キッチンで、お母さんとお父さんに再会してどんくらい経ったかな。たぶんそんなに経ってないけど、今日はバイトコルに帰る日。
お母さんとお父さんも、アルコさんに聞いたら帰って良いって言ってくれた。アルコさん、良い人だね。
バイトコルから魔条に来る時に着てきた、白黒のフリフリの服もちゃんと持って帰らないとね。
アルコさんのお家の玄関を出ると、アルコさんとヴァロストロさんもついてきた。どうやら、庭の玄関まで送ってくれるみたい。……玄関まで、結構遠いなぁ。
今度は馬車。前落ちてた毛は、今回は無かった。掃除されちゃったのかな?たぶん。
行きは私とお姉さんの二人だったけど、今度はアルコさんとヴァロストロさん、さらにはお母さんとお父さんも乗ったから、かなり窮屈。私が一番ちっちゃいのが、なんだか納得いかない。
ガタガタ、ゴトゴトと揺られて、ようやく空港までついた。そういえば、空港ってどこの国が作ったのかな。バイトコル?それとも、魔条?
「ハッハハッハ!!俺が見送ってやるのだ!!せいぜい安全に飛び立つが良い!!ハッハハッハ!!」
「……たまには帰ってくるんじゃぞ」
アルコさんとヴァロストロさん達とは、ここでお別れ。まぁ、またいつか来るだろうし、そんなに寂しくはないかな!
ヴァロストロさんからは、いっぱい良いことを教えてもらった。凡人の心を支配するとか、なんとか……。私がぜんぶヴァロストロさんのマネをしたら失敗しちゃったから……ちょっとだけ。元気な部分だけ真似てみようと思う。
魔道飛行艇が飛び立った。ゴウゴウと音を立てて、バイトコルへと向かっていく。行きの時みたいな雪景色みたいな雲の海は見れなかったけど、代わりに広〜い海がよく見えた。海からは、たまにおっきくて長い魚が顔を出してたりしたから、魚族の人たちは、ああいうのと一緒に暮らしてるのかな?
あんなに大きな生き物と一緒に暮らすなんて、私には想像もできないな……。
バイトコルに、ついに帰ってきた。上から見るスラムは相変わらずの汚さで、大通りとの差がひどいものだった。
お姉さんに頼めば、もしかしたらスラムも……
いやでも、お金たくさん必要なのかな……?
なんて、色々考えてたら、もう飛行艇を降りる時間になった。
空港を出て、久しぶりにバイトコルの道を歩く。魔条と同じような作りの道だけど、こっちのほうが温かみがあるかな。たぶん。路地裏で暮らしてたときは、そんなことぜんっぜん思ってなかったけどね。
お姉さんとお母さん、お父さんと一緒に歩いて、ゆったりだけど、あのお家が見えてきた。
みんなが待ってるあのお家だ。アルコさんの家よりは、小さいことが分かっちゃったけど、それでもこっちのほうが好き。こっちはお姉さんのお家だもん。
「……ねぇリーちゃん。……お嬢様の家って……あれなの?」
「……あの家の人だったのかい……?」
お母さん達、何を当たり前のことを……?あれかな?アルコさんの家より小さかったから、ビックリしてるのかな?
家の大きさがアルコさんの家より小さくても、中身はいっぱい詰まってるんだから。まったく……。
「そう!お姉さんはあの家っ!」
お母さん達は、ちょっとだけ硬い笑い方をしてまた歩き始めた。納得したのかな……?よかったよかった。
家の玄関についた。扉を開けて、お姉さんが「帰ったわよー!」なんて言うと、たまたま近くにいたフォルスさんが出迎えてくれた。
「お久しぶりです……魔条への旅行、どうでしたか?……と、そちらのお二人は……?」
「旅行じゃないわよ?れっきとしたお仕事よ!お仕事!それとこちらは、リーシャンちゃんのご両親よ!丁重にもてなしなさい!」
「……なんと、ご両親様でしたか……!もちろん、誠心誠意、敬意を払って対応いたします。……それと……お嬢様、お仕事とは言いますが……リーシャン様と行けることにウキウキではありませんでしたか……?」
フォルスさんがそう言うと、お姉さんが少しの間言葉に詰まってた。旅行じゃなくて、お仕事だもん。なんて説明すればいいか分かんないんだよね?たぶん。
「フォルス、あとで部屋に来なさい。今は下がってちょうだい」
「……はい」
フォルスさん、なにされるんだろ……旅行とお仕事、間違えちゃったから……あとでこっそり覗いてみよう……。
お姉さんについていき、廊下を歩いていると、トゥルさんとシーアルさんにも遭遇した。
「お帰りになられましたね、お嬢様」
トゥルさんが、相変わらず低くて、高さもあって、頼りがいのある声で、丁寧に挨拶してくれる。トゥルさんも、背が高くてうらやましい。
「……無事でなによりだ。雇い主、リーシャン。魔道飛行艇による旅行は、事故の可能性は少ないながらも、他者との接触による衝突が起きる可能性がある。リーシャン、君の分の成長促進薬のストックが溜まっている。早急に、毎日飲むことを推奨する」
シーアルさんも私より高いし……早くおっきくなりたいなぁ……。あ、そのために、シーアルさんも成長促進薬を用意してくれてるんだね……。
「ありがとうっ!シーアルさん!」
「礼は君の雇い主に言うべきだな。私は頼まれただけだ」
「……そう?……お姉さんも、ありがとう!」
お姉さんは嬉しそうに、私をまた抱きかかえた。そんな光景を、お母さんとお父さんが羨ましそうに見ていることに、私は気づいた。
「……あ!そうだったわね……ごめんなさい、リーシャンちゃんのご両親さん、アタシばっか抱っこしてちゃズルいわよね。……ほら!三人で抱っこしましょう!」
え?三人……?あんまり聞かないけど、まぁ……良いか!
「あぁ!ありがとうございます!」
「良かった……結局独占されちゃうのかと思っていたよ!」
お姉さんが少しだけ屈んで、お母さんとお父さんも私を抱っこしはじめた。……なんというか、不思議な感覚。みんなには親が三人もいるなんてこと、たぶんないよね。
「あぁ……アタシ、もうちょっと屈んだ方が良いかしら……?」
「いいえ、大丈夫ですよ!」
「そう?……なら、良かったわ」
私、すっごい恵まれてて……幸せだ。
やっぱり、私の家は、スラムでも、魔条でもない。
——ここが、私のお家だ。
次回エピローグです