魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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第69話 『物を隠すときのポイントは、目につきやすい物で注意を惹きつけることである』

「失礼致します」

 達也・深雪・厚志の3人が四葉家の応接室で待っていると、いかにも執事という格好をした見た目初老の男性が、形式的なノックの後に3人の返事を待たずにドアを開けた。その人物はこの家に勤める使用人の中でも1番の地位を持つ“執事長”の葉山であるが、彼は部屋に入ったもののそれ以上の口上は無かった。

 ただドアを開けるだけの役目なら、葉山ほどの人間がいちいち行うようなものではない。しかし達也たち3人の誰もが、葉山のその行動に疑問を持つことは無かった。

「お待たせ致しました」

 果たして葉山に続いて部屋に入ってきたのは、この家の主人であり現四葉家当主・四葉真夜だった。ほとんど黒に近い色合いのロングドレスを身に纏い、異性を妖しく惹きつけずにおかない妖艶な魅力と、思春期の少女を連想させるような可愛らしさという相反した印象を同居させている。実年齢は40歳を超えているはずなのに、どう上に見積もっても三十代前半くらいにしか見えない。

「本当に申し訳ございません。前のお客様がなかなかお帰りにならなくて……。約束の時間を過ぎているとはいえ、追い立てるような真似もできませんし……」

「いえいえ、お気になさらず。お忙しいのは存じてますから」

 頭を下げる真夜に、厚志は立ち上がって頭を下げて答えた。厚志の返事に、真夜はにっこりと笑みを深くした。

「深雪さんと達也さんも、どうぞお掛けになって」

 そして厚志に倣ってソファーから立ち上がっていた達也と深雪も、真夜に促されて再びソファーに腰を下ろした。葉山は真夜の分も含めて新たに紅茶を注ぐと、真夜の後ろへと移動して待機の姿勢を取る。絶妙に気配を消したその佇まいだけでも、彼がいかにこの仕事を長い間勤め上げているかが伺える。

 4人の前に置かれたティーカップに紅茶が注がれ、厚志達にそれを勧めながら自身も口にした。

 そして、真夜が「さっそくですけど」と話を切り出した。

「本日おいでいただいたのは、横浜事変に端を発する一連の軍事行動について、お知らせしたいことがありましたからですの」

「成程、それで達也くんや深雪ちゃんだけでなく、私も呼ばれたのですね」

「本当は私の方から出向くのが筋なのですが、何分私は自由に行動することが憚られる身分ですので……。申し訳ございません」

 そう言って再び頭を下げる真夜に、厚志も同じように頭を下げて「気にしないでください」と答えた。それを見て安心したように微笑んだ真夜が、その笑みを浮かべたまま口を開いた。

「今回の軍事行動につきまして、国際魔法協会に“懲罰動議”が提出されました」

「えっ!」

 真夜のその言葉に反応したのは深雪だけで、他の2人は無反応だった。

「あら、あまり驚かないのですね」

「ええ、ある程度は予測していたので。それにそこまで落ち着いた様子ですと、すぐに棄却されたのでしょう?」

 厚志の問い掛けに、真夜は面白そうに笑みを浮かべて頷いた。

「懲罰動議の内容は『1週間前に行われた鎮海軍港を消滅させた爆発が、憲章に抵触する“放射能汚染兵器”によるものではないか』というものでした。当然そのような事実は無く、あの魔法にもそのような効果は無いので、すぐに協会によってそれは否定されましたけどね」

 “放射能汚染兵器”とはその名の通り、放射能による環境汚染の恐れのある兵器のことである。兵器に限らずそのような効果を引き起こす魔法の使用も処罰の対象であり、そのような兵器の使用の疑いが強いと判断されれば、協会の手によって実行部隊となる多国籍チームを編成することができる。そうなればこれ幸いと各国が強力な魔法師をチームに推薦し、日本に送り込まれていたことだろう。

「もう少し驚いてくださっても良いのに……。ならば、こちらなら少しは驚いてくださるのではなくて? ――その爆発によって消滅した敵艦隊の搭乗員に“震天(しんてん)将軍”が含まれていて、戦死が確実視されています」

劉雲徳(りゅううんとく)が、ですか?」

 先程と違って今度は3人同時に目を見開き、代表して達也が真夜に問い掛けた。

 劉雲徳とは、それぞれの国が国威発揚を目的として公表している13人の“戦略級魔法師”の内の1人であり、大亜連合の威信を背負っていると言っても過言ではない重要人物である。“戦略級”と称されるだけあってその人物1人だけで戦局を大きく左右するほどの実力を持ち、だからこそ各国は彼ら、もしくは彼女らの動向に細心の注意を払っている。

「大亜連合は随分と厳重な情報管制を敷いていますけどね。でもまぁ、こうして“十三使徒”は“十二使徒”となりました」

 軍事バランス的にはかなりの重大ニュースを、真夜はいとも簡単に纏めてみせた。

「日本はこれに乗じて、大亜連合に対して大きな譲歩を引き出したいと考えているのでしょう。参謀長より五輪(いつわ)家に出動要請があり、佐世保に終結した艦隊に澪さんが同行しています」

「あの方が、軍艦に乗船されているのですか? お体に障るのでは……」

「それほどの奇貨だと考えているのでしょうね」

 驚きで思わず問い掛けた深雪に、真夜はあっけらかんとした様子でそう答えた。

 彼女達が話題にしている五輪澪という女性は、26歳という年齢でありながら、現時点で日本が公表している唯一の戦略級魔法師(つまり“十二使徒”の1人)であり、いわば日本にとっての切り札的存在だ。しかしその強大な魔法とは裏腹に肉体面はかなり虚弱であり、20歳を過ぎた頃から少しでも体力の消耗を抑えるために車椅子での生活を余儀なくされ、大学を卒業後は実家の屋敷から出ることすらほとんど無い。

「こちらが劉雲徳の情報を掴んでいるように、向こうも澪さんの動向を掴んでいることでしょう。また未確定の情報ながら、ベゾブラゾフ博士がウラジオストク入りしたとの情報もあります」

 真夜のその言葉に、達也が再び驚きを顕わにした。

 “イグナイター”イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ。彼はソビエト科学アカデミーに所属する科学者であると同時に、新ソ連が擁する戦略級魔法師でもある。

 今までは示威にのみ使われ実戦に投入されることのなかった戦略級魔法師だが、ここに来て4人(達也は存在を秘匿されているので公には3人)もの戦略級魔法師が動員されたことになる。これは場合によっては、20世紀中盤にあわや核戦争1歩手前まで追い込まれた“キューバ危機”にも匹敵する非常事態と言えるだろう。

「ですが、これもおそらく大亜連合が掴んでいるでしょう。そうすると――」

「近日中に、講和条約が締結される可能性が高いと?」

「私としては、そのように考えております。大亜連合が後先考えない馬鹿である可能性を除けば、ですけどね」

 真夜の言葉に割り込んで尋ねてきた厚志に、真夜は機嫌を悪くする様子もなく笑顔で答えた。若々しくも大人の可愛らしさと色気を兼ね備えた魅力的なものだが、残念ながら厚志にはそのような色香は通用しない。厚志自身は真夜みたいな大人の魅力を持つ女性がタイプであることは事実だが、それを理由に厚志が気を緩めるようなことはない。

「……3年前からの因縁は、これで決着がつくでしょう」

 真夜の声に不満の色が表れているように感じたのは、達也の錯覚とは断言できないだろう。

「しかし今回の鎮海軍港消滅は、多数の国が関心を寄せています。あの攻撃が戦略級魔法師の仕業だと当たりをつけ、術者の正体に探りを入れている国も1つや2つではないでしょう。3年前の沖縄海戦のときにはプリティ☆ベルに変身した厚志さんが上手く隠れ蓑になってくださいましたが、その共通点に思い至り、手掛かりにしようとするグループも出てくるでしょう。しかし私達としては、達也さんの正体を知られることは大変好ましくない事態です」

「ええ、それは私も同じです」

 厚志の力強い返事に、真夜は満足そうに頷いた。

「そう言っていただけると、こちらとしても心強いですね。――葉山さん」

 真夜からの突然の呼び掛けにも拘わらず、葉山は即座に「はい」と返事をして彼女に向き直る。

「せっかくですから、たまには“プライベートな会話”というのも楽しみたいところね。深雪さんをサンルームに案内してあげて」

「はい、かしこまりました」

 葉山は恭しく礼をすると、深雪へと歩み寄って「こちらへ」と促した。

 しかし深雪としては、ここで「はいそうですか」と立ち上がるわけにはいかない。達也や厚志がそれに呼ばれないということは、まだ2人に対する“会話”は続いていることを意味している。それも、自分を抜きにして行われる話題が残っているということだ。

 しかし深雪の不安そうな表情を敏感に悟った達也が、努めて柔らかい笑みを彼女へ向けた。

「心配するな、深雪」

「……かしこまりました」

 兄が自分の退出を望むのならば、深雪がそれに従わない選択肢は無い。深雪は真夜に向かって深く一礼すると、葉山と共に応接室を後にした。

 そして部屋には、達也と厚志、そして真夜の3人が残された。

「せっかくですから、お茶のお代わりは如何ですか?」

「では、お言葉に甘えて」

 厚志がそう答えると、真夜は自らポットを持って厚志のカップに紅茶を注ぎ始めた。四葉家の現当主直々に紅茶を注いでもらえる者など、同じ十師族や他国の有力者ですらそうそういないだろう。現に厚志の隣に座る達也は、表情には出していないもののかなり驚いているのだから。

「それで、わざわざ深雪ちゃんを外してまで話したいことは何でしょう?」

 紅茶を注ぎ終わったタイミングで、厚志が話を切り出した。真夜としても予期していたのか、特に動揺は見られない。

「横浜事変においては、達也さんも厚志さんも大活躍だったようですね」

「いえ、そんなことはないですよ」

 厚志の言葉はお世辞に対する謙遜とも取れるが、そもそも厚志も達也も真夜の言葉がお世辞ですらないと考えていた。

「でも四葉にとっては、少々困ったことになりました」

「それは申し訳ありません」

 案の定、真夜が次に口にしたのは苦言だった。そしてそれを重々承知している厚志は、素直に謝罪の言葉を口にした。そしてその隣で、達也も無言で頭を下げていた。形式的なものだと、誰もが感じるような所作で。

「あなた方としては巻き込まれたようなものですから、別に構いません。あそこまでやる必要があったのかどうかは、まぁ置いておきましょう。――問題なのは、今後のことです」

「何か具体的な問題が生じているのですか?」

 達也の質問に真夜は即答せず、目を閉じて紅茶に口をつけた。それに倣って、厚志と達也も同じタイミングで紅茶に口をつけた。

「“スターズ”が動き出しています」

 そしてそれを狙って真夜の口から飛び出したその言葉は、2人の動きを一瞬止めるほどの威力があった。

「それはつまり、アメリカ自体が動き出したということですか?」

「今はまだ、スターズが独自に調査を開始した段階です。しかし彼らは既に、あの魔法が質量をエネルギーに変換する魔法によって引き起こされたものであると掴んでいます。そして術者の正体についても、かなりの段階まで絞り込んでいます。――達也さんと深雪さんを容疑者の1人として特定するほどに」

 その言葉に目を見開いて反応したのは、達也本人ではなく厚志の方だった。

「凄い情報収集能力ですね」

「伊達に世界最強の魔法部隊を名乗っていない、ということでしょうね」

「いえ、そちらではなく、真夜さんの方ですよ」

「…………」

 厚志の言葉に、真夜は返事をしなかった。

「世界最強の魔法部隊を自認するUSNA軍スターズの諜報活動の成果を、ほぼリアルタイムで探り出せるなんて。スパイでも潜り込ませているのでしょうか?」

「さぁ、どうでしょう?」

 にっこりと笑って答える真夜に、厚志も同じようににっこりと笑った。2人共笑っているというのに、両者の間に流れる空気はピリピリと張り詰めている。

 その空気を壊すように、達也が横から口を挟む。

「しかしながら叔母上、スターズが自分達を容疑者にするのも当然ではないでしょうか? 厚志さんは3年前の沖縄海戦での爆発に立ち会っており、現時点においてもあの爆発が厚志さんによるものだとする見方が根強く残っています。ならば現在厚志さんと“親しい間柄”である自分達に疑いの目が向くのも、或る意味自然なことだと言えるでしょう」

「ええ、その通りです。というよりも、厚志さんが懇意にするあなた方については、各国の諜報機関が幾度も調査を試みているようです。もちろん、その程度でどうにかなるほど、こちらとしても甘くはないのですが。――だからこそ、これを機会に本腰を入れて調査する可能性も充分に考えられるでしょう」

「具体的には、自分達にスパイが差し向けられるとか?」

「ええ、そうですね。そしてもし、それによって向こうが達也さんを実力で排除する結論に至り、それが四葉に飛び火するようなことがあれば――」

 

 

「真夜さん」

 

 

 その瞬間、部屋の温度が急激に低下した。それは物理的な温度ではなく、部屋の空気が急激に張り詰めたものに変化したことによる体感的なものだった。

 その張り詰めた空気を生み出している元凶――厚志に対し、真夜はそれでもそのシニカルな笑みを崩すことなく、彼へとまっすぐ視線を向ける。

「ふふ、あなたのような“怖い方”が達也さんの傍にいてくださるのならば、我々としても非常に心強いですわ。――スターズにもプリティ☆ベルの活躍は轟いています。向こうとしても、プリティ☆ベル勢を敵に回すような真似はしたくないでしょう。スパイを潜り込むような真似はしたとしても、それほど危険視するような事態には発展しないと私は踏んでいます。なので厚志さん、怪しい人が周りをうろちょろしていたとしても、無闇に駆除しようなんて思わないであげてくださいね」

「善処します」

 遠回しな言い方で明言を避けるのは日本人のお家芸だが、ここまで不安になる遠回しな言い方もそうそう無いに違いない。とはいえ真夜としては、それだけでも充分だった。

「まぁ、もしかしたらアメリカとしても、それに対処するだけの余裕が無いかもしれませんし」

「……他にも何か、アメリカが動いている事案があるのですか?」

 純粋な疑問によって尋ねる達也に、真夜はクスリと笑みを漏らした。

 先程までの人を食ったようなものではない、ただ面白くて笑ったように思えるものだった。

「アメリカが動いているのではなく、動いている者をアメリカが監視しているという感じでしょうか? いえ、これはアメリカに限った話ではありませんね。世界の主要各国からしたら、このような“重要な時期”に死んでしまった劉雲徳に対して、恨み節の1つでもぶつけたい気分かもしれませんね」

 話している内に可笑しくなってしまったのか、真夜は笑い声を交えながらそのようなことを言った。明らかにじらすような言い方に、それを狙っているとは分かっていながらも、厚志も達也も彼女に尋ねないわけにはいかなかった。

「真夜さん、世界中が注目するような何かが、現在進行形で起こっているのですか?」

「ええ。とはいっても、厚志さんや達也さんにとっては大したことではないかもしれませんが」

 いい加減じれったくなってきた2人に気づいたのか、真夜は大きく深呼吸をして笑うのを止めると、2人を見据えながら口を開いた。

 

 

“黒の女王”(クイーン・オブ・ナイトメア)こと夜元綾香(やもとあやか)が、最近現代魔法の勉強を始めたようですわ」

 

 

「……それって、つまり――」

「ええ。おそらく彼女はエリちゃんと同じように、魔法科高校への入学を目指しているのかもしれませんね。もしかしたら、第一高校にやって来るかもしれませんよ」

「しかし、彼女にはルルイエが――」

「最近はかなり安定していますからね。未だに監視の目を絶やすことはできないようですが、普段の運営程度なら彼女の“部下達”がしっかり勤めを果たしてくれるでしょう。それにその気になれば、分身をルルイエに置いたまま外に出ることもできますし」

 真夜の言葉を聞いて、厚志は純粋に嬉しい気持ちになった。様々な出来事を経て普通の生活に戻れなくなってしまった彼女にとって、魔法科高校という特殊な環境とはいえ学生生活を満喫できるというのは、とても喜ばしいものである。

 しかしながら、彼女のその行動が世界の主要各国にとっては喜ばしくないこともよく分かっていた。彼女は下手しなくても、プリティ☆ベル以上に危険な人物として見られている。ルルイエという場所に閉じ籠もっていたからまだ良いものの、自分達の世界に出てこられたら堪ったものではないだろう。自分達が注意をしていても、どこの馬鹿が火種を持ってくるか分からない。

 とはいえ、厚志達からしたら充分に喜ぶべきことである。特に彼女と旧知の仲であり、今でも時々連絡を取るほどに仲の良いエリは大はしゃぎするに違いない。

「なので少なくとも、スターズが動くのは4月までと考えて良いでしょう。いかにスターズといえど、プリティ☆ベルと夜の女王が同時に存在する場所に長く留まっているなんて、心臓に負担が掛かりすぎてやっていられないでしょうからね」

「そうですか。綾香ちゃんが嫌な思いをしなくて済みそうですね」

 嬉しそうに笑いながらそう言う厚志に、やはり“身内”には甘いものですね、と真夜は笑みを浮かべる裏でそう思った。

 

 

 *         *         *

 

 

 厚志と達也が部屋を去った後も、真夜は天井辺りに視線を遣って物思いに耽っていた。しかしやがてテーブルの上に置かれた呼び鈴を手に取ると、大きく1回鳴らした。

「お呼びでございますか」

 即座に姿を現した葉山に、真夜はにこりと笑みを浮かべた。

「サンルームにいる深雪さん達をもてなしてあげて。後で私も向かうわ」

「かしこまりました」

 主人の命を遂行すべく部屋を出ようとする葉山に、真夜は「ちょっと待って」と呼び止めた。

「葉山さん、何か私に言いたいことはあるんじゃなくて?」

「……恐れながら、申し上げたいことが」

「何かしら?」

 真夜の問い掛けに、葉山は恭しく一礼してから口を開いた。

「深雪様と達也殿を、あのままにして宜しいのですか?」

「…………」

 何も言わない真夜に、葉山は言葉を続ける。

「確かに四葉はこれまで、歴代のプリティ☆ベルに対して協力姿勢を取ってきました。政治的な後ろ盾を必要とするときには四葉がパイプとなり、逆に政治的・軍事的な圧力が掛けられそうになったときには四葉が彼女達の壁となってきました。そういう意味では、四葉は間違いなく十師族の中でもプリティ☆ベルと近しい関係にいるでしょう」

「ええ、その通りよ」

「しかし今代のプリティ☆ベルに関しましては、少々距離が近すぎるように思えます。特に深雪様と達也殿があちら側についていると思われかねない現状は、間違いなく四葉にとってマイナス要因であると言わざるを得ません。――このままでは、深雪様を四葉家の次期当主に、とする真夜様のお考えにも支障が出るのでは」

 葉山は四葉に仕える大多数の使用人と違い、達也のことを軽んじたりはしない。彼自身の実力は数多くの魔法師を見てきた葉山をして“警戒すべき相手”と認識しており、それは厚志と共に過ごすようになった3年前と比べても確実に警戒レベルは跳ね上がっている。

 そんな“物事をしっかり把握できる”葉山だからこそ、真夜は使用人が主人にアドバイスをするという、無礼と思われても仕方のない行動を許容していた。しかし葉山本人の表情は、落ち着きこそあるものの緊張感と後ろめたさを漂わせていた。

 その認識のズレが可笑しくて、真夜は思わず「ふふふ」と口に手を当てて含み笑いをした。

 訝しげな表情をする葉山に、真夜は『気にするな』と言いたげに手を横に振る。

「心配無用よ、葉山さん。策は既に考えています」

「そうでしたか。差し出がましい真似をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 真夜がそう言うのであれば、葉山としてもこれ以上口を挟むことはない。葉山は深々と一礼すると、今度こそサンルームへ向かうべく部屋を出ていった。

 再び1人になった応接室にて、真夜は嬉しそうに笑みを深くした。

 彼女の脳裏には、3年前の厚志達との“会合”が思い描かれていた。

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