魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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第49話 『無茶をしているときは、結構大丈夫だったりする』

 論文の校内提出まで残り3日に迫ったその日の夜、達也は自宅の地下にあるワークステーションでデータ処理をしていた。このワークステーションはおおよそ一般家庭が持つものではない、どこかの企業か公営機関かと見紛うほどに立派な設備が整っており、司波兄妹やエリが使うCADの整備やデータ処理はこの部屋で行われる、いわばこの家の心臓部のようなものである。

 そんなワークステーションのホームサーバーが、執拗なまでに何度もアタックを受けていた。同時に複数の経路をアタックするその手口はどう見てもプロの仕業であり、そうなるとここのサーバーを最初から狙い撃ちしていると考える方が自然だ。

 ――何度撃退されても、まったく諦めようとしない……。狙いは論文コンペの資料か、それとも勾玉の解析データか……。

 とりあえずこのアドレスはもう使えないな、と達也は溜息を吐きながら逆探知プログラムを立ち上げた。

 

 

 *         *        *

 

 

 次の日、放課後。

「遥ちゃん、お話聞いてくれてありがとねー」

 第一高校のカウンセリングルームにて、女子生徒が笑顔で手を振って部屋を出ていった。この部屋の主である第一高校カウンセリング・小野遙は、この仕事のやり甲斐を噛みしめながら「また何かあったら相談に来てねー」と笑顔で手を振り返していた。

「さてと、私も帰ろうかなぁ」

 大きく伸びをしてそう呟く遙の耳に、こんこん、とドアの叩かれる音が聞こえた。帰宅しようとする出鼻をくじかれた形となった遙だが、彼女は一切気を害する様子も無く「どうぞー」と声を掛けた。

「失礼します」

 しかしドアを開けて入ってきた生徒の顔を見て、遙は無視して帰れば良かったと思った。出入口はそこ1つしかないのだから、どう頑張っても無視なんてできないのだが。

「……何の用かしら、達也くん?」

「この部屋に来たんですから、目的は1つしかないでしょう? 先生に相談しに来たんですよ」

「――はっ」

 達也の答えを聞いた途端、遙は無意識に鼻で笑ってしまった。

「別に私に相談しなくても頼もしいお仲間がいるんだから、そっちに相談すれば良いでしょー」

「……小野先生、もしかして拗ねてるんですか?」

「そりゃ拗ねたくもなるわよ!」

 ばんっ! とテーブルを力強く叩いて、遙は自身の不満を達也にぶつけた。

「最初のブランシュの事件はすっかり無視されるし、九校戦のときにも達也くんは犯罪シンジケート相手に色々やってたみたいじゃない! そのとき私何してたと思う? 普通に家で中継観ながら呑んでたのよ!」

「良かったじゃないですか、休日を満喫できて」

「八雲先生の神社であんなに協力的な感じで正体をばらしておいて、その後ずっとほったらかしにされた私の気持ちが分かる? そして何より辛かったのが、私が登場しなかったことに対して誰1人感想で言及してこなかったことよ!」

「先生、何を言ってるんですか? “感想”とか訳の分からないことを言うのは止めてください」

 だんだんと発言の内容が危ない方向へと向かっていきそうな遙を達也は止め、これ以上変なことを言われる前に本題に入った。

「実は昨日の夜、自宅のホームサーバーにアタックを仕掛けた奴がいましてね。手口からしてプロの可能性が高かったものですから、逆探知プログラムを仕込んでみたんですよ。でも途中で接続を切られてしまいまして、結局身元は割り出せませんでした」

「……それで? 私はネットワークチェイスなんてできないわよ」

「分かっていますよ、先生の得意分野くらい。そこまで手間を取らせるつもりはありません」

「それじゃ、何?」

 あからさまな疑いの目を向ける遙に、達也は白々しい愛想笑いを浮かべて、

「最近、魔法関係の秘密情報売買に手を出してる組織について、ご存知の範囲だけでも教えてもらえませんか?」

「……達也くん。私にも守秘義務があることくらい知ってるわよね?」

「ええ、もちろん。何なら、報酬をお支払い致しますよ?」

「はんっ。たかが高校生のお小遣いで払えるほど、私は軽い女じゃ――」

 馬鹿にしたような笑みを浮かべる遙の言葉を遮るように、達也は彼女の目の前に1枚の紙を差し出した。そこには数字が書かれており、それを目にした遙の表情から一瞬で笑みが消え、代わりに驚愕の色に染められていく。

「……達也くん、本当に払えるの? っていうか、なんで払えるの?」

「そこはほら、お互いに詮索しないということで」

 普通の高校生がこんな行動をしたところで一笑に付されて終わるのがオチだが、相手が達也というだけで遙はそんな感情を抱くことができなかった。おそらく彼は裏の世界にもある程度精通しており、このような“約束事”はしっかり守った方が色々と上手く回ることを知っていると判断したためである。

「……先月末から今月の初めにかけて、横浜や横須賀で相次いで密入国事件が起こってるわ」

「密入国? やはり……」

「やはり? 心当たりがあるの?」

「いいえ、こちらの話ですので。それで、そいつらの正体については?」

「県警と湾岸警備が合同で捜査してるんだけど、結果は芳しくないみたいね。それと時期を同じくして、マクシミリアンやローゼンに部品を納入しているメーカーが相次いで盗難に遭ってるわ」

「つまり、魔法機器の製造に関わりのある企業が狙われているということですか」

「そいつらがやったって決まったわけじゃないけどね。――達也くん、論文の提出はオンラインじゃなくてメディアに入れて持ってった方が良いわよ」

 最後のその言葉だけは、余計な感情が一切入っていないように思えた。真意を確認しようとした達也だったが、遙は彼に背中を向けてデスクに座ってしまった。これ以上は話せないという意思表示であり、達也もその辺りは引き際を弁えているのでそれ以上は訊かなかった。

「後で口座番号を教えてください。そちらに報酬は振り込みますので」

 そのまま部屋を出ていこうとした達也に、遙が「ちょっと待って」と声を掛けた。

「……私、この先出番があると思う?」

「……巡り合わせが良ければ」

 彼女の質問に、達也はそれだけしか言えなかった。

 

 

 *         *         *

 

 

「えっ! ホームサーバーにクラッカーが?」

「はい。幸いなことに、被害はありませんでしたが」

 その足で風紀委員会の本部へ向かった達也は、先に来ていた五十里に例の不正アクセスの顛末を話していた。ちなみにその場にはエリの姿もあるが、こういった知識はからっきしな彼女は先程から首をかしげてウンウンと唸っていた。

「五十里先輩の方は、何事もありませんでしたか?」

「僕の方は何も無かったけど……。その口振りからすると、やっぱりコンペ絡みなのかな?」

「狙っていたのは魔法理論に関する文書ファイルのようでしたし、時期的に考えてもその可能性が高いかと」

 実際にはレリック絡みの可能性の方が高いのだが、そこまで馬鹿正直に答える必要も無い。それにコンペ絡みの可能性も充分に存在する以上、後で鈴音にもこの話をして警戒してもらう必要があるだろう。

 と、そのとき、

「啓、お待たせー!」

 ばんっ! とドアが開かれ、入口から勢いよく走ってきた花音がそのまま五十里に抱きついてきた。「会いたかったよー」と体を擦り寄せる花音に、五十里は口では落ち着くように諭してはいるが満更でもなさそうで、僅かながら表情を崩しているのが分かった。

「まったく、花音は相変わらずだな」

 そして達也が考えていたことと同じ台詞を吐きながら部屋に入ってきたのは、風紀委員長の任を退いてからすっかり顔を合わせることが少なくなった摩利だった。とはいえ、最後に会ったのが10日ほど前と考えると、果たしてその表現が適切かどうかは疑問の余地が残るが。

「あっ、摩利さん! 久し振りー!」

「久し振り、エリちゃん。新しい風紀委員長の仕事ぶりはどうだい?」

「凄い頑張って仕事してるよ! 摩利さんよりも物を捨てるのが早いし!」

 後半のエリの(皮肉とかではない純粋な)言葉は、摩利と花音のどちらにも深く突き刺さった。摩利は整理整頓をせずに本部をゴミ屋敷一歩手前に追い込んだことを、花音は必要なものまで捨ててしまい風紀委員総出で捜索に当たらせてしまったことを気にしているようだ。

「それで渡辺先輩、用事は何でしょうか?」

 達也が本題へと促すと、摩利は気分を変えるように大きく咳払いをした。

「論文コンペの警備について、少し相談があってな」

「警備? それって風紀委員がするの?」

 エリの問い掛けに、摩利は頷いた。

「警備といっても、会場ではないさ。そっちは魔法協会がプロを手配するからね。風紀委員が担当するのは、チームメンバーの身辺警護と資料や機器の見張り番だ。コンペには“魔法大学関係者以外非公開”の資料も使われているからね、だから時々産学スパイの標的になることがあるのさ」

「……例えば、ホームサーバーをクラックするとか?」

「いやいや、そこまで本格的なものじゃない。所詮はチンピラの小遣い稼ぎレベルで、置き引きや引ったくりくらいだよ。とはいえ、警戒するに越したことはないな。4年前には、会場に向かうプレゼンターが襲われて怪我をした例もある」

 確かに、現代ではネット内での情報窃取は強盗よりも重い罰が科せられている。データの改竄に至っては殺人未遂レベルだ。そんな重いリスクを背負って、わざわざ高校生の論文を盗み出そうなんて奇特な輩はそうそう現れないだろう。

「当校でも護衛がつけられていて、毎年風紀委員と部活連執行部から選ばれている。だが具体的に誰が誰を護衛するのかについては、本人の意思が尊重されるけどな」

「もちろん、啓はあたしが守るからね!」

 花音は当然とばかりにそう言って五十里に抱きつき、彼もそれを拒否しなかった。ここは決まりだろう。

「ちなみに市原には、服部と桐原がつくことになっている」

「部活連会頭が自らですか。それはまた……」

 若干棒読みぎみの達也の言葉に、摩利は「あいつは市原に頭が上がらないからな」と人の悪い笑みを浮かべて答えた。

「……それで問題は君なんだが、君は正直なところ、下手に護衛をつけるとかえって足手纏いになる可能性の方が高いだろ?」

「まぁ、そうですね。護衛が必要でしたら、エリをお願いしたいのですが」

「ふむ……、確かにそれが一番だろうな。――エリちゃん、頼めるかな?」

「うん、良いよー」

 にっこりと笑って快諾するエリに、摩利も満足そうな笑みで頷いた。

「よし、それじゃ服部にはあたしからそう伝えておこう」

「……ん? なんで摩利さんがそんなことをするの? 摩利さんはもう引退したんだから、今の風紀委員長の花音さんがやるものなんじゃない?」

「へっ? いや、別に深い意味は無いというか……」

 言葉を詰まらせしどろもどろになる摩利に、達也は軽く眉を上げてみせた。

 過保護ですね、という彼の無言のメッセージは伝わったらしく、摩利は頬を紅く染めて決まり悪くそっぽを向いた。

 

 

 

 部屋を退出する摩利を見送った達也たちは、コンペに使用する3Dプロジェクター用の記録フィルムの買い出しに出掛けた。いつもなら校内の売店でも売っているのだが、たまたま今日に限って切らしていたために外の商店街まで足を運ぶことにした。

「わざわざ先輩達についてきてもらわなくても、俺とエリだけで大丈夫なのですが……」

「いや、達也くん達に任せきりじゃ悪いよ。僕も自分の目でサンプルを見ておきたいし」

「……そうですか」

 道のりを半分ほど過ぎてから達也が声を掛けたのは、言葉通りの意味以上に所構わずイチャイチャする2人(花音が一方的に迫っているだけに見えるが、それを止めようとしない五十里にも責任はある)を見ていられないから、という理由が強いのだが、達也はこれ以上何も言わずに大人しく歩みを進めることにした。

「啓さんと花音さんって、いつも仲が良いよね」

 と思った矢先、エリが何の躊躇いも無く踏み込んできた。

「そりゃあ啓は格好良くて強くて頭も良くて性格も良いからね! もし許嫁じゃなかったとしても、啓以外と結婚なんて考えられないもんね!」

 制服を変えるだけで“背の高い中性的な美少女”になる五十里を格好良いと表現するのは些か珍しいが、価値観は人それぞれだからと達也は口を挟むことはなかった。というより、挟みたくなかった。というより、人目も憚らず大騒ぎする彼女達とは他人の振りをしていたかった。

 というわけで達也が一切の無言を貫いている内に、目的地の商店街へと辿り着いた。

 基本的に達也とエリは目的の買い物を済ませるとさっさと帰宅するタイプで、花音は五十里と一緒に出かけると意味も無く時間を費やすタイプである。なので必然的に達也とエリは、花音達が出てくるのを店の外で待つ形となっている。

 そして横に並んで立つ2人は、視線を店の方に固定したまま口を開いた。

「後ろ、30メートル。分かるか?」

「うん、私でも分かる。かなりの素人だね」

「ああ、この前のスナイパーとは雲泥の差だ。コンペ絡みの軽犯罪者か?」

「どうする? 放っておく?」

「まぁ、特に何もされてないからな。それで良いだろ」

 そんな会話を交わしたところで、五十里と花音が店から出てきた。花音の機嫌がやけに良いのは、五十里と一緒に買い物ができたからだろう。

「お待たせ。ごめんね、遅くなっちゃって――2人共、何かあったの?」

「あっ、啓さん。えっとね、さっきから監視されてるみたいからどうしようかって――」

「監視? スパイってことね!」

 エリが喋るのを割り込んで花音が大声で叫んだ。それはわざわざ犯人に対して逃げろと言っているのと同じであり、案の定こちらを盗み見ていた視線が外れて気配が遠ざかっていく。

「――あいつか!」

 しかし、さすが摩利の後釜に選ばれるだけあって花音はすぐさま怪しい人物の姿に気づくと、陸上部のスプリンターとして鳴らしている脚力を存分に活かしてそいつを追い掛け始めた。

「花音! 魔法は――」

「分かってる! あたしを信用しなさい!」

 五十里にそう呼び掛けてスピードをぐんと早めた花音は、逃げていく小柄な人物の後ろ姿を視界に捉えた。そいつは自分と同じ第一高校の制服を着た少女で、花音は意外感を覚えて目を見開くも、すぐに気持ちを切り替えてさらにスピードを上げる。

 あと10メートル、となったところで、逃走している彼女が肩越しにこちらを振り返った。ゴーグルもマスクもしていないその顔を目に焼き付けようと、花音は彼女の顔を凝視した。

 その結果、花音は気づくのが遅れた。

 その少女が後ろ手にカプセルを放り投げていたことを。

 花音がそれに気づいて咄嗟に腕で顔を庇った次の瞬間、カプセルから強烈な閃光がほとばしった。まぶた越しですら眼球を痛めつけるほどの光に、逃走劇をたまたま見ていた通行人から悲鳴があがった。

 花音が何とかぎりぎりで難を逃れた右目で見遣ると、少女はスクーターに乗って逃走を図ろうとしているところだった。逃がすものか、と花音はスクーターの接している地面に向かってお得意の“地雷原”を繰り出そうとする。

 しかしそれは、背後から飛んできたサイオンの銃弾によって起動式を破壊されることで未遂に終わった。

「何をするの、達也くん!」

 花音はサイオンの銃弾を放った張本人・達也を睨みつけ、すぐさま少女へと視線を戻した。

 しかし少女は、先程の場所から少しも動いていなかった。いや、本人はアクセルを全開にしているのだが、タイヤが空回りして前に進まないのである。花音がハッとして五十里の方を向くと、彼はほっと胸を撫で下ろしたような表情でCADを構えていた。

 放出系魔法“伸地迷路”(ロード・エクステンション)

 タイヤと地面の境目にある電子の分布を操作してクーロン力を斥力に偏倚させることで、擬似的に摩擦力をゼロにする魔法である。複合的にジャイロ力を増幅する魔法と併用することで、スクーターは倒れることすらできずにその場を走り続ける。

 あとはゆっくり彼女を捕まえるだけ、と誰もが思った次の瞬間、

 ぼんっ――!

 スクーターのシートが突如爆発し、2連装のロケットエンジンが火を噴き出した。弾き飛ばされるように急発進するスクーターに、少女は体を仰け反らせながらもハンドルから手を離すことはなかった。おそらく、手にはめているグローブに何らかの細工を施していたのだろう。

「……何考えてるのよ、あの子」

 みるみる小さくなっていく少女の後ろ姿を見送りながら、花音は呆然とした表情で呟いた。五十里も達也も、口にはしなかったものの完全に彼女に同意だった。

 あれだけの時間燃焼していられることから考えると、万が一転倒した拍子に引火した場合、通行人を巻き込んで派手に爆死していただろう。そもそも転ばずにまっすぐ走れたこと自体奇跡のようなもので、もしもジャイロ力を増幅させる魔法を使用していなかったら、前輪の摩擦係数が限りなくゼロに近づいていなかったら、急発進の加速でハンドルを取られて転倒して大惨事である。

「お互いに運が良かった、ってことかな……」

 自分が死と隣り合わせな状態だったことに気づき、五十里は自然と体を震わせていた。

 と、彼の背後から近づいてきたエリが口を開いた。

「今の人、一高の制服を着てたね」

「そうよ! もしかして、一高の生徒がスパイとか!」

「千代田先輩、彼女の顔を見ましたか?」

「確かにこの目で見た……けど、さっきのことで記憶が曖昧で――」

「私、ばっちり見たよ。顔も憶えてる」

「本当かい、エリちゃん!」

「でかした。帰ったら風紀委員のデータベースで確認するぞ」

 達也と五十里は程度の差こそあれ喜びを顕わにすると、エリと共に学校への帰路を行く。

 そんな3人――特にエリの後ろ姿を眺めながら、花音は自分の無力感に唇を噛んだ。

 

 

 *         *         *

 

 

 東京の池袋にある古いビルの一室、表向きは雑貨貿易商ということになっているそこは、旧式のモニターがびっしりと並び、男達が食い入るようにそれを見つめていた。そのモニターの内の1つには、先程達也たちから必死に逃げていた少女の姿がある。

 そして彼女を眺めていた男が、後ろに立つ男に渋い表情で問い掛けた。

「あの小娘は大丈夫なのか?」

「彼女を手配したのは周大人(チュウたいじん)です。たとえ彼女がヘマをしても、我々の存在を知られることはないかと」

「あの若造の仲介か。どこまで信用して良いか……」

 男はこのアジトを用意した青年の顔を思い浮かべながら、忌々しげに呟いた。気に食わないが信用するしかない、というのが男の本音だろう。

「例のレリックの方はどうなっている?」

「フォア・リーブス・テクノロジー社から持ち出された形跡はありませんが、現所在は不明です」

「……ふん、Four Leaves(四葉)か。忌々しい名前だ。“あの”四葉とは無関係だったな?」

(シー)。詳細を調べましたが、何の繋がりも出てきませんでした。この国において四葉及び八葉を意味する名称は、魔法関連企業においては好んで用いられるものですので」

「ふん、虎の威を借る、とやらか……。だが確かに、こうやって無駄に時間を掛けて調べなければいけなくなるくらいには効果があるな。――司波小百合が訪れたあの家については?」

「あの家には、夫の連れ子が住んでいるそうです。隣の家に住む者達は、その子供と親しい関係にあるようです」

「その2人の素性は?」

「共に、魔法大学付属第一高校の1年生です。隣の家に住む子供の1人も、同じく」

「……成程、魔法大学附属高校か。これは好都合かもしれんな。――魔法大学付属第一高校を活動対象に追加。必要ならば人員を割いても構わん。それと小娘に対する支援も強化、情報漏洩が最も効果的な報復になると“教えて”やれ」

 そこで初めて、男は後ろへと顔を向けた。

(リュウ)上尉。現地で指揮を執れ。余所の犬が嗅ぎ回ってるようなら排除しろ」

「是」

 大柄な若者にそう命令した男は、静かに部屋を出ていった。

 

 

 *         *         *

 

 

「一高の生徒に襲われた? お兄様に対して、なんて不届きな!」

 その日の夜、例によって例のごとく厚志の家で夕飯をご馳走になっている達也は、そこで昼間の出来事を話した。真っ先に反応したのは一緒に食事していた深雪であり、各々でリアクションを取ろうとしていたミルココ達は出鼻をくじかれて曖昧な姿勢で固まっていた。

「それで、その生徒は誰なのか分かったのかい?」

「うん。1年G組の、平河千秋って人だったよ」

「……ん? 平河? どっかで聞いたような……」

「ほら、あれだよ。代表を退いて達也に押しつけた生徒。彼女も確か“平河”だったよね?」

 押しつけた、のところで若干苦笑いを浮かべた達也が、こくりと小さく頷いた。

「そう。その平河先輩の妹だ」

「そんな平河先輩の妹が、なんでまた達也を監視してたの?」

「分からない。それに敵意を持って見ていただけであって、何か実害があったわけではないからな。今彼女を問い詰めたところで『追い掛けられたから咄嗟に逃げた』とはぐらかされるのがオチだろう」

「達也としては、もうちょっと泳がせておきたかったんじゃない? まぁ、警戒されちゃった今となっては難しいかもしれないけど」

「でも多分、その子はまた来ると思うよ? どうせ大したことはできないかもしれないけど、万が一のこともあるし、私達がそれとなく見張っていようか?」

 ミルクの言葉に、達也は少しの間考える素振りを見せ、

「……そうだな。よろしく頼む」

 小さな声でそう言うと、左手にご飯をよそった茶碗を持ったまま顔を俯かせた。

「どうしたんだい、達也くん?」

「いえ……。ただ、ここ最近密入国者の報告が挙がっていて、魔法関連の企業が相次いで盗難の被害に遭い、昨日の夜に俺のホームサーバーがクラッキングを仕掛けられた矢先に、いかにも俺のことを探っているような生徒を見掛けたものですから、つい勘ぐりたくなってしまいまして……」

「その生徒と一連の事件が繋がってる、ということかな?」

「考えすぎの可能性の方が高いんでしょうが……、どうにも不安を拭いきることができなくて」

「達也のその手の予感って、何だか外れた試しが無いよね」

「そうそう。むしろ達也がそういうものを呼び込んでるんじゃないか、って勢いだよね」

 そう言ってケラケラと笑うミルココに、達也は軽く2人を睨みつけた。

「とはいえ、今のところは受け身で警戒する以外に何もできないのがもどかしいよ」

「大丈夫だよ、達也さん! もし誰かが襲ってきたとしても、私が守ってあげるから!」

 エリは高らかにそう宣言して、達也に見せつけるようにグッと握り拳を作った。フンフンと鼻を鳴らすその様子は、自分に与えられた任務を全うしようという強い意志の表れだった。

「ははは、戦略級魔法師をプリティ☆ベルが護衛するのか」

「見る人が見れば、戦々恐々とする光景だろうね。主に軍事バランスの崩壊的な意味で」

「警戒するのは大事だけど、あまり根を詰めすぎないようにね」

 厚志家の食卓は、会話の内容とかけ離れてとてもほのぼのとした空間だった。

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