日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
「ヴィスティナ!」
聞き慣れた声に振り返ると、こちらへ駆けてくるガモーラとネビュラの姿が見えた。その後ろには確かガモーラが今一緒に行動しているっていうガーディアンズ・オブ・ギャラクシー、だったかしら?そいつらもいる。
「ガモーラ、ネビュラ。なんでアナタたちがアスガルドに?」
「それはこちらの台詞よ!強いのはよく知っているけど、なんで科学者のアナタが最前線にいるのよ!?大丈夫、怪我はない!?」
ガモーラ、そしてネビュラが私の様子を確認してくる。つい先ほどまで戦場だった場所には、赤い雷を纏う兵士や戦車が未だ展開していて、その中心に立つ私は、普段の白衣に眼鏡という研究者然とした姿とはまるで違い、赤を基調とした戦装束を身に纏っているのだ。戦闘していたのは丸分かりである。
……騎兵で魔術師で科学者は、やっぱり属性盛りすぎかしら?
そんな私を、二本足で立つアライグマが、え?アライグマ?……あ、ロケットって名前なのね。ロケットが興味深そうにじっと見つめてきている。
ガモーラの仲間、クイルが横からその顔を覗き込んで、
「なんだ?もしかして一目惚れか?」
「馬鹿。アイツ、ヴィスティナは宇宙の叡智とまで言われたサノスの嫁さん、その唯一の弟子だぞ?」
ロケットが悪態とは違う、妙に真剣な声で嬉しいことを言ってくれる。
「科学者とか発明家なら、一度くらい本気で語り合ってみたい相手なんだよ。どんな理屈であの技術体系を組み上げてるのか、聞きたいことが山ほどある。」
「……お前がそんな顔するの珍しいな。」
「うるせぇ。」
うん。ゴタゴタが終われば、彼、ロケットのために時間を作ろう。そんなガーディアンズを背後に、ガモーラとネビュラと会話を続ける。
一方、少し離れた場所では、私が戦っていた奴らのもとにも仲間が合流し、これまでに判明した事情を説明しているようだ。
ーーーーー
「えっと、つまり……。」
変身を解除し、話を聞き終えた真魚は眉を寄せているが、僕、トニー・スタークも似たような顔をしているのだろう。
「サノス軍はアスガルドを滅ぼしに来たわけじゃない可能性があるってことですか?」
「ああ。少なくとも僕たちが聞いた話じゃ、サノス軍が先に攻撃したと断定できる材料はない。むしろ……アスガルド側が先制攻撃した可能性も考慮しなくては――」
その言葉に、ヴィスティナと呼ばれた女性が冷たい視線を向けてくる。
「可能性じゃないわ。先に攻撃してきたのはアスガルドよ。」
「じゃあ、私たちは……。」
真魚の表情が曇り、光のエルも険しい顔で黙り込んでしまう。僕としても、クロオを追い、いち早くアスガルドに向かい、強敵の相手をしてくれた彼女たちに対し、申し訳ない気持ちになる。すると、意外なところから意外な発言があった。
「いや、ガモーラたちには悪いが、告知も無しにあんな大艦隊が空いっぱいに展開して、そこからサノス軍が降りてきたら普通に超怖いぞ!」
クイルが叫んでくる。全員の視線がそちらへ向く。
「いや、マジで!俺だったら絶対に先に撃つ!」
「アイ・アム・グルート。」
「ほら、グルートも怖いって。ついでに、俺は地球と宇宙、両方の価値観を持ってるからな!その俺だって怖いからな!」
「クイル!アナタどっちの味方よ!」
ガモーラがクイルに食ってかかっているが、
「俺は俺の意見を言ってるだけだ!それともアレか、自分の意見を言わない、尽くしてくれるだけのイエスマンな恋人がお好みか?」
おぉ。クイルも負けじと言い返している。ああいうタイプは尻に敷かれるものだと思っていたが凄いな、見習わなければ。
「今そんなこと話してないでしょう!」
「え?ガモーラ。あの人がアナタの恋人なの?へー。」
ヴィスティナが話題に食いつき、急にコミカルな空気が流れ始めた。
「……今そんなこと話してないでしょう。」
「それよりも。」
すると、坊主頭の男、ドラックスが王城――正確には、少し前まで王城が存在していたであろう場所の方角を指差した。
「あれは放置して良いのか?」
全員がそちらを見る。黄金、そして紫と黄色。
複数の光が天へ立ち昇り、遅れて腹の底まで響くような轟音が届く。かなり離れているはずなのに、地面が微かに震えていた。
「ああ、アレ。」
ヴィスティナはさほど慌てる様子もなく目を細めた。
「アレはサノス様とオーディンが戦って――……相手が変わってるわね。これは、クウガかしら?……あの馬鹿が相手をしてるんじゃなかったかしら。というか、あの馬鹿の方にもヤバいのが二人……二人?」
少し考え始めるが、
「……まあ、いいか。」
「良くないと思うぞ。」
僕は思わず素のツッコミを入れてしまった。
ーーーーー
「一つ、よろしいですか?」
少し離れた場所で話を聞いていた魔術師、エンシェント・ワンが、こちらへ視線を向けてくる。
「何よ?」
「あなたの言うサノスから、サノス本人とは別の――非常に邪悪な精神波を感じるのですが、何か心当たりは?」
「邪悪な精神波?」
思わず眉を寄せる。サノス様とは長い付き合いだけれど、以前のあの人からそんなものを感じたことはない。
確かに、ここ最近はおかしかった。アスガルドへ来る前から妙に苛立っていたし、明らかに普段のサノス様ではなかった。でも、それは二つのパワー・ストーンを同時に扱っている影響だと思っていた。さっきまでの私もだいぶ好戦的になっていたし。
「いえ、ヴィスティナ様は戦闘時は普段からあんな感じです。」
「エボニーうるさい。……ちょっと待ってなさい。」
右手を掲げ、リアリティ・ストーンの力を発動する。赤い粒子が空中へ集まり、思い浮かべた内部構造の通りに部品が形成され、組み合わさり、数秒もしないうちに一台の測定装置が完成した。
「おい。」
後ろから声がするので振り返れば、ロケットが目を輝かせている。
「そんな精密機械まで生み出せんのか?」
「自分で発明して、構造も作り方も材質も全部頭に入ってる物ならね。理論上は戦艦だって出せるし、ドライバーだって量産できるわよ。疲れるからやらないけど。」
「へぇー……。」
ものすごく食いついている。……本当に科学者なのね、このアライグマ。本当にあとで時間があったら話してみようかしら。そんなことを考えながら装置を操作していると、横から別の視線を感じた。
アーマーを纏った男。確かトニー・スターク。サノス様が気にしていた男の一人、……アンタもか。まあ、科学者なら気になるわよね。
私は二人を無視して測定を続け――表示された数値に目を疑った。
「…………は?」
おかしい数字が出たので、もう一度測定するけれど結果は同じ。別の項目を開き、周囲に存在するインフィニティ・ストーン由来のエネルギーを個別に解析する。
「って、何よこれ!?」
思わず装置へ顔を近づける。
「マインド・ストーンの数値が異常に上がってる……!」
その瞬間、周囲の、特に地球勢の空気が変わった。
待って。マインド・ストーンに邪悪な精神波。サノス様の異変。そして、私たちが回収した――。
「まさか……これがサノス様の異変の原因?」
嫌な汗が流れ始める。そんな私に、スタークが遠慮がちに手を挙げてくる。
「あー……少し、いいだろうか?」
「何よ?」
「今、マインド・ストーンと聞こえたが――それはどこで手に入れた?」
「クウガが倒しかけてた奴を、私ともう一人で横から掻っ攫ったのよ。」
別に隠す必要もないので、そのまま答える。
「なんか文句ある?」
スタークの眉が僅かに動いた。何よ?言いたいことがあるなら言いなさいよ。だが、何かを飲み込むように一度息を吐くと、
「……なら、ゾラウルトロンだな。」
「ゾラウルトロン?あのヴィブラニウムと、特殊な人工細胞みたいなものを混ぜた身体の奴?」
「ああ。だがアイツは身体ではなく、マインド・ストーンそのものが本体みたいなものだった。特殊な装置なり封印なりで隔離しておかないと、最悪の場合――精神を支配される可能性があった。」
「そんな馬鹿なこと――」
言い返そうとして、止まってしまう。サノス様がおかしくなった時期とマインド・ストーンを回収した時期。そして今、この異常な数値。全部が一つの流れとして一致しているのだ。
「ヴィスティナ様。」
今度はエボニー・マウが口を開いた。
「何よ。」
「先ほど、あなたが指摘されたサノス様の異変。そして、今この男が語ったマインド・ストーンの性質。」
一拍置いて、エボニーが静かに告げる。
「点と点がつながります。」
分かってる。分かってるわよ。認めたくないだけで。もし本当にそうなら、私たちは――とんでもないものを自分たちの船へ持ち込んだことになる。
「……ああもう、分かった!」
頭を掻きながら叫び、指を鳴らす。
パチンッ。
周囲を埋め尽くしていた私の軍勢が、一斉に赤い粒子へ変わった。兵士も、戦車も、武器も消える。もう戦ってる場合じゃない。
「一時休戦!」
その場にいる全員へ向けて宣言する。
「とりあえず一旦、話し合い!それとサノス様の安否確認!その後については――」
どうする?いや、今考えることじゃない。
「……あとで考える!文句ある!?」
……誰も何も言わなかった。
「よし!」
なら決まり。もう一度リアリティ・ストーンを使い、先ほどと同型の測定装置を複数作り出す。エボニーがこちらの意図を察し、念動力でそれらを浮かせた。
「アスガルドには私が残る。私一人で軍隊みたいなものだし、幸いガモーラとネビュラもいる。仮にアスガルドか地球側が裏切っても、すぐにどうこうされることはないわ。」
「では、我々は船へ戻り、マインド・ストーンの影響下にある者がいないか調べれば良いのですね?」
「人だけじゃないわ。機械類もよ。全部調べて。」
マインド・ストーンが精神へ干渉できるだけなら良いけど、生体だけ調べて安心するわけにはいかない。
「ああ、良い判断だ。最終的にクロオから盛大な封印エネルギーを叩き込まれているから詳細は分からないが、奴はネットワークにも侵入してくるぞ。」
「情報どうも!私が作った人工知能もいるから、多分大丈夫だとは思うけど――」
「……あー……もう一ついいか?」
「今度は何よ!?」
さすがに苛立って振り返る。しかし、スタークだけでなく、他の皆も私を見ていなかった。代わりに、ある方向を指差している。
「アッチの……黄色と青の光が混ざったヤツ。君は何か知らないか?」
「…………。」
王城とは別方向。あの馬鹿――今はエボルトとか名乗っている私たちの末っ子が戦っていた場所。そこから巨大な光の柱が天を貫いていた。
青色は問題ない。スペース・ストーンはアイツが宿している石だ。問題は、
「…………なんで黄色?」
嫌な予感しかしない。いや、待って、待ちなさい。黄色はマインド・ストーンの色よね。なんでアイツが――、
「……あの馬鹿!」
頭を抱えてしまう。何が起きたのか、だいたい分かった。さっきまでのエネルギーの波動を考えるに、アイツはパワー・ストーンの力が込められたインフィニティ・トリガーを使っていた。でも、トリガーには限界時間がある。それが切れたなら、追い詰められたアイツが次に何を使う?
アイツ!なんでリアリティとマインドの二択でマインドを先に選んだのよ!?
「……多分、ウチの馬鹿が、マインド・ストーンの力が込められた装置を使ったみたい。」
「……それってまずいのか?」
クイルの問いに、私は無言で先ほどの測定装置を見る。異常な数値を叩き出している。
私が、マインド・ストーンの力とサノス様の異変の関係性を改めて考えていたところで、青と黄色の光がさらに強くなった。
「……不味いなんてもんじゃないわよ。」
さっきスタークが言っていたことが本当で、ゾラウルトロンの本体はマインド・ストーンそのものなのだとしたら、その力を封じ込めたトリガーにも、アイツの意思が残っている可能性は?もし残っていたら?それを身体へ取り込んだら?
サノス様は今、マインド・ストーン本体の影響を受けていると予想され、末っ子は、そのマインド・ストーンから作られたトリガーを使用した。つまり、
「アンタが言った精神支配が本当なら、今サノス様だけじゃなくて、あの馬鹿まで乗っ取られようとしてる可能性がある!」
同時に、遠方から轟音が響き、青と黄色、二色の光が絡み合い、さらに巨大化していく。
私はそれを見上げることしかできない。そして、ゆっくり天を仰ぐ。サノス様はマインド・ストーンに取り憑かれて暴走。末っ子はマインド・ストーンのトリガーを使って、おそらく同じものに乗っ取られかけている。ついさっきまで私は、何も知らずにアスガルドや地球の戦力と殺し合っていた。
「…………何これ。どうしてこうなったの?」
ーーーーー
『シッ!!』
紫色の光を纏った拳が振るわれるのに対し、アギト・トリニティフォームは、水のエルの力が表面に出ている左腕を掲げ、真正面から受け止めるのではなく、腕を添えることで軌道を逸らしていく。
「チッ!」
エボルの拳が僅かに空を切る。
『お返しだ!』
火のエルの声と共に、反撃の右拳が繰り出される。
「ぐッ!?」
鈍い音が響くが、腕で防いだエボルは即座に体勢を立て直すと、そのまま殴り返す。
『右だ!』
『え、みぎッブゲラッ!?』
『なぜ右腕を出す!?』
『だって右って言ったじゃん!?』
『右から攻撃が来るって意味だ!普通左で受けるだろう!?』
『集中せんか、来るぞ!』
「……大丈夫だろうか?」
少し離れた場所から、私、闇の力は思わず呟いてしまう。
私の力で三柱を一つにすることで、単純な足し算以上に強化することには成功した。実際に三柱の力は相乗効果を発揮し、火、水、地、三柱それぞれが単独で戦っていた時とは比べものにならないほど、アギト・トリニティフォームの力は高まっている。しかし、
『おい、地!足止めろ!』
『もう止めている!』
『止まってねぇぞ!?』
『火!貴様が勝手に右腕を振るうから身体が引っ張られているのだ!』
『水!何とかしろ!』
『私に言われても困る!』
複数人で一つの身体を動かすという経験など、長い時を生きる三柱とてない。……まあ、普通は誰にもないのだが、
『『お前の罪を数えろ!』』
『『合体しちゃったー!?』』
何やら、変態的天才と本能的脳筋の叫びが二組ほど聞こえた気がする。変な電波でも受信したか?……気のせいか。
そんなエルたち、トリニティの様子を見ていたエボルが、面白そうに笑う。
「……力は確かに上がっているけど、身体の動かし方は慣れてないみたいだね!」
『うるせぇ!』
火のエルが叫び、トリニティが地面を蹴る。炎を纏わせた拳がエボルへ迫るが、
「そんなもの!」
紫色に輝く拳が正面から激突し、凄まじい衝撃波が発生する。トリニティの身体が押し戻され、地面を削りながら数メートル後退した。
『ぐぅッ……!』
エル三柱が合体した状態であっても、エボルの方が勝っている。パワー・ストーンの力を封じ込めたインフィニティ・トリガーは強力だ。同種のストーンを二つ同時に使うことによる相乗効果こそないが、二種類のインフィニティ・ストーンの力をエボルドライバーによって効率的に引き出しているのだから、その威力は絶大である。
エボルが拳を振り上げ、紫色の光を収束させた状態でトリニティを殴り飛ばそうとする。
「させん。」
まあ、強いからと言って、好き勝手させるつもりもない。エボルの身体に、横方向から強烈な重力を叩きつける。
「うおッ!?」
拳を振り下ろす直前だったエボルが大きく体勢を崩す。
『今だ!』
今度は三柱の声が重なる。隙を突き、燃え盛る右拳が、エボルの顔面を狙う。
「チィッ!?」
咄嗟に身を翻すことでトリニティの拳を避けるエボル。続けて水流を纏った左拳による追撃も腕で防ぐが、大地の力を吸い上げ強化された蹴りが腹部に突き刺さった。エボルの身体がくの字に曲がるが、
「グッ、――ハッ!」
『ギャッ!?』
反動をつけ、下からアッパー気味に拳を振り上げ、トリニティを殴り飛ばす。腹部をさすりながら、エボルが愚痴を吐く。
「……ハァ。実質一対四じゃないか。」
『ああ?一対二じゃねぇか』
「いや、アンタら三人だろ?それにソイツ。ラスボスがサポート役とかズルすぎるじゃん。」
『細かいことはどうでもいいんだよ!』
私を指差してくるエボルは、口では軽口を叩き、戦いも優位に進めてはいるが、それほど余裕があるわけではないのだろう。空間転移による戦場からの離脱は、構築した聖域によって妨害している。エボルが聖域内での転移を試みようとする場合は、
「そこだ。」
重力場を発生させることで、その場に押し留める。
「ああもう!戦いづらい!」
『ハァッ!』
そこへトリニティが踏み込み、拳を振るう。エボルも負けじと殴り返す。決定打のない戦いが続くが、唐突にエボルが動きを止め、後方に下がった。身体を覆っていた紫色の光が、明滅し始めている。
「……くそ、予想以上に手間取った。」
紫色の光が弱まっていく中、エボルが嫌そうな声を漏らすと、
『Limit Over.』
電子音が響き、紫色の光が完全に消滅した。
『……どうやら時間切れみてぇだな。もう諦めたほうが良いんじゃねぇか?』
「嫌だね。こっちにも、譲れないものがあるんだ。」
そう言って、エボルが腰へ手を伸ばす様子を見ながら、私は僅かに目を細める。エボルが別のインフィニティ・トリガーを取り出した。
「まだ二つあるんだよね。」
エボルが両手に持ったトリガーを見比べる。片方は赤、もう片方は黄色。しばらく考えた後で、
「こっちは最後の手段だな。」
残った黄色のトリガーを持ち上げる。
「待て!」
私は咄嗟に声を掛けていた。嫌な感覚がある。黄色いトリガーから感じる力、マインド・ストーンの力の中に……何かがいる。
「それは……使わない方がいい。」
エボルが意外そうにこちらを見る。
「強化アイテムを敵に使うなって言われて使わないバカがどこにいるのさ?」
「そういう話ではな――」
こちらの話に耳を貸すことなく、エボルがトリガーをエボルドライバーに装填し、引き金を引いてしまう。
『Infinity Evolution, Mind!』
黄色い光が爆発し、凄まじいエネルギーがエボルの全身から噴き上がる。
スペース・ストーンの青とマインド・ストーンの黄。二色の光が混ざり合い、巨大な柱となって天へ立ち昇った。
『またかよ!?』
アギトが身構え、私も右手を上げる。だが、
「――――。」
エボルが動かない。先ほどまでなら、新たな力を得たことを嬉々として説明していてもおかしくない男が、何も言わず、俯いたまま微動だにしない。
『どうした?』
火のエルの声でトリニティが呼びかけるが、返事はなく、代わりにエボルから苦痛の声が漏れる。
「なん……だ……?……なんだよ、これ。誰だ……?」
エボルが頭を抱える。
「僕の……中に……入って……くるな……。」
黄色い光が、さらに強くなる。先ほどまでのパワー・ストーンの力は身体の外側に纏われていたが、マインド・ストーンの力はエボルの身体へ流れ込んでいる。
……トリガーの中に、何かがいる。マインド・ストーンの力と共に、何者かの意識が封じ込められていたのか?私は思わず叫んでしまう。
「今すぐその装置を外せ!」
「分かって……るよ……。」
エボルがトリガーへ手を伸ばすが、その右手が途中で止まる。
「……は?動けよ、おい……。」
エボル本人の意思とは無関係に、ゆっくりと右腕が下がる。
「ふざ……けんな……。僕の……身体だぞ……。」
青い光が激しく明滅し、スペース・ストーンの力が抵抗するように膨れ上がる。しかし、黄色い光はエボルの身体に入り込んでいく。
「出ていけッ!!」
『クク……。』
エボルが叫ぶと同時に別の声がした。
『今、誰か笑わなかったか?』
トリニティを無視し、私はエボルに駆け寄ろうとするが、エネルギー波に弾かれてしまう。
『おい、大丈夫か!?』
『クククク……。』
今度ははっきり聞こえた。エボルの身体から聞こえるのに、エボルの声ではない。
「やめ……ろ……。」
エボル本人の声が小さくなっていく代わりに、
『クククククク……。』
笑い声は大きくなっていく。
『ハハ……。』
「出て……いけ……。」
『ハハハハハ……!ハハハハハハハハッ!!』
エボルの身体が大きく仰け反り、青と黄色、二色の光が爆発的に広がる。同時に笑い声は収まり、エボルは一度俯いてから、ゆっくりと顔を上げる。
「貴様、何者だ?」
エボルが、自分の両手を見て、ゆっくりと指を開き、閉じる。まるで初めて手に入れた身体の感覚を確かめるように。
『……素晴らしい。』
エボルとは違う声が響いた。
『これは……実に素晴らしい。』
両腕を広げる。青い光が周囲の空間を歪ませ、黄色い光がその青へ絡みついていく。
『スペース・ストーンそのものを内包した肉体。さらに、この装置はストーンの力を効率的に扱うために最適化されている。』
「……。」
『なるほど。なるほどなるほど!これはいい!』
声に歓喜が混じる。
『この肉体ならば――私の演算を、私の理論を、今まで以上の領域へ到達させることができる!』
『おい。』
火のエルが構える。
『質問に答えろ。お前は誰だ?』
「…………。」
エボルの身体を奪った何者かが、こちらを見る。
『私か?』
胸へ手を当て、その名を告げた。
『……アーニム・ゾラ。――もっとも、ここにいる私は本体ではないがね。』
黄色い光が、再び強く輝く。
『マインド・ストーンへ刻み込まれた、私という存在の一部。言うなれば分体だ。』
『ふざ……け……んな……。』
僅かに、エボル本人の声が聞こえた。
『僕の……身体……だ……ぞ……。』
『ほう。』
ゾラが楽しそうに笑う。
『まだ意識が残っているのか。安心したまえ。』
『……クソ……野郎……。』
『君は非常に興味深い存在だ。消すには惜しい。しばらくそこで見ていたまえ。』
黄色い光が、一際強く輝き、
『……ッ!』
エボル本人の気配が完全に沈む。代わりに、ゾラが支配するエボル・スペースフォームが、ゆっくりと構えた。青と黄色の光が、その全身を覆っていく。
『さて。』
その視線が私たちへと向けられる。
『まずは、この身体がどこまで使えるのか――試してみるとしよう。』