お父さんの方に向かって、自分の足で歩いていく。お父さんの背中は、お姉さんほどそびえ立って高く見えるほどじゃないけど、それでも頼れそうな背中だった。……服で筋肉とかはよく見えないけど。
お父さんは、まだトントンと包丁をおろし続けてる。近づいても気づかれないから、服の裾をつまんでぐいっと引っぱってみた。
「……」
追加で2回、ぐいぐいっ……と裾をひっぱる。
こうすれば気づくかと思ったけど、トントンという音が、お父さんがまだ気づいていないことを伝えていた。……ちょっと鈍感すぎない?
じゃあどうすればいいのかな?
後ろを振り返ってみると、なんかいつのまにかお母さんとお姉さんがしゃがみ込んで両手を握りあっている。楽しそうな表情でこっちを見てるけど、なんかあったのかな?
お父さんに向き直って、うーん、と深く考える。
たぶん3秒くらい考えて、私なりに良い案が思いついた。
右足をサッと引いて、身体をお父さんに向けて縦にする。
そして……
——パチンッ!!
私がお父さんのお尻を叩いた音が、広いキッチンの中に響き渡った。
裾を引っ張ってダメなら、叩けばいい。
「……?」
お父さんが、ようやく気づいて私の方を振り返り始める。
ほら、やっぱり!こういう時はこうすればいいって、なんか直感したから……。
「……誰だい?」
私の想定より、柔らかくて若そうな声が聞こえた。私の想像だと、もうちょっとダンディな声だったんだけど……
「リーシャン……?」
あんまりにもお母さんとおんなじような反応するから、ちょっと面白い。私にも遺伝してるのかな。こういうのって。
お父さんも、お母さんみたいに尻尾がない。……いや、それはそうだった。人間族だもんね。
あとでお母さんに尻尾のことは話してもらわないと。尻尾がないなんて、きっと凄く不便だと思うし。
「……その銀髪……リーシャンしか、いないな……だけど、なんでここに……?」
なんでなんでと聞かれたら、答えてあげるのが優しさだよね!
「ふふん……お姉さんに連れてこられた!」
「お姉さん……?お嬢様のことかい!?まさか、リーシャンを……リーシャンを奪われるくらいなら、決――」
お父さんが何かを言いかけたと思えば、今度はお母さんが割り込んで大声で叫び始めた。
「——ストォォップ!!あなた!もうその流れはやったんだから!聞こえてなかったの!?」
「えぇ?良いじゃないか別に……僕にもゆっくり感動させてくれよ!」
お父さんとお母さんがなんだか楽しそうに話し始めたから、私はさり気なくお姉さんの方に行った。この光景は遠くから見てるほうが、なんだか楽しそうだと思ったから。
またバイトコルに帰りたいな。お姉さんのお仕事も終わったことだし、そろそろ帰れるのかな?久しぶりに、お姉さんのお家のみんなにも会いたいなぁ。