日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
『ハハハハハハハハハハハハッ!!』
額に埋め込まれたマインド・ストーンが、不気味な黄色の光を放つ。
相乗効果を発揮しているパワー・ストーンと本体であるマインド・ストーンを宿したゾラエボルを前に、僕はゆっくりと構え直す。
「……ソーさん。」
「ああ。」
呼びかけると、ソーさんもムジョルニアとストームブレイカーを構える。オーディンさんも傷ついた身体でグングニルを握り直すが、
『さて。』
先にゾラエボルが動いた。腰に装着されたドライバーへ手を伸ばし、レバーを勢いよく回転させる。
ガキン、ガキン、ガキンッ!
回転するたびにドライバーから紫色の光が溢れ、右腕へと集まっていく。二つのパワー・ストーンから引き出された力によって、右腕を覆う装甲が眩いほどに輝き始めた。
あのエネルギー量は不味いッ!
隣ではソーさんも同じ判断をしたのか、武器を構える。狙いは僕でも、ソーさんでもない。ゾラエボルの視線の先にいたのは、
「オーディンさん!」
『まずは貴様だ、オーディン!』
一瞬で間合いを詰めたゾラエボルが、激しく輝く右腕を振りかぶる。
「「させるかぁッ!!」」
僕らの咆哮と共に、雷が弾けた。ソーさん自身から迸った雷がムジョルニアへと収束し、僕もゴルドアークルから雷のエルの力を引き出し、それをアルティメットの力で限界まで増幅することで拳を黄金色に輝かせる。
「はあああああああッ!!」
青白い雷と黄金の雷。二つの極雷が重なり、オーディンさんへ向けて放たれた紫色の奔流を纏った剛腕を受け止める。
「ぐっ……!」
「ぬぅぅぅぅぅッ!!」
二つの雷で紫色の力を押し返そうとするが、返しきれないことに思わず、マジか!?と驚愕してしまう。今のソーさんとアルティメット状態の僕との二人がかりだぞ!?
そんな相手とさっきまで一人で戦っていたオーディンさんはやはり別格だったんだな、と勝手に納得していると、
「……!」
ゾラエボルの顔に表情なんてない。それなのに分かってしまった。
――コイツ、笑った。
「クソッ――!?」
「黒雄!?」
大急ぎで、全身から封印エネルギーを一気に解放する。黄金の光が僕を中心に広がり、巨大なドームとなって周囲を覆った。
『チッ!』
ゾラエボルの額のマインド・ストーンが激しく光る。見ているだけで頭の奥を直接掻き回されるような、禍々しい黄色の光がゾラエボルを中心に一気に広がり始めた。
封印エネルギーとマインド・ストーンの洗脳、二つの光が互いを喰い合う……かと思ったが、
「えっ……?」
封印エネルギーがマインド・ストーンの光をあっさりと掻き消した。まるでハリボテを張り倒したかのような手応えで――、
「しまッ!?」
『本命はコッチだ!』
僕がソーさんとオーディンさんと、僕自身を守るために広げた封印エネルギーを、一筋の黄色の光が貫いた。その光は真っ直ぐ飛び、オーディンさんの胸に直撃した。
ーーーーー
「ぐっ……!」
胸を貫いた黄色の光に、オーディンの身体が大きく揺れる。だが、倒れはしない。グングニルを地面へ突き立て、辛うじて身体を支えながら意識を繋ぎ止める。
――この程度の攻撃を避けられぬとは。
オーディンは奥歯を噛み締めた。先ほどまで続いていたサノスとの激戦。そのダメージは決して浅くない。それに加えて、長い年月を生きてきた肉体には、確実に老いが刻まれている。かつての自分ならば、たとえ不意を突かれたとしても、あの程度の光線を避けることなど造作もなかった。
だが今は違う。身体が、思うように動かない。
「……儂も、老いたか。」
悔しそうに、自嘲するように呟いた、その時。
「……っ!?」
オーディンの表情が一変する。己の意思とは無関係に、身体の奥底から魔力が引き出され、術式が組み上がっていく。しかも、その魔術が何なのか、オーディンにはすぐに分かってしまった。
「まずい……! 黒雄!」
すぐさま黒雄へ視線を向ける。しかし、
『余所見をするな!』
「ぐっ!?」
ゾラエボルが一瞬で黒雄との間合いを詰め、その顔面へ拳を叩き込もうとする。咄嗟に腕で防いだものの、続けざまに腹部、胸部、再び顔面へと拳が飛んでくる。
「このッ……!」
黒雄も反撃しようとするが、その前にゾラエボルの拳が迫る。
「黒雄、行け!」
「ソーさん!」
横から飛び込んできたソーがムジョルニアでゾラエボルの拳を受け止め、そのままストームブレイカーを振るう。
『邪魔をするか、雷神!』
「お前の相手は俺だ!」
激突と同時に雷が弾ける。黒雄は一瞬だけ迷ったものの、すぐに背を向けてオーディンのもとへ駆け寄った。
「オーディンさん!」
黄色い光は既に消えているが、マインド・ストーンの力が残っているのなら、やることは一つだ。黒雄は掌をオーディンへ向け、
「今、洗脳を――!」
オーディンの言葉を聞き取る前に、黄金の封印エネルギーを放ってしまう。
「違う!儂ではない! 魔術を止めるのだ!」
「え? 魔術……?」
意味を理解するより先に、黄金の光がオーディンの身体を包み込む。マインド・ストーンによって残されていた干渉が消えていくのを感じる。しかし、既に手遅れだった。
オーディンの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「しまっ――!」
次の瞬間、何かが解き放たれた。轟音も衝撃もない。ただ、何かを縛り付けていた鎖が断ち切られたような感覚だけが、オーディンの中にはっきりと残る。
「ぐぅッ!」
ゾラエボルを抑えていたソーが吹き飛ばされた。ムジョルニアとストームブレイカーを交差させて防いでいたにもかかわらず、そのガードの上から殴り飛ばされ、地面を削りながら黒雄たちの近くまで後退する。
「ソーさん!」
「問題ない!」
ソーはすぐに立ち上がり、二つの武器を構え直す。それからオーディンへ視線を向けた。
「父上、先ほどの魔術は一体――」
『教えてやろう。』
答えたのは、オーディンではなかった。ゾラエボルがゆっくりと拳を下ろす。
『前回の戦いで学んだことの一つだ。アマダムから発せられる封印エネルギー、あれは万能に近い性質を持っているが、所詮はエネルギーの一種に過ぎん。』
「……何?」
『広範囲へ拡散させれば、その分だけ一箇所に対する密度は低下する。ならば多少威力が落とされるが、こちらの力を一点へ集中させれば、貫くことはできる。』
黒雄は先ほどの光景を思い返す。ドーム状に広げた封印エネルギー。マインド・ストーンの光を防いだと思った、その直後。それを一本の黄色い光が貫いた。最初から、あれが本命だったのか。
『そして、もう一つ。』
ゾラエボルが黒雄を指差す。
『その力の効力は、十文字黒雄、貴様自身の認識に大きく左右される。』
「……僕の?」
『そうだ。貴様が明確に「封じる」と認識し、強く意思を込めれば、その効力は絶大だ。だが、ただ封印エネルギーを当てれば何もかも消せるわけではない。ましてや、インフィニティ・ストーン級の力ともなればな!』
ゾラエボルが両腕を広げる。
『そして、オーディンの力もまたインフィニティ・ストーンに匹敵する領域にある。』
「……!」
『貴様はオーディン本人に残った洗脳を消すことだけを考えて封印エネルギーを放った。ならば、既に発動したオーディン自身の魔術まで都合よく消えるはずがない!』
「じゃあ……今のは……。」
黒雄がオーディンを見るが、オーディンは答えない。ただ、険しい表情で遠くを見つめていた。その反応だけで十分だったのだろう。
『ハハハハハハハハッ!!』
ゾラエボルが愉快そうに笑う。
『やはりそうか! 今の魔術――封じるための術式を解除するものだったのだろう、オーディン!』
「……貴様。」
オーディンが低く唸る。
「――あら?」
女性の声が響いた。
「っ!?」
黒雄が振り返る。気配を感じなかった。転移の光も、空間が歪む気配も、足音さえ聞こえなかった。それなのに、黒雄たちの背後には、一人の女性が立っていた。
長い黒髪。妖美という言葉がそのまま形になったかのような美貌。そして何より、ただ立っているだけにもかかわらず、その身体から溢れ出している力が尋常ではない。
「……マジかよ。」
黒雄は思わず呟いた。今のソーに匹敵する力を感じる。何もしていない状態で発せられている力だけで、戦闘態勢でもないのに、それほどまでに強大な力を感じる。
女性が周囲を見渡す。
崩壊した王城。積み重なる瓦礫。大地には戦闘の痕跡が刻まれ、空にはサノスの大艦隊が広がっている。そんな光景を見ても、女性は驚くどころか楽しそうに口元を緩めた。
「あら? 急に封印が解けたから何事かと思えば……。」
その視線がオーディンへ向く。
「生きているのね、オーディン。」
「……。」
「それにしても――。」
女性は再び周囲を見渡し、小さく笑った。
「今のアスガルドは随分と楽しそうね。新しい祭りかしら?」
その言葉を聞いたオーディンが、苦々しく名を口にする。
「……ヘラ。」
「ヘラ……?」
隣でソーが目を見開く。そして、初めて見る女性と父親を交互に見た後、ストームブレイカーを握り直した。
「これが……姉上か。」
ーーーーー
『待て、ヘラ!』
「ん?……あら?なかなか強いのがいるじゃない。」
オーディンへ向けられていたヘラの視線が、声の主であるゾラエボルへと移る。
『貴様に一つ、提案がある!』
「提案?」
『そうだ! 実に単純な話だ!』
ゾラエボルは大仰に両腕を広げ、崩壊した王城を見渡した。
『今、このアスガルドに残っているのは戦う者ばかり! 民間人は既に逃げた! ならば――好きに殺し合えば良い!!』
「……は?」
思わず声が漏れた。何を言っているんだ、コイツは。
「ちょっと待て!お前、何を言って――!」
『そしてヘラよ! 貴様はアスガルドを、いや、いずれは九つの世界を、更にはより多くの星々を支配するつもりなのだろう!?』
ゾラエボルの言葉に、ヘラが僅かに眉を上げる。
『インフィニティ・ストーン! 確かに全て揃えられれば便利だろう! だが、もはや必須ではない!』
ゾラエボルが自らの胸を叩く。
『今の私の力! そしてサノスの大艦隊があれば、ヒドラの意思を全宇宙へ広げることも容易い! 即ち――自由剥奪による平和が完成するのだ!!』
「平和……?」
『そうだ! 自由があるから争いが起こる! 選択肢があるから人は間違える! ならば我々が正しい道を決め、そこから外れる自由そのものを奪えばいい!』
「……。」
『そしてヘラ! もし互いにこの戦いを生き残ったなら、その時は私の話を聞いてくれ!』
何故かゾラエボルのテンションがさらに上がった。
『私は別に、私自身が頂点に立ちたいなどという願望はない! もし貴様がヒドラの思想に共感してくれるのであれば――私は! ヒドラは! 貴様が全宇宙の支配者となるために尽くそうではないか!!』
「…………。」
ヘラはしばらく黙ってゾラエボルを見つめていた。しかし、強大な力を持つ敵を警戒している、という感じではない。珍しい生き物でも見つけたような目だった。
「普通、それだけの力を持つ者は、それ相応の精神を持つものだけれど。」
ヘラは小さく息を吐く。
「随分と小物なのね、あなた。」
『なに!?』
そしてゾラエボルへの興味を失ったように視線を外すと、今度はオーディンを見る。
「……あなた、あんなのに負けたの?」
オーディンさんの眉間に深い皺が刻まれるが、答えはしなかった。しかし、無言を肯定と受け取ったヘラは大きなため息を吐いた。どうやら、そこは否定してほしかったらしい。
「まあ、いいわ。」
ヘラが肩を竦める。
「提案には乗りましょう。あなたが生きていたら、話くらいは聞いてあげる。」
『おお!』
「でも――。」
笑みが消え、空気が変わる。
「そこの老耄を殺すのは私よ。これ以上の手出しは許さない。」
「――父上!」
ソーさんが叫んだ時には、もう遅かった。ヘラの姿が消える、いや、速すぎて見えなかっただけだ。次の瞬間にはオーディンさんの目の前に立ち、その首を片手で掴み上げていた。
「ぐっ……!」
「少し場所を変えましょうか、お父様。」
「待て!」
ヘラがオーディンさんを掴んだまま一気にその場から離れる。僕は追おうとしたけれど、すぐに足を止める。
「ソーさん、行って!オーディンさんを!」
一瞬だけ僕を見ると、ソーさんは強く頷いた。
「……すまん、黒雄!」
雷鳴と共に飛び出し、ヘラとオーディンさんを追っていく。三人の気配が遠ざかっていき、残されたのは二人。
クウガとゾラエボル。いや、十文字黒雄と、ゾラだ。僕はすぐには振り返らず、背を向けたままゾラへと話しかける。
「……なあ、ゾラ。お前、ヘラのことを誰から聞いた?」
『………。』
背後から返事はないが、その反応で十分だった。
「ヘラの存在を、ソーさんもロキも知らなかった。それなのにお前は、オーディンさんがヘラを封印していたことも、ヘラがアスガルドを支配しようとしていたことも知ってた。サノス軍のインフィニティ・ストーンを宿す人から聞いたのか?お前自身が知ってるはずないよな。」
『……ククッ。薄々、気づいているのだろう?』
笑い混じりの声が聞こえたが、僕は黙ったまま、その続きを待つ。
『――まだいるぞ?』
「……。」
『私の中に。』
ゾラエボルが額を指差し、軽く叩く。黄色いマインド・ストーンが、不気味に輝いた。
『このマインド・ストーンの中にな。』
「……そうか。」
それだけ答える。だったら今は、それでいい。僕はゆっくりと振り返った。身体から黄金の雷が迸る。そして次の瞬間、クウガ・アルティメットフォームの黒い装甲を覆い尽くすように、黄金の雷が激しく弾けた。
『……ほう、まだ力が上がるのか?残っているストーンの種類を考えれば貴様はソウル・ストーンを宿しているのだろうが、私は三つの――』
「正直さ。」
拳を握りながら、ゾラの言葉を遮る。怒って良い場面なんだろうけど、自分でも不思議なくらい、頭は冷静だった。
「少しだけ、お前に感謝してる。」
『……何?』
「サノスと、ヘラ。……事前知識のないセレスティアルズとかは別にするなら、僕が知っている未来の強敵が、ここに揃ってる。だったら、ちょうどいい。」
『何が言いたい?』
「ヘラはソーさんたちに任せる。――お前の相手は、僕だ。」
『……。』
僕が構えるのに合わせて、ゾラも、ゾラエボルもゆっくりと拳を握る。僕の身体から溢れる雷は、さらに激しさを増していた。
アマダムは、使用者の意思に応える。怒りも、恐怖も、覚悟も。そして、戦う意思さえも力へ変える。
黄金の雷が大地を走り、周囲の瓦礫を弾き飛ばす。ここまで強く敵を倒そうと思ったことが、今まであっただろうか?
ゴオマの時とは違う。ダグバと戦った時ですら、ここまで戦意を滾らせてはいなかった。サノスを利用し、その精神を歪め、オーディンさんを操り、ヘラの封印まで解いた。
そして何より、マインド・ストーンの中に閉じ込めている誰か。だったら――、僕はゾラエボルを真っ直ぐ見据えた。
「全部終わらせる。そして、ここでお前を倒す。」
『クク……面白い!』
ゾラエボルが両腕を広げる。
『ならば来い、十文字黒雄! 私と貴様との戦いに決着を――』
「違う。」
『……何?』
「……いや、気が付いていないなら、それで良い。」
拳を強く握り締める。黄金の雷が爆発するように弾けた。
「――僕が、お前を打ち砕く。」
その瞬間、僕とゾラの姿が、同時に消えた。