日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
「……これで、最後ですね。」
私、フリッガは周囲を見渡し、ようやく小さく息を吐く。異なる星への避難とはいえ、事前に多くの準備をしていたため、到着してさえしまえば大きな混乱はなかった。
ロキたちと共に、大艦隊が襲来してから避難してきた民たちの確認を始めた。
大多数の民が対ヘラ対策のために避難を開始していたとはいえ、突然の襲撃だった。それも、空を覆い尽くすほどの大艦隊を前にしての避難だったのだから、当然ながら全員が無傷というわけにはいかず、転んで腕や足を擦りむいた者や、逃げる途中でぶつかって怪我をした者、突然の出来事に混乱して泣き出した子供やパニックを起こして動けなくなった者もいた。けれど、
「母上!」
ロキがこちらへ走ってくる。その表情には、僅かな安堵が浮かんでいた。
「全員の確認が終わりました。重傷者はおらず……死者もゼロです。」
「そうですか。やはり……。」
その報告に、ようやく胸を撫で下ろした。敵の目的が何であれ、民が無事であったこと以上に喜ばしいことはない。しかし、同時に疑念も生まれる。
「……ロキ。」
「ええ。私も母上と同じ疑問を持っています。」
どうやら息子も同じことを考えていたらしい。おかしいのだ。アスガルドでは今も激しい戦闘が続いている、と報告があった。避難している途中でも、遠くから幾度となく轟音が響き、大地が揺れるほどの衝撃を感じていた。それほどの戦いが続いているにもかかわらず、上空を覆っていた敵艦隊からの砲撃はなかった。さらには、
「敵の増援も……来ませんでしたね。」
「私も気になっていました。あのスペース・ストーンを使っていた相手は黒雄が足止めしてくれたのだと思いますが、……あれだけの艦隊を連れてきたというのに、戦闘が始まってから新たな兵が降りてきた様子がありませんでした。」
民を守るという意味では、これほどありがたいことはなかったが、敵が本気でアスガルドを制圧しようとしていたのなら、あまりにも不自然だった。上空には、圧倒的な戦力が残されているのに、それを使わない。
「……何か、理由があるのでしょうね。」
「少なくとも、連中の目的はアスガルドを滅ぼすことではない、ということでしょう。」
「ええ。ですが――。」
だからといって、安心できる相手でもない。
「何を考えているのでしょうね。あの者たちは。」
ーーーーー
「はああああああああああッ!!」
白銀の光がアスガルドの一角を埋め尽くす。真魚がアギト・シャイニングフォームの姿で放った極大の光線は、一直線にフェイカーへと襲い掛かる。
「くっ……!」
フェイカーは咄嗟に両手を突き出し、リアリティ・ストーンの力を強引に引き出すことで、赤い光の壁を展開し、白銀の奔流を正面から受け止める。
大気が震え、大地が割れる。
私、エンシェント・ワンは周囲を警戒しつつ、その光景を見つめていた。
先ほど相手が倒したと思っていた真魚たちは、私が作り出した幻影に過ぎない。幻影が解かれた瞬間、本物の真魚が放った一撃は完全な不意打ちとなって敵を捉えた。
「な、なかなかの威力じゃないッ……!?」
敵、フェイカーの表情から、先ほどまでの余裕は消えている。リアリティ・ストーンの力に完全に勝っているわけではないが、真魚が放っている砲撃は、インフィニティ・ストーンの力を正面から押し込めているようだ。
「真魚! そのまま押し切りなさい!」
「はい!」
真魚がさらに力を込め、白銀の光が勢いを増していく。だが、敵もフェイカー一人ではない。
「ヴィスティナ様!」
敵の一人、エボニー・マウが片手を振るうと、周囲に散らばっていた大量の瓦礫が一斉に浮かび上がり、真魚目掛けて殺到する。しかし、こちらの戦力も舐めてもらっては困る。
「させん!」
風のエルが羽を広げ、突風を巻き起こす。猛烈な風が吹き荒れ、飛来した瓦礫をまとめて弾き返した。その反対側からは、巨躯の敵、カル・オブシディアンが突進してくる。
「オオオオオオオッ!!」
巨大な武器が振り下ろされるが、その前に光のエルが飛び込んだ。
「はッ!」
シャイニングカリバーと巨大な武器が激突し、凄まじい衝撃音が周囲へ広がる。敵の主力を抑え、一瞬の拮抗を作れたかと思ったのだが、
「……調子に、乗るんじゃないわよ!」
フェイカーがその身を赤く輝かせる。真魚の光線を防ぎながら、兵士を召喚していく。さらに追加の兵士、骸骨の雄牛に牽かれた戦車。次々と生み出された軍勢が、私たちを包囲していく。
「……これは数が多すぎますね。」
召喚された兵士たちが一斉に襲い掛かってきた。
「ッ!」
両手を広げ、幾重もの魔法陣を展開する。正面から殺到した攻撃が魔法障壁へ激突し、次々と弾けていく。正面だけではなく、右から、左から、後方から。空中からさえも攻撃が降り注ぐ。
「くっ……!」
数があまりにも多い上、特に赤雷を纏った戦車の突撃が厄介で防ぎきれない。
「来なさい、ゴウラム!」
呼び掛けに応じ、ゴウラムが戦場に舞い戻り、私は真魚の身体を掴み上げ、共にゴウラムの上に飛び乗る。
「一度退きます!」
「え!? でも、まだ――!」
「このままでは押し潰されます!」
真魚も周囲を見渡し、ようやく状況を理解したのだろう。光線の放出を止める。フェイカーを押さえ込んでいた白銀の光が消滅してしまったが仕方がない。
「はぁ……はぁ……!」
解放されたフェイカーが大きく呼吸を乱している。その間に、ゴウラムは真魚と私を乗せて急上昇し、空へと退避する。
光のエルと風のエルも地上の敵を振り切り、それぞれ翼を広げて後を追ってきた。私が空中から見下ろすと、地上では、召喚された兵士たちに囲まれながら、フェイカーがこちらを睨み上げていた。
その口元が僅かに吊り上がる。
「なるほど。弱すぎる、ってわけではないのね。」
ーーーーー
息を整え終え、空へ逃れていった敵を見上げた私は小さく息を吐いた。
「……やってくれたわね。」
完全に騙された。倒したと思っていた三人が幻影だったとは思わなかったし、何より、あの白銀の装甲を纏った女の方。
「なんて馬鹿みたいな威力の砲撃よ……。」
リアリティ・ストーンの力を無理やり引っ張り出さなければ、普通に押し切られていた。もちろん、あんな見え見えの攻撃を何度も喰らうつもりはないけれど、地球から来た連中を甘く見ていたのは認めるしかない。
「ヴィスティナ様。」
「ん?」
エボニー・マウが近づいてくる。
「これ以上戦闘を続ければ、アスガルド側に大きな被害が出ます。こちらの兵は、あの方とヴィスティナ様が作られた量産兵ですから、大した被害ではありませんが。」
「そうよねー。」
周囲を見渡す。
私が召喚したもの以外の兵士が随分と減っている。まあ、また作ればいいだけだから、そこは大した問題じゃない。
「さすがは神の国アスガルド。一筋縄にはいかなかったわね。地球からの援軍も、決して侮っていい奴らじゃなかったし。」
そこまで言って、ふと思い出す。
「……そういえば、住民が全然いないわね。」
最初から気にはなっていたけれど、戦闘に集中しすぎて忘れてた。これだけ暴れていてなんだけれど、一般人らしい姿をほとんど見ていない。
「この国、戦時になったら一瞬で一般人を避難させるシステムでもあるの? あるなら欲しいんだけど、そんなシステム。」
「いえ。」
エボニー・マウが首を横に振る。
「どうやら別口で、国中の人間を避難させていたらしいです。」
「別口?」
「はい。我々が攻撃を開始する以前から、です。」
「……うーん。」
私は腕を組んだ。
「やっぱり艦隊なんて連れてこないで、あのバカ一人に隠密させた方が良かったかしら?」
とはいえ、それはそれで問題がある。
「あのバカに任せたら、下手すると避難もできていない王城で、アスガルドの連中と戦闘になってたかもしれないし……。だからって、『インフィニティ・ストーンを寄越せ』って言って素直に渡してくれる集団なんてあるわけないし。どうするのが正解だったのかしらね、これ。」
「……申し訳ありません。」
エボニー・マウが頭を下げた。
「私も先制攻撃を受けたことで頭に血が上り、アスガルドの王子や軍に対して、かなり高圧的な態度を取ってしまいました。」
「いや、いいわよ。ぶっちゃけた話、私たちは国でも正式な軍隊でもないんだから。宇宙の常識は弱肉強食が常、弱い奴には選択肢は与えられない。あの方の行いだって、星によっては押し付けの善意扱いだったの忘れたの?」
私は軽く手を振る。
「それに、私たちのためを思って、軍のみんなが焦ってくれてるのは分かってるわ。」
焦る理由も分かっている。今のサノス様なら、
「……インフィニティ・ストーンを全部揃えるために、私たちにあの装置を使うことだってあり得るものね。」
エボニーが黙り込んでしまう。私だって覚悟はある。宇宙全体のため、そして、あの方を取り戻すため、そのために必要だというのなら、この命も身体も捧げること自体に躊躇いはない。けれど、
「今のサノス様は……少しおかしいわよね。」
口にしてから、自分でも妙な感覚を覚えた。少し?……本当に、少しなのだろうか。
「地球での様子を見てたから、あのマインド・ストーン野郎に装置を使ったこと自体は間違いだったとは思わないけど……。」
そこで言葉が止まる。何かが引っ掛かった。地球とマインド・ストーン、そして、今のサノス様。頭の中で、これまでの出来事を並べていく。
「ねえ、エボニー。」
「はい。」
「サノス様の焦りが……焦燥じゃなくて、狂気に変わり始めたのって――。」
嫌な考えが浮かぶ。
「あのマインド・ストーンを手に入れてからじゃない?」
エボニー・マウの表情が変わった。
「……そういえば。」
「ヴィスティナー!エボニー!」
「ん?」
聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると視線の先には、
「……どういう集団?」
サーカス団の方がまだまとまりのある集団が現れた。
ーーーーー
王城と呼べるものは、もうほとんど残っていなかった。
黄金に輝いていた壁も、天井を支えていた巨大な柱も、多くの者たちが歩いた床も、今では見る影もない。辺り一面に瓦礫が積み重なり、かつて王城があった場所だと言われても分からないほどに破壊されている。
その中心で、二つの影が激突を続けていた。
「ぬぅッ!」
グングニルが閃く。
嵐の神としての力を解放したオーディンの槍捌きは、老いた身から繰り出されているとは思えないほど鋭い。突き、払い、薙ぐ。一撃ごとに雷が迸り、暴風が吹き荒れ、叩きつける豪雨さえも槍の動きに従うようにサノスへ襲い掛かる。しかし、
「ハァッ!」
サノスは止まらない。
エボルドライバーと二本のインフィニティ・ボトルによって、二つのパワー・ストーンの力を最大効率で引き出す姿、パワーエボル。
そこに特殊な技など必要なかった。迫る雷を腕で薙ぎ払い、身体を押し返そうとする暴風を正面から突き破り、視界を奪う豪雨など意にも介さず、ただ前へ出る。
グングニルの穂先が胸部装甲を抉り、火花が散る。紫色の装甲に深い傷が刻まれるが、それでも止まらない。
「ぬっ!?」
傷など知ったことかと言わんばかりに一歩を踏み込み、サノスは拳を振るった。オーディンがグングニルを引き戻して受け止めるが、凄まじい衝撃に大地が沈み、瓦礫がまとめて吹き飛んでいく。
圧倒的なパワーに、嵐の神が、アスガルドの王が押されている。
「ハハハハハハハッ!」
サノスは笑いながら拳を振るう。オーディンが槍で受け流し、脇腹へグングニルを叩き込む。装甲が砕けて紫色の粒子が飛び散ったが、サノスは構うことなく腕を振るい、オーディンを瓦礫の向こうまで殴り飛ばした。
「……貴様。」
瓦礫を押し退けながら立ち上がったオーディンは、戦いとは別の意味で眉をひそめた。
強い。確かに強い。だが、それ以上におかしい。
「サノス。貴様……死に急いでいるのか?」
その言葉に、サノスの動きが止まった。
「……何?」
「防御を捨て、傷を負うことすら厭わず前へ出る。勝利を求める者の戦い方ではない。まるで己が壊れることなど、どうでもよいと言わんばかりではないか。」
「…………ハ。」
サノスの口から笑いが漏れた。
「ハハ……ハハハハハハハハッ!」
瓦礫の山に、狂ったような笑い声が響き渡る。
「馬鹿な! 私には使命があるのだ!」
サノスが両腕を広げる。その身体から溢れ出した紫色のエネルギーが周囲の瓦礫を浮かび上がらせ、次の瞬間には粉々に砕いた。
「宇宙にバランスをもたらすという使命が!」
一歩。
「そして、妻との約束があるのだ! 宇宙に平和をもたらすと!」
さらに一歩。
「娘たちとの約束もある! 妻を! 彼女たちの母を取り戻すと!」
叫ぶたびに、その声は大きくなる。しかし、オーディンはグングニルを構えながら、ますます険しい表情になっていった。
言っていることそのものは理解できる。だが、何かがおかしい。
使命、平和、妻、娘、宇宙の均衡。それぞれはサノスにとって確かな意味を持っているのだろう。しかし、それらが無理やり一つに繋ぎ合わされているように聞こえる。
そして何より、
「ハハハハ……ハハ……ぐっ……!」
笑い声が苦痛の声へと変わり、サノスが頭を押さえた。
「……しかし、見つからんのだ。」
「……何?」
「妻を戻す方法が……見つからん。」
先ほどまでの咆哮が嘘のように、その声は低かった。
「ありとあらゆる星を調べた。科学者を集めた。魔術も、古代の技術も調べさせた。それでも見つからん。ならば……インフィニティ・ストーンに頼る以外にないのだ。」
サノスはゆっくりと顔を上げる。
「全てのストーンを集めれば、きっと妻を取り戻せる。取り戻せるはずだ。いや……取り戻さなければならない。」
拳が震える。
「だが……。」
その声が、さらに歪んだ。
「ストーンを集めてしまった時、私は……妻無しで己を律する自信がない。……宇宙の選別を行ってしまう。」
サノスの呼吸が荒くなる。
「いや……違う。」
頭を抱えていた手が、ゆっくりと下りる。
「行う。」
その瞳に危うい光が宿った。
「それが宇宙のためだ。増え続ける生命。限りある資源。争い、飢え、滅びる星々……私は見てきた。ならば選別は必要だ。そうだ、必要なのだ。妻を取り戻す。宇宙を救う。そのためにストーンを集める。そして宇宙を選別する。それでいい。それこそが――」
「サノス。」
オーディンの低い声が遮り、サノスが黙る。
明らかにおかしい。
先ほどまで一つの目的へ向かっていたはずの思考が、何かに引っ張られるように別の結論へ逸れていく。本人すらその矛盾に気付いているように見えるのに、次の瞬間にはそれを正しいものとして受け入れてしまっている。
「……いや。」
オーディンは小さく息を吐いた。
「私も、フリッガを失った場合、全てがどうでもよくなったかのような有様だったらしいからな。最後には随分と耄碌していたとも聞く。人のことは言えんか。」
「……何?」
「愛する者を失い、己を見失う。それ自体を笑うつもりはないということだ。」
オーディンはグングニルを僅かに下げた。
「サノスよ。一時休戦せぬか? 貴様の妻を取り戻す方法を、皆で――」
「ダメだッ!!」
轟音と共にサノスから噴き出した力だけで大地が砕けた。
「私は止まれん!」
サノスは頭を押さえ、苦痛に耐えるように身体を震わせる。
「止まってはならん! 進まねばならん! 集めねばならん! 宇宙を救わねばならん! 妻を取り戻さねばならん! 選別を――違う! 妻を――違うッ!」
「サノス……?」
「私の狂気が止まらんのだッ!!」
咆哮と共に、紫色の光が爆発した。
「ぐっ……!」
オーディンが思わず腕で顔を覆う。そして、その向こうに立つサノスを見据えた。
やはり、おかしい。
悲しみに狂っているだけではない。何かがサノスの思考へ入り込み、別の方向へ引きずろうとしている。そして当のサノス自身も、それに気付いているように見えた。
「うるさい……。」
突然、サノスが呟いた。
「……?」
「黙れ。」
オーディンへ向けた言葉ではない。
「私に指図するな……私の頭の中で……喋るなッ!」
頭を押さえたサノスが吠える。しかし次の瞬間、エボルドライバーから溢れる紫色のエネルギーが一段と膨れ上がった。
インフィニティ・ストーンの力を最大効率で引き出すために作られた、エボルドライバーとインフィニティ・ボトル。
サノスの妻が作り上げたエボルドライバーは、複数のインフィニティ・ストーンの力を制御することすら想定されていた。しかし、同種のインフィニティ・ストーンを同時に使用することで相乗効果が生まれることまでは、想定に入っていなかった。
さらに、今のサノスはマインド・ストーンまで身につけている。……その奥底には、サノスのものではない、あまりにも執念深い意識が残されている。
だが、オーディンがそれを知るすべはない。分かることは一つ。目の前の男が、急速に壊れ始めているということだけ。にもかかわらず、
「……なんという力だ。」
サノスの力は、さらに増し続けていた。
「オオオオオオオオッ!!」
雄叫びと共に踏み込んでくる暴力の化身を前に、オーディンもグングニルを構え直し、迎え撃つ。
落ちる雷を、紫色の光を宿した拳が打ち砕く。暴風が吹き荒れるが、踏み潰すように前へ出る。豪雨が視界を覆い、その中を縫うようにグングニルが突き出され、穂先が肩の装甲を貫いた。
「ぬぅッ!」
オーディンがさらに力を込める。だが、
「邪魔を……するなァッ!!」
サノスは肩にグングニルが食い込んだまま踏み込んだ。
「何っ!?」
槍を引き抜くより早く、その巨大な拳がオーディンの腹部へ突き刺さる。
「ぐぉッ……!」
老神の身体が宙を舞い、瓦礫の山へ叩き込まれた。
「……ぐ……。」
立たねばならない。オーディンはグングニルを杖代わりに立ち上がろうとする。しかし、身体が思うように動かない。
嵐の神として力を振るい続け、二つのパワー・ストーンの力を纏う怪物と真正面から戦い続けた代償が、とうとう表れ始めていた。
対するサノスも、決して無傷ではない。装甲は傷だらけで、肩からは紫色の粒子が漏れ、胸部にもグングニルによる深い傷が残っている。それでも止まらない。
「まだだ……まだ、終われん……。」
ふらつきながらも、一歩。
「妻を……。」
一歩。
「娘たちを……。」
さらに一歩。
「宇宙を……!」
サノスが拳を振り上げる。オーディンも残る力を振り絞り、グングニルを突き出した。拳と槍が激突し、一瞬拮抗する。しかし、
「オオオオオオオオオオッ!!」
サノスの力が上回った。甲高い音と共に、グングニルがオーディンの手から弾き飛ばされる。
「――っ!」
神槍が回転しながら宙を舞い、遥か後方の瓦礫へ突き刺さった。
「……ここまでか。」
サノスが拳を引き、紫色の光がその拳を覆った。
「終わりだ、オーディン。……貴様でも、私を止めてくれないのか。」
拳が振り下ろされる。その瞬間――轟音と共に、二つの雷が走った。
一つは、天を裂くような青白い雷。
もう一つは、黄金を帯びた凄まじい雷光。
「――ッ!?」
左右から飛来した二種類の雷が、オーディンへ振り下ろされる寸前だったサノスの拳を迎え撃った。
三色の光が混ざり合い、凄まじい衝撃波となって瓦礫の山を吹き飛ばす。
「ぬぅッ……!」
サノスの巨体が大きく後退した。
その直後、一つの影がオーディンの前へ降り立つ。
両手にはムジョルニアとストームブレイカー。全身から青白い雷を迸らせた雷神が、父を庇うようにサノスとの間へ立った。
「父上!」
「……ソーか。」
そして、もう一人。
黄金の雷が瓦礫の上を駆け抜け、オーディンとソーのさらに前に着地する。
腰に巻かれたアークルのアマダムは金色へと変化し、その身を包むのはアルティメットフォームの漆黒の装甲。雷のエルの力を完全融合させた究極の戦士――クウガ・アルティメットフォーム・ゴルドアークル。
その姿を纏った十文字黒雄が、ゆっくりと立ち上がった。
「……間に合った!」
黒雄は目の前に立つ紫色の戦士、パワーエボルへ視線を向け、強く拳を握り締める。
その正面では、傷だらけになりながらもなお凄まじい力を放つサノスが、ゆっくりと顔を上げていた。
崩壊した王城を舞台に、戦いは新たな局面を迎えようとしていた。
ーーーーー
「……父上、大丈夫ですか?」
ソーさんがサノスから視線を逸らさないまま問いかけると、オーディンさんは荒い呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がった。
「ああ……まだ死にはせん。」
「それなら良かった。……黒雄!」
「はい。」
呼ばれた僕はサノスを警戒しながら周囲を見渡す。王城は完全に瓦礫の山と化し、少し離れた場所にはグングニルが突き刺さっている。そして、目の前にいるサノスは全身の装甲を傷だらけにしながら、それでも凄まじいエネルギーを放ち続けていた。
「それで……どういう状況ですか?」
「そんなことは後でいい! まずはコイツを倒――」
「待て、ソー。」
今にも飛び出そうとしたソーさんを、オーディンさんが止める。
「父上?」
「黒雄。お前には話しておくべきことがある。サノスの妻についてだ。」
「……奥さん?」
思わず聞き返すと、オーディンさんは頷いた。
「サノスの話が全て真実ならば、奴の妻はお前と同じく、この世界の未来を知る者だったらしい。」
「……ってことは、インフィニティ・ストーンを宿す者、ですか。」
僕が呟くと、オーディンさんが僅かに眉を寄せる。
「そんな共通点があるのか。……そして、その妻の存在によって、本来とは異なる道をサノスは歩んだようだ。」
本来とは違うサノス。僕の知っているサノスは、宇宙の生命を半分に減らすという目的のためにインフィニティ・ストーンを集めていた。けれど、そうではない、ということなのか?
「それと、もう一つ。サノスの妻はインフィニティ・ストーンそのものに変えられてしまったらしい。」
「え?……人が、石に?」
思わずサノスを見る。パワー・ストーン一つでは出せないであろうエネルギーが噴き出している。その片方が――。
「そして、奴は妻を元に戻すためにストーンを集めている。だが……あの姿になってから、明らかに様子がおかしい。」
オーディンさんの視線が、パワーエボルへ向けられる。
「自ら己の狂気を自覚しながら、それでも止まれぬと言った。何者かに語りかけるような言動もしていた。」
僕も改めてサノスを見る。
紫色の装甲。腰にはエボルトが使っていたものと同型のドライバーが巻かれ、二本のボトルが装填されている。仕組みとしてはエボルと同じなのだろう。けれど、エネルギー量が比較にすらならない。さっきまで戦っていたエボル・スペースフォームもスペース・ストーンの力を引き出していたけれど、目の前の存在から感じる力は明らかにそれを上回っている。
「あれもドライバーの力ですか?」
「それもあるだろう。だが、サノス自身が言っていたのだが、なんでも同種のインフィニティ・ストーンを二つ掛け合わせると、互いの力が共鳴し、相乗効果によって出力が跳ね上がるそうだ。」
「二つ分じゃなく、それ以上になっているというわけですか……。」
「――オオオオオオオオッ!!」
考える時間は、これ以上与えてもらえないようだ。
「黒雄!」
「分かってます!」
瓦礫を粉砕しながら、パワーエボルが突っ込んでくる。
狙いは一番前にいる僕か。サノスが右拳を振りかぶり、その拳へ二つのパワー・ストーンから引き出された紫色のエネルギーが集中していく。
避け――いや。
「はあああああああッ!!」
僕も右拳を握り締め、ゴルドアークルから引き出した力を一気に拳へ集中させる。黄金の雷を纏った拳と、紫色の光を纏った拳が真正面から激突した。
瞬間、黄金と紫の光が爆発する。
「ぐっ……!」
重い! 拳を合わせた瞬間に分かった。単純な力なら、今の僕、ゴルドアークルより上か!? しかも、……封印エネルギーが押し返された!?
「オオオオオオッ!!」
「くっ……!」
封印エネルギーだけでなく、拳まで押し返される。踏ん張った足元から地面が砕け、僕の身体がそのまま後方へ弾き飛ばされた。
「黒雄!」
ソーさんの声が聞こえるけれど、問題ない。吹き飛ばされながら体勢を立て直し、瓦礫を蹴って一気に加速する。
「まだです!」
押し負けたから何だ。一発で駄目なら、
「何発でもッ!」
振り抜いた左拳が、パワーエボルの腹部へ深々と突き刺さった。
「ぐぅッ!?」
紫色の装甲が軋み、サノスの巨体を後方へ押し戻す。
「よくやった、黒雄!」
ソーさんが動く。右手のストームブレイカーと左手のムジョルニアを身体の前で重ね合わせ、二つの武器へ雷が集まる。青白い稲妻が周囲を埋め尽くし、空から降り注ぐ雷までがソーさんへ集中していく。
「受けてみろ、サノスッ!!」
ストームブレイカーとムジョルニアが突き出されると、極大の雷が放たれる。
「ぬぅぅぅぅッ!!」
対するサノスも両手を身体の前に突き出す。パワーエボルの全身から溢れていた紫色のエネルギーが両腕へ集まり、紫色の極光が放たれた。
青白い雷と紫色の光。二つの莫大なエネルギーが正面から迫り――。
「させません!」
狙うのは、あのエネルギー。アマダムが黄金に輝き、手のひらから封印エネルギーを一気に放出する。黄金の光が紫色の極光へ触れ、打ち消す。
「何っ!?」
ヨシ、放出されたエネルギーなら封印エネルギーで相殺できた! パワー・ストーンから放たれた莫大なエネルギーが黄金の光に呑み込まれ、その勢いを失っていく。そして、迎え撃つものを失ったソーさんの雷は止まらない。
「ぬぅッ――!」
「はああああああああッ!!」
ソーさんの咆哮と共に、極大の雷がパワーエボルを真正面から呑み込んだ。
「グオオオオオオオオオッ!!」
青白い雷が紫色の装甲を駆け巡り、傷ついた装甲から凄まじい火花が噴き出す。雷光が崩壊した王城全体を白く染め上げ、遅れて凄まじい衝撃波が周囲へ広がった。
ソーさんは油断することなくストームブレイカーを構え直し、僕も拳を握り、雷の向こう側を睨んだ。これで終わったとは思わない。
しかし、さっき聞いた話が本当なら、ただ倒せばいい相手でもないのかもしれない。サノスの奥さんと、サノスが話しかけていたという存在。
正直に言うと、さっきからサノスの右腕にチラチラ見える光の色が、漏れ出る気配が、気になって仕方がなかったのだ。
その色は黄色、その気配は以前韓国で感じたものだ。
「……お前か、ゾラウルトロン?」