魔法科高校に鐘が鳴る   作:ゆうと00

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第71話 『流行というのは、ある種“言ったモン勝ち”の一面を持っている』

 西暦2096年の元旦は、司波兄妹はいつも通り厚志家で迎えた。父親は今年も元愛人宅(現在はセカンドハウス)で、母親は四葉本家で新年を迎えている。母親はともかく、父親の場合は達也たちにとっても気まずい思いをしなくて済むので文句は無い。

 達也や深雪、そして厚志は、正月だからといって自堕落な生活には縁が無い。それは何となく想像できるが、実はエリやミルココ達も元旦に限っては早起きだ。それは司波兄妹のようにきちんとした生活サイクルが体に染みついているからというわけではなく、単純に朝早くから外出する用事があるだけなのだが。

「お待たせ致しました、お兄様」

 別室で女性陣と外出の準備をしていた深雪が、達也の前へと姿を表した。光沢のある赤い生地に、白と薄紅で図案化した牡丹(ボタン)を描いた振袖。白粉(おしろい)など必要無いほどに透き通る白い肌に、ただ1ヶ所だけ色鮮やかな紅を差した唇。結い上げた髪に揺れる枝垂れかんざしが若干子供っぽいが、むしろそれが大人びた美貌の中で年相応の可愛らしさを演出している。

 伝統的な振袖で細い腰とボリュームを増した胸を表現しつつ、襟元は慎ましく隠し淑やかに振る舞うその様子を見て、達也は冗談抜きで“世界一可憐な艶姿”だと誇らしげに感じていた。

「あらあら、達也ったらぁ。もしかして妹に見とれちゃったぁ?」

「……ミルココ、からかうのは止めろ」

 ニヤニヤと笑うミルココに不機嫌な表情を見せる達也だったが、その発言自体を訂正することは無かった。そして深雪はそのミルココの隣で「そ、そんな、ミルココ、からかっちゃ駄目よ……」と身を悶えさせていた。

 ちなみに深雪以外の女性陣も、伝統的な振袖姿になっていた。エリはオレンジの生地に牡丹や菊といった古典柄が散りばめられ、ミルクは黒い生地に真っ赤な椿、ココアは白い生地でミルクとまったく同じデザインである。そしてモカは青の生地に桃や黄や紫といった色取り取りの桜が散りばめてあり、胸の部分を大分窮屈そうにしている。

 本当はここにダッチも加わる予定だったのだが、彼女の上司である“北の魔王”に急遽呼び出されたため、露骨に不満そうな表情をしながら亜空間へと消えていった。幼女の姿をしているので忘れがちだが、彼女も軍人(しかも隊を預かる立場という点では風間と同等)なのである。

 一方男性陣も、羽織り袴に雪駄の純和風な装いだった。特に達也は高校生にしてそこまで様になっているのは珍しいというほどにしっくり来ており、厚志に至ってはその大柄な体と相まってかなりの迫力に満ちていた。もし一般人が見たら“特定の自由業”を連想させて離れていくこと請け合いだろう。

 とにもかくにも、こうして全員が揃ったことで彼らは出発することにした。

 玄関を出ると、門の前には無人運転のコミューターが幾つか停まっていた。しかし無人運転といっても、中に誰もいないわけではない。

「明けましておめでとうございます、師匠」

「明けましておめでとうございます、九重先生。本年もよろしくお願い致します」

 先頭のコミューターから降り立った九重八雲の姿に、司波兄妹が代表して挨拶をし、他の面々がそれに合わせて頭を下げた。そして八雲も「こちらこそ、今年もよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げたのだが、その顔はすぐさま深雪へと向けられた。

「いやぁ、今日の深雪くんは一段と艶やかだねぇ。吉祥天(きっしょうてん)もかくやの麗しさだ。今日の深雪くんを目にしたならば、須弥山(しゅみせん)の天女も羞恥に身を隠してしまうかもしれないね」

「……もっと他に言うことがあるでしょう」

 僧侶としては似つかわしくない、しかし八雲個人としては実に似つかわしい台詞を吐く彼にツッコミを入れたのは、彼と同じコミューターから姿を表した小野遥だった。

「明けましておめでとー。あまりに出番が無かったから、むりやりねじ込んできたの?」

「ちょっと、ミルクちゃん! 新年早々、毒が強すぎるんじゃないの!」

「よろしいのですか、小野先生? 師匠と一緒のところを見られても」

「達也くんまで、私を追い出すつもり――って、あぁ、そういう意味か。大丈夫よ、先生と会ったのは単なる偶然で、今日はあなた達の引率に来たんだから」

「偶然会った相手に“先生”ってどうなの?」

「というか、高校生相手に“引率”って……。“同行”とかならまだ分かるけど……」

「それにそういう役目は厚志さんがいるから必要無いしね」

「成程、やっぱり出番が欲しかったのか……」

「なんでみんな、私に対して当たりが強いの!」

 このままからかうと泣き出しそうな雰囲気の遥に、達也は「そろそろ向かいませんか?」と助け船を出した。

 遥から、まるで神様でも見るかのような目を向けられた。

 深雪から、不満そうな目を向けられた。

 理不尽だ、と達也は思った。

 

 

 

 主に深雪と厚志によって大層な視線を浴びながら駅まで歩き、キャビネットに乗って今回の待ち合わせ場所の最寄り駅まで向かい、そして待ち合わせ場所までの徒歩5分に再び大勢の視線を浴びた一行を出迎えたのは、

「わっ、深雪さん! 綺麗ですね!」

 ロングワンピースの上からファー付きのケープコートを羽織った美月による、うっとりとした表情を浮かべながらのその一言だった。一緒にいる達也たちが見えているのか疑問に思うほどだ。

「明けましておめでとうございます、厚志さん! とってもよくお似合いです!」

 そして深雪達と同じく振袖姿のほのかは、厚志にばかり目を奪われていた。

「ありがとう、ほのかちゃん。ほのかちゃんも、よく似合ってるよ」

「本当ですかっ! 一生懸命選んだ甲斐がありました!」

「あらら、ほのかったらあんなに喜んじゃって。――はいはい、モカ。女の子がしちゃいけない顔してるから、ちょっと抑えようねー」

「あら、ココア。私は別にそんな顔はしていないわ。ところでほのか、ちょっと2人でお話したいことが――」

「行かせないからね?」

 ミルココがモカの両腕をがっちりとホールドしている間に、美月とほのかの後ろからもう1人近づいてきた。

「どうも皆さん、明けましておめでとうございます。――おっ、達也。よく似合ってんじゃねぇか。厚志さんと一緒にいると、どっかの若頭かと見紛うぜ」

「レオ、おまえな……」

 冗談とも本気とも取れることを喋るのは、普段着と思われるジャケット姿のレオだった。

 本日待ち合わせしたのは、この3人だった。エリカと幹比古は多数の門下生を抱える実家の都合で参加できず、雫はいよいよ留学間近ということで、こちらも実家の都合上参加を見送った。ちなみにエリは、この初詣の後に実家へ戻る予定となっている。

「達也くんの場合は、与力や同心といった方が近いんじゃないかな?」

「あらあら、それじゃ厚志さんとは敵対関係にありますね」

 数日ぶりに顔を合わせてお喋りをする達也たちに、含み笑いを浮かべながら八雲と遥が近づいてきた。

「あれっ、遥ちゃん。明けましておめでとーございます」

「明けましておめでとうございます、小野先生。――あの、こちらの方は?」

 レオが砕けた風に新年の挨拶を述べ、ほのかが見慣れぬ成人男性に疑問の表情を浮かべる。

九重寺(きゅうちょうじ)住職、八雲和尚(かしょう)。俺達からしたら、忍術使い・九重八雲師の方が通りが良いかな? 俺の体術の先生だ」

 達也の紹介に、美月とほのかが目を丸くした。この年代の女子で彼のことを知っているというのは、なかなか博識だと言って良いだろう。

「成程、だから日枝(ひえ)神社にしようって話だったのか」

「ん? どういうこと、レオ?」

和尚(かしょう)ってことは、天台宗の坊さんってことだろ? 山王(さんのう)信仰と台密(たいみつ)は切っても切れない関係なんだ」

「へぇ、全然知らなかったわ」

「よく知ってるわね、レオ」

「ドイツの血が入ってるとはいえ、俺も立派な日本人だからな。これくらいは常識だぜ」

 レオの言葉に八雲の隣にいた遥が居心地悪そうにしていたが、そのまま参拝する流れになったので追及されることはなかった。ミルココ辺りはニヤニヤとした笑みを向けていたが。

 参道の両側には、前世紀からお馴染みとなった光景である露店が並んでいた。しかしこれも世界的な食糧危機の頃には姿を消していたものであり、当時を知る年配の人々には感慨深い光景に違いない。とはいえ、達也たちにとってはそのような感傷に縁が無い。せいぜいエリが、指を咥えて焼きそばの露店をじっと眺めていたぐらいだろう。

 しかし露店に寄るのは参拝後ということで、彼らは特に寄り道することなく本殿へと向かった。長い階段を昇って神門を潜り、拝殿前の中庭に入る。

 と、そのとき、達也はこちらに向ける視線を感じた。不躾にジロジロ見るものではなく、こちらを伺い見るようなものだったが。

「……ミルココ」

「敵意は無いね。単純に興味があるんじゃないの?」

「“異人さん”にとっては、達也くんたちの格好は珍しいからね」

 八雲の言う通り、その“異人さん”は金髪碧眼の少女だった。しかし現代では、その外見だけで外国籍だと決めつけられるわけではない。それに彼女の面立ちには、どことなく日本人めいた印象を受ける。その点から考えても、彼女は自分達と同世代と見て良いだろう。

「お兄様、何をご覧になっているのですか? ――まぁ、綺麗な子ですね」

 その言葉に深雪がどのような感情を込めたか分からないが、深雪が“綺麗”と褒めても嫌味にならないほどの美貌であることは達也も同意だった。色鮮やかな髪と瞳は、深雪と対照的な美少女と言える。

 しかし、達也が“深雪以外の少女”に見惚れるようなことは無い。なので彼は、そのような意味で彼女に注目していたわけではない。

「どうしたんだい、達也くん? 何か気になることでも?」

「……そうですね、確かにあの格好は少々気になりますが」

 厚志の質問に達也がそう答えると、厚志も苦笑いを浮かべて同意した。

 明るいベージュのハーフコートに、裾がフリルになったスカート。柄物のタイツにロングブーツ。ここまでならば何もおかしい箇所は無い。ハーフコートの丈が股下10センチで裾を飾るカラフルなフリルだけが見えるコーディネートだったり、靴底がやたらと分厚い膝上までのストレッチブーツだったり、レース模様で素肌が所々透けて見えるタイツとの組み合わせだったり、フェイク・ファーの縁取りが付いた手袋だったり、アニマル柄のソフト帽だったり、といったものが無ければ。

 彼女の服装は今の流行りからしたら随分とちぐはぐであり、まるで戦前のギャル系ファッションをテキトーに混ぜ合わせたようなものだった。男性の達也や厚志から見て違和感を覚えても仕方がない。

 と、そのとき、その少女が何事も無かったかのように、達也たちの方へ歩き出した。そのまま彼らと擦れ違い、先程彼らが昇ってきた階段へと向かっていく。

「……とりあえず、顔は憶えておくか」

 少女の後ろ姿を視線だけで追いながら、達也はぽつりと呟いた。

 それを聞いていた厚志は、何も答えなかった。

 

 

 *         *         *

 

 

 アンジェリーナ・シールズ少佐(コードネーム:アンジー・シリウス)に与えられた任務は、潜入捜査でありながら陽動の意味合いが大きい。その一環としてターゲットの容姿を確認すると同時にこちらを印象づけるためのファーストコンタクトは、どうやら上手くいったようだ。

 気配を隠して近づいたら気づかれないのでは、と最初は思ったのだが、部下の言う通りそれは杞憂に終わった。しかし本人としては、あそこまであっさりと気づかれるのもそれはそれで釈然としない。

 まぁ作戦が成功したのだから別に良いか、と彼女は気持ちを切り替えながら、今回の任務における生活拠点であるマンションのドアを開けた。

「お帰りなさい」

「シルヴィ、帰っていたんですか」

 わざわざ玄関まで出迎えた年上の同居人に、彼女は愛称で話し掛けた。

 同居人の名は、シルヴィア・マーキュリー・ファースト。“シルヴィア”以外はコードネームであり、スターズ惑星級魔法師“マーキュリー”の第1順位を表している。階級は准尉、年齢は25歳。まだ若いながら“ファースト”を与えられた、将来を期待された女性准士官である。

 シルヴィアは元々軍人志望ではなく、大学ではジャーナリストを専攻していた。今回はその情報分析能力を買われて、シリウス少佐の補佐役に抜擢されたのである。

「シルヴィ?」

 その同居人がなかなか返事をせず、まじまじと自分のことを見つめているのに気づき、シリウス少佐は疑問の声をあげた。

「……リーナ、何ですかその格好は」

「これですか? 不必要に目立たないように、過去1世紀の日本のファッションを色々調べました。結構苦労したんですけど、似合ってますか?」

 シリウス少佐改めリーナは、その場で1回転でもしそうな勢いでシルヴィアに自分のファッションを見せた。彼女が頭痛を堪えているような表情をしていることには気づかない。

「……えぇ、確かに似合ってます。似合ってますけど、そのブーツ、歩きにくくないですか?」

「そうなんですよ、何度も転びそうになりました。日本の女の子は、よくこんなブーツを履いて足を挫きませんね」

「えぇ、そうでしょうね。同じタイプのブーツを履いた女の子を、目にしましたか?」

「……あれ? そういえば見た記憶がありませんね」

 シルヴィアの頭痛を堪える表情が、溜息を堪えるものへと変化した。

「リーナ、はっきり言います。そのブーツは流行遅れ(アウト・オブ・ファッション)です」

「えっ!」

「そのタイツも帽子も、流行遅れです! そもそも100年なんて遡りすぎです! そのコーディネートも極めてちぐはぐで、若い女の子のセンスじゃありません! それじゃ目立って仕方がなかったでしょう!」

 シルヴィアの指摘に、リーナは気まずそうに視線を逸らしていた。確かに行く先々で注目を浴びていたが、それは自分が外国人だからだと軽く考えていたのである。

「総隊長」

 口調だけは丁寧な冷たい台詞に、リーナは背筋に冷や汗が流れる錯覚に襲われた。

「今日の仕事は全部キャンセルしましょう。僭越ながらこのマーキュリーが、日本における最近のファッション動向をじっくりと、分かりやすく、ご説明して差し上げます」

「……はい、お願いします」

 戦闘力では遥かにシルヴィアを凌駕するリーナだが、このときのシルヴィアには逆らうことができなかった。

 

 

 *         *         *

 

 

 色々あった冬休みも終わり、今日から新学期が始まる。

 その“色々あった”の中には、海外へと旅立つ雫を空港で見送りに行った際に突如繰り広げられた“涙の別れ”(主演:雫・ほのか、助演:深雪・美月・モカ)に巻き込まれるというイベントもあった。男性陣やエリは手持ち無沙汰で途方に暮れていたが、きっとそれも良い思い出に変わるに違いない。そうであってほしい。

 久し振りの顔合わせにお喋りが弾むA組では、深雪・エリ・ほのかという去年よりも1人少ないグループが、教室の後ろにある深雪の席を中心に集まっていた。

「何かさ、すっごい美人なんだって! 職員室に入っていく留学生をたまたま見た子が、すっごい興奮しながら教えてくれたんだ!」

 もしかしてその様子も再現してくれてるの? と聞きたくなるくらいに興奮したほのかの話に、深雪とエリの2人は揃って苦笑いを浮かべていた。

「綺麗な金髪で、上級生まで見に来てるみたいだよ!」

「ほのかは見に行かないの?」

「あんなに人集りがあると、それを割って行く勇気は無いよー」

「あっ、とりあえず職員室までは行ったんだね」

 エリのツッコミに、ほのかは照れたように頬を掻いた。

「それにしても、いくら美人だからってそこまで注目する必要があるのかしら?」

「さすが深雪さん、半端な美人は話になりませんってことだね!」

「ちょっと、エリ! そういう意味じゃなくて――」

「美人だからってのもあるけど、留学生自体が珍しいからね。確かここ10年くらいは無かったんじゃないかな?」

「ふーん。でも、他の高校でも留学生が来てるみたいだよ」

「えっ、そうなの?」

「うん。第二、第三、第四高校でも短期留学生の受け入れがあったみたいだよ。あと、魔法大学でも共同研究の名目で何人か来てるんだって。エリカさんの門下生が話してたっぽい」

「大学でも? なんで今になって急に?」

「何か噂では、この前の横浜事変で飛行魔法の軍事的有用性に気づいた国が、慌てて探りを入れに来たって話だよ。こっちは幹比古さんから聞いたんだけど」

 エリの話に、ほのかと深雪が揃って「へぇ」と感心したような声をあげた。ほのかは純粋に色々なことを知っているエリに対して、深雪は大勢の門下を抱える千葉家と吉田家の情報収集能力に対して、という違いがあるが。

「うーん……、でもエリちゃんにそう言われると、これからここにやって来る留学生を純粋な目で見られなくなってくるよ……」

「何かごめんね、ほのかさん」

「い、いや、別にエリちゃんのせいじゃないんだし……」

「でもその留学生、多分私達と一番多く関わることになると思うし……」

「えっ、なんで?」

「だってここには、生徒会副会長の深雪さんがいるじゃない。何年ぶりかの留学生を面倒見る役目っていったら、必然的に深雪さんになるでしょ」

「……あっ、そっか! どうしよう、何か急に緊張してきた……!」

 今更になってわたわたと慌てだしたほのかに、深雪が責めるような視線をエリに向け、エリは「私が悪いの?」と言いたげな視線を深雪に返した。

 と、そのとき教室にチャイムが鳴り、前のドアが開いて担任教師が入ってきた。先程まで喋っていた生徒達が途端に静かになり、一斉に自分の席へと走っていく。

「えー、みんなももう知っていると思うが、今日から3ヶ月の間、このクラスにアメリカからの留学生が加わることになった。慣れない異国で戸惑うことも多いだろうから、みんな仲良くするように。――それじゃ、入って」

「はい」

 担任の呼び掛けと共に、外で待機していた留学生が教室に入ってきた。

 その瞬間、教室のあちこちから男女問わず感嘆の声が漏れ出た。

 双眸の深い蒼は、水や氷というよりも蒼穹の空を思わせる。

 頭の両脇にリボンで纏めた波打つ黄金の髪は、解けば背中の半ばを超えるだろう。A組では一番の長さを誇る深雪のそれよりも長いかもしれない。

 高校1年生にしては大人びた顔つきは、やはり欧米の血が色濃いことによるものだろう。その割にコケティッシュな髪型は少し不釣り合いに見えなくもないが、それが却ってシャープな美貌の印象を和らげて親しみやすさを演出している。

「アメリカからやって来ました、アンジェリーナ・クドウ・シールズといいます。皆さん、気軽にリーナと呼んでください。よろしくお願いします」

 少女の口から飛び出たのは、流暢な日本語だった。ややアクセントを強調する話し方ではあるが、さすが日本に留学する生徒に選ばれるだけあって達者である。

 しかし教室の生徒達は、紹介に添えられた彼女のゴージャスな笑顔に見惚れていた。見る者を圧倒させるほどのその美貌は、深雪という“絶世の美少女”とこの1年間同じ空間で過ごしてきたはずの彼ら・彼女らを持ってしても、抗うことのできないほどの力があった。とはいえ、未だに深雪の美貌に慣れた様子の無い彼ら・彼女らでは比較の当てにはならないが。

「うわぁ、凄い綺麗……。お人形さんみたい……」

 入学試験の際に深雪に一目惚れしたほのかは、リーナに対してもすっかり頬を紅く染めて見惚れていた。しかしほとんどの生徒が同じような反応をしているため、ほのかが特別目立つようなことはない。

「あら、あの子って……」

「…………」

 むしろ平然とした表情で出迎える深雪やエリの方が、この空間においては異端であった。

 深雪は彼女が教室に入ってすぐに、彼女が正月の日枝神社で達也のことをちらちら盗み見ていた“異人さん”であることに気づいていた。あのときはなぜ兄があそこまで彼女に注目していたか分からなかった(深雪の中では、達也が彼女に見惚れていたという考えは微塵も存在しない)が、こうした形で再会することで兄が警戒していた理由をようやく理解した。

「さてと、それじゃ君の席についてだが……。あぁ、美咲の隣が空いてるな。あそこだ」

「はい」

 リーナは担任に軽く頭を下げると、彼が指差した席へと歩いていった。その姿はさながらランウェイを颯爽と進むトップモデルのよう(もちろん本人にその意識は無い)であり、教室のほとんどの生徒が無意識に彼女を目で追っている。

「可愛らしい生徒さんね。ひょっとして、飛び級の子かしら?」

「うん、そうだよ。美咲エリ、よろしくね」

「よろしく、エリ。私のことはリーナって呼んでね」

「うん、よろしくね、リーナさん」

 満面の笑みを浮かべて挨拶するエリに、にっこりと微笑んで返すリーナ。その仲睦まじい光景に、教室のほとんどの生徒がほっこりとした表情を浮かべる。

 

 

 その笑顔の裏側で、もはや“抉る”と表現しても差し支えない腹の探り合いをしていたことにも気づかずに。

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