第-357話/第69.5話 『普段怒らない人ほど、怒らせると怖い』
2062年某日。四葉家現当主・四葉元造の娘、四葉真夜が誘拐された。
誘拐された場所は、
しかし、悲劇はそこで起きた。
まさに交流会の真っ最中に武装集団が会場に突撃し、この場にいる子供達の中で最も(政治的な意味で)有力な四葉真夜を誘拐した。会場には警備として魔法師も配置されていたのだが、その被害は甚大なものだった。彼らの中に敵と内通していた者がいたのでは、と後に陰謀論めいた仮説が提唱されるが、その真相は誰にも分からない。
そしてこのとき、彼女の婚約者だった七草弘一も重傷を負った。誘拐犯との戦闘により右手と右脚に裂傷と骨折、そして右の眼球を失うという有様だった。
彼の安否も心配ではあるが、それ以上に真夜は自分のこれからのことが気掛かりで仕方がなかった。麻袋で頭を覆われ、両腕を手首の辺りで縛られながら、真夜は誰かに背中を押されつつ前を進んでいく。
視界は塞がれているが耳は聞こえているので、周りの会話は聞き取ることができる。そしてそこから推測する限り、自分が今いるのは
大漢は中国の南半分が分離独立してできた国であり、それもあって大亜連合とは敵対関係にある。対馬が半年にわたって大亜連合に占領されていたこともあり、日本とは同盟国とまではいかなくても共通の敵を持つ協力関係にあったはずだ。
つまりこれは日本にとっては、或る種の“裏切り行為”にも見えるものだった。しかし何のことはない、ただ“敵の敵は味方”なんて単純なものではなかったというだけだ。
そして崑崙方院は大漢の組織であり、分裂前から大陸の魔法研究の中心的な存在だった。物量では大亜連合に圧倒的に劣る大漢が互角に渡り合えるのは、ひとえにここから生み出される軍事力によるものだ、というのが一般的な見方である。
そしてここは、四葉が属しており事実上の主である第四研究所とは別の意味で“悪い噂”の絶えない研究所だ。その噂は、特に女性にとっては正視に堪えない内容となっている。
それを思い出し、真夜の体がぶるりと震えた。今自分の背中を押しているその手も、目的地に着いたら自分へと襲い掛かってくるのかもしれない、という思いが、成熟しきっていないとはいえ自分の“女性”たる部分が悲鳴をあげて助けを求めるような感覚を生み出す。
「あー、それにしても今回は随分と“当たり”じゃねぇ?」
そんな中、自分をどこかへと連れて行こうとする誰か(体に触れる感触と声からして、おそらく全員男)がふいに口を開いた。
「へへっ、そうだな。まぁ、俺としては少しガキすぎる気もするが、このルックスなら充分釣りが来るわ」
「やっぱ何も言わねぇ死体じゃなくて、ちゃんと反応してくれる普通の人間の方が興奮するわぁ」
「おいおい、どうせてめぇは死体の方が興奮するんだろ?」
「何を言ってんだ。今回は“人体実験”の一環なんだろ? だったらちゃんと殺さずにヤってやるよ。俺は分別のついたオトナなんだぜ?」
「“分別のついたオトナ”がレイプなんてしねぇって!」
「はははっ! それを言うんじゃねぇよ!」
自分のすぐ後ろで頭を疑うような会話を繰り広げる彼らに、真夜は思わず足を止めてしまうほどの恐怖に襲われた。突然足を止めたせいで、彼女のすぐ後ろを歩いていた男が背中からぶつかり、真夜はその衝撃で突き飛ばされて前に倒れ込んだ。手を縛られているために碌に受け身も取れず、彼女は視界を塞がれたまま床にその身を叩きつけた。
体に走る痛みに顔をしかめながら起き上がろうとした真夜だが、次の瞬間に背中を思いっきり踏みつけられたためにそれは叶わなかった。
「ぐっ――!」
「お嬢ちゃん、人が歩いているのに勝手に立ち止まっちゃ駄目でしょお? 後ろの人がつっかえちゃって困るじゃないのぉ?」
「おうちでパパとママに教わらなかったのぉ?」
「しっかりしなきゃ駄目でしょお? これからは君が“ママ”になるんだからさぁ」
「ぎゃははははっ! やべぇ、上手いこと言う!」
自分を踏みつける足にギリギリと体重を掛ける男達に、真夜は恐怖と怒りとおぞましさと悔しさに体を震わせた。麻袋に隠れた顔は涙に濡れ、奥歯にヒビが入るのではと思うほどに噛みしめる。しかし今の彼らは真夜のそんな反応すら可笑しいらしく、聞くに堪えないノイズを彼女に浴びせ掛ける。
そして彼らは一頻り笑った後、未だに床に倒れたままの真夜の腕を引っ張って起こそうとする。
「さぁ、お嬢ちゃん。さっさと歩きましょうねぇ。大丈夫、怖いのは最初だけですぐに何も考えられないようになるからさぁ」
「それとも、ここで始めるかぁ? 別に俺はそれでも良いけどよぅ」
「あぁ、俺もう駄目だ。我慢できねぇわ。ここで始めても良くね?」
「おいおい、一応これは実験の一環ってことになってんだからよ、ちゃんと実験室でヤらなきゃ意味ねぇだろ」
「良いんだよ。どうせ向こうでもヤるんだから、その前に一発――」
ざしゅっ。
何かを貫くような音と共に、何か液体が飛び散るような音が真夜の頭上から聞こえてきた。そしてその液体らしきものが自分の体にも掛かり、生温かいそれから鉄さびのような鼻につく匂いが立ち籠めてくる。
そしてその瞬間、あれだけ騒がしかった男達の笑い声が聞こえなくなった。
「な、何っ!」
何が起こっているのか分からず、しかし顔を覆っている麻袋を取ることもできず、真夜はその場にうずくまって震えるしかなかった。彼らを襲う何者かがいつ自分に牙を剥くか気が気でなく、しかしあのまま男達に弄ばれるくらいならいっそここで――、という投げやりな感情すらも浮かび上がっていた。
そんなことを考えている内に、頭上の音がぴたりと止んだ。途端に周りは静寂に包まれ、視界を遮られている真夜は立ち上がることもできずに、次に起こる出来事をただ待っていることしかできなかった。
と、そのとき、誰かの手によって自分の頭を覆っていた麻袋が脱ぎ捨てられた。久し振りの光に真夜の目が眩み、そしてすぐに視界が回復した。金属のような素材でできた廊下らしきその場所には窓1つ無く、LEDの人工的な光が空間を明るく照らしている。
「――――!」
そんな無機質な空間に、成人男性と思われる人間の体が幾つも転がっていた。しかしそのどれもが原形を留めておらず、手足や胴体がバラバラになって散乱しており、床や壁には真っ赤な液体がべっとりと広がっている。
そんな恐ろしい空間のど真ん中に、“彼女”はいた。
セーラー服のようなデザインをしたピンク色の服を身に纏い、幼い女の子が好みそうな可愛らしい装飾品に彩られ、大きなベルがよく目立つステッキを手に握るその少女は、まるで女児向けアニメでよく見掛ける“魔法少女”のような出で立ちだった。その姿は凄惨な光景にはどこまでも不釣り合いであり、間近でそれを見ている真夜ですら現実感に乏しかった。
しかし、淡いピンク色の髪を揺らし、赤いリボンを2つつけたその少女は、そんな凄惨な光景のど真ん中で、真夜の姿を見てホッとしたように笑みを零した。
「……良かった、間に合った」
そしてその少女は、真夜の両手を縛っていた縄を解いた。久し振りに両手が自由になった真夜は、感覚を取り戻すように手を何回か動かしてから、改めて少女へと目を向ける。
自分よりも幼いように見えるこの少女が、なぜこんな場所にいるのだろうか。
そしてなぜ、自分を助けたのだろうか。
「……えっと、あなたは?」
「あっ、えっと……、私はあなたを襲っていた魔族の気配を辿ってここまで来たの。私が召喚する生き物の中に、こことは違う別の空間を移動する子がいて、その子にここまで連れてきてもらったんだ」
「……そ、そうなんだ……」
話を聞いてみたものの、結局何1つ分からなかった。“生き物を召喚する魔法”なんて聞いたことが無かったし、“こことは別の空間”に至っては訳が分からない。自分を騙そうとしているのか、と警戒心を持つが、だったらもう少し現実味のある嘘を吐くはずだ。
と、真夜が頭の中で色々と考えているそのとき、
「だぁ、もう! 美雪ちゃん、早すぎ!」
「いくら私達が美雪ちゃんを気配で追えるからって、置いていくことは無いでしょ!」
「きゃあっ!」
まるで水面から顔を出すように、いきなり床から姿を現したその生物に、真夜は驚きのあまり声をあげて尻餅をついてしまった。全体的に恐竜のような見た目をしたその生物は、本来目玉があるであろう部分に何も無く、ニタニタと口元を牙が見えるほどに笑みで歪ませている。
そしてその生物をよく見ると、その頭の上に、日に焼けたような黒い肌の女の子と、透き通るような白い肌の女の子が乗っていた。非常に顔が似ていることから、彼女達は双子かもしれない。
「ごめん、ミルク、ココア。急いでたから、つい」
「あっ、ひょっとしてその子? 魔族と手を組んだ人間に攫われた女の子って」
「うん、そう! 間に合ったよ!」
「そっかそっか、良かった。それじゃ、さっさとこんな所から――」
「いたぞ! あそこだ!」
ミルクとココアと呼ばれた双子と美雪と呼ばれた少女の会話を遮ったのは、研究所の職員らしく白衣を身に纏った男達だった。しかし一般的な研究員のイメージとは程遠く、思い思いの武器を構えながら、その獰猛な敵意をせいぜい小学生ほどの少女達へと向ける。
「日帝軍から奪った子供が逃げたぞ! 傍にいる子供と一緒に捕まえるんだ!」
「どうやって侵入したのか知らないが、その方法は貴様の“体”から訊くとしよう!」
「助けに来たのが子供だけとは、どうやら貴様らは日帝軍から見捨てられたようだな!」
次の瞬間には殺意を持った魔法が襲い掛かってくるという状況に、真夜は再び恐怖のどん底へと叩き落とされた。せめて自分を助けてくれた少女だけでも何とかしようと、真夜は咄嗟に彼女の方へと顔を向けた。
しかし、美雪の顔には恐怖の色が無かった。
「――神威召喚」
「ぐっ――」
「がぁっ!」
「――――!」
その瞬間、真夜の目に信じられない光景が映った。
美雪の言葉と共に何も無い空間から突如現れた幾つもの金色の剣が、ダーツのように高速で飛んでいったかと思った次の瞬間、それぞれ魔法師の体に深々と突き刺さっていた。それはあまりにも早い出来事で、真夜の目には彼らの体から金色の剣が生えてきたのかと思うほどだった。
「神威召喚! ティンダロスの猟犬!」
「ケタケタケタケタケタ――」
美雪が再び叫ぶと、先程と同じ生物が再び床から姿を現した。その生物――ティンダロスの猟犬は、美雪へ体を擦り寄せるように近づき、彼女が背中に乗りやすいように“伏せ”の姿勢を取る。
美雪はティンダロスの猟犬の背中によじ登ると、未だに呆然と佇んでいる真夜へと腕を伸ばす。
「早くこの子に乗って! 逃げるよ! 大丈夫、優しいから噛んだりしない!」
「――う、うん! 分かった!」
何が何だか分からない真夜だったが、彼女は美雪の手を掴んでティンダロスの猟犬の背中に跳び乗った。そして彼女の腰辺りに腕を回し、自分よりも細くて小さなその体躯に驚きを顕わにする。
しかし真夜がそれを自覚する暇も無く、彼女達を乗せたティンダロスの猟犬は再び床へとその身を潜り込ませた。床にぶつかると思い咄嗟に目を瞑った真夜だったが、来るべき衝撃がいつまでも来ないことに疑問を抱いて恐る恐る目を開く。
「……ここは、どこ?」
真夜の目に映ったのは、人工的な光に支配された研究所の廊下ではなく、地面と空(と思われる場所)にマス目のようなものが張り巡らされた、まるで電脳世界のようなイメージの空間だった。
「亜空間よ。普段私達がいる空間とは別の次元にあって、普通の人間はまず入り込めない。ここを経由すれば、亜空間能力者専用のセキュリティが無い限り、どんな場所にも侵入できる」
「あのメンバーの中には魔族もいたはずなのに、亜空間から侵入される可能性については考慮してなかったみたいだね。まぁ、だからこそあの研究所にも入れたんだけど」
美雪の代わりに質問に答えてくれたミルココの話を聞きながら、真夜は“亜空間”なる場所をしげしげと眺めていた。しかしいつまで経っても変わらない景色に飽きたのか、真夜の興味はすぐさま目の前の美雪へと移っていった。
先程彼女の腰に腕を回したときにも気づいたが、彼女は自分よりも年下で体が小さい。肉体的にも屈強な方ではなく、むしろ下手に触れたら壊れてしまいそうな弱々しささえ感じる。
――こんな小さな子供が、あそこに乗り込んで私を……。
ギュッと、真夜は美雪の腰に回す腕に力を込めた。
これが四葉真夜と、初代プリティ☆ベル・桃地美雪の出会いである。
* * *
自室で眠れぬ夜を過ごしていた四葉家現当主の長女・四葉深夜は、慌てた様子で部屋へと入ってきた彼女担当の女中からの報告を聞き、居ても立ってもいられずに部屋を飛び出した。純和風の外観をしながら中身は洋館という歪な出で立ちをしている廊下を走り抜け、一族の主要メンバーによる会談に使われる談話室へと駆け込む。
「真夜!」
「――姉さん!」
部屋に入って真っ先に視界に飛び込んできた妹の無事な姿に、深夜は周りの目を気にする余裕も無く彼女に飛びついた。真夜も目に涙を浮かべて彼女からの抱擁を受け止め、また真夜自身も彼女を力一杯抱き締める。
「2人共、感動的な再会に喜ぶ気持ちも分かるが、ここには真夜の“恩人”もいる。今は自重してもらおうか」
「あ、あの……、元造さん……。私は別に――」
四葉家当主・四葉元造――つまりは2人の父親の重々しい声と共に、2人はハッとして体を離した。恐る恐る父親へと視線を向ける2人だったが、元造の父親としての威厳を保とうとポーカーフェイスを装いながら口元の笑みは隠し切れていないという微妙な表情に、2人はホッと胸を撫で下ろした。
それと同時に、深夜はこの部屋に見知らぬ人物が3人いることに気づいた。1人はまるで魔法少女のアニメから飛び出したような可愛らしい少女、そして後の2人は双子なのかそっくりな顔立ちをした、自分よりも年下に見える女の子だった。
しかし何より深夜の目を惹いたのは、その双子の背中から生えている、
「えっ、白い羽根……? ……天使?」
うっかり口にしてしまった子供っぽい飛躍に、深夜は顔を紅くして元造へと視線を向けた。しかし彼は深夜の言葉に笑うどころか、真剣な表情を浮かべて深夜に頷いてみせる。
「……美雪ちゃん、先程の話を、この子にもしてくれるかな?」
「はい、分かりました」
そう言って彼女・桃地美雪の口から飛び出した“事実”は、中学生になったばかりの深夜が1回で受け止めきれるようなものではなかった。
「……えっ? プリティ☆ベル? リィン・ロッド? 召喚生物? 天界? 魔界? 天使? 魔族? ――申し訳ありません、お父様。私には何が何やら……」
「おまえがそんな反応をするのも無理はない。最初私が聞いたときも同じ反応だった。しかし、これは紛れもない事実だ。真夜が無事に戻ってきたことが何よりの証拠だ」
その言葉に深夜はハッとした表情となり、元造の隣に座る美雪の元へと歩み寄った。そして優しい手つきで彼女の手に触れると、両手で大事そうに包み込む。
「……ありがとう、美雪さん。あなたのおかげで、私の大事な妹が無事に戻ってきたわ」
「ううん、私はたまたまあそこにやって来ただけ。あの研究所の中に魔族がいて、そいつらの“悪意”がミルココのセンサーに引っ掛かったから来ただけなの」
「それでも、私にとって真夜はたった1人の大事な妹なの。ありがとう、美雪さん」
「あっ、あの! わ、私もあのときは色々あったから言えなかったけど、助けてくれてありがとう! あのときの美雪ちゃん、本当に凄かったよ! 私、感動しちゃった! もしあのままだったら、私、多分あいつらに――」
「真夜。起こり得なかった仮定の話を考える必要は無い。――美雪ちゃん、私からも礼を言わせてくれ。我々が誘拐犯の居場所を探るのに手間取っている間に、君は実に華麗に娘を助けてみせた。君は娘にとってだけでなく、我々四葉家にとっても恩人だ。君の望むことは、何に変えても叶えてあげよう」
「えっ? いや、その、そこまでしてもらうわけには――」
元造の言葉に、美雪は大慌てで手を横に振って遠慮した。
「しかし、それでは我々の気が収まらない――」
「あっ! じゃあ、えっと! それじゃ、もし私がプリティ☆ベルの活動で何か困ったことがあったら、そのときには皆さんの力を借りたいと思うので!」
「……分かった。それでは、我々四葉家は今後、プリティ☆ベルとその味方に対して全面的なバックアップをすることを約束しよう。それで良いかな?」
「は、はい! じゃあ、それで!」
とりあえずこの場は凌げたという笑みを浮かべる美雪の後ろで、
「……多分美雪ちゃん、この“約束”の重み分かってないよね?」
「日本を陰から牛耳る四葉家の“協力”がどんなものか、知る機会が来なければ良いけどね……」
ミルクとココアが、面白そうに笑いながらヒソヒソと喋っていた。
と、そのとき、元造は部屋に掛けられた時計へと視線を向けた。短針はそろそろ12の文字に差し掛かっている。
「さて、今日はもう遅い。せっかくだから、美雪ちゃんは今日ここに泊まっては如何かな?」
「えぇと……、じゃあ、お言葉に甘えて……」
「そうすると良い。――深夜、真夜、彼女達を部屋に案内してあげなさい」
「はい、お父様」
「美雪さん、こちらへどうぞ」
深夜と真夜に促されて、美雪達は談話室から出ていこうとドアへと歩いていく。
「…………」
その途中、美雪はちらりと元造の方へと視線を向けた。
窓1つ無い壁を見つめる元造の表情は、怒りの色に充ち満ちていた。
「――――!」
「美雪さん……?」
美雪は踵を返して、元造の方へと戻っていった。深夜と真夜が首をかしげる中、元造は先程までの怒りを微塵も感じさせない笑みを浮かべて美雪へと振り返る。
「……元造さん」
「どうしたんだい、美雪ちゃん? 今日はもう遅いから――」
「元造さんはこれから、何をするつもりなの……?」
「…………」
その瞬間、元造の表情から笑みが消えた。
「……君は知らなくても良いことだ。さぁ、今日はもうお休み」
「だ、駄目です! 真夜さんは無事に戻ってきたじゃないですか! だったら――」
「そういう訳にはいかないんだよ、美雪ちゃん」
「――――!」
美雪へと向き直った元造は、先程までは一切感じることの無かった、身も竦むような威圧感を纏っていた。今の元造は“深夜と真夜の父親”としてではなく“四葉家の当主”として彼女と相対しているという表れである。
「あいつらは、私の娘を誘拐した。そして娘を穢そうとした。これは我々に対する“侮辱”だ。その報いを、奴らの身をもって知らしめてやらないといけない」
「そ、そんな……! 確かに真夜さんはすっごく怖い想いをしたと思うけど、だからってわざわざ危険な目に遭ってまで復讐なんて――」
「美雪ちゃんが変に思うのも理解できる。しかし残念ながら、四葉家にとってはそれで済ませるわけにはいかないんだ」
元造の言葉からは、重々しい覚悟が伝わってくる。美雪もそれは分かっていながら、しかしそれでも納得し難いといった表情でミルココへと顔を向ける。
しかし2人は彼女の視線に、静かに首を横に振った。
「残念だけど四葉家の立場では、娘が無事に戻ってきたからめでたしめでたし、ってわけにはいかないんだよ」
「なんでよ、ミルク!」
「四葉家は裏の世界で名前を轟かせている、いわば“法に守られたヤクザ”なんだよ。ヤクザにとって何より大事なのは“
「しかも四葉家の日本での立場を考えたら、対外的には“四葉家の面子=日本の面子”の図式が出来上がる。つまり四葉家が何もしないで彼らを無罪放免にしたら、親玉である日本そのものの沽券に関わっちゃうってわけよ」
「そうなると向こうは多分、今回の誘拐が失敗したからまた別の奴を、って思っても不思議じゃないよね。もしかしたら、日本と敵対関係にある他国の奴らがそれに加わるかもしれない。それを防ぐためには、自分達に手を出したらこんなデメリットがありますよっていうのを知らしめなきゃいけないんだよ」
「で、でも……! 真夜さんは無事だったし……!」
「“今回は”ね。それに無事だったとしても、向こうが真夜ちゃんを誘拐したのには変わりないでしょ。『誰も銃弾に当たってないんだから、発砲したことは無しにしてね』なんてのは、国際社会じゃ通用しないんだよ」
みるみる顔を青くして狼狽える美雪に、ミルココはニヤリと笑って元造へと視線を向ける。
「でもまぁ、今回の場合は多分に“私情”も含まれてるけどねぇ」
「良いんじゃないの? 完全に私情を切り捨てて何かやろうとするなんて、それこそロボットでもないと無理なことなんだし」
「……プリティ☆ベルは、優秀な者に守られているようだな。安心だ」
ミルココの視線を、元造はまったく臆することなく受け止めた。
しかしそれでも、美雪がそれに納得する様子は見せない。
「で、でも、そんなことしたら……! 元造さん達は……!」
「ああ、ただでは済まないだろうな。相手は大漢の魔法研究の総本山、対してこちらは数ある研究所の1つである第四研究所の“作品”にしか過ぎない」
「……お父様?」
ここに来て深夜と真夜の2人は、自分の父親がどのような“覚悟”を持って事に当たろうとしているのかを察した。
だが、それで元造の口が収まることはない。
「――しかし我々は“兵器”ではあっても、“奴隷”でもなければ“家畜”でもない。故に我々を生み出したこの研究所を我々自身の物とした。だからこそ我々は、魔法師を奴隷や家畜のように扱う“国家”に対して、我々の“矜持”を見せなければならない」
元造の言い分も、ミルココの言い分も、美雪には深い部分までは理解することができない。所詮彼女は小学生、政治や軍事についてはまだまだ疎い年頃だ。しかし普段からそういった面で自分を手助けするミルココが彼に賛同を示していることからも、彼の言い分が“或る一面では”正しいことではあるのだろう、と美雪は思っていた。
しかしそれでも、彼女は首を縦に振るわけにはいかない。
「……元造さんは、2人の“父親”なんですよね? 2人を残して死んじゃうなんて、そんなの駄目です! たとえ誰が許したって、私は元造さんのことを許しません!」
「……美雪ちゃん、悪いがこればかりは譲れないんだ。2人を残して死ぬのは心残りだが、私は私の成すべきことを成す義務がある。“人の上に立つ”というのは、そういうことなんだ」
そう言い放つ元造の顔を見て、美雪は悟った。
彼は今更他人に何を言われても意見を変えるつもりは無い、と。
「……分かりました」
ぽつりと呟かれた美雪の言葉に、元造はホッとしたように表情を和らげ、その代わり深夜と真夜は悲痛な面持ちで父親を見遣った。
しかしその直後、再び美雪が口を開く。
「じゃあその代わり、私の“お願い”を2つ聞いてくれますか?」
「……何だい?」
美雪は元造に向き直った。先程までとは違う、覚悟を決めるような凛々しい表情で。
「真夜さんを攫った……その、コンコー? コーロン? コンコン?」
「
「そうそれ! それの場所を全部教えてください!」
「……どういうことかね?」
「それともう1つ! せめて明日1日だけでも、復讐するのを待ってください! これが私のお願い!」
「……美雪ちゃん、まさか君は――」
「聞いてくれるの! くれないの! どっち!」
文字通り有無も言わさぬ勢いで、美雪は捲し立てて元造へと詰め寄った。たかが小学生の少女の迫力など彼にとっては大したものではないが、まだ何も知らない少女だからこその純粋さと一生懸命さが彼にも伝わってくる。
そしてそんな2人の遣り取りを、ミルココは口を挟もうとしないで黙って、深夜と真夜は口を挟むこともできずに互いに手を握りしめて見守っている。
そんな5人分の視線を受けながら、元造は思い悩むように目を瞑り、やがて――
* * *
大漢の或る地方に存在する、そもそも研究施設とすら公表されていない建物。
そこが、大漢が誇る崑崙方院の本部だった。
用途は明かされていないが、一般人が敷地内に侵入することは固く禁止されている。もし侵入したら警告無しで殺されても文句は言えない。そもそも大漢自体に、政府に対する文句が許されない風潮があるのだが。
なのでその入口で警備に当たるその魔法師達も、最初に人影を見たときは即座に武器を構えた。しかしその正体が年端もいかない少女だと判明すると、彼らは怪訝そうに首をかしげながらもニヤニヤと笑みを浮かべて彼女に近づいていく。
「やぁ、お嬢ちゃん。こんな所で何をしてるのかな?」
「ここは一般人は立入禁止なんだけど、まさか知らないなんて言わないよね?」
「あららぁ、これは“罰”を与えなきゃいけないねぇ」
その少女はどう見ても小学生にしか見えないのだが、その魔法師達は彼女を見て舌なめずりをするような仕草を見せた。少女はまだ男の“そういったこと”についてはよく分からないが、本能的に彼らに対する不快感を抱いたのか顔をしかめる。
「……そっか、おじさん達も“そっち側”か」
少女はそう言うと、懐に手を忍ばせた。
そして、
「おおっと、お嬢ちゃん、おイタはいけないよぉ」
それを目敏く見つけた魔法師の1人が撃ち出した空気砲が、少女の肩を貫いた。穴の空いた箇所から真っ赤な血が噴き出し、空気砲の衝撃で少女の体が吹っ飛んだ。
「ひひひっ、ごめんなぁお嬢ちゃん。今“治療”をするから待ってろよぉ」
魔法師はニヤニヤと笑い、ズボンのベルトに手を掛けながら少女へと歩み寄る。
と、そのとき、
「ぐひ」
「げば」
「ぶ」
悲鳴とも何ともつかない声が、彼の後ろから聞こえてきた。
彼が後ろを振り返ると、
「え」
彼の目の前で大口を開ける、目の無い恐竜としか表現できない謎の生物が目に入った。びっしりと生える牙は鋭く尖っており、たとえ肉だろうと骨だろうと関係無く噛み潰すであろうことは容易に想像できる。
もっとも、1秒も掛からずに噛み千切られた彼がそれを想像できたかどうかは定かではないが。
ただの肉片となって咀嚼される彼を見る者は、誰もいなかった。
地面に倒れているはずの先程の少女は、その姿を消していた。
「……なんて、出鱈目な力なんだ……」
せめて美雪が行おうとしていることをその目で見届け、万が一のことがあれば彼女の代わりに、と思っていた元造だったが、彼は現在目の前で繰り広げられている“虐殺”に目を奪われていた。
縦横無尽に飛び回る“ペガサス”の蹄が、魔法師を頭から押し潰して頭蓋骨を破壊する。
床や壁から不意に現れる“ティンダロスの猟犬”が、ニタニタと笑いながら魔法師をゴリゴリと食い尽くしている。
実体の無い炎の精霊“サラマンドラ”が、ナパーム弾のように魔法師の体に纏わり付いて骨の髄まで焼き尽くす。
黄金色に輝く剣“アンサラー”が、独りでに飛び回って魔法師の心臓を次々と貫いていく。
8本足の巨大な蜘蛛“アトラク=アクナ”が、鉄よりも強度のある糸で魔法師を縛り付け、魔法師を頭から貪り食っている。
その他にも神話や創作の世界にしか存在していない“と元造が思っていた”生物達や、現代魔法では再現不可能な性能を持った武器が、崑崙方院が長年掛けて積み上げてきた研究成果を建物ごと破壊している。
いや、おそらくここだけではない。残念ながら元造には見ることはできないが、大漢中にある崑崙方院が現在襲撃されていることだろう。話によると、そこでは“ワイバーン”などといったさらに強力な召喚生物が“たった1匹”で襲撃していたりするそうだ。
そしてそれら全てを、美雪がリアルタイムで操り指示を出していた。先程入口の魔法師の注意を惹くのにも活躍した“ドッペルゲンガー”と感覚をリンクさせ、本部の魔法師に対応しながら支部の研究所を潰していく。
彼女と相対している魔法師も、けっして弱くはないはずだ。大漢が大亜連合と渡り合えるほどの軍事力を支える逸材であるし、彼らによって積み上げられてきた研究成果は一朝一夕でどうにかなるレベルではない。だからこそ元造は、自分達の死を覚悟したうえで戦いを挑もうとしていたのである。
だというのに、目の前の少女は、まだ自分の娘よりも年下であるはずのこの少女は、そんな彼らを相手にしているというのに、たった1人で召喚生物や武器を使役して彼らを蹂躙している。その光景はもはやお世辞にも“戦闘”とは呼べない一方的なものであり、元造は取り憑かれたようにその光景から目を離すことができなかった。
「どうよ、あの子の実力は。全然出番が無いでしょ?」
そんな元造に話し掛けるのは、目の前の光景に対して特に感慨も何も無いかのように振る舞うミルココの2人だった。つまりそれは目の前の光景が日常的に繰り広げられていることの証明となり、ますます元造を驚かせることとなる。
ちなみに現在、ミルココも元造も美雪も、全員が体を覆い隠すほどに大きなローブに身を包み、その顔には能面を装着している。
「……彼女は、何者なんだ?」
「たった1人で“軍”になる、あまりに強力すぎる“子供の空想”。それが彼女の力よ。不条理をねじ伏せる不条理、理不尽を踏みにじる理不尽、そんなところかしら」
「とは言っても、私達にもその正体が分からないんだけどねぇ。私達が彼女の存在に気づいたときには、彼女はもう“あれ”を持ってたわけだし」
「…………」
ミルココの説明を聞いてもなお要領を得なかった元造だが、彼の口から不満が漏れることは無かった。彼はただ、目の前にある“奇跡”をその目に焼き付けることしか頭に無かった。
と、そのとき、
「――ひ、ひぃっ!」
魔法師の1人である若い男が、腰を抜かしたのか床を這いながら、美雪の召喚生物によって壁に追いやられていた。その年齢からして、おそらくここに配置されてから日が浅いのだろう。それだけでも彼が優秀であることが分かるが、今の彼は目の前の敵から逃げようともがく“弱者”の1人でしかなかった。
「みんな、その人は止めてあげて」
すると美雪は召喚生物を止めて、おもむろに彼へと歩み寄った。もはや反撃をするという発想が頭から抜け落ちているのか、彼はズボンの染みを広げて床を塗らしながら彼女が近づいてくるのをただ見つめているのみである。
美雪はそんな彼の目の前で腰を落とし、彼と視線を合わせた。無表情でありながら全ての感情を表現する能面を目の前にして、彼は顔を真っ青にして体をブルブルと震わせている。
「良いよ、あなたは殺さないでいてあげる」
そして美雪は今まさに虐殺が行われているこの場では、そして虐殺を引き起こしている張本人としてはどこまでも不釣り合いなほどに優しい声色でそう話し掛けた。
思わず顔が緩みそうになる男に、即座に「でも、」と美雪の声が掛けられる。
「もしも“私達”にちょっかいを出そうとしたら、今度は容赦しないよ」
「――――は、はい」
美雪はその返事を聞いて、なぜかホッと息を吐いた。そしてゆっくりと立ち上がると、再び虐殺が行われているその現場へと足を踏み入れていく。
それを見ていた元造が、ミルココへと視線を向けた。
「……今のは、君達の差し金か?」
「私達じゃなくて、いつも作り笑いばっかりしてる“政治家”からのアドバイス。今回の件で“私達”に手を出すことが如何に危険かってのを分からせるために、それを伝える役目の人も必要でしょ? 全員殺しちゃうと向こうが敵討ちをしようと躍起になるかもしれないから、生存者を残して恐怖に震える様を見せつけるって効果もあるね」
「“私達”って言って、自分達の正体をぼかしとくのも1つの手ね。私達をテロリストとして国際組織に訴えようとしても証拠が無いし、思い当たる“組織”があったとしたらその理由を話さなきゃいけなくなる。そうなると立場が悪くなるのは向こうだしね」
「というわけで、これから彼女が何人か見逃すことになると思うけど、憎いからってそいつまで殺しちゃわないでよ。そのために、わざわざこうして“下手に全滅させないように注意しながら”戦ってんだから」
「それと、うっかり固有名詞を出さないようにね。ローブやお面を脱ぐのも禁止だから」
「……あぁ、分かっている」
元造はそう返事をしながら、先程美雪に見逃された魔法師をちらりと見遣った。
彼は先程の場所から少しも動かず、床に広がる自分の小便をじっと見つめるような姿勢で蹲っている。
「
その男の呟きは、元造達には届かなかった。
* * *
こうして、大漢にとってまさに“悪夢”としか形容できない出来事は、僅か1日で幕を閉じた。
大漢はこの1日で、大漢を支える軍事力の要とも言える魔法師と研究員を4千人、さらには彼らが長年掛けて積み上げてきた研究成果の全てを失った。突然のことに混乱を極めた大漢は、これ幸いと各地で起こったクーデターをきっかけに内部崩壊、僅か1年後には大亜連合に吸収されることで南北対立は終結を迎えた。
東アジアにおいて争いの火種が無くなったことは、北半球を覆っていた世界群発戦争に少なからぬ影響を与えた。直接的・間接的に関わっていた戦争が次々と終結し、その余波はやがて全世界へと広がっていった。南北対立の終結が第三次世界大戦終結のきっかけだった、というのが現在の歴史学の主流となっている。
一方、四葉家にも変化が起こった。
真夜に実害が無かったとはいえ、1度は誘拐を許してしまっている。2度とこのようなことが起こらないように、特に魔法資質の高い者に対して専用の護衛を置くことにした。それも金銭で雇われた一時的な護衛ではいつ裏切るか分からないという理由で、生涯を護衛として尽くして命懸けで主人を守る存在を“作り上げた”。つまり、
また、あのときは女性としての尊厳を守ることができた真夜だったが、程なくして彼女が先天的に生殖能力を持たないことが判明した。現代の魔法技術では“元に戻す”ことはできても先天的な障害に対しては無力であり、それがきっかけで七草弘一との婚約は解消された。
なお、これによってプリティ☆ベル並びに四葉家が国際テロリストに認定されるようなことは無かった。大漢で起こった“悲劇”は厳重に秘匿され、関係者にとっては触れることすらタブーとなっている。後に桃地美雪が死亡したことで事件が明るみになる可能性もあったが、そのときには大漢は既に大亜連合に吸収されて消滅していたため、結局それが表舞台に出ることは無かった。
なお、この事件と同時期に飛躍的にその実力を高めていくこととなった四葉は、その“悪名”を国内外に轟かせ、その名を知らぬ魔法師はいないとまで評されるようになった。
彼ら魔法師の間では、四葉のことを
*
*
*
*
応接室から出てサンルームへと向かっていた真夜は、ちょうど別の部屋から出てきた2人の人物に、口元にほんの少しだけ笑みを浮かべて近づいていった。
「姉さん、帰ってきてたのね。厚志さん達なら、さっきサンルームにご案内致しましたよ」
「あら、そうだったの。ごめんなさいね、1人で応対させちゃって。私達もすぐに向かうわ。――行きますよ、桜井さん」
「はい、深夜様」
深夜の言葉に、彼女に付き従っている桜井がこくりと頷いて答えた。
そんな2人の遣り取りを見ながら、真夜はクスリと笑みを漏らした。それに気づいた深夜が、若干不機嫌そうに彼女へと視線を向ける。
「何かしら、真夜?」
「いいえ、別に? ただ、また“あそこ”に行ってきたのかな、と思って」
いたずらっぽく笑う真夜は、十代半ばの幼い少女のような印象を与えるものだった。普通の人間ならばそんな彼女の姿に和んだりするのだが、生憎深夜はそんな彼女を昔から見てきたので効果は薄い。
「……私達が“あの子”に多大な恩を感じるのは、当然のことではなくて?」
「ええ、もちろんよ。でも、厚志さん達が来るって分かってるこの日に、命日でもないのにわざわざ“あの子のお墓”に行くんだから、よっぽどあの子のことが好きなんだと思って」
「……何となく、今日行きたくなったのだから仕方がないわ。それにあの子が好きという点では、あなただって負けてはいないんじゃないの?」
「あら、そんなことはないわ。自分の娘にあの子の名前をつけるあなたには負けるわよ」
「ふふ、どうだか。あなたが“やってきたこと”に比べたら――」
「それこそ、今更な話ね。あなただって、一枚噛んでるくせに」
「…………」
「…………」
口元は笑っていながら、まったく笑っていない目で互いに睨み合う真夜と深夜の2人に、桜井は表情にこそ出していないものの内心は居心地悪そうに息を呑んでいた。
しかしその睨み合いも、真夜がクスリと笑うことで終息した。
「さぁ、お客様を待たせてはいけないわ。あなただって、久々に親子で話したいこともあるんじゃないかしら?」
「……ええ、そうね。それじゃ、行きましょうか」
2人はそう言葉を交わして、洋風の佇まいをした廊下を2人並んで歩いていく。
そしてその後ろを、ホッと胸を撫で下ろした桜井が続いていく。