——全国大会十二日目の朝。
「「——美月(ちゃん)! 昨日は本当にごめん!」」
美月が泊まっている、競技場に隣接した場所にあるホテルの最上階のスイートルームで、焔と輝が土下座する勢いで頭を下げていた。
「本当は……今日の決勝戦で美月ちゃんに勝ってから、告白するつもりだったんだ!」
「うん! だけど……夏祭りと言う絶好の場に、ステラの『
「「……とは言え、決勝戦前に美月(ちゃん)に余計な心労をかけてしまって、本当にごめん!」」
「あわわわわわ……!?」
言い訳を交えながら深く謝罪して来る二人の姿を見て、美月はあたふたしていた。
しかし昨日みたいにまた逃げる訳には行かない。返事……の方はまだ無理だけど、ちゃんと返答だけはしなければ……。
「あ、あのっ……
「「美月(ちゃん)……!」」
「……で、でも……お返事の方はそのっ……今日の決勝戦が終わるまで待って貰えますか……?」
「勿論……! 急かしたりなんかしないから、美月ちゃんはゆっくりと考えてくれて良いからね?」
「うん! 直ぐじゃなくても良いから、いつか美月の気持ちをちゃんと聞かせてくれればそれで……!」
「二人共、ありがとうございます……!」
二人は昨日勇気を振り絞って告白したにも関わらず、美月が返事を先延ばしにするのを許してくれた。やっぱり優しい……。かっこいい……。好き……。
それに焔と輝は、昨日の告白のせいで美月に心労をかけていたことを気にしていたが、二人だって自分が昨日逃げてしまったせいで、フラれたと思って悶々とした夜を過ごしていたに違いない……。
そのせいでコンディションに影響が出で、今日の決勝戦で……なんて事大になったら流石に申し訳ない。
そんな中、美月は焔と輝のやる気を出す言葉をふと思いつき、そのまま実行に移すことにした。
「あ、あのっ……これは独り言なんですが……」
「「……?」」
「わ、私……
「「……!!」」
美月のその言葉を聞いた焔と輝は目を多く見開き、気合いを入れるように両手を力強く握りめた。上手くいったかな……?
するとそんな自分たちを見ていたマーズとヴィーナスが思わず口を開いた。
「うわ〜、美月ちゃん、これはとんだ小悪魔だわ〜。 私、未来の
「いいえ、小悪魔なんて可愛らしいものではありません……! マスターの純情を弄ぶ悪魔そのものです……! ぐぬぬ……!」
「は?? 美月が悪魔だと?? お前たちの目は節穴なのか?? 僕の妹は天使に決まっているだろう??」
散々な言われようだった。一応サターンがフォローしてくれていたが、兄としての面が出過ぎて、イマイチフォローになってない……。
そんな中、冬馬とマーキュリー、それから小春とジュピターが茶化すように声をかけて来た。
「……これは焔も輝先輩も男として負けられないな……」
「フッ、決勝戦は熱いバトルになりそうだな、冬馬」
「うんうん! 焔と輝先輩のどっちが美月ちゃんのハートをゲットするの中、ワクワクが止まらないよ!」
「こ、小春ちゃん……
美月は昨日は途中で逃げ出してしまった為、小春の冬馬への告白の結果はまだ聞いていなかったが、二人が今手を繋いでいることから、その結果は聞くまでもなく明らかだった。
するとその様子を見守っていた大人組の麗とウラノス、それからネオンとネプチューンが口を開いた。
「ハハハ! まさに青春だな! 頑張れよ、焔! 前にも言ったけど……この決勝戦で美月さん相手に初勝利を飾るんだ! そしてその隣に並び立つんだ! 俺たちがかつて、ネオンたち相手にそうした様にな!」
「ああ! 応援してるぜ! なんなら
「だ・か・ら、ネオンちゃんと
「……ん。 私の同類の美月が負ける筈ないから……。 ……そんなことよりも、出発の準備をそろそろ始めた方が良いんじゃないの……」
そして昨日の告白の件が一旦片付き、それからネオンの指摘もあって、美月たちは競技場へと向かう準備を始めることにした。
*****
——お昼前。競技場にあるミライトウキョウ校の控え室にて。
「……ん。 それじゃあ、美月。 決勝戦も頑張ってね……」
「そうそう♪ サクッと勝って、高校生チャンピオンバディになって来なよ♪」
「ああ! 焔もマーズも! 美月ちゃんもサターンも! 輝君もヴィーナスも! 皆応援してるぜ!」
「だな! だから最高のバトルを期待しているぜぇ?」
「いや〜、それにしても、あたしたちのチームオールスターズのメンバー同士による決勝戦だなんて……最高過ぎて、ワクワクが止まらないよ〜!」
「う、うん……私も同じ気持ちだよ、小春ちゃん……!」
「そうだな! だから僕たちは同じチームメイトとして、しっかりと応援しないとな!」
「フッ、ならば俺も気合を入れるとするよ、冬馬……」
その後、競技場までやって来た美月たちは、改めてネオンとネプチューン、麗とウラノス、小春とジュピター、冬馬とマーキュリーからの激励を貰っていた。
「皆! 決勝戦、期待しているわよ! 特に美月たちは昨日、アタシとキャンサー相手にあんなに凄いバトルをしたんだから、頑張りなさいよ!」
「拙者たちも全力で応援するのでござる!」
「ああ! 特に焔たちはこの俺様とレオに勝ったんだから、輝たちと美月たちをぶっ倒して絶対に優勝しろよな!」
「王牙の言う通りなのであーる! 期待しているのであーる!」
「ええっと……いろいろやらかした俺が言えた義理じゃないんっすけど……決勝戦、頑張って下さいっす……」
「楽しみにしている……」
「はい!! 特に焔君たちは私とピスケスの魔法を打ち破ったんですから、決勝戦でも凄い魔法を見せて下さいね!!」
「そうね。 歌の期待に応えてあげてね」
それからミライトウキョウ校の生徒会メンバーの咲良とキャンサー、王牙とレオ、秀次とスコーピオ、歌とピスケスも激励してくれた。
「ぐぬぬ……! 約束された最高の決勝戦……もし許されるのなら、私ちゃんとカロンちゃんがMCを努めたかったです!!」
「御影ちゃん、ステイ、ステイ。 そこは公式MCのステラちゃんに任せておこうね〜」
「フハハハハハッーー!! みーがそう思うのも無理はない! 私が注目する美月さんたちに、みーたちを倒した焔君たち、そして高校生チャンピオンバディの輝君たちと言う、最高のメンツが揃っているからね!」
「はい。 御霊の言う通り、これ以上無いくらいに凄い組み合わせですね」
「輝先輩たち! この僕とイーグルに勝ったんだから、絶対に優勝してくれ!」
「負けたら承知しないんだぞ!」
「ああ! 兄貴たちに勝った赤火たちも気になるけど……それでも、俺とオルカに勝った輝先輩たちを応援してるぜ!」
「絶対に勝って欲しいんだな!」
そして同校の御影とカロン、御霊とプルート、雷牙とイーグル、音牙とオルカも激励をしてくれた。
だがそれだけじゃない。この場には全国大会の舞台で出会った、他校のライバルたちも集まっていた。
「美月ちゃんたち! 中学生チャンピオンバディのうちと千秋とジェミニたちに勝ったんやから、決勝戦を勝って高校生チャンピオンバディになるんよ! そしたらうちらも胸をはれるよ!」
「せやな! レキシキョウトに帰った時に、俺らが新しい高校生チャンピオンバディと激闘を繰り広げたって、自慢させてくれや!」
「「お願いするのですー!」」
レキシキョウト校の一位にして、中学生チャンピオンバディの夏凛と千秋とジェミニたち。
「けっぱるだべよ、焔君たち! 一回戦の後にも言ったけど……オラとトーラスは応援しているだべよ!」
「ああ! なんせこのアタシたちに勝ったんだからな!」
「あ〜、何だ……その……いろいろと悪かったな……。 俺とカプリコーンは別に誰かを応援している訳じゃねぇけど……それでもまあ、レイが応援している黒土美月と白金輝を応援しておくぜ……」
「言っとくけど、レイの為なんだからね! 勘違いするんじゃないわよ!」
シゼンホッカイドウ校の闘子とトーラス、天馬とカプリコーン。
その中でもワールドユニオンの刺客だった天魔たちは、口ではこう言っているが、大分棘が抜けた様だった。
「お姉様! 決勝戦の舞台でお姉様の勇姿を見られるなんて……わたくし、感激ですわ! わたくし、全力でお姉様を応援させて頂きますわ!」
「や〜ん、心姉様! ヴァルゴもお供するのですぅ〜!」
「えっと……その……いろいろと申し訳ありませんでした……。 わたくしにこんなこと言う資格はありませんが……それでも決勝戦、頑張って下さいね……」
「はい。 億越ながら、菜々様と一緒に応援させて頂きます」
カガクアイチ校の心とヴァルゴ、菜々とアクエリアス。
彼女たちはワールドユニオンの刺客だったが、その任務から解放された心たちはイキイキとしていて、重荷を下ろした菜々たちは大分柔らかい印象になっていた。
「輝。 ヴィーナス。 それから、一年生の子たちよ。 正々堂々とした最高のバトルにして欲しい。」
「はい。 ワタクシと正義様の願いはそれだけです」
カイウンフクオカ校の正義とリブラ。
「押忍! 輝先輩たちのバトルからいろいろと学ばせて貰うっす!」
「ああ! そしてそれを私と刃の進化の糧とするのだ!」
サンスイミヤギ校の刃とアリエス。
「白金先輩たちは来年から大学生の部になってしまうけど……それでもいつか絶対にリベンジして見せるからな!」
「はい、大和兄様。 拙はどこまでもお供しますね」
オヤシロシマネ校の大和とサジタリウス。
そして他にも出場選手の関係者たちも来ていた。
「美月お姉ちゃんに輝お兄ちゃん! それにサターン君にヴィーナスちゃんも! 私、精一杯応援するから頑張ってね!」
「フフッ、輝。 話を聞かせて貰ったけど……決勝戦は絶対に勝って、美月ちゃんを手に入れるのよ? お姉ちゃんとして応援しているからね?」
「「はい……! 私(僕)としても、恩人である美月さんのことは大歓迎ですから……!」」
輝の姪のレイに、姉の光、そして家族のルミとエール。
「うぅ……お嬢様がようやくこの晴れ舞台に立つ時が来たのですね……! 全ては焔様を始めとした
「ほら、リン、泣くのはまだ早過ぎですよ? お嬢様、リン共々応援しておりますね」
「うんうん☆ 私もプライベートな友人としては、みづみづとサー君に注目しているからね☆ まあ、公式MCだから応援はできないけど☆」
そして美月の家族のリンと爺やに、友人のステラ……って何でステラがここに??MCの仕事は??
するとステラのマネージャーの空が息を切らしながら控え室に入って来た。
「ステラ! 運営が探していましたよ! もう少し公式MCとしての自覚を持って下さい!」
「ごめん、ごめん、空さん☆ 決勝戦前にどうしてもみづみづたちに声をかけておきたくて☆ 直ぐに行きまーす☆」
ステラはそう口にすると、最後に美月たちの方を見て、ビシッと指を刺した。
「……と言う訳で、みづみづにサー君☆ それに焔君にマーズちゃん☆ そして輝君にヴィーナスちゃん☆ 最高の決勝戦になるのを期待しているからね☆」
「「「「「「はい!」」」」」」
*****
——一方その頃。競技場の外では……。
「——美月ちゃん……」
競技場の中央にある超巨大な『擬似宇宙』のバトルフィールドのスタジアムが稼働し、建物全体がまるで宇宙へと手を伸ばす様に伸びて行くのを見ながら、きららはそうポツリと呟いていた。
名リーグの決勝戦でのみ使用される『擬似宇宙』のバトルフィールドは文字通り特別だ。擬似的にでも宇宙空間を再現する以上、魔法科学の髄を詰めた大掛かりな装置がいくつも使用されており、バトルフィールド自体の広さも、この競技場にある他の十二種のバトルフィールドを全部足したものと同等のものになっていた。
そんな中、ポラリスが心配そうな表情で声をかけて来た。
「きららちゃん、大丈夫? 無理はしちゃダメだよ?」
「ありがとう、ポラリス。 大丈夫よ」
最初は観に来るつもりなんて無かった。過去にスーパーメカニカルウィッチが人間を殺す場面を目撃した身として、スーパーウィッチバトルを見るだけで、あの時のトラウマを思い出してしまうから……。
だけど親交のあった明日斗博士の娘で、十年前からいろいろと気にかけていた美月と昨日偶然再開したことで、そんな彼女の晴れ舞台を目にしたいと言う思いの元、きららはこの場にやって来ていた。
しかしトラウマのせいで、中に入るのを躊躇してしまい、さっきからこの場でずっと佇んでいた。
すると他の観客たちはもうとっくに中に入っている筈なのに、誰かがゆっくりときららたちの方へと近づいて来た。
「——きらら」
「セブンさん……?」
現れたのは色の抜け落ちた白い髪に、血の様な真っ赤な瞳を持つ、褐色肌の巨漢の男性のセブン・ガーディアンだった。
きららはメカニカルウィッチとウィッチバトルに対する考え方の違いから、水と油の関係の様な相手なのを抜きにしても、ワールドユニオン軍の人間が現れたことに厳しい目を向けた。
「……セブンさん、ワールドユニオン軍は有事の際以外は競技場内への立ち入りを禁止されている筈でしょう? それなのに何の用?」
「別に……お前がずっと佇んでいたから、気になって様子を見に来ただけだ……。 お前は車椅子だし……もし人手が必要なら人を呼ぶぞ?」
「そう……ありがとう……。 でも大丈夫よ……」
きららとセブンが他所他所しい会話をする中、ポラリスが同じ人工精霊のビッグベアへと挨拶をした。
「ビッグベア、久しぶり! 元気だった?」
「……」
「あれ……?」
「……無駄だ。 今のこいつに、二十年前のあの時の様な感情はもう無い。 今のこいつはただの
「そんな……!」
セブンの冷たい返答にポラリスが狼狽える中、兵器と言う言葉を聞いてトラウマを刺激されたきららも思わず息を呑んだ。
しかしセブンは気にすること無く、後ろを振り返った。
そして競技場の外へと戻りながら、最後に独り言の様に口を開いた。
「……きらら、お前が今も尚、
「ーーッ!? どうしてそれを……!」
「……兎に角、
*****
——バトルフィールドへと繋がる選手用の通路にて。
「「——マジカルチェンジ!」」
変身魔法が発動したことで、足元に巨大な魔法陣が出現し、巨大な光と音と共にらスーパーメカニカルウィッチとなったアークサターンが現れた。
そんなアークサターンのコックピットである魔石の中で、美月は目を閉じて、お守りのペンダントを両手で握り締め、勇気のお呪いを唱えた。
「——頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし!」
美月は本気のバトルに備えて、素の精霊人格から人間人格へと意識を完全に切り替えると、相棒であるサターンへと声をかけた。
「行きますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
そして全身のスラスターと武器のブースターに火を灯したアークサターンが、バトルフィールドへと発進した。
通路を駆け抜け、ワームホールの様なデザインの魔法陣を潜り抜け、『擬似宇宙』のバトルフィールドへと飛び出した。
今回のバトルフィールドの『擬似宇宙』は、世界大会を含めたプロリーグなどのあらゆるリーグの決勝戦でのみ使用される特別な物で、その名の通り、擬似的に再現した宇宙空間になっていた。
宇宙環境を再現する為に、真空状態や
そして宇宙に実在する星をモデルにした小惑星があちこちに設置されており、ある意味超巨大なプラネタリウムの様になっていた。宇宙や星が大好きな人たちには堪らないものだろう。設備面と安全上の理由で各リーグの決勝戦でしか使われないのが惜しいくらいだ。
するとMCのステラの声が聞こえて来た。
『——さあ、いよいよ全国大会高校生の部も残すは決勝戦のみになったね☆ ……と言う訳で、今年の決勝戦に残った子たちを紹介してくよ☆ まずはあのメカニカルウィッチの開発者である明日斗博士の娘で、ミライトウキョウ校の六位で一年生の黒土美月ちゃんとサターン君☆ 準決勝戦はちょっとハプニングだったけど……中学生チャンピオンバディを含めた他校のライバルや同じチームメイトの同校の仲間兼ライバルたちと熱いバトルを繰り広げていたね☆ その強さはまごうことなき優勝候補だよ☆』
ステラは手始めに美月たちのことを紹介した。
自分のことなのでちょっとむず痒い。
『続いては同校の六位で一年生の赤火焔君とマーズちゃん☆ これまでの試合……強敵相手に何度も苦戦を強いられながらも、その度に進化を遂げて乗り越え、準決勝戦では高校生チャンピオンバディの輝君たち相手にまさかの引き分けになっていたね☆ まさに今大会の期待の超新星だよ☆』
ステラは続いては焔たちのことを紹介した。
準決勝戦ではいろいろあって輝たちと引き分けになったとは言え、決勝戦まで登って来るなんて改めて凄かった。
『そして現在の高校生チャンピオンバディで、同校の一位で生徒会長の三年生の白金輝君とヴィーナスちゃん☆ これまでの試合を見れば、もはや説明不要の強さを誇る、今大会一番の優勝候補だね☆』
ステラは最後に輝たちののとを紹介した。
ステラの言う通り、高校生チャンピオンバディとしその強さは説明不要だろう。美月たちも今だに一度も勝てていないのだから。
そしてステラは改めてマイクを手に取り、口を開いた。
『——美月ちゃんとサターン君、焔君とマーズちゃん、輝君とヴィーナスちゃんによる前代未聞の三つ巴の決勝戦☆ 果たして栄光は誰の手に渡るのか☆ それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』