「——これが宇宙……凄いですわ!」
美月はアークサターンに宇宙を駆けさせながら、感極まった声を漏らしていた。
浮遊感はある意味水中と似ているが、やはり全然違う。ここには水中の水圧もなければ、空中の空気抵抗すら無く、いつも感じる重力さえもかなり小さくなっていた。
それはまるで自由な世界に感じた。
するとサターンが苦笑する様に声をかけて来た。
「フフッ、お嬢……美月は擬似宇宙でバトルするのはこれが初めてだからね。 僕も最初はそうだったから、その気持ちはよく分かるよ」
兄であるサターンは生前、サンと一緒に小学生チャンピオンになっている為、擬似宇宙でバトルした経験があった。
……とは言え、それは手のひらサイズの本来の大きさのロボット同士がバトルするウィッチバトルの時の話で、こうして巨大なロボット同士がバトルするスーパーウィッチバトルでは初めての筈なのだが……
「……とは言え、今は決勝戦の真っ最中だ。 美月……いえ、お嬢様も気を引き締めることをお忘れなく」
「……!! 分かりましたわ!」
少し思考の沼に潜りかけていた美月は、サターンの声によって意識を浮上させた。
そうだ。今は決勝戦の真っ最中なんだから、そっちに集中しないと……。
——美月が改めて意識を切り替えた……その時だった。
美月の視界の先で赤い星が煌めいた。
「あれは……!」
そしてまるで流星の様に宇宙を駆ける形で、焔とマーズのブラッドマーズが現れた。
「ブラッドマーズ……!」
「焔とマーズか……!」
その姿を視認したアークサターンは一度足を止め、その場で武器を構えた。
それに対し、ブラッドマーズはスピードを緩めること無く真っ直ぐにこちらに突っ込んで来た。
『さあ、美月! サターン! 煌めく決勝戦にしよう! 行くよ、マーズ!』
『ええ、焔君! まずは挨拶代わりよ!』
『『マジカルスキル! マーズファイア!』
ブラッドマーズはブラッドロッドの先端から、焔たちの代名詞でもある、追尾性能を持つ蝙蝠の形をした赤い炎を放って来た。
だけどこれはマーズの言う通り、あくまでも挨拶代わりだ。
そこで美月は一手先の未来が見える目でその軌道を読み、アークサターンにアーク
『『マジカルスキル! マーズブラッド・サイス!』』
そんな中、ブラッドマーズはブラッドロッドの先端に血の様な赤い鎌を作り出して、切り掛かって来た。
『美月!』
「焔!」
それをアークサターンはアーク
宇宙空間では地上とは慣性がまるで違う為、攻撃にせよ防御にせよ、機体のスラスターやブースターを利用して、しっかりと慣性を制御しなければならない。
そしてそのまま剣撃に発展するが、美月は一手先の未来が見える目で、焔たちの攻撃を全て受け流し、逆に自分たちの攻撃を的確に入れ、終いには思いっきり蹴飛ばした。
『ぐっ……!?』
「隙ありですわ!」
アークサターンはアーク
『不味い!? マーズ!』
『分かっているわ、焔君!』
『『簡易変形!
するとブラッドマーズは展開していたブラッドウィングを閉じて、遠距離での魔法の撃ち合いを想定した防御よりの姿に簡易変形した。
そんなブラッドマーズにビームキャノンが直撃するが……。
『あ、危なかった……』
ダメージは与えられたものの、耐えられてしまった。下手なマジカルスキル並の威力があるこれを耐えるなんて、凄い防御力だ。
それなら……!
「サターン! 合体マジカルスキルを使いますわよ!」
「了解です、お嬢様!」
「「合体マジカルスキル! サターンスラッシュ・
アークサターンは左腕のアークシールドに収納されているアークソードを展開すると、背中に発生させた炎の光輪を纏わせ、紫色と赤色の混じった巨大な炎の剣を生み出した。
『それならこっちも行くよ、マーズ!』
『了解よ、焔君!』
『『マジカルスキル! マーズバースト・
それに対し、ブラッドマーズはブラッドステッキを使って炎の盾と火の魔力が込められたビームを合体させた、爆炎を纏った巨大なビームの剣を生み出した。
そして先程よりも派手で激しい剣撃が巻き起こった。
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!!」」
『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!!』』
お互いの巨大な炎の剣同士がぶつかり合い、その余波で近くにあった小惑星が次々に切り裂かれ、燃えていった。
相変わらず、美月たちの方が優勢なものの、焔たちも負けずと喰らいつく。
そしてそんな焔たちの執念の一撃が、美月の一手先の未来が見える目による回避が間に合わない程の攻撃を繰り出した。
「きゃあっ……!?」
「お嬢様!?」
この決勝戦で初めてのダメージを受けたことで、美月は思わず悲鳴を上げた。
しかし直ぐに気を持ち直し、ブラッドマーズを……焔たちを改めて真っ直ぐに見つめた。
やっぱり焔たちの進化は凄い。相手がどんなに強くても、バトル中にどんどん進化を遂げて来る。
流石はずっと自分の隣にいると言ってくれた焔だ。眩しいくらいにかっこよかった。
でもそれはそれとして、自分もうかうかしてなんかいられなかった。だって焔には自分の凄いところを見て欲しかったから……。
だから美月は、そんな焔たちに負けない為にも、目を閉じてお守りのペンダントを両手で握り締め、勇気のお呪いを重ねがけした。
「——頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし!」
そして世界で一番の相棒であるサターンへと呼びかけた。
「サターン! 焔たちと輝先輩たちに勝って、高校生チャンピオンバディになりますわよ!」
「はい、お嬢様! そしていつか世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになりましょう!」
「「——シンクロゾーン!」」
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、人間である美月の
文字通り、二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となった。
*****
「くっ……!」
美月たちがシンクロゾーンを発動させたことで、焔は焦った声を上げていた。
不味い。アークサターンの動きが完全に変化した。
美月は一手先の未来を見ているに等しい力を持っているのに、そこにシンクロゾーンの動きが加われば、まさに最強と言っても過言ではない状態になってしまう。
それに対抗するにはこちらもシンクロゾーンを発動させるしか無いのだが、このままではその隙すらも与えてくれないだろう。
だからまずはその隙を作るしか無い……!
「マーズ! 兎に角、まずは美月たちの動きを牽制するよ!」
「分かっているわ、焔君! そうでもしないと、私たちもシンクロゾーンを発動できないしね!」
「「合体マジカルスキル! マーズファイア・
ブラッドマーズは炎の影分身を、炎を纏った実体を持つ分身へと生まれ変わらせると、ドローン武器を操る要領で突撃させて行った。
『無駄ですわ!』
『今の僕たちには通用しない!』
しかしアークサターンはアーク
さらにそれを潜り抜けた分身たちを、銃槍で串刺しにし、さらにアークソードやアークテールを使って次々に捌いて行った。
ダメだ。美月たちはまだ見ぬ輝先輩たちへの対策の為か、プラネットダークによる魔王システムの擬似的な発動をしていないと言うのに、時間稼ぎすら全然させてくれない。
そして案の定、アークサターンはあっさりと分身たちを突破すると、アーク
回避……は先読みされるからできない。それでも一撃で撃破され兼ねない正面衝突だけは避けながら、全力で防御の姿勢を取った。
「うわあっ……!?」
「焔君!? くっ……!」
ブラッドマーズに凄まじい衝撃が襲いかかり、機体がそのまま吹っ飛ばされるが、どうにか致命傷は防ぐことができた。
しかしダメージを受けた上に、そのまま近くの小惑星に激突してしまった。
小惑星……と言っても、大きさにはピンからキリまであり、機体よりも小さい物もあれば、遥かに大きな物もあった。
ブラッドマーズが激突……否、墜落したのは、その遥かに大きな物である小さな星だった。
するとそんな星にアークサターンも降り立って来た。
『やはり耐えられてしまいましたわね……。 それなら……回避も防御も許さない一撃を叩き込むだけですわ! サターン!』
『はい、お嬢様! この小惑星ごと吹き飛ばせば、流石に焔たちだって……!』
『『合体マジカルスキル! サターンアークブレイク・
アークサターンはアークソードとアークシールドを合体させてアーク
「マーズ! 爆炎の盾……じゃ無理だ! マーズブラッドムーンで防御するよ!」
「それしかないわね! 行くわよ、焔君!」
「「マジカルスキル! マーズブラッドムーン!」」
それに対し、ブラッドマーズはブラッドロッドの先端に、魔力の塊である巨大な赤い月を宿し、
しかしいくら最強のマジカルスキルであるフィールド魔法とは言え、合体マジカルスキルが相手では分が悪く、マーズブラッドムーンは数秒耐えた後、破壊されてしまった。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ〜〜!?」
「焔君!?」
そしてそのまま吹っ飛ばされたブラッドマーズは、サターンアークブレイク・
「イテテ……」
「焔君!? 大丈夫!?」
「うん……何とか……」
マーズブラッドムーンの
しかも不幸中の幸いはもう一つあった。今の攻防で美月たちはは自分たちの位置を見失った様だった。
今がシンクロゾーンを発動するチャンスだ……!
「
「ええ、焔君! お姉ちゃんに任せなさい! さあ、私たちの煌めきを見せるわよ!」
「「——シンクロゾーン!」」
焔とマーズは、煌めきな強さを持つ美月とサターン、それから輝とヴィーナスと言う目の前に立ち塞がる大きな壁を乗り越える為に、シンクロゾーンを発動させた。
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、人間である焔の赤い瞳にも、マーズの紫の瞳の色が混じり合った。
文字通り二人で一つの存在となった焔たちは、高校生チャンピオンバディになると言う強い思いの元、新たな魔法を呼び覚ました。
「「マジカルスキル! マーズトゥインクルブラッド!」」
ブラッドマーズの全身を煌めく炎が包み込むと、炎が焔たちのイメージするモノへと形を変えていき、機体がまるで強化フォームの様な豪華な見た目へと変化した。
するとそんなブラッドマーズの炎に気づいた美月たちが驚きの声を上げた。
『新しいマジカルスキル……!? ですが……それでこそ焔たちですわ!』
『……全く、本当にとんでもない進化を遂げるな……!』
そんな美月たちの元へと、ブラッドマーズは炎を纏いながら突撃した。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!!」」
『くっ……!? なんてスピードですの……!? それにパワーも……!?』
『動きがさっきまでと別次元だ……!?』
アークサターンは進化したブラッドマーズに適応できていない様だった。
チャンスだ……!
「「合体マジカルスキル! マーズブラッドサイス・
焔たちは一気に畳み掛けるべく、ブラッドマーズにブラッドムーンを依代に、三日月の様な形をした巨大な星の鎌を作り出させた。
——その時だった。
どこからとも無く飛んで来たビームが、完成しかけていたマーズブラッドサイス・
「ーーッ!? まさか……!?」
「真打が来たわね……!」
焔たちがビームの飛んで来た方向に目を向けると、そこにはノーブルスナイパーライフルを構えたノーブルヴィーナスがいた。
*****
「——やれやれ、どうやら完全に出遅れてしまった様だね……」
輝はノーブルヴィーナスにノーブルスナイパーライフルを構えさせたまま、独り言の様に愚痴を溢していた。
この擬似宇宙は、他のバトルフィールド十二個分に相当する馬鹿みたいな広さを持っている為、こうしてエンカウントするのが遅れてしまった。
だけど別に輝たちは特段遅い訳では無かった。寧ろ、早々にエンカウントした美月たちと焔たちがおかしいのだ。運命の糸で結ばれているとでも言うのだろうか?ぐぬぬ……!
輝が内心で歯軋りしていると、ヴィーナスが宥める様に話しかけて来た。
「……ですが、マスター。 ヴィーナスたちは高校生チャンピオンバディなのですから、王者は真打として最後に登場するくらいが丁度良いのです」
「そうだね、ヴィーナス。 だからここからは遅れた分を取り戻しに行くよ……!」
ヴィーナスの言葉を受けた輝は、ノーブルヴィーナスに再び分離させたノーブルガンソード
『マーズ! 行くよ!』
『ええ、焔君!』
『『合体マジカルスキル! マーズクラフト・
それに対し、ブラッドマーズはマーズクラフトで作り出した巨大な翼と剣のそれぞれに、炎の翼と剣を纏わせることで、巨大な炎の剣と翼を作り出しながら、こちらへと突っ込んで来た。
『サターン! わたくしたちも行きますわよ!』
『はい、お嬢様!』
さらにアークサターンもアーク
やはり高校生チャンピオンバディである自分が一番警戒されている。
それでも……!
「ヴィーナス!」
「はい、マスター……! ノーブルマルチウィング
ノーブルヴィーナスは四機のドローン武器を展開すると、連携しながら二機を相手取った。
確かに二機共シンクロゾーンを発動させていて厄介だが、それでもこの擬似宇宙でのバトルに関しては、今回を含めて三度の経験がある自分たちの方が有利だった。
元小学生チャンピオンバディのサターンのいるアークサターンの方は大分適応して来ているが、今回が完全に初見のブラッドマーズの方はまだいろいろ隙があった。
「さあ、焔君! それにマーズさんも! 準決勝戦の決着をつけようか!」
『望むところです、輝先輩!』
ノーブルヴィーナスはドローン武器でアークサターンを牽制しながら、そんなブラッドマーズと一進一退の攻防を繰り広げた。
『わたくしたちのことを忘れて貰っては困りますわ! サターン!』
『はい、お嬢様! みづ……お嬢様に近寄ってくる虫をまとめて吹き飛ばしますよ!』
『『マジカルスキル! サターンアークストライク・
するとアークサターンは周囲に展開した水を、アーク
そして暴力的なまでの紫色と青色の魔力を纏いながら突撃して来た。
『「くっ……!?」』
それを見た輝たちと焔たちは、お互いを突き飛ばすことで美月たちの攻撃を回避した。
だけどアークサターンは止まらない。回避されても旋回する形で再び突撃して来る。
『『マジカルスキル! 幻影の炎!』』
それに対し、ブラッドマーズは炎の影分身を生み出した。
それは美月たちには通用しない筈だが……ああ、そうか、自分たち対策か。この後の動作を先程みたいに自分たちに邪魔されない為の……。
『『合体マジカルスキル! マーズブラッドムーン・
ブラッドマーズはブラッドロッドの先端からマーズファイアを放ち、さらに反対側のマーズデッキからもマーズバーストを放つと、その二種類と自身のものを合わせた三種類の炎が合体した、太陽の如き赤い月を生み出した。
『『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!!』』
『きゃあっ……!?』
『お嬢様!?』
そしてブラッドマーズは太陽の如き赤い月で、超巨大な槍になったアークサターンを吹っ飛ばした。
やはり焔たちの進化は底が知れない。放置すると後が怖いし……先に落としておくか。
「ヴィーナス! 焔君たちを先に落として、その後に美月さんたちと決着を着けるよ! そして高校生チャンピオンバディの座を守るよ!」
「はい、マスター……! ヴィーナスもその案に賛成です……! ヴィーナスとしても
「「——シンクロゾーン!」」
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、人間である輝の金の瞳にも、ヴィーナスの緑の瞳の色が混じり合った。
文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となる。
そして輝たちは、美月たちと焔たちに勝って、高校生チャンピオンバディの座を守ると言う強い思いの元、新たな魔法を呼び覚ました。
「「マジカルスキル! ヴィーナスロイヤルシャイン!」」
ノーブルヴィーナスの背景に無限の星を思わせる、数え切れないくらいの魔法陣が次々に発生すると、その全てから光のビームが一斉に放たれた。
ビームの雨、嵐、いやそんな生温いものでは無い、文字通り無限の攻撃が降り注ぎ、ブラッドマーズの分身たちを次々に消滅させていった。
『輝先輩たちも新しいマジカルスキルを……!? なんて煌めきな魔法なんだ……!』
『焔君! そんなこと言っている場合じゃ無いわ……!』
そして分身たちに紛れていた本物のブラッドマーズを発見した。
それ目掛けて無限のビームを収束させて、一つの究極のビームへと変化させる。
『ぐっ……!?』」
ブラッドマーズもマーズブラッドムーン・
「無駄だよ」
いくら合体マジカルスキルとは言え、サターンアークストライク・
「これで終わりだよ、焔君! それにマーズさんも!」
「これが高校生チャンピオンバディであるマスターとヴィーナスの愛……んんっ、絆の力です……!」
——そしてそのまま巨大な光に飲み込まれたブラッドマーズの居た辺り一体が、まるで星の終わりの様な超巨大な爆発を起こした。