日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
それから数日後。
僕は、またしても闇の力と喫茶店で向かい合っていた。
「…………。」
「どうした。」
「いや。」
僕の前にはコーヒー。
闇の力の前には、カプチーノ。
「本当に気に入ったんですね、それ。」
「悪くない。」
この人。僕と会うのを言い訳に、カプチーノ飲みたいだけじゃないか?
「それで、今日は何の用です?」
「特にない。」
「用もないのにラスボスとお茶する状況って何だろう。」
闇の力がカプチーノを口にする。本当に自由だな、この人。
「クロオ君。」
そこへ、聞き慣れた声がした。
「あ、真魚さん。」
「やっぱりいた。」
「僕を探してたんです?」
「近くまで来たから寄ってみただけ。」
真魚がこちらへ歩いてくる。そして、僕の向かいに座る闇の力を見た。
「…………誰?」
「知り合いです。」
「私は闇の力だ。」
「自分で言うんですか!?」
真魚が首を傾げる。
「闇の力?」
「僕も本名知らないんですよ。まあ、立ち話も何ですから。」
「うん。」
真魚が僕の隣に座る。その様子を、闇の力がじっと見ていた。
「なるほど、協力者か。」
「協力者?」
闇の力の視線が真魚へ向く。
「この娘がいるなら、光の力の発見も近いな。」
「どういう意味です?」
「分からないのか?その娘の力だ。」
「真魚さんの?」
闇の力は静かに言う。
「物や人に残された思念を読み取る力を持っている。」
「ああ、サイコメトリー。」
「クロオ君、本当に普通に言うよね。」
「その娘の力は本来のものより強くなっている。君が隣にいる影響だ。」
「僕?」
「お前の持つ力が、娘の力を増幅させている。」
僕と真魚が顔を見合わせた。
「……やっぱりそうなんだ。前から変だと思ってたの。」
真魚が自分の手を見る。
「クロオ君といる時、いつもよりはっきり見えることが多かった。初対面の時は特に。」
アマダムの影響なのかな?
「ならば何故利用しない。」
「何をです?」
「その力をだ。」
「お前は光の力を、津上翔一を探しているだろう?ならば、その娘に探させればよい。」
「…………。」
「クロオ君?」
待て。
待て待て待て。
「その手があったぁぁぁぁぁ!?」
「うるさい!」
「痛っ!」
真魚に叩かれた。
「いや、でも本当に! 何で今まで気付かなかったんだ!?」
津上翔一、本人の持ち物。あるいは本人が残した痕跡。そこから真魚のサイコメトリーを使えば。今の真魚さんなら未来に起こる事まで探れる。なら、
「探せるかもしれない。」
「津上翔一って人を?やってみようか?」
「お願いします。」
僕は即座にスマホを取り出した。
「まず一条さんに相談します。」
「ちゃんと相談するんだ。成長したんだね。」
「この前の説教を引きずるのやめてもらえます?」
僕は一条さんの番号を呼び出した。
「一条さん、今度こそ説教じゃない案件ですからね……。」
ーーーーー
それから一時間後。
僕と真魚は警視庁のG3ユニットを訪れていた。
「サイコメトリーねぇ。」
小沢さんが興味深そうに真魚を見る。
「物に残った思念や記憶を読み取れる。しかも、十文字君が近くにいると能力が増幅される可能性がある。」
やめて。その目で見ないで。
「十文字君。」
「嫌です。」
「まだ何も言ってないわよ。」
「絶対アマダム調べさせてって言うでしょう。」
「少しくらい。」
「嫌です。」
「ケチね。」
「小沢。」
一条さんが止めてくれる。
「分かってるわよ。」
絶対分かってない。
「それで。」
氷川さんが話を戻した。
「津上翔一さんの行方を、その力で探すということですか?」
僕は頷く。
「津上さん本人が触っていた物や、失踪した現場に残っていた物。それを真魚さんに見てもらえれば、何か分かるかもしれません。確実ではありませんけどね。」
「ですが、試す価値はあります。」
氷川さんが真面目に頷く。
「津上翔一に関する遺留品はこちらで保管している。」
「じゃあ。」
「ああ。準備させよう。」
一条さんが動こうとした、その時だった。
「失礼します。」
扉が開き、二人の人間が入ってきた。一人は女性。そしてもう一人は、険しい顔をした男性。深海理沙と水城史朗。アギト劇場版『PROJECT G4』のその中心人物。
………このタイミングかよ。
「陸上自衛隊、深海理沙です。」
「水城史朗です。」
深海が室内を見回す。
「G3ユニットの皆さんに、ご報告があります。」
「何?」
小沢さんが警戒した声を出すが、深海は薄く笑った。
「G4システムが完成しました。」
小沢さんの顔から表情が消えた。
「……今、何て?」
「G4システムが完成した、と。」
「待ちなさい。G4って、まさか……。」
「あなたが設計したものです。」
「何で完成してるのよ!」
一気に深海へ詰め寄った。
「あれは机上の設計よ! 性能だけを追求して、安全性なんてほとんど考慮していない!」
「ですが、性能は優秀です。」
「そういう問題じゃない!装着者への負荷! 制御系! そもそも、あんなものを実戦投入したら――」
「兵器に絶対の安全性などありません。」
深海が淡々と遮った。
「…………何ですって?」
「国家の防衛には、危険が付きものです。」
「だから人が死んでも構わないって?」
「必要なリスクです。」
小沢さんの顔が険しくなる。
「それに。我々のG4は、あなたが設計したものそのままではありません。」
「どういう意味よ?」
「新たなシステムを追加しています。」
僕の頭の中で、劇場版の記憶が繋がった。
EPS。
超能力者の未来予知能力を利用して、敵の攻撃や行動を先読みするG4の戦闘補助システム。劇場版では、そのために能力者たちが利用され、その能力者の中にはーーー真魚もいた。
僕はさりげなく真魚の前に動いた。
「クロオ君?」
「そのままで。」
小声で話すが、深海の視線がこちらに向いた。
「何か?」
「いえ。」
僕は何でもないように返す。
「今後、G4は対アンノウン戦にも投入されます。」
「私は認めないわ。」
「あなたの承認は必要ありません。結果を出すために作ったものですから。」
深海が踵を返す。
「ご報告は以上です。」
「…………。」
水城もその後に続く。けれど、部屋を出る直前。深海が横目で真魚を見た。
「何なのよ、あの女……。」
小沢さんが苛立ったように吐き捨てる。
「小沢さん。G4って、そんなに危険なんですか?」
「危険なんてもんじゃないわ。私自身が没にした設計だけど、性能だけならG3を遥かに上回る。でも、それに人間が耐えられるかどうかなんて考えてないのよ。実際に作るなんて、正気じゃない。」
やっぱり。原作通りなら、あれは装着者をも殺す装備だ。
「黒雄。さっき、何を気にしていた。」
「……深海って人。出ていく時、真魚さんを見てました。」
「私を?たまたまじゃなく?」
「だったらいいんですけどね。」
ーーーーー
それから。予定通り、真魚のサイコメトリーを試すことになった。
「これだ。」
一条さんが机の上へいくつかの物を置く。
「津上翔一の私物、それと失踪前後の現場から回収された遺留品だ。」
「じゃあ、やってみます。」
真魚が椅子へ座り、僕も隣へ。
「どれから?」
「一番本人の物だと確実なのからいきましょう。」
「分かった。」
真魚が手を伸ばして津上の私物に触れ、もう片方の手を、僕へ差し出す。
「クロオ君。」
「はい。」
手を取る。僕も真魚も目を閉じる。
僕も意識をアマダムに集中させる。アマダムから微かな熱が広がっていき、その熱が真魚にも伝わると、表情が変わる。
「見える。」
「津上さんですか?」
「うん。」
室内が静まり返る。
「どこにいます?」
「建物……。白い。大きな建物。あと、子供がいる。」
「子供?」
「うん。何人も。」
真魚がさらに意識を集中させる。
「津上さん、その子たちと一緒にいて、話してる……。」
僕は眉を寄せる。超能力者の子供たち。津上翔一。施設。
「外は見えます?」
「……うん。」
「何があります?」
「山。フェンス……広い敷地……。」
「建物の名前とかは?」
「分からない。」
真魚が僅かに顔をしかめる。
「それと……。車がある。…………自衛隊?」
その瞬間、一条さんと小沢さんの表情が変わった。
「自衛隊?」
「うん。」
「間違いない?」
「多分。」
僕は真魚の手を軽く引いた。
「もういいですよ。」
「でも。」
「十分です。」
「…………うん。」
真魚が目を開ける。
「大丈夫です?」
「ちょっと疲れたくらい。」
「ありがとうございます。」
「黒雄、どう思う。」
自衛隊施設に超能力者の子供たち。さっき現れた深海と水城。もうほぼ確定じゃないか。
「さっきの二人と関係があると思います。」
「根拠は?」
「ありません。でも、僕の勘です。こういう時の勘、結構当たるでしょう?」
「否定できないのが困るな。」
一条さんがため息を吐く。
「小沢。」
「分かってる。」
小沢さんがすぐパソコンへ向かう。
「真魚ちゃんが見た外観、地形、それと自衛隊車両。この辺りから候補を絞る。施設の外観をもう少し詳しく思い出せる?」
「はい。」
「じゃあ一緒に。」
真魚が小沢さんの方へ行く。
僕は一条さんの隣へ立った。
「一条さん。……少し警戒した方がいいと思います。」
「真魚君をか?」
「はい。」
「深海の視線か。分かった。」
ーーーーー
調査はそのままG3ユニットに任せることになり、僕と真魚は警視庁を出る。
「じゃあ送りますね。」
「一人で帰れるけど。」
「今日は駄目です。」
「また勘?」
「勘です。」
「クロオ君の勘、便利だね。」
「自分でもそう思います。」
それから、美杉家まで、それほど遠くない場所まで来たところで、僕は小声で真魚に呼び掛けた。
「真魚さん。ちょっといいですか。」
「うん。」
僕は歩いたまま続ける。
「もしかしたらこの後、誘拐されるかもしれません。」
「……さっきの人たち?」
「だと思います。」
真魚の表情が少し真剣になる。
「どうするの?」
「もし来たら、抵抗せず、向こうの施設まで連れて行ってもらいます。」
「それって大丈夫?」
「僕も一緒ですから。必ず守ります。」
真魚は数秒だけ僕を見てから納得してくれた。
「分かった。クロオ君に任せる。」
「ありがとうございます。」
「でも。一条さんに言った?」
「…………時間がありませんでした。」
「絶対怒られるでしょ。」
「分かってますよ。」
僕は盛大にため息を吐いた、その時だった。
「止まれ。」
路肩に停まっていた黒いバンから、数人の男が降りてくる。一人の手には拳銃があり、銃口が僕たちへ向けられている。
「二人とも、車に乗れ。」
僕と真魚が顔を見合わせる。
「真魚さん。」
「うん。」
僕たちは黙って黒いバンへ向かった。
「余計なことはするな。」
「分かってます。」
車のドアが開く。僕が先に乗り真魚がその後に乗る。ドアが閉じ、車が走り出した。
ーーーーー
扉が開く。そこにあったのは、フェンスに囲まれた広大な施設だった。白を基調とした無機質な建物。敷地内には自衛隊車両が何台も停められている。
「……ここ。さっき見えた場所だ。」
真魚の呟きを聞き、やっぱりか、と思う。
僕たちは兵士たちに囲まれたまま建物の中へ連れて行かれる。超能力者開発研究所。名前だけ聞けば立派だけど。実態は、
「実験施設か……。」
僕の呟きに。
「随分察しがいいですね。」
奥から声がして、深海が歩いてくる。その後ろには水城もいる。
「やっぱりあなたですか。」
「驚かないんですね。」
「何となく予想してました。」
「なら話が早い。」
深海が僕たちを見る。
「ようこそ。」
「歓迎されてる感じはしませんけど。」
深海は真魚を見る。
「我々には、彼女の力が必要なだけです。」
「EPSシステム。」
深海の眉が動いた。
「何故、その名前を?」
「あ、勘です。」
「………あなたも超能力を?」
「超能力は持ってませんね。」
アルティメットになると色々できるけれど。
「まあ今は良いでしょう、後で調べます。………EPSは、超能力者の予知能力を利用し、敵の行動を先読みするシステムです。G4の演算能力と組み合わせることで、敵の攻撃を予測し、それに先んじて対応する。G3などとは次元が違う強さ。人間が未知の脅威に対抗するためには、これくらいの力は必要不可欠です。危険を恐れていては、何も守れないのだから!」
「だから超能力者を使う?」
「必要な犠牲です。」
嫌いだな、こういう考え方。
「G4は人間の可能性です。」
「違いますよ。しかもそれ、小沢さんが作った設計でしょ。」
「改良したのは我々です。」
「勝手に危険なもの追加しただけじゃないですか?」
深海の笑みが消える。
「力には代償が必要です。」
「それを払うのが自分なら、好きにすればいいと思います。でも、」
僕は真魚の前へ立つ。
「他人に払わせるのは違うでしょう。」
「子供ですね。」
「高校生なので。」
「綺麗事だけでは国は守れません。」
深海が兵士へ目を向ける。
「彼女を連れて行きなさい。」
「はい。」
兵士の一人が真魚へ近づいていくが、僕はその前に立った。
「退きたまえ。」
「断ります。真魚さんを守るって約束したので。」
深海が鼻で笑った。
「あなた一人に何ができるんです?」
「結構色々できますよ。」
「そうですか。」
深海が僕の前まで来る。
「ですが、ここではあなたに選択権は――」
僕は拳を握った。
「ありませーー。」
ドゴッ!!
「ぶっ!?」
腹パンで一発で、深海の身体をくの字に折る。
真魚も兵士も、それに水城も、全員が固まった。僕は腹を押さえて蹲った深海を見下ろし。
「すみません。僕、相手が女性だからって殴れないタイプじゃないんです。」
グロンギには女性型は沢山いたし。男女で攻撃力が変わるわけじゃなかったからね。
すると漸く、水城が踏み込んできた。護衛としてどうなの?拳が飛んでくるけれど僕は頭を逸らして避ける。
続けて蹴りを腕で受ける。うん、やっぱり強いな。
「真魚さん、下がってて!」
「うん!」
先にもう一人いた兵士に飛び蹴りを放ち、蹴り飛ばす。
後ろから水城の拳が飛んでくるが、寸前で身体をずらし、腕払いで水城の腕を外へ流す。
「何っ!」
もう2年も一条さんと組み手やら訓練やらをやっているんだ。グロンギ相手に生身で戦って生きて帰ってくるんですよ、あの人。改めて考えるとおかしい。
水城の膝蹴りを避ける。僕は肘を打ち込むが受けられる。掴まれる、投げられるが、床へ叩きつけられそうになる瞬間、僕は身体を捻って着地。
僕の動きに、水城が目を見開いている。
「悪いですけど。」
踏み込む。
「こっちは二年も、怪人やら宇宙人やらと殴り合ってるんですよ!」
ドンッ!
水城が後ろへ吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
「変身してないのに……。クロオ君、本当に高校生?」
「高校生です!」
水城が再び立ってくる。
「まだだ!」
「ですよね。」
真正面から突進してくる水城の拳が、僕の頬を捉えた。
痛っ!普通に痛い!けど、そのまま一歩前に踏み込み、僕の拳も相手の顔面に叩き込み!
ドゴッ!!
水城の身体が床を滑る。
「クロオ君、大丈夫!?」
「これくらいなら、大丈夫です。」
ダグバのパンチに比べれば蚊が止まったみたいなもんだ。
倒れ込んだ水城を見る。
「水城さん。」
僕は少しだけ息を整える。
「死を背負えば強くなれる、そういう考え方もあるのかもしれません。」
G4は装着員の死すら前提にして戦うシステムだ。
「でも今のところ。」
一条さんや杉田さん、警察のみんな。ニューヨークで一緒に戦った人たち。
「生きるために戦ってる人たちの方が、圧倒的に強いですよ。………経験上ね。」
返答はない。
「ヨシ、真魚さん。逃げますよ。」
「どうやって?」
「正面から。潜入は終わったので。」
「潜入だったの!?」
部屋を出ると警報が鳴り始めた。どうするかと悩んでいると窓の外に頼りになる相棒が見えた。………いや、頼もし過ぎるでしょ。
「真魚さん。ちょっと派手にいきます。」
「え?」
「ゴウラム!」
ゴシャァァァァン!!
壁を突き破り、黒い装甲生物が飛び込んできた。
「わきゃあ!?」
真魚の悲鳴を他所に、ゴウラムが僕たちの前へ着地する。
『ーーーッ!』
「迎えありがとう!」
『ーーッ!』
僕が先に跨がり、真魚へ手を伸ばす。
「本当にこれ乗るの!?」
真魚が僕の手を取ったので引き上げる。
「しっかり掴まってください!」
「どこに!?」
「僕!」
「分かった!」
腰に腕が回る。兵士たちが廊下の奥から現れるが関係ない。壊した壁からゴウラムが飛び出す。
「ちょっとクロオ君!?速い速い速い!?」
外へ出てから、ゴウラムが一気に高度を上げる。変身してないと風凄いな!
「うわぁぁぁぁ!?」
背中から真魚の悲鳴が聞こえるから、一応フォローを入れる。
「大丈夫です!落ちませんから!」
「そういう問題じゃない!」
施設を見ると、壊れた壁から深海が、痛みに耐えながらこちらを睨んでいるが、知ったこっちゃない。
真魚さんの救出と施設は特定できた。………一条さんに何て説明しよう。
「クロオ君?顔死んでるよ。」
「帰った後のこと考えてました。」
「一条さんに怒られるね。」
知ってます。…………ん?
視界の端。施設の屋上に、人影が見えた。若い男性、津上翔一だ。いや、姿は津上翔一だけど、
「真魚さん。ゴウラムの上で待っててください。」
「え?」
「落ちないよう気をつけてくださいね。」
「ちょっと、クロオ君!?」
僕はゴウラムの背から立ち上がる。
「ゴウラム、真魚さんを頼む!」
『ーーーッ!』
任せろ、とでも言うように鳴き声が返ってきたので、そのまま飛び降りた。
「ちょっとぉぉぉ!?」
風を切りながら、
「変身!」
屋上へ。
ドンッ!
膝を曲げてのヒーロー着地成功!
ゆっくり顔を上げると、そこには津上翔一の姿をした男が立っていた。姿だけなら津上翔一だけれど、中にいるものが別物だ。
「ようやく、見つけた。」
男が静かにこちらを見てくる。
人間にアギトへの進化の可能性を与えた存在。
「光の力。」
ーーーーー
施設から少し離れた高台から超能力者開発研究所を見下ろす二つの影があった。
一人は、黒衣を纏った青年――闇の力。そして、その傍らには、水を司るエルロード――水のエルが控えていた。
二人の視線の先、施設の屋上で赤い戦士、クウガと一人の男が向かい合っている。人間の姿をしているが、その内に宿るものは人間ではない。光の力。かつて闇の力と対立し、人類にアギトへと進化する可能性を与えた存在だ。
水のエルは、しばらくその光景を見つめていたが、やがて隣へ視線を向ける。
「あなた様が直接、あの者のもとへ向かわれないのですか?」
「私が行けば、争いになる可能性がある。」
淡々とした答えだった。
「争い……ですか。」
「今のアレと私は、相容れぬ。」
人間を今のまま愛する闇と、人間に進化の可能性を与えた光。遥かな昔から、二つの力は対立してきた。
「それに、もし私とあれが本気で争うことになれば、大きな災いになる。故に、今は行かぬ。」
水のエルは納得した。闇の力と光の力、双方が本気でぶつかれば、その余波だけでも人間たちにどれほどの被害が出るか分からない。ならば、あの少年に任せるという判断も理解できる。
――理解はできるのだが。
「ですが。」
水のエルは再び屋上を見る。
「あの者は大丈夫なのですか?」
「クウガか?」
「はい。」
水のエル自身、クウガについては聞いている。人間でありながら、アンノウンを容易く倒す力を持つ戦士。だが、今その少年が向かい合っているのは、アンノウンとは次元が違う存在だ。水のエルよりも強大な力を持つ、光の力。いや、光のエル。もし交渉が決裂すれば――。
「問題ない。」
あまりにもあっさりとした答えだった。
「……問題ない、のですか?」
「ああ。本気の彼は、私よりも強いからな。」
水のエルが固まった。
「…………はい?」
思わず聞き返してしまった。
「聞こえなかったか。」
「い、いえ。聞こえてはおります。しかし……。」
水のエルは屋上を見る。クウガを見る。闇の力を見る。もう一度クウガを見る。
「あなた様よりも?……あの人間が?」
「正確には、彼がその身に宿す力を完全に解放した場合だがな。」
初耳である。いや、できれば聞きたくなかった。自分たちを生み出した存在である、闇の力より強い人間がいる。しかも。
『ようやく、見つけた。』
遠くの屋上から、クウガの声が微かに届いてくる。
『光の力。』
思いっきり対峙してる。しかも人間の姿ではなく既にクウガとなって臨戦体制。水のエルの中に、別の不安が生まれた。
――待て。もし、あの二人が争い始めたらどうなる?先ほど闇の力は、自分と光の力が戦えば大きな災いになると言った。そして今、その光の力の前にいるのは――。
「一つ、よろしいでしょうか。」
「言え。」
「あの者が、あなた様よりも強いのであれば、光のエルと、あの者が争いになった場合も……。」
闇の力が僅かに沈黙し、水のエルの頬を、冷たい汗が伝った。
「大きな災いになるのでは?」
闇の力は答えず、静かに屋上を見つめていた。
水のエルも見るが、なんか急に怖くなってきた。
「……止めた方がよろしいのでは?」
「まだ争うと決まったわけではないし、クウガは話の通じる人間だ。」
「光のエルは?」
「…………。」
また黙ってしまった。水のエルは思う。――大丈夫なのだろうか。
心配する対象が、いつの間にか少年から周囲一帯へ変わっていた。
ーーーーー
一方、その頃。
「…………。」
『――――ッ。』
「へえ。」
『――ッ!』
「そうなんだ。」
空の上。
黒い装甲生物――ゴウラムの背に跨がった真魚は、一人で会話していた。
『――――ッ!』
「うんうん。」
『――ッ。』
「なるほどね。」
傍から見れば完全に独り言である。
だが、真魚には分かっていた。
ゴウラムに直接触れながら、その思念を読み取っているからだ。
「ゴウラムって、ずっとクロオ君と一緒に戦ってたんだ。」
『――ッ!』
「二年前から?」
『――ッ。』
「へえ……。」
真魚は感心しながらゴウラムの背を撫でる。硬い。金属みたいなのに、不思議と生き物に触れている感覚があった。思念もちゃんとある。言葉そのものが聞こえているわけではない。けれど、感情や伝えたいことが普段のサイコメトリーよりもずっと鮮明に流れ込んでくる。
「クロオ君が無茶ばっかりする?」
『――ッ!!』
今までで一番強い反応が返ってきた。
「あ、やっぱり。」
『――――ッ! ――ッ!』
「うん。」
『――ッ!』
「うんうん。」
『――――ッ!!』
「苦労してるんだね……。」
真魚の声に同情が混じった。ゴウラムから流れ込んでくる感情が、あまりにも切実だった。危険なところへ突っ込む。一人で戦おうとする。
無茶をする。無茶をする。とにかく無茶をする。
「…………。」
真魚は下を見る。遥か下に先ほどクロオが飛び降りていった施設の屋上がある。
「確かに、普通は空飛んでるところからいきなり飛び降りないよね。」
『――ッ!!』
激しく同意された。
「しかも私を置いて。」
『――ッ!』
「ゴウラムも止められないの?」
『…………。』
急に反応が弱くなった。
「あ、諦めてるんだ。」
『…………。』
「…………苦労してるね。」
真魚が優しくゴウラムを撫でる。
「でも。」
『――?』
「クロオ君、ゴウラムのこと凄く信頼してるよ。」
ゴウラムが僅かに反応した。
「だって、私を任せるって言ってたもん。」
『…………。』
「絶対に守ってくれるって思ってるんじゃない?」
少しだけ間が空いて。
『――ッ。』
どこか嬉しそうな思念が返ってきた。
「ふふっ。」
黒雄のしらない所で真魚とゴウラムがほんわかと、友情を育んでいた。