魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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第7話 『自分が全力を出し、相手に全力を出させなければ、大抵の勝負には勝てる』

「達也が風紀委員に! そりゃまたいきなりだな」

「風紀委員にスカウトされるなんて、凄いじゃないですか!」

「でも風紀委員って、喧嘩の仲裁が仕事なんでしょ? 面倒臭そうじゃない?」

「そうか? 俺は面白そうだと思うけどなー」

 午後、実習の合間に達也がレオ達3人に昼間の出来事を話すと、そのような反応が返ってきた。皆まるで自分のことのように喜んでくれているようだったが、当の本人である達也だけはどこか浮かない表情だった。

「どうした、達也? 嬉しくないのか?」

「ああ、いや、ちょっとな……」

 達也の反応に首をかしげるレオだったが、実習の順番が達也に回ってきたのでひとまず引っ込むことにした。

 今回の実習の課題は、“据置型のCADを使って魔法を発動させ、レールに設置された台車を連続運動で3往復させる”というものだった。

 元々魔法というのはオカルト要素が強く未知の力という印象が強かったが、CADの誕生によってその印象は大きく塗り替えられた。

霊子(プシオン)”と同じく超心理現象の粒子である“想子(サイオン)”をCADに送り込み、“起動式”を出力する。起動式は使用者の肉体を介して吸収され、それを自身の脳内に有する精神機構“魔法演算領域”へ送り込み、“魔方式”を作り上げて発動する。これが現代の魔法である。

 こうして文章で書くと、様々な行程によって魔法が発動されていることが分かる。このシステムにより現代の魔法は正確さと安全と多様性を獲得したのだが、逆に旧来の魔法が持っていた“スピード”を犠牲にしてしまった。

 なので現在の魔法教育において、速さの獲得というのは最重要課題と言っても良いだろう。

 ところが、

 ――据置型CADに、自分のサイオンを送り込む……!

 達也は自分の左手をCADに置き、意識を集中させる。魔法師にしか見えない青白い光が発生し、台車を動かすための魔法式を作り上げていく。やがて達也が右手を台車に向けて差し出すと、台車は一瞬がたんと音を鳴らして動き出し、レールの上を滑らかに進んでいく。

 だが、

 ――やはり遅すぎる、これは二科の中でも明らかに下位だな……。これが俺の“実力”か……。

 達也は静かに溜息をつき、その場を離れた。

 やはり風紀委員の誘いは辞退しよう、という想いと共に。

 

 

 

 そして放課後、再び生徒会室にやってきた司波兄妹とエリの3人は、入口にあるパネルに声を掛けて部屋の中へと入っていった。

 3人を出迎えたのは、パソコンの前で何やら作業をしている真由美ら昼間の面々に加え、じっと窓の外を眺める1人の男子生徒がいた。その人物は、入学初日に真由美が深雪と一緒に達也の所へやって来たときに、彼女の隣に付き従っていた男子生徒だった。

 そして、達也は悟った。おそらくこの人物が、昼間に不在だったもう1人の生徒会メンバーである服部副会長なのだと。

「妹の深雪の生徒会入りと、自分と美咲エリの風紀委員入りの件で伺いました」

「…………」

 達也の言葉に、服部は何も答えずにつかつかとこちらへ歩み寄っていく。

 そして達也の脇を通り過ぎると、その後ろにいる深雪へと話し掛ける。

「ようこそ、司波深雪さん。副会長の服部刑部(ぎょうぶ)です」

 その露骨な態度に、深雪は眉を僅かに寄せた。服部はそれに構うことなく、隣にいるエリへと向き直る。

「君の噂はいろいろ聞いてるよ、美咲エリちゃん。これからよろし――」

「摩利さーん! 私達はこれから何をするのー!」

 エリは服部の言葉を遮って、彼の後ろにいる摩利へと呼び掛けた。その露骨な態度に彼の口元が僅かに引きつり、真由美はぷっと思わず噴き出してしまっていた。

「よし、それじゃ達也くんとエリちゃん。妹さんは生徒会に任せて我々は移動しようか」

 エリの言葉に、摩利は部屋の中にあるもう1つのドアへと歩いていった。風紀委員の本部は生徒会室の真下にあるのだが、専用階段で互いの部屋が繋がっているという変わった造りをしている。

「渡辺先輩、待ってください」

 しかし、それを服部が呼び止めた。その鋭い視線は、達也へと向けられている。

「どうした、服部刑部少丞範蔵副会長?」

「ちょ……、フルネームは止めてください! 服部刑部です!」

「それはおまえの家の官職名だろ?」

「今は官職なんてありません!」

「じゃあ、服部範蔵くん」

「歴史上の人物と一緒にされたくありません!」

 先輩である摩利の言葉にも、服部は怯むことなく反論していった。ちなみに達也と深雪は彼が言ったように歴史上の人物を思い浮かべていたが、エリは100年以上経っても色褪せることのない超名作漫画の主人公を思い浮かべていた。

 すると、その遣り取りを聞いていた真由美が苦笑しながら声を掛ける。

「まぁまぁ、摩利。はんぞーくんにもいろいろ譲れないことがあるんでしょ?」

「はん……まぁ、はい」

 ――会長には何も言わないんだな、興味深い……。

 これは達也が心の中で呟いたことだったが、深雪やエリもまったく同じことを考えていた。

「とにかく、渡辺先輩……。私はそこの1年の風紀委員入りに反対です。過去一度たりとも、ウィードが風紀委員に任命された例はありません」

「服部、それは禁止用語のはずだ」

「今更取り繕っても仕方のないことでしょう。用語はともかく、ブルームとウィードの差は明白であり、ウィードが風紀委員としてブルームを取り締まるなど不可能です」

「しかし、一科生のみで構成されている風紀委員が二科生も取り締まるのは、それぞれの溝を深める一因となっている。私が指揮する風紀委員には、差別の助長があってはならない」

「兄の実力不足を心配していらっしゃるのでしたら、それは必要ありません。実技の成績が芳しくないのは採点基準が兄と合っていないだけであり、実戦ならば誰にも負けることはありません」

 摩利の言葉に付け加えるように、深雪が力説した。それを聞いた服部が、笑みを浮かべて深雪へと向き直る。

「深雪さん、僕達はいずれ魔法師になるんだ、いつも冷静を心掛けなさい。身贔屓に目を曇らせてはいけませんよ」

「な――!」

「エリちゃん、君は昨日の食堂で『一科生と二科生の差はほとんど無い』と言っていたそうだね。それは君が、この学校での授業をまだ本格的に受けていないから言えることだ。修練を積めば積むほど、ブルームとウィードの差は明確に表れる。君も将来魔法師になりたいなら、“現実”というものに目を向けてみるべきだよ」

「――へぇ」

 そのときのエリの声は、普段からは考えられないくらいに低く落ち着いたものだった。

 ――まずいな……。

 達也が内心そう思ったのは、深雪が怒りかけたときではなく、エリのときだった。

 深雪の場合は、彼女がどれだけ頭に血が上ろうが達也が声を掛けることで静めることができる。彼女はどんなことがあっても、兄の考えを優先させるからである。

 だが、エリは違う。

「……服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

「!」

 驚愕の表情を浮かべたのは服部だけでなく、この部屋にいたほとんどの人間だった。唯一表情が変わらなかったのは、エリくらいである。

「模擬戦だと? 思い上がるなよ、補欠の分際で!」

「服部副会長、先程自分で『魔法師は常に冷静を心掛けるべき』ではなかったのですか?」

「貴様――!」

「風紀委員になることには、今でも消極的です。このまま取り消されても、別に文句はありません。……ですが、このまま放っておくと、どうなるか分かりませんので」

 達也はそう言うと、ちらりとエリへ視線を向けた。彼女はにっこりと口元に笑みを浮かべてみせたが、その目はまったく笑っていない。

「……良いだろう、身の程を教えてやろうじゃないか」

 服部の言葉を受け、真由美が真剣な表情で口を開いた。

「分かりました。では、生徒会権限により、2人の模擬戦を正式に許可します。時間はこれより30分後、双方共にCADの使用を許可します」

 

 

 

 模擬戦の場として選ばれた第3演習室は、四方を壁に囲まれただだっ広い部屋だった。確かにここなら、魔法を思いっきりぶっ放しても被害は無いように思われる。

「それにしても達也くん、君が案外好戦的な性格で驚いてるよ」

「そうですね、自分でも驚いてますよ。もしかしたら、“周りの人達”に影響されたのかもしれませんね」

「周りの人達……? まぁ良い。それで、自信はあるのか? 服部は第一高校でも5本の指に入る実力者、試合に関しては入学以来1年間負け知らずだ」

 それを聞いて、達也は服部へと目を向けた。彼はこちらなど気にする様子も無く、左手首に装着しているCADの調整に余念がない。

 すると達也も、持っていたスーツケースのような鞄を床に置き、その蓋を開けた。拳銃の形をしたCADが2丁、弾倉のような形をしたストレージが6つ収められている。

「いつも複数のストレージを持ち歩いているのか?」

「ええ、自分の能力ではそうしないと魔法の使い分けができないので」

 達也はそう言いながら、ストレージをCADに装着した。それが準備完了の合図だったかのように、模擬戦を行う2人以外の面々が壁際へと移動する。

「それではルールを説明する。相手を死に至らしめる、あるいは回復不能の怪我を負わせることは禁止。直接攻撃は、相手に捻挫以上の負傷を与えない範囲で行うこと。武器の使用は禁止、素手による攻撃は許可する。勝敗は相手が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。――なお、ルール違反は私が力ずくで止めるから覚悟しておけ。以上だ」

 摩利がルールを説明している間、服部は試合運びをシミュレーションしていた。

 魔法師同士の勝負では、先に魔法を当てた方が勝つ。そして一科生と二科生とでは、CADによる魔法発動速度では一科生に完全に分がある。

 まず試合開始直後に、スピード重視の単純な起動式で相手より早く展開を完了させる。魔法は基礎単一系の移動魔法であり、これで相手を10メートル後ろへ吹き飛ばし、壁に激突した衝撃で意識を消失させる。たったこれだけで、服部の勝利は確定する。

 ――とか、考えてるんだろうなぁ……。

 エリは服部に挑発(と彼女は受け取った)されたときから変わらぬ無表情のままで、そんなことを考えていた。

「――それじゃ、始め!」

 摩利の合図と共に、服部は起動式の展開を――

「!」

 その瞬間、達也が一瞬の内に服部との距離を詰めた。一瞬驚きの表情を見せる服部だったが、すぐさま後ろに飛び退いて魔法の座標を修正、達也を捉えようと前を見据え――

「え――」

 そこには、達也の姿が無かった。

 そして次の瞬間、後ろから押されるような衝撃と共に、刃物で金属を擦るような甲高い音が頭の中に直接鳴り響き、強烈な吐き気に襲われて立つことすらままならなくなる。やがて耐えきれなくなった服部は床に倒れ伏し、そのまま意識を失ってしまった。

 達也は服部の“後ろ”から、じっとそれを眺めていた。

「しょ、勝者! 司波達也!」

 ほとんど一瞬で起きた一連の出来事に、真由美達ギャラリーは唖然とした表情で見つめていた。やがて我に返った摩利が、思い出したように模擬戦終了の宣言をする。そして深雪は達也の勇姿をうっとりとした表情で眺め、エリは腕を組んで真剣な表情で未だに床に倒れている服部を見つめている。

「……達也くん、今の高速移動は魔法か? 自己加速術式のように見えたが……」

「いいえ、魔法ではありません。そんなことをしたら、試合前にCADを発動させたことになってルール違反じゃないですか。あれは純粋な身体的技術です」

「純粋な……? にわかには信じられん……。しかし古流魔法の1つの“忍術”は、確かそのような技術があると聞いたな……」

「じゃあ、あの攻撃魔法も忍術なの? 私の目には、サイオンの波動そのものを放ったように見えたんだけど」

 真由美の質問に、達也は頷いた。

「その通り、サイオンの波動です。振動の基礎単一系統で作ったサイオンの波動で、服部副会長を“酔わせた”んです」

「酔わせた?」

 魔法師はサイオンによる光や音を、一般のそれと同じように知覚する。それは魔法師になるのに必須の技術なのだが、予期せぬサイオン波に晒された魔法師は、揺さぶられたように錯覚し船酔いに似た症状を引き起こすことがある。

「でも、私達は普段からサイオン波には慣れてるわ。そんな私達が倒れるほど強力なサイオン波なんて……」

 そのとき、今まで無言だった鈴音がふいに口を開いた。

「波の合成、ですね?」

 鈴音の見解はこうだ。振動数の異なるサイオン波を3連続で撃ち出し、その波がちょうど服部のいる位置で合成するように調整、三角波のような強い振動を生み出したというのである。

 しかしそうなると、ここで1つの疑問が生まれる。あの短時間で3回の振動魔法を発動できるというのは、かなりの処理速度だ。それだけの技術を有しているとなると、試験での評価が低いのは納得がいかない。

 しかしそれは、思わぬところから解決の糸口が発見される。

「あ、あの! 達也くんの持ってるCADって、“シルバー・ホーン”じゃありませんか! しかも銃身が長い限定モデル!」

 今にも達也に飛び掛かりそうな勢いで彼に駆け寄ってきたのは、大人しそうな小動物のような印象のあずさだった。彼女は鼻息を荒くしながら、達也の持つCADを目を輝かせて見つめている。

「あーっと、あずさ、その“シルバー・ホーン”っていうのはどういうものなんだ?」

「渡辺先輩、ご存じないのですか! “ループ・キャスト・システム”を完成させた、本名・姿・年齢がすべて非公開の奇跡のCADエンジニアであるトーラス・シルバーが、“ループ・キャスト”向けに最適化されたフルカスタマイズCADがこの“シルバー・ホーン”なんですよ! あ、ちなみに“ループ・キャスト・システム”というのは、一度の展開で同じ魔法を何度も連続して発動できる起動式のことで――」

「あーちゃん、分かったからちょっと落ち着きなさい……」

「あのう、もっと近くで見せてもらえませんか!」

「いや、中条先輩、もうしまうんですけど……」

 一気に騒がしくなった演習場内で、鈴音が1人考え込んでいた。

「ですが、それだとおかしいですね。そのシステムは“まったく同じ魔法を連続発動する”ためのもの。それでは波の合成に必要な“振動数の異なる複数の波動”は作れないはずです。もし振動数を変数化しておけば可能ですが、座標・強度・魔法の持続時間に加えて4つも変数化しておくのは――」

 そこまで言ったところで、鈴音ははっとして達也へ顔を向けた。

 まさか、そのすべてをあの短時間で行っていたというのだろうか。

「……多数変化は、学校では評価されない項目ですからね」

 どこか自嘲的な笑みを浮かべてそう言った達也に、誰も言葉を返すことができなかった。

 確かに達也の言う通り、学校での魔法の評価項目は“魔法発動速度”と“魔法式の規模”と“対象物の情報を書き換える強度”の3つだけである。達也の場合、幾つもの変数を処理する能力は優れているが、先の3つに関してはせいぜい凡人の域を出ない程度のものだ。

 深雪が生徒会室で服部に言った“採点基準が兄と合っていない”というのは、このことだったのである。

「……ぐ、成程、そういうことか……」

 と、そのとき、今まで気を失っていた服部が目を覚ました。まだ気分が悪いのか、その顔色は優れない。

「大丈夫、はんぞーくん?」

「だ、大丈夫です! ご心配なく!」

 思わず大声となってしまい顔を紅くした服部だったが、すぐに気を取り直すと深雪のもとへと歩み寄る。

「司波さん、目が曇っていたのは私の方でした。どうか、許してほしい」

「いいえ、私の方こそ生意気を申しました。お許しください」

 2人が互いに頭を下げたことで、この騒動はひとまずの終息を迎えた。

 つまりそれは、達也が風紀委員入りを正式に認められたことを意味している。

 

 

 

「さて、達也くんにエリちゃん、ようこそ風紀委員本部へ!」

「…………」

「…………」

 満面の笑みを浮かべて摩利が案内した本部の光景に、達也とエリは口を開くことができなかった。

 本部には風紀委員1人1人に机と椅子が与えられているのだが、そのどれもが大量の書物(電子書籍が主流であるこのご時世に)やら事務用品やらCADやらそれらに付随する部品やらで溢れかえっており、それらの置き場としての機能しか果たされていなかった。

 いくら風紀委員の本分が校則違反をした生徒の取り締まりとはいえ、事務作業がまったく無いわけではない。生徒を取り締まったときには報告書を作成する必要があるし、そうでなくとも日々の活動報告を作成することが義務づけられている。

 果たしてその辺りに関する事務仕事はどうなっているのだろうか、と2人は心配せずにいられなかった。

「……エリ、今からでも遅くはない。生徒会の方に行ったらどうだ?」

「……だ、大丈夫だよ、達也さん。こ、これくらいのことで、自分の考えを変えるつもりは無い……から……」

「どうした、2人共? 遠慮することはないぞ?」

 2人の反応を見て、摩利は不思議そうに首をかしげていた。どうやらこの乱雑っぷりは昨日今日に始まったことではなく、摩利の感覚が麻痺するほどに長い期間このままなのであろう。

「……あの、ちょっとここを片づけて良いですか? 魔工技師志望としては、CADが放置されているのはちょっと……」

 達也はそう言って、手近な机の上の片づけに着手した。何も言わずに、エリもその作業を手伝い始める。

「達也くんは魔工技師志望なのか? あれだけの対人戦闘スキルがあるのに、勿体ないんじゃないのか?」

「ここの試験と同じですよ。俺の才能じゃ、この国の魔法師としては上位のランクは取れませんから」

「……そうか。すまなかった」

 申し訳なさそうに頭を下げる摩利に、達也は気にしていないといった感じに右手を挙げた。それを見ていたエリは、何とも複雑な表情を浮かべていた。主に、半笑いといった表情で。

「そのままで良いから、聞いてくれ。――君達2人をスカウトした理由はさっきも言ったが、二科生に対するイメージ対策が主だ。エリちゃんは先程の話だと、一科と二科の差別問題に関しては介入しないという方針のようだが、私のこの狙いに関してはどう思う?」

「風紀委員に二科生を入れること自体は、私は賛成だよ。本当は実力も無いのにイメージ対策だけで二科生の人をいれるんだったら反対だけど、達也さんみたいにちゃんと実力があるんだったら、一科二科に関係無く風紀委員に抜擢するのは良いと思う」

 ただし、とエリは片付けの手を止めて摩利に顔を向けた。

「今のこの状況で二科生の風紀委員っていうのは、ある種の“劇薬”に近いと思う。上級生は一科二科関係無く面白くないだろうから良いとして、問題は1年生だよ。確かに二科生からは歓迎されるかもしれないけど、一科生からはその2倍くらいは反感を買うんじゃないかな?」

「俺もエリの意見に賛成です。妹の深雪と一緒に昼食を食べようとするだけで、食堂の騒ぎまでに発展してしまうんです。そんな俺が風紀委員に入るとなったら、むしろ校内の治安を悪化させかねないと思うのですが」

 2人の言葉に、摩利は真剣な表情で頷いた。

「2人の意見はもっともだ。だが私も、今の学校の状況を健全だとは思っていない。実力があるにも拘わらず、二科生だからというだけで風紀委員などの重要な役職に選ばれないということが、私も真由美も我慢ならないんだ」

 摩利のその言葉には、エリも頷いた。少々ややこしいかもしれないが、彼女が昼間に言っていたのは一科生が二科生を差別することに対するスタンスについての批判であり、生徒の実力を学校側が“正当に”評価することを前提としたものだからである。

「2人が言っていたような反感も、おそらくは実際に起こるかもしれない。しかし私は、達也くんならばそんな反感にも立ち向かえるだけの“強さ”を持っていると思っている。勝手な頼みかもしれないが、達也くんには二科生でも風紀委員が務まる人材がいるということを証明してほしい」

「……なぜそこまで、俺の実力を買ってくれているのでしょうか? 確かに先程の副会長との試合には勝ちましたが、あれは不意打ちによって勝利をかっ攫っただけに過ぎないと思うのですが」

 達也の言葉に、摩利は一瞬躊躇うような仕草をしてから口を開いた。

「……実のところ、私達は君が入学する前から君に注目していた」

 彼女のその言葉に、達也の目が僅かに細められる。

「入学式の少し前に、ここから少し離れた所にある百貨店で魔法師が暴れる事件があっただろう? 私達はそれに関する映像を見て、その事件を解決したのが達也くんと深雪さんではないかと思っている」

 ――やはり、映像をすべて削除することはできなかったか……。

 心の中で秘かに後悔する達也の横で、エリが「えっ、達也さん達、あの事件に巻き込まれてたの?」と初めて聞いた風に彼に詰め寄っていた。

「……最終的にどうするかを決めるのは、君達だ。君達の好きにすると良い」

 摩利の言葉に、達也とエリは互いに顔を見合わせた。

 そして、

「今更ここまで来て、引き下がれるものじゃないでしょう。やりますよ」

「別に私も反対する理由は無いよ。面白そうだし」

 2人がそう答えると、摩利は不敵な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「ようこそ、風紀委員会へ」

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