日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです 作:ken4005
アスガルドの大地に、雷鳴が轟く。
「ハァァァァァッ!!」
青白い雷を全身に纏ったソーが、ストームブレイカーを振り下ろす。対するヘラは、右手に握った黒い剣を軽く振り上げた。
「……ぬぅッ!?」
凄まじい衝撃が走るが、雷神の膂力をもって振り下ろされた戦斧を、ヘラは片手で受け止める。
「……へぇ。なかなかの力じゃない。」
「姉上に褒められるとは……誇らしいなッ!!」
ソーは左手のムジョルニアを振り抜き、轟音と共に青白い雷が炸裂する。しかし、
「遅いわ。」
「ッ!?」
ヘラは身体を僅かに傾けるだけでムジョルニアを躱すと、空いている左手から新たな黒い剣を生み出し、躊躇なくソーの胸部へ突き出す。
「ぐッ!?」
咄嗟に後退したことで直撃こそ免れたものの、黒い刃が胸部の装甲を切り裂いた。ソーは傷ついた胸元へ視線を落とす。鎧が、まるで薄い布でも切り裂くかのように傷つけられていた。ヘラは、手にした剣を軽く振るっている。
「……恐ろしい切れ味だな。」
「そう?この程度、私にとっては普通のことだけれど。」
ヘラの反応を見て、ソーは口元に笑みを浮かべる。
「ならば、こちらも本気を出さねばなるまいな!」
咆哮と共に、ソーの全身から青白い雷が噴き上がる。足元の大地が砕け、ソーの姿が消え去る。
「……あら?」
ヘラが目を細めた直後、
「オォォォォォッ!!」
雷鳴と共に、ソーがヘラの頭上へ現れた。両手に握ったムジョルニアとストームブレイカー。その双方へ、膨大な雷が集中している。
「ハァァァァァッ!!」
二つの神器が、同時に振り下ろされた。しかし、
「……ふん。」
ヘラが笑うと、足元から巨大な黒い刃が噴き上がり、ソーの攻撃は巨大な刃によって受け止められた。
「なんとッ!?」
ただ雷撃が止められただけでなく、ヘラが指を鳴らすと、大地から無数の黒い剣が突き出してきた。
「ッ!?」
咄嗟にムジョルニアを振るい、刃を粉砕するが、次から次へと、新たな刃が生み出されていく。
「ぬぅぅぅッ!!」
ソーが再び全身から雷を放出すると、周囲の黒い剣が一斉に吹き飛んだ。連続で大規模な雷を放出した結果、
「……隙だらけ。」
いつの間にか、ヘラが目の前にいた。黒い剣が凄まじい速度で振るわれる。
「ぐッ!?」
咄嗟に、剣撃をストームブレイカーの柄で受け止めることに成功するが、凄まじい衝撃が全身を駆け抜ける。
「……くぅッ!!」
「……ふぅん。」
ヘラは、ソーを押し込みながら、僅かに笑った。
「力はある。反応も悪くない。……でも、戦い方が、随分と素直ね。」
黒い剣が、さらに押し込まれる。
「正面から突っ込んで、力任せに殴る。それで勝てなければ、もっと大きな力を使う。……まるで、昔のオーディンね。」
ヘラは、呆れたように息を吐いた。
「……父上が?」
「ええ。」
その言葉と同時に、ヘラの膝が跳ね上がった。
「ぐおッ!?」
腹部に膝蹴りを受け、ソーの身体が浮き上がる。そこへ、追撃の蹴撃が襲いかかる。
「……でも、あの男はもっと強かったわ!」
蹴りを受けたソーの身体が吹き飛び、遠方の建造物へ激突した。
「ぐあぁぁぁぁッ!?」
黄金に輝いていた壁が崩壊し、巨大な土煙が立ち上る。
「……兄上ッ!?」
戦いを見守っていたロキが、思わず声を上げた。しかし、
「……待て、ロキ。ソーならば、大丈夫だ。」
オーディンが、静かに制止する。
「……父上!ですが――」
ロキが言い終えるよりも早く、崩壊した建造物から、青白い雷が噴き上がった。そして、雷鳴と笑い声と共に、ソーが姿を現す。
「……ハハハハハッ!なるほど。流石は姉上だ、強い!」
意外な反応をするソーに、首を傾げて質問するヘラ。
「これだけ力の差を見せつけているのに、まだ笑える余裕があるのね。」
「当然だ!……いや、数年前の私ならば、戦いにすらならなかった。精神も弱く、力の差に怯え震えていたかもしれん!」
ソーは、ムジョルニアとストームブレイカーを構え直した。
「だが、私は変わった!何より、己よりも強い者との戦いも、ボコボコにされるのも経験済みだ!」
「……それは誇るところではないでしょう。でも……ふふっ。」
ヘラの笑みが、少しだけ深くなった。
「なら、もう少し楽しませてもらおうかしら。」
ーーーーー
オーディンは、目の前で繰り広げられている戦いを見つめていた。
「……やはり、ヘラは強いな。」
ロキが、少々呆れたように声を上げる。
「父上、今更そのようなことを言われましても。」
「……ふっ。そうだな。」
オーディンは小さく笑うが、その眼差しは真剣だった。
「……あの子が、私の剣だったのは事実なのだ。」
「……剣、ですか。」
オーディンは、グングニルを握り直す。
「私が嵐を呼び、敵の軍勢を打ち砕く。そして、ヘラが敵陣へと斬り込み、全てを切り伏せる。」
遠い昔を思い出すように、オーディンは目を細めた。
「我らの前に、敵などいなかった。……そして、あの子は単に力が強いだけではない。」
オーディンは、ヘラへ視線を向ける。
「戦場を見渡す目。敵の動きを見極める技術。そして、相手を確実に仕留めるための判断力。何千年もの間、戦い続けてきたのだ。……あの子ほど、戦いというものを理解している者は、そう多くはおらぬ。」
ロキは、思わず顔を顰めた。
「……では、兄上では勝てないと?」
「分からぬ。……だが、ソーもまた、私の想像を超えて成長している。」
その視線の先で、青白い雷が、再び爆発する。
ーーーーー
「ハァァァァァッ!!」
ストームブレイカーを振り抜く。青白い雷を纏った戦斧が、凄まじい勢いでヘラへと迫る。しかし、姉上は僅かに身体を傾けるだけでそれを躱すと、手にした黒い剣を振るってきた。
「ぬぅッ!?」
咄嗟にムジョルニアで受け止めると、甲高い金属音と共に火花が散り、凄まじい衝撃が腕を伝わってきた。
「……ふふっ。さっきより良くなってきたじゃない。」
「それはどうもッ!!」
お返しとばかりに雷を放つが、姉上は黒い剣を振るうだけで雷撃を切り裂いてしまう。……強い、姉上は間違いなく私よりも強い。だが、
「ハァッ!!」
「……あら?」
私は構わず前へ出る。ムジョルニアを叩きつけ、ストームブレイカーを振るい、全身から雷を放つ。その全てを姉上は捌いていくが構いやしない。今の私は自分よりも強い相手に挑み続けることに慣れている。だから私は、全身全霊で挑戦するのだ。
ーーーーー
アスガルドの民が避難している星。私たちが修行の場として利用していたその星には、巨大な生物が無数に生息している。アスガルドの戦士でさえ苦戦するような怪物も多数存在しており、普通ならば危険極まりない場所なのだろう。
だが、私とハルクにとっては、実に都合の良い修行場だった。
「ハハハハハッ!!来い、ハルク!今日はどちらが多く倒せるか勝負だ!」
「ハルク、勝つ!!」
巨大な怪物たちの群れへ、二人で突撃する。私はムジョルニアを振るい、ハルクはその剛腕で怪物を殴り飛ばす。時には、怪物たちを倒し終えた後、ハルクと直接殴り合うこともあった。
「ハハハハハッ!!どうした、ハルク!その程度か!」
「ソー、うるさい!!」
「ぐおぉぉぉッ!?」
ハルクの拳を顔面に受け、私は大地を転がった。だが、すぐさま立ち上がり、拳を握り締める。
「ハハハハハッ!!良い拳だ!だが、まだまだァッ!!」
「ハルク、負けない!!」
そして、再び殴り合う。後日、この話をロキにしたところ、
「……兄上。念のため確認しますが、頭は大丈夫ですか?」
と、真顔で正気を疑われた。失礼な弟である。だが、そんな修行を続けているうちに、私はある事実を突きつけられることになった。
ピーター・パーカー。
スパイダーマンとして活動する、ミッドガルドの少年とクロオの勧めで、私は修行を行うことになったのだ。最初は、当然ながら手加減するつもりだった。
いくら超人的な力を持っているとはいえ、相手はまだ子供なのだ、そう思っていた。だが、私はミッドガルドの少年、少女を甘く見てはいけない、ということをすっかり忘れていた。
「……そこまで!」
クロオがストップをかけた。
「……なに?」
負けたのは私だった。気が付けば、私は地面に倒れていた。ピーターの放った攻撃に反応できず、体勢を崩されたところへ追撃を受け、そのまま組み伏せられたのだ。
……いや、待て。私はソー・オーディンソンだぞ?アスガルドの王子にして、雷神だぞ?それが、
「……私が、負けた?君のような少年に?」
私の言葉を聞き、ピーターが申し訳なさそうに頬を掻いている。
「えっと……はい。あの、ソーさん?」
……なんということだ。後に聞いた話では、力を覚醒させたピーターは雷を纏って戦うクロオ、アメイジングだったか?アレに勝てるらしい。ハルクとて苦戦するアレに、この少年は勝てるのか。
確かに、恐ろしいほどの反応速度だった。こちらが繰り出す攻撃はまるで未来を見ているかのように回避され、僅かな隙を見逃さず、確実に攻撃を叩き込んでくる。パワーも私と競い合えるほどだ。
……だが、それでもだ。十五歳、十五歳だぞ!?私が何千年生きていると思っている!?
「……もう一度だ、ピーター!」
「えっ!?まだやるんですか!?」
「当然だ!!」
……そして、また負けた。何度か挑戦したが、結果は似たようなものだった。認めよう、あの時の私では覚醒したピーターに勝つことはできなかった。そして、ピーターに勝てない私が、クロオに勝てるはずもなかった。ましてや、アルティメットフォームとなったクロオになど。
……何が雷神、何がアスガルド最強の戦士だ。ジェーンと出会う前の、あの傲慢だった頃の自分を思い出す。己こそがオーディンに次ぐ最強の存在であり、自分に敵う者などほとんどいない、……そんなことを本気で信じていた。今すぐ過去に戻って、あの頃の自分をぶん殴ってやりたい。
最強?笑わせるな。十五歳の少年に負けているではないか!
いや、流石にそれは当時の私が可哀想か。……ともかく、私は己の未熟さを痛感していた。そして、雷神としての力を呼び覚ますため、クロオにも修行に付き合ってもらうことになった。
「……えっと。本当に良いんですか、ソーさん?」
「ああ!遠慮はいらんぞ、クロオ!」
目の前には、黒い戦士が立っていた。仮面ライダークウガ。その中でも、最強の姿であるアルティメットフォーム。さらに、封印エネルギーは弱体化するが身体能力が雷の力によって強化されたライジングアルティメットだ。
……本来ならば、こんな相手に挑むなど無謀も良いところだろう。だが、私とて雷神、雷の力を司る存在なのだ。クロオが扱う雷の力を間近で感じ、ぶつかり合うことで、己の内に眠る力を引き出す。それが、修行の目的だった。……だったのだが、
「ハァァァァァッ!!」
渾身の力で振り下ろしたムジョルニアが、クロオの肩に直撃し、確かな手応えを感じた。雷撃も、十分に込めていた。
「……は?」
だが、クロオは微動だにしなかった。いや、僅かに身体が揺れはした。しかし、それだけだ。そして、
「……ソーさん、行きますよ。」
クロオの声かけの直後、
「ぐおぉぉぉッ!?」
腹部に拳が突き刺さり、膝が折れる。息が詰まり、視界が揺れる。
「ぐ……ぬぅ……!」
なんとか立ち上がり、ムジョルニアを振るう。しかし、クロオは避けようともせず、
「ぐはぁッ!?」
ただ、何事もなかったかのように殴り返してきた。
なんだこれは?おかしい、何かがおかしい。私の攻撃は確かに当たっている。雷神ソーが、神の武器ムジョルニアを渾身の力を込めて振るっている攻撃が当たっているのだ。それなのに、クロオは平然としている。それどころか、
「……ソーさん、もう少し力を込めても大丈夫ですよ。」
などと言ってくる始末だ。お前こそ、少しは加減しろ。私は、そう言いたかったが、言えるはずもない。そもそも、この修行は私が頼んだのだから。
「ハァァァァァッ!!」
再びムジョルニアを振るう。雷を纏った鉄槌がクロオの胸部へ叩きつけられるが、やはり動かない。ダメージが入っている様子もない。
……今思えば、あの時のクロオはムジョルニアを壊さないように気を遣っていたのだろう。ライジングアルティメットの力で迎撃してしまえば、下手をすれば壊れるのはムジョルニアだったのかもしれない。なんとも情けない話だ。
クロオの拳が再び迫り、咄嗟に腕を交差させて防御するも、吹き飛ばされた。大地を何度も転がり、ようやく止まる。
立ち上がり、殴りかかる。殴られ、倒れる。立ち上がり、また殴られる。その繰り返しだった。
クロオとピーターとの修行は、まだ戦いになっていた。あの少年は、クロオの攻撃に反応し、避けることもできていた。僅かな隙を見つけて反撃することさえあった。
ハルクもそうだ。最初こそ一方的に殴り飛ばされていたが、次第にライジングアルティメットとなったクロオとの殴り合いが成立し始めていた。もちろん、クロオが加減していることは分かっている。だが、それでも、あのハルクは確実に成長していた。
それに比べて、私はどうだ?ムジョルニアを振るい、雷を放ち、全力で戦っているというのに、クロオをまともに動かすことさえできない。
……出遅れている。そう感じていた。ピーターも、ハルクも、確実に強くなっている。なのに私は、雷神であるはずの私は――
「……クロオ、頼みがある。本気でやってくれ。」
私は決意を込めて、ムジョルニアを握り直した。
「……え?」
「遠慮はいらん。私がどれほど未熟なのか、思い知らせてくれ。」
クロオは、少しだけ考えたが、
「……本当に良いんですか?」
私は力強く頷いた。
「勿論だ!私は強くならねばならん!アスガルドを守るためにも、仲間たちと肩を並べるためにも!」
「……分かりました。じゃあ、少し厳しく行きますよ。」
クロオが、ゆっくりと構えた。……今なら分かる。あれは、言うべきではなかったのかもしれない。いや、正確には、覚悟が足りていなかった。私は、クロオの強さを知っているつもりだった。だが、知っていることと、実際にその拳を受けることは、まるで違ったのだ。
「ハァッ!!」
私はムジョルニアを振り下ろそうとした。だが、視界からクロオの姿が消えた。速すぎて、見えなかった。そして、私が振り下ろすよりも早く、
「がッ!?」
腹部に衝撃が走る。何が起きたのか理解するよりも早く、私は地面へ膝をついていた。
「……立ってください、ソーさん。」
「ぐ……ぬぅ……!」
立ち上がる。ムジョルニアを振るうが、私が振り始めてから動いているはずのクロオの拳が私の攻撃よりも早く届く。
「ぐはぁッ!?」
今度は顔面。視界が白く染まり、身体が宙を舞う。大地へ叩きつけられ、何度も転がった。
「……ぐ……くそ……!」
立ち上がるが、また殴られる。なんとかムジョルニアを振るうが、直撃しても構わず殴り返される。雷を放っても、その中を平然と歩いてくる。
そして、クロオの拳を一発受ければ、私はまともに立っていられなかった。吹き飛ぶこともあれば、立ち上がることさえ困難になる時もあった。
……なんだ、これは?本当に、なんなのだ?
「……ソーさん、まだ続けますか?」
クロオが尋ねてくる。
「……当然、だ……!」
私は立ち上がるが、全身が痛む。身体中が悲鳴を上げている。だが、そんなことは、関係ないのだ。
「……ハァァァァァッ!!」
ムジョルニアを渾身の力を込めて、クロオの頭部に振り下ろした。それなのに、
「……ッ!?」
クロオは、ただこちらを見ていた。そして、拳が迫る。
「ぐおぉぉぉッ!?」
腹部に拳が突き刺さり、私はその場で崩れ落ちた。
「ぐ……おぇ……!」
……流石に。流石に、やり過ぎではないか?いや、私が頼んだのだ。本気でやってくれと。だが、それにしたって限度というものがあるだろう!私は誰だと思っている!?ソー・オーディンソンだぞ!?アスガルドの王子だぞ!?雷神だぞ!?それが、なんだ!?殴られ、蹴られ、吹き飛ばされ、立ち上がることさえままならない!
……いい加減に。
「……ソーさん?」
クロオが、こちらへ歩み寄ってくる。表情は見えないが、画面の下に、『心配』が見えた。それを感じ取った瞬間、私の中で何かが切れた。
「……いい加減に……!いい加減に、しろォォォォォッ!!」
私は叫んだ。そして、手にしていたムジョルニアを、自ら投げ捨てた。
「こんなものォォォォッ!!」
「……ちょ、ソーさん!?」
クロオが驚いたように声を上げる。だが、構うものか。ムジョルニアが何だ。神器が何だ。雷神の力が、ムジョルニアを持っていなければ使えないとでもいうのか!?
違うだろう!!私は雷神だ!雷を操る神なのだ!!ならば、武器などなくとも!この拳だけでも!!……今思い返せば、ただヤケクソになっていただけだったが、そのヤケクソが鍵だったようだ。
「ウオォォォォォォッ!!」
私は拳を握り締め、クロオへ殴りかかった。その瞬間、
――ドクンッ。
心臓が、大きく脈打った。
「……ッ!?」
身体の奥底で、何かが弾けた。それまで感じたことのない、凄まじい力。まるで、長い間閉ざされていた扉が、内側から蹴破られたかのような感覚だった。
空に雷鳴が響き渡り、クロオが、驚愕したように顔を上げる。私も、思わず空を見上げると、いつの間にか、晴れ渡っていた空が暗雲に覆われ、黒い雲が渦を巻き、青白い光がその内側を駆け巡る。
……なんだ?いや、私はこの力を知っている。ずっと、知っていたはずなのだ。ただ、気付いていなかっただけ。
「……そう、か。」
思わず笑みを浮かべると、雷が鳴り、雲が唸る。
「……ハハッ。ハハハハハハッ!!……そういうことかァァァァァッ!!」
そして、天と地を繋ぐ巨大な雷が顕現し、私へと降り注いだ。いや、違う。私が呼んだのだ。ムジョルニアを介さず、私自身の力で。青白い雷が全身を包み込み、凄まじいエネルギーが身体の隅々まで駆け巡る。
「……ハハハハハハッ!!」
私は、笑っていた。身体中の痛みなど、とうに忘れた。ただ、目の前に立つ戦士を見つめる。拳を握り締め、再び殴りかかった。
「……クロオォォォォッ!!」
今度は、拳に雷を纏わせて。今度こそ、雷神としての己の力で。
――巨大な雷鳴が、星全体を震わせた。
ーーーーー
……そして、結論から言えば、私は普通に負けた。
雷を纏った拳は、先程までとは違う。確かに、違っていた。さらに、身体にも変化があり、クロオの動きが見えるようになり、攻撃にも反応できた。何より、私の拳があの黒い装甲を纏った身体を動かすことができるようになったのだ。
それまでは、どれほど全力で殴ろうとも、ムジョルニアを叩きつけようとも、ほとんど動かなかった相手が、今は私の攻撃を受けて後退している。
「……ソーさん、凄いですよ。本当に。」
「ぐ……褒めるなら……もう少し、手加減してくれんか……?」
「本気でやってくれって言ったの、ソーさんですよね?」
そうだった。なんとも、恨めしい。雷神としての力を覚醒させたことで、戦いにはなった。だが、根本的な力の差が大きすぎたのだ。それに加え、覚醒するまでに受けたダメージが尋常ではなかった。全身が悲鳴を上げ、まともに立っていることさえ困難な状態だったのだから、当然と言えば当然なのだろう。
ともかく、私は敗北したが、不思議と悔しさはなかった。
いや、負けたこと自体は悔しい。悔しいに決まっている。しかし、それ以上に、己の内に眠っていた力を呼び覚ますことができた喜びが大きかったのだ。
治療タイムを挟み、あ、サラというのだな、治療魔術をかけてくれてありがとう。
そして、私は改めてムジョルニアを手に取った。
「……よし、クロオ!もう一度だ!」
「……え?まだやるんですか?」
「当然だ!今度は、ムジョルニアを使って戦うぞ!」
「……ソーさん、身体は大丈夫なんですか?」
「ハハハハハッ!!この程度、どうということはない!」
……実際には、どうということはあった。治療は受けたが、まだ全身が痛かった。特に腹が。先程から何度も殴られているのだから、当然だ。
だが、そんなことは些細な問題だ。雷神としての力を覚醒させたのだ。ならば、今度はその力をムジョルニアへと注ぎ込んでみたい。
「……行くぞ、クロオ!」
「……はい!」
私がムジョルニアを握り締めると、青白い雷がムジョルニアの表面を駆け巡った。これまでもムジョルニアを介して雷を操ることはできた。しかし、今は私自身が生み出した雷が、ムジョルニアへと流れ込んでいるのだ。まるで、私の力に応えるかのように、神器が輝きを増していく。
「……ハハハハハッ!!素晴らしい!」
「……なんか、凄いことになってますね。」
クロオも、興味深そうにムジョルニアを見つめている。
「行くぞォォォォッ!!」
私は大地を蹴る。雷鳴と共に、一瞬でクロオとの距離を詰め、全身全霊を込めてムジョルニアを振り下ろした。対するクロオは、右腕を振り上げる。
ムジョルニアとクロオの拳が激突し、凄まじい衝撃が走った。青白い雷が周囲へと飛び散るが、
「……おおっ!?」
ムジョルニアは、砕けなかった。雷神としての私の力を纏ったムジョルニアは、ライジングアルティメットの拳を受け止めたのだ。
「ハハハハハッ!!どうだ、クロオ!」
「……凄いですね。さっきより、ずっと頑丈になってます。」
「当然だ!これこそ、雷神ソーの力よ!」
私は笑いながら、再びムジョルニアを振るった。すると、
「……っと!」
クロオが、避けた。
「……む?」
私は、思わず目を見開いた。避けた。今、確かにクロオは私の攻撃を避けたのだ。先程まで、どれほど攻撃しても平然と受け止めていたクロオが、私のムジョルニアを避けた。
……なるほど。なるほど、なるほど!
「ハハハハハハッ!!どうした、クロオ!」
「……はい?」
「先程までは、私の攻撃など避ける必要もなかったのだろう!?だが、今は違う!避けねばならぬほど、私の攻撃が恐ろしくなったか!」
「……え?」
「恐れたか、クロオォォォォッ!!」
私は、勝ち誇ったように笑った。
……ああ。今思えば、あれは余計なことを言った。実に、余計なことを言った。
「……ソーさん。」
「む?」
「……じゃあ、もう少し本気で行きますね。」
「……ん?ぐぼぁッ!?」
先程までとは鋭さが違う拳が、腹部に突き刺さった。
「ぐ……ぬぅッ!?」
慌ててムジョルニアを振るうが、クロオはその軌道を僅かに外れ、私の懐へ入り込んできた。
「がはぁッ!?」
再び腹部。そして、
「ぐおぉぉぉッ!?」
追撃の拳で顎を打ち抜かれ、私の身体が宙を舞った。
「……ソーさん、まだ行けますよね?」
「……ちょ、待っ――ぐはぁぁぁッ!?」
……その後、私は見事にボコボコにされた。口は災いの元。ミッドガルドには、そのような言葉があるらしい。実に、的を射た言葉だと思う。
身をもって学んだ。
ーーーーー
その後も、私は修行を続けた。クロオとの戦いはもちろん、ピーターやハルクとも何度となく拳を交えた。そして、己の雷神としての力をさらに高めるため、新たな武器を求めることにしたのだ。
「……ストームブレイカー、か。」
「確か、そんな名前だったと思います。」
クロオが、そう答えた。彼の知る未来では、私はムジョルニアに代わる新たな武器を手にすることになるらしい。
その名も、ストームブレイカー。嵐を破る者か、実に素晴らしい名ではないか。
「ハハハハハッ!!気に入った!その武器、是非とも欲しいものだ!」
「……今のソーさんなら、十分扱えると思いますよ。」
「当然だ!私は雷神ソーだぞ!」
……もっとも、クロオから聞いた話では、本来の未来で私がその武器を手にするのは、随分と悲惨な状況に追い込まれた後だったらしい。ムジョルニアを失い、多くの仲間を失い、さらにはアスガルドさえも失った末に、ようやく手にする武器。……そんな未来など、御免被る。
私は、アスガルドを、家族を守る。そして、仲間たちと共に戦うのだ。そのために必要な力ならば、何であろうと手に入れてみせる。そう決意した私は、ニダベリアのドワーフたちへ、新たな武器の鍛造を依頼した。
もちろん、ムジョルニアを捨てるつもりなどない。ムジョルニアは、長年にわたって私と共に戦ってきた相棒なのだ。ならば、新たな武器と共に使えば良い。
右手にストームブレイカー、左手にムジョルニア。……考えただけでも、胸が躍るではないか!
そして、完成したストームブレイカーを手にした私は、さらに修行へと打ち込んだ。何度も、何度もクロオに挑み、倒され、立ち上がる。時にはピーターに翻弄され、ハルクと殴り合い、己の未熟さを痛感する。だが、その度に、私は強くなった。そして、
「ハァァァァァァァッ!!」
青白い雷が、空を覆った。右手のストームブレイカーを振り抜き、クロオの拳を受け止める。
凄まじい衝撃。何故刃が当たっているのに切れん!?だが、私は退かなかった。
「……おおおおおッ!!」
左手のムジョルニアを振り上げる。クロオが反応し、迎撃のために腕を動かした。しかし、
「ハハハハハッ!!甘いぞ、クロオ!」
私は、その動きを読んでいた。ムジョルニアを振り抜くと同時に、全身から雷を放出する。クロオの視界を青白い閃光が覆った瞬間、私はさらに踏み込んだ。
「ハァァァァァッ!!」
まず、ストームブレイカーを振り抜く。クロオが腕を交差させ、攻撃を受け止めた。だが、ここで私は止まらない。全身の雷を一気に爆発させ、さらにムジョルニアで、全身全霊の一撃を叩きつけた。
「……ッ!?」
クロオの身体が、吹き飛んだ。黒い戦士が大地を削りながら後退し、そして、その背中が地面へと倒れた。
「…………。」
私は、呆然と立ち尽くした。
……クロオが、倒れた。あのライジングアルティメットが、私の攻撃をまともに受けても平然としていた、あの黒い戦士が。
「……やった、のか?」
思わず、呟くと、クロオがゆっくりと身体を起こす。
「……あー……やられましたね。」
その言葉を聞いた瞬間、私は、震えた。胸の奥から、何かが込み上げてくる。
「……ハ……ハハッ……!」
笑いが漏れ、私は天へ向かって両腕を突き上げた。
「勝ったァァァァァァァァッ!!ハハハハハハッ!!見たか、クロオ!これが雷神ソーの力だァァァァァッ!!」
「……はい。ソーさんの勝ちです。」
「ハハハハハッ!!勝った!ついに勝ったぞ!」
私は、思わず駆け寄り、クロオの肩を掴んだ。
「見たか!?今のを見たか!?」
「……いや、僕が戦ってたんですから、見てましたよ。」
「ハハハハハッ!!そうだったな!」
……忘れることができない感動と達成感。何度挑んでも勝てなかった相手、どれほど努力しても届かなかった存在。ライジングアルティメットに、ついに土を付けたのだ。
無論、クロオが本気で殺し合いをしていたわけではないことなど、分かっている。それでも、勝ちは勝ちだ。私が積み重ねてきた努力が、確かに実を結んだ瞬間だった。
「……じゃあ、ソーさん。次は、こっちとやってみます?」
そう言ったクロオは構えを取り、
「究極変身!」
「……ん?」
クウガ・アルティメットフォーム、ゴルドアークルの姿に変わった。
……ああ。そういえば、クロオには、さらに上があったな。ドルマムゥと殴り合っていたのはコッチだった。だが、
「……ハハッ。」
私は、笑った。
「……良かろう!受けて立つぞ、クロオ!」
そして、
「ぐおぉぉぉぉぉぉッ!?」
……ボコボコにされた。本当に、ボコボコにされた。ライジングアルティメットに勝利した直後だったというのに、今度は手も足も出なかったのだ。先程までの勝利の余韻が、一瞬にして吹き飛んでしまった。まったく、クロオという男は、どこまで強いのだ?
……だが。いつか必ず、あのアルティメットフォーム・ゴルドアークルにも勝ってみせる。私は、そう心に誓ったのだ。
ーーーーー
「……ぬぅッ!!」
黒い剣とストームブレイカーが激突する。目の前には、死の女神ヘラ。我が姉にして、かつて父上と共に九つの世界を征服した、アスガルド最強の戦士の一人。
本当に、強い。膂力も、技術も、戦闘経験も、今の私を上回っている。だが、
「……ふふっ。随分と楽しそうね。これほど一方的に押されているというのに、何がそんなに可笑しいのかしら?」
「ハハハハハッ!!いや、何!」
私がムジョルニアを振り抜くと、姉上が黒い剣で受け止める。その瞬間を狙い、私は全身から雷を放出し、姉上を押し返した。
「……ッ!?」
僅かに後退した姉上を前に、私は笑う。
「思い出していたのだ!私がどれほど未熟であったのかをな!」
「……はぁ?」
「己こそが最強だと思い上がり、負けることなど考えもしなかった!だが、私は知ったのだ!己よりも強い者など、幾らでもいるとな!」
私は、ストームブレイカーを肩に担ぎ、ムジョルニアを構え直す。
「そして、知った!どれほど強い相手であろうと、挑み続ければ、いつかは届くのだと!」
「ふぅん。……つまり、私にも勝てると?」
姉上が、僅かに目を細めたが、私は即答した。
「無論だ!姉上の方が強い!だが、それがどうした!私は何度でも立ち上がる!何度でも挑む!そして必ず、姉上を超えてみせる!」
「……随分と大きく出たわね。」
「ハハハハハッ!!それに私は、姉上を殺すつもりなどない!」
私の言葉を聞き、ヘラの笑みが僅かに消えた。
「……何?」
「私は、姉上と語り合いたいのだ!」
「……語り合う?」
ストームブレイカーを構え直す。
「父上が何を考え、何を間違えたのか!姉上が何を望み、何に怒っているのか!私は、まだ何も知らん!だが、姉上は私の姉だ!ならば、まずは向き合わねばなるまい!」
右手にストームブレイカー、左手にムジョルニアを持ち、大地を踏み締め、全身から青白い雷を噴き上がらせる。
「そして、言葉で分かり合えぬというのならば!戦いで、武器で、拳で語り合うまで!」
姉上は、しばらく私を見つめていた。そして、
「……ふっ。」
小さく、笑った。
「……大馬鹿ね、アンタ。」
「ハハハハハッ!!よく言われる!」
姉上は、両手に黒い剣を生み出し、その周囲の大地からも、無数の黒い刃が突き出してくる。
「……良いわ。そこまで言うのなら、付き合ってあげる。ただし……。」
ヘラの瞳が、鋭く細められた。
「手加減なんてしないわよ?」
「望むところだ!」
私は、両手の神器を握り締めた。
「私は折れんぞ、ヘラよ!」
雷鳴が、轟く。
「さあ、姉弟で語り合おうではないかァァァァァッ!!」