へー、それは知らなかったなー。やっぱり、食事とかも気をつけてるんすか?」
「主なタンパク源は鶏のササミだね。油分が少なくて、効果的にタンパク質を摂取できる」
「ちなみに厚志さんの朝食は、数個の生卵をプロテインで流し込むものだ。レオも厚志さんの体に憧れてるなら、始めてみたらどうだ?」
「……いやぁ、さすがにそれは遠慮しとくわ」
後ろでは厚志、達也、レオによる男性陣の会話を、深雪が達也の隣に寄り添って聞いていた。
そうこうしている内に、目的である厚志の家に辿り着いた。
元々厚志達の住んでいる住宅地自体が高収入の世帯向けということもあって、そこに建ち並ぶ家はどれもこれも立派なものばかりだった。厚志の家の隣にある司波兄妹の家も、高校生2人が住むには充分すぎるほどに広い3階建てである。レオ達はその家もかなり気になる様子だったが、また別の機会ということで今回はスルーをさせてもらう。
そして厚志の家はというと、司波兄妹の家と違って2階より上が無い平屋だった。その代わり、広さが周りの家の2つ分はあった。そもそも家1つ分の敷地が平均よりも広いここの住宅地においての2つ分なので、その広さはかなりのものである。それこそ、友人が7人くらい押し掛けてきてもまったく困らないくらいには。
「おー! さすが厚志さん、家もでかいっすね!」
レオが感心した様子で叫ぶのを聞きながら、厚志達は敷地の中に入っていった。
そして玄関に手を掛けたタイミングで、中からぱたぱたとこちらにやって来る足音が聞こえてきた。すると少しししてドアが開けられ、中から左目に眼帯をした女性が顔を出した。料理の途中だったのか、割烹着を身につけている。
「お帰りなさい、厚志さん、エリちゃん。他の方々も、本日はようこそお越しくださいました。もうすぐ準備が整いますので、それまでリビングでくつろいでいてください」
「……あ、ありがとうございます」
「悪いね、モカちゃん。手伝おうか?」
「いえいえ、もうほとんど終わりなので、厚志さんもゆっくりしていてください」
司波兄妹とエリ以外の面々が戸惑いを見せている中、厚志の言葉にその女性――モカはにっこりと笑い、再び家の奥へと小走りで去っていった。
「それじゃみんな、遠慮無く上がると良いよ」
「あ、あの、厚志さん! 今のは誰っすか!」
「彼女? モカだよ、訳あって一緒に住んでいるんだ」
「えぇっ! い、一緒ってことは、もしかして厚志さんの奥さん?」
「奥さんって、高校生くらいにしか見えなかっただろ! 厚志さんの親戚とかじゃないのか?」
「レオ、エリカ、気になる気持ちも分かるが、あまり長い時間玄関に居続けるのも失礼だぞ」
「っと、そうだったな。お邪魔します」
達也の言葉を皮切りに、一行は次々と靴を脱いで中へと足を踏み入れた。少し廊下を歩き、リビングへとやって来た。
すると、
「はっはっはー、ボディががら空きだぜー!」
「ああ、くそ! また通常下段かよ! いい加減それ禁止!」
「来るのが分かってて対処できないのが悪いんでしょ。あー、これ勝ちパターンだわー、ダッチ勝ち確だわー」
居間(厚志の家は基本的に和室なので、この表現が適切だろう)のテレビでゲームに熱狂している、どう見ても小学校低学年くらいにしか見えない少女3人がいた。1人はコントローラーをがちゃがちゃ動かしている黒髪の少女、1人は黒髪の少女に抗議をしている青みがかった長い髪をもつ色白の少女、そしてもう1人はそんな2人を後ろから眺めている白い短髪をもつ色黒の少女。
「あ、厚志さんお帰りなさい。すみません、途中で仕事放り出しちゃって。モカの手伝いしてたもんで」
「ん! あつし帰ってきたのか! よし、それじゃ早速パーティーだ!」
「あ、おいダッチ! 勝ち逃げすんな! いやぁ、それにしても随分増えたなー。2日でこれだけってことは、卒業する頃には生徒全員呼ぶようになったりして」
その少女達――ダッチ、ミルク、ココアは厚志の姿を見掛けると、ゲームを中断して一斉に彼のもとへと寄ってきた。その様子は、優しいおじさんに懐いている子供そのものである。
すると、
「おおっ! 厚志の兄貴、帰ってたんですね!」
「もうテーブルの準備はできてます! 後は料理を運ぶだけですよ!」
庭の方から声がしたので振り向くと、真っ赤なコートと帽子を身に纏う男性と、真冬かと思うような厚手のジャンパーを着込む大男――リカルドとマッドがテーブルと椅子を用意していた。笑顔で厚志に話し掛ける様子から、いかに2人が彼を慕っているかが見て取れる。
「……し、雫、この人達がどういう知り合いなのか分かる?」
「全然分からない。年齢もバラバラだし、親戚というのは雰囲気が似てなさ過ぎる」
ひそひそと囁くほのかや雫と同様に、レオやエリカや美月も彼らの関係を不思議がっていた。当然、事情を知っている司波兄妹とエリに質問をしようとしたのだが、
「さあ、皆さん。料理ができましたよー」
モカが巨大な皿に山盛りとなった唐揚げを持ってきたことで、それは中断された。
こうして、入学記念パーティーが始まった。
「3人共、厚志さんの家に住んでるの?」
「ああ、私とココアは住んでるけど、ダッチは違うんだ」
「でもまぁ、よくモカの夕飯を食べに来てるから、ほとんど住んでるのと変わりないけどねー」
「モカのご飯は美味しいからな! モカがあつしの家に来てからは別の奴が夕飯作ってくれるけど、やっぱりモカには叶わないからなー」
「へぇ、本当にモカさんが好きなんだね。ところでミルココは、なんで厚志さんと一緒に住んでるの?」
「あぁ……、成り行きといいますか、不可抗力と言いますか……」
「まぁ、きっかけは何であれ、今は結構この生活が気に入ってるから別に良いんだけどねぇ」
「うん本当、きっかけは何であれ、ね……」
ダッチ、ミルク、ココア、ほのか、雫の5人が仲良く談笑し、
「んで、モカはどうして厚志さんのことを好きになったの?」
「す、好きだなんて、そんな! ……えっと、最初はあの人の筋肉に一目惚れして、一緒に暮らしてく内にあの人の中身が好きになったっていうか……」
「へぇ、モカって筋肉フェチなんだ」
「でも、あれだけ立派な筋肉だと、思わず見とれてしまうのも分かる気がします」
「あれ? ひょっとして美月も厚志さん狙い?」
「そ、そういう意味で言ったんじゃ――!」
「あら、厚志さんと美月なら結構お似合いだと思うわよ? でもそれなら、まずはモカとの勝負に勝たないとね」
「み、深雪さんまで!」
モカ、エリカ、美月、深雪の4人組は恋愛の話に華を咲かせ、
「いやぁレオ、俺はあんたが羨ましいぜ。あんな可愛い女の子が大勢周りにいるなんてよう」
「いやいや、傍目にはそう見えるかもしれないっすけど、実際はそんなもんじゃないですって。男が達也しかいないし、その達也は異性に囲まれるのを何とも思ってないから、どうにも肩身が狭くて。――それに約1名、女の子とは程遠い乱暴者がいるし」
「ちょっとレオ、聞こえてるわよ!」
「うおぅっ! 何だよあいつ、なんであんな遠くにいて聞こえるんだよ!」
「ははは、それだけ女は地獄耳だってことさ。たとえその場にいなくても女の悪口は言わないのが、本当の男ってものだぜ?」
「リカルドさん……!」
「いや兄者、女性を語れるほどモテてないでしょ……」
リカルドの恋愛談義にレオが目を輝かせ、それをマッドが呆れた表情で聞き、
「……厚志さん、エリは?」
「ああ、もう眠ったよ。慣れない環境で疲れが溜まったんだろう」
達也と厚志は縁側に腰を下ろし、談笑している皆の様子を眺めていた。
「どうだい、達也くん? 新しい学校での生活は」
「はい、とても充実しています。最新の設備で学べることも多いですし、こうして友人にも恵まれました」
「そうか、それは良かった。人生の中で“学生”でいられるのは、ほんの少しだけだ。大人になって後悔することのないよう、今を全力で楽しむんだよ。これは人生の先輩からのアドバイスだ」
「……厚志さん、ありがとうございます。俺達がこうして学生生活を送れるのも、厚志さん達が協力してくれたおかげです」
「私達はほんの少しお手伝いをしただけさ。今こうしているのは、紛れもなく君達が自分の手で勝ち取ったものだよ」
「……そういうことに、しておきます。――何か飲み物を取ってきますよ」
「ああ、ありがとう」
こうして、賑やかな夜は更けていった。