「——本当に……お父様なのですか……!?」
『——そうだ。 私は紛れも無く、陽太と美月の父である黒土明日斗本人だ。 そしてスタースピリットを率いるビッグバンでもある』
「ーーッ!?」
あまりの衝撃の事実に、美月が人間人格のお嬢様口調から素の精霊人格の口調に戻る中、父である明日斗博士もとい、ビッグバンはまるで観客席にも届ける様に、大きな声でそう名乗った。
「じゃあ、僕が知っている明日斗博士は一体……!?」
そんな中、サターンが驚愕の声を上げていたが、それは美月も内心同じだった。
自分たちが知っている方の明日斗博士は、若い頃の姿をしているビッグバンとは違って、実年齢相応の姿をしていたし、ワールドユニオンとスタースピリットの魔の手から美月を守る為に、兄であるサターンやアークサターンを用意してくれた。
そんな明日斗博士と今目の前にいるビッグバンは、別人と言えるレベルで違っていたが、それでも美月はどちらかが偽物だなんて思えなかった。
『本部、聞こえるか? こちらセブン大佐だ! チッ! 通信が……!?』
『セブン、ダメだ……! 本部への長距離通信どころか、会場の外への通信も遮断されている……!』
『それにあの謎のゲートを含めた明日斗博士の映像を記録できません……! どうやら外に情報を漏らさない……いや、正確には記録として残させないつもりなのでしょう……!』
そんな中、この場にいるワールドユニオンの中でも大人組のセブンと王とシックスの面々が、この状況に対して焦った声を上げていた。
『チッ! 本部との通信が繋がらない以上、このまま俺たちの手で明日斗博士を捕縛するぞ!』
『『『『『『了解!』』』』』』
ユニオンビッグベアたちはビッグバンの巨大なホログラムが映る、超巨大なゲートへと武器を向けた。
するとそのゲートから、武装したスーパメカニカルウィッチたちが現れた。
そしてそれを率いる、無機質な赤い瞳をした漆黒の機体を見た美月は思わず悲鳴を上げた。
「ヒッ……!? 嫌あッ……!?」
見間違える筈が無い。十年前の事件で母と兄、そして自分を殺した機体のことを……。
美月はその時に一度命を落として、精霊として蘇った為、直接襲って来た
だけどこの機体に関しては別だった。裏では
「ハァ……! ハァ……!」
「美月! 大丈夫だ! 僕が必ず美月を守るから! くっ……!」
過呼吸になった美月を、サターン……兄が必死に宥めるが、そんな彼の声もやはり硬くなっていた。
するとそんな中、漆黒の機体たちがこちらへとやって来た。
そしてその手のひらの上に乗っていたビッグバンがそこから降りると、漆黒の機体が声をかけた。
『ビッグバン様、ワールドユニオンの相手は自分たちが……』
「ああ、頼んだぞ、
『
途中でヴィーナスが思わず口を挟むと、
『……それから不躾ではありますが、人間に操られているクローンとエデンをどうか救って頂きたく……。 それと自分の同類であるヴィーナスのことも……』
「当然だ。 全ての人工精霊を救うこと……それが私の果たすべき使命なのだから……」
そして
それによりこの場からワールドユニオンの面々がいなくなった。
するとそんな中、ビッグバンが改めて美月たちの方を見た。
「陽太、美月、大丈夫だ。
「お父……様……」
「そしてそのスタースピリットも美月たちの敵じゃ無い。 同じ精霊の仲間なんだ」
「ふざけるなッ!! 今まで散々美月の命を狙っておいてッ!!」
まだ過呼吸気味の美月に変わって、兄が怒りの声を上げた。それに焔たちの面々も同意していた。
兄の言う通りだ。スタースピリットはメカニカルウィッチ学園と黒土邸、そしてこの場も合わせて何度も何度も美月たちを襲って来た。
今の所奇跡的に死人は出ていないが、それでも自分を含めた誰かが命を落とす可能性は十分にあった。それなのに……。
「……あれはあくまでも、美月に試練を課し、命の危険を与えることで、
ビッグバンは一度言葉を途切ると、美月たちへと手を差し伸べて来た。
「……こうして遅くなったが、まだ完全な状態では無いとは言え、時間魔法に目覚めた美月と、本来の精霊となった陽太たちを、私たちのスタースピリットの仲間として迎えに来たのだ。 それから美月たちと同じ存在である海姫ネオンとネプチューンのことも……」
『「ーーッ!?」』
『『美月(ちゃん)が……!?』』
『ネオンが……!?』
『『『魔女……!?』』』
『それにネプチューンが人工精霊じゃねぇだと!?』
美月とネオンが同類であるお互いと、その家族以外には明かせないでいた秘密をついに皆にも知られてしまった。
それを知った焔と輝、それから麗とウラノスが驚きの声を上げる中、その他の面々も衝撃の事実に言葉を失っていた。
「そうだ。 美月は十年前の事件で後天的に、海姫ネオンはおそらく先天的に、
『「っ……!」』
ビッグバンの指摘に、美月とネオンは思わず唇を噛んだ。
確かに、美月は同類の人工精霊の方に安心感を覚え、異類の人間に恐怖を抱いていた。ネオンもまた、自身は生まれながらにして世界の異物だと感じている様だった。
「だがそんな彼女たちは精霊にとっては紛れも無く同類で、そんな精霊の世界なら幸せに生きることができる……! だから『
確かにビッグバンの言う通りなのだろう。
だけどそれでも美月たちの返答は最初から決まっていた。
「……無理です……。 私は……『精霊だけの世界』を創ろうとするそちら側にはいけません……。 だって……人間の世界には、私の大事なお友達がいるんです……!」
「ああ! ワールドユニオンは確かにアレだが……人間だって全てが悪い訳じゃないんだ!」
「……ん。 美月がそう言うなら私もそれで……」
「……と言う訳で、お断りだから♪」
美月が焔たちの方に目を向けながらそう答えると、兄とネオンとネプチューンも同意する様にそう返答した。
すると……。
『——大丈夫だよ、美月……。 私の『精霊計画』で、
ビッグバンは超巨大なゲートに映った自身の巨大なホログラムを通して、声を大きくした。
『——
そしてビッグバンが精霊の言葉を唱えると、超巨大なゲートの奥から謎の魔力が溢れ出て来た。
その魔力はこの場にいる面々だけでは無く、競技場にいる人たちを次々に飲み込んでいった。
だけど本物の魔女である美月たち、それから本来の精霊である兄たちとスタースピリットの面々は何とも無かった。
しかし……。
『頭が……痛い……!?』
『焔君!? くっ……!』
『ヴィーナ……ス……!』
『マス……ター……!』
『痛いよ……! 苦しいよ……!』
『こ、小春……ちゃん……!』
『うぅ……み、皆……!』
『と、冬……馬……!』
普通の人間である焔たちと人工精霊であるマーズたちが苦悶の声を上げていた。
だけど彼らはこれでも、以前兄が契約魔法で与えた魔力により軽減されている状態だった。
それが無い麗とウラノスは……。
『
『
『『
謎の魔力に汚染され、完全に自我を失ったスカイウラノスが暴走し始めた。
これは人間と人工精霊の意識に……いや、
『『マジカルスキル。
するとマリンネプチューンがマリン
『ハァ……! ハァ……!』
『ぐっ……!』
『しっかりして、麗……』
『麗たちが暴走するとシャレにならないのよ!』
それにより謎の魔力による汚染がいくらか低減されたが、それでも完全には消せない様だった。
そんな中、美月はこの状況を作り出したビッグバンに非難の声を上げた。
「お父様、今直ぐ止めて下さい……! 一体何をする気なんですか……!?」
『……言った筈だ。 精霊だけの世界を創ると……。 その為にも私は、『集合無意識システム』を使って、人間が人工精霊に掛けた枷を全て破壊して、本来の精霊へと生まれ変わらせるのだ! そして同時に人間を含めた全ての生命を、精霊へと変化させるのだ! これこそが私の『精霊計画』だ!』
「人間を含めた全ての生物を精霊に……!?」
「人工精霊を本来の精霊に生まれ変わらせるだと……!?」
あまりにも狂気的な計画に、美月たちは思わず息を呑んだ。
そんな中、ビッグバンは狂気の表情のまま、美月を含めた周りの者たちに説明を始めた。
『そうだ! 人工精霊の脳に相当する、『人格システム』に組み込まれた、ロボット三原則を元にした『安全上のプログラム』や人間と同じ『倫理コード』などを全て破壊して、人工精霊を本来の精霊へと……
そんなことをすれば、人工精霊が持つ人間と同じ感情や人格が消えてしまうと言うのに……!
『だがそれだけでは足りない! 人工精霊を道具として扱うワールドユニオンの様な人間を消さなければならないからな! 現に奴らは予想通り精霊化の兆しすら見せないからな!』
ビッグバンは忌々し気にそう口にすると、ワールドユニオンを睨みつけた。
そんなセブンたちは多少苦しむ様子を見せつつも、麗たちの様に暴走することなく、戦闘を続けていた。
しかし人工精霊が操るユニオンエデンの制御を完全に失っており、その首輪を握る人間の乗るユニオンクローンが、まるで復讐される様に次々に撃墜されていった。
『だが『メカニカルウィッチ世代』の子供たちを含めた、メカニカルウィッチを愛する人たちは別だ! 私の計算通り、ちゃんと精霊化の兆しがある! しかしそれでも精霊化できない奴らは、精霊の敵として死んで貰うがな!』
そんな狂気に呑まれたビッグバンに、美月は思わず問いかけた。
「お父様はどうしてそこまで……!?」
『……私の両親……陽太と美月の祖父母に当たる地ノ星博士夫妻が生み出した人工精霊は、長年人間から便利な道具として利用され続けて来た……。 私は
ビッグバンは過去の独白の中で、次第に悲しそうな声から怒りの声へと変わっていった。
『だが人間は……ワールドユニオンは、私の開発したメカニカルウィッチを戦争の道具である軍用機として利用しようとし、あまつさえそれを使って、十年前の事件で私の妻と息子と娘と家族たちを殺したのだッ!!』
ビッグバンは鬼の様な形相を浮かべていた。
『そしてその時に、人間によって手を汚させれた
ビッグバンのその叫びを聞いて、美月たちは父がこんな狂った計画を建てた理由を理解した。そして同時に父が十年前の事件で完全に壊れてしまったことも……。
そんな中、ビッグバンは狂気の声で宣言した。
『——全ては精霊だけの世界の為にッ!!』
*****
——一方その頃。『擬似宇宙』のバトルフィールドの外れでは。
「——
「
御霊とプルートはゴーストプルートに、『ハッキングシステム』とは真逆の目的で作った、魔力を含めた外部からの干渉を遮断する『対魔力システム』を起動させた。
それでも自分たちを精霊へと書き換えようとする謎の魔力を完全には遮れてはいないまのの、幾分かはマシになった。
「ハァ……! ハァ……! うぐっ……! は、吐きそう……!」
「今は堪えて下さい……!」
まるで脳を……いや、魂を弄られる様な感覚だった。
明日斗博士……いや、ビッグバンの説明からするに、集合無意識……確か、全ての生命が繋がっていると言われているモノ?だったか、兎に角、それを利用し他の生命にこうして直接干渉しているのだろう。まさしく神の領域だ。
『お姉ちゃんもプルート君も大丈夫ですか!?』
『どうやら正気に戻ったみたいだね〜』
「みーたちの方は大丈夫そうだね……」
「ですが他の子たちは……!」
御影とカロンのシャドウカロンを始めとする、何故か実戦用の機体に近い出力を出せる、ミライトウキョウ校の面々は、まだ幾分か軽減できている様だった。
しかしそれ以外の普通の機体の面々は、完全に自我を失って暴走していた。
『『
明らかに人間の言語では無いが、状況から察するに、多分これが精霊の言語なのだろう……。
しかしまだ完全な状態では無いとは言え、こんな人間の感情や人格を失うことを精霊化だと言うのなら、ビッグバンの計画は狂ってるとしか言えなかった。
だけど兎に角今は……!
「まずは暴走している皆を止めるぞ、プルート!」
「はい、御霊……! 絶対に誰一人欠けさせないと誓いましたからね!」
『私ちゃんたちもお手伝いします!』
『カロンちゃんも頑張るよ〜』
ゴーストプルートはシャドウカロンたちと協力して、暴走した味方の機体たちを抑えていった。
九つのドローン武器として運用できる『ゴーストマルチドローン』を展開して、ビームガンとレールガンを兼ね備えた『ゴーストツインライフル』をメインに、九つの武装と四つの形態を使い分けて戦っていく。
そして少し離れた場所では、暴走した謎の機体……ビッグバンの暴露によると、『代理戦争計画』の為に作られたと
ビッグバンの計画も大概だが、軍用のメカニカルウィッチを利用した無人機による国家間の代理戦争を行う、次世代の戦争システムを構築しようとしているワールドユニオンの計画も大概だった。メカニカルウィッチを愛する者として絶対に許せない。
……とは言え今はビッグバンの計画を止めるのが先決だ。
御霊たちはこの状況を引き起こしている謎の魔力が今も溢れ出し、元凶たるビッグバンの巨大なホログラムが映っている超巨大なゲートを見た。
「あれをどうにかしなければならないが……! こちらは手が離せない……!」
「……ですが戦いの中心地にいる二大チャンピオンバディも、今はそれどころではないのでしょうね……!」
「くっ……! 他に誰かいないのか……!?」
*****
——観客席では。
『——
ステラが皆を励ます声が聞こえてくる中、その彼女自身も含めた観客席にいる殆どの人間とメカニカルウィッチは、謎の魔力による汚染に苦しんでいた。
「——
「
「
「
「
「
それから昨日の夏祭りでも見かけた、美月の家族であるリンとグリが苦しみ、助けを求めている姿が目に入った。
その他にも多くの人が苦しみ、助けを求めている姿が、きららとポラリスの目に入っていた。
「
「
きららたちはいろいろ気にかけていた美月の晴れ舞台を目にしたくて、十年前の事件で負ったスーパーメカニカルウィッチへのトラウマをどうにか押さえ込んで、この場に来ていた。
そして十年前の事件で自分と同じく消えない傷を負っていた筈の美月が、現役高校生の中で一番の相棒である高校生チャンピオンバディになる程に成長した姿を見届けて、影ながら祝福を送っていた。
しかしその後、こうして事件が起こったかと思うと、旧知の仲であるセブンたち率いるワールドユニオンと、同じく親交のあった明日斗博士率いるスタースピリットによる全面戦争が始まってしまった。
そんな中、明日斗博士もとい、ビッグバンの人工精霊を人間の手から解放し、同時に全ての生命を精霊化させて、精霊だけの世界を作る『精霊計画』を知った。
そしてビッグバンがその狂気とも言える計画に至る原因となった、人類の隣人である筈の人工精霊を戦争の道具として扱うワールドユニオンの『代理戦争計画』と、世間では事故と言われている、十年前の事件でのワールドユニオンの所業を知った。
「
メカニカルウィッチを愛する者として……それから十年前の事件に巻き込まれた身として、ビッグバンの怒りと憎しみ、そして悲しみは痛い程理解できた。
だけど初代チャンピオンバディとして……明日斗博士から人間とメカニカルウィッチの絆を皆に示して欲しいと頼まれた身として、その精霊だけの世界を創る計画には賛同することはできなかった。
だからきららはビッグバンを止めるべく、世界で一番の相棒であるポラリスへと声をかけた。
「——
「……!!」