「——ハァ……! ハァ……!」
美月は焔から貰った鬼の面で顔を隠しながら、お祭り会場の中を必死に走っていた。
お面を被ったまま走っているせいで息苦しいが、真っ赤になっている顔を他人に見られるよりはマシだった。それにどの道、焔と輝から同時に告白されたことで、心臓が今にも破裂しそうなので、誤差の様なものだった。
するとそんな美月の手を誰かが掴んだ。
「美月!!」
「ーーッ!?」
「大丈夫だ、美月! 僕だ!」
「お兄……様……?」
美月の手を掴んだのは、人間と同じ大きさの姿に変身したサターンだった。
相棒兼兄として、この世界で一番信頼できる人物だったこともあり、美月はようやく足を止めた。
それにより美月は、無我夢中で走っている内に、いつの間にか神社まで来ていたことに気づいた。
だけど今は夏祭りの真っ只中なのに加え、花火大会の真っ最中だったので、他には誰もいない様だった。
そこで美月は顔を隠していた鬼の面を取った。
まだ顔は赤いままになっているだろうが、他人の目がないのなら良いだろう。後、流石にそろそろ息苦しかった。
すると誰かが走って来る音が聞こえて来た。
他の人が来る!?いや、もしかして焔と輝が追いかけて来た!?
美月がパニックになる中、現れたのはリンだった。
「お嬢様!」
「リン……痛ッ……!?」
美月は一安心したのも束の間に、足に痛みを感じた。
そのまま反射的に足元を見ると、履いていた下駄の鼻緒が切れてしまっていた。間違いなく全力疾走したせいだろう。
「美月!?」
「お嬢様!?」
そんな美月を見たサターンとリンは焦った声を上げながら、転びそうになった美月の体を咄嗟に支えた。
そのまま二人は「早く美月を医務室に連れて行かないと……!」、「いや、その前にお嬢様の応急処置を……!」と、軽くパニックを起こしていた。いつもは冷静な筈なのだが、やはりさっきの告白の件とその後の逃亡劇で、いろいろと心配させてしまったのかもしれない……。
——その時だった。
「——ねえ、貴方たち……大丈夫かしら?」
「何かあったの?」
(……!!)
聞こえて来た声に美月は思わず目を見開いた。
その声を忘れる筈がない……。だってその声の主の二人は、十年前の事件で母と兄とムーンを失ったことで、美月が失くしかけたウィッチバトルが大好きだと言う気持ちを思い出させてくれた……繋ぎ止めてくれた恩人たちだったから……。そして憧れの人たちだったから……。
美月が声が聞こえて来た方へと目を向けると、そこにはロングヘアの宇宙の様な瑠璃色の髪にに、四芒星の星の模様が入った金の瞳をした、頭部に星の髪飾りのあるカチューシャつけた、車椅子に乗った女性がいた。
そしてそんな彼女の肩の上には、瑠璃色の髪に、黄の瞳をしたメカニカルウィッチの女性が乗っていた。
ジュニアリーグの特別ゲストとして来ていると耳にしていたから、どこかで会えないかと思っていたが……まさかこんな場所で会えるなんて……。
美月は思わずその二人の名前を口にした。
「きららさん……? ポラリス……?」
「美月ちゃん……?」
「わあ〜、久しぶり〜! 本当に大きくなったね〜!」
——その二人こそ、記念すべき第一回世界大会を制した初代チャンピオンバディの
*****
「ふぅ〜」
足の怪我の手当と、下駄の切れた鼻緒の修理の為に、神社の祭壇の前に腰を下ろした美月は、きららから貰ったラムネを飲んで一息吐いていた。
正直に言って、告白イベントなどいろいろなことがあって、喉がカラカラだったので本当にありがたかった。
「ポラリス、魔法で仕上げをお願い」
「任せて、きららちゃん!」
その一方で、きららはポラリスと協力しながら、美月の手当と、下駄の修理を行っていた。
美月は本来は、素の精霊人格の人間恐怖症の影響により、他人に触れられるのは苦手なのだが、きららに関しては全幅で信頼を置いているので問題なかった。
だけどそれはそれとして、対人用の人間人格のお嬢様口調でお礼を言った。
「き、きららさん……! ポラリス……! ありがとうございます……わ……!」
だけどさっきの告白イベントでまだテンパっているのに加え、恩人で憧れの人であるきららたちの前と言うこともあり、ポロポロと素の精霊人格の口調が出かけていた。
するとそんな美月を見たきららたちが優しく微笑んだ。
「フフッ、私たちの前では
「え??」
「ごめんね。 実は十年前に美月ちゃんと会った時から、薄々気づいていたの……」
「うん、明日斗博士の娘という立場とか、いろいろな事情も合間って、大人びた話し方をしているんだろうなーって……」
まさか気づかれていたとは……。だけどきららたちなら問題なかった。寧ろ素の自分で話したかった。
「そ、そう言うことなら……わかりました……」
「ええ。 それと……リンも久しぶりね? 元気そうで安心したわ……」
「うんうん!
「きらら様。 ポラリス様。 お気遣い感謝します。 私は見ての通り、もう大丈夫です」
それからきららたちはサターンの方へと目を向けた。
「それと貴方が美月ちゃんの今の相棒のサターン……なのかしら? でも……リンみたいなロボットじゃない……?」
「ねえ、君……本当に人工精霊なの……?」
どうやらきららたちはサターンが普通のメカニカルウィッチじゃないことに気づいたみたいだった。
リンと同じだと誤魔化せるかな?と思っていたけど、一発で見破るとはかなり勘が鋭い。流石に自分やネオンと同じ本物の魔女では無いとは思うが……。
美月はサターンと目配せした。
サターンの正体は、白金代表や
それにここまで勘づいているのなら下手に誤魔化すのは不味いし、何よりきららたちに嘘はつきたくなかった。
「きららさん、ポラリス、実は……」
それから美月たちは流石に全部では無いが、サターンの正体が亡くなった兄の陽太の人格と記憶を受け継いだ存在であることを明かした。
「そうだったのね……。 話してくれてありがとう、美月ちゃん。 このことは決して他言しないと約束するわ」
「うん! 約束するよ!」
「はい、きららさん。 ポラリス」
「それと……丁度、手当と下駄の修理が終わったわ」
そして美月の怪我の手当と、下駄の修理を終えたきららは、車椅子を自分の隣へと移動させると、買っていたかき氷をシェアする形で自分にもくれた。
イチゴ味とマンゴー味のミックス……告白のこともあって、その色味からどうしても焔と輝を連想してしまう……。
そこで美月は思い切って、きららたちに恋愛相談をすることにした。
そんな中、リンから自分が逃げ出した後の焔と輝の様子も聞いた。
どうやら焔と輝は「フラれた……」と口にしながら、放心状態になっており、それをマーズとヴィーナスが必死に宥めていたらしい。罪悪感が凄い……。
いや、違うのだ。別にフった訳では無いのだ。ただ告白されて、頭が爆発して、思わず逃げてしまっただけなのだ。だから返事の方はまだ……と言うか、自分でもまだ良く決められていなかった。
それからついでに、連絡係として皆の所に残った爺やに、リン経由で伝言を伝えて貰った。「心配かけて本当にごめんなさい。 心を落ち着けてから戻るので、皆は花火大会を楽しんで下さい。 それから焔と輝ちゃんに
もはや恋愛相談と言うか、状況説明の様なものなってしまったが、きららたちは真剣に聞きながら、微笑ましそうに笑っていた。
「フフッ、良かったわ、美月ちゃんが笑顔でいてくれて……」
「うんうん! 本当に良かった!」
だけどきららたちはそのまま暗い顔になった。
「……私たちが関わったせいで、あの後美月ちゃんたちが辛い思いをして、逆にウィッチバトルから離れることになってしまったから、ずっと申し訳ないって思っていたの……。 どうにかフォローしようとしたんだけど……上手くいかなくて……」
「うん……本当にごめんね……」
「ーーッ!? そんな……! きららさんたちのせいじゃありません……!」
美月は咄嗟に否定した。
確かにきららたちのおかげでリンと一緒にウィッチバトルを始めた後、学校の大人たちが自分の明日斗博士の娘としての立場を利用しようとエキシビジョンマッチを組んで、自分も対戦相手も辛い思いをすることになった。それが原因で自分も一度ウィッチバトルから離れた。
だけどそれは決してきららたちのせいじゃなかった。それに今は……。
「きららさんたちのおかげで、私はウィッチバトルが好きだと言う気持ちを失くさないで済んだんです……! きららさんたちが思い出させてくれたんです……! 繋ぎ止めてくれたんです……! そのおかげで今こうしてウィッチバトルをやれているんです……! 全国大会高校生の部の決勝まで残れたんです……!」
「美月ちゃん……。 美月ちゃんは今、ウィッチバトルを楽しめている……?」
「はい……!」
美月の必死の声を聞いたきららたちは少し憑き物が落ちた様な顔になった。
「それなら良かったわ……。 そうだ……! それなら、美月ちゃん……」
「……?」
「
「……!! はい……! 是非、お願いします……!」
*****
その後美月たちはお祭り会場にある、手のひらサイズの本来の大きさのロボット同士がバトルするウィッチバトルのミニ大会が開催されている場所へとやって来た。
そこでウィッチバトル用のスタジアムを借りることにした。……寧ろ頼まれた運営側は、逆に是非とお願いしていたが……。
余談だが、流石に巨大なロボット同士がバトルするスーパーウィッチバトル用のスタジアムは無かった。……と言うか、きららさんたちは
そして『科学館』のバトルフィールドの中にある、ロケットのモデルとその発射上を再現した場所で、アークサターンとテディベアポラリスがぶつかり合っていた。
ちなみに『科学館』は準決勝の焔とマーズ対輝とヴィーナスで使用されたバトルフィールドだった。また変に意識してしまう……。
……とは言え、今はあくまでもバトル中だ。大会の様な本気のバトルというよりかは、初代チャンピオンバディに挑むと言う。ある意味きららたちと最初にやったティーチングバトルに近いエキシビジョンマッチの様なものだったが、それでも美月たちが本気でぶつかることに何も変わりはなかった。
「流石だわ、美月ちゃん! それにサターンも! あの時とは形は変わってしまったけど……やっぱり貴方たちには
「うんうん!
きららとポラリスのテディベアポラリスは、宇宙と星を思わせる瑠璃色と白と黄金を基調とした、魔法少女や熊のぬいぐるみを思わせる機体で、主武装として片手に短い杖のテディベアステッキを装備していた。
機体面では焔とマーズのブラッドマーズと似ており、イメージ面では小春とジュピターのゴーレムジュピターに似ていた。なんなら冬馬とマーキュリーのウルフマーキュリーにもどこか似ている気がする……?まあ、焔たちはきららたちに憧れて機体を作ったと言っていたので、それも当然だろう。
そして初代チャンピオンバディの肩書き通り、その強さも圧倒的だった。
杖を武器とする機体は近距離戦闘が苦手と言う通説を無視する、魔法少女アニメ並みのバリバリの肉弾戦を行い、それでいて突然、本領である魔法による遠距離攻撃も凄かった。正直に言って、本物の魔女であるネオンを除けば、人間の中で一番と言っても過言では無いだろう……。
まるで焔たちの二回戦の相手の……
だけどそれでも、美月は自分たちの凄いところを恩人で憧れの人であるきららたちに見せたかった。
だから美月は目を閉じてお守りのペンダントを両手で握り締め、勇気のお呪いを口にした。
「——頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし!」
そして
「サターン! きららさんたちに勝ちに行きますわよ!」
「はい、お嬢様!」
「——シンクロゾーン!」
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、人間である美月の
文字通り、二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となったアークサターンが反撃を開始する。
「「マジカルスキル! プラネットファイア!
アークサターンはアークシールドに収納されていたアークソードを展開すると、背中に発生させた炎の光輪を纏わせ、紫色と赤色の混じった巨大な炎の剣を生み出した。
「それが噂の合体マジカルスキルね……。 それなら、ポリス!」
「うん、きららちゃん!」
「「マジカルスキル! ポラリスパンチ!」」
それに対し、テディベアポラリスは腰の『テディベアリボン』をナックルガードの様に装備すると、巨大な熊の形をした拳を放って相殺させた。
合体マジカルスキルが……!?
「「マジカルスキル! プラネットツリー!
アークサターンは今度はアークソードとアークシールドを合体させてアーク
そして紫色と緑色の暴力的なまでの魔力を放った。
「「マジカルスキル! ポラリスシールド!」」
それに対し、テディベアポラリスはテディベアリボンを盾の様に構え、それを依代に熊の形をした盾を五重で発生させて受け止めた。
マジカルスキルの五個同時発動……!流石だ……!
「「マジカルスキル! プラネットウォーター!
アークサターンは今度は周囲に展開した水を、アーク
そして暴力的なまでの紫色と青色の魔力を纏いながら突撃した。
「「マジカルスキル! ポラリスブースト!」」
それに対し、テディベアポラリスは黄金の魔力を纏って、流れ星の様なスピードとなった。
そのままアークサターンの攻撃を軽々と回避すると、逆にカウンターを食らわせ地上へと墜落させた。
本当に強い……!だけどまだだ……!
「「プラネットダー……!」」
——アークサターンが魔王システムを擬似的に発動させようとしたその時だった……。
「「マジカルスキル! ポラリスバースト!」」
月のレプリカを背景に空中に浮かぶテディベアポラリスが、テディベアステッキを振っていくつもの魔法陣を発生させると、そこから巨大なビームを放って来た。
「ーーッ!? サターン!」
「分かっています、お嬢様!」
「「マジカルスキル! サターンバースト!」」
プラネットダークの発動が間に合わないことを悟った美月たちは、アークサターンはアーク
そしてその先端に魔法陣を発生させ、闇の力を持つ巨大なビームを放ち、迎撃した。
本物の魔女である美月が一番得意とする武器だけあって、きららたちの攻撃をどうにか撃ち落とすことができたが……。
「美月ちゃん、貴方たちは本当に強くなったわ……。 でも……」
「うん。 私たちは初代チャンピオンバディとして簡単に負けてあげるわけにはいかないからね」
「だからそろそろ終わりにしましょう……ポラリス!」
「うん、きららちゃん!」
「「——シンクロゾーン!」」
きららたちはシンクロゾーンを発動させた。
そして……。
「「マジカルスキル! ポラリステディベアユニバース!」」
——無限の星がアークサターンへと降り注いだ。
*****
バトルの後、美月たちは運営のテントの裏にある休憩スペースを借りさせて貰っていた。
流石に初代チャンピオンバディのきららたちと、明日斗博士の娘で明日の全国大会高校生の部の決勝に出る美月たちのエキシビジョンマッチは、多くの観客を呼んでしまったのだ。まあ、運営はステラのサプライズライブに負けないくらい盛り上がったと喜んでいたが……。
そんな中、美月たちはまだ収まらないバトルの興奮に押される様に口を開いた。
「きららさん……! ポラリス……! 本当に強かったです……! 流石は初代チャンピオンバディです……!」
「ありがとう、美月ちゃん」
「えへへ……! それ程でもあるよ〜!」
「今も尚、こんなに強いのに……どうしてプロリーグを引退……ハッ……!」
美月はそう口にする中、思わず両手で自分の口を塞いだ。
不味い。バトルの後、観客たちがそう口にするのを聞いて、自分も前々から気になっていたからつい口に出してしまった。
きららたちがプロリーグを引退したのは、車椅子になったからだの、スーパーウィッチバトルが嫌いだからだの、いろいろと噂が立っていて、絶対にデリケートな問題なのに……!
美月は慌てて頭を下げた。
「す、すみません……! 今のは……!」
「ううん、良いのよ、美月ちゃん……」
しかしきららは少し暗い顔になっていたものの、優しく微笑みながら首を横に振った。
「美月ちゃんだけじゃなく他の皆も、私たちがプロリーグを引退したのは理由を気にしているのは分かっているわ。 それをずっと明かさなかったのは私たちだもの……。 でも……
「うん、きららちゃんが話したいのなら、私は構わないよ」
きららたちはそう話し合うと、改めて真剣な顔をしながらこちらを向き直った。
「美月ちゃん、私もね……
「ーーッ!?」
きららが口にした十年前の事件と言うワードに美月は思わず固まった。
「——美月ちゃん。 それにサターンとリンも……。 私とポラリスの過去を聞いてくれるかしら……?」