——あれは今から二十年前……二一三〇年の夏頃のことだったわ。 人工精霊がメカニカルウィッチの体を手に入れたことで、人類の隣人として……相棒として認識される様になったことで、そんな相棒と一緒にバトルする為のスポーツ競技……ウィッチバトルが生まれて、遂にその最初の記念すべき世界大会が開かれることになったの……。
「——ポ、ポラリス……! いよいよ、世界で一番の相棒……チャンピオンバディになるチャンスが来たのね……!」
「うん、きららちゃん! 今こそ、明日斗博士にも違った通り、今こそ人間と人工精霊の絆の道標になる時だよ!」
明日斗博士がメカニカルウィッチを開発し、それが世に広まりだしてから早数年……今まで実体を持たないが故に便利な道具としか扱われていなかった人工精霊が機会の体であるメカニカルウィッチの体を手に入れたことで、人類の隣人として人間社会に溶け込む様になっていた。
特に若い世代は、そんな
そして、そんなウィッチバトルは若い世代を中心に大ブームを起こし、競技設立から僅か数年で、ワールドユニオン主催の元、世界大会が行われることになった。
そんな中、ワールドユニオンに正式なメカニカルウィッチとして最初に登録されることになったポラリスと相棒となったきららも当然、ウィッチバトルの世界に飛び込んだ。
そして、類稀なる才能と努力の甲斐もあって、こうして故郷のJP国の代表として、記念すべき最初の世界大会に出場することになった。
「ねえ、ポラリス……こうしてエデンにまた来れたことだし……明日斗博士と直接会えたりしないかな……?」
「う〜ん、私としても久しぶりに会いたいところだけど……明日斗博士はいつも研究で忙しい上に、研究所に残っている
「そっか……」
「でもまあ、
「うん……! そうだね、ポラリス!」
せっかくこうしてワールドユニオンの本拠地のエデンに……きららとポラリスが出会った明日斗博士の研究所がある場所にまた来れたから……と思っていたが、どうやら明日斗博士と会うのは難しそうだった。
まあ、メカニカルウィッチが世に広まったことで、明日斗博士は今や、きららが生まれるずっと前に起きたと言うWWⅢを終わらせたあのアダム議長に匹敵する影響力があるそうなので仕方がないのだろう……。
そして、きららがふとそんなことを考えていると、その噂の主が視界に入った。
「あれ……? あの人はもしかして……」
しかし、それは明日斗博士ではなく……。
「アダム議長……?」
「本当だ〜」
その人物はワールドユニオンのトップであるアダム議長その人だった。
すると、そんなアダム議長はその立場もあって、たくさんの護衛を引き連れていたが、よくよく見ればその側にはきららよりも少し年上に見える少年がいた。
「セブン、ワールドユニオンの推薦枠……言うなれば、代表枠として、頼みましたよ。 メカニカルウィッチの戦闘能力の調査と共に、ワールドユニオンの力を世に示すのです」
「はい、
「ええ……貴方は私の子供たちの中でも一際優秀ですからね。 期待していますよ」
「はい! では、行って来ます!」
アダム議長に声をかけられている少年は、どうやらセブンと言う名前らしく、色の抜け落ちた白い髪に、血の様な赤い瞳を持つ、褐色肌の巨漢の男性だった。
アダム議長には妻子はいないが、孤児院を開いているのは割と有名な話だった。だから、彼はきっとそんな孤児院出身の養子なのだろう。
そして、アダム議長の元を離れたセブンは、自身の相棒らしきメカニカルウィッチへと声をかけていた。
「ビッグベア。
「お任せ下さい。 それが道具として作られた自分の役割ですから……」
ビッグベアと呼ばれたメカニカルウィッチは、黒い髪に、赤い瞳をした少年だった。
だけど、見た目は人間そっくりだが、その喋り方はどこか機械の様だった。
きららとていろんなメカニカルウィッチと出会って来て、皆十人十色なのは知っているが、あそこまで感情が希薄な子は初めて見た。それに、自身のことを道具として自称していたのが、気になった。
しかし、見知らぬ相手にそれを指摘するのも失礼なので、きららはそんなモヤモヤを自分の胸に仕舞い込んだ。
すると、そんなきららにポラリスが声をかけて来た。
「きららちゃん。 開会式までは時間はまだあるけど……そろそろ会場に行こうか?」
「そうね、ポラリス。 私たちもいきましょうか」
そして、きららたちは会場へと移動しようとしたのたが、その途中、一人で泣いている小さな女の子と出会った。
「ね、ねえ、大丈夫? もしかして、迷子かしら?」
「うん……ママとパパと逸れたの……うぅ……!」
「わわっ……!? だ、大丈夫よ……! お姉ちゃんが貴方のママとパパを見つけて見せるから……! あ、私はきらら。 極星きららよ。 貴方のお名前は……?」
「ナーシャはナターリヤ……。 ナターリヤ・ダイヤモンド……」
「ナターリヤちゃん……素敵な名前ね……」
ナターリヤ・ダイヤモンドはロングヘアの白い髪と瞳をした少女で、話を聞くにRU国出身で、今は五歳らしかった。両親と一緒に世界大会を見に来たが、あまりの人の多さに逸れてしまったらしく、まだ相棒といない為、こうして一人で泣いているらしかった。ちなみに、ナーシャは相性らしい。
JP国出身のきららとRU国出身のナターリヤでは、母国語が違うが、今の時代マジカルウォッチを付けていれば自動で翻訳してくれる為、こうして普通に会話することができた。もし、これが無かったらもっと大変だっただろう……。
「ポラリス。 運営への連絡は……?」
「うん……それがあまりの人混みの多さで電波が悪い上に、運営の方もどうやらゴタゴタしているみたいで……」
「う〜ん、それなら……」
ポラリスには運営の迷子センターの様な所に連絡して貰っていたが、どうやら期待はできそうにない……。
きららもJP国の代表してこの後ある開会式に出ることになっていたが、小さな女の子を放ったらかしにすることなんてできない為、そのままこの子の両親探しをすることにした。万が一開会式に遅れたら……まあ、その時はその時だろう……。
それから、きららたちはナターリヤが両親と一緒に回っていたと言う場序を見て回りながら、いろいろと聞き込みをして回った。
しかし、成果は著しくなく、少し途方にくれていた。
そんな時だった。
「「——アイタ……!?」」
きららは曲がり角で誰かとぶつかった。不幸中に幸いか。一緒に手を繋いでいたナターリヤは何とも無かった様だが、自分の不注意のせいで、ぶつかってしまった人に、きららは慌てて謝った。
「ご、ごめんなさい。 私の不注意のせいで……!」
きららはそう言いながら、ぶつかった少女へと手を伸ばした。
「イテテ……! 前見てなくてごめんルー……って、極星きららとポラリスルー!? 蘭と竜は、ずっとあなたたちに会ってみたかったルー!」
すると、蘭と名乗った少女はガバッときららの手を掴んで来た。
「ああ。 蘭よりも年下でありなから、我らよりも才があると噂されるお前たちのことは気になっていたのだ」
さらに、竜と呼ばれたメカニカルウィッチの少年もそう口にした。
「ええっと……」
「あ! 名乗り遅れたルー! 蘭は龍蘭ルー! ウィッチバトルに関してはCN国最強なんだルー!」
「我は竜。 見ての通り、蘭の相棒だ。 我らは最強を目指していてな……人間とメカニカルウィッチの絆の象徴にして、ウィッチバトルでも名を上げているお前たちのことを、いろいろと注目していたのだ」
「な、成程……」
龍蘭は、セミロングの炎の様な真っ赤な髪に、紫の瞳を持つ、CN国出身の少女だった。
そんな彼女の相棒である竜は、赤い髪に、金の瞳をした少年だった。
そして、そんな蘭たちは言っていた通り、前々から注目していたきららたちとバッタリと遭遇したことで、テンション高めに話しかけて来た。
きららとしてはむず痒くも嬉しくはあるが、側にいるナターリヤと、蘭たちの後ろにいた弟?の様な少年が不安そうな顔をしていることもあり、迷子探しをしている方に話を変えることにした。……とは言え、弟?にしては似てないな……。
「あ、あの……すみません……! 実は私たち、今この子の……ナターリヤちゃんの両親を探していて……! それで……」
「あーーッ!?」
「……!?」
すると、蘭は突然大声を上げた。
「きららたちと出会ったことで……あ、きららって呼ぶから、蘭のことも蘭って呼んで欲しいルー……。 兎に角! 蘭も忘れてルー! 実はこの子も迷子らしくて、蘭もこの子の両親を探しているルー!」
「え……?」
「えっと……僕、カイ・ブレイヴです……。 お父さんとお母さんと逸れてしまって……」
「……」
頭を抱える蘭の後ろで、少年が恐る恐る声を上げた。
カイ・ブレイブは青い髪と瞳をした少年で、話を聞くにUS国出身で、今は五歳らしい。それから、迷子のナターリヤと殆ど同じ状況らしかった。
迷子探しをしていたら、迷子が増えた上に、それぞれがJP国、RU国、CN国、US国のバラバラの出身で、全然手がかりすら見つからない……。
この際、開会式に遅刻しそうなのはどうでも良いが、このままではナターリヤとカイの両親を全然見つけられない。
そう途方に暮れかけていたその時だった。
「——何事だ……」
すると、誰かがワタワタしているきららたちに声をかけて来た。
「貴方は……」
「俺はセブン。 セブン・ガーディアンだ。 確か……大会出場者の極星きららと龍蘭だな……。 それにそっちの小さい子たちは全然似てない上に、おそらく出身国も違う……迷子か……」
「はい……だけど全然手がかりが見つからなくて……」
その正体は、先程見かけたセブンだった。
「……全く、運営には連絡しなかったのか?」
「それが、人混みの多さで通信が混雑している上に、運営の方も混乱しているみたいで……」
「ハァ……それなら……ビッグベア」
「
セブンの問いに対して、ポラリスが答えると、彼はビッグベアへと指示を出した。
「まだ子供のお前たちでは、迷子の両親探しは難しいだろう。 さっき特別な連絡網を使って
「あ、ありがとうございます……!」
「ありがとルー!」
セブンの言う通り、アダム議長が動いてくれるのなら安心だろう。
きららと蘭が思わずお礼を言うと、セブンは鼻を鳴らしながら、ポラリスと竜を睨んだ。
「フンッ、子供の為ならば当然だ。 それよりも、そこの人間擬……んんっ、メカニカルウィッチたちは、何をやっていたんだ? こんな時に役に立たないとは……
「「うぅ……」」
ポラリスと竜はその言葉にしょげていた。
しかし、その反対にきららと蘭が怒りの声を上げた。
「そんなことないわ! ポラリスだってナターリヤちゃんの両親を探すのを頑張っていたわ!」
「竜もルー! 蘭の世界で一番の相棒を悪く言うのは許さないルー!」
「フンッ。 俺は事実を言ったまでだ。 そんなことよりも、さっさと着いて来い……」
「「ぐぬぬ……!」」
ポラリスと竜に酷いことを言ったセブンには思うところはあったが、ナターリヤとカイの為にも、渋々セブンの後を着いて行くことにした。
「きららお姉ちゃん! ポラリスお姉ちゃん! 本当にありがとう! ナターリヤ、世界大会ではきららお姉ちゃんたちを応援するから!」
「蘭お姉ちゃん、竜お兄ちゃん! それから、セブンお兄ちゃんとビッグベアお兄ちゃんも、本当にありがどうございました!」
その後、ナターリヤとカイは無事に両親と再会でき、そのまま別れることになった。
そして、その場に三組が残された。
「それでは、俺たちはもう行く……。 お前たちも開会式には遅れない様にするんだな……」
「あ、あの……! ナターリヤちゃんたちの両親を探してくれてありがとうございます……! だけど、ポラリスのことを悪く言ったのはまだ許していませんから……!」
「蘭もルー! 感謝と不満は別ルー!」
「フンッ。 メカニカルウィッチなんぞを大切にするなど、おめでたい奴らだ。 ……俺は自分の言葉を取り消すつもりはない。 もし不満があるのならば、
セブンはそう言って去って行った。
「望むところよ!」
「絶対に負けないルー!」
そんなセブンの後ろ姿を見ながらきららと蘭は声を上げた。
——思えば、蘭ちゃんとは最初から気が合っていたけど、セブンさんとは最初から気が合っていなかったわね……。
*****
——それから、いよいよ記念すべき世界大会の開会式が始まったの……。 そして、同時に名国の代表同士による本戦出場をかけた予選が始まって……私とポラリスの世界大会での初陣が始まったの……。
『——さあ、記念すべき第一回世界大会がいよいよ幕をあけます! 世界名国の代表たちがしのぎを削り合うことになる予選を勝ち抜き、その先にある本戦の頂点に立ち、映えある初代チャンピオンバディの称号を手にするのは、果たして誰になるのか!?』
MCの男性の世界大会の開幕の宣言に会場は大盛り上がりだった。
ウィッチバトルは生まれたばかりとは言え、その爆発的な人気に加え、世界大会と言うこともあってその規模は凄い。
以前はもっと多かったらしいが、WWⅢにより世界地図から消滅した上に、戦後ワールドユニオンに加わらずに国として認められていない国を除いた、世界約一五〇の国から、国内予選を突破した上位複数名がこの世界大会の場へと集まっていた。
そんな約五百人近くの大人数を、予選でふるいにかけて、本戦のトーナメント戦に出る百名を決めるのだ。
予選のルールは十人によるバトルロワイヤルや、五対五による集団戦、三対三によるチーム戦や、二対二対によるタッグ戦、一対一による個人戦など、即席のチーム力も試すいろんな物が予定されているらしい。
予選はポイント式である為、一度負けたからと言って終わりではないが、それでも一戦も落とす訳にはいかない。
そして、最初の予選である十人によるバトルロワイヤルで、いよいよきららたちの番が回って来た。
「さあ、ポラリス! 私たちの絆を世界中の皆に見せるわよ!」
「うん、きららちゃん! 行こう!」
『工場群』のバトルフィールドにきららとポラリスのテディベアポラリスが降り立った。
『それでは、バトルスタートです!』
そして、MCの男性のバトル開始の合図と共に、『工場群』に降り立った機体たちが一斉に動き出した。流石は世界大会のに出るだけあって、皆凄い腕前だ。それでも……!
「私とポラリスの絆は誰もにも負けないわ!」
類稀なる才能と、それに怠らずに努力を重ね得て来たきららたちの敵では無かった。
テディベアポラリスはバトルロワイヤルの相手を次々に戦闘不能にして行った。
バトルロワイヤルと言うだけ合って、強敵を前に即席の同盟を結ぶことだって可能だ。
それを利用していろいろと名の知れているきららたちに対抗する為に、即席のチームを組んで挑んで来る人たちもいた。
いくらきららたちと言えど、流石に世界レベルの相手を複数人同時に相手取るのはきつい……。
しかし……。
「ノー! いくら強者と言えど、大会出場者の中で最年少のレディを寄ってたかって袋叩きにするのは見過ごせませーん! だから、ミーたちはこっちに着かせて貰いマース!」
「グルル……! お前らまとめて食ってやるぞ!」
すると、とある機体がピンチのテディベアポラリスを助けてくれた。
確か……大会参加者情報では、FR国出身のシュクル・パディスリーとケルベルス。機体名はガトーケルベルス。
シュクル・パティスリーは、金の髪と瞳をした男性で、彼の相棒のケルベルスは金の髪に赤い瞳をした女性だった。
そして、そんなシュクルたちの援護を受けたきららたちは、即席のタッグを組んで、バトルロワイヤルの他の機体を蹴散らした。
「オー! やっぱり噂通り、強いのデース!」
「いえ、シュクルさんたちも凄かったです……!」
「センキュー! しかし、こうして残るはミーたちだけである以上、即席のタッグはここまでデース! ここからは、真剣勝負で行かせて貰いマース!」
「グルル……! 強者の味……オイラも楽しみだ……!」
「はい! 望むところです! ポラリス!」
「うん、きららちゃん!」
それから、テディベアポラリスとガトーケルベルスによる一騎打ちが始まった。
きららたちが優勢であるものの、シュクルたちもまるで喰らいつく様に一歩も引かない。
これが世界の実力者……!これが世界大会……!楽しい……!
しかし、楽しいバトルにも終わりは訪れる。
「これで来てるわよ、ポラリス!」
「うん、きららちゃん! 行くよ!」
「「マジカルスキル! ポラリスバースト!」」
テディベアポラリスは、テディベアステッキを降っていくつもの魔法陣を発生させると、そこから巨大なビームを放った。
「ノー!?」
「シュクル!?」
そして、その攻撃を受けたガトーケルベルスは、マジカルバリアを破壊されて戦闘不能になった。
『——決まったー! バトルロワイヤルを制したのはきらら選手とポラリスのテディベアポラリスだー!』
それから、MCの男性のきららたちの勝利を讃える声が聞こえて来る中、きららはバトルを終えて手元に戻って来たポラリスとハイタッチした。
「やったわね、ポラリス!」
「うん、世界大会の最初の予選……まずは勝利だよ! だけど、きららちゃん。 予選はまだまだ始まったばかりだよ」
「分かっているわ。 それでも、私たちは必ずなるの……」
「うん、私たちの夢……」
「「——世界で一番の相棒であるチャンピオンバディに……!」」
——こうして、世界大会の予選が幕を開けたわ。 そして、私たちはそこで、今も尚友人である皆と出会うことになったの……。