——全国大会十一日目。その日の夕方。
「——お嬢様、終わりました。 とてもお美しいですよ」
「ありがとう、リン」
美月は全国大会の期間中、寝泊まりに使っている、競技場に隣接した場所にあるホテルの最上階のスイートルームで、リンに浴衣の着付けをして貰っていた。
余談だが、美月は明日斗博士の娘としての立場や、スタースピリットやワールドユニオンに狙われていると言う諸々の事情がある為、特別にこの部屋を手配して貰っていた。
本来の日程ならば、準決勝は今日行われる筈だったが、ワールドユニオンが起こした事件の影響で、昨日に前倒しになってしまった。
しかしだからと言って、流石に決勝まで前倒しにする訳にはいかなかった上に、昨日の事件のことを含めたいろいろな安全対策の準備を行う必要があった為、今日一日フリーになってしまった。
そんな訳で、美月は決勝前夜の息抜きとして、皆と近くで行われている夏祭りに行くことになったのだった。
そんな美月はリンの完璧な着付けにより、朝顔の柄が入った着物を身に纏い、さらにいつもはハーフアップにしている髪を、完全に上で纏めたアップスタイルにしていた。
すると美月と同様にリンに着付けをして貰ったネオンと小春、それからネプチューンとジュピターが声をかけて来た。
「……ん。 美月、良く似合ってる……。 凄く、綺麗……」
「やっぱり黒髪に和服は似合うね〜♪ でもネオンちゃんだって負けていないんだから♪」
「うんうん! リンさん、あたしたちの着付けもしてくれてありがとう!」
「う、うん……小春ちゃんも皆も、浴衣姿良く似合っているよ……!」
そんなネオンは百合の柄が入った着物を身に纏い、さらにいつもはツーサイドアップにしているウェービーロングヘアの髪を、シニヨンにしていた。
その一方で小春は向日葵の柄が入った着物を身に纏い、さらにいつもはワンサイドアップにしているセミロングの髪を、三つ編みにしていた。
そしてそんな二人の相棒たちは、変身魔法であるマジカルチェンジを使ってお揃いの着物に着替えていた。
さらに同じ女性と言うことで部屋にいたマーズとヴィーナスも声をかけて来た。
ちなみに美月の相棒であるものの男性であるサターンは、当然部屋の外で待機していた。
「浴衣姿の美月ちゃんは最高ね! こんなに可愛い美月ちゃんを焔君が見たら……フフフ……!」
「くっ……! 流石はヴィーナスのライバルの美月さんです……! ですがヴィーナスだって負けませんから……!」
そんな皆からの褒め言葉に美月は少し照れながらお礼を口にした。
「あ、ありがとうございます……! じゃあ、焔や輝先輩たちを待たせて悪いので、行きましょうか……?」
そして浴衣に着替えた美月たちは部屋の外の廊下へと移動した。
*****
「お、お待たせいたしました……!」
「「……!!」」
浴衣に着替えた美月たちが部屋の外の廊下に出ると、自分の姿を見た焔と輝が固まったまま動かなくなってしまった。あ、よく見れば冬馬も小春の姿を見て同じ状態になっている……。
以前海に行った時もこんな感じだったが、どこか変なところでもあったのだろうか?
美月がそんな不安を感じていると、サターンが興奮気味に声を上げた。
「みづ……お嬢様ッ!! 本当に綺麗で、良くお似合いですッ!! 流石は僕の
サターンはちょっと?兄しての素が出かけていた。
するとそんなサターンの声によって現実に引き戻された焔と輝が慌てて口を開いた。
「う、うん! 煌めき可愛いよ、美月!」
「そうだね! とても綺麗だよ、美月ちゃ……さん!」
「あ、ありがとうございます……!」
そんな焔と輝からの褒め言葉に、美月は自分の顔が赤くなるのを感じ、少し俯きながらお礼を口にした。
するとそんな美月に対して、焔と輝がエスコートする様に手を差し出して来た。
「「——じゃあ行こうか、美月(さん)!」」
「は、はい……! よろしくお願いします……!」
美月はドキドキするのを感じながら、その手を取った。
それを見たサターンが発狂する様に何かを叫び、そんなサターンをマーズやヴィーナス、それからリンや爺やと言った面々が押さえていたが、美月は自分の心臓がうるさいくらいに鼓動するあまり、そのやり取りの声が良く聞こえなかった。
*****
——お祭り会場にて。
その後、競技場の近くにある山にある神社で行われる、夏祭りの会場へとやって来た美月たちは、待ち合わせをしていた輝の姉の光とその娘のレイ、それから家族のルミとエールと合流していた。
今回の夏祭りに来たのは、決勝前夜の息抜きの面もあるが、その一番の理由は、国に保護されたオフィウカスとサーペンスがワールドユニオンとスタースピリットの襲撃によって行方不明になったことを聞いてショックを受けたレイを元気付けることだった。
その為、美月はまだ幼いレイの目線に合わせる様にしゃがむと、口調を素の精霊人格から人間人格のお嬢様口調へと変えながら、その頭を優しく撫でた。
「美月お姉ちゃん……」
「大丈夫ですわ、レイちゃん。 オフィウカスとサーペンスはきっと無事ですわ。 彼女たちを連れ去ったであろうスタース……
オフィウカスたちを連れ去ったのはどちらかは分からないが、現場の状況と全体は兎も角、個としての強さからスタースピリットだと言うのが白金代表の見解で、美月も同じ考えだった。
そんなスタースピリットは、メカニカルウィッチを戦争の道具として使う人間の為の世界を目指すワールドユニオンとは反対に、精霊の為の世界を目指している様だった。その上、所属しているのはムーンとサン、それからネメシスとクリサリスとバルカンと言う、変わり果ててしまったもののかつての家族だった面々と言うこともあり、美月はある種一定の信頼の様なものを置いていた。
「本当に……?」
「ええ。 それにわたくしはいつか必ず
「うん……! 美月お姉ちゃん!」
「良かったですわ。 じゃあ、レイちゃん? 一緒にお祭りを回りましょうか?」
「うん!」
そして美月たちは夏祭りの出店を回り始めた。
——まずは金魚掬い。
「あ! 紙が破れちゃった……」
「ほら、レイ。 僕のを使って?」
「わたくしのもどうぞですわ」
「ありがとう、輝お兄ちゃん! 美月お姉ちゃん!」
金魚掬い。それはプールを泳ぐ金魚をポイと呼ばれる道具を使って取る百年以上も前からある古典的な遊びだ。
魔法が当たり前になったこの時代においては、そのレトロ感ある雰囲気から、こう言ったお祭りの場では大人気の遊びになっていた。勿論、雰囲気が壊れないように、他の遊びも含めて基本的に魔法は禁止である。
そんな中、ポイが破れたことを嘆くレイを宥める美月と輝の姿を見たヴィーナスがポツリと呟いた。
「ぐぬぬ……あれではまるで親子では無いですか……!」
「グハッ……!?」
その流れ弾がサターンに当たった。
——続いて射的。
「凄い凄ーい! ねえ、冬馬! あれ取れないかな?」
「ああ! 任せろ、小春!」
「フフフ……! 小春ちゃん、凄く楽しそう……!」
「フッ、冬馬も頼られて鼻が伸びまくっているな」
冬馬は元々狙撃が得意なこともあって、トイガンを巧みに使いこなしていた。
さらにそれを小春が誉めて調子を伸ばすのを繰り返すと言う正のループによって、次々に景品を撃ち落としていた。
そんな二人の姿をジュピターとマーキュリーは微笑ましそうに見守っていた。
——それから輪投げ。
「ネオン! 何か欲しい物は無いか? 俺が頑張って取るぞ!」
「……ん。 じゃああのお面。 何か可愛い」
「美月! 俺も美月の為に何か取るよ! 何が良い?」
「私は焔が取ってくれた物なら、何でも嬉しいです……!」
「「OK!!」」
輪投げでは先程の冬馬の活躍を見ていた麗と焔が燃えに燃えていた。
「ハハッ! 麗の奴、ネオンの為にって、燃えてやがるぜ!」
「焔君! ここでカッコいいところを見せるのよー!」
「……全く、ネオンちゃんの為にって言う姿勢は認めてあげるけど……それでもアタシ的には
「あばばばばばばばばばば!!」
「ありゃりゃ……さっきからダメージを受け過ぎたか……」
そんな中、相棒のウラノスとマーズ、それからネプチューンとサターンも何かいろいろと盛り上がっている様だった。サターンはなんとも言えない状態になっているが……。
——そしてヨーヨー釣りやかたぬきなどの出店を回った後……。
「あ、美味しい……!」
焔に取って貰った鬼の面をつけた美月は、ふと目について思わず買ってしまったわたあめを口にして、そう呟いた。
美月はお祭り自体には行ったことがあったが、いかんせん母と兄とムーンたちが亡くなった十年前よりも前のことだったので、出店の遊びや屋台の食べ物の何もかもが新鮮に感じた。
「……ん。 こう言う場所も……思ったよりも悪く無いかも……」
「うんうん! やっぱりお祭りって最高だよね!」
そんな美月の隣では、麗に取って貰った狐の面をつけたネオンがりんご飴を舐めていた。
それからその逆側では、冬馬に取って貰った天狗の面をつけた小春がチョコバナナを美味しそうに食べていた。
女子組は男子組からのプレゼントと美味しい物に上機嫌になっていた。
ちなみに、レイは遊び疲れてしまった様で、そんな彼女の母の光が「レイのことは私とルミとエールが見ているから、皆は気にせず遊んで来て?」と言ってくれた為、そのまま預けて来た。
そんな美月たちはこの後の花火大会を見ながら夕食を取る予定の為、屋台でいろんな食べ物を買っていた。たこ焼きに焼きそば、それから焼きとうもろこしにイカ焼き、そしてベビーカステラやクレープなど……。
少食気味の美月とネオン以外はいっぱい食べる方なので、それはもういろいろいと買っていた。
ちなみに、たくさん取った景品の方は、付き添いとして付いて来たリンと爺やが持つと言ってくれた。
するとそんな美月たちの耳に、盛り上がっている大勢の人たちの声と、
あっちは確か、夏祭りのメインステージがあった筈……。
『——やっはー、皆ー☆ 今年の夏祭りのサプライズゲストとして呼ばれたステラだよー☆』
まさかまさかのステラだった。確かに全国大会高校生の部のMCとして近くに滞在していたとは言え、国民的アイドルのステラをサプライズゲストとして招くなんて……!?夏祭りの運営の交渉力は凄いとしか言えなかった。
するとそんなステラと目が合った。
それは気のせいでも何でもなく、その証拠にステラは口パクで「みづみづ☆ やっほー☆」と言っていた。
そんなステラは美月とその周りにいる焔や輝たちを見ると、ニヤリと笑いながらマイクを手に取った。
『皆ー☆ 夏祭りの醍醐味と言えば、何を思い浮かべる? 楽しい出店? 美味しい屋台? 綺麗な花火? それぞれの答えがあるよね☆ それで私としてはなんだけど……やっぱり夏祭りと言えば、年頃の少年少女による甘酸っぱい恋だよね☆』
(す、スーちゃん……!?)
ステラのとんでもない発言に美月は動揺した。
だが動揺していたのは美月だけじゃなく、焔や輝、それから冬馬と言った面々も挙動不審になっていた。
『……と言う訳で、今回歌うのは恋愛ソングとして作ったこの曲☆ 聞いて下さい、『キラキラ☆ダブルアステ』☆』
そしてステラは宣言通り、恋愛ソングを歌い出した。
困る困る困る。ただでさえ、お祭りと言う雰囲気のせいか、妙に異性の焔と輝のことを意識してしまっているのに、さらに背中を押さないで欲しい。
美月は慌ててこの場から離れる方便を口にした。
「す、スーちゃ……ステラのライブも見てみたいところですが……花火大会で良い席を取る為に、そろそろ移動しましょうか……?」
「う、うん……! そうだね、美月!」
「あ、ああ……! そうだね、美月さん!」
*****
その後、慌ててその場を後にした美月たちは、メインステージから離れた場所にある高台にやって来ていた。
もう直ぐ花火大会が始まるものの、ステラのあまりの集客力により、まだこの場にはあまり人が集まっていなかった。
そんな中、麗が思い出したかの様に声を上げた。
「あ! やべっ! 飲み物忘れてた!?」
「
「……ん。 麗が行くなら、私も着いて行く……」
「え〜? めんどくさいけど……ネオンちゃんが行くならアタシも行くか〜」
そのまま麗たち大人組は急いで屋台の方へと向かって行った。
そして美月たち子供組がその場に残された。一応リンと爺やもいるが、何故か距離を取る様に少し離れた場所からこちらを見守っていた。
(ど、どうしましょう……? お祭りの雰囲気とスーちゃんの変な後押しのせいで、焔と輝ちゃんのことを変に意識してしまいます……!)
美月は自分の心臓がうるさいくらいにバクバクと鼓動し、顔も赤くなってしまっているのを感じていた。
こんな姿を見られたら恥ずかしいから、早く花火大会が始まってくれないだろうか、と美月は思った。
するとその祈りが通じたかの様に、花火が打ち上がる音が聞こえて来た。
星々が煌めく夜空に綺麗な花火が次々に打ち上がる。
古き良き王道の物から、魔法を組み合わせたまるで生き物の様に動く物まで、いろんな花火が夜空を彩った。
そんな中、小春が冬馬の手を引いて走り出した。
「見て見て、冬馬! 凄く綺麗な花火だよ!」
「こ、小春!? 落ち着け……!?」
「ありがとうね、冬馬! あの日、冬馬に……
小春は満面の笑みを冬馬に向けていた。
「——だからね、
そして冬馬に対してそう口にした。
……ん??今、告白?した??
(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ〜〜!? こ、小春!?)
その光景を見ていた美月は内心で思わず絶叫した。声に出なかったのは自分のことながら良くやったと思う。
いや、確かに、冬馬が小春のことを好きなのは、冬馬との試合の中で偶然聞いたが、まさか小春もそうだったなんて!?
これがいわゆる両片想い!?それならその答えは勿論……!
「あ、ああ……! うん……!
OK……にはならなかった。
(え?? へ、ヘタ……)
美月が内心で思わずそう言いかけると、代わりにジュピターとマーキュリーがその言葉を口にした。
「ええ?? いくらなんでもそれは流石に
「フッ、俺も流石にどうかと思うぞ、冬馬……」
「グハッ……!?」
それを聞いた冬馬が激しく狼狽えた。
するとそんな冬馬の顔へと、小春が自身の顔を近づけた。
「もお〜、こう言う意味だよ、冬馬」
そして小春が自身の唇を、冬馬の頬に……。
(え!? こ、小春……!? い、今、冬馬にキキキキキ……!?)
恋愛初心者の美月は、耐性の無い衝撃の光景を目にして完全に頭が爆発していた。
あくまでも他人事の筈なのに、自分まで心臓がドキドキして来る。一体冬馬は何て返事を……いや、ちゃんとOKと言えるのか!?
美月がその結末を見守っていると、背後に誰かの……否、焔と輝の気配を感じた。
「「美月(ちゃん)!」」
「ひゃ、ひゃい……!?」
美月は思わず上擦った声で返事をした。
何故このタイミングで!?しかも輝は普段のさん呼びじゃなく、幼馴染としてのちゃん呼びだし!?
え??まさか!?いやいや!?そんなまさか!?
美月はパニックになりつつも、おそるおそる後ろを振り返った。
すると焔と輝はいつに無く、真剣な目をしていた。どうしよう、二人共凄くカッコいい……。
「焔君
「はい! この煌めきな瞬間を逃したく無いんです!」
「僕もだよ……! それなら、正々堂々と行こうか?」
「勿論です! まずは輝先輩からどうぞ!」
「良いのかい?」
「だって輝先輩の想いの方が先でしたから! それでも負ける気はありませんが!」
「それなら遠慮なく……!」
何で二人共と通じ合っているのだろうか??自分にはどうなるのかさっぱりと分からないのだが??
いや、嘘だ……本当はこの後どんな展開になるのか頭では分かっていた。
するとそんな美月たちを見ていたサターンが発狂した声を上げながら、人間と同じ大きさの姿へと変身した。
「あばばばばばばばばば!! 待て待て待て待て待てッ!! 焔ッ!! 輝ッ!! 貴様ら、美月は……妹はまだ十五歳で、未成年で、子供で、まだこんなにも幼いんだぞッ!! だから後三年経って成人するまで待……!」
「サターン!! これはお嬢様の人生を左右する一大イベントなのです!! お嬢様の邪魔をしないで下さい!! グリ、手を貸して下さい!!」
「勿論です……!」
そんなサターンを、人間と同じ大きさの最先端のロボット体を使っているリンと爺やが二人がかりで抑えていた。
「サターンッ!! 貴方の兄として妹を想う気持ちは分かるわッ!! だけど私と弟君と、サターンの妹ちゃんの関係がようやく進展しそうなのッ!! だから悪いけど静かにして貰うわよッ!!」
さらにマーズがぶっ壊れたテンションで叫びながら、それに加わった。
「ヴィ、ヴィーナスッ! 焔と輝の馬鹿野郎共を止めてくれッ!!」
それでもサターンは諦めずに抵抗した。
しかし……。
「くっ……!! 申し訳ございません、サターンさん……!! 貴方の気持ちは本当に、痛い程分かります……!! だけどそれでもヴィーナスはマスターの想いを尊重したいのです……!! その上で
最後の頼みの綱であったヴィーナスもサターンを抑えに行った。
そんな中、焔と輝が改めて自分のことを真っ直ぐに見つめて来た。
どうしよう?頭から湯気が出ていると錯覚するくらいに熱い。絶対に今、顔が真っ赤になっているのが分かる。
それに心臓が今にも破裂しそうなくらいに、バクバクとうるさい。絶対に焔と輝にも聞こえてる気がする。
それでも美月は焔と輝から目を逸らすことだけはしなかった。
そして……。
「——
「——美月。 俺は……ショッピングモールで美月のことを見かけた時から、ずっと美月のことが気になっていた! その後、美月の笑顔を見て好きになったんだ!」
「「だから、僕(俺)と付き合って下さい!」」